『メイドインアビス』第4巻とは
『メイドインアビス』第4巻は、ミーティを見送ったナナチがリコとレグの旅へ加わり、三人で五層の前線基地へ到達するまでを収録する。そこで待つのは、ナナチを実験した白笛ボンドルドである。
前線基地ではプルシュカが一行を友人として迎え、父ボンドルドを慕う姿を見せる。加害者と愛情深い父が同じ人物に存在し、敵味方の判断を難しくする巻である。


書誌情報
竹書房から2016年4月30日に発売され、全161ページ。第25話「闇からの生還」から第32話「激闘の果て」までの8話を収録し、ISBNは978-4-80-195516-5である。
四層での回復と旅立ち、花畑の異変、五層の前線基地、レグの拘束、ボンドルドとの初戦を一巻にまとめる。三人旅の成立と最初の共通敵が同時に描かれる。
第25話「闇からの生還」
リコはタマウガチの毒と上昇負荷から目を覚まし、ナナチの住処で治療を受けた経緯を知る。腕には傷と機能障害が残るが、生命と旅を続ける意思は保たれる。
レグは自分の判断でリコをさらに傷付けた罪悪感を抱く。救えた結果だけで失敗を消さず、ナナチから処置を学び直す必要を認める。
ミーティを失った住処
ナナチの住処には、ミーティの寝床と世話の道具が残る。目的を果たしたからすぐ空白が埋まるわけではなく、日常の一つ一つが喪失を思い出させる。
レグとリコは悲しみを早く乗り越えるよう求めず、ナナチが自分で次の行動を選ぶのを待つ。仲間へ誘うことと、過去を置き去りにさせることは違う。
第26話「新たなるスタート」
ナナチは住処を整理し、リコとレグの旅へ同行する決心をする。ミーティとの記憶を消すためではなく、その記憶を持ったままボンドルドのいる先へ進む。
三人は食料、薬、移動手段を組み直す。リコの負傷を前提に、レグが運搬し、ナナチが力場と治療を担当する新しい隊列が生まれる。
三人旅の食事
リコは四層の食材を調理し、ナナチも同じ食卓へ加わる。深層の生物を知識だけでなく味と栄養へ変えることが、三人の生活を結び付ける。
ナナチは長くミーティの世話に生活を集中していたため、他者と食べて進路を話す時間そのものが新しい。仲間になる過程は戦闘より日常に表れる。
第27話「禁域の花畑」
一行は不屈の花園へ入り、ライザが好きだったトコシエコウの群生を見る。美しい花畑は母の痕跡へ近づく場所である。
しかし、花の下には生物へ寄生する異変と多数の死体が隠れる。景観の美しさが環境の安全を示さず、香りや花粉も生態系の一部として警戒しなければならない。
祈手との遭遇
花園ではボンドルドの配下である祈手が活動し、寄生生物の拡大を抑えようとしている。敵対勢力であっても、五層全体の危機へ対処する役割を持つ。
ナナチは彼らの仮面と行動からボンドルドとの関係を察する。過去の恐怖が戻る一方、すぐ戦えば花園の脅威まで増やすため、観察して進む。
屍を利用する花
花園の異変は死体を養分や苗床として広がり、探窟家の遺体も景観へ取り込む。弔うべき身体と生態系の資源が同じ場所にある。
燃やして拡大を止める処置は必要でも、遺体を粗末に扱う感情を生む。深層では衛生と弔いを同じ方法で実現できない場合がある。
第28話「六層への入り口」
三人は深界五層の底へ進み、前線基地へ到達する。建物は古い祭祀場を利用し、六層へ降りる絶界の祭壇を備える。
白笛を持たない者は正式に祭壇を起動できず、六層から人間の姿で戻れない。前線基地は次の層への門であり、ボンドルドが通行を管理する関所でもある。
ボンドルドとの再会
ナナチはボンドルドと再会する。彼は逃げた実験体を責めるより、成長と帰還を喜ぶような態度で迎える。
穏やかな言葉が過去の加害と矛盾しないことをナナチは知っている。ボンドルドは愛情と研究目的を同時に持ち、相手の苦痛を理由に実験を止めない。
第29話「運命の再会」
プルシュカは前線基地で暮らすボンドルドの娘として現れ、リコたちへ関心を持つ。地上を知らず、父と祈手を家族として育った。
リコとはすぐに親しくなり、同年代の友人として会話する。敵地の住民であっても本人が加害へ関与したとは限らず、リコは父の罪を娘へ重ねない。
プルシュカの世界
プルシュカにとって前線基地は牢獄ではなく家であり、ボンドルドは自分を救い育てた父である。外から見た実験施設の恐怖と、彼女の生活実感が一致しない。
父を慕う感情を無知として否定するだけでは、プルシュカが受けた世話と愛情を消すことになる。問題は感情が本物でも、加害を止める基準にならない点にある。
メイニャとの出会い
プルシュカは小動物メイニャと暮らし、力場に関わる特殊な感覚を持つ相棒として大切にする。リコたちもメイニャを通じて距離を縮める。
小さな生物が後に上昇負荷を避ける助けとなるため、友人のペットという日常的な存在と深層の能力が同居する。
前線基地での宿泊
一行はボンドルドの用意した部屋で休むが、ナナチは設備と祈手を警戒する。敵が歓迎しているから安全なのではなく、観察しやすい場所へ置かれた可能性がある。
リコとプルシュカの交流を守りながら、レグの身体を一人にしない必要がある。三人の警戒水準には差があり、その隙をボンドルドが利用する。
第30話「思いがけぬ危機」
レグは基地内で拘束され、意識を失った状態で身体を調べられる。ボンドルドにとってレグは未知の深層遺物であり、本人の同意より研究価値が優先される。
頑丈な腕も切断され、帰ってきた時には取り返せない損傷を負う。ナナチが恐れていた歓迎と加害の両立が、レグの身体で再現される。
レグの腕の切断
伸びる腕は移動、救助、戦闘に不可欠であり、一行の行程全体へ影響する。切断は傷の問題だけでなく、隊が依存してきた移動手段を奪う。
レグ本人にとっても、自分の身体が研究材料として扱われる恐怖になる。機械に見える部分でも、痛みと人格を持つ本人の身体である。
ナナチの予測と後悔
ナナチはボンドルドの方法を知りながら、完全に攻撃を防げなかったことへ責任を感じる。しかし、相手は基地全体と祈手を使い、歓迎の時間まで作戦へ含める。
過去を知る者がすべてを予測できるわけではない。後悔を自罰に変えるより、ボンドルドが次に何を欲しがるかを読んで反撃へ使う。
第31話「絶望と希望」
傷付いたレグを救い出した一行は、基地から離れる経路と六層へ進む方法を考える。レグの火葬砲、白笛、祭壇の起動がすべてボンドルドの管理下にある。
絶望の中でも、ナナチは祈手の行動とボンドルドの身体の仕組みを知る。相手が一人の肉体へ限定されないことを前提に、倒す対象を考え直す。
ナナチの作戦
ナナチは力場と地形を使い、ボンドルドの観測を逆に利用する作戦を立てる。レグの火葬砲を単純に当てるのではなく、相手が避ける方向を限定する。
リコも負傷者として待つだけでなく、プルシュカとの関係と基地の構造から必要な行動を選ぶ。三人の役割が戦闘へ集約する。
第32話「激闘の果て」
レグとボンドルドは前線基地周辺で激しく戦う。ボンドルドは複数の遺物を使い、レグの能力と反応を研究しながら攻撃を変える。
レグは怒りに任せるだけでは勝てず、ナナチの指示とリコの位置を意識して火葬砲を使う。仲間の情報が、切断された腕の不足を補う。
祈手とボンドルド
祈手は同じ仮面を着け、ボンドルドの意識を共有するように動く。一つの身体を倒しても、別の祈手がボンドルドとして立ち上がる。
個人名が身体ではなく意識と役割へ広がるため、通常の敵将を倒す戦術が通じない。ナナチの恐怖も、一人を殺せば終わる相手ではなかったことに由来する。
プルシュカが見る戦い
プルシュカは父と友人が争う状況へ置かれ、どちらかを単純に悪と決められない。リコたちが傷付けられた事実と、父に愛された記憶が同時にある。
彼女の葛藤を利用して従わせるのではなく、リコは友人として話そうとする。戦闘の勝敗だけでは解けない関係が次巻へ残る。
黎明卿の研究倫理
ボンドルドはアビスの謎を解く成果を生み、探窟家を救う知識も持つ。しかし、子供と仲間の意思を研究目的より下へ置く。
有用な成果が加害を正当化するわけではない。知識の価値と、その獲得方法を分けて評価する必要がある。
ナナチが戻る理由
ナナチは最も戻りたくない前線基地へ、自分の意思で入った。リコとレグを底へ進ませるには、過去の加害者を避け続けられないからである。
恐怖を克服して平気になったのではない。恐怖があるまま、仲間を守る目的を優先する。行動の強さは感情の消失ではなく選択にある。
第4巻で変わるレグ
レグは腕を失い、自分の身体が壊れないという前提を失う。人間より頑丈でも、未知の技術を持つ相手には分解される。
一方で、守られる経験を通じて仲間への依存を受け入れる。自分一人の力でリコを守るのではなく、ナナチの作戦とリコの判断を信じる。
確定事項と未解決の謎
第4巻で確定するのは、ボンドルドが祈手を通じて複数の身体を使うこと、レグの腕が切断されたこと、六層への祭壇が前線基地にあることである。
ボンドルドの意識共有の正確な仕組み、プルシュカが戦闘後に何を選ぶか、レグの腕を回復できるかは巻末時点で決着していない。
第4巻の読みどころ
第4巻はナナチを仲間へ迎える希望の直後、彼女の過去を作った場所へ戻す。旅の前進が、傷の原因との再会になる構成である。
プルシュカの存在によって、ボンドルドを怪物として切り離すことも難しくなる。愛情を持つ者が加害を続けられる事実が、自然の怪物とは違う恐怖を作る。
前線基地における主導権
イドフロントでは、場所そのものがボンドルドの装置として働く。通路、扉、昇降機、祈手の配置を把握している側が、戦闘前から主導権を握る。リコたちは客として迎えられても、移動と情報を管理されており、歓迎と拘束が同じ形を取る。
だから脱出には腕力だけでなく、施設の構造、敵の分業、レグの能力を組み合わせた作戦が必要になる。ナナチがボンドルドの思考を知り、リコが目的から逆算し、レグが危険な役を担う。三人の得意分野が初めて一つの計画へまとまる。
プルシュカとの短い友情
プルシュカは深層の常識しか知らないが、リコと話すことで外の世界と旅への憧れを知る。二人が共有できた時間は短く、それでも互いを友達と呼べるほど濃い。閉ざされた施設にいた彼女にとって、リコは選択肢そのものを運んできた人物である。
この友情があるため、後の出来事は単なる装備獲得では済まない。白笛は持ち主の意思と関係性を背負う遺物であり、リコがそれを使うたびにプルシュカの願いが旅へ参加する。第4巻はその関係を成立させる準備を丁寧に積む。
第4巻で残る問い
ボンドルドを倒せば問題が終わるという構図にはならない。彼は複数の祈手へ意識を移し、探窟史へ成果を残し、前線基地の機能も担う。個人を排除するだけでは消えない制度と研究の網が、敵役を単純な怪物から遠ざけている。
一方で、知識の価値が犠牲を正当化するわけでもない。第4巻は成果と手段を切り分け、読者に評価を委ねる。深層へ進むためボンドルドの情報を利用せざるを得ないことが、三人の勝利を苦いものにする。
メイニャが担う役割
メイニャはプルシュカの友であり、深層の環境や上昇負荷に関わる感覚を三人へ伝える存在でもある。小さな動物に見えても、プルシュカの生活と記憶をつなぐため、イドフロント脱出後も彼女が完全に不在になることを防ぐ。
戦闘と対話の順序
第4巻ではボンドルドの能力を知らないまま戦えば勝てないため、会話、観察、逃走、再侵入が戦闘準備になる。相手の説明を信じ切らず、それでも得られる情報を捨てない態度が必要で、知識戦としての探窟が最も鋭く表れる。
第4巻から第5巻へ
第4巻はイドフロントの全貌を見せた段階で終わり、ボンドルドの仕組み、プルシュカの行方、レグの身体に残る機能を第5巻の決戦へ渡す。巻単体では危機の途中だが、三人が何を知らないかを明確にしたことで、後の作戦が偶然の勝利ではないと理解できる。
