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ハリー・ポッター百科事典ANNA MOVIES
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場所・交通

グリモールド・プレイス12番地

不死鳥の騎士団の本部であり、純血主義のブラック家が残した危険な記憶と遺産を抱える屋敷。

隠れ家である前に、ブラック家が残した家

グリモールド・プレイス12番地は、ロンドンのマグルの街並みに挟まれながら、通常は存在を認識できない魔法使いの屋敷である。『不死鳥の騎士団』でハリーが連れて行かれるこの家は、不死鳥の騎士団の本部として知られる。しかし、それだけではこの場所の重さを説明できない。ここはシリウス・ブラックが生まれ育ち、嫌悪したブラック家の邸宅であり、家族の純血主義、肖像画、家系図、屋敷しもべ妖精クリーーチャーの記憶が壁や家具に残った場所でもある。

家は、秘密を守るための魔法によって外界から切り離される。一行が決められた手順で進むと、11番地と13番地の間に12番地が現れる。この仕組みは、物理的に隠す以上の効果を持つ。訪問者は住所を知っていても、守護者が秘密を打ち明けない限り、そこへ向かうことができない。第二次魔法戦争では、この家の扉を開けられるかどうかが、情報へアクセスできるか、誰を仲間として認めるかに直結した。

一方で、守りの強い家は必ずしも安全で居心地のよい家ではない。ホコリ、呪われた品、怒鳴る肖像画、過去の家族の価値観が、騎士団の活動する現在へ侵入してくる。グリモールド・プレイス12番地は、秘密基地の便利さと、相続した歴史から逃げられない不快さを同時に持つ場所である。

ブラック家の系譜と、家に刻まれた排除

この屋敷は、古くから純血主義を掲げてきたブラック家の所有物だった。玄関の肖像画となっているウォルブルガ・ブラックは、家を出たシリウスを裏切り者として扱い、マグル生まれや血統の異なる人々を罵る。彼女の叫び声はカーテンを開けるたびに屋敷へ響き、騎士団員たちが日常の会話をする場所へ、過去の差別的な秩序を持ち込む。

壁に掛けられた家系図も、同じ考え方を視覚化したものだ。家の基準に従わなかった者の名前は、焼き消された跡として残る。シリウスの名もその一つである。家を離れた彼は、ホグワーツで出会った仲間との関係を自分の家族と考えたが、法律上の相続と幼い頃の記憶からは完全に自由になれない。彼が騎士団へ本部として家を提供することには、嫌ってきたブラック家の資産を、正反対の目的へ使い直す意味がある。

しかし、家を別の目的へ転用すれば、そこに刻まれた価値観まで消えるわけではない。クリーーチャーはウォルブルガや純血主義者への忠誠を保ち、シリウスを主人として敬わない。屋敷の魔法も、住んでいた人々の感情も、契約書だけでは書き換えられない。グリモールド・プレイスは、戦争が敵を倒せば終わるものではなく、古い偏見が生活の細部へ残り続けることを示す。

フィデリウスの呪文と、第二次騎士団の本部

ヴォルデモート復活後、不死鳥の騎士団は再結成される。グリモールド・プレイス12番地は、その会合、連絡、避難の拠点になった。家の所在はフィデリウスの呪文で守られ、ダンブルドアが秘密の守り手となる。騎士団員は彼から住所を知らされることで初めて家を見つけられる。魔法界で秘密を守るとは、壁を高くすることではなく、誰が情報を持ち、誰へ託すかを制度化することでもある。

ハリーは夏の間、この家でロン、ハーマイオニー、ウィーズリー家の人々と過ごす。彼にとっては、ダーズリー家から離れて仲間のそばにいられる避難所である。同時に大人たちが重要な情報を教えてくれないことへの苛立ちも強くなる。閉ざされた家は守りになるが、若い当事者を会話から締め出す構造にもなる。ハリーが魔法省やヴォルデモートについて断片的な情報しか得られない時、屋敷の暗さは彼の孤立を映す背景になる。

本部としての家には、多様な人々が出入りする。闇祓い、教師、魔法省職員、元囚人、狼人間、屋敷しもべ妖精など、ブラック家が本来なら受け入れなかった者たちが同じテーブルを囲む。その状態自体が、純血主義の屋敷への反論になっている。騎士団は安全な血統の共同体ではなく、ヴォルデモートに抵抗するという選択でつながった集団だからである。

掃除では片づかない魔法の遺品

屋敷を本部として使うため、住人たちは長年放置されていた部屋を掃除する。ところが、ブラック家の品々には危険な魔法が仕込まれている。噛みつく銀の嗅ぎタバコ入れ、触れると増えるもの、呪われた宝飾品、肖像画、暗い魔術と関係する本。掃除は見た目を整える作業ではなく、何が危険で、何を捨て、何を保管すべきかを判断する任務になる。

この場面で見過ごされそうになるのが、Sの文字が入った重いロケットである。ハリーたちは当初、その正体を知らず、開けられない不気味な品として脇へ置く。後にそれがヴォルデモートの分霊箱の一つで、レギュラス・ブラックがすり替えに関わったものだと分かる。グリモールド・プレイスには、家族の偏見だけでなく、レギュラスが最後に行った抵抗の痕跡も眠っていた。

だからこの家は、シリウスが捨てた過去だけではない。表面上は純血主義に従っていたレギュラスが、どのようにしてヴォルデモートの恐ろしさを知り、何を残したのかを読み解く手がかりでもある。屋敷に残る物品は、所有者の思想をそのまま証明するものではない。誰がそれを使い、捨て、隠し、後から意味を見つけるかによって、物の役割が変わる。

クリーーチャーとシリウスの対立

グリモールド・プレイスを理解するうえで、クリーーチャーの存在は欠かせない。彼はブラック家に仕えてきた屋敷しもべ妖精で、先代の主人たちの価値観を忠実に引き継いでいる。シリウスはクリーーチャーを、家が押しつけてくる過去の一部として扱い、強い嫌悪を隠さない。クリーーチャーもまた、シリウスの言葉を敵意として受け取り、ベラトリックスやナリッサのような純血主義の親族を慕う。

この関係は、シリウスが悪い主人であるという一点だけで説明できない。彼は少年時代に家を出た後も、あの屋敷で受けた扱いを忘れられず、クリーーチャーの言葉から母や家族を思い出してしまう。けれど、クリーーチャーにも感情と記憶があり、命令だけで忠誠を得られる存在ではない。相手を道具や家の付属物として扱う態度が、後の悲劇を招く。

シリウスの死後、家とクリーーチャーの所有権はハリーへ移る。ハリーは当初クリーーチャーを罰するが、レギュラスの真意を知った後には、彼が大切にしていたロケットを取り戻す目的を共有する。信頼が生まれると、同じ家は命令で縛る場所から、協力の拠点へ少しずつ変わる。グリモールド・プレイスが示すのは、相続とは物件を受け取ることだけでなく、そこに残った関係の責任を受け取ることでもある。

シリウスの死後、誰の家になるのか

神秘部の戦いでシリウスが死んだ後、彼がハリーへ遺言で残したものの一つがこの屋敷である。ハリーが所有者になったことで、クリーーチャーの忠誠も形式上はハリーに移る。だが家の安全がすぐに保証されるわけではない。ダンブルドアの死によりフィデリウスの呪文の条件が変わり、以前に住所を知った人々がそれぞれ秘密の守り手となる。その中には、敵へ情報を渡す可能性のある人物も含まれる。

『死の秘宝』でハリー、ロン、ハーマイオニーは一時的に屋敷を避難先として使う。しかし、追跡の危険を完全に除けないため、長く留まることはできない。守護の魔法は万能の壁ではなく、秘密を知る人間関係が崩れれば弱くなる。三人が旅を続ける決断には、家に戻れば安全だという期待を手放す痛みがある。

それでもこの屋敷は、物語の終わりまで空虚な遺産にはならない。ハリーが自分の家として引き継ぎ、クリーーチャーがホグワーツの戦いで協力することにより、ブラック家の屋敷は少なくとも一部で過去とは異なるつながりを結ぶ。完全に清められた場所ではないからこそ、そこで誰が何を変えたかが見える。

原作と映画での描かれ方

原作では、掃除の場面、家系図、クリーーチャーとの会話、ロケット、フィデリウスの条件などが積み重なり、屋敷が一つの登場人物のように描かれる。読者は部屋の暗さと、そこに住んだ人々の歴史を知ることで、シリウスがなぜこの家に閉じ込められることを苦しむのかを理解する。映画版では物語の速度のために細部が圧縮されるが、狭い玄関、肖像画、薄暗い室内は、騎士団の本部が明るい安全地帯ではないことを視覚的に伝える。

グリモールド・プレイス12番地は、住所であり、武器庫であり、避難所であり、家族の傷の保管庫でもある。そこに集まる人々は、過去の家主が決めた価値観をそのまま受け取らない。危険な遺産を前にして、誰を家族と呼び、何を守るために使うのかを選び直す。その選択の積み重ねが、この屋敷を『不死鳥の騎士団』に不可欠な場所にしている。