「謹賀新年 毛利小五郎」とは
「謹賀新年 毛利小五郎」は、テレビアニメ『名探偵コナン』の正月特別番組として2015年1月3日(土)18時に読売テレビ・日本テレビ系で放送された番外編である。レギュラーの通し話数には数えられない特別編で、構成は二本立てだ。スマートフォン向け放送局「NOTTV」で2014年4月に配信された短編アニメ「逃亡者・毛利小五郎」——原作漫画第57巻File.8(総File.594)のアニメ化——に、少年探偵団の正月を描くアニメオリジナルの新作部分と新年の挨拶を加えている。殺人事件も推理合戦も登場せず、謎の五人組に追われる毛利小五郎が都内を逃げ回る一日を描く、正月らしい喜劇である。
番組の構成
本放送は大きく二つの部分からなる。前半は「逃亡者・毛利小五郎」で、劇場版第18作『異次元の狙撃手』(2014年4月19日公開)の公開を記念して制作され、同年4月23日19時30分からNOTTV1で配信された作品の地上波初公開である。原作1話の映像化でありながら通常放送の話数に入らなかった「幻のお話」が、ここでようやくテレビ放映された。 後半は今回のために書き起こされたアニメオリジナルの正月パートで、少年探偵団が昔ながらの正月遊びに興じる様子と、視聴者への新年挨拶が収められている。この追加部分は、1月24日・31日に放送予定だった「堤無津川凧揚げ事件」(第765・766話)の伏線となる内容だ。番組の尺については資料によって約21分(ConanWiki)と25分(アニ図鑑・MyAnimeList)の表記があり、通常の30分放送枠に収まる単発番組である。

小五郎の逃走劇
読売テレビ公式のあらすじが記す通り、物語は正月の昼間に始まる。サングラスで変装した小五郎が、人目を避けるように喫茶「ポアロ」へ入ってくる。この日の小五郎は「厄介な奴ら」に追われていた。ウェイトレスの梓に居ることを伏せてほしいと頼むが、窓の外に追っ手の影が浮かび、小五郎は咄嗟にトイレへ逃げ込む。ところが梓は追っ手に尋ねられると、思わず「毛利さんなら今トイレに」と口走ってしまう。 小五郎はトイレの窓から外へ逃げ、次の隠れ場所を探す。選んだのは競馬場だった。「木の葉を隠すなら森の中」という考えで人混みに紛れる算段だったが、場内に「米花町からお越しの毛利小五郎様、5番ゲートまでお越し下さい」という呼び出しアナウンスが流れる。追っ手はすでに競馬場まで来ていた。呼び出しを無視しても周囲の客に「眠りの小五郎」だと気づかれてしまい、小五郎は逃げるように競馬場を後にする。 小五郎がこの日の深夜0時まで逃げ切ればよいという時間制限は、ここで明かされる。友人に電話して麻雀を持ちかけるが、その友人にはすでに追っ手から連絡が入っており、小五郎と会ったら教えてほしいと頼まれていた。慌てて電話を切った小五郎は、追っ手も知らない自分だけの隠れ家——最近見つけたカフェ「ラウル」へ向かう。ところがそこへ蘭と英理がやってくる。コナンが小五郎の机から店のマッチを見つけ、蘭に教えてしまっていたのだ。小五郎は二人に気づかれないうちに、そそくさと店を出る。

映画館前の生中継と独り語りの演出
運転中に沖野ヨーコの主演映画のポスターを見つけ、小五郎は映画館に入る。上映中は暗闇、休憩中はトイレに隠れれば0時までやり過ごせるという計算だった。しかし日売テレビの女子アナウンサーが劇場前で取材を始め、あっさり小五郎を見つけてしまう。追っ手の五人は街頭テレビに流れた生中継を見ていた。映画を諦めた小五郎は、追っ手が来る可能性が極めて低い場所を思いつき、そこへ向かう——というところで公式あらすじは終わる。 本作の特徴は、小学館の公式事件データベースが指摘する「小五郎の独り語りで進む珍しい演出」にある。登場人物の会話劇ではなく、逃げ回る小五郎の独白が物語を引っ張る形式で、『名探偵コナン』では異色の作りである。

少年探偵団の正月と新年の挨拶
新作部分はエピローグとして描かれる。元太、歩美、光彦が羽根つきに興じ、コナンと哀は少し離れた場所からその様子を静観する。そこへスマートフォンに「松が明けるまでに、正月遊びを遊びつくせ! さすれば、最高のプレゼントが待っている! 謎の正月仮面より」というメールが届く。続けて元太たちは竹馬、お手玉、独楽といった正月遊びに挑んでいく。ドイツ語版ConanWikiの記述では、かるたやすごろく、仮面ヤイバーのカード、だるま、福笑いも登場し、小五郎と蘭も遊びに加わって腕前を披露する。 番組の最後は新年の挨拶で締めくくられる。コナンと蘭が、シリーズ20周年を共に過ごした視聴者への謝辞を述べ、哀がサンタ帽姿で大人の視聴者へ向けた挨拶を添える。舞台裏には服部平次と遠山和葉の姿もある。挨拶部分の総作画監督は須藤昌朋が務めた。
放送・配信の記録
母体となった「逃亡者・毛利小五郎」は、2014年4月23日19時30分からNOTTV1で配信された。NOTTVはドコモの特定機種向けの放送局で、よみうりテレビ・日本テレビ系列では見られない作品だった。この特殊な出自のため、コワレ処名探偵コナン支部は、NOTTV版「逃亡者・毛利小五郎」も、地上波版「謹賀新年 毛利小五郎」も、本放送の話数には数えられていないと記録している。 地上波での放送は2015年1月3日(土)18時からで、レギュラー放送枠を使った特別番組である。2週前の2014年12月20日は「顔パック殺人事件」のデジタルリマスター、翌週1月10日は第763話「コナンと平次 恋の暗号(前編)」が放送された。アニメージュもこの回を話数の通しナンバーに含めず、第763話を1月10日放送回に割り振っている。Wikipediaの放送リストは本番組を「番外編」と表記し、収録DVDは「PART24 Vol.7」となっている。英語版Detective Conan Wikiは世帯視聴率7.8%を記録している。 オープニングとエンディングは母体版から差し替えられた。nconanの記録では、テレビ放送のオープニングは倉木麻衣「DYNAMITE」、エンディングはVALSHE「君への嘘」。NOTTV版はオープニングがVALSHE「Butterfly Core」、エンディングがDAIGO「いま逢いたくて…」だった。放送末尾の次回ヒントは「路線記号」(nconan)で、次回放送の「恋の暗号」に向く。なお英語版は新年挨拶部分のヒントを「the first seven days of the year」と記しており、資料間で表現が異なる。エンディング後の小劇場では、歩美の「お正月は?」に光彦が「お節にお餅!」、元太が「そしてうな重!」と続き、コナンが「オレ、カレー」と返して締める一幕が添えられた。
スタッフとキャスト
追加シーンがあるため、クレジットは原作部分の「構成」に加えて「脚本」も置かれる形になった。脚本は宮下隼一、構成・絵コンテ・演出は鎌仲史陽が兼ねる。新年の挨拶と総作画監督は須藤昌朋、作画監督は大友健一、作画監督協力に岩井伸之と永野美春。監督は山本泰一郎(Detective Conan Wiki)。原作1話の映像化ながら脚本クレジットが置かれた例外的な回として、Wikipediaの脚注にも名を連ねる。 キャストは、高山みなみ(江戸川コナン)、山崎和佳奈(毛利蘭)、小山力也(毛利小五郎)、高島雅羅(妃英理)、岩居由希子(吉田歩美)、高木渉(小嶋元太)、大谷育江(円谷光彦)、林原めぐみ(灰原哀)、緒方賢一(阿笠博士)、榎本充希子(榎本梓)。脇を固めるのは、津久井教生(小五郎の友人)、原彩友里(アナウンス、コワレ処の表記。nconanは「原紗友里」と記す)、三宅貴大(男)である。
麻雀仲間の庵野と世良真純のカメオ出演
「小五郎の友人」としてクレジットされるのは庵野——小五郎の麻雀仲間で、ミニチュアダックスの「アイナ」を飼い、水無怜奈の熱心なファンという設定の人物だ。File.585から586の詐欺請求事件(アニメ第491話)で初登場した脇役で、Detective Conan Wikiは「本特番が57巻の残りより数年遅れて放送されたため『小五郎の麻雀仲間』とクレジットされた」と注記する。名前は「アナウンサー」にちなむとされる。 アニメ版独自の要素として、世良真純が声の出演なしのカメオ出演をする。日売テレビの中継を見ている場面に紛れており、原作File.594が掲載された2007年の時点では原作にまだ登場していない人物を、スタッフが仕込んだ形である(nconanは「探してみてください」と促す)。劇中の新年遊びには仮面ヤイバーとゴメラのカードも登場する。
原作File.594「逃亡者」との対応
原作は週刊少年サンデー2007年7号(2007年1月17日発売、ConanWiki)に掲載されたFile.594「逃亡者」で、第57巻File.8にあたる。57巻は2007年4月5日発売、ISBN 9784091211101、192頁(小学館書籍データ)。小学館の公式事件データベースでは事件番号173「逃亡者」として登録され、場所は喫茶ポアロ/競馬場/フレンチカフェ/映画館/阿笠博士の家、ゲストキャラに庵野が挙がる。公式データベースのあらすじは「執拗な追っ手の影から自分の身を隠すべく、競馬場、友人宅、フレンチカフェ、映画館などを転々と逃げ回る小五郎。でも、追いかけてきている奴らというのは一体誰?」と引きを作り、「1話完結シリーズ」と銘打つ。

唯一のTVスペシャルと原作との差異
Detective Conan Wikiは本特番を「漫画の1話を映像化した唯一のTVスペシャル」と位置づける。原作掲載から7年余りを経て映像化された理由としてnconanは、正月以外では放送しにくい内容であること、1話完結では尺が余ることを挙げる。正月特番としての再放送価値と、凧揚げ事件への橋渡しが、2015年の正月番組枠に「幻のお話」を呼んだ格好だ。 原作との差異は、世良真純のカメオ出演、少年探偵団の正月遊びと「堤無津川凧揚げ事件」へつながる布石、視聴者挨拶、主題歌の差し替えなど、アニメ側の追加に集中する。ドイツ語版のあらすじが伝える通り、逃走劇の骨格——ポアロ、競馬場、麻雀仲間への電話、カフェ・ラウル、映画館——は原作と共通である。

犯人・トリック・動機などのネタバレを表示
追っ手の正体と結末
小五郎がたどり着いた「追っ手が来る可能性が極めて低い場所」とは、一度目を付けられた喫茶ポアロだった。二度同じ場所へ戻るとは思われないだろうという読みである。しかし店内では五人の追っ手——コナン、元太、歩美、光彦、哀の少年探偵団——がすでに小五郎を待ち構えていた。 追いかけていた理由は、小五郎が前年に約束したお年玉である。子供たちは小五郎の行動をあらかじめ読み、手を打っていた。コナンは小五郎の嗜好を把握しており、カフェ「ラウル」へは蘭と英理を送り込んで確かめさせ、麻雀仲間の庵野の家にも先回りして連絡を入れていた。ポアロへの逆戻りまで読み切られていた小五郎は観念し、梓の助けもあってお年玉を支払う。 ただしコナンと哀はお年玉を辞退する。博士のもとへ行けばもっと多くもらえると踏んだコナンだったが、阿笠博士から渡されたのは500円だけで、「一年生には妥当な額」と哀に評されるオチで逃走劇は幕を閉じる。
「謎の正月仮面」と凧揚げ大会
エピローグの「謎の正月仮面」について、劇中で正体は明言されない。コナンたちはおおよその見当をつけていたとされるが、その直後の展開——阿笠博士が探偵団一同を凧揚げ大会へ申し込んでいたことがメールで判明する——が、正月遊びを仕組んだ人物の行方を示唆する形になっている。この凧揚げ大会は同月24日・31日放送の「堤無津川凧揚げ事件」へそのまま接続する布石であり、正月特番がレギュラー放送の前振りも兼ねていたことが分かる。
