嫌われる教師として現れる理由
セブルス・スネイプは、ホグワーツ魔法魔術学校で魔法薬学を教える人物として、ハリーの最初の授業から強い圧力をかける。
黒いローブ、低い声、減点をためらわない態度は、生徒の側から見れば近寄りがたい教師そのものだ。
とりわけハリー・ポッターに向ける敵意は、単に規律を重んじる教師の厳しさでは説明しきれない。
スネイプはハリーの顔に父ジェームズの面影を見ている。
その記憶が、現在の生徒への接し方を絶えず歪める。
ただし、物語が進むほど、彼がハリーを嫌うことと、ハリーを死なせないことは別の選択だったと分かる。
この人物の読みにくさは、善人か悪人かを隠している点よりも、憎しみと保護が同じ相手へ向いている点にある。
リリーとの友情と壊れた関係
スネイプの幼少期を理解するうえで外せないのが、リリー・エバンズとの出会いである。
魔法使いの家庭に生まれた彼は、近所に住むマグル生まれのリリーが魔法を使えることを早くから知り、ホグワーツ入学前に友人となった。
リリーは、孤立しがちなスネイプにとって魔法界へ通じる最初の親密な相手だった。
二人が同じ学校へ進んだ後、リリーはグリフィンドール、スネイプはスリザリンに入る。
寮の違いそのものが友情を壊したわけではない。
だが、スネイプが純血主義を掲げる仲間へ近づき、リリーが嫌悪する偏見を軽く扱うようになったことで、二人の距離は決定的に開く。
ジェームズに辱められた直後、スネイプがリリーへ「穢れた血」と呼びかけた場面は、その関係が戻らないものになる転点である。
謝罪はあったが、リリーが拒んだのは一度の失言だけではない。
スネイプが自分を傷つける思想を選び続けることを、彼女は見ていた。
死喰い人から離反するまで
学生時代のスネイプは闇の魔術への関心を深め、卒業後にはヴォルデモートの配下である死喰い人に加わった。
そこで彼は、シビル・トレローニーが語った予言の一部を聞き、それを主君へ伝える。
予言を聞いたヴォルデモートは、自分を倒しうる子どもとしてハリーを狙った。
スネイプは予言がリリーの子を指すと悟ってから、彼女だけを助けてほしいと願う。
この願いには限界がある。
ジェームズと幼いハリーを救うことより、リリーを失いたくないという執着が先に立っていたからだ。
その願いを聞いたアルバス・ダンブルドアは、家族を切り分けて助けることを拒み、三人を守るために働くようスネイプへ迫る。
ヴォルデモートの襲撃でリリーが殺された後、スネイプに残ったのは成功しなかった取引への後悔だった。
彼はダンブルドアの求めを受け、以後はハリーを守る側に回る。
二重の立場で果たした任務
ホグワーツの教師になったスネイプは、表向きにはダンブルドアの同僚であり、やがて闇の魔術に対する防衛術も担当する。
しかし、ヴォルデモートが復活した後は、死喰い人として再び呼び出され、双方へ異なる顔を見せなければならなくなる。
彼が死喰い人の集会で信用を保てた理由は、魔法の巧みさだけではない。
ダンブルドアに従っているように見せながら、実は主君のために学校へ潜り込んでいるのだと説明できる位置にいた。
一方のダンブルドアも、スネイプを無条件に潔白な協力者とは扱わない。
二人の会話には、互いの目的を知る者だけが背負う冷たさがある。
スネイプは人を安心させるために動かない。
信じられなくても役割を果たすことを選び、結果として周囲には裏切り者にも忠臣にも見える。
「半純血のプリンス」という名
スネイプは学生時代、自分を「半純血のプリンス」と呼んでいた。
これは母アイリーン・プリンスの姓と、自身が純血ではない事実を組み合わせた名である。
彼が使っていた古い魔法薬学の教科書には、薬の手順を改善した細かな書き込みと、独自の呪文が残されている。
ハリーはその注釈に従うことで魔法薬学の成績を伸ばすが、書き手がスネイプだとは知らない。
このエピソードは、スネイプが優れた魔法使いであることを示すと同時に、彼の才能が名誉や人間関係を良い方向へ導かなかったことも示す。
才能は彼を救う資格にはならない。
それでも、若い頃の彼が自分の出自を受け身で受け入れず、母の姓から別の名を作った痕跡として読むことはできる。
ダンブルドアの死と校長就任
ダンブルドアが呪われた指輪の影響で死期を悟ったとき、彼は自分を殺す役をスネイプへ頼む。
ドラコ・マルフォイに殺人を強いるヴォルデモートの計画から、ドラコの魂を守るためでもあった。
天文塔でスネイプがダンブルドアを殺した場面だけを見れば、ハリーが彼を最大の裏切り者と判断するのは当然である。
実際、スネイプはその誤解を解くことなく学校を去る。
次の学年、彼はホグワーツ校長となるが、これは勝利した死喰い人の側に立った証拠に見える。
ところが校長としての彼は、カーロウ兄妹の残虐さを完全には止められない一方で、教員たちが生徒を守る余地を残すよう動く。
善良な学校運営とは呼べない。
支配下に置かれた学校で、どこまで損害を減らせたのかという苦しい立場が、そこにはある。
ハリーへの敵意と保護が両立する仕組み
スネイプはハリーを見れば、ジェームズへの屈辱とリリーを守れなかった後悔を同時に思い出す。
だから授業では、ハリーの失敗を待ち受けるように見えるほど冷酷になり、彼が称賛を受けることにも素直に反応できない。
しかし、ハリーが危険にさらされたときの行動は別である。
一年目にはクィレルの妨害から守ろうとし、五年目にはシリウス・ブラックが危機にあると知ったハリーの知らせをダンブルドア側へ伝える。
七年目に守るべき相手がハリーだと分かっていても、スネイプはその相手を好意で守っているわけではない。
リリーへの約束、ダンブルドアとの取り決め、そして自分の選択が生んだ傷が重なり、彼を引き返せない位置へ置く。
このため、ハリーに向ける保護を父親らしさや親切さだけで説明すると、スネイプの行為の不自然さが消えてしまう。
彼は好かれることを望まず、誤解を解くことさえ後回しにした。
それでもハリーが生き残ることを選び続けたのである。
魔法薬学と決闘で見せる技量
スネイプは魔法薬学の調合を、決められた手順をなぞる授業として扱わない。
材料を切る順番、火加減、混ぜ方の違いまで結果に反映されるものとして教え、教科書の注釈でも既存の手順を短く正確に書き換える。
その厳密さは、彼が防衛術や闇の魔術にも通じていることと無関係ではない。
学生時代に開発したセクタムセンプラは、人へ深い傷を負わせる危険な呪文であり、後にハリーがその性質を知らず使ったことで、呪文を作る責任も浮かび上がる。
スネイプの能力は、善い目的だけに使われたものではない。
だからこそ、ダンブルドアが彼を情報役として必要とし、ヴォルデモートも一度は有能な側近として扱った理由が分かる。
技量は、彼の選択を免罪するものではない。
最期と守護霊が示すもの
ホグワーツの戦いが近づくと、ヴォルデモートはニワトコの杖の所有権を得るため、スネイプを殺すべきだと考える。
ナギニに襲われたスネイプは、駆けつけたハリーへ記憶を託す。
その記憶によって、ハリーは予言、分霊箱、ダンブルドアの死、そしてスネイプが長年担ってきた役目を知る。
スネイプの守護霊が雌鹿であり、リリーの守護霊と同じ姿であることも明かされる。
雌鹿は、彼の行動すべてを美化する印ではない。
リリーを失った後も、その記憶を手放せなかった人物の長い執着を表す。
同時に、彼がハリーを守るという約束を最後まで捨てなかった理由を、言葉より強く示す像でもある。
原作と映画で異なる見え方
原作小説のスネイプは、ネビルを怯えさせ、ハーマイオニーの外見を侮辱するなど、生徒への不当な扱いがより具体的に描かれる。
そのため、最終巻で忠誠の向きが明らかになっても、彼がしたことを直ちに許せる人物としては描かれない。
映画版は、限られた上映時間のなかでスネイプの内面を視線や沈黙で見せる場面が多い。
とくに最終作では、リリーへの思いとダンブルドアとの約束が連続して示されるため、観客は彼の孤独へ早く近づく。
媒体差を踏まえるなら、スネイプを「実は良い人だった」と短く片付けることはできない。
彼は差別的な集団に属し、子どもへ傷を残す振る舞いをした。
それでも、自分が招いた悲劇の責任から逃げず、守るべき相手のために危険な役を引き受けた人物である。


