「雪山山荘殺人事件[デジタルリマスター版]」とは
「雪山山荘殺人事件[デジタルリマスター版]」は、テレビアニメ『名探偵コナン』第46話「雪山山荘殺人事件」(1997年2月3日放送)をデジタルリマスター化して再放送した回で、2013年12月28日(土)に読売テレビ・日本テレビ系のレギュラー放送枠で放送された。吹雪に閉ざされた山荘で医学部教授が殺され、被害者自身が死の間際に残した将棋の盤面を模したダイイングメッセージをコナンが読み解く、原作第10・11巻に対応する1話完結の事件である。
どの放送の記事か
この記事が対象とするのは、1997年放送の第46話をデジタルリマスター化し、2013年12月28日(土)18時台のレギュラー枠で流した再放送である。読売テレビは公式事件ファイルで元の第46話とは別に専用ページを立て、題名に「[デジタルリマスター版]」を添えて一つの放送として登録している。再放送なので通し話数は割り当てられず、公式の放送データでも話数の欄は空のままだ。 元の第46話は1997年2月3日(月)の放送で、直前が第45話「顔パック殺人事件」、1週後の2月10日が第47話「スポーツクラブ殺人事件」という、シリーズ2年目の最初期にあった回である。それから16年と11か月近くが経った。2013年の年末枠では、前週12月21日に第723話「甘く冷たい宅配便(後編)」、翌週2014年1月4日に第724話「怪盗キッドと赤面の人魚(ブラッシュマーメイド)(前編)」が控える谷間へ、このリマスターが差し込まれた。公式の放送記録では12月28日の次に並ぶ通常回が年明けの第724話であり、このリマスター版が2013年最後の『名探偵コナン』放送になった。 なお読売テレビの公式ページでは、初放送の第46話には1段落の短いあらすじが、リマスター版には登場人物の名前や時刻を含む4段落の詳しいあらすじが掲載されている。事件の輪郭をたどる上ではリマスター版のページの方が詳細で、本記事のあらすじ記述もこの公式記述を軸にする。
福引きの宿泊券と失われた鍵
物語は、コナンが福引きで当てた別荘の宿泊券から始まる。蘭と小五郎を連れて雪山の貸別荘へやってくるが、小五郎が別荘の鍵を失くしてしまった。辺りに電話ボックスはなく、周囲の別荘はすべて建築中で人気もない。三人は途方に暮れる。そこへ車で通りかかったのが、東都大学医学部第一外科教授の大山将(53歳)だった。 大山は新聞で小五郎の推理を読むのを楽しみにしているほどの大ファンで、「名探偵の毛利小五郎」だと気づくと、近くにある自分の別荘へ三人を案内する。玄関では獅子を模したドア飾りを小五郎が褒めるが、大山は「ウマが欲しかったが、そう上手くはいかんか」と意味ありげな言葉を残して中へ入る。この一言は、後のダイイングメッセージを解く伏線になっている。 別荘では、大山の教室に属する医師たちが鍋を囲んでいた。助教授の金澤智康(48歳)、助手の中原香織(30歳)、飛田銀二(31歳)、江角果歩(30歳)の四人である。食事中の話題は、先日大山が発表した「大腸がんに対する遺伝子治療の開発」という論文に集中する。学部中がこの論文の話で持ち切りだという大山の名声が、教室員たちから繰り返し語られる。

午後9時の空白
食後、酒のつまみが尽きかけたため、中原香織が麓のコンビニへ買い出しに行くことになった。店は10時前に閉まるため、各人は欲しいものをメモに書いて彼女へ渡す。午後8時58分、大山はハマっているメロドラマ「愛こそすべて」を見るため一人で別室の居間へ移った。飛田は11時ごろ戻ると言ってナイタースキーへ出かけ、金澤は風呂へ入ると部屋を出る。小五郎は酔い潰れて眠り、江角は蘭とコナンと一緒に食器を洗ったあと、生ゴミを外へ出しに行く。江角の提案でコナンたちは別荘へ泊まることになった。 9時50分。買い物袋を抱えた中原が戻り、続いて飛田も帰ってきた。ナイターは途中で吹雪いてきたため切り上げたという。中原は、頼まれた品のうちサラダとアイスクリームが売り切れだったと報告する。風呂上がりの金澤も戻り、宴の席は再びにぎやかになる。だが大山の姿だけがない。ドラマは10時に終わっているはずで、コナンは録画を見直す習慣のある大山をいったんは気に留めないが、11時5分になっても戻らないことに改めて不審を抱く。様子を見に行った中原が大きな悲鳴を上げる。
正座した遺体
居間で大山は、縄で体を縛られ猿ぐつわを咬まされ、背中に包丁が突き立った血まみれの姿で、正座した状態のまま絶命していた。傍のテーブルの横には、血痕のついた格子模様のテーブルクロスが落ちている。テレビの隣の戸棚には金庫があり、こじ開けようとした無数の傷が残る。窓ガラスは割られ、割る音を消すためのガムテープが貼られ、窓の外には足跡が一直線に伸びていた。 小五郎は金庫目当ての強盗の犯行と推理するが、コナンは二つの点で違和感を覚える。大山の腕には高価な金時計が残ったままで、金目当てなら見逃すはずがない。さらに窓外の足跡は、中をうかがう様子もなく迷わず一直線に部屋へ入っている。犯人は大山がその時間一人でテレビを見ていることを知っていた。つまり犯行は、中原、金澤、飛田、江角の四人のいずれかによるものと、コナンはそれとなく小五郎に教える。 吹雪のため警察は当分来られず、医師である教室員たちが遺体を検死する。判明したのは、死亡推定時刻が午後9時台、直接の死因が肺に達した二つの刺し傷による窒息死という厳しい内容だった。大山は刺されてから十数分、意識を保ったまま苦しんでいた。その空白こそが、被害者に犯人を示す手がかりを残す余地を与えた。テーブルクロスは血のついた縄の跡だらけで、テーブル上の血痕は布があった場所で不自然に途切れている。コナンは大山がダイイングメッセージを残そうとしたと推理し、ソファの隅に血痕のついたライターがあるのにソファ自体に血がないことにも気づく。四人のアリバイを確認した後、コナンはライターをテーブルクロスの血痕が途切れた位置へ置き、血痕がぴったり一致するのを確かめて謎を解く。小五郎へ腕時計型麻酔銃が発射され、眠りの小五郎の推理ショーが始まる。
主な登場人物
被害者の大山将(声:藤本譲)は、東都大学医学部第一外科の教授で医師でもある。遺伝子治療の論文で注目を集める著名人でありながら、小五郎の新聞記事を愛読する気さくな面も描かれる。事件の場となる別荘の主人であり、正座して息絶えた被害者の姿そのものが、本件最大の手がかりになる。 大山教室の四人は、助教授の金澤智康(声:篠原大作)、助手の飛田銀二(声:遊佐浩二)、中原香織(声:山田栄子)、江角果歩(声:石塚久美子)である。それぞれ入浴・ナイタースキー・買い出し・片付けと、死亡推定時刻の前後に別々の行動をとっていた。劇中ドラマ「愛こそすべて」に出演するテレビの女・光江(声:岩井由希子)と男・勉(声:高木渉)も声の出演として名を連ねる。レギュラー側はコナン(声:高山みなみ)、蘭(声:山崎和佳奈)、小五郎(声:神谷明)の三人で、吹雪で孤立した別荘の中でコナンが捜査を仕切る構成だ。

原作の三Fileを一話に収める
原作では、小学館の事件番号27にあたる本事件は第10巻File9「吹雪が呼んだ惨劇」、File10「最後の言葉」、第11巻File1「話すテーブルクロス」の三話にまたがる。第10巻の末尾で発端と現場の謎を提示し、解決を次巻冒頭へ送る巻またぎの構成だった。アニメ版はこの三Fileを第46話の一度の放送へ圧縮し、別荘への到着から遺体発見、推理披露までを同じ夜の連続した出来事として見せる。解決Fileの題名は「話すテーブルクロス」。布に残った血痕が、被害者の声の代わりを務める事件だ。
スタッフ・キャスト・放送記録
スタッフは監督こだま兼嗣、構成・絵コンテ・演出を松浦錠平が一人で兼ね、作画監督は青野厚司、キャラクターデザインは須藤昌朋である。原作回のため脚本のクレジットはない。初放送当時のオープニングはVELVET GARDEN「Feel Your Heart」、エンディングはheath「迷宮のラヴァーズ」だった。リマスターが流れた2013年末のレギュラー枠では、前後の通常回と同じくオープニングがVALSHE「Butterfly Core」、エンディングがDAIGO「いま逢いたくて…」の時期にあたる。視聴率の資料値は、初放送で18.0パーセント、リマスターで7.4パーセントと記録されている。英語版は "A Game of Murder" として2004年8月11日に放送され、海外版の通し話数では47番目にあたる。DVD収録は「PART2 Vol.5」である。 ネクストコナンズヒントの扱いにも差がある。本回を示すヒントとして、初放送では「将棋」が、リマスター版では「テーブルクロス」が記録されている。いずれも本編のダイイングメッセージに直結する品で、リマスターでは事件の中核を示す布が選ばれた形だ。なお初回放送で第46話の末尾に示された次回へのヒントは「キャップ」で、翌週の「スポーツクラブ殺人事件」へつながっていた。
将棋が犯人を指す構造
本件のダイイングメッセージは、コナンシリーズの中でも将棋と結びついた仕掛けとして知られている。2023年6月にサンデーうぇぶりで公開された青山剛昌と棋士・羽生善治の対談『羽生先生が選ぶ「将棋×コナン」名エピソード』では、羽生が「盤の隅に香車が置いてあって、そのダイイングメッセージで犯人がわかる」話を挙げ、青山が「雪山山荘殺人事件」と答えている。羽生は将棋の世界に「自分の一手を指す前に香車の位置を確認しなさい」という戒めがあり、四隅の香車を見ることで盤面全体を一度見渡す習慣を本事件に重ねて語った。作者の名前に駒の字を仕込む設計は、当時の読者にも分かりやすい暗号として機能している。
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消されたメッセージ
犯人は助手の中原香織である。彼女は昼間に鍋の食材を買いに行った際、あらゆる種類のつまみをあらかじめ大量に買い込んでいた。犯行前にみんなの注文を書き取って車で出かける振りをし、途中に車を停めて注文の品を取り出す。買い物に往復四十分以上かかる麓のコンビニへ行ったように見せかけ、その間に別室の大山を殺害した。 綻びは二つあった。小五郎に買い物の合計金額を聞かれて答えられなかったこと、そして売り切れだと説明したアイスクリームである。香織はアイスまで予想して買い込んでいたが、犯行に向かう直前に亡き父のことを思い出して車内でぼんやりし、ヒーターの熱で溶かしてしまった。証拠隠滅ではなく、涼しい顔で「売り切れだった」と処理した品が、偽装の完成度をかえって削った。
香車が指す名
大山のダイイングメッセージは、格子柄のテーブルクロスを将棋盤に見立てたものだった。現場にいた五人の名前には将棋の駒を示す字が含まれる。大山将の「将」は王将、金澤智康の「金」は金将、飛田銀二には飛車の「飛」と銀将の「銀」、江角果歩には角行の「角」と歩兵の「歩」、そして中原香織の「香」は香車を指す。大山が到着時に漏らした「ウマが欲しかった」は、桂馬の「馬」だけが欠けていることへの言及だった。 血痕が途切れた位置へライターを戻すと、盤の隅にある香車の初期配置にあたる。つまり大山は、文字を書かずに中原香織の名を残した。さらに決定的なのは、香織自身がメッセージを消そうとした点だ。第一発見者として悲鳴を上げた後、テーブルクロスを払いのけ、ライターをソファへ移した。ソファに血がない以上、ライターが動かされたのは血が乾ききった後だ。被害者の指示が犯人を名指しし、犯人がそれを消した痕跡が指示の正しさを補強する二重の構図になった。
六年を奪われた論文
動機は、香織が六年をかけて完成させた論文「大腸がんに関する遺伝子治療の開発」を、大山が自分の名で発表したことだった。香織は幼い頃に父を大腸がんで亡くしており、父のような患者を出さないために医師となり、情熱の全てを注いだ成果だった。大山は「今更この論文が君のものと言っても誰も信じやせん」「教授のわしが発表した方が世間の注目度は上がる。その方が死んだ父上も喜ぶ」と笑い飛ばしたという。香織は大山を父親のように慕っていたからこそ、その裏切りを許せず、肺に穴をあける最も苦しむ殺し方を選んだ。 エピローグでは、探偵事務所でコナンと小五郎が将棋を指している。コナンは駒の並びで「バカ」の二文字を作り、気づいた小五郎が盤をひっくり返す。本編で被害者が残した盤面の暗号を、結末では子供の悪戯へ転がす締めとなった。
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