「毛利小五郎のニセ者(後編)」とは
「毛利小五郎のニセ者(後編)」は、テレビアニメ『名探偵コナン』の第244話で、2001年7月30日(月)に読売テレビ・日本テレビ系で放送された。原作31巻の事件89「毛利小五郎のニセ者」を題材にした前後編の解決編である。群馬県の葵屋旅館の客室で首を吊った状態で見つかった「小五郎のニセ者」の死を、コナンが殺人事件と断定する場面から始まる。アタッシュケースに残された5年前のスポーツ新聞と長い毛髪を手がかりに、コナンは新聞が何かの隠し場所を示す暗号だと気付き、4年前に死亡したとされる赤いジャケットの男の持ち物から犯人を追い詰めていく。
どの放送の記事か
本記事が扱うのは2001年7月30日(月)放送の第244話である。読売テレビの公式事件ファイルでは「CASE FILE #244」として記録され、1週間前の7月23日に放送された第243話(前編)と2週連続で同じ事件を扱う前後編の解決編にあたる。二次資料では放送当時のシーズン区分を第9期と記し、海外のエピソード番号では前後編あわせて262〜263話、本話はその後半を担う回である。放送順では第242話「元太少年の災難」と本事件の前編が先に置かれ、本話の次には第245話「ヒマワリ館の銃声」が続く。資料に残る視聴率は、前編19.7パーセントに対し後編が18.4パーセントだった。後編のネクストコナンズヒントは「天井の照明」で、作中でコナンが鑑識へ調査を依頼する対象そのものを指す言葉になっている。
ニセ者の死の発見と殺人の断定
前編の終わりに、209号室へ乗り込んだ小五郎たちが見たのは、首を吊って事切れたニセ者の姿だった。机の上には開いたままのアタッシュケースがあり、中身は5年前のスポーツ新聞と濡れた長い髪の毛だけだった。死亡推定時刻は午後4時から5時の間とされる。後編はこの検証から始まる。新聞に挟まれていた濡れた長い髪は女湯の排水溝から集められたものと見られ、夕方には誰かが女湯に清掃中の札をかけて人を遠ざけていた。部屋の入口に残った濡れた跡は、犯人が焦って靴下のまま風呂場へ入り、その濡れた足のまま部屋へ戻ったために付いたと考えられる。「清掃中」の札の置き場所を知るのは旅館の従業員に限られる。コナンはこれらを踏まえ、ニセ者の死を自殺ではなく殺人と断定した。
被害者の特定——携帯電話と「T.MORI」
被害者の特定は意外なところから進む。遺体の上着から携帯電話が見つかり、着信記録に一つだけ残っていた番号へかけ直すと、出た相手は開口一番「達夫か?」と被害者の名を呼んだ。儲け話の行方と家賃の滞納を一方的にまくしたてて電話は切れたが、電話の裏に貼られた「T.MORI」のラベルと合わせ、ニセ者の正体は金に困っていた男・森達夫だと判明する。
赤いジャケットの男の所持品
コナンが次に注目したのは、1年前に頭神の森で見つかった赤いジャケットの男の所持品だった。潰れてボロボロになったミルク・あんパン・タバコに加え、財布にはコンビニのレシートが入っており、日付は7月10日になっていた。その7月10日は葵屋旅館の社員旅行の日であり、遺体は山菜採りで森へ入った従業員の浦川が見つけたものだと聞いたコナンは、犯人の狙いと正体にまでたどり着く。
現場の再検証と新聞に隠された暗号
推理の裏付けのため、コナンは現場の客室をもう一度調べる。机と将棋盤から犯人の痕跡が見つかり、さらに部屋の天井の電灯に、言い逃れのできない決定的な証拠が残っていると睨んで鑑識課員へ調査を依頼した。この「天井の照明」は本話のネクストコナンズヒントでもある。残る謎はアタッシュケースの中のスポーツ新聞である。一面を飾るのは優勝を報じる赤城丸の記事で、前頭五枚目の赤城丸の名の横には「前五」の書き込みがある。前頭とは、横綱・大関・関脇・小結より下の幕内力士のことで、五枚目はその中で五番目の地位を示す。赤城丸はこの場所、八日目に突き落としで唯一の黒星をつけ、残りは全て白星だった。「前五」と「八日目の黒星」を組み合わせたコナンは、この新聞が頭神の森に隠された何かの位置を示す地図だと推理する。
登場人物と葵屋旅館
本話に関わる人物は、依頼人で葵屋旅館の主人・遠田芳郎(58歳)、従業員の浦川詠次(37歳)と神保雅夫(34歳)、小五郎を装ってアタッシュケースを持ち去った被害者・森達夫、そして5年前に殺害された赤いジャケットの長髪の男である。捜査は群馬県警の山村ミサオ刑事が担当し、コナン・蘭・小五郎が同行する。頭神の森は旅館の近くに広がる自殺の名所で、前に倒れた地蔵が暗号の基点となる。
原作との対応——事件89と31巻
原作は小学館公式事件データベースの事件番号89にあたり、第31巻のFile2「偽者登場」・File3「偽者の真実」・File4「偽りの時」で構成される3本立ての事件である。後編は主にFile4の解決部分にあたり、ニセ者殺しの犯人、5年前の恐喝と長髪の男の死、新聞に隠された暗号の解が明かされる。公式データベースでは、事件の場所が「葵屋旅館」、メインキャラクターが江戸川コナン・毛利蘭・毛利小五郎・山村ミサオ、ゲストが森達夫・長髪の男・浦川詠次・遠田芳郎・神保雅夫の5名と整理されている。

解決者・登場道具・題名の呼応
資料上の解決者は毛利小五郎と記され、登場道具は麻酔銃腕時計と変声機ネクタイである。真相は、麻酔で眠らせた小五郎に変声機で声を当てる「眠りの小五郎」の形でコナンが披露する。名探偵を騙る偽者の死を、本物の小五郎の名推理として締めくくる構成は、この事件の題名と呼応している。
スタッフと主題歌
第244話のスタッフは、監督山本泰一郎(総監督・こだま兼嗣)、構成・絵コンテ・演出を兼ねた伊藤真朱、作画監督の志村泉、キャラクターデザインの須藤昌朋(デザインワークス・山中純子、宍戸久美子)である。声の出演は、江戸川コナン役の高山みなみ、毛利蘭役の山崎和佳奈、毛利小五郎役の神谷明、山村ミサオ役の古川登志夫。ゲストは遠田芳郎役の村松康雄、浦川詠次役の塩屋浩三、神保雅夫役の加賀谷純一、森達夫役の徳丸完である。本話ではさらに、辻親八(電話の声)、千葉一伸(鑑識課員)、巻島直樹(従業員)、宮下富三子(仲居)、千葉紗子と小林晃子(女性客)が端役で参加した。放送時の主題歌はオープニング「destiny」(松橋未樹)、エンディング「always」(倉木麻衣)。視聴率の資料値は18.4パーセントで、前編の19.7パーセントからやや下げた。

犯人・トリック・動機などのネタバレを表示
頭神の森の待ち伏せ——壺のすり替え
夜も更けた頃、頭神の森に足を踏み入れた犯人は、目当ての場所をシャベルで掘り起こし、布に包まれた壺を見つけ出す。しかし壺の中身は大量の石ころだった。直後、茂みに身を潜めていた山村刑事がライトで犯人の顔を照らし、手にした本物の1億円を見せて「お探し物はこれですか?」と声をかける。闇に浮かんだ犯人は従業員の神保雅夫だった。回収されていた一万円札の通し番号は、5年前に二人組の男が製菓会社から脅し取った1億円と一致した。
新聞の暗号の解——前倒れ地蔵と星取表
新聞の暗号の解はこうだ。見出しの赤城丸は「東前頭五枚目」だった。前頭は頭神の森にある「前倒れ地蔵」を指す言葉で、五枚目は歩数である。前に倒れた地蔵を基点に東へ5歩進み、そこから赤城丸の星取表に従って右へ8歩――赤城丸が唯一黒星をつけた位置――の地面を掘れば、金の詰まった壺にたどり着く。先回りしていた山村が壺の中身をすり替えていたため、神保の手元には石だけが残った。
5年前の恐喝と長髪の男の死
事件の根は5年前にさかのぼる。神保は長髪の男と組んで製菓会社を恐喝し、1億円を奪った。長髪の男は仲間に殺される予感を抱いており、金は壺に移して頭神の森に隠したうえで、隠し場所を示す暗号の記されたスポーツ新聞を入れたアタッシュケースと「呪いで殺す」と書いた手紙だけを遠田に預けた。案の定、預けた直後の5年前の秋、長髪の男は神保に殺され、頭神の森での自殺に見せかけられた。帽子・眼鏡・髭で顔を隠して旅館を訪れた神保が受け取ったのは脅迫文の手紙だけで、金の回収は果たせなかった。
死亡推定時期の偽装——所持品の移植
そこで神保は4年前の春、従業員として旅館に潜り込み、周辺を探し続けた。やがて森で無関係の自殺遺体を見つけると、その所持品であるタバコ・ミルク・あんパンとコンビニのレシートを長髪の男の遺体へ移し、死亡推定時期を4年前の7月10日へずらした。社員旅行でアリバイのある自分を容疑者から外すための工作である。有効期限が切れかけていた免許証は偽装の露見を防ぐため抜き取られ、タバコがあるのにライターがないという不自然さも、この付け足しが生んだ矛盾だった。
森達夫の殺害と二重の偽装
遠田が小五郎へ調査を依頼すると知った神保は、小五郎に瓜二つの男・森達夫を雇い、本物が到着する前にケースを奪わせた。ところが中身は金ではなく相撲のスポーツ新聞だけだった。多額の報酬を約束されていた森は「本物の毛利小五郎に全て話す」と逆上し、神保はやむなく紐で絞め殺し、首吊り自殺に見せかけた。新聞に長い髪の毛を挟んだのは、「ニセ者殺しは長髪の男の関係者による犯行」と読ませ、アリバイのある自分を容疑者から外すための二重の偽装だった。
蛍光灯の指紋——決定的な証拠
神保を逃がさない決定的な証拠は、遺体を高く吊る行為そのものにあった。人を担いで天井近くへ吊るすには、犯人も同じ高さまで上る必要がある。神保は机と将棋盤を踏み台にし、滑らないよう靴下を脱いでおり、両者に残った足の痕跡が照合の材料となる。神保は「部屋の蛍光灯を取り替えた時に踏み台にした」と弁解し、蛍光灯を調べれば自分の指紋があるはずだと主張した。ところがコナンが事前に依頼していた鑑識の結果、蛍光灯に付着した神保の指紋は、たんまりと積もった埃の下から見つかった。蛍光灯に触れたのが埃の溜まるほど昔のことなら、その時に踏み台にした机はとっくに清掃で拭かれているはずだ。机と将棋盤に残った新しい痕跡は、犯行の夜のものと断定された。
神保の敗因とエピローグ——遠山金五郎
それ以前に、神保は序盤の何気ない場面で既に尻尾を出している。落ちていた蘭の携帯電話を拾い、「お嬢さんのでは」と小五郎へ手渡した一件である。旅館の従業員が、目の前の客を本物の「眠りの小五郎」と知り、しかも山村刑事と面識があると知る術はない。つまり神保は、本物の小五郎が来ることを最初から知っていたのだ。翌日、眠りの小五郎の名推理に感服した山村は、すっかり小五郎のファンになった。帰り道、「眠りの小五郎に会いに葵屋旅館へ行く」という二人組の女性に出会うと、小五郎は女性たちを車に乗せて旅館へ引き返させ、自分は「遠山金五郎」と名乗った。
