『ONE PIECE』第107巻「伝説の英雄」は、2023年11月2日に集英社から発売されたジャンプ・コミックスである。 原作第1077話から第1088話までの全12話を収録し、エッグヘッド編の研究所内事件、四皇同士が動く海上戦、世界会議で起きた事件の真相、海賊島ハチノスにおける救出戦を並行して描く。
巻題は第1080話「伝説の英雄」に由来する。 そこで中心になるのは、海軍の英雄モンキー・D・ガープである。 ただし本巻はガープだけの物語ではない。 ベガパンクを狙う裏切り者、シャンクスとキッド、黒ひげとロー、サボとコブラ、バギーとクロスギルドという複数の勢力が、最終章の世界を同時に動かす転換巻になっている。
書誌情報
巻数は第107巻、正式な副題は「伝説の英雄」。 著者は尾田栄一郎、発行は集英社、発売日は2023年11月2日である。
収録範囲は第1077話「早く気づくべきだった」から第1088話「最後の授業」まで。 前巻で始まったエッグヘッドの籠城戦を引き継ぎながら、第106巻で世界各地へ広がった視点をさらに押し進める。 一つの島を順番に攻略する従来の構成と異なり、現在進行中の事件が別の海域や聖地の過去と交互に切り替わる点が特徴である。
表紙にはガープを中心に、コビー、クザン、黒ひげ海賊団などハチノスの戦いに関わる人物が配置される。 巻全体の一部だけを選んだ意匠であり、表紙にいない人物の章が重要でないという意味ではない。
第1077話から第1078話――研究所の裏切り者
エッグヘッドでは、セラフィムが命令を受け付けず、研究層の各所で麦わらの一味とベガパンクの分身を攻撃する。 戦桃丸は島内の住民へ退避を呼びかけ、過去のオハラを思い出しながら、世界政府がベガパンク抹殺のために島ごと消す可能性を警戒する。
研究所内ではシャカが何者かに撃たれ、拘束されていた本体のベガパンクの前へヨークが姿を現す。 裏切り者は「欲」を担うヨークだった。 彼女は自分だけが天竜人になるため、世界政府へ空白の100年の研究を密告し、他の分身と本体を排除しようとしていた。
第1078話の終盤では、翌日にエッグヘッドで起きる事件が世界へ衝撃を与えると予告される。 この時点では事件の結末は示されない。 読者は研究所の犯人を知った一方、島の外を囲む海軍艦隊と五老星の存在によって、密室事件より大きな危機が迫っていると理解する。
第1079話――赤髪海賊団とキッド海賊団
舞台はエルバフ近海へ移る。 ワノ国を出たユースタス・キッドは、赤髪海賊団と対峙し、その傘下の船までまとめて攻撃しようとする。
シャンクスは見聞色の覇気で攻撃後の甚大な被害を先に捉え、自らキッドの船へ接近する。 ロジャーと同じ「神避」でキッドとキラーを一撃で制圧し、ドリーとブロギーが覇国でヴィクトリアパンク号を破壊する。
ここで描かれるのは単なる懸賞金の比較ではない。 キッドは攻撃を撃つ前に敗れ、船とロード歴史の本文の写しを失う。 四皇へ挑む資格を得たように見えた新世代が、相手の未来視、決断速度、傘下を守る責任まで含めた総合力に敗北する場面である。
第1080話から第1081話――ハチノス急襲
コビーを救出するため、ガープは海軍特殊部隊SWORDを率いて海賊島ハチノスへ突入する。 軍艦を空中へ投げる大胆な侵入から「拳骨衝突」を放ち、街区を広範囲に破壊する姿が、巻題の「伝説の英雄」を視覚化する。
同行するプリンス・グルス、孔雀、ひばりたちは、それぞれの能力で海賊を集め、退路を作り、住民と海兵を誘導する。 ガープ一人の武勇だけでなく、若い海兵たちが役割を分担する救出作戦として描かれる。
島では元海軍大将クザンがガープの前に立つ。 クザンが黒ひげ海賊団へ入った経緯も示されるが、会話をそのまま完全な忠誠の証明と見ることはできない。 彼は自分の意思で生きると語り、かつての師と拳を交える。
同じ頃、勝者島ではトラファルガー・ロー率いるハートの海賊団が黒ひげ海賊団に敗れる。 ポーラータング号は破壊されるが、スーロン化したベポがローを抱えて海へ逃れたため、船長の死亡は確定しない。
第1082話――クロスギルドの方向転換
海兵へ懸賞金を懸けるクロスギルドの影響で、Tボーン中将が市民に殺害されたと報じられる。 海賊と海軍だけの戦いだった懸賞制度が、生活に困る一般人を巻き込む段階へ進んだことを示す事件である。
クロスギルドを率いるクロコダイルとミホークは軍事国家の建設を構想するが、バギーは海賊王を目指すべきだと宣言する。 腕力では二人に及ばないバギーが、海賊たちの欲望を言葉でまとめ、組織の進路を変える。
この宣言により、ワンピースをめぐる競争は麦わらの一味、赤髪海賊団、黒ひげ海賊団だけではなく、クロスギルドを含む四皇勢力の争いになる。
第1083話から第1086話――世界会議の真相
革命軍のサボはカマバッカ王国へ帰還し、世界会議の最中に聖地マリージョアで見た出来事をドラゴンとイワンコフへ語る。 革命軍は天竜人への補給線を断ち、奴隷を解放し、バーソロミュー・くまを奪還した。
一方、アラバスタ王コブラは五老星へネフェルタリ家と「D」の意味を問い、空の玉座に座るイムを目撃する。 イムはリリィの名を語り、コブラは娘ビビとサボへ伝言を託したのち命を落とす。
ワポルは偶然その場を目撃し、ビビと共に聖地から脱出する。 公表された「サボがコブラを殺した」という記事と、読者が見る実際の出来事が食い違うことで、世界経済新聞が扱う情報と世界政府が隠す事実の差が明確になる。
さらに五老星の名と役職、神の騎士団最高司令官フィガーランド・ガーリング聖が示される。 ルルシア王国の消滅にはマザーフレイムが関わり、ヨークの裏切りが世界規模の兵器運用へ接続していたことも分かる。
第1087話から第1088話――最後の授業
ハチノスではガープとクザンの過去が描かれる。 若きクザンは軍艦を殴る修行を重ね、ガープと同じ「軍艦バッグ」を作った。 現在の拳の衝突は、師弟が同じ鍛錬を共有した結果でもある。
コビーを守ったガープはシリュウの刃を受け、クザンとの戦闘でさらに消耗する。 それでも救出船を逃がすため、自分が島に残る判断を下す。
コビーは巨大な島の手に対し「実直拳骨」を放ち、ガープの期待へ応える。 グルスが瓦礫を受け止め、ヘルメッポが援護し、救出対象だった若者たちが脱出の主力へ変わる。
巻末でガープの生死は確定せず、「消息不明」と報じられる。 英雄が一人で敵を全滅させる結末ではなく、次世代を逃がして笑う姿で終わるため、「最後の授業」という話名が効いている。
三つの敗北と継承
第107巻では、キッド海賊団、ハートの海賊団、ガープ率いる救出隊という三つの戦線が、それぞれ完全勝利では終わらない。 キッドは船団を失い、ローは仲間と離れ、ガープはハチノスに残る。
ただし結果は同じではない。 キッドの敗北は挑戦の打ち切りとして描かれ、ローはベポの救助で生存し、ガープはコビーたちの未来を優先して自ら残る。 「負けた」という一語にまとめず、何を失い、誰が次へ進んだかを分けて読む必要がある。
本巻での継承は血縁だけを指さない。 ガープからクザンとコビーへ、ロジャーからシャンクスへ、ロックス時代から黒ひげへと、技、思想、対立が異なる形で渡される。 誰が前世代をそのまま受け継ぎ、誰が反転させるのかが最終章の争点になる。
収録12話を読む順序
第107巻は、第1077・1078話のエッグヘッド、第1079話のエルバフ近海、第1080・1081話のハチノスと勝者島、第1082話のクロスギルド、第1083〜1086話の世界会議、第1087・1088話のハチノスという順で視点を移す。
時間が完全な一本道で進むわけではない。 世界会議の部分はサボが過去の出来事を語る回想で、ハチノスの戦いは現在の各海域の動きへ戻る。 場所の切り替えを年代の切り替えと同一視すると、ルルシア消滅、エッグヘッド包囲、コビー救出の前後を混同しやすい。
単行本では話ごとの中断を挟まず読めるため、ヨークの密告がマザーフレイムへ、ガープの救出が黒ひげ海賊団の動向へ結びつく構造を追いやすい。 一冊の中で答えが出る謎と、次巻以降へ残る謎を区別することが重要である。
まとめ
第107巻「伝説の英雄」は、第1077話から第1088話を収録する。 ヨークの裏切り、シャンクス対キッド、黒ひげ対ロー、クロスギルドの海賊王争い参入、世界会議の真相、ハチノスの救出戦を一冊へ収めた情報密度の高い巻である。
中心にいるガープは、圧倒的な拳で島を制圧するだけの英雄としては終わらない。 コビーたちに生きる道を作り、自分が危険を引き受けることで、英雄という呼称を次世代の成長へ接続する。
同時に、各地の出来事はエッグヘッドの包囲と無関係ではない。 ヨーク、五老星、マザーフレイム、革命軍、四皇の競争が結びつき、世界全体が最終局面へ入ったことを示す巻である。


