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名探偵コナン

名探偵コナン 世紀末の魔術師

ロマノフ家最後の宝『メモリーズ・エッグ』をめぐり、怪盗キッドが劇場版へ初参戦する記念碑的な一本。ガラス越しの宝石、二人のシルエット、燃え落ちる『百年城』——20世紀の終わりに、もう一人の名探偵と一人の大泥棒が同じ夜空の下に並んだ、劇場版『名探偵コナン』第3作。

媒体: 劇場アニメ 日本公開: 1999年4月17日 監督: こだま兼嗣 配給: 東宝
名探偵コナン 世紀末の魔術師 公式ポスター

作品データ

作品
名探偵コナン 世紀末の魔術師
読み
めいたんていコナン せいきまつのまじゅつし
英題
Detective Conan: The Last Wizard of the Century
媒体
劇場アニメ
日本公開
1999年4月17日
シリーズ番号
劇場版第3作
監督
こだま兼嗣
脚本
古内一成
音楽
大野克夫
原作
青山剛昌『名探偵コナン』(小学館『週刊少年サンデー』連載)
アニメーション制作
トムス・エンタテインメント
配給
東宝
上映時間
100分
主題歌
小松未歩「あなたがいるから」(作詞・作曲:小松未歩/編曲:池田大介)
興行収入
約26億円(観客動員約220万人)
主要モチーフ
怪盗キッド、ロマノフ家『メモリーズ・エッグ』、皇帝のイースター・エッグ、アナスタシア伝説、大阪・敦賀城を模した『百年城』、過去の暗殺者『スコーピオン』
主要登場人物
江戸川コナン/工藤新一、毛利蘭、毛利小五郎、鈴木園子、阿笠博士、少年探偵団、目暮十三、白鳥任三郎、服部平次、遠山和葉、鈴木次郎吉、怪盗キッド/黒羽快斗、井上靖之、スコーピオン
前後作品
前作『14番目の標的(ターゲット)』(1998)/次作『瞳の中の暗殺者』(2000)
公式予告編は
劇場サイトで確認
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📖 全34章 / 約18K字 🔄 最終更新 2026年5月26日 ✍️ Anna Movies 編集部

『名探偵コナン 世紀末の魔術師』は、1999年に公開された劇場版アニメ『名探偵コナン』シリーズ第3作である。ロマノフ家最後の宝『メモリーズ・エッグ』をめぐる事件を軸に、江戸川コナンが謎を追う。本作は怪盗キッドが劇場版へ初めて参戦した記念碑的な一本であり、名探偵と大泥棒が同じ夜空の下で対峙する物語として知られる。

00概要

『名探偵コナン 世紀末の魔術師(せいきまつのまじゅつし)』は、青山剛昌の漫画『名探偵コナン』を原作とした日本のアニメ映画で、1999年4月17日に東宝の配給で公開された。劇場版シリーズ第3作にあたり、監督はこだま兼嗣、脚本は古内一成、音楽は大野克夫が手がけている。アニメーション制作はトムス・エンタテインメント。上映時間は100分である。タイトルに『20世紀末』という年号そのものを掲げた本作は、原作および同じ青山剛昌のスピンオフ作品『まじっく快斗』で人気を集めていた怪盗キッド/黒羽快斗を、劇場版『名探偵コナン』へ初めて本格的に登場させた、記念碑的な一本としても知られる。

舞台のひとつとなるのは、鈴木財閥総帥・鈴木次郎吉が新たに購入した骨董品コレクションのお披露目パーティだ。その目玉として展示されるのが、ロシア帝国最後の皇帝ニコライ二世が、皇女アナスタシアの生誕を祝って職人ピョートル・カール・ファベルジェに作らせたとされる『メモリーズ・エッグ(記憶の卵)』である。ロマノフ家がボリシェヴィキ革命の混乱の中で滅亡した1918年、皇族とともに失われたとされてきたこの宝飾エッグが、約80年の時を経て次郎吉のもとへ流れ着く——。そこから本作の事件は動き出す。

中心となるのは、江戸川コナンと、彼を狙うかのように予告状を送りつけてくる怪盗キッド/黒羽快斗、そして大阪府警の知り合いを通じてパーティに招かれた高校生探偵・服部平次と、幼馴染の遠山和葉である。物語は二本柱で組まれている。メモリーズ・エッグをめぐる怪盗キッドの予告状という派手な表の舞台。そしてその裏で、ひっそりと進行していく古い暗殺事件——『20世紀の魔術師』と呼ばれた女スパイにして暗殺者『スコーピオン』をめぐる影の物語だ。やがて二つの流れは、大阪に建てられた敦賀城の精巧な複製『百年城』で交差する。

公開後の興行は、最終的に約26億円、観客動員約220万人を記録した。前作『14番目の標的(ターゲット)』からさらに成績を伸ばし、劇場版『名探偵コナン』が春の興行の恒例として定着していく過程で、決定的な拡大を果たした一本である。主題歌は小松未歩の『あなたがいるから』。本記事は、結末、真犯人、スコーピオンの正体、そしてメモリーズ・エッグの中身まで、全編の内容に踏み込む。物語の重大な驚きを保ちたい場合は、まず本編を鑑賞してから読み進めることを勧めたい。

概要

主要データ

原題
名探偵コナン 世紀末の魔術師
シリーズ
劇場版『名探偵コナン』第3作
監督
こだま兼嗣
脚本
古内一成
音楽
大野克夫
主題歌
小松未歩「あなたがいるから」
日本公開
1999年4月17日
上映時間
100分
ジャンル
ミステリー、サスペンス、怪盗もの、アクション

01あらすじ

ここから先は結末まで含めた全編のあらすじである。物語は、鈴木財閥総帥・鈴木次郎吉のもとに届いた怪盗キッドの予告状から動き出す。お披露目パーティで第一の宝石が奪われ、やがて骨董商・井上靖之が殺害される。さらに服部平次が怪盗キッドと取り違えられ、命を狙われる事態に発展する。物語はロマノフ家『メモリーズ・エッグ』の中身をめぐり、古い暗殺者『スコーピオン』との攻防へと進み、そして敦賀城を模した大阪の城『百年城』が炎に包まれるクライマックスへと収束していく。

あらすじ

予告状

物語は、鈴木財閥総帥・鈴木次郎吉のもとへ一通の予告状が届く場面から動き出す。差出人は怪盗キッド。本日のお披露目パーティの席上で、次郎吉が手に入れたばかりの骨董品『メモリーズ・エッグ』を頂戴する——そんな趣旨が、シンプルなシルエットとモノクルの絵柄を添えて記されている。20世紀末という時代の節目に、世間で『最後の魔術師』と囃される怪盗が、ロシア帝国最後の遺品を狙う。いかにも芝居がかった構図である。

次郎吉は予告状を逆手に取った。怪盗キッドを罠にかけ、自らの手で捕らえようと、毛利探偵事務所と警視庁を巻き込んで大規模なお披露目パーティを開く。会場は次郎吉所有のホール。招待客には毛利小五郎・蘭、コナン、鈴木園子のほか、報道陣、骨董の目利き、財界関係者が顔を揃え、現場の警備は目暮十三警部と白鳥任三郎警部のラインで固める。さらに大阪府警の警察関係者の紹介で、高校生探偵・服部平次と幼馴染の遠山和葉までもが招かれ、東西二人の高校生探偵が同じ夜の下に並ぶ。

予告の時刻が近づくにつれ、会場の照明は段階的に絞られていく。展示ケースの中央には、鈴木次郎吉が手に入れたロマノフ家の『メモリーズ・エッグ』が、薔薇色の柔らかな光に包まれて置かれている。集まった人々は、半分が宝の在処に、もう半分は怪盗が現れる扉のほうに視線を注ぐ。明るい祝祭と、その裏側でひっそりと動き出す影の物語。その対比が、本作の最初の数十分でじっくりと立ち上げられていく。

予告状

お披露目パーティ

予告の時刻ちょうど、会場の照明が一斉に落ちる。複数のスポットライトが乱反射するなか、観客が再び光景を目にしたときには、メモリーズ・エッグはケースから消え失せ、後に残されたのは怪盗キッドの署名と一輪の薔薇だけだった。会場の出入口は警察によって固められ、犯人は確実にこの会場のどこかにいる——にもかかわらず、警備陣の輪の中央で、宝だけがあっさりと姿を消す。手品師としての怪盗キッドの面目躍如たる、本作最初の見せ場である。

コナンは、天井裏の通気口、ステージ袖のドアの位置、照明係の動線を素早く頭の中で結びつけ、怪盗キッドの逃走経路を組み立てていく。服部平次もまた、東洋人離れした体さばきと鋭い観察眼で同じルートに踏み込む。屋上へ追い詰められたキッドは、薄絹のような小型のハンググライダーを広げ、夜の街並みの上へと滑空して逃げる。手すりから飛び出す彼の細い影と、コナン、服部のふたつの影が、月明かりの下でほんの一瞬だけ並ぶショットは、本作のキービジュアルの原型のひとつとなった。

ところが、奪い去られたはずのメモリーズ・エッグは、その夜のうちに警察と探偵団の手元へ静かに戻ってくる。怪盗キッドは『この卵は、お前のものでも私のものでもない』という趣旨の短い書き置きを残し、卵を返して姿を消す。表向きの怪盗劇は、ここでひとまず幕を下ろす。だが、ロマノフ家の卵そのものが、本来あるべき場所ではない誰かの手元に渡ったままだという感覚だけは、登場人物と観客の双方に薄く残される。物語は、そのまま次の局面へと移っていく。

お披露目パーティ

骨董商の死

事態が決定的に動くのは、次郎吉にメモリーズ・エッグを売却した骨董商・井上靖之が、自宅を何者かに荒らされ、殺害された姿で発見されたという報せが届いた瞬間だ。捜査に向かったコナン、毛利小五郎、目暮警部、白鳥警部は、井上の私室と書斎が徹底的に物色された跡を確認する。盗まれた品は少ない。犯人が狙ったのは明らかにメモリーズ・エッグそのもの、あるいはそれにまつわる『情報』だった。

井上の遺体の手元には、ダイイング・メッセージとおぼしき走り書きが一本残されていた。一見すると意味の取れないアルファベットと数字の羅列だが、コナンと服部平次が交互に組み替えていくうちに、それがロマノフ家にまつわる一語と、ある場所を指す隠喩を兼ねていることが浮かび上がる。怪盗キッドの予告と同じ夜、まったく別の文脈で進行していた『本物の事件』。その輪郭が、ここでようやく立ち上がる。

このあたりで観客が察し始めるのは、本作のタイトル『世紀末の魔術師』が指すのは一人ではない、ということだ。20世紀末という時代の節目に、派手な手品で人々を魅了する怪盗キッド。その裏側に、別の意味で『20世紀の魔術師』と呼ばれた人物がもう一人いる——そしてその影は、ロマノフ家の卵とともに、80年近い時の地中を這い、再び大阪の地表へ顔を出そうとしている。

骨董商の死

服部平次、キッドと取り違えられる

ここで物語に大きな捻れを与えるのが、高校生探偵・服部平次の存在である。お披露目パーティの夜、屋上で怪盗キッドを追跡した平次は、月明かりの下で彼と一瞬だけ正面から対峙した。背格好、髪型の輪郭、すらりとした立ち姿——それらが偶然にも、平服のままの黒羽快斗(怪盗キッドの素顔)と驚くほど近かった。それが平次を危険へ巻き込む引き金となる。

翌日以降、平次は人気のない場所で何者かに繰り返し命を狙われる。最初は通行人に紛れた人物が放つスタンガン、次は車両が進路を変えての衝突未遂、さらに大阪の街を見渡せる橋のたもとでの待ち伏せ——いずれの場面でも、襲撃者は明らかに『怪盗キッドの素顔』を消そうとする者の手付きで動いている。和葉と平次がはぐれかける場面、和葉がもう一段強く平次を案じはじめる場面が、本作における二人の関係を一歩深いものへと押し上げていく。

コナンは、襲撃者の動きと井上殺害現場に残された痕跡を突き合わせ、ある仮説に行き着く。井上を殺した人物は、ロマノフ家の卵を狙うと同時に、その夜屋上で『怪盗キッドの素顔』を見たかもしれない目撃者を、念のために消そうとしている。平次が狙われているのは彼自身に恨みがあるからではない。ただ運悪く、『キッドと顔を合わせた高校生』として記録されてしまったからである——。観客にだけ、本作の影の犯人、すなわち平次でもキッドでもない第三者の輪郭が、ここで初めて明確な像を結びはじめる。

服部平次、キッドと取り違えられる

メモリーズ・エッグ

一方、コナンと平次、そして阿笠博士は、メモリーズ・エッグそのものの来歴を一から洗い直していく。皇帝ニコライ二世が皇女アナスタシアの生誕を祝い、宮廷御用達の宝飾師ピョートル・カール・ファベルジェに特別に作らせたとされる『記憶の卵』だ。卵の表面にはロマノフ家の家紋と細密な彫刻が施され、内部には開閉式の小さな仕掛けが組み込まれている——そんな伝承が残されている。ボリシェヴィキ革命のさなか、皇族とともに失われたはずの卵が、なぜか80年近い歳月を経て大阪の鈴木邸へ流れ着いた。その経緯こそが、本作の謎の中心に据えられている。

卵に隠された仕掛けは、皇帝家がボリシェヴィキの追及を逃れるため宮殿の地下に隠したとされる帝室財宝、その在処を示す『鍵』のひとつだったのではないか——本作はこの仮説を、登場人物たちが順に積み上げる形で観客へ提示していく。皇女アナスタシアの『生存伝説』、ロマノフ家最後の夜に焼かれた書類、シベリアを越えて日本へ流れ着いた亡命貴族のルート。これらが少しずつ結びついていく構成は、シリーズのなかでも特に歴史的な広がりを持ったプロットといえる。

井上靖之を殺害した犯人が執拗に卵を狙うのは、単なる宝石としての価値のためではない。その内部に秘められた『記憶』——ロマノフ家が隠した遺産の位置情報、あるいはそれにまつわる古い秘密——を独占したいからである。本作のミステリーは純粋な殺人事件であると同時に、20世紀そのものの記憶をめぐる歴史ミステリーでもある。観客はここで、その二重の構造をはっきりと理解することになる。

メモリーズ・エッグ

鈴木次郎吉

本作で本格的に劇場版へ登場した人物のひとりが、鈴木財閥総帥・鈴木次郎吉だ。鈴木園子の大叔父にあたるこの老紳士は、怪盗キッドの予告状を逆手に取り、自らパーティを主催する。自分のコレクションを餌に大泥棒を罠にかけようという、豪胆な経済人である。劇場版『名探偵コナン』におけるキッドと次郎吉の対立構図は、ここに始まった。

次郎吉は単なる金満家ではない。骨董と歴史を深く愛し、メモリーズ・エッグについても、その美術的価値だけでなく、ロマノフ家最後の悲劇を象徴する重みを十分に承知している。お披露目の場で観客に語る「この卵は単なる宝石ではない、20世紀そのものの記憶だ」という趣旨の口上は、本作のテーマの一端を担う台詞でもある。

事件が複雑になっていくなかでも、次郎吉はパーティの主催者としての責任を最後まで放棄せず、コナンと服部平次の捜査を惜しみなく支える。後年の劇場版『天空の難破船』『業火の向日葵』『紺青の拳』でキッドと真っ向から対峙していく次郎吉像、その原型は、本作の落ち着いた指揮ぶりにすでにすべて宿っている。

鈴木次郎吉

百年城

メモリーズ・エッグの内部の仕掛けと、井上が残したダイイング・メッセージ、そして鈴木家のコレクションのなかにあった古い記録を結び合わせて、コナンと平次は、本作のクライマックスの舞台が大阪に存在する一棟の城——敦賀城を実物大で精巧に模した観光城『百年城』——であることを突き止める。歴史的な敦賀城そのものではなく、20世紀の初頭に経済人の手で建てられた『模造の城』であり、内部には当時の意匠を再現した広間、回廊、天守閣が残されている。

コナン、平次、和葉、蘭、園子、小五郎、阿笠博士、少年探偵団、目暮警部、白鳥警部——本作の主要人物の多くが、それぞれの目的でこの『百年城』へ集まる。次郎吉は所有者のコネクションでパーティの延長としての立ち入りを段取りし、警察は犯人逮捕の現場として、コナンと平次は事件の最終的な解決の場として、それぞれこの城を選び取る。城の中の地下、隠し部屋、天守の最上層が、それぞれの登場人物の動線として並列に進む構成は、本作の終盤の濃さを支える。

城内ではメモリーズ・エッグの内部の仕掛けが解かれ、ロマノフ家の隠し財宝にまつわる文字情報が浮かび上がる。だが、その瞬間を狙って、本作の本当の犯人である『20世紀の魔術師』スコーピオンが、姿を現すことになる。

百年城

スコーピオン

本作の真の敵は、20世紀前半から後半にかけて欧州とアジアで暗躍したと伝えられる伝説の暗殺者『スコーピオン』だ。劇中の言及によれば、政治要人の暗殺、要塞の奥深くからの情報持ち出し、複数人の同時殺害といった『不可能犯罪』を、まるで手品のように成し遂げてきた。その手口から、犯罪界では『20世紀の魔術師』と呼ばれていたという。男装も女装も自在にこなし、長年その正体を誰にも突き止められなかった——そこにこの暗殺者の最大の特異性がある。

スコーピオンが本作で動く理由は、ロマノフ家の隠し財宝そのものではない。自らの正体を知る数少ない生存者を、20世紀末という節目に合わせて始末しておきたい、という極めて個人的な動機にある。井上靖之はその一人だ。屋上で怪盗キッドと顔を合わせたかもしれない服部平次もまた、消すべき相手として名を連ねてしまう。怪盗キッドの華やかな魔術と、スコーピオンの冷たい魔術——タイトル『世紀末の魔術師』は、この二人の魔術師を最後まで重ね合わせるように仕組まれている。

終盤、『百年城』の内部で、コナンと服部平次はスコーピオンの偽装を一枚ずつ剥がしていく。スコーピオンはそれまで『無害な大人』『パーティの招待客の一人』として、登場人物の誰もが疑いなく受け入れてきた人物だ。その正体が暴かれる瞬間の衝撃は、本作最大のネタバレとして観客に強い印象を残す。男装か女装かさえ判然としない長い暗闇の時を生きてきた彼/彼女が、20世紀最後の春、大阪の城の中で素顔を晒す——その構図こそが、本作の物語上の核心を成している。

スコーピオン

燃え落ちる百年城

自らの足取りを完全に消そうと、スコーピオンは追い詰められた『百年城』の内部にあらかじめ仕掛けておいた発火装置を作動させる。古い木造の意匠を中心に組まれた城は、たちまち火の手に包まれ、回廊と天守を結ぶ階段が次々と崩れ落ちていく。コナン、服部平次、和葉、蘭、園子、毛利小五郎、阿笠博士、少年探偵団、目暮警部と白鳥警部、鈴木次郎吉——それぞれが自分の脱出と仲間の脱出を同時に背負う、長い数分間が始まる。

コナンは阿笠博士のキック力増強シューズと腕時計型麻酔銃を頼りに、燃え落ちる梁の隙間を縫って城の出口を探す。服部平次は和葉を背負い、一段ずつ階段を確かめながら降りる役を引き受ける。和葉は途中で恐怖をのぞかせながらも、最後まで平次の腕を離さない。鈴木園子はとっさの機転で天守の窓の鍵を開け、消火の水流を内側へ引き込む手助けをする。蘭は煙の充満する廊下で少年探偵団の手を引き、毛利小五郎は阿笠博士と並んで子どもたちの最後尾を守る側に回る。

そこへ、本作のもうひとりの『魔術師』である怪盗キッドが、屋根の上から軽やかに姿を現す。最初の予告状の夜に一度だけ姿を見せて以来、影から全体を見守ってきた彼は、燃え落ちる城のなかで動けなくなった一人を抱え上げ、ハンググライダーで夜の街並みの上へと運び出す。追いかけることもできる立場にありながら、コナンは結局それをしない。両者は短く目線を交わすだけ。メモリーズ・エッグそのものは、怪盗キッドの手で『本来あるべき場所』へと静かに返されていく。

城は明け方までに大半を焼失するが、本作の登場人物に死者は出ない。スコーピオンは火のなかで計画を最終的に断たれ、警察に連行されるのか、自ら炎の向こうへ姿を消すのか——その間で、最後の身振りを観客に残す。20世紀の終わりに、二人の魔術師——一人は宝を盗む大泥棒、もう一人は人の命を盗み続けてきた暗殺者——の物語が、同じ城のなかで完結する。そうして本作は幕を閉じる。

翌朝、コナン、服部平次、和葉、蘭、園子、毛利小五郎、阿笠博士、少年探偵団、目暮警部と白鳥警部、鈴木次郎吉が、まだ煙の残る城跡の前に集まる。残されたのは、焼け焦げた木材と、誰のものとも知れぬ一枚のトランプ——怪盗キッドの『次の予告状』へと続く小さな伏線である。20世紀最後の春に決着した長い物語の終わりと、21世紀へ続く新たな『キッドの物語』の始まり。その二つが、ここで同時に観客へ手渡される。

燃え落ちる百年城
ここまでが全編のあらすじである。以降は登場要素、人物、舞台、制作、興行、テーマなど、作品を資料として理解するための章が続く。

登場要素

本作に登場・言及される主な要素を、劇場版『名探偵コナン』のおなじみの分類に沿って整理しておく。ここに並ぶ固有名詞はあくまで鑑賞の手がかりであり、初見ですべてを覚えておく必要はない。

  • 江戸川コナン/工藤新一
  • 毛利蘭
  • 毛利小五郎
  • 鈴木園子
  • 阿笠博士
  • 吉田歩美
  • 小嶋元太
  • 円谷光彦

  • 目暮十三警部
  • 白鳥任三郎警部
  • 佐藤美和子刑事
  • 高木渉刑事
  • 大阪府警の刑事陣
  • 鈴木財閥(鈴木次郎吉の経営する企業群)
  • 報道陣・骨董関係者の招待客

  • 服部平次(大阪の高校生探偵/声:堀川りょう)
  • 遠山和葉(平次の幼馴染/声:宮村優子)
  • 鈴木次郎吉(鈴木財閥総帥/お披露目パーティの主催者)
  • 井上靖之(次郎吉にメモリーズ・エッグを売却した骨董商/殺害される)
  • 怪盗キッド/黒羽快斗(劇場版へ初参戦する大泥棒/声:山口勝平)
  • スコーピオン(20世紀を生きた伝説の暗殺者/本作の真犯人)
  • パーティの招待客たち(報道陣・財界・芸能・骨董)

  • 本作の連続事件の真犯人は、20世紀の前半から後半にかけて欧州とアジアで暗躍した伝説の暗殺者『スコーピオン』である
  • スコーピオンは長年男装と女装を自在に使い分けてその正体を秘匿してきた人物で、本作では一見『無害な大人』『パーティの招待客の一人』として登場人物に紛れ込んでいる
  • 動機の核は、20世紀末という節目に合わせて自らの正体を知り得る数少ない生存者を始末しておくことであり、骨董商・井上靖之の殺害も、屋上で怪盗キッドと顔を合わせたかもしれない服部平次への執拗な襲撃も、この一点に由来する
  • ロマノフ家『メモリーズ・エッグ』の内部の仕掛け(皇帝家の隠し財宝の在処に通じる『鍵』)はあくまでスコーピオンが過去から拾い上げてきた副次的な戦利品であり、本来の目的ではない
  • 怪盗キッドはスコーピオンとは別の文脈で動いていた『もう一人の魔術師』であり、最終的にメモリーズ・エッグそのものは盗まずに『本来あるべき場所』へ返却し、敵を彼自身の方法で追い詰める形で本作の幕を閉じる役回りを担う

  • 鈴木次郎吉所有のパーティ会場(メモリーズ・エッグお披露目)
  • 骨董商・井上靖之の自宅(第一の殺人現場)
  • 大阪市街・夜の屋根の上
  • 大阪に建てられた敦賀城を実物大で模した観光城『百年城』(クライマックスの舞台)
  • 20世紀末の大阪の街並み(橋・通り・夜景)

  • 怪盗キッドの予告状とシルエットの署名
  • ロマノフ家『メモリーズ・エッグ』とその内部の隠し仕掛け(皇帝家の隠し財宝の在処への鍵)
  • コナンの腕時計型麻酔銃と蝶ネクタイ型変声機
  • 阿笠博士特製のキック力増強シューズと探偵バッジ型トランシーバー
  • 怪盗キッドのモノクル・シルクハット・小型ハンググライダー
  • 井上靖之が遺したダイイング・メッセージ
  • 敦賀城『百年城』内部に仕掛けられた発火装置と古い隠し部屋

  • 主題歌:小松未歩「あなたがいるから」(作詞・作曲:小松未歩/編曲:池田大介)
  • コナン:高山みなみ
  • 工藤新一:山口勝平
  • 毛利蘭:山崎和佳奈
  • 毛利小五郎:神谷明
  • 鈴木園子:松井菜桜子
  • 阿笠博士:緒方賢一
  • 吉田歩美:岩居由希子
  • 小嶋元太:高木渉
  • 円谷光彦:大谷育江
  • 目暮十三:茶風林
  • 白鳥任三郎:井上和彦
  • 服部平次:堀川りょう
  • 遠山和葉:宮村優子
  • 怪盗キッド/黒羽快斗:山口勝平
  • 鈴木次郎吉:永井一郎
  • 井上靖之/スコーピオン関連のゲスト声優陣

12主要登場人物

本作の人物配置は、レギュラー陣(コナン、蘭、小五郎、園子、阿笠博士、少年探偵団、目暮警部、白鳥警部)に、東西の高校生探偵とその幼馴染である二組——服部平次と遠山和葉——、そして鈴木財閥の総帥・鈴木次郎吉、さらに本作のために用意された二人の『魔術師』——怪盗キッドと暗殺者スコーピオン——を組み合わせて成り立っている。劇場版『名探偵コナン』の登場人物が、本作で一段と大きく広がった印象は、後年に至るまで色濃く残る。

江戸川コナン/工藤新一

本作のコナンは、表で進む怪盗キッドの予告状騒ぎと、裏で動いていく古い暗殺事件という、まったく性格の異なる二つの謎を同時に背負う。屋上でハンググライダーを広げる怪盗キッドの背中を追いながら、その同じ夜に殺された骨董商・井上靖之の遺体と向き合う——それが本作のコナンに与えられた立ち位置である。

ここでコナンが繰り返し選ぶのは、同年代の高校生探偵・服部平次の存在を最大限に活かすやり方だ。すべての謎をひとりで追うのではなく、屋上の追跡と京阪間の動きは平次に託し、自らはお披露目パーティの会場と井上靖之の自宅の検証に絞る。こうして、シリーズでも珍しい“二人の名探偵が同時に走る”推理劇が成立していく。やがて終盤の“百年城”では、阿笠博士のキック力増強シューズと腕時計型麻酔銃を頼りに、燃え落ちる梁の下で仲間の脱出路を切り開く役を担う。

江戸川コナン/工藤新一

服部平次と遠山和葉

本作で本格的に劇場版へ加わったのが、大阪府警関係者の伝手でお披露目パーティに招かれた高校生探偵・服部平次と、幼馴染の遠山和葉だ。前年の劇場版第2作『14番目の標的』には姿を見せておらず、原作で人気を確立しつつあった二人に劇場版で大きな枠を与えたのは、本作が最初である。

屋上で怪盗キッドと一瞬だけ顔を合わせてしまった平次は、本作の前半から後半まで、自分自身が『キッドと取り違えられた標的』として狙われ続ける。シリーズの中でも珍しい立ち位置だ。背格好と髪型の輪郭が、平服のままの黒羽快斗とたまたま似ていた——その設定が、彼を物理的にも危険な場所へ繰り返し送り込んでいく。和葉は終始平次の傍を離れず、襲撃の場面でのぞかせる怯えと、相手を信じる強さの両方を、宮村優子の声が支える。

平次と和葉の関係は、本作で『隣にいるのが当たり前の二人』として観客の前に明確に示される。コナンと蘭に並ぶシリーズ二大カップルの一方が、劇場版の中で初めて居場所を得た——その意味で、本作はファンの記憶の中に特別な位置を占めている。

服部平次と遠山和葉

怪盗キッド/黒羽快斗

本作の怪盗キッドは、劇場版『名探偵コナン』に初めて本格的に登場した、いわば一作目のキッドである。シルクハットにモノクル、白いマント、小型のハンググライダー――後年の劇場版でも繰り返し用いられる『キッドの正装』。その劇場版での原型は、お披露目パーティの夜と、屋上で平次・コナンと並ぶ月明かりのショットのなかで確立された。

山口勝平は、コナン本来の声である工藤新一に加え、怪盗キッド/黒羽快斗を同時に演じ分ける。シリーズのなかでも飛び抜けて難しいこの役回りを、本作で初めて劇場版へ持ち込んだ。会場の闇で観客に短くウィンクを送るキッドの口調、屋上で素早く言葉を切るキッドの口調、そして本編側のコナンの声。これらを同じ俳優が並走させていく聴覚の体験は、本作ならではの楽しみのひとつだ。

本作のキッドが他の劇場版と一線を画すのは、彼が単なる『盗む側の人物』として閉じていない点にある。予告状の通りメモリーズ・エッグを一度は盗み出しながら、本来あるべき場所へ静かに返却し、最終的には『百年城』の燃え落ちる屋根の上で、コナン・平次の側へ短く手を貸す。盗む者と救う者の間に立つこのキッド像こそ、後年の劇場版『天空の難破船』『業火の向日葵』『紺青の拳』『100万ドルの五稜星』へとつながる、彼のキャラクター造形の原点となった。

怪盗キッド/黒羽快斗

鈴木次郎吉

鈴木次郎吉は、鈴木園子の大叔父であり鈴木財閥の総帥として、本作で劇場版『名探偵コナン』に本格登場する。怪盗キッドの予告状を逆手に取り、メモリーズ・エッグを餌に自ら罠を張る豪胆な経済人。そして20世紀末という時代の節目に合わせ、『記憶の卵』のお披露目を企画する骨董愛好家。この二つの顔を、永井一郎が重厚な声で同時に演じきる。

次郎吉の見せ場のひとつは、お披露目の場で観客に向かって放つ短い口上である。『この卵は単なる宝石ではない、20世紀そのものの記憶だ』。派手な大泥棒・怪盗キッドと、骨董の世界で『一筋縄ではいかない買い手』として知られる経済人——両者の対立はこの一作に始まる。後年の劇場版でキッドと真っ向から対峙していく次郎吉像の原型は、すでにここで完成している。

事件が複雑さを増してからも、彼はパーティ主催者としての責任を最後まで降ろさない。コナンと平次の捜査に必要な人脈と資金を、惜しまず動員する。鈴木家のコレクションから引き出される『百年城』への伝手も、彼の指揮なしには成立しなかった。劇場版『名探偵コナン』における次郎吉の役割の大きさは本作で確定し、シリーズの登場人物の幅は一段と広がった。

鈴木次郎吉

毛利蘭・毛利小五郎・鈴木園子

本作の毛利蘭は、お披露目パーティの招待客から『百年城』の燃え落ちる廊下まで、終始コナンの隣に居続ける。怪盗キッドの正体に薄々勘づきかける場面、平次と和葉の関係を温かく見守る場面、煙の充満する城のなかで少年探偵団の手を引き、出口へと走る場面——その一つ一つの仕草を通して、蘭は『目の前で困っている人をまず助ける』という、シリーズを貫く彼女の核心を真っ直ぐに示してみせる。

毛利小五郎は、鈴木次郎吉の旧知の探偵として、お披露目パーティと井上靖之邸の捜査、その双方で名前を呼ばれる側に立つ。演じるのは神谷明。本作では『眠りの小五郎』の派手な見せ場よりも、阿笠博士と並んで少年探偵団の最後尾を守る、大人としての場面が印象に残る。コナンの推理を最終的に客席へ届ける役回りは本作でも事件の随所で発揮され、シリーズ恒例のこの構造が、劇場版第3作の時点で既に安定していたことが分かる。

鈴木園子は、大叔父・次郎吉の隣に立ち続ける家族として、本作の感情の重心のひとつを担う。怪盗キッドの予告状の夜には叔父の手を握り、『百年城』の天守では、自らの機転で窓の鍵を開けて消火の水流を内側へと引き込む。怪盗キッドにロマンチックな関心を寄せ始める『キッド好き』の園子像——その劇場版での原型もまた、本作のうきうきとした表情のなかで形を取っていく。

毛利蘭・毛利小五郎・鈴木園子

スコーピオン

本作の真の敵『スコーピオン』は、20世紀前半から後半にかけて欧州とアジアで暗躍した伝説の暗殺者である。劇中の言及によれば、政治要人の暗殺、要塞内部からの情報持ち出し、複数人の同時殺害といった不可能犯罪を、まるで手品のように成功させてきた。その手際から、犯罪界では『20世紀の魔術師』と呼ばれてきた。男装も女装も自在にこなし、長年にわたって誰にも正体を特定されてこなかった——それが彼/彼女の最大の特徴である。

本作で彼/彼女を突き動かすのは、ロマノフ家の隠し財宝そのものではない。自らの正体を知る数少ない生存者を、20世紀末という節目に合わせて始末しておきたい——動機はより個人的なものだ。骨董商・井上靖之はそのリストに名を連ねる一人であり、屋上で怪盗キッドと顔を合わせたかもしれない服部平次もまた、念のため消すべき相手として加えられてしまう。劇中で繰り出す手口は、銃でも刃物でもない。相手の身近に『無害な人物』として紛れ込んで暮らし、決定的な瞬間にだけ動く。まさしく『魔術師』の手付きである。

終盤、『百年城』の内部で正体が暴かれる瞬間の衝撃は、本作最大のネタバレ箇所として観客に強い印象を残す。男装か女装かさえ判然としない長い暗闇の時間を生きてきた者が、20世紀最後の春、大阪の城のなかで素顔を晒す。その構図そのものが、本作の物語上の核心を成している。怪盗キッドの華やかな魔術と、スコーピオンの冷たい魔術——本作のタイトル『世紀末の魔術師』は、最後まで二人の魔術師を二重に指し続けるのだ。

スコーピオン

舞台と用語

舞台は、東京の鈴木次郎吉所有のパーティ会場、骨董商・井上靖之の自宅、夜の街並みの屋上、そして大阪に建てられた敦賀城を実物大で精巧に模した観光城『百年城』へと推移する。劇場版『名探偵コナン』の中でも、東京と大阪を物理的に行き来し、最後を関西の城のクライマックスで締めくくる構成は、後年の『迷宮の十字路』や『紺青の拳』にも通じる、シリーズの一つの定型の原型となっている。

用語面では、『怪盗キッド/黒羽快斗』『鈴木財閥/鈴木次郎吉』『ロマノフ家/メモリーズ・エッグ』『ファベルジェの皇帝のイースター・エッグ』『アナスタシア伝説』『スコーピオン』が物語の鍵となる。前者三つは劇場版『名探偵コナン』が以降のシリーズで繰り返し参照していく固有名詞のセットであり、後者三つは本作のための歴史ミステリーとしての枠組みを支える要素である。ファベルジェの皇帝のイースター・エッグは現実に存在する世界最高水準の宝飾工芸品のシリーズであり、本作のメモリーズ・エッグは、その史実の上に乗せられた物語上の架空のもう一つの卵として位置づけられている。

20制作

劇場版『名探偵コナン』シリーズは、1997年の第1作『時計じかけの摩天楼』、1998年の第2作『14番目の標的(ターゲット)』に続き、本作で三年目の春興行を迎えた。シリーズが恒例の春興行として定着するうえで決定的な役割を果たしたのが本作であり、興行・話題性・キャラクター造形のいずれの面でも、後年の劇場版が拠って立つ基盤を本作が整えたといえる。

制作

企画と脚本

脚本を手がけたのは古内一成。テレビアニメ『名探偵コナン』のシリーズ構成を長く務めてきた人物であり、第1作『時計じかけの摩天楼』、第2作『14番目の標的』に続いて本作の脚本も担当した。20世紀末という年号そのものを題材に取り込み、ロマノフ家の伝説、皇帝のイースター・エッグ、20世紀の暗殺者と、史実と虚構の境界をなぞる重い素材を扱いながら、それをコナンと服部平次という二人の高校生探偵の捜査劇へと巧みに落とし込んだ。その手腕は、シリーズの脚本史のなかでも繰り返し参照されている。

本作で大きな選択となったのが、登場人物の大規模な拡張である。原作と、同じ青山剛昌によるスピンオフ『まじっく快斗』で人気を博していた怪盗キッドを劇場版に投入し、あわせて大阪の高校生探偵・服部平次と幼馴染の遠山和葉も登場させた。原作者の青山剛昌はプロット段階から監修として深く関わっている。盗む者でありながら最後まで人を傷つけないという原作以来のキッド像から外れないよう、細部にわたって調整を施した。

監督と演出

監督はこだま兼嗣。第1作『時計じかけの摩天楼』、第2作『14番目の標的』に続いて本作のメガホンも取り、劇場版『名探偵コナン』の演出基調を初期に築いたシリーズ立ち上げの中核人物である。本作でこだまが選んだ画面構成は、シャンデリアの揺れるお披露目会場の華やかさと、夜の街並みの屋根の上に並ぶ二つの影を照らす月明かりとを、同じ作品の中で滑らかに繋いでみせる「闇と光」の往復にある。

怪盗キッドの登場シーンの演出は、後年の劇場版でも繰り返し参照される定型の原型となった。会場の照明が一斉に落ちる瞬間、複数のスポットが乱反射する数秒間、屋上で薄絹のような小型のハンググライダーを広げる細い影——こうした絵の作り方は、こだまが本作で選んだ「キッドの劇場版での見せ方」として、いまも基準点であり続けている。

アニメーション制作

アニメーション制作はトムス・エンタテインメントが担当。シリーズで長くタッグを組んできたスタジオが、本作でも背景美術・作画・3Dの三本柱を支えた。お披露目パーティを彩るシャンデリアと天井装飾、骨董商・井上靖之の自宅にある書斎、夜の街並みを縁取るスカイライン、そしてクライマックスの舞台となる『百年城』——敦賀城を実物大で精巧に再現した観光城の天守閣、回廊、隠し部屋——。そのいずれもが、丁寧な美術設定のもとに描き起こされている。

とりわけ、クライマックスで『百年城』が炎に包まれていく場面の作画は、本作における動画・美術・撮影の見せ場だ。古い木造の意匠を活かして組まれた城の梁が、ゆっくりと色を変えながら崩れ落ちていく。その長尺のショットは、シリーズの中でも特筆すべき“火事の作画”のひとつとして語り継がれている。炎のなかを通り抜けていく登場人物の動きの描き分けも見事だ。コナンの軽やかさ、服部平次の体さばき、和葉と蘭の懸命な足取り、そして最後尾で落ち着き払う毛利小五郎と阿笠博士——それぞれの動きが、丁寧に分担して描かれている。

音楽と主題歌

音楽は大野克夫。シリーズ全体のメインテーマを手掛けてきた作曲家であり、本作の劇伴でも、お披露目パーティの祝祭感、夜の屋上の緊張、骨董商殺害現場の静けさ、そして『百年城』のクライマックスの高まりまでを、過剰な強調を避けたシリーズらしい上品な筆致で繋いでみせる。なかでもメモリーズ・エッグの中身が明かされる場面、その背後に流れる弦楽の旋律は、本作を歴史ミステリーとして厚みのあるものにする一曲だ。

主題歌は小松未歩の『あなたがいるから』(作詞・作曲:小松未歩/編曲:池田大介)。小松未歩はZARDやB'zと同じビーイング系に連なるシンガーソングライターで、90年代後半を代表する書き手の一人である。本作のために書き下ろされた『あなたがいるから』は、20世紀末の春の都市風景に重ねて聴くバラードとして、シリーズの主題歌史のなかでもとりわけ長く愛唱されてきた。エンディングでこの曲が静かに流れ始めるとき、登場人物たちが20世紀最後の春をくぐり抜けた感触が、観客の胸にもう一度立ち上がる。

キャストと声の演出

高山みなみのコナン、山口勝平の新一、山崎和佳奈の蘭、神谷明の小五郎、松井菜桜子の園子、緒方賢一の阿笠博士、岩居由希子・大谷育江・高木渉の少年探偵団、茶風林の目暮十三、井上和彦の白鳥任三郎——シリーズのレギュラー陣が、いずれも安定した演技を聞かせる。なかでも山口勝平は本作で、シリーズでもとりわけ難しい役どころに挑む。コナン本来の声である工藤新一と、怪盗キッド/黒羽快斗を同時に演じ分けるのだ。劇場版で二役を並走させるのは、これが初めてである。

服部平次役の堀川りょう、遠山和葉役の宮村優子が、そろって劇場版へ初参加した。これも本作のキャスト史上、見逃せない出来事だ。テレビアニメですでに確立されていた二人の関係を、限られた劇場版の尺のなかで改めて観客の前に提示し直す——その役割を、二人の声がそのまま担っている。鈴木次郎吉を演じた永井一郎の重厚な声は、本作のお披露目の口上から『百年城』の脱出指揮まで、物語を一本の太い線で繋いでいく。

アクションとサスペンス演出

本作のアクション設計は、屋上での追跡、橋のたもとの待ち伏せ、夜の街を駆け抜ける追走、そして『百年城』の炎からの脱出と、規模の異なる場面を順に積み重ねていく。派手な爆発に頼らない。観客の緊張は、手すりの上を踏み出す一足、襲撃者の手元で光る小さなスタンガン、一本ずつ崩れ落ちる城の梁の音、無線越しに伝わる誰かの息遣いといった、細やかな身振りの連なりによって保たれていく。シリーズが培ってきたサスペンスの基本形は、この演出で完成の域に達したと言ってよい。

クライマックスの『百年城』炎上シーンは、シリーズでも特筆すべきアクションのひとつである。火に包まれた城のなかを、コナン・平次・蘭・和葉・園子・小五郎・少年探偵団・阿笠博士・目暮警部・白鳥警部・次郎吉がそれぞれの動線で同時に駆け、脱出と仲間の救助を並行して担っていく。そこへ怪盗キッドが屋根の上から姿を現す。コナンと短く目線を交わすだけで窮地を救うわずか数秒は、本作最大のカタルシスのひとつだ。

27公開と興行

本作は1999年4月17日に日本で全国公開され、最終的に約26億円の興行収入を記録した。観客動員数は約220万人とされる。前作『14番目の標的(ターゲット)』の興行をさらに上回り、劇場版『名探偵コナン』が春の風物詩として定着していくうえで決定的な拡大を遂げた一本である。怪盗キッド、そして服部平次・遠山和葉の劇場版初参戦という登場人物面の話題が大きな注目を集め、シリーズの観客層が一段と広がった年でもあった。

公開直後から本作は、シリーズのなかでも「怪盗キッドの劇場版初参戦作」、そして「20世紀末という年号そのものをタイトルに掲げた歴史ミステリー」として観客の話題をさらった。テレビ放送は公開翌年以降、日本テレビ系『金曜ロードショー』の枠で繰り返し放送され、その後も劇場版『名探偵コナン』が春に公開されるたび、代表的な過去作の一本として再放送される機会が多い。

後年には小説版や関連書籍も刊行され、劇場版を文章で改めて追いたい読者にも門戸が開かれた。劇場版のなかで本作の名がしばしば挙がる文脈はふたつある。ひとつはシリーズにおける怪盗キッド登場作群の起点として。もうひとつは、主題歌である小松未歩『あなたがいるから』が、90年代後半のJ-POP史に残るバラードの一曲として長く参照されてきた歴史である。

28批評・評価・文化的影響

本作の評価軸は、大きく三つに分けて考えることができる。まず第一に挙げたいのが、劇場版『名探偵コナン』に怪盗キッド/黒羽快斗を初めて本格的に参戦させたという、シリーズ史上の構造的な意義である。本作以降、劇場版シリーズは「キッド登場作」というもう一つの独立した系譜を抱えていくことになる。後年の『天空の難破船』『業火の向日葵』『紺青の拳』『100万ドルの五稜星』に至るまで、その源流として本作はつねに言及されてきた。

第二に、服部平次・遠山和葉、そして鈴木次郎吉という、シリーズのなかでも特別な位置を占める三人を、一本のなかでまとめて劇場版へ本格的に持ち込んだ点である。本作以降、登場人物の幅は大きく広がった。コナン・蘭・小五郎・園子・阿笠博士・少年探偵団・警視庁の刑事陣という顔ぶれに、東西の高校生探偵とその幼馴染、さらには鈴木財閥の総帥までが当然のように加わり、劇場版『名探偵コナン』の世界は一段とその輪郭を大きくしていく。

第三に、20世紀末という時代の節目に重ねた、歴史ミステリーとしての面白さである。ロマノフ家最後の悲劇、皇帝のイースター・エッグ、アナスタシア伝説、そして20世紀の暗殺者。こうしたモチーフを、子ども向け推理アニメの劇場版のなかで誠実に扱ってみせた構成は、当時の観客に強い印象を残した。文化的な側面にも触れておきたい。主題歌『あなたがいるから』は小松未歩の代表曲のひとつとして広く愛され、本作の題名を聞いただけで、20世紀末の春の都市風景と、ゆったりとしたバラードのイントロが同時によみがえる。楽曲と映像が分かちがたく結びついた記憶を、観客の側に残した一作なのである。

舞台裏とトリビア

本作は、劇場版『名探偵コナン』に怪盗キッド/黒羽快斗が初めて本格参戦した一本である。原作や、同じ青山剛昌によるスピンオフ『まじっく快斗』で人気を集めていたキッドを、コナンの劇場版へ合流させる——その案は、企画段階で原作者・青山剛昌の強い意向のもとに固まったと伝えられる。本作以降、怪盗キッドが登場する劇場版(『天空の難破船』『業火の向日葵』『紺青の拳』『100万ドルの五稜星』ほか)は、シリーズの中で独自の系譜として語られることが多い。

服部平次・遠山和葉の劇場版初登場も、本作の見逃せないトリビアのひとつだ。前年の第2作『14番目の標的』に二人の姿はなく、本作で初めて劇場版へ招かれた。声を担当した堀川りょうと宮村優子は、本作を境に、シリーズでもとりわけ登場頻度の高い劇場版ゲストとして、その名を繰り返し呼ばれる存在になっていく。

鈴木次郎吉が劇場版で本格的に動き出す一本目も、また本作である。永井一郎の重厚な声で演じられる次郎吉は、本作以降、怪盗キッドと真っ向から対峙するもう一人の主役として、複数の劇場版に帰ってくることになる。劇場版の登場人物の顔ぶれが本作で大きく一段広がった——その印象は、後年のファンの記憶にも色濃く残っている。

主題歌『あなたがいるから』は、小松未歩がコナン劇場版のために書き下ろした楽曲である。小松未歩はB'z/ZARDの系譜に連なるビーイング系のアーティストで、この一曲はシリーズの主題歌史の中でも特に長く愛されてきた。タイトルの『世紀末の魔術師』は、本作の中で二重の意味を帯びて機能する——表で動く怪盗キッドという文字どおりの魔術師と、裏で動く20世紀の暗殺者『スコーピオン』という、もう一人の冷たい魔術師。二人の魔術師がタイトルに共存している点は、しばしば批評の対象となってきた。

30テーマと解釈

本作の中心テーマは『二人の魔術師』である。20世紀末という時代の節目に、人々の目の前で派手な手品を披露しながら何も傷つけずに去っていく怪盗キッドと、人目の届かないところで人の命を奪い続けてきたスコーピオンという、対照的な二人の『魔術師』が、同じ卵と同じ城を介して同じ夜の下に並ぶ。同じ『見えないものを見せる』技を、片や人を救うために、片や人を奪うために使い分ける——その対比こそが、本作のタイトルを最後まで支え続ける。

もうひとつのテーマは『20世紀の記憶』だ。新作のお披露目パーティという最大の祝祭の場が、ロマノフ家最後の悲劇とアナスタシア伝説、そして20世紀を生きた暗殺者の長い時間と深いところで結びついていく。この構造こそ、本作のもっとも重い核を成している。技術と進歩を語る20世紀という大きな物語の終わりに、その同じ世紀の影の側に居続けた一人の人物を引きずり出してみせる。子ども向け推理アニメの劇場版のなかでも、とくに大胆な選択だった。

そして三つ目のテーマは『二人の高校生探偵が並んだ夜』である。コナンと服部平次という、同年代の名探偵が同じ事件の真ん中に並ぶ。その構図そのものがシリーズの中で本格的に開かれたのは、本作からだ。屋上で月光に並ぶ二人と一人のシルエット、燃え落ちる城の中で互いの背中を確かめながら走る二人——彼らの関係の劇場版での原点は、本作のいくつかのショットの中にすでにすべて宿っている。

本作のラストカットで煙の残る城跡の前に集まる登場人物たち、そしてエンディングで静かに流れ始める『あなたがいるから』のイントロ。20世紀の最後の春にひとつの長い物語をくぐり抜けた登場人物たちの達成感を、それは観客の側にも一段深く立ち上げる。本作が長く愛されてきた理由は、派手な怪盗劇と歴史ミステリーの組み合わせの面白さだけではない。20世紀の終わりという一度しかない時代の節目に、シリーズの登場人物たちを正しく立たせてみせた——その誠実さにこそある。

テーマと解釈

31見る順番

劇場版『名探偵コナン』は基本的に一作完結であり、本作も初見の観客に特別な予備知識を求めない歴史ミステリー/怪盗ものとして組み立てられている。原作『名探偵コナン』のごく基本的な人物関係——コナンが工藤新一の縮んだ姿であること、毛利蘭が新一の幼馴染であること、毛利小五郎が蘭の父で探偵を営んでいること、鈴木園子が蘭の親友で鈴木財閥の令嬢であること、そして少年探偵団とは何か——だけ押さえておけば、十分に楽しめる。

本作の見どころのひとつは、怪盗キッド/黒羽快斗が劇場版『名探偵コナン』に初めて本格参戦するという、シリーズ史上の出来事そのものだ。本作のあとさらにキッドを観たいなら、後年の『天空の難破船』(第14作)、『業火の向日葵』(第19作)、『紺青の拳』(第23作)、『100万ドルの五稜星』(第27作)といったキッド登場作へ進むのが分かりやすい。あわせて登場する服部平次・遠山和葉の劇場版での活躍を追いたい場合は、『迷宮の十字路(クロスロード)』『から紅の恋歌』『100万ドルの五稜星』へと進む流れが自然である。

シリーズの公開順に沿って本作を観るなら、前作の劇場版第2作『14番目の標的(ターゲット)』を観たうえで、本作で怪盗キッド・服部平次・鈴木次郎吉の参戦に立ち会い、次作の劇場版第4作『瞳の中の暗殺者』へ進む流れが最も分かりやすい。前作・本作・次作の三作は、いずれもシリーズ初期を支える代表作として並んでおり、初期コナン劇場版の空気を一気に味わう三本立てとしてもおすすめできる組み合わせだ。

見る順番

32よくある質問

「あらすじだけ知りたい」という人は、次の流れを押さえておけば十分だ。怪盗キッドの予告状とともに、ロマノフ家の宝『メモリーズ・エッグ』のお披露目パーティが開かれる。その夜、屋上で服部平次が怪盗キッドと一瞬対峙し、続いて骨董商・井上靖之が殺害される。平次はキッドと取り違えられ、その後も命を狙われ続ける。やがて舞台は大阪に建てられた敦賀城の精巧な複製『百年城』へと移り、20世紀の暗殺者『スコーピオン』との攻防が炎の中で決着する。一方、「結末・ネタバレを知りたい」人にとっての核は次の四点だ。真犯人は伝説の暗殺者『スコーピオン』であること。その動機が、20世紀末という節目に合わせて自らの正体を知る者たちを始末する個人的なものであったこと。メモリーズ・エッグそのものは怪盗キッドの手で本来あるべき場所へ返却されること。そして『百年城』は炎の中で大半を焼失するものの、登場人物に死者は出ず、ラストにはキッドの次の予告につながる一枚のトランプが残されることである。

「犯人は誰か」。この問いへの答えは、登場人物の中に紛れていた20世紀の伝説の暗殺者『スコーピオン』だ。男装と女装を自在に使い分け、その正体を秘匿してきた人物として描かれている。「動機」の核は、20世紀末という節目に合わせ、自らの正体を知り得る数少ない生存者を念のために始末しておくことにある。骨董商・井上靖之や、屋上でキッドと顔を合わせた可能性のある服部平次が、その標的だ。ロマノフ家の隠し財宝そのものは、あくまで副次的な戦利品にすぎない。

「初見でも見られるか」。本作は単体で完結しているため、初見でも問題なく楽しめる。怪盗キッドの劇場版初参戦作であり、後年の『天空の難破船』『業火の向日葵』『紺青の拳』『100万ドルの五稜星』といったキッド作を先に観てから本作に戻れば、キッドの劇場版での造形が本作の時点で既に完成していたことを味わえるだろう。「主題歌は誰の曲か」。劇場版の主題歌には、小松未歩の『あなたがいるから』(作詞・作曲:小松未歩/編曲:池田大介)が全面的に起用された。

「ゲスト声優・新規声優は誰か」。服部平次役の堀川りょう、遠山和葉役の宮村優子の二人が、本作で劇場版に本格初参戦した。さらに鈴木次郎吉役の永井一郎も、本作で劇場版に正式登場している。「興行はどうだったか」。興行収入約26億円、観客動員約220万人を記録し、シリーズの春興行を恒例の定番として定着させる決定的な一本となった。

33参考資料・脚注

作品名、画像、キャラクター名、および各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年や興行成績、配信状況、外部の評価は変動するため、視聴の前に公式サイトおよび各データベースの最新情報を確認されたい。本記事の本文は、各種の公開情報をもとに、Anna Movies独自の日本語記事として構成したものである。

参考資料・出典 (5件)
  1. 劇場版『名探偵コナン』公式サイト
  2. 週刊少年サンデー公式(原作)
  3. 東宝映画情報
  4. Wikipedia: 名探偵コナン 世紀末の魔術師
  5. 小松未歩 公式