「ヒマワリ館の銃声」とは

「ヒマワリ館の銃声」は、テレビアニメ『名探偵コナン』の第245話として2001年8月6日(月)に読売テレビ・日本テレビ系で放送された回である。原作漫画に対応するエピソードを持たないアニメオリジナルで、脚本は利波創造が手がけた。舞台は静岡・西伊豆の海を望む崖に建つ「ヒマワリ館」——建築家・金沢柳一郎が自ら設計し、2階のリング状の部屋が12時間で1回転する屋敷である。日没後のバーベキューの最中に響いた一発の銃声と、施錠された書斎の密室を巡る事件を描く単発回である。

どの放送の記事か

本記事が扱うのは2001年8月6日放送の第245話である。読売テレビの公式事件ファイルでは「CASE FILE #245」として記録され、放送当時のシーズン区分は第6期、海外のエピソード番号では264話にあたる。Detective Conan Wikiの資料ではアニメ独自のフィラー事件として85番目に数えられる。直前には7月30日放送の第244話「毛利小五郎のニセ者(後編)」が置かれ、翌週8月13日には第246話「網にかかった謎(前編)」が続いた。本話は前後編を持たない単発回だ。事件はこの1話で解決まで進む。資料に残る視聴率は18.2パーセントである。 原作対応を持たないアニメオリジナル回であるため、原作の巻・Fileによる対応関係は存在しない。シーズン6はアニメオリジナルが原作回と交互に並ぶ時期で、本話の直後にも第248話「癒しの森のアリバイ」や第251話「OK牧場の悲劇」といったオリジナル回が続く。

ストーカー調査の依頼——西伊豆の金沢邸

依頼人は建築家の金沢柳一郎である。3ヶ月前から毎週のように自分を隠し撮りした写真が送られてくる——ストーカーの調査を依頼するため、小五郎はコナンと蘭を連れて静岡・西伊豆の金沢邸へ向かった。使った車は、目暮警部から強引に借り出した赤いサーブ900だった。 屋敷には金沢建築事務所の林田誠と雨森雅也という2人の弟子がちょうど訪ねてきており、天才建築家と称される金沢は、つい先日も上海現代美術館の国際コンペで賞を受賞したばかりだった。ところが、写真を送りつけてくる相手に金沢は全く心当たりがないという。小五郎は経験から、相手は金沢のよく知る人物だとにらんだ。

夕日を背に並ぶコナンと眼鏡の男性(読売テレビ公式・第245話ストーリーイメージ)
読売テレビ公式の第245話ストーリーイメージ。

12時間で1回転するヒマワリ館

屋敷に着いたのは午後6時40分だった。午後7時、裏庭でのバーベキューの支度が始まる。その時、蘭は屋敷が少しずつ動いていることに気づいた。「ヒマワリ館」と呼ばれるこの屋敷は金沢自身の設計で、直径約20メートルのリング状の2階部分が、ヒマワリが太陽を追うように12時間で時計回りに1回転する仕掛けを持つ。蘭はその絡繰りに感嘆した。妻の美津子は、あまり快く思っていない様子だった。

バーベキューの口論と二度の離席

午後7時10分、一同が庭に集まってバーベキューが始まった。楽しい食事の最中、美津子が突然、夫の素行調査をしてほしいと小五郎に頼み出す。話を聞いていた金沢は不快感をあらわにし、美津子を一喝した。口論になった。さらに金沢の矛先は林田にも向けられた。肉ばかり食べているからオリジナリティのある設計ができないのだと責められた。林田はビールを取りに行くと言って席を立った。 続いて午後7時25分、雨森がコナンに肉の焼き加減を見ていてほしいと頼んで炭を取りに納屋の方へ向かい、その間に林田が戻り、追加の炭を抱えて雨森も戻ってくる。その直後、雨森は金沢に間もなく時間だと告げた。金沢は受賞式での中国語スピーチに備え、7時30分から放送されるテレビの中国語講座を見るため、一人で2階の書斎へ上がっていった。翌日は上海行き、2日後には受賞式が控えていた。

書斎の銃声——密室の発見

午後7時35分、酔いつぶれて眠った美津子を残してバーベキューが続く中、一発の銃声が鳴り響いた——書斎のドアは内側から施錠されていた。雨森が取ってきたオノで小五郎がこじ開けると、つけっぱなしのテレビの前で、金沢は頭部を撃たれて事切れていた。発見は午後7時40分のことだった。

書斎の椅子で絶命した金沢柳一郎(第245話の被害者発見場面)
施錠された書斎で発見された金沢柳一郎。テレビの前の椅子で頭部を撃たれていた。

横溝参悟の捜査と30度のズレ

駆けつけたのは静岡県警の横溝参悟刑事だった。捜査が始まったのは午後8時35分だった。書斎の窓はすべて内側から施錠され、凶器の銃は室内にない。横溝は密室殺人と判断した。小五郎は窓ガラスに残った弾痕に注目した。ここでコナンは、2階が12時間かけて1回転していることを横溝に教える。12時間で1周なら、1時間に30度進む計算だ。 銃声は捜査開始の約1時間前——午後7時35分に聞こえている。被害者の座っていた位置と窓の弾痕を結ぶ線を30度分だけ戻すと、その先には裏庭に1本だけ立つ大きなマツの木がある。幹にはライフルが固定されていた。だがマツの周囲に足跡はない。午後6時半頃まで激しい雨が降っていたため、それ以降にマツへ近づいた者はいないことになる。

マツの木に固定されたライフル

木に登って調べた小五郎は、ライフルの引き金にはまったT字状の金具を見つけた——金具は釣り糸で結ばれ、糸の先は崖下の砂浜へ向かい、泥だらけの先端には重りが吊るされていた。小五郎は、被害者が書斎でテレビを見ることを知っていた犯人が、弾の届く時刻を割り出し、砂浜から重りを引いてライフルを発砲させたと推理する。銃声の瞬間、美津子・林田・雨森の3人はコナンたちと一緒にいた。外部犯の線が濃く見えた。

マツの木に固定されたライフルとコナン(第245話の捜査場面)
裏庭のマツの木に固定されていたライフル。引き金にはT字状の金具と釣り糸が付いていた。

濡れたライフルと残った泥の矛盾

だがコナンは疑問を抱いた——ライフルが濡れていたということは、雨が降る前からマツの木に固定されていたということだ。ならば釣り糸や引き金に付いた泥は、雨できれいに流れ落ちているはずではないか。警察の調べで、ライフルは金沢の所有物であり、先週本人から盗難届が出ていたこと、さらに2階の外壁に油が付着していたことが判明する。コナンはマツの木の傍に落ちた両面テープを発見した。トリックの全貌と犯人の正体を見抜いた。

登場人物——金沢邸の一族と弟子たち

本話の中心は依頼人の一家と事務所である。被害者の金沢柳一郎(32)は国際コンペ受賞直後の天才建築家、妻の金沢美津子(38)は夫への不満を隠さない。弟子の林田誠(26)と雨森雅也(25)は金沢建築事務所の職員で、ともに事件当夜は屋敷に滞在していた。静岡県警からは横溝参悟刑事が捜査にあたる。Detective Conan Wikiの容疑者リストには、金沢の周辺人物に加えて小五郎自身の名も記されている。 レギュラー側はコナン、蘭、小五郎に横溝参悟が加わる顔ぶれで、目暮十三、佐藤美和子、高木渉、白鳥任三郎、山刑事はコナンの想像シーンの中だけに登場する。小五郎が目暮から車を借りた顛末は、その想像として描かれる。

声の出演

声の出演は、コナンに高山みなみ、蘭に山崎和佳奈、小五郎に神谷明、横溝に大塚明夫である。ゲストは金沢柳一郎に松永英晃、金沢美津子に原千果子、林田誠に石井康嗣、雨森雅也に柴本浩行。刑事役に木村雅史、千葉一伸、菅原淳一が名を連ね、大塚明夫はネクストコナンズヒントの語りも兼ねた。

アニメオリジナル回として

本話は原作漫画を持たないテレビオリジナルの事件で、脚本家・利波創造の書き下ろしである。回転する建物という奇抜な装置を事件の核心に据えた構成で、公式あらすじも「12時間で一周するヒマワリ館と呼ばれる屋敷」と本話の舞台を前面に出している。オープニングのナレーションにも「1日2周、ユニークハウス」と、この回だけの句が織り込まれた。 資料上のネクストコナンズヒントは、本話の事件に対応するものとして「回転(Rotation)」が記録されており、本話の放送末尾では次話へ向けたヒントとして「傷だらけの携帯電話」が示された。凶器のライフルは、資料によってはウィンチェスターM70と特定される。

スタッフと主題歌

第245話の制作陣は、監督が山本泰一郎、総監督がこだま兼嗣で、脚本は利波創造、絵コンテは佐藤真人、演出はのがみかずお、作画監督は村中ひろびが務めた。キャラクターデザインは須藤昌朋、デザインワークスを山中純子と宍戸久美子が担当し、美術設定は成田偉保(草薙)と記録される。放送当時の主題歌は直前の毛利小五郎のニセ者と同じく、オープニングが松橋未樹の「destiny」、エンディングが倉木麻衣の「always」だった。

犯人・トリック・動機などのネタバレを表示

犯人と回転を利用した遠隔発砲の仕掛け

犯人は雨森雅也である。コナンはいつものように麻酔銃で小五郎を眠らせ、蝶ネクタイ型変声機でその声を使って推理を披露した。 砂浜から糸を引いたのではない。雨森が使ったのは、ヒマワリ館そのものの回転だった。午後7時25分、炭を取りに行くと言って席を立った雨森は、あらかじめ土をかぶせて隠しておいた釣り糸を引き上げ、トリックを仕掛けた。手順はこうだ。新聞を固く丸めたものを複数、両面テープで止めて筒を繋ぎ、一本の竿を作る。重りをつけてマツの木に這わせておいた糸——その重りと反対側の先端にT字状の金具を結び、金具を竿の先に両面テープで貼り付ける。あとは竿を屋敷の方へ立てるように持ち上げ、2階の外壁についた飾りに糸を引っかけるだけだった。糸が滑りやすいよう、飾りの部分には油が塗られていた。

建物の回転が引く糸——発砲と偽装

建物が回転すると、引っかけた糸が引かれる。反対側の先につけた重りが持ち上がっていく。やがて重りがライフルの引き金を圧迫し、午後7時35分、銃は発射された。発射後も建物は回転を続ける。外壁の飾りから金具が外れると、引き金を圧迫していた重りは崖下へ落下し、重りに引っ張られた金具は、ちょうどライフルの引き金部分に収まる形で残った。砂浜から糸を引いて撃ったように見せかけるための偽装である。竿に使った新聞はばらして炭を包み、雨森は何食わぬ顔で一行のもとへ戻った。

糸を掛けられる10分——雨森だけの空白

釣り糸の長さの関係で、建物に糸をかけていられる時間は10分だけだった。銃声が上がった7時35分から遡って、7時25分以降にパーティー会場を抜け出せた者——その条件に合うのは雨森しかいなかった。残る2人に、その時間の空白はなかった。

動機——上海現代美術館コンペの盗作

動機は盗作への恨みだった。金沢が上海現代美術館の国際コンペで受賞したデザインは、実は雨森が考えたもので、直接問い詰めた雨森に金沢はこう言い放ったという。自分が盗んだというのか。証拠はあるのか。デザインが世に認められたのは自分の名があってこそで、建築業を続けたいなら口を慎め、と。その時、雨森は金沢を受賞式に出させまいと、殺害を決めた。

虚像のストーカーと雨の誤算

3ヶ月前から金沢に送り続けられていた隠し撮り写真——あのストーカー事件の犯人も、雨森本人だった。疑われることなく外部犯の仕業に見せかけるため、彼は架空のストーカーを仕立て、捜査をかく乱する準備を整えていたのである。思惑どおり警察は外部犯の線で動き始めたが、雨で流れ落ちているはずの釣り糸と引き金に泥が残っていたことが、計画の誤算だった。

エピローグ——「もう1人の天才」

帰り道、蘭は深いため息をついた——天才と称された金沢が盗作をしていた事実に、「天才」という存在が信用できなくなったという。小五郎は「もう1人の天才・毛利小五郎も実は別人だったりしてな」と笑い飛ばし、コナンは心の中で「よくわかってんじゃん」と返すのだった。

出典