「毛利小五郎のニセ者(前編)」とは
「毛利小五郎のニセ者(前編)」は、テレビアニメ『名探偵コナン』の第243話で、2001年7月23日(月)に読売テレビ・日本テレビ系で放送された。題材は原作31巻の事件89「毛利小五郎のニセ者」で、群馬県の温泉旅館・葵屋旅館を訪ねた小五郎たちが、先に到着してアタッシュケースを持ち去った「毛利小五郎のニセ者」と出くわす前後編の前半にあたる。後編は第244話として同年7月30日に放送された。
どの放送の記事か
本記事が扱うのは2001年7月23日(月)放送の第243話である。読売テレビの公式事件ファイルでは「CASE FILE #243」として記録され、1週間後の7月30日に放送された第244話(後編)と2週連続で同じ事件を扱う前後編の前半にあたる。二次資料では放送当時のシーズン区分を第9期と記し、海外のエピソード番号では前後編あわせて262〜263話、本話はその前半を担う回である。放送順では第242話「元太少年の災難」に続く回で、次には本事件の後編が続く。資料に残る視聴率は19.7パーセントで、後編の18.4パーセントをやや上回る。前編のネクストコナンズヒントは「携帯電話」で、作中で従業員が蘭の落とした携帯電話を拾う場面に対応する言葉になっている。
葵屋旅館と登場人物
事件の舞台・葵屋旅館は、自殺の名所と呼ばれる頭神の森の近くに建つ温泉旅館である。関わる人物は、依頼人で主人の遠田芳郎(58歳)、従業員の浦川詠次(37歳)と神保雅夫(34歳)、そして毛利小五郎を名乗ってアタッシュケースを持ち去った男・森達夫。5年前にケースを預けた赤いコートの長髪の男は、森で発見された死体と同一視されている。県警からは山村ミサオ刑事が調査に入る。山村はコナンたちを旅館まで車に乗せ、現場で浦川から事情を聴取した。
原作との対応——事件89と31巻
原作は小学館公式事件データベースで事件番号89「毛利小五郎のニセ者」として登録され、第31巻File2「偽者登場」・File3「偽者の真実」・File4「偽りの時」の3本で構成される。公式データベース上の事件の場所は「葵屋旅館」、メインキャラクターは江戸川コナン・毛利蘭・毛利小五郎・山村ミサオ、ゲストキャラクターは森達夫・長髪の男・浦川詠次・遠田芳郎・神保雅夫の5名とされる。事件は、表の「小五郎のニセ者殺し」と裏の「5年前のアタッシュケースと長髪の男の死」が重なり合う構造を持つ。小五郎の名を騙るニセ者が登場する点が題名の由来である。資料上の解決者は毛利小五郎(コナン経由)とされる。正体を隠した本物の小五郎がニセ者の推理ショーを待つという、この事件ならではの構図が前編で描かれ、後編では眠りの小五郎の推理ショーが披露される。

スタッフと主題歌
第243話のスタッフは、監督山本泰一郎(総監督・こだま兼嗣)、構成・絵コンテの伊藤真朱、演出の栗本宏志、作画監督の浜津武広、キャラクターデザインの須藤昌朋(デザインワークス・山中純子、宍戸久美子)である。後編の第244話は伊藤真朱が構成・絵コンテ・演出を兼ね、作画監督は志村泉が務めた。声の出演は、高山みなみ(江戸川コナン)、山崎和佳奈(毛利蘭)、神谷明(毛利小五郎)、古川登志夫(山村ミサオ)のほか、ゲストとして村松康雄(遠田芳郎)、塩屋浩三(浦川詠次)、加賀谷純一(神保雅夫)、徳丸完(森達夫)が名を連ねる。放送時の主題歌はオープニング「destiny」、エンディング「always」。視聴率の資料値は前編19.7パーセント・後編18.4パーセント、ネクストコナンズヒントは前編「携帯電話」・後編「天井の照明」である。

事件の発端——5年前の預けと呪いの手紙
依頼人は葵屋旅館の主人・遠田芳郎である。5年前、遠田のもとへ赤いコートを着た長髪の男が現れ、1年間の保管を条件に一通の手紙とアタッシュケースを預けていった。取り決めは奇妙なものだった。本人が戻ってきたらケースを渡し、別の者が来たら手紙を渡す。翌日、代理人を名乗る別の男が来て手紙を受け取り、中身を読むなり激怒して破り捨て、そのまま行方をくらませた。遠田が破片を継ぎ合わせると、そこには赤い文字で「呪い殺してやる」と書かれていたという。
頭神の森の身元不明死体
さらに、旅館の近くにある自殺の名所・頭神の森で、4年前に死んだとされる身元不明の首吊り死体が見つかっていた。発見したのは、山菜採りで森へ入った旅館の従業員だった。所持品には不自然な点が多かった。車の鍵はあるのに免許証がない、タバコはあるのにライターがない、夏に買い物した形跡のレシートがあったのに、セーターと赤いコートを着ていた。5年前にアタッシュケースを預けた長髪の男と特徴が重なる死体だった。呪いの手紙、身元不明の死体、中身のわからないアタッシュケース——この三件を結ぶ調査を、遠田は毛利小五郎に依頼したのである。
葵屋旅館へ——先に来た「小五郎」
小五郎はコナンと蘭を連れて群馬県の葵屋旅館へ向かう。道中で群馬県警の山村ミサオ刑事と出会い、車に乗せてもらうことになった。山村もまた、頭神の森で発見された死体の件で旅館へ向かうところだった。旅館に着くと、依頼人の遠田は困惑した様子で告げる。「毛利小五郎」は3時間前にすでに到着し、例のアタッシュケースを持って客室へ入ったというのだ。目の前にいる小五郎が本物なら、先に来た小五郎はニセ者である。蘭は父の名を騙ってケースを持ち出した男に激怒するが、小五郎はこれを制し、ニセ者の出方をしばらく見ることにした。自分は正体を隠し「越後光衛門」と名乗って部屋を取る——水戸黄門をもじった偽名である。
見張りの空振りとニセ者の死
一方、死体を発見した従業員の浦川詠次から話を聞く山村に、コナンは事件の違和感を伝える。従業員の神保雅夫が、落ちていた蘭の携帯電話を拾って小五郎に手渡す場面もあった。コナンはニセ者がケースを持って逃げることを警戒し、部屋の窓から旅館の出入口を見張り続けるが、誰一人外へ出る者はいない。小五郎は山村と肩を組んで温泉へ向かい、ニセ者の動きを待つ構えを見せる。夜、一向に動きのないニセ者に業を煮やした小五郎は、209号室のニセ者の部屋へ乗り込む。そこにあったのは、首を吊って事切れた口髭の男——小五郎のニセ者・森達夫の姿だった。部屋の机の上には、開いたままのアタッシュケースが放置され、中身は5年前のスポーツ新聞と、濡れた長い髪の毛だけだった。死亡推定時刻は午後4時から5時の間とされる。呪いを予告した手紙、呪いらしき首吊り死——山村は「呪いなど存在するはずがない」と主張するが、コナンはあえて「呪いだよ」と返して山村を慌てさせる。さらにコナンは二つのことに気付いていた。夕方、女湯が清掃中で蘭が温泉に入れなかったこと。そして、ニセ者の部屋の入口に濡れた跡が残っていたこと。誰かが女湯に清掃中の札をかけて人を遠ざけ、排水溝から長い髪の毛を拾い集め、それをスポーツ新聞に挟んで「長髪の男の呪い」に見せかけた可能性が浮かび上がる。捜査を撹乱するための工作である。前編は、ニセ者の死という新たな謎を残して終わる。
犯人・トリック・動機などのネタバレを表示
犯人と5年前の恐喝——死亡推定の偽装
ニセ者を殺した犯人は従業員の神保雅夫である。神保は5年前、長髪の男と組んで製菓会社を恐喝し、1億円を奪った。その金をアタッシュケースに入れて葵屋旅館に預けたが、長髪の男は仲間に殺される予感を抱いており、金を別の場所へ移して脅迫文を残していた——「呪い殺してやる」の手紙である。案の定、長髪の男は神保に殺された。金を取り戻すため、神保は葵屋旅館の従業員として潜り込み、長髪の男の死の時期を偽装した。従業員旅行の折に別の自殺体を見つけ、そこにあった空の牛乳パックとコンビニのレシートを持ち出した。パックに牛乳を注ぎ、接着剤で封をし、タバコやあんパンとともに長髪の男の遺体のリュックへ入れ、免許証を抜き取ったのである。レシートの日付は7月10日、牛乳とあんパンの消費期限は同12日——遺体の死亡推定は、実際の殺害から1年近く後の、その従業員旅行があった時期へとずらされていた。旅行で旅館を離れていた神保にとって、偽装された死亡推定日そのものがアリバイとして働く計算だった。
スポーツ新聞の暗号——埋蔵金の場所
小五郎に調査を依頼すると知った神保は、小五郎に瓜二つの男・森達夫を雇い、ニセ者としてアタッシュケースを奪わせた。しかし中身は相撲のスポーツ新聞だけだった。それは赤城丸の優勝を報じる紙面で、前頭五枚目の地位を示す暗号である。前に倒れた地蔵から東へ5歩進み、星取表に沿って右へ8歩進んだ地点——赤城丸が唯一黒星をつけた位置が、金の埋蔵場所を指していた。長髪の男は死の間際まで仲間を出し抜いていたのである。
森達夫の殺害と犯人の絞り込み
裏切られたと感じた森が「本物の小五郎に全て話す」と脅したため、神保は森を縄で絞め殺し、机と将棋盤を踏み台にして天井から吊るし、首吊り自殺に見せかけた。女湯の髪を新聞に挟んだのも、清掃中の札の置き場所を知る旅館の従業員だけにできる工作だった。犯人の絞り込みもこの構造に沿っている。長髪の男とアタッシュケースの中身を両方知っていたのは、預かった主人の遠田だけだが、遠田が犯人なら5年も保管せずにとっくにケースをこじ開けていたはずだ。では遠田以外で、長髪の男とケースの存在を知り得た者は誰か——旅館の従業員として潜り込んでいた神保だけが、その条件に合った。
神保の敗因とエピローグ——遠山金五郎
神保が自ら尻尾を出したのは、序盤のささいな場面だった。蘭の携帯電話を拾った神保は、それを小五郎へ「お嬢さんのでは」と手渡した。だが旅館にいる者は、小五郎が本物の眠りの小五郎であることも、彼が山村刑事と面識があることも、知るはずがなかった。つまり神保は、本物の小五郎が来ることを最初から知っていたのである。事件後、小五郎は自分のファンだという女性たちを車に乗せ、「遠山金五郎」と名乗って去っていく。
