「小五郎の同窓会殺人事件 前編(デジタルリマスター)」とは

テレビアニメ『名探偵コナン』第27話「小五郎の同窓会殺人事件(前編)」のデジタルリマスター版が、2014年8月16日(土)に読売テレビ・日本テレビ系で放送された。原版は1996年8月5日に放送されたシリーズ初期の一回で、原作漫画の第9巻に収録される同名事件の前半をアニメ化している。翌週8月23日には後編のリマスター版が放送され、二部構成の解決へと続く。舞台は栃木県の温泉旅館「弁慶」。小五郎の大学柔道部の同窓会に集まった旧友たちのひとりが、部屋で拳銃を握ったまま絶命しているのが見つかる。シリーズでも珍しい、小五郎自身が前面に立って事件に挑む二部作の入口である。

原作事件「小五郎の同窓会殺人事件」の公式ビジュアル
「小五郎の同窓会殺人事件」(小学館公式事件データベース掲載の原作ビジュアル)

繁華街の強盗と消えた拳銃

アニメの物語は同窓会の少し前、都内の繁華街から始まる。繁華街を歩いていたコナンと小五郎は、路地へ逃げた犯人を追いかける。拳銃を構えた犯人に対し、コナンはキック力増強シューズで煉瓦を蹴り上げて拳銃を弾き飛ばし、小五郎が取り押さえた。警察が駆けつけるまでのあいだに、路地へ転がったはずの拳銃は何者かの手で持ち去られていた。この一コマが、後の事件の凶器の出所そのものになる。 騒ぎの現場に偶然居合わせたのが、小五郎の米花大学時代の同窓生・堀越由美だった。化粧品会社に勤める三十七歳の由美は、かつて柔道部のマネージャーとして「柔道部のマドンナ」と呼ばれた人物で、今度開かれる同窓会の参加メンバーでもあった。蘭は五年前にも小五郎の同窓会へ同行しており、集合写真に一緒に写るほど部員たちと顔なじみだった。この再会を経て、小五郎はコナンと蘭を連れて同窓会へ向かうことになる。

路地で煉瓦を蹴り上げるコナン——冒頭の銀行強盗場面
強盗の拳銃を弾き飛ばすコナンのキック(第27話冒頭の場面写)

温泉旅館「弁慶」に集まった柔道部の同窓生

数日後、一行は新幹線で栃木県の温泉旅館「弁慶」へ。集まったのは小五郎を含めた六人の同窓生である。由美のほか、千葉県警の刑事となった中道和志(三十八歳)、高校の体育教師となった綾城行雄(三十八歳)とその妻で旧姓木元の紀子(三十七歳)、模型店を経営する大村淳(三十七歳)が顔をそろえた。中道と行雄は柔道部の主将を務めた経歴を持ち、中道は大学三年時に全国大会の個人優勝を果たした実力者、大村は「得点王」と呼ばれた選手だった。小五郎自身も「米花の三四郎」の異名を持つ腕前で、部内では隠れた強豪として知られていた。 昔話に花が咲く中で、学生時代に中道と由美が付き合っていたことが話題に上る。二人はずいぶん前に別れており、中道は半年前にお見合いで知り合った上司の娘との結婚を控えていると打ち明ける。再会を祝う和やかな宴席の裏で、十八年にも及んだ二人の過去が静かに横たわっている。

柔道着姿の旧友と浴衣の由美——同窓会の再会場面
同窓会で再会した柔道部の仲間たち(第27話場面写)

卓球と花火のあいだに

午後三時ごろ、一同は花火大会の六時半まで卓球をして過ごすことにした。ところが由美だけは「疲れたから休む」と部屋へ戻ってしまう。寝起きの悪さは部員のあいだでも有名で、後で部屋へ迎えに行ったときには、中道が「起こすのは止めた方が良い」と忠告するほどだった。 六時を過ぎて卓球を切り上げた一同は、小五郎・コナン・蘭・大村が先に花火大会の会場へ場所取りに向かう。途中で蘭とコナンは由美を起こし忘れたことに気づき旅館へ引き返すが、201号室のドアをノックする。返事はない。風呂で汗を流していた中道、土産物売り場にいた綾城と紀子とも旅館内で顔を合わせた。結局、はぐれた面々を捜す大村の姿だけが行き交い、全員がそろわないまま花火大会は終了する。 戻った一同は宴会場で夕食をとるが、由美だけがついに姿を見せない。部屋へ様子を見に行った一同が見つけたのは、変わり果てた旧友の姿だった。

堀越由美——米花大学柔道部の元マネージャー
堀越由美——化粧品会社員・元柔道部マネージャー(第27話登場人物)

201号室の遺体

由美は死んでいた。側頭部を銃で撃ち抜かれ、右手には数日前の繁華街で消えたその拳銃を握っていた。千葉県警の刑事である中道が絶命を判断して警察を手配するが、到着は遅れると分かり、小五郎と中道が検死を行う。 検死で浮かんだ不審点は多い。由美は下着を付けておらず、浴衣も先ほどまで着ていた小さいサイズではなく大きいサイズに変わっていた。拳銃を握る指は、引き金から外れた形のまま硬直していた。死後硬直の進み具合から小五郎は死後七時間以上——午後三時ごろの死亡——と推定するが、その時間帯は全員が卓球場にそろっていた。何より、至近距離で撃たれたなら頭の傷口の近くにあるはずの火傷の跡がなく、発射ごとに撃鉄が起きるオートマチックの拳銃で撃鉄が落ちていた。つまり、誰かが由美を撃ったあと、自殺に見せかけるため撃鉄を戻した。偽装である。小五郎は誰かが自殺に見せかけて由美を殺害したと推理し、犯人はこの旅館にいる自分たちのグループの中にいる可能性が高いと結論づける。前編はここで幕を閉じる。

側頭部から血を流して発見された堀越由美
201号室で発見された由美(デジタルリマスター版の場面写)

放送記録とリマスター版の演出

デジタルリマスター版の前編は2014年8月16日(土)に放送され、世帯視聴率は8.9%を記録した。翌週8月23日には後編(8.7%)が続く。シリーズの放送枠を使ったリマスター放送であり、原版第27話は十八年前の1996年8月5日(月)に放送されて13.4%、後編の第28話は8月12日に12.6%を記録していた。国際版の話数では前編が第28話に相当する。 リマスター版ではオープニングがKNOCK OUT MONKEYの「Greed」(OP38)、エンディングが倉木麻衣の「無敵なハート」(ED48)に差し替えられた。原版では↑THE HIGH-LOWS↓の「胸がドキドキ」(OP1)とheathの「迷宮のラヴァーズ」(ED2)で、第27話は「迷宮のラヴァーズ」が初めて使われた回でもある。リマスター独自の要素として、オープニングモノローグは「太陽ギラギラ、暑さに負けず、粋でイナセな推理ショー!」と夏向けに書き換えられ、放送末尾のNext Conan's Hintは原版の「弁慶」から「卓球」へ変更された。エンディング後のミニシアターには本篇に登場しない光彦・灰原も加わり、蘭と温泉へ入ったことをコナンが問い詰められるやり取りが新たに収録されている。一方で原版からは複数の場面がカットされており、繁華街で拾い上げた拳銃が本物かどうかをコナンが検討するくだりや、宴席の雑談の一部が省かれている。

スタッフと声の出演

制作は脚本・柏原寛司、絵コンテ・こだま兼嗣、演出・松園公、作画監督・高谷浩利の布陣で、監督はこだま兼嗣、キャラクターデザインは須藤昌朋、プロップデザインは森木靖泰、美術設定は光元博行が務めた。声の出演は高山みなみ(コナン)、山崎和佳奈(蘭)、神谷明(小五郎)のレギュラー陣に、ゲストとして宮寺智子(堀越由美)、玄田哲章(中道和志)、山路和弘(綾城行雄)、北川真由美(綾城紀子)、土師孝也(大村淳)、円谷文彦(旅館の主人)、崎田美也(仲居)、千葉一伸(警官)、高木渉(強盗)が名を連ねる。本篇部分は1996年収録の音声がそのまま使われており、神谷明が演じる小五郎の声もそのまま収められている。

原作との対応とアニメ独自の展開

原作は第9巻のFile.4「小五郎の同窓会」からFile.6「弁慶の仁王立ち」までの三本で、小学館の公式事件データベースでは事件番号23「小五郎の同窓会殺人事件」として整理される。週刊少年サンデーでは1995年10月に掲載され、三本のFileが二本の放送話へ収まる「3改2」の構成である。 漫画は旅館の同窓会の場面から始まるため、アニメ冒頭の銀行強盗と拳銃紛失、由美との再会、新幹線車内の会話はすべてアニメが追加した導入である。この改変により、遺体のそばにあった拳銃の出所が視聴者へ先に示され、犯行が偶発的なものではないことが前編のうちから匂わせる構成となった。旅館名「弁慶」を示したあとに廊下の弁慶像を映す演出もアニメ側の追加で、後編の推理へつながる視覚的な仕掛けになっている。

幾本もの矢を受けて立ち往生する武蔵坊弁慶の像
旅館の廊下に置かれた弁慶の仁王立ち像(第27話場面写)

この回の位置づけ

第27・28話は、シリーズで初めて現職の警察官が犯人側に立つ事件であり、かつコナンが「眠りの小五郎」を作らない回として知られる。真相にたどり着いたコナンは、親友の中に犯人がいると怒りを燃やす小五郎へ麻酔銃を向けかけて思いとどまり、遠回しなヒントを渡して小五郎自身に解決を委ねる。探偵役の座を本人へ返すこの選択が、普段は頼りない小五郎の別の顔を見せる名回の土台になった。 小五郎が柔道で「米花の三四郎」と呼ばれながら試合では一度も勝てなかった理由——本番に極端に弱いこと——は、事件から三日後のエピローグで蘭がコナンへ明かす小さな落ちにもなっている。1996年放送の原作忠実な二部作が、2014年のリマスターで再び地上波へ載ったことで、初期コナンの空気を新しい映像質で振り返れる回でもある。

コナンと、影のように描かれた同窓生たちの顔
事件に直面するコナンと同窓生たち(第27話場面写)
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犯人と花火の音に消えた銃声

後編で明かされる犯人は、千葉県警の刑事・中道和志である。中道は全員が花火へ出た隙に由美と卓球をし、その直後の午後六時半ごろ——打ち上げ花火の音で銃声を消しながら——201号室で由美の頭部を撃った。凶器は、繁華街の現場から消えたあの銀行強盗の拳銃だった。スミス&ウェッソンM439である。 死亡推定時刻の偽装は、この事件の核である。激しい運動の直後に死んだ人間は筋肉中のエネルギーが尽きており、死後硬直が通常より早く進む。由美が卓球をした直後に殺されたため、発見時の遺体は実際より約三時間半も前——午後三時——に死んだように見えた。その時刻には全員が卓球場にいたため、誰にも犯行が不可能に見えた。ところが硬直は、由美が最後に握っていたシェークハンドのラケットの形——人差し指を伸ばした形——のまま進み、犯人が後から拳銃を握らせても指を引き金へ回せなかった。傷口に火傷がないこと、撃鉄が下りていたことと合わせて、自殺の偽装が暴かれた。検死で小五郎が気づいたこれらの違和感が、時刻偽装の崩れる起点になる。

動機——十八年の腐れ縁

動機は十八年間の腐れ縁だった。学生時代から付き合い続けた中道の求婚を由美は退け続け、中道が見合い相手との結婚を決めると、由美は二人の写真を婚約者へ送ると脅して関係を引きずった。二人は同窓会で写真を清算する約束を交わしており、中道は由美の鞄から写真を取り返したうえで犯行に及んだ。大村がトイレへ行く途中で見た「死んだはずの由美」の姿——実際には推定時刻より後まで生きていた由美本人——も、偽装された死亡時刻を崩す証言になった。

小五郎自身の推理と制圧

コナンは麻酔銃を使わず、廊下の弁慶像——幾本もの矢を受けて立ったまま果てた武蔵坊弁慶——を匂わせるなどして小五郎を導いた。「どんな理由があろうと、殺人者の気持ちなんて分かりたくねえよ」と腹を括った小五郎は、自らの口で真相を語り、逆上して襲いかかる中道を柔道の投げで制した。学生時代と同じ力で組み伏せられ、「相変わらず強いな」と言う中道へ、小五郎は「おまえが弱くなったんだ」と返す。強さを失ったのは腕ではなく、友人を騙し続けた中道の方だという返しが、同窓会で始まり同窓会で終わるこの事件の締めになっている。

出典