「混入トリック」とは

「混入トリック」(こんにゅうトリック)は、青山剛昌の漫画『名探偵コナン』単行本51巻のFile6の題名である。連載時の通し番号はFILE.527で、掲載は週刊少年サンデー2005年29号(2005年6月15日発売)。小学館の公式事件データベースの分類では、事件番号150「ため息潮干狩り」はFile4から本章までの3本で構成されており、本章はその解決章にあたる。前章末でコナンが少年探偵団へ求めた砂浜掘りの結果から始まり、誰も触れなかったはずのペットボトルへ毒が入った仕掛けと、犯人の名前、動機までが本章で開示される。題名が指すのは、その仕掛け、毒を緑茶へ「混入」させた手順そのものである。

収録位置と掲載

File1からFile11までの11本を収める51巻で、「混入トリック」は6番目にあたる。事件番号150はFile4・File5・本章の3本で構成され、本章が結末を担う。直前のFile5「ペットボトルの怪」は、警察が自殺と断定するまでの捜査と、コナンが見つけた矛盾を並べる中間章だった。本章はその続きの砂浜から始まり、終わるとFile7「ロシアンブルー」からは、妃英理の飼い猫ゴロを小五郎が預かる別の一件が始まる。巻内では本事件とFile9から11の別荘の事件が3章構成であり、本章はそのうち前側の事件を締める位置にある。 掲載号は週刊少年サンデー2005年29号で、発売は2005年6月15日。51巻自体は同年10月18日に刊行され、税抜390円の巻だった。巻末の名探偵図鑑には朝吹里矢子が掲げられ、裏表紙は妃英理の秘書・栗山緑、表紙は青山剛昌の飼い猫「カイト君」の写真の上で同じ格好で眠るコナンの絵である。

名探偵コナン 51巻の公式書影
『名探偵コナン』51巻(小学館公式書影)

アニメ第443話・第444話

アニメでは第443話「ため息潮干狩り(前編)」と第444話「ため息潮干狩り(後編)」の2本へ分かれて放送された。放送日は前編が2006年6月26日、後編が7月3日で、視聴率は9.5%と8.3%を記録している。原作のFILE.525から527までを前後編へ配分する構成で、本章にあたる部分は後編へ収められた。監督は佐藤真人で、後編の構成・絵コンテ・演出は荻原露光、作画監督は菅野智之が担う。放送時期のオープニング曲は「100もの扉」、エンディング曲は「もう君だけを離したりはしない」である。国際話数では第481話・482話、DVDではPART15の5巻へ収録される。アニメ版には原作にない追加もある。横溝の兄・参悟が回想へ現れ、愛好貝の借りたレンタカーは白の日産・エルグランド(E51)、横溝の車は2004年式トヨタ・カローラ(E120)と設定された。 後編のネクストコナンズヒントは資料間で記述が分かれる。Detective Conan Wikiは「ペットボトルのフタ」と記し、アガサーチは「ギャル文字」と記す。本章がフタのすり替えを扱うことに照らせば、Detective Conan Wikiの記述は本章の題材と一致する。

砂浜のフタ発見と駐車場での制止

章は砂浜の上で始まる。コナン、灰原、阿笠、少年探偵団は、愛好貝の4人が座っていたあたりの砂を熊手で探っている。探しているのは貝ではない。緑茶のペットボトルのフタである。ほどなく歩美が1つのフタを見つける。縁には黒ずんだ血の跡がある。これで牛込が殺されたことの証拠と、犯人が誰かの両方がそろったとコナンは告げる。 一行は駐車場へ引き返し、署へ戻ろうとしていた横溝を止める。愛好貝の3人はパトカーで署へ連れて行かれるところだった。阿笠と子供たちは、牛込は殺され、犯人は3人の中にいると横溝へ伝える。横溝は自殺に決まっていると声を荒らげ、誰もボトルへ触れていない以上、毒は牛込自身が入れたのだと自説を繰り返す。

フタへの毒と横向きのボトル

これに対し少年探偵団が口にしたのは、毒はボトルの中へ直接入れなくても、フタへ塗っておけばよいという考えだった。横溝はなお納得しない。ボトルは半分ほど空いており、立てたままでは茶はフタへ届かないからだ。コナンはここで、牛込が2つのバケツを抱えて車へ戻った際、ボトルをパーカーの腹ポケットへ横向きに入れていたことを指す。横になったボトルの中で、茶はフタへ触れた。その日にそのパーカーを着ていたこと自体、愛好貝がお揃いのサークルシャツを着る取り決めをしていた結果であり、仕掛けの条件を整える段取りだった可能性をコナンは示す。

絞り込みと証拠の提示

横溝はこの殺害計画が可能であると認め、では誰がフタをすり替えたのかと問う。ボトルを手渡した八島と、おにぎりを投げて渡した三瀬は、フタへ手を伸ばせば目立つため除かれる。残るは久津梢子である。彼女は破ったポテトチップスの袋を、牛込の隣のレジャーシートへ広げて置いていた。横溝にもすぐ理解できた。袋に隠れて、あらかじめ用意した別のフタを指先に握り、牛込のボトルのフタと取り替えられたはずだと。フタに付いていた血がわずかだったことも、これで説明がつく。 コナンは裏付けを畳みかける。愛好貝のゴミ袋を調べた結果、ペットボトルは6本あるのにキャップは5つしかなかった。そして砂浜で見つかった血痕のあるフタを提示する。横溝は梢子の指をルミノールで検査すると告げる。血の付いたフタへ触れたなら、指にも血が移っているはずだからだ。梢子は殺害を認めた。 自供の中で梢子が語った動機と1週間前の出来事、そして結末の全容は後の節へまとめる。ここで事件番号150は閉じる。

「混入トリック」という題名

題名の「混入」は、緑茶へ毒が入った経路そのものを指す。誰もボトルへ触れず、毒のビンは車内にあり、警察の見立てでは被害者本人が入れたほかなかった。その「混入不可能」を可能にした仕掛け、すなわちフタのすり替えと横置きによる接触が本章で明かされる。題名が名指すのは犯人でも凶器でもない。不可能を可能にした手順そのものだ。 3章の題名は事件の進行をそのままなぞる。File4「ため息潮干狩り」は被害者の様子を、File5「ペットボトルの怪」は矛盾を抱えた物証を、本章は仕掛けを表す。状況、物証、仕掛けと3章で分担され、本章が答えを出す章であることが表題からも読み取れる。

外国語版の題名

英語圏ではDetective Conan Wikiが本章を「Mixture Trick」と記し、VizのCase Closedでも同じ題名が使われる。ドイツ語版の表題は「Wie das Gift in die Flasche kam」(毒はどうやってボトルへ入ったのか、の意)で、ConanWikiの訳題は「Der Vermischungstrick」である。独題は「トリック」の名を使わず、読者へ残された問いをそのまま題名に据える訳し方になっている。ドイツでの収録巻の発売は2007年8月16日だった。

事件資料と本章の登場人物

小学館の公式事件データベースでは、本事件のメインキャラクターとして江戸川コナン、阿笠博士、灰原哀、小嶋元太、吉田歩美、円谷光彦、横溝重悟の7名が挙がる。ゲストは牛込嗣夫、八島光枝、三瀬隆、久津梢子の4人で、場所は神奈川の干潟とその近くの駐車場と記される。 ただしこの列記は事件全体のものであり、章単位の資料とは範囲が異なる。ConanWikiが本章に数える出演者は、上記7名へ八島・三瀬・久津を加えた10名で、被害者の牛込は含まれない。場所には浜が記される。コワレ処の51巻データが本章の登場に挙げるのはコナン・少年探偵団・灰原哀・阿笠博士・横溝重悟警部で、ゲスト3人は章別の記載を持たない。牛込嗣夫は本章の開始時点ですでに亡く、登場するのは自供の中で語られる1週間前の出来事だけである。遺体の検分すら本章にはなく、彼の過去の行動がすべての説明対象になる。

江戸川コナンの公式人物場面写真 3
江戸川コナン(読売テレビ公式掲載画像)

役割分担とアニメのキャスト

役割分担は解決の構造に沿う。砂浜で証拠のフタを見つけるのは歩美、推理を組み立て横溝へ提示するのはコナン、フタへ毒を塗る可能性を口にするのは少年探偵団、仕掛けの可否と逮捕を仕切るのは横溝である。阿笠と灰原は砂浜掘りと駐車場への報告へ同行する。ゲスト3人は、フタをすり替え得たのが誰かという絞り込みの対象として並ぶ。 アニメでの声の出演は、久津梢子が南央美、八島光枝が高野直子、三瀬隆が鈴木千尋、牛込嗣夫が川鍋雅樹である。横溝重悟は大塚明夫が演じ、回想で現れる兄の参悟も兼ねる。鑑識員を川中子雅人、刑事を巻島直樹が務めた。ゲスト4人の年齢は、久津梢子21歳、三瀬隆21歳、八島光枝20歳、被害者の牛込嗣夫も21歳である。

灰原哀の公式人物場面写真 1
灰原哀(読売テレビ公式掲載画像)

事件の中での位置づけ

事件番号150はFile4・File5・本章の3本で構成され、本章はその解決章だ。第1章が死の発見まで、第2章が自殺断定と矛盾の提示だったのに対し、本章は断定を覆す側へ転じる。砂浜での発見、論理の組み立て、証拠の提示、自供までを1章で収め、事件はここで閉じる。 本章はまた、横溝重悟にとって原作で初めて結末まで仕切った事件でもある。前章で初めて現れた彼は、自殺と断定した自分の結論を子供たちに覆され、それでも仕掛けの成立と証拠を認めて逮捕へ進む。以後シリーズで神奈川県警の警部として繰り返し登場する人物の、初めての解決場面である。 構造の上では、本章は前2章が積み上げた「不可能」を分解する章だ。誰も触れなかったボトル、口の血と無血のフタ、わずかな血量、ゴミの中の本数。File5で並べられた物証のすべてが、本章では犯人を指す配置へ組み替えられる。事件が閉じた次章File7からは、英理の飼い猫ゴロを預かった小五郎のもとへ、暗号めいたメールの解読依頼が届く別の一件が始まる。

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犯人とフタすり替えの仕掛け

犯人は久津梢子。仕掛けは2段でできている。第1段はフタのすり替えである。彼女はあらかじめ青酸カリを塗ったフタを用意し、牛込の隣へ広げたポテトチップスの袋を隠し蓑にして、指先に隠したそのフタとボトルのフタを取り替えた。毒はボトルの中へ入れられたのではなく、フタへ仕込まれていた。 第2段はボトルの置かれ方である。ボトルは半分ほど空いており、直立では茶はフタへ届かない。だが牛込は2つのバケツを持って車へ戻る間、ボトルをパーカーの腹ポケットへ横向きに入れていた。横になったボトルの中で茶はフタへ触れ、毒が溶け込んだ。お揃いのパーカーを着る取り決め自体が、この条件を整える段取りだった可能性をコナンは指摘している。

証拠の三点と動機の全容

証拠は3つそろった。砂浜へ捨てられていた本来のフタには、指を切っていた牛込の血が黒ずんで残っており、これを歩美が熊手で見つけた。愛好貝のゴミ袋にはペットボトルが6本あるのにキャップは5つしかなく、仲間のボトルからフタが1つ流用されたことを示した。そして横溝が告げたルミノール検査、血の付いたフタへ触れた指には血が移っているはずだという詰めである。梢子は自供した。 動機は1週間前のひき逃げである。愛好貝の4人が乗る車は何かを轢いた感触があったが、下りて探しても人の姿はなく、動物と結論づけられた。梢子のみが、茂みに倒れている男性を見つけていた。すでに死んでいると思い込み、声を上げなかったのだ。後日、その場所で男性の遺体が見つかったという報道が流れる。牛込は罪の意識から自首を決意した。梢子は、自分と仲間の立場や将来の職が失われることを恐れ、自首を阻むために牛込を殺害した。連行に際し横溝が告げたのは、罪は隠すほど露呈するという言葉と、そのひき逃げも遅かれ判明して残る3人も逮捕される運命だったという事実だった。梢子は抵抗せず手錠を受け入れ、連れて行かれた。

出典