「TVドラマロケ殺人事件(デジタルリマスター)」とは

「TVドラマロケ殺人事件(デジタルリマスター)」は、テレビアニメ『名探偵コナン』第21話「TVドラマロケ殺人事件」(1996年6月24日放送)をデジタルリマスター化して再放送した回で、2015年5月23日(土)に読売テレビ・日本テレビ系のレギュラー放送枠で放送された。沖野ヨーコ主演のテレビドラマのロケ先となった米花神社で撮影助手が殺害され、遺体の手元に血で残された「コマイヌ」の文字をめぐる、1話完結のアニメオリジナル事件である。

どの放送の記事か

本記事が扱うのは2015年5月23日のデジタルリマスター放送である。読売テレビの公式事件ファイルでは本放送とは別ページが立てられ、題名に「(デジタルリマスター)」が付されて独立した放送として記録されている。話数を持たない再放送だ。公式の放送データでも、話数欄は空のまま残されている。 放送枠で見ると、前週の5月16日は第778話「天使が消えた蜃気楼」、翌週の5月30日は第779話「緋色の序章」だった。本リマスターは、のちに黒ずくめの組織編の山場となる「緋色」シリーズの直前の枠で放送されたことになる。元になった本放送は第21話で、1996年6月24日(月)の放送。前の第20話「幽霊屋敷殺人事件」と、翌週7月1日の第22話「豪華客船連続殺人事件(前編)」の間にあたる。シリーズ最初期のアニメオリジナル回を、19年越しに再放送した形だ。

「TVドラマロケ殺人事件」の題字(第21話次回予告カード)
次回予告の題字カード(Detective Conan Wiki掲載の第21話場面写)

ロケ先の米花神社で起きたこと

事件の舞台は、日売テレビ系列の火曜サスペンスドラマ「闇に笑う脅迫者」の撮影現場である。主演は人気アイドルの沖野ヨーコ。ドラマの推理監修として協力することになった毛利小五郎は、コナンと蘭を連れて米花神社でのロケを見学する。劇中ではヨーコ演じる役が二枚目俳優の那智真吾を刺す場面が撮られていた。 撮影の合間、那智はスクリプターの豆垣妙子を食事に誘うが、監督の権藤武敏は、妙子がADの島崎裕二と来月結婚することを教えて那智をたしなめる。そこへ水を差すような嫌味を投げかけるのが撮影助手の安西守男だ。その時、安西の腕時計から奇妙な音が流れた。先月アメリカで購入したというドクロ模様の腕時計で、不気味な笑い声のようなアラームが特徴の品である。その時計はちょうど6時を示していた。遅れて現れた神主の豆垣久作は妙子の祖父であり、ロケ地の米花神社は妙子の実家にあたる。蘭はコナンを連れて那智にサインをもらいに行く途中、安西が那智を強請っている現場を目撃してしまう。 夜、神社近くの米花旅館の大広間で関係者の宴会が開かれ、小五郎たちも参加する。ただし那智だけは、古い旅館を嫌って帝丹ホテルに宿泊し、宴会には姿を見せなかった。途中、安西はカメラの手入れがあると席を離れ、妙子も実家に用事があると退席する。午後9時45分、島崎がタバコを買いに旅館を出た。10時にはコナンと蘭がヨーコに誘われてコンビニへ向かう。部屋を出ると、安西の部屋から例の腕時計のアラーム音が聞こえてきた。旅館の戸口からは、深く帽子を被った安西の後ろ姿が門へ向かうのが見えた。門を出てすぐに曲がり、姿を消す。その直後である。ひどく驚いた様子の妙子が、旅館の中へ入っていった。

夜の米花神社の石段を駆け上がるコナン(第21話公式ストーリーイメージ)
石段と狛犬のある夜の境内(読売テレビ公式・第21話ストーリーイメージ)

逃げる人影と狛犬の前の遺体

コンビニからの帰り道、コナンたちは米花神社から逃げていく人影を目撃する。賽銭泥棒を疑って境内へ駆け上がると、狛犬の前で安西が血まみれで絶命していた。遺体の傍らには安西の帽子とベストが、少し離れた場所には血の付いたナイフが落ちていた。ナイフはドラマの撮影で使われた小道具である。そして遺体の手元には、自らの血で書かれた「コマイヌ」のダイイングメッセージが残されていた。

捜査——三つの容疑と動かない時間

目暮警部たちの捜査が始まる。推定犯行時刻は午後10時から10時半まで——安西が旅館を出た時刻から、遺体の発見までの間である。小五郎は「コマイヌ」から神社を連想し、神主の孫である妙子に疑いを向ける。しかし蘭は、安西が出て行くのと入れ替わりに妙子が旅館へ戻ってきたと証言し、目暮は妙子の犯行を不可能と判断した。もっとも、それ以前の1時間の妙子の行動は不明のままだった。 島崎は9時45分にタバコを買いに出て、30分後の10時15分に旅館へ戻ったと証言する。那智は10時までホテルのバーにおり、その後は部屋にいたと証言した。10時以降のアリバイを示せる者はいない。やがて安西の部屋から、那智が既婚者の女優・萩山律子とホテルから出てくる場面を写した写真が見つかる。安西はこの不倫の証拠をネタに那智を強請っていたのだ。動機のある那智へ、小五郎と目暮の疑いは集まる。対するコナンは、「コマイヌ」の意味さえ分かれば決定的な証拠になると読み、ダイイングメッセージの解読へ推理を巡らせる。公式あらすじはここで途切れ、解決は放送本編に委ねられる形となっている。

安西の部屋から見つかった那智真吾と女優・萩山律子の不倫証拠写真
那智を揺すっていた不倫の証拠写真(Detective Conan Wiki掲載の場面写)

主な登場人物

沖野ヨーコ(声:天野由梨)は劇中ドラマの主演で、コナンと蘭をコンビニへ誘い、遺体発見の場にも居合わせる。小五郎の推理監修という設定は、探偵が劇中の殺人と現実の殺人に同時に向き合う導入を作っている。 容疑が向けられる三人はいずれも撮影の関係者だ。那智真吾(声:子安武人、23歳)は二枚目俳優で、魚を形どったマッチ棒パズルを得意げに披露する知性派ぶった一面がある。既婚女優との不倫写真を握られ、安西から金を強請られていた。豆垣妙子(声:弥生みつき、24歳)はスクリプターで、米花神社の神主・豆垣久作(声:丸山詠二、75歳)の孫。実家が現場という事情が、血文字への連想を強める。島崎裕二(声:横堀悦夫、26歳)はADで妙子の婚約者であり、事件当夜の外出時間が容疑の対象になる。監督の権藤武敏(声:宮田光、57歳)は那智の態度を戒め、島崎にタバコの使い走りを頼んだ人物である。 被害者の安西守男(声:二又一成、25歳)は、日頃の嫌味な言動から現場で評判の悪い撮影助手だった。後ろ向きに被ったオレンジ色のキャップと青いベスト、そして不気味な音の腕時計が、その人物を示す記号として物語の中で繰り返し使われる。このほか沖野ヨーコのマネージャー山岸栄一(声:一条和矢)、旅館の仲居(声:岩井由希子)が登場し、鑑識員の声は高木渉が担当した。画面には、のちの高木刑事の原型と思われる刑事の姿も確認できる。

アニメオリジナル第5作目の位置づけ

本回に原作漫画の対応はない。アニメオリジナル事件としてはシリーズ5作目で、脚本・絵コンテ・演出は越智浩仁が一人で務めた。のちにテレビシリーズ第4代の監督となる越智にとって、これが『名探偵コナン』で初めて書いた脚本である。また本回は、エンディング後のおまけ場面(ポストクレジット)を持たない最初の放送回とされる。 構造の面でも特異な回である。劇中劇「闇に笑う脅迫者」の中でヨーコに刺される那智の演技を冒頭に置き、現実の殺人がその直後に神社で起きるという二重写しになっている。凶器が撮影用小道具のナイフである点も、この二重写しを支える。なお完成した劇中ドラマは、第203話・第204話「黒いイカロスの翼」で小五郎がテレビ視聴する場面として接続が描かれている。

スタッフ・キャスト・放送記録

スタッフは監督こだま兼嗣、脚本・絵コンテ・演出が越智浩仁、作画監督が大河原晴男、キャラクターデザインが須藤昌朋(デザインワークス・森木靖泰)である。声の出演は高山みなみ、山崎和佳奈、神谷明、茶風林(目暮警部)のほか、ゲストとして子安武人、弥生みつき、横堀悦夫、二又一成、宮田光、丸山詠二、天野由梨、一条和矢、高木渉、岩井由希子が名を連ねる。 1996年の本放送時の主題歌は、オープニングが↑THE HIGH-LOWS↓の「胸がドキドキ」、エンディングがZIGGYの「STEP BY STEP」だった。視聴率は資料値で本放送が13.4パーセント、2015年のリマスター放送が7.4パーセントとされる。各話末のネクストコナンズヒントは、本放送では「狛犬」、リマスター版では「腕時計」が示された。英語版では "Lights, Camera... Murder" の題で2004年6月29日に放送され、国際的な話数では22話目にあたる。

「コマイヌ」という文字が担うもの

ダイイングメッセージものとして、本回の意匠は「読めるはずの文字が違う意味を持つ」点にある。境内の狛犬という情景と重なる「コマイヌ」の四文字は、見る者をまず神社の関係者へと導くが、血文字は書き手の意図だけで成り立つものではない。誰がいつその文字へ触れたかが問いの中心に据えられ、三人の容疑者それぞれへ「動機」「時間」「文字との繋がり」が別々の形で割り振られる構成である。 小道具の扱いもこの回の核だ。安西自慢の腕時計のアラーム音は、昼の撮影現場と夜の旅館で二度鳴る。二度目の音色が、事件の時刻を決めつける役目を果たした。序盤の何気ない音が後の推理の鍵へと変換される作りは、初期シリーズの1話完結回がよく用いる手つきでありながら、犯人当ての先に事件の理由へ踏み込む抒情性までを両立させている。

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血文字の三重構造

コナンが注目したのは、血で書かれた文字の乾き方だった。後から足された画は血が新しく、先に書かれた画は乾いている。「コ」の縦棒と「ヌ」の横棒が、カタカナとして正しく接続していない——後書きの画を取り除くと、メッセージは「コマイヌ」ではなく「ニマイメ」と読める。それは二枚目俳優の那智真吾を指す文字だった。 那智はこの夜、10時半に安西と境内で会う約束をしていた。訪れた時には安西はすでに死んでおり、自分を指す「ニマイメ」の文字を見た那智は、咄嗟に棒を書き足して「コマイヌ」へ変えて逃走したと認める。この逃走する人影こそ、コナンたちが境内から目撃したものだった。コナンは、メッセージを偽装した那智がアリバイ工作を一切していない点から真犯人は別にいると判断し、眠りの小五郎として推理を開陳する。「ニマイメ」さえも完成形ではなかった。被害者の安西が断末魔に書いた本当の文字は「マメ」——豆垣、すなわち豆垣妙子を示すものだった。那智へ罪を着せたい工作側が「ナチ」と書かず「ニマイメ」に留まったのは、すでに書かれていた「マメ」の画を利用するほかなかったためである。

時計と変装で作られた死亡時刻

偽装工作を行ったのは島崎裕二だった。出掛ける妙子の様子を気にしてタバコを買う振りをして神社へ向かった島崎は、安西の遺体と「マメ」の文字を発見し、妙子をかばうために工作を始める。まず遺体の腕から腕時計を外して旅館へ持ち帰り、安西の部屋でアラームを鳴らした。続いて部屋にあった帽子とベストを身に着けて安西に成り済まし、10時に旅館を出る姿をコナンたちに見せたのである。急いで境内へ戻り、遺体の腕に時計を戻し、帽子とベストを傍らに置き、「マメ」へ画を足して「ニマイメ」に書き換えてから旅館へ戻った。同じく安西に強請られていた那智へ罪を着せる目算だった。 決め手は二つあった。安西の左腕は血まみれなのに、腕時計だけに血が付いていない。つまり時計は安西の死後に一度外され、運搬途中の血痕を拭われて戻されたのだ。そして島崎は自ら「俺が殺した」と妙子をかばって名乗り出るが、返り血を浴びたはずの彼の服に一滴の血もなく、着替えと洗い流しの時間が取れたのは妙子だけだった。二度の書き換えを経た血文字は、皮肉にも「コマイヌ」=狛犬=神社という形で、再び真犯人の身近な場所を指す結果となっている。

妙子の告白

妙子は、安西への金の受け渡しの約束だった午後9時半、金の代わりに撮影用のナイフを持って境内へ行き、逆に安西を脅そうとしたと告白する。襲いかかってきた安西ともみ合いになり、その弾みでナイフが突き刺さったという過失の犯行だった。動機は長年の強請りである。高校時代に両親を事故で亡くした妙子は悪い仲間と付き合う時期があり、安西はその仲間の一人だった。かつて米花神社の蔵から高価な祭祀用具が盗まれた事件は安西一味の仕業であり、蔵の管理を任されていた人物が責任を感じて自殺してしまったため、妙子は祖父の久作へ真相を言い出せないままだった。足を洗い真面目に戻った妙子のもとへ、結婚を控えた時期に安西が再び現れ、この過去をネタに強請り続けたのである。妙子は島崎の偽装工作を知らなかったため、旅館の入口で生きた「安西」を見かけて真に取り乱していた。

出典