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名探偵コナン

名探偵コナン 銀翼の奇術師

怪盗キッドの予告状、お披露目フライトの新型旅客機ベル・ツリー1号、機内で次々に倒れていく乗務員、そして地上と空とを結ぶたった一本の無線——空という閉ざされた密室を舞台にしたシリーズ屈指のサスペンス、劇場版『名探偵コナン』第8作。

媒体: 劇場アニメ 日本公開: 2004年4月17日 監督: 山本泰一郎 配給: 東宝
名探偵コナン 銀翼の奇術師 公式ポスター

作品データ

作品
名探偵コナン 銀翼の奇術師
読み
めいたんていコナン ぎんよくのマジシャン
英題
Detective Conan: The Magician of the Silver Sky
媒体
劇場アニメ
日本公開
2004年4月17日
シリーズ番号
劇場版第8作
監督
山本泰一郎
脚本
古内一成
音楽
大野克夫
原作
青山剛昌『名探偵コナン』(小学館『週刊少年サンデー』連載)
アニメーション制作
トムス・エンタテインメント
配給
東宝
上映時間
107分
主題歌
倉木麻衣「Dream × Dream」(作詞:倉木麻衣/作曲:大野愛果/編曲:徳永暁人)
興行収入
約28億円(観客動員約220万人)
主要モチーフ
怪盗キッド、新型ジェット旅客機ベル・ツリー1号、ストラディヴァリウス『天空の貴婦人』、機内連続毒殺、無線越しのフライト指南
主要登場人物
江戸川コナン/工藤新一、毛利蘭、毛利小五郎、鈴木園子、灰原哀、少年探偵団、阿笠博士、目暮警部、白鳥任三郎、佐藤美和子、高木渉、怪盗キッド/黒羽快斗、鈴木次郎吉、西野初、牧樹里、東京太郎
前後作品
前作『迷宮の十字路(クロスロード)』(2003)/次作『水平線上の陰謀(ストラテジー)』(2005)
公式予告編は
劇場サイトで確認
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📖 全35章 / 約17K字 🔄 最終更新 2026年5月26日 ✍️ Anna Movies 編集部

『名探偵コナン 銀翼の奇術師』は、2004年に公開された劇場版『名探偵コナン』シリーズ第8作のアニメ映画である。怪盗キッドの予告状とともに、新型旅客機ベル・ツリー1号のお披露目フライトで乗務員が次々と倒れ、地上と空とを結ぶたった一本の無線だけを頼りに江戸川コナンが事件の解決に挑む。空という閉ざされた密室を舞台にした、シリーズ屈指のサスペンス作品として知られる。

00概要

『名探偵コナン 銀翼の奇術師(ぎんよくのマジシャン)』は、青山剛昌の漫画『名探偵コナン』を原作とする日本のアニメ映画である。2004年4月17日、東宝の配給で公開された。劇場版シリーズ第8作にあたり、監督は山本泰一郎、脚本は古内一成、音楽は大野克夫、アニメーション制作はトムス・エンタテインメントが担当した。上映時間は107分。山本はテレビアニメ『名探偵コナン』のシリーズディレクターを長く務めてきた人物であり、本作で、劇場版第1作『時計じかけの摩天楼』以来シリーズを率いてきたこだま兼嗣から、正式に監督のバトンを受け取った。

物語の大半は、北海道千歳空港から東京へ向かう新型ジェット旅客機『ベル・ツリー1号』の機内で展開する。発端は怪盗キッドの予告状だ。初フライトの華やいだ空気のまま離陸した直後、キャビンアテンダント、機長、副操縦士までもが次々と倒れ、連続毒殺事件が起こる。空は逃げ場のない閉ざされた空間である。操縦できる者を失った新型機を、なんとしても地上へ降ろさねばならない。この設定が、シリーズでも飛び抜けて強い時間の圧力を物語に与えている。

中心に立つのは江戸川コナンと、副操縦士になりすまして乗り込んだ怪盗キッド/黒羽快斗だ。地上では、過去にトラウマを抱えながら今は地上勤務に就くベテラン女性機長・西野初が、最後の砦として無線でコナンとキッドの操縦を導く。空中の連続毒殺の真犯人を暴く推理劇と、刻一刻と燃料を失う機体を地上に降ろす航空サスペンス。この二本柱が、最後のひと押しまで並走していく構成だ。

興行成績は最終的に約28億円、観客動員約220万人を記録した。空という閉ざされた舞台で連続殺人と緊急着陸を結びつけた本作は、後年に至るまで「シリーズの中の航空サスペンス」として繰り返し語られる一本となっている。本記事は、結末、真犯人、動機、着陸の顛末まで全編の内容に踏み込む。物語の驚きを保ったまま味わいたいなら、まず本編を鑑賞してから読み進めてほしい。

概要

主要データ

原題
名探偵コナン 銀翼の奇術師
シリーズ
劇場版『名探偵コナン』第8作
監督
山本泰一郎
脚本
古内一成
音楽
大野克夫
主題歌
倉木麻衣「Dream × Dream」
日本公開
2004年4月17日
上映時間
107分
ジャンル
ミステリー、航空サスペンス、密室劇、アクション

01あらすじ

以下は結末までを含む全編のあらすじである。物語が動き出すのは、鈴木財閥の鈴木次郎吉が新たに発注した新型ジェット旅客機『ベル・ツリー1号』のお披露目フライト、そしてそこへ届いた怪盗キッドの予告状だ。北海道千歳空港から東京へ向かう機内では、キャビンアテンダント、機長、副操縦士が次々と毒に倒れていく。操縦できる者は失われ、機体は刻一刻と無人化の危機へと追い込まれる。地上で最後の指揮を引き受けるのは、ベテラン女性機長・西野初。無線越しにコナンへ、そして副操縦士に化けて乗り込んでいた怪盗キッドへ、操縦のすべてを指南していく。やがて連続毒殺の真犯人が浮かび上がり、過去の航空事故にまでさかのぼる根深い動機が明らかになる。物語は、ベル・ツリー1号の運命を懸けた東京湾上の緊急着陸へと収束していく。その緊迫の結末に注目したい。

あらすじ

予告状

物語は、鈴木財閥総帥・鈴木次郎吉のもとへ届いた怪盗キッドの予告状から幕を開ける。次郎吉が計画していたのは、新型ジェット旅客機『ベル・ツリー1号』のお披露目フライト。その機内では、やはり次郎吉が所有する伝説のストラディヴァリウス『天空の貴婦人(レディ・スカイ)』が披露される予定だった。予告状に添えられているのは、いつもの蛇のような署名と、鳥を思わせる筆致のシルエット。そして『銀翼の上にて、貴婦人を頂戴する』——挑発めいた一文が記されている。

予告状を受け取った次郎吉は、コナンと毛利探偵事務所、警視庁の刑事陣、そして姪の鈴木園子をフライトへ招く。表向きは新型機のお披露目ツアー。だがその裏には、怪盗キッドを空の上で逮捕するというおとり作戦が隠されている。報道陣、財界関係者、機体メーカーの幹部、整備士、キャビンアテンダント、機長と副操縦士——搭乗者リストは事前に精査され、無関係な乗客は一人もいない。密室劇さながらの舞台が、静かに整っていく。

オープニング・タイトルの直前、観客の目に交互に映し出されるのは、北海道千歳空港の格納庫の前で自信に満ちた表情を浮かべる次郎吉と、空港ロビーで微かに笑う一人の整備士の影だ。明るい新型機のお披露目という表向きの絵柄。だがその裏では、すでに別の意図を抱いた誰かがこの便に紛れ込んでいる。その気配が、観客にだけそっと示されるのだ。やがて物語は本格的に動き出す。雪の残る千歳空港から、ベル・ツリー1号が東京へ向けて滑走路を駆け抜けていく。

予告状

ベル・ツリー1号

ベル・ツリー1号は、鈴木財閥が威信をかけて発注した最新鋭の中型ジェット旅客機である。ゆったりとした客席、最新の自動操縦装置、機内の通信設備——当時の民間機としては最先端の装備をそろえた一機として描かれる。お披露目フライトに乗り込むのは、コナン、毛利蘭、毛利小五郎、鈴木園子、阿笠博士、灰原哀、少年探偵団といったレギュラー陣。さらに警視庁の目暮警部、白鳥任三郎、佐藤美和子、高木渉、子役の牧樹里(声:鈴木杏)、報道陣の東京太郎(声:嶋田久作)と、報道、財界、芸能の各方面から人々が顔をそろえる。

乗務員として紹介されるのは、ベテランの機長、若き副操縦士、数名のキャビンアテンダント、そして整備班の代表だ。次郎吉は機内の中央通路で『天空の貴婦人』のケースを掲げ、フライト中のどこかでお披露目の演奏を行うと告げる。その挙動から、コナンは早々に察する——次郎吉は『怪盗キッドを空中で取り押さえる』というシナリオに本気で賭けているのだ、と。

離陸の手続きは順調に進み、ベル・ツリー1号は北海道千歳空港の滑走路を蹴って空へ舞い上がる。眼下に広がる雪原と海岸線、雲を抜けた先の蒼穹——本作の前半は、新型機の優美なシルエットと機内の祝祭ムードを丁寧に描いていく。だが雲上の静けさのなか、観客はふと不安を覚える。やがてこの機体が誰にも操縦できなくなる、その瞬間のためにすべての絵柄がここで整えられているのだと。

ベル・ツリー1号

機内の最初の死

巡航高度に達し、機内サービスが始まった矢先、最初の異変が起きる。盆にコーヒーカップを乗せて通路を進んでいたキャビンアテンダントが、突然喉を押さえてその場に膝をつき、そのまま動かなくなった。乗客のなかから名乗り出る医師さながらに毛利小五郎と高木刑事が駆け寄るが、すでに呼吸は途絶えている。狭い客室の床に倒れ伏した彼女の顔色、そして運んでいた飲み物の残量を、コナンは無言で見つめる。

状況を確かめた目暮警部は、ただちにフライトの中断を機長に求めようとする。だが最後尾と中央通路で続けざまに二人の乗客が体調不良を訴え、機内の空気は一気にざわつく。蘭はパニックを抑えようと少年探偵団と牧樹里を一カ所に集め、阿笠博士と灰原哀が状況を冷静に見つめる。鈴木園子は次郎吉のかたわらで叔父の手を握り、報道陣の東京太郎はカメラを構えるべきか伏せるべきか、判断を迫られる。

コナンが現場から読み取るのは、機内サービスのカートと飲み物の動線、最初に倒れた人物が運んでいたカップの持ち主、そして毒物の作用時間と離陸からの経過との関係だ。限られた機内で、毒を盛れる位置にいた者、被害者と接触し得た者の輪郭が、頭のなかで順に絞られていく。観客の前にはやがて、まだ姿を見せない「機内に紛れた何者か」の影が、確かな存在として立ち上がってくる。

機内の最初の死

操縦室の崩壊

事態が決定的に動くのは、機長が操縦室で倒れたという報せが客席に届いた瞬間である。間を置かず副操縦士も喉を押さえてその場に崩れ落ち、操縦室はわずか数分のうちに二人の操縦士を失う。自動操縦が飛行そのものは保っているが、着陸はもちろん、緊急時の対応も人の判断なしには立ちゆかない——機内アナウンスを引き受けたキャビンアテンダントの声には、隠しきれない震えがにじむ。

コナンは操縦室へ駆け込み、機長と副操縦士の容体を確かめる。床に倒れた二人の口元、そして操縦席のかたわらに残された飲み物の痕。それが客室で起きた最初の死と同じ毒物につながると、彼は一目で見抜く。客席と操縦室を自由に行き来でき、コックピットへ出入りできた者——容疑は否応なく、機内の乗員へと絞られていく。

客室では、毛利小五郎が声を張って乗客を落ち着かせ、目暮警部が刑事として乗員を一人ずつ確かめる手順へと切り替える。阿笠博士は子どもたちに窓の外を見させ、少年探偵団と牧樹里、灰原哀を別席に集めて視界を確保する。蘭は園子と次郎吉のそばを離れない。報道陣の東京太郎はカメラを構えるのではなく、隣に座る老婦人の手を握り、その震えを抑える側に回る。空という逃げ場のない舞台で、それぞれが背負える責任の重さが、ここで一段はっきりと浮かび上がる。

操縦室の崩壊

副操縦士の正体

操縦室で倒れた「副操縦士」の傍らから立ち上がり、コナンに向き直る人物がいる。本物の副操縦士はすでに毒に倒れている。にもかかわらず、もう一人の副操縦士姿の男がそこに立っている——ありえないはずのその構図を、映画は静かに観客へ突きつける。仮面のように白い手袋、軽やかな身のこなし、口元に浮かぶ余裕の笑み。副操縦士として乗り込んでいたのは、怪盗キッドこと黒羽快斗だった。

キッドはもともと「天空の貴婦人」を盗む目的で機内に潜り込んでいた。だが、機長と副操縦士までもが立て続けに毒で倒れたこの状況は、彼の計画の枠をはるかに超えていた。狙うはずだった財宝の持ち主・鈴木次郎吉を含む数十名の命が、機体もろとも墜落するか、空の上で誰一人操縦法を知らないまま燃料切れを迎えるかの瀬戸際にある。その事実を前に、彼はいつもの軽口を引っ込め、コナンに向かって短く協力を申し出る。

コナンとキッドは、互いを敵と知ったうえで、一時的に同じ側に立つことを選ぶ。客席に化けたキッドの仲間(黒羽家ゆかりの整備士)と、操縦の心得を持つキッドという存在が、ここで初めてコナンの推理の隣に並ぶ。本作のタイトル『銀翼の奇術師』が指すのは、文字どおりにはこの瞬間、副操縦士席へと立ったキッドその人である。そして同時に、その背後で機体ごと観客を魅了しようとする手品師——真犯人をも、二重に指し示している。

副操縦士の正体

地上の最後の砦

操縦士を失った機体の運命は、地上に託される。航空管制塔で無線越しに名乗りを上げるのは、西野初(声:田中麗奈)。かつてベテランの女性機長として操縦桿を握っていたが、ある事故をきっかけに地上勤務へ転じた人物である。『ベル・ツリー1号』と同系統の機材を誰よりも知り尽くした一人であり、地上から無線で操縦を指南するこの女性こそ、本作の地上側の主役だ。

西野は過去のフライトで悲劇に近い形で機長の座を降りた——そんな経歴を背負う人物として描かれる。空という現場へ再び向き合うことに、本人の中には複雑な葛藤がある。それでも彼女は、無線越しに自らの声でコナンとキッドを支えると決意する。『計器の左から二番目を見て。針が動いていなければ、機体はまっすぐ進んでいる』——こうした極めて具体的な指示を一つひとつ重ね、空の上の二人の手と、地上に立つ彼女の経験とを、一本の声でつないでいく。

地上には、西野の決断を支える管制官や整備班、そして次郎吉の依頼で駆けつけた航空関係者たちが顔をそろえる。だが彼らの誰一人として、空の上のコナンが小学生の姿をした名探偵だとは知らない。地上側が無線越しに認識しているのは、あくまで『副操縦士の青年』と、その横で支える『鋭い小学生』の二人組だ。限られた情報の中で、彼らはただ全力を尽くす。地上と空とを結ぶのは、無線という細い線一本のみ——その距離こそが、本作後半の緊張を生む源泉となる。

地上の最後の砦

コナンとキッド

空の上での操縦は、二人がかりの即席コックピットとして始まる。怪盗キッドこと黒羽快斗が機材の基本知識と運動神経で支え、コナンが判断力と冷静さで補う。地上から届く西野初の声を頼りに、二人は機体の高度と姿勢を保つ作業に取りかかる。互いを完全には信用していない者同士が、相手の手元をうかがいながら計器の数値を読み上げ合う——このやり取りこそ、本作中盤の見どころのひとつだ。

操縦室の片隅に座らされた牧樹里は、子役ながら肝の据わった一面を見せ、無線越しに機内の状況を西野へ率直に伝える役を引き受ける。客席側では、毛利小五郎、目暮警部、白鳥任三郎、佐藤美和子、高木渉が連携し、乗員と乗客の動線を確認しながら毒物の入手経路を絞り込んでいく。蘭と園子は子どもたちや阿笠博士、灰原哀を中心とした客席後方の集団を守る。報道陣の東京太郎は、機内の様子をメモするふりをしながら、隣に座る人を励ますのだった。

ベル・ツリー1号は、操縦士を欠いたまま、それでも地上から見れば不自然のないラインで本州の上空を飛び続ける。雲の上に広がる青さと、計器に灯る赤いランプの点滅とが、交互に画面を埋めていく。そのあいだも、燃料計の数字だけは容赦なく減っていく。コナンとキッドの操縦は、機体を着陸地点まで運ぶための時間そのものを稼ぎ続ける、長い伴走となるのだ。

コナンとキッド

真犯人

操縦をキッドに任せたコナンは客席へ戻り、機内で続く連続毒殺の犯人捜しに乗り出す。倒れたキャビンアテンダント、機長、副操縦士、そして客席で体調の異変を訴えた者たち——その動線を、ホワイトボード代わりの紙ナプキンに描き出していく。誰がどの位置にいて、どの飲み物に手を触れる機会があったのか。限られた手がかりを一つずつ突き合わせ、容疑の輪を静かに狭めていく。

やがてコナンが名指しするのは、乗員のなかに紛れていた一人だった。本作のフライトの裏側に深く関わる立場にありながら、表向きは「今回のフライトのために臨時に組み込まれた」とされていた整備・運航関係者である。動機の核にあるのは、かつてこのベル・ツリー社の旧型機が起こしたとされる航空事故だ。その事故で家族か、近しい者を失った当人が、当時の事故処理に関わった鈴木財閥側と機体メーカー側の責任者たちを、お披露目フライトの裏側で一人ずつ毒殺しようとしていた——その計画が、徐々に明らかになっていく。

真犯人は、お披露目という最大の祝祭の場をあえて選んでいた。旧型機の犠牲者たちの無念を晴らすために、新型機ベル・ツリー1号の初フライトを舞台に据えたのだ。そこで『銀翼の奇術師』というタイトルが、二重の意味を帯びて立ち上がる。副操縦士に化けた怪盗キッドが文字どおりの「奇術師」であると同時に、機内に潜み、目に見えぬ毒という手品で人を消していった真犯人もまた、もう一人の「奇術師」だった——そんな構図である。

コナンの推理を、キッドの仕掛けた小さな視覚トリックが静かに後押しする。飲料の動線を示す影、銀色のスプーンに映る一瞬の反射。指摘された真犯人は、自らの動機を絞り出すように告白し、その最後に「機体ごと墜とすつもりだった」という重い一言を残す。コナンが言葉を返すよりも早く、窓の外には、最終的な着陸地点となる東京湾の海面が、雲の切れ間からゆっくりと姿を見せ始める。

真犯人

東京湾上の緊急着陸

燃料の残量と整備状況、滑走路の混雑、機内の負傷者の数——あらゆる条件を天秤にかけたうえで、地上の西野初はベル・ツリー1号に対し、東京湾上の特設の海面着水ラインへの「限界に近い緊急着陸」を指示する。機体の傷み具合と進入角度の余裕を考えれば、羽田空港の正規滑走路への着陸は難しい。海面すれすれの高度まで降下し、特設の浮力体と消防艇・救難艇のラインに沿ってベル・ツリー1号を滑り込ませる。一発勝負のプランだ。

コナンとキッドは、西野の無線越しの指示を一語も聞き漏らさず降下を開始する。窓の外で東京湾の景色がみるみる大きくなり、機内は祈りにも似た静けさに包まれる。蘭は園子と次郎吉の手を握り、少年探偵団と牧樹里は阿笠博士・灰原哀とともに、座席のシートベルトを最後まで強く締め直す。毛利小五郎は珍しく軽口の一つも叩かず、最後の数十秒は前を向いたまま、ときおり娘の方に目をやるだけだった。

ベル・ツリー1号は、海面上に張られた特設の進入ラインに沿って降下し、車輪のかわりに胴体の腹で海面を擦りながら、衝撃を分散させるように着水する。複数の救難艇と消防艇が船体の周囲を取り囲み、海面に浮いたままの機体から、コナンとキッド、牧樹里、毛利探偵事務所、警視庁、報道陣、そして次郎吉と乗員たちが順に救助されていく。倒れた乗務員たちの多くも、毒物の特性と早期の処置によって命を取り留め、最悪の事態は寸前で回避される。

海面に浮かんだベル・ツリー1号の銀色の機体、その上空を旋回する救助ヘリコプターの音——それらを背景に、コナンと黒羽快斗は短く目線を交わす。怪盗キッドは混乱に紛れて「天空の貴婦人」を持ち去ることもできた立場だったが、結局この日は財宝に手を出さないまま姿を消す。彼が残していくのは、副操縦士席で自分の隣に座り、ともに機体を支えてくれたコナンへの、短いウィンクと一枚のカードだけである。

東京湾上の緊急着陸
ここまでが全編のあらすじである。以降は登場要素、人物、舞台、制作、興行、テーマなど、作品を資料として理解するための章が続く。

登場要素

本作に登場・言及される主な要素を、劇場版『名探偵コナン』の標準的な分類に沿って整理する。固有名詞は鑑賞の手がかりであり、初見ですべてを暗記する必要はない。

  • 江戸川コナン/工藤新一
  • 毛利蘭
  • 毛利小五郎
  • 鈴木園子
  • 灰原哀
  • 阿笠博士
  • 吉田歩美
  • 小嶋元太
  • 円谷光彦

  • 目暮十三警部
  • 白鳥任三郎警部
  • 佐藤美和子刑事
  • 高木渉刑事
  • 羽田空港の管制官と整備班
  • ベル・ツリー社(機体メーカー)
  • 鈴木財閥(鈴木次郎吉の経営する企業群)

  • 鈴木次郎吉(鈴木財閥総帥/お披露目フライトの主催者)
  • 牧樹里(子役/声:鈴木杏)
  • 東京太郎(報道カメラマン/声:嶋田久作)
  • 西野初(地上の女性管制機長/声:田中麗奈)
  • 怪盗キッド/黒羽快斗(副操縦士姿で乗り込んだ大泥棒/声:山口勝平)
  • ベル・ツリー1号の機長と副操縦士
  • キャビンアテンダント数名
  • 整備・運航関係の機内乗務員(真犯人を含む)
  • 報道陣・財界関係者の乗客

  • 本作の真犯人は、お披露目フライトの裏側に深く関わる立場で機内に紛れ込んでいた整備・運航関係の乗務員の一人
  • 動機の核は、過去にベル・ツリー社の旧型機が起こしたとされる航空事故で、家族または近しい人を失った当人の復讐——事故処理に関わった鈴木財閥側と機体メーカー側の責任者たちを、新型機の初フライトの場で一人ずつ毒殺する計画だった
  • 実行手段は、機内サービスの飲み物・コーヒーカップを経由した毒物の混入と、操縦室への自由な出入りを利用した機長・副操縦士への投毒である
  • 怪盗キッドは『天空の貴婦人』を盗む目的で副操縦士に化けて乗り込んでおり、本来は犯人とは別の文脈で動いていたが、機内連続毒殺の発生によってコナンと一時的に同じ側に立つ
  • 事件は最終的に、コナンの推理によって真犯人が機内で指摘され、ベル・ツリー1号が東京湾上の特設ラインへの緊急着水着陸で全員の救助に成功する形で決着する

  • 北海道千歳空港(離陸地点)
  • 新型ジェット旅客機ベル・ツリー1号(機内・操縦室・客室)
  • 本州上空の航路
  • 東京湾上の特設緊急着水ライン
  • 羽田空港・管制塔(西野初の指揮拠点)
  • 東京湾の救助艇・消防艇

  • 機内サービスのコーヒー・飲料を媒介とする遅効性の毒物
  • 操縦室へ自由に出入りできる立場を利用した機長・副操縦士への投毒
  • 副操縦士の制服に化けて乗り込んだ怪盗キッドの変装術
  • コナンの腕時計型麻酔銃と蝶ネクタイ型変声機
  • 阿笠博士特製のキック力増強シューズ
  • 鈴木次郎吉が機内で披露しようとしたストラディヴァリウス『天空の貴婦人(レディ・スカイ)』
  • 地上と機内を結ぶ無線通信と機体の自動操縦装置
  • 東京湾上の特設の浮力体・進入ラインを利用した着水着陸

  • 主題歌:倉木麻衣「Dream × Dream」(作詞:倉木麻衣/作曲:大野愛果/編曲:徳永暁人)
  • コナン:高山みなみ
  • 工藤新一:山口勝平
  • 毛利蘭:山崎和佳奈
  • 毛利小五郎:神谷明
  • 鈴木園子:松井菜桜子
  • 灰原哀:林原めぐみ
  • 阿笠博士:緒方賢一
  • 目暮十三:茶風林
  • 白鳥任三郎:井上和彦
  • 佐藤美和子:湯屋敦子
  • 高木渉:高木渉
  • 吉田歩美:岩居由希子
  • 小嶋元太:高木渉(兼任)
  • 円谷光彦:大谷育江
  • 怪盗キッド/黒羽快斗:山口勝平
  • 鈴木次郎吉:永井一郎
  • 西野初:田中麗奈
  • 牧樹里:鈴木杏
  • 東京太郎:嶋田久作

12主要登場人物

本作の登場人物は、レギュラー陣に空をめぐる三組のゲストを組み合わせて構成される。レギュラーは、コナン、蘭、小五郎、園子、灰原、少年探偵団、阿笠博士、そして警視庁の刑事陣。これに、怪盗キッドこと黒羽快斗、地上で指揮を執る女性機長・西野初、子役の牧樹里という三つのゲスト枠が加わる。鈴木次郎吉も、本シリーズで重要な位置を占める鈴木財閥側の代表として、お披露目フライトの主催者の顔で姿を見せる。

江戸川コナン/工藤新一

本作のコナンは、千歳空港のロビーから東京湾上の救助艇へ至るまで、終始ベル・ツリー1号の機内に閉じ込められたまま、事件と機体、その双方の運命を背負う。空という閉ざされた舞台で、コナンが繰り返し選ぶのは、自ら前へ出て叫ぶことではない。阿笠博士の知識、毛利小五郎と目暮警部の現場経験、そして副操縦士に化けたキッドの軽妙な腕前——限られた時間のなかで、それらを正しく結び合わせることだった。

機内連続毒殺の真犯人を名指しする場面は、シリーズ恒例の『眠りの小五郎』としては描かれない。客席を歩きながら自ら整理した動線と動機の図を、毛利小五郎の声を借りて静かに読み上げる——そんな形をとる。少年の身体に閉じ込められたまま、空の上で『誰が殺したのか』と『どうやって地上に降りるか』という二つの命題を同時に引き受け切る。その姿こそが、本作のコナン像の核を成している。

江戸川コナン/工藤新一

怪盗キッド/黒羽快斗

本作の怪盗キッドは、『天空の貴婦人』を狙い、副操縦士の制服に化けて本物の副操縦士に成り代わり、ベル・ツリー1号の操縦室に座っていた。だが、機長と本物の副操縦士までが立て続けに毒で倒れた瞬間、彼が描いていた盗みの計画は完全に意味を失う。残されたのは、自分の腕と知識で機体を地上に降ろさなければ、自分自身と機内の数十名が空の上で命を落とすという、純然たる現実だけだった。

コナンと一時的に手を組んだ黒羽快斗は、いつもの軽口と紳士的な振る舞いを最低限まで抑え、副操縦士席で計器を読み続ける。本作で彼が見せるのは、財宝を盗む奇術師の顔ではない。ガラスケースのストラディヴァリウスよりも、目の前の数十名の命を優先する一人の青年の顔である。コナンの工藤新一と怪盗キッド。山口勝平はこの二役を演じ分けるという、シリーズの中でも飛び抜けて難しい役割を、本作で同時に背負う。

クライマックスで、彼は『天空の貴婦人』を盗み出すこともできる立場にあった。にもかかわらず、何も盗まずにその場から姿を消す。残されたのは、副操縦士席で隣に立ってくれたコナンへの短いウィンクと、一枚のカードだけだった。本作以降の劇場版で怪盗キッドが登場するとき、観客が彼を「盗む者」としてだけでなく「時に味方になりうる者」として迎えるようになる――その原点は、本作にある。

怪盗キッド/黒羽快斗

西野初

ベテラン女性機長として現役だった過去を持ち、本作の時点では地上勤務に就いている西野初は、地上側の物語を牽引する一人だ。過去のフライトでの苦い経験から、自ら操縦桿を握ることをやめていた。そんな彼女が、ベル・ツリー1号の危機を前に、無線越しで操縦を指示する役を再び引き受ける。その流れは、本作のサブテーマである『自分の現場へもう一度立つ覚悟』を端的に体現している。

彼女の指示は、空の上のコナンと怪盗キッドを助ける具体的な航空知識の塊であると同時に、自分が乗っていない機体を最後まで信じて手放さない、現場の人間の覚悟そのものでもある。専門用語を早口で連ねる場面でも、田中麗奈の声は、地上でただ一人機体を最後まで諦めない立場の人物としての温度を失わない。無線越しに『大丈夫、あなたはちゃんと飛ばせている』と声をかけるシーンは、地上側のクライマックスのひとつだ。

西野初

牧樹里

本作のもう一人のゲスト枠を担うのが、子役の牧樹里である。お披露目フライトに招かれた話題の子役として乗り込んだ彼女は、機内で続く毒殺と操縦士全滅という極限の状況のなか、年齢に似合わぬ肝の据わりぶりを見せる。最初に倒れたキャビンアテンダントの姿を前にしても取り乱さず、コナンと怪盗キッドが操縦室へ入ったあとは、自ら助手席に座り、無線越しの西野初へ機内の状況を率直に伝える役を引き受ける。

声を担当した鈴木杏は、子役らしい余裕と、極限状況で覗く子どもの怯えとを、過剰に演じることなく自然に行き来してみせる。空の上に閉じ込められた『大人』たちの輪のなかで、彼女の存在は、観客が無理なく感情移入できる一段低い視点を確保する役割を果たしている。エンディング近く、西野へかける『またお仕事に戻ったんですね』という短い一言。そこには、本作のサブテーマがそのまま凝縮されている。

牧樹里

鈴木次郎吉

鈴木次郎吉は、姪・鈴木園子の大叔父にあたる鈴木財閥の総帥である。劇場版での扱いとしては、本作が彼の本格的な見せ場のひとつであり、新型ジェット旅客機ベル・ツリー1号のお披露目フライトを企画し、ストラディヴァリウス『天空の貴婦人』を機内で披露しようとする派手な経済人として描かれる。怪盗キッドを空の上で逮捕するための『おとり』役を自ら買って出る豪胆さも、彼という人物を端的に物語っている。

とはいえ、本作の次郎吉は単なる金持ちの道楽家ではない。事態が制御を失った後、自分の名で招いた人々の命を最後まで守ろうとし、機内で配下の関係者に指示を出し続ける。永井一郎の重厚な声は、お披露目の場で『今宵、貴婦人を奪わせはせん』と高らかに宣言する場面と、東京湾上の着水寸前に園子と乗客の安全だけを案じる場面とを、同じ重みで響かせる。

鈴木次郎吉

毛利蘭・毛利小五郎・鈴木園子

毛利蘭は本作で、空という閉ざされた舞台のなかで「母や姉のように振る舞える唯一の若者」として、少年探偵団と牧樹里、灰原哀のいる客席後方を黙って守り続ける。空手の見せ場こそ少ないものの、客席の動揺を抑え込む表情、そして着水寸前まで園子と父・小五郎の手を握り続ける姿が、本作における客席側の精神的な支柱となっている。

毛利小五郎は、いつもの劇場版以上に騒がしい振る舞いを控え、機内のパニックを鎮める大人としての顔と、コナンの推理を「眠りの小五郎」として読み上げる役を交互に引き受ける。声を担当した神谷明は、空という閉ざされた舞台での「眠りの小五郎」を本作で初めて演じた。座席に座ったまま、姿勢を伴わない推理を聞かせる──シリーズのなかでも独特の演出を成立させている点に注目したい。

鈴木園子は、叔父・次郎吉の隣に座り続け、家族として彼の手を握り、客席に残る最後の良心を担う。危機のさなかにあってもユーモアを忘れず、蘭とともに少年探偵団を支える側に立つ。客席側のレギュラー三人は、空の上で起こる連続毒殺の真相にも、東京湾上の緊急着陸という物理的な衝撃にも、ただ立ち会うのではなく、それぞれのやり方で関わり続ける。その姿が本作の物語に厚みを加えているのだ。

毛利蘭・毛利小五郎・鈴木園子

灰原哀と少年探偵団

灰原哀は、阿笠博士、少年探偵団とともに客席後方に座り、機内の人物配置と人の動きを冷静に見つめる側にまわる。本作で前面に立つ場面こそ少ないが、客席へ戻ってきたコナンと短く言葉を交わす目線、そして機内の毒物の性質をめぐる一言の助言が、コナンの推理を一段と加速させる。そんな場面が用意されている。

少年探偵団の歩美・元太・光彦は、阿笠博士の解説に耳を傾ける聞き役であり、観客に近い目線から機内の状況を体感していく役どころだ。牧樹里の存在を素直に受け入れ、空の上の緊張のなかで子ども同士の絆を自然に育んでいく。その姿は、本作の重い空気のなかで唯一やわらかな部分として息づいている。空の上という閉ざされた舞台に子どもたちの視点が置かれていることは、観客が物語に入り込むための入口としても重要な役割を果たしている。

灰原哀と少年探偵団

舞台と用語

舞台は冒頭の北海道・千歳空港から、新型ジェット旅客機ベル・ツリー1号の機内、本州上空の航路、そして東京湾上に設けられた緊急着水ラインへと移り変わっていく。劇場版『名探偵コナン』のなかでも、ほぼ全編をひとつの機体の内側に閉じ込めた構成は珍しい。空という逃げ場のない場所そのものが、本作のミステリーとサスペンスを同時に成立させる前提になっている。

物語の鍵を握るのは、『怪盗キッド』『ベル・ツリー1号』『天空の貴婦人(レディ・スカイ)』、そして『自動操縦装置』『無線指揮』『緊急着水』といった言葉だ。怪盗キッドは劇場版第3作『世紀末の魔術師』に続いての登場となり、シリーズの長編における存在感をいっそう確かなものにする。ベル・ツリー1号と『天空の貴婦人』は本作のための架空の固有名詞だが、ストラディヴァリウスというイタリア・クレモナの伝説的な弦楽器ブランドそのものは実在しており、本作の舞台装置と現実の楽器史とが緩やかに重ね合わされている。これらの語はいずれも本編の映像と会話のなかで順を追って説明されるため、観客が事前にすべてを知っている必要はない。

21制作

劇場版『名探偵コナン』シリーズは、1997年の第1作『時計じかけの摩天楼』以来、毎年春に公開される春の恒例企画として定着している。本作はその第8作にあたり、第7作『迷宮の十字路(クロスロード)』の翌年に公開された。第1作から第7作までを手がけた監督こだま兼嗣からバトンを受け継ぎ、シリーズディレクターの山本泰一郎が正式に演出を引き継いだ、世代交代の節目となる一作でもある。

制作

企画と脚本

脚本を手がけたのは古内一成。テレビアニメ『名探偵コナン』のシリーズ構成を長く務め、本作以前から劇場版にも継続して関わってきた書き手である。古内が本作で組み上げたのは、物語のほぼ全編を一機の旅客機の機内に閉じ込めるという、シリーズでも屈指の密度を誇る設定だ。怪盗キッドの予告状、機内での連続毒殺、操縦士の全滅、無線越しのフライト指南、真犯人の動機、そして緊急着水。これだけの要素を107分のなかに過不足なく収めた手腕は、シリーズの脚本史におけるひとつの到達点として高く評価されている。

原作者の青山剛昌は、プロット段階から監修として深く関わった。コナンと怪盗キッドが本作で見せる一時的な共闘が、原作で描かれてきた二人の人物像から外れないよう、細部にわたって調整を重ねている。本作のキッドは盗みよりも人命を優先するが、これは『怪盗キッドは決して人を傷つけない』という原作以来の人物像と矛盾しない選択であり、クライマックスもまた、その延長線上に置かれている。

監督と演出

監督は山本泰一郎。本作以前からテレビアニメ『名探偵コナン』のシリーズディレクターを長く務め、劇場版でも演出や絵コンテで参加してきた。本作は彼が劇場版の監督を正式に初めて手掛けた一本である。こだま兼嗣が築いてきた劇場版の演出の基調を引き継ぎながら、機内という極端に狭い舞台のなかで観客の体感を途切れさせない、独自の構成力を見せた。

山本が本作で繰り返し選ぶ画面構成は三つある。機内の通路を奥行きで切り取るロングショット、コックピットの計器に寄るタイトなクローズアップ、そして窓の外の雲海と空の青を背景に据えた広い構図。この三つを丁寧に往復させていく。空という単色に陥りがちな舞台にあって、色と距離の感覚を観客へ絶えず送り続ける。その設計が、本作の長尺サスペンスを最後まで保たせている。

アニメーション制作

アニメーション制作はトムス・エンタテインメントが手がけた。シリーズを通じて長くタッグを組んできたスタジオが、本作でも背景美術・作画・3Dという三本柱を支えている。新型ジェット旅客機ベル・ツリー1号の機体、機内のシート配置、コックピットの計器パネル、機外から見た機影と雲海、さらには東京湾上に設けられた特設着水ラインまで――航空サスペンスとしての世界観に説得力を与える絵作りが、シーンごとに丁寧に積み上げられている。

なかでも操縦室の作画密度は、シリーズの中でも一段高い水準にある。コナンとキッドが計器を読み上げる場面では、メーターのランプの明滅、ヘッドセットのケーブルの揺れ、二人の手のひらの動きや体重の乗せ方まで、長尺のシーンを通して動き続ける。クライマックス、東京湾上での着水シーンは見どころだ。3DCGによる機体モデルと、手描きで描かれたしぶきや煙を組み合わせ、銀色の機体が海面を擦りながら止まっていく重量感を一気に立ち上げる。シリーズ屈指のショットに仕上がった。

音楽と主題歌

音楽は大野克夫。シリーズ全体のメインテーマを手掛けてきた作曲家であり、本作の劇伴でも、お披露目フライトの祝祭感から、機内での連続毒殺がもたらす不穏、コックピットでの操縦のスリル、そして緊急着水へ向かう緊迫の高まりまでを描き分ける。過剰な強調を避けた、シリーズらしい上品な筆致だ。とりわけ、無線越しに西野初がコナンとキッドへ語りかける場面で背後に流れる弦楽の旋律は、本作の地上側のテーマとして長く記憶に残るだろう。

主題歌は倉木麻衣の「Dream × Dream」(作詞:倉木麻衣/作曲:大野愛果/編曲:徳永暁人)。倉木麻衣は本作以前から劇場版『名探偵コナン』の主題歌を何度も手掛けており、シリーズの主題歌史を支えてきた中心的なアーティストの一人である。夜空へ銀色の翼を伸ばしていく一機の機体と、その下で別の場所から夢を見続ける人々のすれ違いを、平易な日本語で歌い上げる一曲。本作のラストカットからエンドロールへと続く余韻を、一段と大きく押し上げてみせる。

キャストと声の演出

高山みなみのコナン、山口勝平の新一、山崎和佳奈の蘭、神谷明の小五郎、松井菜桜子の園子、林原めぐみの灰原哀、緒方賢一の阿笠博士、そして岩居由希子・大谷育江・高木渉の少年探偵団。シリーズのレギュラー陣が安定した演技を聞かせる。なかでも山口勝平は本作で、自身の演じる工藤新一の小さな分身であるコナンと、副操縦士の制服で隣に立つ怪盗キッド/黒羽快斗の二人を、同時に、しかも長尺で演じ分ける。シリーズ屈指の難役を引き受けた格好だ。

ゲスト声優陣では、ベテランの女性機長・西野初を田中麗奈、子役の牧樹里を鈴木杏、報道カメラマン東京太郎を嶋田久作、鈴木次郎吉を永井一郎が演じ、空と地上、双方の物語の温度を支える。実写の俳優として広く知られる田中麗奈、鈴木杏、嶋田久作が、それぞれ無線越しの落ち着き、子役の利発さ、報道屋の癖の強さを声だけで描き分けてみせる。本作のゲスト声優起用の歴史のなかでも記憶されるべき配役である。

アクションとサスペンス演出

本作のアクション設計は、シリーズのなかでも特異な位置にある。派手な格闘や追跡があるわけではない。観客の緊張は、機内の通路を歩くキャビンアテンダントの足取り、手から手へと渡されるコーヒーカップ、計器の針のわずかな動き、無線越しに途切れる声——そうしたごく小さな身振りへ、次々と乗り移っていく。空という閉じた舞台で、観客が一瞬たりとも視線を逸らせないよう、サスペンスの単位そのものを通常より細かく刻む。そんな演出が選ばれている。

クライマックスの東京湾上への着水着陸は、シリーズでも特筆すべきアクションシーンのひとつだ。海面に張られた特設の進入ラインへ、銀色の機体が低い高度で滑り込んでいく。火薬の派手な爆発に頼らない『静かなクライマックス』として組まれ、その静けさのなかに、本作のテーマである『地上に降りる覚悟』が結晶している。

28公開と興行

本作は2004年4月17日に日本で全国公開され、最終的に約28億円の興行収入を記録した。観客動員数は約220万人とされる。劇場版『名探偵コナン』シリーズがそれまでに築いてきた興行の流れを順調に受け継ぎ、以降のシリーズを安定したヒット路線へと橋渡しする位置に置かれた一本である。山本泰一郎にとって劇場版監督の初作品でありながら、シリーズの興行基盤を一段も落とすことなく、次の世代の演出体制を確立した。その点が本作の興行的な意義として、後年に高く評価されている。

公開直後から本作は、シリーズのなかの「航空サスペンスもの」として観客の話題を集めた。空という閉じた舞台で連続毒殺と緊急着陸を組み合わせる構成は、それ以前のシリーズにはなかった方向性であり、題材選びの幅を一段広げる成果として受け止められた。テレビ放送は公開翌年の春、日本テレビ系『金曜ロードショー』の枠で実現した。その後も毎年春の劇場版公開時期に合わせ、代表的なシリーズ過去作の一本としてたびたび再放送されている。

後年には小説版や関連書籍も刊行され、劇場版を文章で追い直したい読者にも門戸が開かれた。劇場版のなかで本作の名がしばしば語られる文脈は、ひとつにはシリーズが舞台設定の幅を広げた節目としてであり、もうひとつは主題歌である倉木麻衣の『Dream × Dream』が代表曲として広く愛唱されてきた歴史としてである。

29批評・評価・文化的影響

本作の評価は、大きく三つの軸で語られてきた。第一に、物語のほぼ全編を一機の新型ジェット旅客機の機内に閉じ込めるという題材の希少性が、シリーズの中でも特に新しい一本として受け入れられた。空という逃げ場のない場所で、連続毒殺と緊急着陸を重ね合わせていく構成は、それまでのシリーズの典型だった『観光地+ゲストの過去+大爆発』というフォーマットから一歩踏み出した挑戦であり、シリーズが選びうる題材の幅広さを証明してみせた。

第二に、怪盗キッドが本作で見せる『盗む側ではなく、一時的に救う側へ回る』という選択が、後の劇場版におけるキッド像の方向性を決定づけた点だ。本作のキッドは、コナンを完全な味方とは見なさないまま、それでも目の前の数十名の命を優先して副操縦士席に座り続ける。この線引きこそが、後年の劇場版でキッドが登場する際の人物像の基準点となり、ファンの間でも『キッドの新しい顔を見せた一本』として繰り返し語り継がれている。

第三に、山本泰一郎の劇場版監督デビュー作として、シリーズの世代交代の節目に立つという歴史的意義である。本作以降、山本はシリーズの劇場版を継続的に手掛ける立場となり、いわばシリーズ第二期と呼べる時代の演出基調を形づくっていく。その出発点として、本作はシリーズ史のなかで常に名前を呼ばれる一本となった。文化的にも、主題歌『Dream × Dream』は倉木麻衣の代表曲のひとつとして広く愛されている。本作の題名を聞いただけで、夜空を渡る銀色の翼と、地上へ届く夢の歌詞が同時に思い浮かぶ。楽曲と映像が一体となった記憶を、観客の側に残した作品だと言えるだろう。

舞台裏とトリビア

本作は、劇場版『名探偵コナン』シリーズで山本泰一郎が初めて監督を務めた一本である。第1作から第7作までを支えた監督こだま兼嗣からバトンが正式に受け渡された格好となり、後年にはシリーズの世代交代の起点として位置づけられた。

怪盗キッドは劇場版第3作『世紀末の魔術師』に続く本格登場となった。キッドがコナンと並ぶ場面に大きく時間が割かれた最初期の一本として、いまも参照され続けている。本作以降、怪盗キッドが登場する劇場版(『天空の難破船』『業火の向日葵』『紺青の拳』ほか)は、シリーズの中で独自の系譜として整理されることが多い。

ベル・ツリー1号という機名は本作のための架空のものだが、新型ジェット旅客機をシリーズ単独の固有名詞として用意した発想は、後年の劇場版に見られる『シリーズだけの固有名詞付き乗り物』へとつながっていった。タイトル『銀翼の奇術師』のルビは『ぎんよくのマジシャン』、英題は『The Magician of the Silver Sky』である。タイトルの『奇術師』が指す対象を、副操縦士席に座る怪盗キッドと、機内に紛れて連続毒殺を進める真犯人の二人に重ねている点は、しばしば批評の対象となる。

ゲスト声優陣に、実写畑の俳優として広く知られた田中麗奈・鈴木杏・嶋田久作の三人が同時に起用された点も、本作のキャスティング上の特色である。劇場版『名探偵コナン』が毎年の話題作りとして実写の俳優陣を積極的に取り込むなかで、本作はその起用が特に成功した一本として記憶されている。主題歌『Dream × Dream』は、シリーズで活躍してきた倉木麻衣が本作のために書き下ろし、劇場版の主題歌史を代表する一曲として広く知られている。

31テーマと解釈

本作の中心テーマは「閉じた空での選択」である。逃げ場のない機内を舞台に、登場人物はそれぞれ自分の立場と能力のなかでできることをただ一つだけ選び取らされていく。コナンは推理を、怪盗キッドは盗みではなく操縦を、西野初は地上から無線で空へ手を伸ばすことを、毛利蘭は客席後方を守ることを、鈴木次郎吉は招いた人々の命を最後まで案じることを——空という極限の場所でしか問われ得ない「この瞬間の自分」を、誰もが引き受けていく。その構造が、物語を縦に貫いている。

もうひとつのテーマは「過去の事故と現在の祝祭」である。新型機ベル・ツリー1号のお披露目フライトという最大の祝祭の場が、旧型機の航空事故をめぐる根深い恨みを晴らす舞台に選ばれた——その真犯人の動機こそ、本作のもっとも重い核を成している。同じ機体メーカーの名のもとに、新型機の祝祭と旧型機の犠牲者の記憶が、ひとつの空の上で重なり合う。それは技術と進歩を語る現代社会そのものへの、静かな問いかけでもある。

そして三つ目のテーマは、副題が指し示す「奇術師」の二重性である。副操縦士席に座り、機体を地上へ届ける怪盗キッド。文字どおり華やかなこの奇術師の隣には、機内に紛れ、目に見えぬ毒を仕掛けたもう一人の冷たい奇術師がいた。「見えないものを見せる」同じ技を、片や人を救うために、片や人を奪うために使い分ける。この二人の対比が、本作のタイトルを最後まで支え続ける。

ラストカットで海面に浮かぶ銀色の機体と、地上の管制塔でヘッドセットを外す西野初の姿は、空という閉じた舞台の物語の結びとして、長く記憶されるだろう。主題歌『Dream × Dream』のタイトルが指し示すのは、空の上で重なった夢と、地上に降りた夢、その二つの並走である。本作が単なる航空サスペンスを超え、シリーズに生きる人物たちの「現場へ戻る覚悟」を肯定する物語として残り続ける理由は、まさにここにある。

テーマと解釈

32見る順番

劇場版『名探偵コナン』は基本的に一作完結で、本作も初見の観客に特別な予備知識を求めない航空サスペンスとして組み立てられている。原作『名探偵コナン』の最も基本的な人物関係——コナンが工藤新一の縮んだ姿であること、毛利蘭が新一の幼馴染であること、毛利小五郎が蘭の父で探偵を営んでいること、鈴木園子が蘭の親友で鈴木財閥の令嬢であること、そして少年探偵団とは何か——この程度を押さえておけば、十分に楽しめる作りになっている。

本作の見どころのひとつが、怪盗キッド/黒羽快斗が副操縦士の制服に身を包んで乗り込んでくる、劇場版での本格的な活躍である。怪盗キッドの初登場作にあたる劇場版第3作『世紀末の魔術師』を先に観ておくと、本作で見せるキッドの軽妙な口ぶりや紳士的な立ち居振る舞いの背景が、より深く読み取れるだろう。本作からさらにキッドを追いたいなら、後年の『天空の難破船』『業火の向日葵』『紺青の拳』『100万ドルの五稜星』といったキッド登場作へ進むのが分かりやすい。

シリーズの公開順に沿って本作を味わうなら、前作にあたる劇場版第7作『迷宮の十字路(クロスロード)』を観たうえで本作の空の上の密室劇に触れ、次作の劇場版第9作『水平線上の陰謀(ストラテジー)』へと進む流れが最も分かりやすい。前作・本作・次作の三作は、いずれも舞台選びも演出のトーンも大きく異なる。シリーズの作風の幅をまとめて体感できる三本立てとしても、おすすめの組み合わせだ。

見る順番

33よくある質問

「あらすじだけ知りたい」という向きには、次の流れを押さえれば十分だ。怪盗キッドの予告状とともに、新型ジェット旅客機ベル・ツリー1号が北海道・千歳空港から離陸する。やがて機内で連続毒殺事件が発生し、機長と副操縦士までもが倒れて操縦士不在に陥る。この危機を、副操縦士に化けていた怪盗キッドとコナンが、地上のベテラン女性機長・西野初による無線指揮のもとで東京湾上に緊急着水着陸させる――。「結末・ネタバレを知りたい」という向きには、機内に紛れていた真犯人が、過去のベル・ツリー社旧型機の航空事故への復讐として連続毒殺を企てていたこと、最終的にベル・ツリー1号が乗員乗客全員を救助する形で東京湾上への着水着陸を成功させること、そして怪盗キッドが財宝『天空の貴婦人』を盗まずに姿を消すことが核となる。

「犯人は誰か」。本作の真犯人は、機内に紛れ込んでいた整備・運航関係の乗務員の一人であり、過去の旧型機事故で家族あるいは近しい人を失った復讐者として描かれている。「動機」はこうだ。新型ベル・ツリー1号のお披露目という最大の祝祭の場で、旧型機事故の処理に関わった鈴木財閥側と機体メーカー側の責任者たちを一人ずつ毒殺していく。最悪の場合には、機体ごと墜とすことまで視野に入れていた。

「初見でも見られるか」。本作は単体で完結しているため、初見でも問題なく楽しめる。怪盗キッドが登場することから、劇場版第3作『世紀末の魔術師』を先に観ておけばキッド像の背景がより深く読めるが、必須ではない。「主題歌は誰の曲か」。倉木麻衣の『Dream × Dream』(作詞:倉木麻衣/作曲:大野愛果/編曲:徳永暁人)が劇場版の主題歌として全面的に起用された。

「ゲスト声優は誰か」。ベテラン女性機長・西野初を田中麗奈、子役の牧樹里を鈴木杏、報道カメラマン東京太郎を嶋田久作が演じ、鈴木次郎吉を永井一郎が担当した。「興行はどうだったか」。興行収入約28億円、観客動員約220万人を記録し、シリーズ前半期の安定した代表作の一つとなった。

34参考資料・脚注

作品名、画像、キャラクター名、および各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年、興行成績、配信状況、外部の評価などは変動する場合があるため、視聴前に公式サイトや各データベースの最新情報を確認されたい。本記事の本文は、各種の公開情報をもとに、Anna Movies独自の日本語記事として構成したものである。

参考資料・出典 (5件)
  1. 劇場版『名探偵コナン』公式サイト
  2. 週刊少年サンデー公式(原作)
  3. 東宝映画情報
  4. Wikipedia: 名探偵コナン 銀翼の奇術師
  5. 倉木麻衣 公式サイト