「シカゴから来た男(前編)」とは
テレビアニメ『名探偵コナン』第258話「シカゴから来た男(前編)」は、2001年11月19日(月)に読売テレビ・日本テレビ系で放送された。原作漫画32巻の事件「シカゴから来た男」(File.325〜327)をもとにした前後編の前半で、シーズン6にあたる。阿笠博士と少年探偵団がアニマルショーで知り合った一人の外国人が、帰り際の駐車場で姿を消す。題名の「シカゴから来た男」とは、その外国人——ジェイムズ・ブラックを指す。ジェイムズはこの回で初登場する。のちにシリーズの重要な位置を占める人物である。
アニマルショーで出会った外国人
阿笠博士に連れられ、コナンと灰原哀、吉田歩美、円谷光彦、小嶋元太の少年探偵団は、「ポールとアニーのアニマルショー」を観にやってくる。白いライオンのレオンが出演するこのショーは、オクラホマの石油王ランディ・ホークがスポンサーを務める世界巡回公演で、ショー名は彼の息子ポールと娘アニーに由来する。アニメではピエロや熊、象、馬の演目まで描かれ、原作よりも出し物の描写が増やされている。 ショーを終えて会場を出ると、一人の外国人が記者たちに取り囲まれていた。記者たちは彼を、ショーのスポンサーであるランディ・ホーク本人と勘違いしていた。しかしコナンは気づいた。男が話す英語の「can」の発音が、イギリス訛りなのだ。ホークはアメリカ南部出身で訛りが異なる。阿笠博士の解説もあって、コナンは記者たちの人違いを見抜き、少年探偵団はその男を「英語の先生」と偽って記者の輪から救い出した。

ジェイムズ・ブラックという人物
助け出された男は、ジェイムズ・ブラックと名乗る。ロンドンで生まれ、シカゴで育ったという。シカゴを「アル・カポネのいた街」と語るなど、物腰は穏やかだがどこか謎めいた雰囲気を持つ人物である。ショーの大ファンで、日本限定のライオンのストラップを得意げに見せる。長い髪の男と待ち合わせていたものの、先ほどの騒動で会えなかったと話した。歩美は自分たちが少年探偵団であると胸を張り、探偵バッジをジェイムズに見せている。 助けてくれた礼にと、ジェイムズは一同をランチに招待すると言う。駐車場にレンタルしたワゴン車を取りに行った。人違いを見抜いたコナンの推理力に脱帽していたが、この時点ではまだ、彼が何者なのかは明かされない。初対面のジェイムズに対し、灰原はわずかに警戒した様子を見せている。

駐車場での誘拐
昼過ぎのことだ。阿笠博士の腕時計が示した時刻は、13時11分だった。一人で駐車場に向かったジェイムズがワゴン車に乗り込もうとした時、コート姿の男二人が声をかけてきた。「この車は盗難車だ」。男たちは警察手帳らしきものを示し、話を聞かせてもらうと言ってジェイムズをパトカーに連れ込もうとする。身に覚えのないジェイムズが、待っている友人への連絡を求めて拒むと、男たちは態度を変え、拳銃でジェイムズの頭を殴って後部座席へ押し込んだ。その拍子に、ジェイムズのストラップが路上へ落ちる。二人の男は偽物の刑事で、三人目の仲間が運転するニセパトカーでジェイムズを連れ去った。目的は身代金で、本来の標的はランディ・ホーク本人だった。ジェイムズはホークと間違われて誘拐されたのである。 ジェイムズがなかなか戻らないため、コナンたちは駐車場へ様子を見に行く。ワゴン車はドアが開いたままで、鍵も挿したままだった。近くで遊んでいた子供は、ワゴンに乗ろうとした外国人がコート姿の男二人とどこかへ行ったと証言する。

血の文字「P&A」
コナンたちは、駐車場脇の路地でジェイムズのストラップを発見した。時刻は13時51分だった。「with Paul&Annie」と書かれたストラップの「P」「&」「A」の三か所が、血で塗り潰されている。ジェイムズは指を負傷していた。自分の血で文字を印したのだ。コナンは、事件に巻き込まれたジェイムズが「P&A」という言葉から何かを伝えようとしていると推理する。 ジェイムズがホークと間違われて誘拐されたと判断したコナンたちは、事情を説明して警官に助けを求めるが、取り合ってもらえない。本物のホークはこの時、ラジオの生放送に出演していた。犯人が人違いに気づけば、顔を見られたジェイムズの命が危ない。そしてその不安は、そのまま現実へと向かう。

人違いに気づいた犯人たち
一方、ニセパトカーの車内では、犯人たちがカーラジオを聞いていた。ホーク本人の声を生放送で耳にし、ようやく自分たちが人違いを犯したと気づく。身代金目的の誘拐は成り立たず、ジェイムズを口封じに殺害するしかない——犯人たちはそう判断し、人気のない群馬の山奥へ向けてニセパトカーを走らせる。 ストラップが示す三文字の意味も定かでないまま、ジェイムズを乗せた車は群馬へと向かう。ここで前編は終わる。血で塗られた「P&A」の意味とジェイムズの行方は、後編へと引き継がれる。

放送記録とスタッフ
本話はシーズン6の第258話。2001年11月19日に放送され、世帯視聴率は19.3%を記録した。国際版(拆分版)では第277話にあたり、英語圏の資料では「The Man from Chicago」の題で整理される。原作漫画の事件としては94番目に数えられる。 構成と絵コンテは佐藤真人、演出は大庭秀昭、作画監督は石田啓一が務めた。原作漫画をもとにした回のため脚本のクレジットはなく、監督は山本泰一郎、キャラクターデザインは須藤昌朋、デザインワークスに山中純子と宍戸久美子、美術設定に草薙の成田偉保、制作進行に沢田穗高と大崎正美が名を連ねる。

キャストと主題歌
キャストは、コナン役の高山みなみ、阿笠博士役の緒方賢一、灰原役の林原めぐみ、歩美役の岩居由希子、光彦役の大谷育江、元太と次回ヒントの告知を兼ねる高木渉がレギュラー陣である。ゲストとしてジェイムズ・ブラック役の家弓家正、ニセ刑事役の徳丸完と中村秀利、ニセ警官役の菅原淳一、警官役の千葉一伸と巻島直樹、子供役の城雅子、記者役の宮下富三子が加わる。毛利小五郎と毛利蘭、目暮警部は本話に登場しない。高木刑事や佐藤刑事、宮本由美、そして赤井秀一が事件に関わるのは後編からである。 オープニングは松橋未樹の「destiny」(OP9)、エンディングは上原あずみの「青い青いこの地球に」(ED13)。本話のオープニングモノローグは「運命までも推理のヒント、謎めく事件も明るく見通す。今日は不思議な誘拐事件。英語の意味は難しい。たった1つの真実見抜く、見た目は子供、頭脳は大人。その名は、名探偵コナン!」と、回の内容に寄せた書き換え版で始まる。なお次の第259話(後編)からは、オープニングが倉木麻衣の「Winter Bells」(OP10)へ切り替わる。劇伴には劇場版『時計じかけの摩天楼』『14番目の標的』『瞳の中の暗殺者』のサウンドトラック収録曲が使われている。
原作との違いとデジタルリマスター
原作は2000年11月29日から12月13日にかけて掲載された32巻の3本——File.8「ライオンの落とし物」(File.325)、File.9「P&A」(File.326)、File.10「バカな作戦」(File.327)——を前後編に再構成した。アニメではアニマルショーの演目が拡大され、冒頭の会場外観の描写は省略された。ジェイムズが誘拐される際に子供たちがそばを通りかかる場面が追加され、原作で犯人がジェイムズを車に「蹴り込む」描写は「押し込む」に改められている。ジェイムズが指の傷を口にする場面では、犯人の「怪我は怪我だ」という台詞がアニメで追加された。 デジタルリマスター版は2014年4月5日に放送された。視聴率は9.2%だった。オープニングは「Butterfly Core」(OP37)、エンディングは「いま逢いたくて…」(ED46)に差し替えられ、ショーの演目の一部や、歩美へパンフレット最終頁のホークの写真を教える博士の場面などが削られている。柯南百科は、同年4月19日公開の劇場版『異次元的狙撃手』——ジェイムズ・ブラックと赤井秀一が関わる作品——との連動を意識した再放送だったと注記している。
コナンズヒントと次回予告
本話へつなぐコナンズヒントは「ストラップ」だった。血で文字が記された、ジェイムズのライオンストラップを指す。本話の末尾で次話へ渡すヒントは「P and A」で、血で塗り潰された三文字そのものである。小劇場では、高木が「Next Conan Is the Man from Chicagoの後編!」と告知し、コナンが「『後編』は日本語か?」と応えるやり取りで第259話「シカゴから来た男(後編)」を予告している。デジタルリマスター版の前編では、次話へ渡すヒントが「ロングヘアーの男」に差し替えられた。

この回の位置づけ
ジェイムズ・ブラックの初登場回としての意味が大きい。ロンドン生まれ・シカゴ育ちという出自は、ホームズの生地と、「風の街」と呼ばれアル・カポネが幅を利かせた街という二つの顔を重ねており、柯南百科はこの二重性が初登場のジェイムズを謎めかせると指摘する。「ジェイムズ」という名は、ホームズの宿敵モリアーティ教授のファーストネームと同じでもあり、後編ではコナン自身がこの関連付けに言及する場面がある。 また、ジェイムズが待ち合わせていた「長い髪の男」は後編で赤井秀一であると明かされ、コナンが赤井の顔と名前を既に知っていること——「謎めいた乗客」(第230・231話)のバスジャック事件で見た男だという認識——も、後編の場面で示される。単発の誘拐事件の装いのなかに、のちのシリーズを左右する人物同士の接点が仕込まれた回である。

出典と確認の範囲
本記事は、読売テレビ公式サイトの事件ファイル(第258話)と公式データを一次資料とし、二次資料(英語版Detective Conan Wiki、柯南百科、名探偵コナン情報局、WEBザテレビジョン)で時系列・スタッフ・キャスト・事件構造の細部を照合して作成した。本編映像の直接確認は未実施であり、場面の細部は二次資料の記載範囲に基づく。
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誘拐犯の手口と狙い
ジェイムズをさらったのは、ニセ刑事二人とニセパトカーを運転するニセ警官の三人組だった。一人が駐車場を見張って仲間へ連絡を取り、残りが偽の警察手帳を掲げて「盗難車」の疑いを口実にジェイムズへ近づいた。凶行には偽の警察手帳と拳銃、そしてニセパトカーが使われている。ニセパトカーは日産スカイライン(R32系)のパトカー仕様で、ナンバーは「新宿88す41-67」。狙いはランディ・ホークの家族を脅しての身代金で、ホーク本人を拉致する計画だった。しかし人違いと気づいた三人は、自分たちの顔を見たジェイムズを口封じするため、群馬の山奥へと車を向ける。
「P&A」の意味と後編への引き
「P&A」の解答が明かされるのは後編である。「&」を英単語の「and」に直して並べると「P-AND-A」——パンダになる。かつてイギリスでは白黒ツートンのパトカーが「パンダカー」と呼ばれており、ロンドン生まれのジェイムズは、自分がパトカーに乗せられていることを伝えていたのだった。 後編では、歩美がジェイムズに見せたままの探偵バッジが手がかりとなり、コナンは犯人追跡メガネでバッジの発信機を追う。高木刑事と佐藤刑事、検問にあたる交通課の宮本由美、そして謎の男・赤井秀一の車が絡み、ジェイムズを乗せたニセパトカーを包囲する作戦が展開される。救出されたジェイムズは赤井の車に乗って姿を消し、「シカゴから来た男」の謎はさらに先の事件へと続いていく。
