「ロシアンブルー」とは
「ロシアンブルー」は、青山剛昌の漫画『名探偵コナン』の単行本51巻に収録されたFile7の題名である。週刊少年サンデー連載時の通し番号ではFILE.528にあたり、2005年30号(2005年6月22日発売)に掲載された。小学館の公式事件データベースでは、事件番号151「ロシアンブルーの秘密」を構成する2本のFileのうち最初の1本で、続くFile8「ゴロはゴロでも!?」で事件が解決する。題名は妃英理の飼い猫ゴロの猫種に由来し、殺人の起きない日常の依頼――暗号メールの解読――を小五郎自身が相手にする異色の章である。
収録位置と事件構成
51巻はFile1からFile11までを収録し、「ロシアンブルー」はその7番目に置かれる。直前のFile6「混入トリック」で事件番号150「ため息潮干狩り」が閉じ、本章から新しい事件が始まる。直後のFile8「ゴロはゴロでも!?」でこの事件は完結し、巻末のFile9から11までは本堂瑛祐の登場する別荘の事件が続く。事件番号151は51巻に収録された事件のうち、File2・3の「お魚メールの追跡」と並んで2章で完結する短いエピソードである。
51巻の刊行と表紙
本章が掲載されたのは週刊少年サンデーの2005年30号で、単行本は2005年10月18日に税抜390円で刊行された。この巻の表紙は、作者・青山剛昌の飼い猫「カイト君」を撮影した写真を背景に、その猫と同じ格好で寝そべるコナンのイラストを重ねた凝った作りで、背景写真を撮ったのはコナン役の高山みなみである。偶然にもこの表紙の猫は、本章で初登場するゴロのモデルそのものだ。巻末の名探偵図鑑は弁護士の朝吹里矢子、裏表紙には妃英理の秘書を務める栗山緑が描かれる。栗山は本章の発端――英理の猫をいつも預かるはずだった人物――でもある。

テレビアニメ第445話「ロシアンブルーの秘密」
アニメ化は第445話「ロシアンブルーの秘密」の単発で、2006年7月10日に放送された。視聴率は9.3%。FILE.528と529の2章分を1話へまとめており、本章の内容はほぼ前半にあたる。監督は佐藤真人。構成・絵コンテ・演出を土屋日が、作画監督を小林ゆかりが務め、制作協力はマジックバスである。オープニングは「100もの扉」、エンディングは「もう君だけを離したりはしない」が流れた時期の放送で、DVDではPART15の5巻に収録され、国際的な話数では483話にあたる。ネクストコナンズヒントは資料間で記述が分かれ、アガサーチとConanWikiは「キーホルダー」、Detective Conan Wikiは「若い女性のメールの書き方」と記す。 声の出演では、コナン役の高山みなみが猫のゴロを兼任した。依頼人の桐下は水鳥鉄夫、桐下が文面を見せた同僚の娘は倉田雅世が演じる。沖野ヨーコと栗山緑は名前だけの登場で、声の出演はない。 アニメ版には原作にない場面や台詞の増減がいくつかある。アガサーチの記録によれば、冒頭で小五郎が沖野ヨーコのドラマの録画確認に気合を入れる描写のカット、園子が事務所を訪れて空気を読む台詞と蘭の挨拶の追加、コナンがゴロの頭を撫でて後を託す場面と小五郎の「ヨロシクするのは俺だっつーの!」という独り言のカット、年賀状を思い出す回想の追加などが挙げられている。原作では風邪で寝込む栗山緑の姿がイメージとして描かれるが、アニメでは名前だけの登場に留まる。またアニメ版では、本来の依頼人は桐下の妻であり、体調を崩した妻に代わって夫の桐下が会社へ行く前に訪れたという経緯が説明される。これらはアニメ側の記述であり、原作の本章とは区別して読む必要がある。
File7で起きること
朝、毛利小五郎は手帳の予定を確かめながら探偵事務所へ降りる。昼の2時からは沖野ヨーコの出演するテレビドラマが控えており、アニメ版の記録では連続ドラマ「青い疑念」の第6回の録画と視聴を予定していた。午前中の依頼人との約束を早く済ませたい小五郎だったが、事務所の中では、蘭とコナンが床に座り込み、一匹の猫を見つめている。その猫はゴロ。妃英理の飼っているロシアンブルーである。 事情はこうだ。英理は以前から飼っていた猫を一か月前に老齢で亡くし、知人から新たに譲られたのがこのゴロだった。アニメ版のあらすじでは、先代の猫も「ゴロ」と名付けられた茶色と黒のぶち猫だったと説明される。仕事で沖縄へ出張する間の三日間、いつも世話を任せていた秘書の栗山緑が風邪で寝込んでしまったため、英理は蘭へゴロを預けるよう頼んできた。しかし蘭もコナンも学校がある。結局、世話係は文句を言う小五郎へと回ってくる。迎えに来た園子とともに蘭が登校し、一人で猫番をしたくない小五郎はコナンに学校を休めと引き留めるが、そのやり取りの最中に依頼人の訪問を告げるノックが響いた。 依頼人は桐下という男で、高校2年生の娘が間違えて彼の携帯電話へ送ってきたというメールを見せる。そこに並ぶのは「よゝ└⊂⇒±Wσ言延¬゜νカゝレゝ(=〒〒<σ⊃きあつτ」という、日本語とも記号ともつかない文字列だった。娘はこのメールを早く消せと言うばかりで内容を教えず、桐下夫妻は心配している。小五郎が辛うじて読み取れるのは「カレ」と「つきあって」という断片で、娘が男に騙され、隠れて始めたアルバイトの給料を貢がされているのではないかというのが二人の懸念だった。桐下はこの文面を年上の女生徒――会社の同僚の娘で、高校3年生――にも見せたことがあるが、「首を突っ込まないほうがいい」と突き放されただけだったという。 画面を覗き込んだコナンは、小五郎の肩に座るゴロについて余計な指摘をし、怒った小五郎に学校へ追い出される。だがコナンは忘れ物をしたと言って一度戻ってきて、大人たちの目を盗んで事務所の中にいくつかの細工を残し、桐下と一緒に事務所を出て行った。この時点で読者にはコナンの行動だけが見えており、その意味はまだ明かされない。

小五郎一人の解読
一人残った小五郎は解読に取りかかるが、先に待っていたのは猫の仕業だった。洗面所で顔を拭けばタオルは猫の毛だらけで、顔中に毛がつく。小五郎の宝物である沖野ヨーコのビデオテープの棚にゴロが潜り込み、追い出したあとで小五郎は、収めてあるはずの2話目のテープが一本抜けていることに気づく。さらにゴロはコナンの靴をひとりで遊び始め、靴は必ず二つで一組だと教えようとする小五郎の説明も、猫には通じない。 それでも小五郎はめげずに文字を崩していく。ギリシャ文字の知識でいくつかの記号を置き換えると、さきほどの「つきあっτ」は「つきあったう」となるが、それでは意味をなさない。途方に暮れる中、ゴロが本棚から英和辞典を叩き落とし、小五郎は激怒しながらもその辞書を手に取る。ここで彼は、記号をそのまま読むのではなく、形の似た日本語の文字として強引に読み替える発想へたどり着き、「つきあっτ」を「つきあって」と正しく読むことに成功する。小五郎はゴロへ礼を言い、ふと我に返って、この猫がわざと自分を助けたのではないかと首をひねる。本章はここで終わり、解読の完成と結末はFile8へ引き継がれる。

暗号メールの文面
本章の依頼の核になるのは、桐下の携帯電話へ誤送信された一通のメールの文面である。そこに並ぶのは「よゝ└⊂⇒±Wσ言延¬゜νカゝレゝ(=〒〒<σ⊃きあつτ」という文字列で、漢字やひらがなに紛れて図形記号やギリシャ文字が混在する。アニメ版の記録でも同じ文面が転記されており、資料間で齟齬はない。 小学館の公式事件データベースがこの事件のビジュアルとして掲げるコマも、この文面を表示した折りたたみ式携帯電話を手にした場面であり、本章を象徴する小道具として扱われている。読み取れる断片が「カレ」と「つきあって」しかないという設定が、娘を案じる両親の不安と、解読に挑む小五郎の双方を動かす起点となっている。
「ロシアンブルー」という題名
題名はゴロの猫種そのものを指す。ロシアンブルーは青みがかった灰色の毛並みとグリーンの瞳を特徴とする品種で、ロシアを原産地とされ、古くはロシア帝国の貴族に愛されたという由来を持つ。作中では英理が新たに飼い始めた猫として登場し、この題名は猫を指すだけでなく、本章全体が「猫のいる日常の中で探偵が暗号と格闘する」話であることをそのまま告げている。 題名の訳し方は資料ごとに違う。Detective Conan Wikiの章題は「Russian Blue」、ConanWikiの訳題は「Russisch Blau」で、いずれも原題をそのまま移している。アニメの英題は事件名に基づく「Secret of the Russian Blue」である。一方、英語圏の単行本版(Viz Media)では猫の名前自体が「リッキー」へ置き換えられ、File8「ゴロはゴロでも!?」は「Ricky is Ricky」と訳された。「ゴロ」という名にかかった日本語の語呂を英語へ移しにくいため、現地の猫の名前ごと翻訳した例として知られる。
File7の登場人物
小学館の公式事件データベースは、この事件のメインキャラクターとして江戸川コナン、毛利蘭、毛利小五郎、鈴木園子、妃英理を挙げ、ゲストキャラクターにゴロ、桐下、桐下の娘を列記する。舞台は毛利小五郎探偵事務所である。 ただしこれは事件全体の列記であり、章単位では範囲が異なる。コワレ処の51巻データはFile7の登場をコナン、ゴロ、小五郎、蘭、園子に絞り、「キャラ初登場」の注記を添えている。これはゴロを指す。妃英理は公式DBではメインキャラだが、本章には姿を見せず、登場はFile8からである。ConanWikiの本章の出演一覧もコナン、小五郎、蘭、園子、ゴロに依頼人の桐下を加えた顔ぶれで、英理を含まない。 本章の実質的な主役は小五郎である。コナンを学校へ追いやったあと一人で依頼に向き合い、暗号と猫の両方に振り回されながら、最後は自力で読み替えの筋を見つける。探偵の助手でも眠りの代弁者でもない小五郎が、自分の頭で答えへ近づく姿が章の軸になっている。対してコナンは、短い登場の中で桐下の依頼内容を聞き、一度だけ事務所へ戻って何かを仕掛けるという、章末まで意図の読めない動きに留まる。

猫のゴロとモデルの「カイト君」
英理がつけた猫の名前は「ゴロ」で、「いつもゴロゴロしているから」と英理は説明するが、蘭は「多分ホントは…」と言いかけて止まる。本来の由来がどこへ向くかは、章題が「ロシアンブルー」から「ゴロはゴロでも!?」へ変わるFile8で初めて示される。名前の謎もこの事件の一部として組み込まれている。 ゴロにはモデルの実在の猫がいる。作者・青山剛昌の飼い猫「カイト君」――名前は青山の連載作品『まじっく快斗』にちなむ――がそのまま51巻の表紙写真にも使われており、巻と題材が二重に結びついている。アニメではゴロの声をコナン役の高山みなみが兼任しており、表紙写真の撮影者も同じ高山である。Detective Conan Wikiは劇場版第10作『探偵たちの鎮魂歌』への登場を挙げつつ、本事件が原作基準での初登場であると記す。
事件の中での位置づけ
事件番号151は、本章「ロシアンブルー」とFile8「ゴロはゴロでも!?」の2本で構成される。本章はその第1章で、猫の預かりと依頼の発生、解読への取りかかりまでを担う。殺人や傷害が起きない点は、この事件の大きな特徴である。直前の事件番号150が海辺の毒殺事件だったのに対し、ここで探偵が取り組むのは暗号メールの解読という、民事の相談に近い依頼である。 本章内でコナンが行う探偵らしい行動は、表向きにはほとんどない。依頼を聞き、事務所へ戻り、大人に気づかれず細工を残す。小五郎を除けば章内の時間を最も動かすのは猫であり、洗面所のタオル、ビデオ棚、本棚という生活空間の細部がそのまま解読の道筋になる。事件の構造自体が、毛利探偵事務所という舞台の中で完結するように作られている。 アニメでは本事件は第445話として一本で放送され、前の潮干狩りの事件の第443・444話、次の洋窓の事件の第446・447話と、放送順がほぼ収録順どおり並ぶ。Detective Conan Wikiは、本事件を解決した者としてコナン、小五郎、園子の3名を挙げており、犯人の存在しない事件として、小五郎が「解く側」に回る構成が資料上も明確である。
よくある質問
「ロシアンブルー」は実在する猫の品種か――実在する。青みがかった灰色の毛並みとグリーンの瞳を特徴とする、ロシア原産とされる品種である。作中では妃英理が知人から譲られた飼い猫として登場し、題名の由来そのものになっている。 アニメでは何話にあたるか――第445話「ロシアンブルーの秘密」で、2006年7月10日に放送された。File7とFile8の2章分を1話にまとめており、本章の内容はほぼ前半にあたる。 この事件に犯人は登場するか――殺人や傷害の起きない事件であり、探偵へ持ち込まれるのは暗号メールの解読という依頼である。Detective Conan Wikiはこの事件を解いた者として、コナン、小五郎、園子の3名を挙げている。 猫のゴロはこの事件だけの登場か――Detective Conan Wikiは劇場版第10作『探偵たちの鎮魂歌』への登場を記録しつつ、原作基準では本事件が初登場であると記す。アニメでの声はコナン役の高山みなみが兼任した。
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File8で明かされる暗号とメールの内容
File8で小五郎は、三毛猫ホームズ――赤川次郎の小説に登場する、飼い主の刑事へ何気ない動作でヒントを与える猫の名探偵――を引き合いに、ゴロがわざと自分を導いているのではないかと考える。残った文字の謎は二つだった。暗号の記号には、ひらがなやカタカナから画の一部を抜いたものが混ざっており、さらに記号二つを組み合わせて一文字とする仕掛けがある。抜けていた沖野ヨーコのテープと、二つで一組の靴という、ゴロのいたずらが示したのがこの二点だった。 完成した文面を、下校してきた園子が苦もなく読んでしまう。娘が書いたのは、若い女性同士で使う装飾的な文字文化――いわゆるギャル文字に通じる書き方であり、同世代の園子には常識の範囲だった。メールの内容は、隠れて始めたアルバイトの給料で、友人とともに父親へ誕生日プレゼントを買う計画だった。交際でも貢ぎでもなく、むしろ父親思いの内容である。
File8の結末
小五郎は娘のサプライズを壊さないよう、桐下へ「解けなかった」と答え、娘さんはいい子だと伝えて依頼を返す。通話中、ネクタイを引っ張るゴロを、依頼人へ何も言うなと止めているように小五郎は受け取った。その間にコナンは、仕掛けの証拠――抜き取ったビデオテープを棚へ戻し、ゴロを誘導するために使った鰹節の残り――をこっそり片づける。猫のいたずらに見えた一連の出来事は、コナンが小五郎を答えへ近づかせるために仕組んだ誘導だった。 結末はほろ苦い。夢中で解読に励んだ小五郎は、沖野ヨーコの番組を見逃し、ゴロへ怒鳴りつける。そこへ英理が迎えに現れ、猫を連れて帰る。去り際に英理は、小五郎には不思議な響きでゴロの名の由来をほのめかす。蘭が言いかけた「多分ホントは…」とあわせて、その名が「五郎」――すなわち小五郎――を指すのではないかと、読者へ示唆される結末である。
