使徒
ゼルエル
第拾九話の第14使徒と『:破』第10の使徒を区別する
ゼルエルは、テレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』第拾九話「男の戰い」に登場する敵性生命体「使徒」の1体で、作中では「第14使徒」と呼ばれる。第拾八話の次回予告では「最強の使徒」と呼称され、その呼び名通り、特務機関NERVの本部施設そのものを戦場に変えた使徒である。名称はユダヤ・キリスト教伝承で「力」を司る天使ゼルエルに由来するが、劇中の台詞でこの名が呼ばれることはなく、本編では「第14使徒」とだけ呼ばれる。
ネタバレ:TV版第拾九話および『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の使徒戦と結末まで扱います。





「最強の使徒」と呼ばれる理由
ゼルエルは第拾九話で第3新東京市の防衛線を突破し、ジオフロントを経てNERV本部へ迫る。第拾参話のイロウルが本部内部から侵入したのに対し、ゼルエルは地上から正面突破を図る。2号機と零号機を退け、発令所の近くまで到達したその進攻は、NERVの防衛手段を一つずつ失わせた。
「最強」の評価は、攻撃力の高さに加えて攻守双方の隙のなさに根拠がある。髑髏のような顔の目から放つ破壊光線は、ジオフロント上部の特殊装甲を一撃で貫くほどの威力を持つ。帯状に折り畳まれた両腕はカッターのように高速で伸び、エヴァンゲリオンの装甲を易々と切り裂く。防御面でも、A.T.フィールドを中和されて攻撃を受けてもほぼ傷を負わない強固な体表を持ち、急所のコアはまぶたのようなシールドで覆える。
姿と能力
外見はずんぐりとした人型で、空中を浮遊して移動する。鈍重そうな見た目とは裏腹に行動は俊敏である。頭部は髑髏を思わせる無機質な顔を持ち、胸部には赤いコアが露出する。両腕は平たい帯状に折り畳まれており、伸ばすと刃物のような切断武器になる。
主な能力は以下の通りである。
- 破壊光線:目から発射する高出力の光線。ジオフロント上部の特殊装甲を一撃で貫通し、初号機の左腕や胸部装甲を吹き飛ばした
- 帯状の腕:折り畳まれた腕をカッターのように高速伸展させ、弐号機の両腕と頭部、零号機の頭部を切断した
- 強固な体表:A.T.フィールドを中和された状態でも、弐号機のパレットライフルとロケットランチャーの連射をほぼ無傷で受け止めた
- コアシールド:胸部コアをまぶた状の装甲で包む防御。零号機が抱えたN2爆弾の特攻を接触寸前で無効化した
- A.T.フィールド:使徒共通の防御障壁。ゼルエルは中和されることを前提にした体表の耐久力と併せ持つ
TV版での戦闘経過
ゼルエルの襲来は、直前の第13使徒バルディエルとの戦いで零号機が左腕を失い、エヴァンゲリオンのうち実戦配備が可能なのが弐号機のみという状況で起きた。
ジオフロントへ侵入したゼルエルを、惣流・アスカ・ラングレーの駆る弐号機がパレットライフルとロケットランチャーの連射で迎撃する。しかしA.T.フィールドが中和済みにもかかわらず攻撃はまったく通用せず、ゼルエルは悠々と着地すると帯状の腕を展開し、弐号機の両腕と頭部を切断して撃退した。続いて綾波レイの零号機改が残された右腕にN2爆弾を抱えて特攻を仕掛けるが、爆弾がコアに接触する寸前、ゼルエルはシールドでコアを包み、無傷のまま零号機の頭部を切断して退けた。
エヴァ2機を倒したゼルエルはNERV本部へ侵攻し、第1発令所に突入する。葛城ミサトらへ光線を放とうとした直前、遅れて到着した初号機の体当たりを受け、カタパルトへ押し付けられて初号機ごと地上へ放り出された。ゼルエルの攻撃で左腕を失いながらも、シンジの初号機はかつてない気迫で猛攻をかけ、ゼルエルは顔状の部分を引きちぎられそうになる寸前まで追い込まれる。しかしここで初号機の活動限界が訪れ、初号機は停止した。
形勢を逆転したゼルエルは光線で初号機の胸部装甲を吹き飛ばし、露出したコアへ両腕での突きを繰り返した。しかしシンジの叫びに応えるように初号機は再起動し、暴走状態で覚醒する。ゼルエルは自らの腕部を引き千切られ、それが初号機の失った左腕のパーツとして取り込まれた。残った腕で攻撃を試みるも、初号機の放った腕の一振りによってA.T.フィールドごと肉体を引き裂かれて致命傷を負い、光線を放とうとした直前に頭部を潰され、最後は初号機に捕食された。この捕食によって初号機は使徒の動力源であるS2機関を体内に取り込み、人の制御を離れた存在となった。
この戦いの被害は甚大だった。零号機と弐号機は戦闘不能となり、NERV本部も大きな被害を受けた。ゼルエルに手も足も出なかったことがアスカのプライドに綻びを生じさせ、以後のエヴァとのシンクロ率低下の要因にもなった。一方でこの襲来は、搭乗を拒否していたシンジが再びエヴァに乗るきっかけを作った戦いでもある。
新劇場版では「第10の使徒」
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』では、同じ役割の使徒が「第10の使徒」として登場する。新劇場版では使徒に天使名が付けられず、呼称もTV版の「第14使徒」という形式から「の」を挟んだ「第10の使徒」という形式へ変わっている。頭部のデザインはTV版ゼルエルとほぼ同じだが、全体の形状は大幅に異なり、サイズもひとまわり大きい。胴体は帯状の組織が巻き付いて構成され、自在に身体形状を変化させられる。当初は手足のない姿だが、変形すると帯状組織がほどけて大量のヒレ状の触手が現れる。冬月コウゾウが「最強の拒絶タイプ」と評する通り、攻撃・防御ともにTV版以上の性能を見せる。
頭部から放つ光線は、第3新東京市とNERV本部を隔てる装甲板を貫通する。A.T.フィールドも一枚ではなく何重にも重ねて展開でき、巨大なフィールドでの防御から至近距離での小型フィールドの複数展開まで使い分ける。さらにフィールドの層を相手へ向けて連続展開し、そのまま吹き飛ばす攻撃的な運用も可能で、DVD・Blu-ray版ではA.T.フィールドの塊を真希波・マリ・イラストリアスの乗る2号機へ落とす場面も追加された。
接近戦では最も長い一対のヒレを円柱状に束ね、太く鋭利な触手として突き出して攻撃する。マリの駆る2号機は裏コード「ザ・ビースト」を発動して獣化第2形態で接近戦を挑むが、槍状の触手で両腕を吹き飛ばされ頭部を破壊される。続く零号機のN2弾頭ミサイルを使った特攻も、両腕を失った2号機が再突撃してA.T.フィールドを食い破る連携まで用いられたが防がれ、動けなくなった零号機は綾波レイを乗せたまま捕食された。使徒は零号機と融合して体部が白い裸体の女性へと変容し、このとき零号機の頭部だけは吐き出していた。識別パターンを零号機のものへ擬態したため、NERV本部最深部に達した際に自動起動するはずの施設自爆機能まで無効化している。
本部地上部を破壊してセントラルドグマへ降下し、発令室に侵入した第10の使徒は、ミサトらへの光線発射の直前でシンジの駆る初号機に阻止され、初号機ごとジオフロント内へ送り出される。光線で初号機の左腕を吹き飛ばすも、シンジの猛攻を受けて後退し、馬乗りになった初号機に一方的に殴られてヒレを引きちぎられかける。初号機が内部電源を消費しきって活動停止すると反撃に転じて初号機を貫いたが、取り込まれたレイを救おうとするシンジの意志で疑似シン化を遂げた初号機に圧倒される。使徒のコアは零号機のコアを引きずり出された際に破壊されて形象崩壊し、液状となった組織は零号機のコアを中心にレイの姿をとって初号機に吸収され、ニア・サードインパクトの贄となった。
第拾九話の勝利が残した問題
ゼルエルを倒すため、シンジは自分の意志で初号機へ戻る。しかし最後に使徒を捕食したのは、活動限界を超えて動いた初号機である。シンジの選択と初号機の変化は連続して起こるが、同じ現象ではない。第拾九話を「シンジが覚悟を決めて強敵に勝った話」だけにすると、機体が人間の運用から離れていく不穏さが抜け落ちる。
2号機と零号機の敗北にも別々の意味がある。アスカは正面から武装を投入しても届かず、レイはN²爆雷を抱えて接近しても止められない。攻撃の種類を変えても突破できない相手だからこそ、ゼルエル戦は単なる火力比べではなく、NERVの防衛手段を順に失う過程として描かれる。
ゼルエルを取り込んだ初号機はS²機関を得る。敵を排除して危機を脱した一方、人間が電源や命令で活動を制限する従来の枠組みも揺らぐ。戦闘の結末は第拾九話「男の戰い」で確認でき、シンジの身体へ生じた変化は続く第弐拾話へつながる。
TV版と新劇場版で変わる結末
TV版では、ゼルエルは第14使徒として初号機に捕食され、初号機がS²機関を取り込む転換点を作る。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』で対応する姿と役割を持つ個体は、第10の使徒と呼ばれる。番号と呼称を旧作のまま読み替えると、他の使徒との登場順まで誤ってしまう。
新劇場版の第10の使徒は、公式商品の説明でも零号機を捕食した姿と帯状の触手が示されている。TV版と共通する髑髏状の顔は見分ける手がかりだが、『:破』の戦闘ではレイを救おうとするシンジの行動が結末を大きく変える。使徒そのものの形態だけでなく、誰を救おうとして初号機へ戻るのかに注目すると二つの系列の違いが見えやすい。
両作とも初号機が通常の戦闘の枠を超えるが、その先の出来事を同じ出来事として重ねないことが大切だ。TV版では捕食とS²機関獲得が第弐拾話のシンジの状態へ続く。『:破』では第10の使徒との戦いがニア・サードインパクトへ接続する。類似した敵のデザインを入口にしつつ、結果は作品系列ごとに分けて読む。