「松江玉造連句14番勝負(後編)」とは

テレビアニメ『名探偵コナン』第256話「松江玉造連句14番勝負(後編)」は、2001年11月5日に読売テレビ・日本テレビ系で放送された。原作漫画を持たないアニメオリジナルの前後編の後編で、JR西日本とのタイアップ企画「ミステリーツアー」第2弾の解決編にあたる。島根県松江市を訪れたコナンたちが知り合った連句の会のメンバー、牛窪剛三が殺害された事件の結末を描く。供養のために開かれた十四句の連句の会そのものが、コナンが犯人を追い詰める舞台になる。

松江を舞台にした連句事件の場面写(第255・256話)
松江を舞台にした連句事件の場面写(第255・256話)

供養のために開かれる十四句の座

前編では、福引で当てた松江行きの旅先で、コナン・蘭・小五郎が大阪から来た連句の会の五人——安藤礼子、八木沢巧、椎名涼介、川口みずき、牛窪剛三と知り合った。翌日、牛窪が松江城の搦手之虎口公園の遊歩道で遺体となって見つかり、容疑者は残る四人の連句仲間に絞られた。各人が作ったはずの発句がアリバイの証言を兼ねるという構成で、コナンは「連句の会が勝負」と見立てて前編を終えた。 後編は、その連句の会が始まるところから開く。翌日、コナンに唆される形で句会へ参加することになった小五郎は、礼子たちとともに玉造温泉の玉造白砂旅館を訪れる。肌が若返り、どんな病も治すと評判の「神の湯」の湯宿の脇の空地が、十四句を連ねる座となった。 ルールは礼子が整える。発句となる五七五の句から始め、七七と五七五を交互に連ねて全部で十四句——題名の「14番勝負」である。初心者の小五郎も参加しやすいように、前の句の語尾と同じ音で次の句を始める「しりとり」(接尾令)で詠むこと、途中に月の句を一句、恋の句を二、三句入れること、十三句目は花の句、最後の挙句は春の句とすることが決められた。 詠む順は、亡くなった牛窪を供養する意味を込めて、牛窪が遺した句を発句に据え、椎名、八木沢、みずき、小五郎、礼子の順で連ねていくことになった。

安藤礼子
安藤礼子——連句仲間のまとめ役・短大国文科助教授

十一句まで詠み進む

会は和やかに進み、十一句までが詠み上げられた。 1. 秋高し 我が人生に 憂いなし——牛窪(秋の句) 2. 静かさの中 今木の実落つ——椎名(秋の句) 3. 月明かり 次はドラキュラ 付け句して——八木沢(月の句) 4. テキストは メイドインジャパン——みずき 5. 犯人を 挙げてみせると 名探偵——小五郎 6. 行き着く先は 神のみぞ知る——礼子 7. 類人猿 お顔が似てる となりの子——椎名 8. 今年で二十歳 見上げれば雪——八木沢(冬の句) 9. きっかけは 同じレコード 同じバス——椎名 10. 好きと言えずに 草笛を吹く——みずき(夏の句) 11. 暮れそめて 水枯れしダム 蟻の道——椎名(夏の句) 牛窪の発句は「憂いなし」と詠み上げる秋の句で、本人がすでにこの世にいないことが座に重くのしかかる。椎名は叙情的な句を好むだけあって流暢に句を返し、八木沢は月の句にドラキュラを持ち込む洒落を見せた。みずきの四句目は七七の形式から外れており、座の和を乱さない程度の笑いを誘う。小五郎は「犯人を挙げてみせる」と名探偵らしい挑発的な一句を放った。 接尾令の継ぎ目も見て取れる。「憂いなし」の「し」に「静かさの中」が続き、「雪」に「きっかけは」、「同じバス」に「好きと言えずに」、「吹く」に「暮れそめて」と、前句の語尾が次句の頭へ渡されている。 ここでコナンが指摘する。みずきは発句を「塩見縄手の武家屋敷の休憩所から紅葉を眺めて」作ったと言っていたが、実際にはあの休憩所から紅葉は見えない——前編でコナン自身が確かめていた事実である。言い当てられたみずきは、隠しきれないほどの動揺を見せた。

牛窪剛三
牛窪剛三——連句仲間。投資家。松江城で遺体となって発見される

見えない紅葉と、みずきの嘘

コナンはこの時点で、みずきが句会で詠んだ句を思い返して彼女が嘘をついた理由を見抜き、さらにある人物の句の不自然さから、牛窪のダイイングメッセージが示す本当の意味にも気づいていた。 様子を見に来た安来刑事の前で、小五郎はダイイングメッセージを解いたと宣言する。伸ばされた牛窪の右手人差し指は竹を指しており、それはみずきが発句を作りに行った武家屋敷を示している——小五郎の推理では、最も疑わしいのはみずきだった。 コナンはそれを否定する。みずきが十句目に詠んだ「好きと言えずに 草笛を吹く」は片想いの句で、その相手は、夕食の席で草笛を拭いていた八木沢だというのだ。しかも前夜、牛窪が八木沢に借金返済を迫っていた場面で、みずきは心配そうに八木沢を見ていた。小五郎は、みずきが犯人である八木沢を庇っている可能性を主張した。 追い詰められたみずきは供述を始める。武家屋敷へ行く振りをして八木沢のいる月照寺へ向かおうとバスに乗ったところ、松江城へ向かうバスの中に八木沢の姿を見かけた。急いで松江城へ向かうと、遊歩道にはすでに絶命した牛窪が倒れており、牛窪が指し示す先には八木沢の目薬が落ちていた。みずきは八木沢が牛窪を殺したのだと思い込み、目薬を拾い上げて武家屋敷へ戻り、休憩所で気持ちを落ち着かせてからホテルへ帰ったという。彼女の嘘は、疑われるであろう八木沢を庇うためのものだった。

川口みずき
川口みずき——連句仲間。図書館司書

八木沢のアリバイと蓮池の発見

疑いの目を向けられた八木沢は、自分の行動を説明する。月照寺に着いて三十分ほど経った頃、牛窪から「今すぐ松江城の稲荷神社に来い」というメールが届いた。十時五分頃に松江城の城山稲荷神社へ行ったが牛窪は現れず、十五分ほどして月照寺へ戻ったという。 ところが牛窪の携帯電話を調べても、八木沢が言うようなメールは残っていない。小五郎は、八木沢が牛窪の予備の携帯電話を盗み、自分の携帯へメールを送ってアリバイ工作をしたのではないかと考える。 そこへ広瀬刑事が駆けつけ、決定的な報告をもたらした。月照寺の蓮池の中から、被害者の血液が付着した特殊警棒と、八木沢の名前が入った雨ガッパが見つかったという。凶器と身元を示す物証が揃い、安来刑事は八木沢を犯人と断定して警察署へ連行しようとする——その時、座の空気を変えたのはコナンの提案だった。

八木沢巧
八木沢巧——連句仲間。和菓子店の主人

放送記録とスタッフ

本話はシーズン6の第256話として2001年11月5日(月)に放送された。世帯視聴率は18.6%を記録している。国際版(分割版)では第275話にあたり、英語版題名は前編と共通の「The 14th Round of the Matsue Tamatsukuri Linked Verse Contest」。Detective Conan Wikiでは、この前後編をまとめてフィラー事件#89と数えている。 後編のスタッフは前編から一部入れ替わっている。脚本は前後編を通して古内一成。絵コンテは後編が杉沢村蔵、演出は原田奈々、作画監督は青野厚司、制作進行は清水英利子と山本哲也が務めた。監督は山本泰一郎、キャラクターデザインは須藤昌朋、デザインワークスは山中純子と宍戸久美子である。

主題歌と声の出演

オープニングは松橋未樹の「destiny」、エンディングは上原あずみの「青い青いこの地球に」。後編用のオープニングモノローグは「運命までも推理のヒント、謎めく事件も明るく見通す。松江ミステリー、今日で解決。連句の中には秘密がいっぱい。たった1つの真実見抜く、見た目は子供、頭脳は大人。その名は、名探偵コナン!」と、事件の解決と連句の秘密を予告する内容になっている。本話のコナンズヒントは「発句」。次回予告の小劇場では、コナンの「次回はユニーク・ミステリー!」に蘭が「それってお父さんのこと?」と返し、小五郎が「天罰ッ!」と叫ぶ。次回ヒントは賽銭箱——第257話「世にも奇妙な天罰」へ続く。 後編のキャストは、江戸川コナン役の高山みなみ、毛利小五郎役の神谷明、毛利蘭役の山崎和佳奈のレギュラー三名に、連句の会から安藤礼子役の鈴鹿千春、八木沢巧役の田中正彦、川口みずき役の吉田小南美、椎名涼介役の遊佐浩二。松江警察署の刑事は安来役に宇垣秀成、広瀬役に千葉一伸、椿役に三宅健太が続投した。

安来刑事
安来刑事——松江警察署の取調べ担当

神の湯と、句に込められた土地の記憶

舞台の玉造温泉は実在し、美肌と病の治癒の効能から「神の湯」と呼ばれる古湯である。終盤の句が詠まれる勾玉橋も実在し、玉造は古来、勾玉(まがたま)の産地として知られる土地だった。松江そのものは京都、金沢と並ぶ三大和菓子のまちとされ、和菓子店の主人・八木沢の配置も土地柄に重ねられている。 連句は、五七五の発句に七七の脇句をつけ、さらに五七五を連ねて長い歌を皆で作る遊びで、発句は明治時代に俳句として独立した。この「前の句の語尾で始める」接尾令の縛りが、後編では仕掛けとしてそのまま使われる。そして結びの句に込められたラフカディオ・ハーン——小泉八雲は、松江に暮らし『怪談』を書いた作家として前編の観光行程にも登場していた。句会の体裁と松江の実情報の両方が、事件の骨格に組み込まれた回である。

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仕掛けられた十三句目

八木沢が連行されかけた座で、コナンは句会の続きを提案する。みずきの件は片付いた——そう言わんばかりの空気の中、十二句目としてコナン自身が「チョコレート菓子 早くちょうだい」と詠み、十三句目の花の句を椎名に求めた。 椎名は間を置かず「いつの日か 娘とふたり 花の寺」と詠み上げる。しりとりの「ち」から始まり、花の句という条件を満たす、情感のある句だった。 「あれれ~? 不思議だなぁ。今の句、さっき毛利のおじさんがボクに詠んでくれた句と同じだよ」 コナンの一言で座が凍る。直後、腕時計型麻酔銃で小五郎が眠らされ、蝶ネクタイ型変声機による「眠りの小五郎」の推理ショーが始まった。

犯人は椎名涼介

眠りの小五郎——コナン——が指名した犯人は、歯科医の椎名涼介だった。 椎名のアリバイは崩れていた。彼は「十時五分頃、庭園美術館のイングリッシュガーデンで、迷子の男の子を女性係員が親に引き渡すのを見た」と証言していた。だが園内の出来事は、生垣の下にビデオカメラを仕掛けておけば本人がその場にいなくても知り得る内容である。コナンは美術館で、生垣の下に残された三脚架の跡を見つけていた。 椎名の手口はこうだ。朝、庭園美術館にビデオカメラを設置し、盗んでおいた牛窪の予備の携帯電話から八木沢へ「稲荷神社に来い」というメールを送る。八木沢が城山稲荷神社へ引き寄せられている隙に松江城の遊歩道へ向かい、警棒で牛窪を殺害した。その後、八木沢の目薬を牛窪の指の先に置き、月照寺の池に八木沢名入りの雨ガッパと凶器を捨てて証拠を偽装し、美術館でビデオを回収してから何食わぬ顔でホテルへ戻った。 八木沢へのメールが牛窪の携帯に残っていなかったのは、送信元が牛窪本人の携帯ではなく、盗まれた予備の携帯だったからである。

「1」が指していたホック

ダイイングメッセージの真相は、小五郎の推理とも違っていた。牛窪が延ばした右手の人差し指は、竹でも武家屋敷でもなく、数字の「1」を示していた。連句の一句目の呼び名は「発句(ほっく)」——その音が示すのは、椎名の履いていたトレッキングシューズのホック(金具)である。 鑑識の結果、椎名の左足の靴のホックから、牛窪の血の付いた右手人差し指の指紋が検出された。椿刑事の確認が裏付けている。椎名は牛窪の手帳にあった句に気を取られていて、倒れゆく牛窪が自分の靴のホックに触れたことに気づかなかった。 この靴には前編から伏線がある。湖水館のロビーで礼子の「物の名前辞典」を見たコナンは、トレッキングシューズの頁を開いて椎名の靴と見比べていた。あの時の「金もないくせに高そうな靴」という牛窪の嫌味は、靴が事件の鍵になることの予告だったことになる。 コナンが椎名を疑い始めたのは、さらに前夜のくじ引きの時点だった。くじを作った本人は普通、最後に引くものだが、椎名は「次は年齢順で俺の番」と二番目に引いていた。あの時椎名はくじに細工をし、殺害しやすい松江城を牛窪に、最も遠くアリバイを作りやすい庭園美術館を自分に割り当てていた——発句を作る場所を決めるくじそのものが、犯行計画の一部だった。 動機は、牛窪が連句の会のメンバーを騙して金をむしり取っていたことへの憤怒だった。椎名は犯行を認めている。

破り取られた句と「おれだ」の暗号

椎名が十三句目に詠んだ「いつの日か 娘とふたり 花の寺」は、実は椎名の句ではなかった。前夜、ホテルのロビーで牛窪と話し込んでいた浪花証券岡山支店の友永久寿男が詠んだ句を、牛窪が手帳に書き写していたものである。 椎名はそれを牛窪の句だと思い込み、「あんなあくどいヤツがこんな綺麗な句を詠むなど許せない」と、殺害後に手帳から破り取っていた。手帳の前後に残っていた株情報が、破られたページの内容を探る糸口になっていた。 さらに椎名は、自分が詠んだ句の中に暗号を忍ばせていた。七句目の七字目に「お」、九句目の九字目に「レ」、十一句目の十一字目に「ダ」——繋げれば「おれだ」、すなわち「犯人は俺だ」という意味である。「犯人を挙げてみせる」と挑発した小五郎への返しとして、警察と名探偵を嘲笑う密かな宣言だった。 コナンはこの性格を読み切っていた。椎名は「父親が娘を思うような、情感のある句」が好きだと語る人物で——家出した妻と娘を持つ身である——条件さえ揃えば、盗んだ句を自分の句として詠んで勝利を誇示するだろう。その条件とは、八木沢が犯人として連行された後であること、十三番目の花の句であること、前の句としりとりで繋がっていることだった。コナンの思惑どおり条件は揃い、椎名は盗んだ句を自ら詠んで自白の端緒を与えた。

十四句目は松江への挨拶

こうして事件は解決し、みずきの想いは八木沢にも通じ、二人は両想いの結末を迎えた。 残りの一句をコナンが尋ねると、礼子は小五郎への感謝と松江への挨拶を込めて、勾玉橋の上で結びの句を詠んだ——「ラフカディオハーン 微笑んで春」。ラフカディオ・ハーンとは、ギリシャに生まれ松江に暮らした作家、小泉八雲のことである。 だが小五郎には何のことかさっぱり通じず、頭に「?」を浮かべるばかり。それを見たコナンの「これじゃ『ラフカディオはん 呆れてはる』やな」という内心の呟きで、松江の事件簿は幕を閉じる。

出典