アンコールスペシャル「浪花の連続殺人事件」とは

「探偵コナンアンコールスペシャル!『浪花の連続殺人事件』(1時間)」は、2004年7月19日(月)に読売テレビ・日本テレビ系で放送された再放送企画である。対象となったのは、1998年9月21日に1時間スペシャルとして放送された第118話「浪花の連続殺人事件」。服部平次に招かれて大阪を訪れたコナンたちが、財布ごと胸を刺す手口の連続殺人に巻き込まれる話で、遠山和葉が初登場する回としても知られる。読売テレビの公式アーカイブでは、本放送は話数を持たない特別編成として扱われている。

元になった第118話と6年ぶりの再放送

元になった第118話「浪花の連続殺人事件」は、1998年9月21日(月)に放送された1時間スペシャルである。レギュラー放送では第117話「推理作家失踪事件」と第119話「仮面ヤイバー殺人事件」に挟まれた位置にある(二次資料)。原作の第19巻に収録された大阪を舞台にする事件を映像化したもので、初放送時の世帯視聴率は21.2%だったとされる(二次資料)。「浪花」は大阪の古称で、浪速・難波とも書く地名に由来する。 それから6年近くが経ち、2004年7月19日に「アンコールスペシャル」として再放送された。番組名が示すとおり1時間枠の放送で、翌週の7月26日には通常放送の「魔女の棲むお菓子の家」(第368話)が続いた。アンコール放送の視聴率は11.3%だったとされる(二次資料)。

冒頭の新規パートとその後のリマスター

本編の内容は初放送時と同一だが、冒頭に新規パートが追加されている。平次が工藤新一の扮装で登場し、「関東弁はいやないや」とこぼしながら視聴者へ挑戦状を叩きつける寸劇だ。事件のヒントとして免許証とルームミラー、そして写真を提示するが、うっかり和葉の写真を出してしまう場面が続く。本編へ入る前の導入として、西の探偵らしい演出が施された。主題歌は初放送当時のオープニング「運命のルーレット廻して」、エンディング「氷の上に立つように」がそのまま流された。 このエピソードはその後、2026年8月8日と8月15日に前後編へ分割したデジタルリマスター版(R168・R169)でも放送されている。1時間スペシャルを通常枠2回分へ再編集したもので、本記事のアンコール放送とは別の記録として扱われる。

服部平次の招待とパトカー観光

物語は、大阪府警本部で本部長の服部平蔵と刑事部長の遠山銀司郎が、豊中と枚方で起きた2件の殺人を協議する場面を挟みながら始まる(二次資料)。西の高校生探偵・服部平次の招待で、コナンと蘭、小五郎の3人は大阪へやってきた。名所を自慢げに案内する平次だが、コナンは招待に何か理由があると感じ、問い詰める。平次の答えは奇妙なものだった。犯人に追い詰められた新一が逆に刺され、死んでしまう夢を見たというのだ。 あきれるコナンをよそに、平次は大阪府警本部長である父・平蔵のコネクションを使い、パトカーでの観光を強行する。運転を任されたのは東尻署の刑事・坂田祐介だった。一行は通天閣を望み、うどんやたこ焼きを食べ歩く。パトカーで名所を回る物々しさにコナンたちは弱るが、平次は意に介さない。その道中、蘭は何者かの視線を感じ続けていた。

遠山和葉の登場と落下する遺体

視線の主は平次の幼なじみ・遠山和葉だった。心斎橋のお好み焼き店で一行の前に現れ、いきなり蘭へケンカを売る。平次が「工藤」という人物の話をしていたと聞き、東京で平次をたぶらかした女だと誤解したのだ。まもなく誤解は解け、和葉も加わって見物を再開しようとした矢先、一行の乗るパトカーのボンネットに死体が落ちてきた。 遺体はナイフで胸ポケットの財布ごと一突きにされていたが、死因は絞殺だった。ビルの屋上から落下するよう細工されていたと判明する。当時の大阪では同じ手口の殺人が続いており、これで被害者は3人目だった。しかも坂田が持ち込んだ6年前の映像テープ——スキャンダルを追及される郷司宗太郎へ記者が群がる映像——の中に、最初の被害者・長尾英敏と3人目のタクシー運転手・野安和人の姿があった。2人は府会議員・郷司の元秘書と元運転手だったのだ。コナンと平次は郷司の事務所へ向かう。

免許証という共通点と平次の単独行

その途中、野安の遺体発見現場から慌てて立ち去った中年女性・岡崎澄江へ電話をかけると、彼女は異常なほど怯え、「このままだと殺されてしまう」と訴えた。2人は車を飛び降りて彼女のマンションへ駆けつけるが、岡崎は近くの公衆トイレの前ですでに死体となって横たわっていた。やはり絞殺で、財布ごと胸を刺されている。4人の被害者の関係も、誰が何のために殺し続けているのかも謎のままだった。そんな中、コナンは4人全員の財布に運転免許証が入っていたことに気づく。 免許証という共通点を手がかりに、コナンと平次は門真の運転免許試験場や市立中之島図書館を回り、被害者たちの過去にひとつの接点が浮かび上がるのを掴んでいく。並行して大阪府警は、逃走中の沼淵己一郎の潜伏先へ迫っていた。これ以上自分の街で好き勝手にはさせないと決意した平次は、コナンに和葉のお守りを託し、割り出した一人の人物を問い詰めるべく単独で動く。だが彼の身には、大きな危険が迫っていた——物語はここから、真犯人との対決へ向かう。

事件を彩る登場人物

被害者は4人。コンビニ店長の長尾英敏は郷司の元秘書で、6年前に起きた郷司のスキャンダル報道を押さえた映像にも姿があった。小料理屋の女将・西口多代、郷司の元運転手だったタクシー運転手の野安和人は41歳、西都マンションに住む岡崎澄江は39歳で、1年前に離婚していた(二次資料)。免許証の取得経緯も一人ひとり違う。西口は合宿の卒業から3年を経て免許を取り直し、岡崎は4人の中で唯一、卒業した年に兵庫県で免許を取っていた(二次資料)。4人の接点は、運転免許証をめぐる過去へとつながっていく。 事件の陰に見え隠れするのが、府会議員の郷司宗太郎と、指名手配中の強盗殺人犯・沼淵己一郎である。沼淵は2週間前に大阪へ逃げ戻り、箕面の滝近くの小屋に潜んでいた。大阪府警側では、本部長の服部平蔵、刑事部長の遠山銀司郎、そして本作から登場する大滝悟郎警部が捜査を進める。案内役の刑事・坂田祐介は26歳、事件の行方を左右する存在として描かれるが、その詳細は記事末の真相節にまとめる。

名探偵コナン 19巻の公式書影
『名探偵コナン』19巻(小学館公式書影)

遠山和葉の初登場とお守り

本作は遠山和葉が初めて登場する回である。声は宮村優子が担当した。和葉は平次の幼なじみで、大阪府警刑事部長を務める父・銀司郎と平蔵が友人同士という縁で、幼い頃から平次と過ごしてきた。平次の家で見つけた平蔵の古い手錠で遊んでいたとき、2人は外せないまま一緒に過ごす羽目になった。その思い出から和葉は2人を「鉄のクサリ」で結ばれた仲と呼び、手錠の破片をお守りに入れて平次へ渡していた。 初対面の蘭へ「あんたが東京で平次をたぶらかした、『工藤』っちゅう事はなァ」と詰め寄り、「平次にちょっかい出す時は、このアタシを通してからに」と言い放つ強気な登場は、本作で最も印象に残る場面の一つだ。平次の母・静華がふぐ鍋で一行をもてなす段取りだったと教えるのも和葉である(二次資料)。口げんかの絶えない2人の様子は蘭に「付き合っているのでは」と勘違いさせるほどで、この回を機に平次と和葉の組み合わせがシリーズへ定着した。和葉が作ったお守りは物語の後半で思わぬ形で効力を発揮し、その後のシリーズでも繰り返し登場するアイテムとなった(二次資料)。なお、平次を刺される夢に怯えさせる描き出しと、彼が「人間なんか、いつ死んでまうかわからへんからのォ」と語る台詞も、和葉のお守りと結びついて回収される構成だ。 和葉のほかにも、大滝警部と遠山銀司郎、沼淵己一郎がこの回で初登場した。銀司郎を演じた佐古正人にとっては、この役を演じた唯一の放送回となった(二次資料)。また沼淵は、のちの第289話・第290話の事件でも再び姿を見せるなど、単発に終わらないゲストとなった(二次資料)。

原作との対応とアニメ版の特色

原作は「週刊少年サンデー」に1997年11月12日から12月3日まで掲載された事件で、第19巻のFile.5「食いだおれの街」からFile.8「免許証の秘密」までの4ファイルに相当する。サンデー公式の事件データベースでは事件54に数えられ、収録コミックスは第19巻である。 アニメ版は原作の骨格をそのままに、和葉の描写を増やしている。通天閣から観光一行を尾行する姿や、うどん・たこ焼き・お好み焼きを食べ歩く食いだおれの描写にコメディが添えられた。事件の進行と並行して、大阪の街そのものが舞台として機能する構成である。 スタッフは構成・絵コンテが櫻井美知代、演出が山本泰一郎、作画監督が佐々木恵子と横手博人(二次資料)。テレビアニメの初代監督・児玉兼嗣にとって、単独で監督を務めた最後の放送回にあたるとも言われる(二次資料)。

原作マンガ「浪花の連続殺人事件」のパネル(サンデー公式事件データベース掲載画)
原作事件54の公式掲載パネル(WEBサンデー・全事件レポート)
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犯人は案内役の刑事——20年前の悪戯への報復

連続殺人の犯人は、平次たちの案内役としてパトカーを運転していた東尻署の刑事、坂田祐介その人だった。動機は20年前へさかのぼる。1978年8月23日、兵庫県の合宿教習所を卒業した6人——被害者4人に郷司、そして沼淵——は、「鬼教官」と呼ばれた教官・稲葉徹治に酒を飲ませ、車のブレーキオイルを抜く悪戯を仕掛けた。怖がる顔を見たかっただけのつもりが、稲葉は事故死してしまう。坂田は稲葉の息子だった。当時の殺人罪の公訴時効は15年で、真相を知ったときには法的制裁の道が閉ざされていた。坂田は自らの手で6人へ報いることを選んだ。

周到な犯行とミラーの決め手

犯行は周到に組まれていた。野安の遺体はあらかじめビルの屋上へロープで吊るし、ドアノブに結びつけておき、坂田が茶店店主へ電話をかけて屋上を開けさせることで、目撃者の前へタイミングよく落下させた。岡崎については電話で呼び出しと脅しを組み合わせて公衆トイレへ誘導し、殺害後はあらかじめ停めておいた同型同色の別車両へ乗り換え、一方通行の御堂筋を迂回してきたように見せかけた。案内役に徹して平次を事件の核心へ近づけたのも、目立つ府会議員の郷司邸へ疑われずに入るための段取りだった。 坂田を突き止めた決め手は2つある。再び車へ乗った平次が気づいた助手席ルームミラーの角度の変化は、途中で車両が交換されたことの証左だった。さらに坂田自身が、野安や岡崎と同じく、乗車するとまずミラーを調整する癖を持っていた。この癖は、同じ教官に教わった者だけが共有する動作だった。

郷司邸の倉庫での対決

結末の舞台は郷司邸の倉庫である。最後の標的である郷司と対峙する場へ踏み込んだ平次は、そこで坂田こそが犯人だと看破した。追い詰められた坂田は自殺を図る。それを止めようとした平次の腹部に銃弾が当たり、パニックになった坂田の乱射がガスタンクへ命中して倉庫は火に包まれる。逃げ場を失った坂田は、父の死の真相と、時効によって裁けない現実への怒りを告白した。傷つきながらも平次は「あんた日本で唯一拳銃持つ事許されとる警察官やぞ」「手帳に付いとる桜の代紋が泣いとるぞォ」と叫び、坂田の自殺を食い止める。推理で犯人を死なせてはいけない——かつて新一から教わったその教えを、平次は自らの傷を押して貫いた。

お守りが守ったコナンの命

並行して、逮捕された沼淵は護送の隙を突いて逃走を図り、蘭へ刃を向けた。庇ったコナンは腹部を刺されるが、平次から預かったお守りが刃を受け止め、軽傷で済んだ。お守りに入っていた手錠の破片が命を守る形となり、和葉との「鉄のクサリ」の思い出が物語の伏線として回収される。沼淵は和葉が制圧した。救急車へ運ばれる平次を和葉が泣きながら見守る締めくくりまでが、この1時間の収めた物語である。

出典