「偽りだらけの依頼人(後編)(デジタルリマスター)」とは

テレビアニメ『名探偵コナン』の「偽りだらけの依頼人(後編)(デジタルリマスター)」は、2017年4月8日(土)に読売テレビ・日本テレビ系で放送されたエピソードである。元になったのは2001年1月22日(月)放送の第221話「偽りだらけの依頼人(後編)」で、和服姿の依頼人・池波静華の人探しから始まった殺人事件の解決編にあたる。読売テレビの公式記録では、このリマスター放送は話数を持たない再放送として扱われ、前編のリマスターは1週間前の2017年4月1日に放送されていた。原作は第28巻のFile.3からFile.5(File.276-278)で、英語版Wikiの記録では事件No.79に対応する。

被害者・柴田四朗
被害者・柴田四朗——高校の体育教師で剣道の大会に出場していた

依頼人の人探し——30年前の写真

依頼人の池波静華は、中学時代の同級生で同じ剣道部だった柴田四朗を捜してほしいと、毛利小五郎に依頼した。手がかりは優勝カップを手にした30年前の柴田の写真である。静華の話では、自分が大会で準優勝した時の写真を柴田に返してもらいたいといい、30年前に柴田から借りた本へその写真を挟んだまま返してしまったのだという。コナンは柴田が今もどこかの剣道大会に出場している可能性を読み、調べた小五郎は柴田が静岡大会に出場することを突き止めた。柴田は高校の体育教師で、妻とマンションに暮らしていた。

静華と並ぶコナン(前編の場面)
依頼人・静華とコナン(読売テレビ公式・リマスター前編ストーリーイメージ)

応答のない部屋——柴田四朗の遺体

柴田の部屋を訪ねた一行は、呼び鈴に応答がない中、麻雀の約束をしたという友人の吉川竹造と鉢合わせる。開いた室内はテレビが点きっぱなしで、食事も食べかけのまま残っていた。そこへゴルフバッグを持った妻の恭子が帰宅し、続いて吉川の叫び声が上がる。リビングには、頭から血を流して絶命した柴田の姿があった。静岡県警の横溝参悟刑事が捜査を始め、死亡推定時刻は明け方から朝にかけてとされた。

柴田恭子——被害者の妻
柴田恭子——被害者の妻で、事件当日はゴルフに出かけていた

犯行時刻の特定——朝8時から8時45分

捜査は犯行時刻の特定から進んだ。ゴルフの約束があった恭子は、柴田の朝食の準備をして朝5時に家を出たと証言する。柴田は同じマンションの吉川の部屋で麻雀をして、深夜3時頃に帰宅していた。食卓には朝6時頃に配達される朝刊があり、台所のビデオデッキでは朝8時から放送される時代劇が録りっぱなしになっていた。横溝は、柴田が起床後に朝刊を取り込み、朝食を食べている時に何者かに撲殺されたと推理し、部屋の状況と証言を踏まえて殺害時刻を朝8時から8時45分の間と見た。恭子をゴルフへ送り届けた友人によれば、迎えは朝5時、送り届けは午後7時過ぎ——小五郎たちが部屋を訪れた時刻とほぼ同じだった。この時間設定では恭子の犯行は不可能になる。残る吉川は「朝8時は家で寝ていた」と証言するが、それを証明できる者はいなかった。 前編の終盤では、柴田の右手が静華の写真を握っていること——横溝はこれをダイイングメッセージと考えた——、遺体の下に静華が30年前に借りた本があること、一昨日に柴田が電話のあと本棚から一冊を抜いて笑っていたという証言、そして廊下の血痕——犯行現場が廊下だったという新事実までが明らかになっている。

後編——非常階段の木刀と、静華への容疑

後編の捜査は、玄関の横の非常階段で発見された、凶器と思われる血まみれの木刀から動き出す。それは訪問販売を撃退するために柴田が下駄箱の上に置いていた木刀だと、恭子は証言した。朝8時から8時45分という犯行時刻の見立てでは、ゴルフで不在だった恭子に犯行は不可能で、「家で寝ていた」という吉川の証言を証明できる者もいないままだった。 横溝が続いて確かめたのは、自宅の電話である。恭子の答えで、電話はリビングと寝室の二つと判明する。それを聞いた横溝は、犯人は静華だと言い放った。静華が前もって電話で写真の所在を確かめ、取り戻すために当日の朝に部屋を訪れたという筋書きである。

写真を握る右手と、血の付かないバンテージ

横溝の推理では、静華が写真をめぐる口論の末に木刀で柴田を殴りかかり、静華が去ったあとも生きていた柴田はリビングの電話へ助けを求めて床を這い、力及ばず目に留まった写真を最後の力で握りしめて息絶えたことになる。写真に殺害の動機へつながる秘密があるとにらんだ横溝は、静華に警察署への任意同行を求めた。 しかし静華は、警察署への任意同行をきっぱりと拒否した。事情聴取をしたいのなら、裁判所が逮捕状を発布したあとにしてほしいと主張する。法律に詳しい静華はただ者ではないと、コナンは察した。静華がこれまでにいくつかの嘘をついていることにも、コナンは気づいている。 転機は鑑識の発見だった。柴田の左手は血まみれになっていたが、薬指と小指に巻かれたバンテージにだけは血が付着していない。流れた血のあとから巻かれたとしか考えられない不揃いさである。コナンは何かに気づき、柴田の右手のひらを確認する。そこには、写真ではない何かをしっかりと握りしめた跡が残っていた。静華、恭子、吉川——三人のうちの誰が犯人かを見破ったコナンは、小五郎に麻酔銃を発射し、眠りの小五郎の推理ショーが幕を開ける。

書棚の前に立つコナンと蘭(初放送・第221話の場面)
書棚の前のコナンと蘭(読売テレビ公式・第221話ストーリーイメージ)

主な登場人物

池波静華(いけなみ・しずか、42歳)は、和服姿の依頼人である。柴田の中学時代の同級生で剣道部の仲間だと名乗るが、コナンはその言動に複数の嘘を見抜いている。警察の任意同行を法律知識で退ける胆力の持ち主であり、声は勝生真沙子が担当した。本事件が初登場の人物である。 被害者の柴田四朗(しばた・しろう、42歳)は高校の体育教師で、現在も剣道の大会に出場している。吉川竹造(よしかわ・たけぞう、47歳)は同じマンションに住む友人で、麻雀仲間であり、遺体の第一発見者の一人となった。柴田恭子(しばた・きょうこ、38歳)は被害者の妻で、事件当日は早朝からゴルフに出かけていた。恭子役は松岡洋子、吉川役は大山高男である。捜査を仕切る横溝参悟(声:大塚明夫)は、静岡県警の刑事として静華に容疑をかける。終盤には服部平次(声:堀川りょう)と遠山和葉も姿を見せる。

依頼人・池波静華
依頼人・池波静華——柴田を捜すよう小五郎へ依頼した和服の女性

原作との対応と放送記録

原作は第28巻File.3からFile.5(File.276-278)で、事件No.79にあたる。アニメでは第220話・第221話の前後編として2001年1月15日と1月22日に放送され、デジタルリマスター版は2017年4月1日と4月8日の土曜に再放送された。 本編のスタッフは初放送時のもので、構成と絵コンテが市丸知佳、演出が伊藤真朱、作画監督が村中ひろび。監督は山本泰一郎、チーフ監督はこだま兼嗣、キャラクターデザインは須藤昌朋と山中純子(デザインワークスに宍戸久美子)が名を連ねる。オープニングは愛内里菜の「恋はスリル、ショック、サスペンス」、エンディングは倉木麻衣の「Start in my life」だった。コナンズヒントのキーアイテムは後編が「バンテージ」で、リマスター版のヒントは後編が「服部平次」と差し替えられている。 英語版Wikiの記録では、世帯視聴率は初放送が前編17.5%、後編20.3%、リマスター放送が前編8.0%、後編6.4%とされる。

「偽りだらけ」の題名が指すもの

この回の構造上の特色は、依頼人そのものが最大の謎として置かれている点にある。人探しの依頼から始まったはずの話が、殺人事件の捜査を経て、依頼人の嘘の数え上げへと向かう。写真、本、電話、バンテージ——小さな違和感が積み重なり、横溝の筋書きとは別の解答が用意されている。 もう一つの見どころは、コナンの観察眼が「握られた写真」の意味を問い直す点だ。被害者が最後に握った物は、犯人を指すのか。それとも犯人が握らせたのか。ダイイングメッセージの解釈を一つずれさせるだけで、容疑者の構図が根底から入れ替わる作りになっている。

犯人・トリック・動機などのネタバレを表示

犯人とトリック——写真が隠したもの

眠りの小五郎の推理が示した犯人は、妻の柴田恭子である。恭子は死亡推定時刻そのものを偽装していた。深夜に帰宅した柴田が食べた夜食の横へ、翌朝配達の朝刊を並べて朝食に見せかけ、台所のビデオデッキには朝8時の時代劇をタイマー録画させた。部屋の状況が「朝8時以降の殺害」を示すように装ったうえで、その時間に動かせないアリバイ——朝5時発のゴルフ——を自分に用意したのである。実際に犯行が行われたのは、柴田が麻雀から戻った深夜3時以降、恭子が家を出る朝5時までの、アリバイのない時間帯へ遡る。 恭子は本来、自らが遺体の第一発見者となるつもりだった。しかし吉川が麻雀の約束で柴田を訪れることを知り、発見の役目を吉川に譲る判断をする。帰宅を装うまでの間、彼女は玄関横の非常階段に身を潜めていた。

本当のダイイングメッセージは結婚指輪

柴田の右手が握っていたのは、写真だけではなかった。コナンが手のひらの握り跡から看破した本物のダイイングメッセージは、血まみれになった結婚指輪である。恭子は犯行後に指輪を抜き取り、本を倒して柴田が写真を握ったように装った。指輪を柴田の指へ戻せなかった彼女は、左手の薬指と小指にバンテージを巻いて指輪の跡を隠し、指輪は警察が去ったあとに処分するつもりで所持していた。バンテージに血が付かなかったのは、それが血まみれになったあとから巻かれたものだったからだ。恭子が血の付いた指輪を持っているという事実が、夫を殺した犯人である決定的な証拠となった。

麻雀賭博の借金と持参金の刀

動機は、柴田の麻雀賭博だった。借金を重ねた柴田は家財を次々と売り払い、テレビや宝石、レーザーディスクプレーヤーに続いて、恭子のゴルフクラブ一式と、結婚の持参金として父から受け継いだ日本刀まで売ろうとした。恭子はその刀を守るため、夫を殺害するに至ったと自白する。連行の前に着替えを許された恭子は、その日本刀で自ら命を絶とうとした。 そのとき、静華が動いた。扇子を取り出して恭子の振るう刀を受け止め、一瞬で武装を解く。命を粗末にするなと諭された恭子は、静かに降伏して横溝に連行された。

依頼人の四つの嘘——池波静華の正体

事件の解決後、コナンは静華がついていた嘘を指摘する。ほこりアレルギーを自称しながら趣味は毛糸の編み物という矛盾。食事に残った魚を切り身の状態から種類まで言い当てる、料理への通暁。そして恭子と同じく、結婚指輪の跡をバンテージで隠していた——静華は既婚者だった。さらに喫茶店での場面では、静華が口にした「レイコ」は小説の登場人物ではなく、大阪弁でアイスコーヒーを指す「冷コー(れいこー)」だった。 駆けつけた服部平次と遠山和葉によって、静華の正体が明かされる。池波静華は偽名で、その正体は平次の母・服部静華だった。以前、大阪で平次が怪我を負った経緯があり、息子と関わりのある毛利小五郎がどんな人物かを確かめに来たのである。刀を扇子で受け止める腕前も含め、依頼人の只ならぬ素性が最後に明かされる構成である。依頼人が「偽りだらけ」だった理由は、正体を隠すための虚偽の積み重ねだった。

出典