「吹雪の中の復讐」とは

「吹雪の中の復讐」(ふぶきのなかのふくしゅう)は、青山剛昌の漫画『名探偵コナン』の単行本51巻に収録されたFile1の題名である。週刊少年サンデー連載時の通し番号ではFILE.522にあたり、2005年24号(2005年5月11日発売)に掲載された。小学館の公式事件データベース上では、事件番号148「服部平次VS工藤新一 ゲレンデの推理対決!」の一部であり、それを構成する5本のFileの最後、すなわち解決章にあたる。前巻50巻の最終File「雪女の銀衣伝説」から話をそのまま引き継ぎ、51巻はこの章で開く。題名が指すのは、吹雪のゲレンデで起きた殺人の正体である。4年前の殺人と同じ手口で行われた、復讐だった。

収録位置と掲載

51巻にはFile1からFile11までが収録され、「吹雪の中の復讐」はその先頭に置かれる。直前のFileは巻をまたいで50巻File11「雪女の銀衣伝説」、直後は51巻File2「おさかな事件」で、そこからは別の物語が始まる。事件番号148は50巻File8「平次の思い出」からこのFile1までの5本にまたがるため、本章は一連の真相開示を担う。巻の冒頭を前巻からの続きで始める構成は、解決だけが次巻へ持ち越されたことを意味する。 掲載号は週刊少年サンデー2005年24号。51巻の発売は2005年10月18日、定価は税抜390円だった。巻末の名探偵図鑑には朝吹里矢子が収められ、裏表紙には妃英理の秘書・栗山緑が描かれている。本章を含む一連のFileは、工藤新一に関する特集単行本でも再録された。舞台は山形県のスキー場とその近くのホテルで、語りの枠組みとしては毛利探偵事務所と服部家が使われる。

名探偵コナン 51巻の公式書影
『名探偵コナン』51巻(小学館公式書影)

アニメ第490話「服部平次vs工藤新一 ゲレンデの推理対決」

アニメ化は第490話「服部平次vs工藤新一 ゲレンデの推理対決」。2007年12月3日放送の1時間スペシャルで、視聴率は8.8%だった。FILE.518からFILE.522までを1話へまとめて映像化しており、本章の内容はその最終盤、二人の探偵が同時に真相を披露する部分に相当する。アニメでも平次は対面で、新一は電話越しで、それぞれ同じ結論を告げる演出が踏襲されている。

同時に届く真相

章は、山形県警の警部が容疑者たちを取り調べる場面から始まる。その最中に、ドアを叩く音と警部の携帯電話の着信が同時に鳴る。警部は部下に電話を取らせ、自分はドアを開ける。外に立っていたのは遠山和葉と服部平次で、平次は事件を解いたと言い切る。一方、電話の相手は工藤新一であり、毛利蘭の面前で同じく解決を告げる。披露は同時だ。互いの存在を知らないまま、二人の中学生探偵は同じ瞬間に同じ真相へたどり着いた。本章はその同時の解決披露を軸に進む。 二人の説明は、ひとつの絵へ収束する。ゲレンデでファンの前に滑走を見せた箕輪奨兵は本人ではなく、変装した別人だった。本物の箕輪は大きなバッグの中に隠れており、集まったファンの質問へ中からこっそり答えていた。リフトの上で彼は撃たれた。遺体の脇には、4年前と同じく雪を詰めたバッグが残されている。証拠を突きつけられた犯人は、自ら犯行を認める。あの日の吹雪の中で何が行われたか。それがここで明らかになる。誰がどうやって殺したか、その手口と動機の詳細は後の節にまとめる。

大山守蔵の構図とエピローグ

解決の後、監督の大山守蔵がこの殺人へ抱いていた構図も明かされる。大山は4年前の死について以前から箕輪を疑っており、自白を促すために今回の映画を企画していた。雪女伝説に準えた映画の撮影という物語の枠組みが、実は仕掛けられた側だったとここで分かる。 エピローグでは、二人とも称えられるものの、相手がヒントなしで解いたと聞いて納得しない。足をひねった和葉を背負ってロッジへ戻る平次と、蘭へ同じことを話す新一がすれ違い、互いを探偵と認め合う。そして語りは現在へ戻る。平次はコナンへ「どっかの中坊」との推理合戦を誇るが、その中学生が新一本人だったと今も気づいていない。真相を知るコナンは、それを心の中にとどめるだけである。事件の幕は、こうして下りる。

「吹雪の中の復讐」という題名

題名の「復讐」は、本章で明かされる犯行の動機を直接指す。殺された箕輪は4年前、同じこのゲレンデで、同じ手口を使ってスタントマンの水上二朗を殺していた。今回の犯人はその真相を見抜き、箕輪が考案したのと同じ仕掛けを、そのまま箕輪へ向けて実行した。つまりこの事件は模倣犯ではない。被害者自身の手口をそっくり返す、報復である。 「吹雪」もまた、単なる背景ではない。箕輪が殺された日も、水上が死んだ4年前の日も、同じように吹雪いていたと大山たちは振り返る。雪女の銀衣伝説になぞらえた演出は、吹雪あってこそ成り立つ。二度の殺人は、同じ天候に包まれている。民話を装った虚構が、そこで貫かれる構造だ。 こうした読み、題名が被害者への報復という行為の性質を示すととる解釈は、編集上のものとして記す。英語版の章題は「Revenge in the Blizzard」(Viz版)、Detective Conan Wikiでは「Vengeance in the Snowstorm」、ドイツ語版は「Rache im Schneesturm」と訳される。

File1の登場人物

資料がFile単位で整理する本章の登場人物は、工藤新一を主役格に、江戸川コナン、服部平次、毛利蘭、遠山和葉、鈴木園子と並ぶ。前章File11にコナンの記載はなかった。本章は違う。回想の枠から現在の場面へ戻るため、語りの枠組みを担うコナンが再び列記される。全編が回想内だった前章と、ここで構成が変わる。 関係者たちも、本章では語りの場へ直接出てくる。ConanWikiの登場一覧は、コナン、平次、新一、蘭、和葉に加え、片品陸人、三俣耕介、箕輪奨兵、水上二朗、大山守蔵、立石雫を挙げる。前章では探偵たちの検証を通して間接的に描かれた彼らが、本章では取り調べの場で問いに答える側として前景に立つ。なお、コミックスデータベース系資料は園子を本章の登場人物に数えるが、ConanWikiの一覧にはなく、資料間で列記範囲が異なる。場所としては毛利探偵事務所、服部平次の家、山形県が挙げられている。 解決の経路も人物配置と対応している。平次は和葉とともに警部の前へ姿を見せて対面で説き、新一は蘭の面前で電話越しに説く。披露の形は違う。だが後ろには、それぞれの父親、工藤優作と服部平蔵から届いた同じ性質のヒントがある。二人の探偵が父親の助言を介して並んだ構図は、この事件が「対決」と題される所以である。

工藤新一の公式人物場面写真 1
工藤新一(読売テレビ公式掲載画像)

事件の中での位置づけ

事件番号148は、「平次の思い出」で語りの枠組みと4年前の死を提示し、「雪女の計」で現在の殺人を起こし、「謎のリフト」で現場の不自然さを洗い出し、「雪女の銀衣伝説」で双方の推理を収束させた。残る解決が、本章「吹雪の中の復讐」で開かれる。ばらばらに集まった手がかりは、前章で絵の輪郭になり、本章で色が塗られる。ここが終着点だ。 対決は、引き分けだ。勝者はいない。平次は対面で、新一は電話で、同じ瞬間に同じ真相を告げ、どちらも父親からのヒントを経由して届いた。二人は互いがヒントなしで解いたと思い込み、勝ち誇ることなく引き分けの不満を残す。結果として、どちらが上の探偵かという問いには答えが出ない。残るのは互いへの敬意だけである。

服部平次の公式ビジュアル
服部平次(公式掲載画像)

二人の初対面だった事件

資料は本章をこう位置づける。平次の回想するこの出来事は、実際に彼が新一と初めて出会った場だったと判明する章である。File8の回想開始から本章のエピローグまで、読者は平次より多くを知っている。すれ違いの末に互いを探偵と認め合った二人だが、現在の平次は「どっかの中坊」が新一だったと知らず、コナンだけがその同一性を理解している。この情報の非対称が、巻をまたいだ事件の幕引きになる。

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殺害の手口と雪入りバッグの細工

本章で披露される真相はこうだ。箕輪奨兵はスキーの腕が十分でなく、ゲレンデで滑ったのは変装したスタントマンの三俣耕介だった。本物の箕輪は、土産店で買えるスポーツバッグの大きなサイズの中に隠れており、ファンへ預けたその中から気づかれずに質問へ答えていた。三俣はリフトの上で箕輪を消音器付きの拳銃で撃ち殺し、そのまま飛び降りている。凶器はトカレフTT-33である。 雪入りバッグの謎も、ここで解ける。三俣はあらかじめ、雪を詰めて持ち手を凍らせ立てたバッグを、リフトが斜面へ近づく地点の下へ置いていた。殺害後、リフトに乗ったままストックでその持ち手を引っかけ、座面まで引き上げて回収する。リフトが斜面へ3メートルまで近づく場所はコース上に2カ所あり、三俣はもう一方の地点で飛び降りた。座面に残った割れたような跡と、上下逆さにはめられたストックの輪は、この回収に使われた痕だった。

偽装された銃声と4つの証拠

聞こえた銃声の時刻も、偽装だった。三俣は時限で発火する仕掛けをペットボトルへ仕込み、パンという破裂音を起こさせる。その間に他人と会話し、アリバイを作った。新一と蘭が雪の中で拾った焦げたペットボトルがその残骸だ。証拠は4つある。古い映画のスキー場面の継続ミス。土産店で複数サイズが買えるバッグ。リフトが斜面へ接近する地点が2カ所あること。そして三俣が自分の上着の下に、箕輪の服を着たままだったことだ。証拠を消す時間が足りず、彼は箕輪の服を重ね着したまま取り調べを受けていた。

水上二朗への復讐

動機は、4年前に殺された水上二朗への復讐だった。箕輪の映画のスキー場面で吹き替えを務めていた水上。その事実が明かされるのを箕輪は恐れ、同じ手口で水上を殺害した。真相を見抜いた三俣は、箕輪の手口をそのまま用いて報いたのである。第二の雪女伝説が解決を導いたのは、「男が背負って運んだものが実は人間だった」という構造がバッグの中の箕輪を暗示し、雪女が溶けて雪だけが残る結末が、雪女の仕業に見せかけた虚構が解ける様子と重なるためである。この対応の読み方は編集上の解釈として記す。

出典