『TV放送10周年&映画10作記念スペシャル』とは

「ありがとう!名探偵コナンTV放送10周年&映画10作記念スペシャル 映画『名探偵コナン 水平線上の陰謀』」は、2006年4月3日(月)に読売テレビ・日本テレビ系で放送された特別番組である。1996年1月に始まったテレビアニメの放送10周年と、同年4月15日公開の劇場版第10作『名探偵コナン 探偵たちの鎮魂歌』を記念する企画で、前年公開の劇場版第9作『名探偵コナン 水平線上の陰謀(ストラテジー)』をテレビで初めて放送した。放送は19時から21時15分までの135分枠。読売テレビの公式データでは、話数を持たない記録となっている。

10周年イヤーの特別編成

テレビアニメ『名探偵コナン』は1996年1月8日に放送を開始し、2006年は10年目の節目にあたった。読売テレビはこの年の初めから周年企画を重ねていた。1月9日には、第425話「ブラックインパクト!組織の手が届く瞬間」を「放送10周年記念超拡大スペシャル」として2時間半枠で放送している。3月13日には「ありがとう!名探偵コナン10周年記念スペシャル」と題して、劇場版第1作『時計じかけの摩天楼』を放送した。 本番組はこの流れの締めくくりにあたる。題名は「TV放送10周年&映画10作記念スペシャル」へと拡張され、劇場版の最新第9作を、第10作公開の12日前に地上波初放送する形となった。第433話「コナン変な子」(3月6日)以降は、3月13日の映画第1作特番と本番組が続き、通常の新エピソードは4月10日の第434話「名犬クールのお手柄」まで間が空いた。

時限爆弾のデジタルタイマー(3月13日の姉妹特番・映画第1作放送の公式ストーリーイメージ)
姉妹特番の公式ストーリーイメージ(読売テレビ・3月13日番組ページ掲載画)

放送された映画「水平線上の陰謀」

放送対象の『名探偵コナン 水平線上の陰謀』は、2005年4月9日に公開された劇場版シリーズ第9作である。上映時間107分、配給は東宝、興行収入は約21億5000万円を記録した。監督は山本泰一郎、脚本は古内一成、音楽は大野克夫、キャラクターデザインは須藤昌朋である。主題歌はZARDの「夏を待つセイル(帆)のように」が担当し、キャッチコピーは「忘れはしねぇよ、オマエのことだけは…」「オマエを、絶対に守る」。公式の売り文句は「シリーズ初の二重(デュアル)サスペンス」だった。 舞台は八代グループの最新豪華客船アフロディーテ号の処女航海である。題名の「ストラテジー(Strategy)」は「戦略」の意である。エンディングロケと取材には商船三井客船、海上保安庁、郵船クルーズが協力した。貨物船が氷山と衝突する冒頭など、映画『タイタニック』を意識した場面も取り入れられている。

モーターボートを操るコナンと蘭・小五郎・豪華客船の劇場版第9作キービジュアル
劇場版第9作キービジュアル(TMS公式サイト掲載画)

二つの過去の死とアフロディーテ号への乗船

物語は15年前にさかのぼる。北大西洋の海上で、八代グループの貨物船・第一八代丸が氷山に激突して沈没する事故が起き、沖田船長と三等航海士の2人が死亡した。さらに半月前、八代造船の設計技師・八代英人が運転中に心臓マヒを起こし、車ごと崖から転落して死亡している。英人はアフロディーテ号の設計チームを率いた人物で、その処女航海を見ることなく世を去った。 現在、コナンと蘭、小五郎、園子、阿笠博士、少年探偵団はアフロディーテ号に乗り込んでいる。園子の両親が八代グループ会長・八代延太郎に招待されていた。だが出席できず、代わりに一同が誘われた形だ。メインダイニングでは、小五郎のファンを名乗るシナリオライターの日下ひろなりが同席を申し出る。紹介された設計チームの秋吉美波子と共に、食事が始まった。小五郎は、別居中の妻・妃英理に似た美波子を前にして落ち着かない様子だった。

かくれんぼと園子の拉致

その夜、少年探偵団は空手の関東大会で優勝した蘭のために、浜で拾った貝殻で金メダルを作り、翌朝こっそり蘭のウインドブレーカーのポケットに忍ばせる。一方、延太郎のもとには「15年前の秘密を知っています」と書かれた手紙が届く。翌日のかくれんぼでは、園子と灰原がオニを務めた。蘭はどこにも見つからず、タイムアップ後に現れて、ずっとサッカーボールを蹴るコナンを見ていたと告げる。だが逃げ切った蘭とは対照的に、探しに出た園子が戻らない。探偵バッジ越しに届いた園子の悲鳴。彼女の言葉を頼りに捜索したコナンたちは、地下のマリーナで襲われて閉じ込められていた園子を発見する。現場には延太郎が護身用に持っていた鉄扇が落ちていた。

八代貴江の刺殺と延太郎会長の失踪

事情を聞くため延太郎の部屋を訪れると、そこには刺殺された女性の遺体があった。被害者は延太郎の娘で、八代客船の社長・八代貴江である。小五郎はパーティーで知り合った麗姉妹の部屋へ向かう途中、貴江の部屋から出てきたフードを深くかぶった不審な人物とすれ違っていた。警視庁捜査一課の目暮警部、白鳥警部、高木刑事がヘリで駆けつけた。鑑識の結果、会長の延太郎も何者かに海へ落とされたと推測される。立て続けに起きた2つの事件に対し、犯行が可能なのは八代親子のスケジュールを知る人間に限られる。その条件を満たすのは世話係のパーサー・辻本夏帆だけのはずだった。容疑者は乗員乗客あわせて600名に上り、捜査は難航する。

佐藤刑事の再捜査とウェルカムパーティー

一方、半月前の八代英人の事故を再捜査していた佐藤刑事は、事故車両の中に不審な痕跡を発見し、事故ではなく殺人事件だった可能性が浮上する。一連の事件が同一犯なら、動機は15年前の沈没事故に絡む八代財閥への恨みと見られる。コナンは犯人に目星を付ける。だが決め手の証拠を持たないまま、船上のウェルカムパーティーが始まる。 パーティーの席で乗客が騒ぎ出したのを制したのは小五郎だった。マイクを取り、自信たっぷりに推理を披露するが、その内容はとんちんかんなもので場は再び騒然となる。あとを引き継いだのは、阿笠博士の声を借りたコナンの推理ショーだった。コナンの指摘と犯人のトリックが激突し、事件は決着へ向かう——だが、犯人の陰謀は乗員乗客すべてを巻き込む巨大な罠を張り巡らせていた。コナンと小五郎、2人の名探偵が挑む結末は、記事末のネタバレ節にまとめる。

主な登場人物とゲスト声優

事件の中心となるのは八代グループの人々である。会長の八代延太郎は78歳で、脅迫状を警戒して鉄扇を護身用に所持していた。娘の八代貴江は51歳で八代客船の社長を務め、延太郎の婿養子である八代英人はアフロディーテ号の設計チームを率いる設計士だった。船側の責任者はアフロディーテ号船長の海藤渡で、15年前に沈没した第一八代丸では副船長を務めていた経歴を持つ。乗客には元首相の新見謙介夫妻ら著名人や政界人も名を連ねる。 ゲストキャラクターの筆頭は、シナリオライターの日下ひろなりである。豪華客船を舞台にしたドラマを企画中という26歳の青年で、声は山寺宏一が演じた。設計士の秋吉美波子は32歳、英人が率いた設計グループのサブリーダーで、アフロディーテ号の命名者でもある。声は榊原良子。ほかにパーサーの辻本夏帆を西村ちなみ、船長の海藤渡を中田浩二、元首相の新見謙介を有本欽隆が演じている。

劇場版第9作の特徴

本作が劇場版シリーズで異色なのは、毛利小五郎の扱いである。従来はコナンが「眠りの小五郎」の声を借りて犯人を追い詰める構成が基本だった。本作では違う。コナンがミスリードに引っかかる一方、普段は的外れな推理の多い小五郎が独自の捜査で真相に迫り、ほぼ単独で犯人を追い詰める。山本泰一郎監督は公式パンフレットのインタビューで、この展開は原作者・青山剛昌のアイデアによるものだと語っている。小五郎役の神谷明にとっても、長年の思いが実現した回となった。あわせて、コナンが阿笠博士を探偵役にした推理ショーを演じたのも劇場版ではこの作品が初めてである。 もう一つの見どころは工藤新一と毛利蘭の小学生時代のエピソードで、劇場版では初めて描かれた。かくれんぼをしていた幼い2人のやり取りが、船内で蘭が見せる行動と重なって機能する。蘭が空手の関東大会で優勝したという設定も本作で示され、後に原作へも取り込まれた。またエピローグ後の次回作予告では、コナン役・高山みなみの「10周年記念超大作、劇場版名探偵コナン、乞うご期待!」というナレーションが流れる。のちに『探偵たちの鎮魂歌』と発表される周年作品への橋渡しが、すでに劇中へ組み込まれていたのだ。本放送はまさにその予告どおりの10周年記念の一環として行われたわけである。

「名探偵コナン 水平線上の陰謀」Blu-rayジャケット(B ZONE公式)
劇場版第9作Blu-rayジャケット(B ZONE公式パッケージサイト掲載画)

放送後の展開と再放送

スペシャル翌週の4月10日には第434話「名犬クールのお手柄」で通常放送が再開し、4月15日には劇場版第10作『名探偵コナン 探偵たちの鎮魂歌』が公開された。同作はレギュラーメンバーが勢揃いするオールスター構成の10周年記念作品だ。本放送は、その公開直前に最新作をテレビへ届ける役割を果たした。 視聴率は13.1%だったとされる(二次資料)。『水平線上の陰謀』はその後も地上波で再放送されている。2013年3月30日には読売テレビのローカル枠で本編ノーカット放送、2025年4月11日には『隻眼の残像』公開記念として金曜ロードショー枠での放送があった。

犯人・トリック・動機などのネタバレを表示

日下ひろなりの犯行と真犯人の判明

ウェルカムパーティーでコナンが阿笠博士の声を借りて暴いた犯人は、シナリオライターの日下ひろなりだった。日下は15年前の第一八代丸沈没事故で犠牲になった三等航海士の息子だった。事故が保険金目当てに仕組まれたものと知り、八代親子への復讐を計画する。テープレコーダーを利用したトリックで2人を殺害する段取りを立て、機関室には逃走用の爆弾も仕掛けていた。犯行を暴かれた日下は爆弾を爆発させ、モーターボートでの逃走を図る。追跡したコナンと少年探偵団に阻止され、逮捕された。 しかし真犯人は日下ではなく、設計士の秋吉美波子だった。美波子は沈没で命を落とした沖田船長の娘である。美波子は、取材を装って近づいた日下の事故調査レポートと、酒に酔った八代英人の口から事故の真相を知った。まず英人を事故に見せかけて殺害し、続いて日下の立てた計画を利用する形で八代親子を殺害した。佐藤刑事が事故車両に見付けた痕跡は、この半月前の殺人を裏付けるものだった。

アフロディーテ号の沈没と結末

美波子の陰謀はそこで終わらない。設計士の知識を駆使してアフロディーテ号自体を海に沈め、15年前の事故に関与した海藤船長を「船と運命を共にした」ように見せかけて殺害しようとした。すべての罪を日下に被せる構図でもあり、それは日下がレポートの中で父の沖田を非難していたことへの意趣返しでもあった。沈没が避けられなくなり総員退船となる中、アフロディーテ号に残った小五郎は美波子と対峙し、格闘の末に一本背負いで制圧する。犯人を日下に見せかける仕掛けへ誘導されたコナンの推理を、小五郎が自力で読み解き切った結末である。 忘れ物の貝殻の金メダルを取りに戻った蘭は、船内に取り残された。救出に向かったコナンも船に残されるが、蘭と少年探偵団の助けで脱出に成功する。乗員乗客は全員無事に救出され、アフロディーテ号は大きな渦に巻き込まれながら海に沈んでいった。

出典