『ONE PIECE』コミック 巻壱萬八拾九(バンパク)は、2019年8月9日公開の劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』で、第1弾入場者プレゼントとして配布された特典冊子である。通常のコミックス第10089巻が刊行されたわけではなく、映画の中心舞台「海賊万博」に掛けた特別な巻数を持つ。
尾田栄一郎によるキャラクターや衣裳、海賊船などの設定画、映画制作のための資料、ダグラス・バレットとブエナ・フェスタに関する背景情報、アニメスタッフ側の設定資料をまとめたメイキング本である。映画本編だけでは短く示される人物や意匠を、どのように設計したか確認できる。
基本情報
- 正式名称:『ONE PIECE』コミック −巻壱萬八拾九(バンパク)−
- 読み:かんいちまんはちじゅうきゅう(バンパク)
- 配布開始日:2019年8月9日
- 配布対象:『ONE PIECE STAMPEDE』劇場鑑賞者
- 配布数:全国合計300万名限定
- 位置づけ:劇場入場者プレゼント、映画制作資料集
- 関連作品:『ONE PIECE STAMPEDE』
- 主な内容:尾田栄一郎の設定画、映画用設定資料、制作過程、スタッフによるアニメ設定、ゲスト参加者の寄稿
公式告知では「全国合計300万名」に配布する第1弾入場者プレゼントとして発表された。一般流通する通常コミックスとは販売・配布経路が異なり、ISBNを持つ連番単行本として第93巻と第94巻の間に挿入されるものでもない。
「10089」という巻数
巻数の「壱萬八拾九」は数字では10089に当たる。「10089」は映画の海賊万博を表す「万博(ばんぱく)」に掛けた語呂であり、通常巻の刊行順を示す数字ではない。冊子自体も読みを「バンパク」と示している。
『ONE PIECE』の映画入場特典には、『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』の「巻零」、『ONE PIECE FILM Z』の「巻千」、『ONE PIECE FILM GOLD』の「巻七七七」など、作品の主題に合わせた特別巻がある。巻壱萬八拾九もこの系統に属する。通常コミックスと外見を合わせながら、映画の設定資料を収める記念冊子である。
数字の大きさを、未来に刊行される本編第10089巻という予告として解釈しない。映画公開当時の通常コミックスは第93巻まで刊行されており、冊子内の作者コメントも、途方もない巻数を冗談として扱っている。索引では通常巻一覧と映画特典巻一覧を分ける必要がある。
表紙と装丁
表紙にはモンキー・D・ルフィ、トラファルガー・ロー、サボ、スモーカー、ボア・ハンコック、バギー、ロブ・ルッチが描かれ、その下部にダグラス・バレットの顔が大きく配置される。映画終盤で利害の異なる勢力がバレットへ立ち向かう構図を、一枚の絵で先取りしたものになっている。
背景には海賊万博の舞台となるデルタ島の破壊と炎を思わせる意匠があり、祝祭の明るさよりも、映画が向かう大混戦を強調する。背表紙やロゴも通常巻の形式を踏襲するため、見た目だけでは一般の単行本に近いが、中身は連載漫画の話数を収録したものではない。
裏表紙には海賊万博への招待状を思わせる要素が置かれる。観客は映画の入場券で冊子を受け取り、冊子の装丁を通じて作中の海賊万博へ招かれた参加者になる。配布物そのものを映画の催事へ接続する設計である。
尾田栄一郎のデザインワーク
冊子前半の中心は、尾田栄一郎が映画制作のために描いた設定画である。麦わらの一味の衣裳、主要な映画オリジナル人物、海賊船、乗り物、劇中で群衆を構成する人物など、完成映像へ至る前の線画と注記を収める。
麦わらの一味には、海賊万博の宝探しへ参加するための劇中衣裳が用意された。ルフィ、ゾロ、ナミ、ウソップ、サンジ、チョッパー、ロビン、フランキー、ブルックは普段着のまま集められたのではなく、祭典と冒険の雰囲気に合わせて個別に再設計されている。公式サイトでも公開前に衣裳設定画の一部が紹介された。
バレットは通常の体格だけでなく、ガシャガシャの実で周囲の物体と一体化する段階ごとの姿が必要になる。映画で巨大化の過程を追うには、身体、兵器、島の構造がどう接続するか決めなければならない。設定画は、映像では高速に変化する形を止めて観察できる資料になる。
ブエナ・フェスタ、ドナルド・モデラート、アンといった映画オリジナル人物にも、衣裳、体形、小物、表情の指示がある。台詞と動作だけでは読み取りにくい職業や性格を、輪郭と持ち物から設計する過程が分かる。
海賊船と乗り物の資料
『STAMPEDE』は最悪の世代を含む多数の海賊が一つの島へ集まる映画である。そのため、人物だけでなく各海賊団の船を同時に成立させる必要があった。キッド海賊団のヴィクトリアパンク号、ベッジのノストラ・カステロ号など、原作では全体像を確認しにくかった船も映画用に整理された。
サウザンド・サニー号にはコウテイペンギンをモデルにしたフライングモデルが登場する。公式サイトでも設定画が紹介され、模型化も告知された。冊子では映画に登場する乗り物群を、完成画面とは別の制作資料として確認できる。
船の設定は単なる背景美術ではない。海賊万博へどの勢力が参加しているかを一目で伝え、画面の遠景でも所属を判別させるための識別記号になる。大人数が同時に動く作品ほど、帆、船首、船体色、装飾の差が物語の読みやすさへ直結する。
ダグラス・バレットの人物資料
冊子で特に重要なのが「ダグラス・バレットの人生」を示す年表と背景設定である。公式インタビューでは、バレット役の磯部勉が、この資料によって台詞の理由や人物の内面を理解できたと語っている。映画本編で断片的に示される過去を、演技と制作の基礎になる時系列へ整理した資料である。
バレットは元ロジャー海賊団の一員という映画独自の立場を持ち、強さだけを信じるに至った経歴が用意された。映画は多数の人物と戦闘を扱うため、一人の過去へ割ける上映時間には限りがある。冊子はその不足を補い、なぜバレットが単独の強さへ固執し、海賊万博を戦場へ変えるフェスタと組んだのかを理解する手掛かりになる。
ただし、冊子に尾田栄一郎の設定画や監修資料が収録されていることと、バレットが原作漫画の正史人物であることは同義ではない。『STAMPEDE』は劇場版として構成された物語であり、映画オリジナル人物の経歴は映画世界の資料として区分する。原作のロジャー海賊団名簿へ、根拠を示さず合流させない。
ブエナ・フェスタと海賊万博
ブエナ・フェスタは「最悪の戦争仕掛け人」と呼ばれ、海賊万博を企画する。表向きはゴール・D・ロジャーに関わる宝を餌にした祭典だが、実際には海賊、海軍、革命軍、王下七武海、世界政府の人物を同じ場所へ集め、大規模な衝突を起こすための舞台になる。
巻壱萬八拾九は、この万博という設定を映画の外へ拡張する。巻数そのものが「バンパク」であり、裏表紙は招待状を思わせ、表紙には本来同じ陣営ではない人物が並ぶ。冊子の命名、装丁、配布方法が、映画の祭典へ観客を参加させる一つの宣伝設計として統一されている。
フェスタの人物設定は、なぜ宝探しがバスターコールを呼ぶ戦争へ変わるのかを支える。一方で、海賊王の遺した宝をめぐる仕掛けは映画独自の筋であり、原作の「ひとつなぎの大秘宝」へ直接の正史情報を追加するものではない。
アニメスタッフの設定とメイキング
冊子には尾田栄一郎の原案だけでなく、アニメ制作側が映像化のために整えたキャラクター設定、美術や乗り物の資料、制作過程も収められる。原案の一枚絵を、複数のカットで動かせる形へ展開するには、正面・側面・背面、色、表情、装備の持ち方などを定める必要がある。
完成映画では、最悪の世代、海軍、王下七武海、革命軍、CP-0、麦わらの一味が同じ戦場に現れる。登場時間が短い人物でも、既存の設定と映画用衣裳を矛盾なく描き分けなければならない。設定集として読むと、オールスター映画の情報密度を支えた設計作業が見える。
ポスター制作の試行、場面のラフ、映画スタッフ側の設定を並べることで、「原作者が描いたもの」と「それをアニメーションへ変換するために追加されたもの」の層も確認できる。すべてを尾田栄一郎の直筆設定として一括しないことが、資料の正確な扱いにつながる。
本編情報との扱い方
巻壱萬八拾九は公式に配布された資料だが、収録情報の適用範囲を区別する必要がある。麦わらの一味など原作人物の基礎設定は原作漫画を優先し、映画用衣裳や映画内の行動は『STAMPEDE』の節へ置く。バレットやフェスタの経歴は映画人物の記事で用い、原作正史の歴史へ無条件に統合しない。
同じ人物でも、原作で確定した事実、映画のために設定された事実、制作初期案のまま本編に採用されなかった要素は異なる。設定画に描かれているだけの案を、完成映画で実際に起きた出来事として記述してはならない。ページの注記と映画本編を照合して使う。
また、本冊子は連載漫画の新規話を収録する通常巻ではない。記事種別は「単行本」より「映画特典冊子・設定資料集」が適切である。原作各話一覧、通常コミックス一覧、映画入場特典一覧の三つを分けて案内することで、読者が刊行順を誤認しにくくなる。
資料としての価値
巻壱萬八拾九の価値は、映画の物語を文章で要約するだけでは得られない制作情報にある。衣裳の線、巨大化するバレットの段階、船の全体像、人物年表を一冊で見比べられる。完成映像のどこを見ればよいかを示す観察ガイドとしても機能する。
一方、配布数が限られた入場者特典であり、通常書店でいつでも購入できる資料ではない。二次流通の表紙画像や断片的な引用だけで中身を推定すると、ページ構成、注記の執筆者、初期案と採用案の区別を誤る可能性がある。記事公開前には冊子現物でページを確かめる。
映画の公開日と同日に配布されたことで、観客は鑑賞直後に設定を読み返せた。上映時間の制約で説明し切れない情報を紙の資料へ受け渡し、映画を再度見る動機にもする。『ONE PIECE』の劇場版と特典冊子が連動する代表例である。
関連項目
- ONE PIECE STAMPEDE
- ダグラス・バレット
- ブエナ・フェスタ
- モンキー・D・ルフィ
- トラファルガー・ロー
- 最悪の世代
- ロジャー海賊団


