「雪の夜の恐怖伝説(後編)」とは

テレビアニメ『名探偵コナン』第262話「雪の夜の恐怖伝説(後編)」は、2001年12月17日に読売テレビ・日本テレビ系で放送されたアニメオリジナルエピソードである。12月10日放送の第261話(前編)と続く2週構成の後半で、大雪に閉ざされた大門家で当主と長男が立て続けに殺された事件について、コナンが戦国武将の怨霊伝説を装った仕掛けを見破り、真犯人へたどり着くまでを描く。

秀友祭りと大門家への宿泊

温泉旅館へ向かう途中、コナン、毛利小五郎、毛利蘭は雪の中で催されていた「秀友祭り」に立ち寄る。主催者が語るのは、戦国の武将・沖滑秀友(おきなめ ひでとも)の伝説だった。民を苦しめる暴君・大原玄武に圧政をやめるよう進言した秀友は、玄武の怒りを買って一族を潰される。絶望した秀友は鎧兜に身を固めて玄武を切り倒し、自ら喉を突いて果てた。その霊は今も彷徨い、姿を見た者は非業の死を遂げると伝えられ、秀友祭りはその霊を鎮めるためのものである。舞手が着る蓑は、秀友が自害したときに身に着けていた鎧兜になぞらえられていた。 祭りのあと、温泉へ続く道が雪で封鎖されていると知らせたのが、同じ客席にいた大門工業社長の息子・大門良朗(だいもん よしろう)だった。実家へ帰省する途中だった良朗の誘いで、三人は近くにある大門家に泊めてもらうことになる。出迎えた長男の一樹とその妻・加代子は訪問者を露骨に疎み、一樹は実家に帰った弟にまで冷たく当たる。一方、当主の源一郎は「眠りの小五郎」の噂を知っており、快く一行を迎え入れた。 夕食の席で、源一郎の妻・竜子(たつこ)が体調を崩して自室にいると分かる。加代子の説明によれば、竜子は毎年、秀友の命日になると部屋の仏壇で拝み始める。秀友が自害したとされる夜中の12時きっかりからだ。その日は秀友の500回目の命日にあたっていた。 この夜には、後の展開につながる場面が二つある。家政婦の北条初穂(ほうじょう はつほ)が小五郎と良朗にサインを求め、良朗が左手で器用にペンを走らせたこと。そして良朗が、源一郎と「決着をつける」ために帰省したと打ち明けたことである。源一郎は次男を大門工業の重役に据えたがっているが、良朗はフラメンコギターの道を選び、来月にはスペインへ発つつもりだと断る構えだった。

第261話(前編)の雪の夜に佇むコナン・蘭・小五郎
秀友祭りの夜のコナン・蘭・小五郎(読売テレビ公式・第261話ストーリーイメージ)

鎧兜の披露と翌朝の遺体発見

その後、源一郎は小五郎たちを離れへ案内し、自慢の所蔵品である沖滑秀友の鎧兜を披露する。そこへ竜子が現れ、それは呪いの鎧だと激しく非難し、源一郎の過去の悪行を責め立てた。母屋へ戻った竜子は、源一郎の悪行を記したファイルを密かに良朗へ手渡している。 翌朝、初穂の悲鳴で一同は目を覚ます。離れでは源一郎が胸を鋭利な刃物で一突きされて絶命しており、傍らにはブランデーの瓶と割れたグラスが残っていた。離れからは秀友の鎧兜と刀が消え、入口の扉の陰から母屋の裏口へ、築山と植え込みの影を縫うように大きな足跡が続いていた。足跡を辿った先では、昨夜から一樹が籠っていたというオーディオルームの扉が固く閉ざされ、小五郎が斧で破った室内には、秀友の鎧を着て息絶えた一樹の姿があった。

後編の発端

一樹も源一郎と同様に鋭利な刃物で一突きされており、凶器は部屋に落ちていた秀友の刀と見なされる。離れから母屋へ向かう足跡は鎧武者のものだけが残り、母屋から離れへ向かった形跡はどこにも見当たらない。 竜子は、夜中に鎧武者が離れから母屋へ歩いてくる姿を見たと証言し、二人の死は秀友の呪いだと訴える。もっとも、伝説どおりなら非業の死を遂げるのは秀友の霊を見た竜子のはずであり、実際に死んだのは源一郎と一樹だった。このずれが、怨霊の仕業という筋書きの最初の綻びとして示されている。

離れの畳に倒れた大門源一郎の遺体
離れで発見された当主・源一郎の遺体(Detective Conan Wiki掲載・第261話場面写)

消えた足跡

コナンを悩ませたのは二つの問いである。源一郎を殺した犯人は、足跡をつけずにどうやって離れまで往復したのか。そしてその犯人は、なぜわざわざ鎧姿でオーディオルームへ向かったのか。 そのときコナンは、初穂の足の裏に血が付着していることに気づき、外へ飛び出す。慌てて追いかけた小五郎が、コナンの残した足跡を踏んで消してしまった。コナンは「僕の足跡消えちゃってるよ」と告げ、犯人も同じように自分の足跡を消した可能性へ思い至る。

オーディオルームの密室

一樹が見つかった部屋の扉は内側から施錠され、周囲に隙間はなく、外からの操作は不可能に見えた。室内のオーディオ機器はすべて電源が切られている。凶器とされる刀とは別に、鞘が遺体の近くへ落ちていたことも不自然だった。コナンは、壁についた傷と刀の刃先から血が取れていることに気づき、密室の作り方を見破る。加えて、竜子が秀友へ供えた白い足袋が離れから消えていたのに、鎧を着せられた一樹の足は裸足のままだったことも、コナンの推理へつながる。

秀友の鎧を着てオーディオルームに倒れた一樹と、扉の近くに落ちた刀
鎧姿で発見された長男・一樹と床に落ちた秀友の刀(Detective Conan Wiki掲載・第261話場面写)

小五郎の推理

小五郎は、昨夜遅くに一樹が平底のサンダルで離れへ向かって源一郎を殺害し、秀友の鎧を着込んで自分の足跡の上を踏みながら母屋へ戻ったと説く。鎧を着て体重が増えた分、行きの足跡は踏み消され、離れから母屋へ向かう足跡だけが残ったという理屈である。その後一樹は、オーディオルームで良心の呵責に耐えかねて内側から鍵をかけ、自ら命を絶った——というのが表向きの推理だった。 コナンはこの流れを否定し、秀友伝説を利用した連続殺人であると確信する。腕時計型麻酔銃で小五郎を眠らせ、蝶ネクタイ型変声機による「眠りの小五郎」の推理が始まる。

放送記録とスタッフ

前編第261話は2001年12月10日、後編第262話は12月17日に放送された。後編はこの年最後の放送回にあたり、次回第263話「大阪ダブルミステリー 浪花剣士と太閤の城」は2002年1月7日の放送である。いずれもアニメオリジナルで原作対応はなく、シーズン6に属し、DVDではPART10 Vol.2に収録される。視聴率は前編19.5%、後編18.8%と記録されている(二次資料)。 脚本は両話とも橋場千晶と小松崎史子の共同で、絵コンテは石山タカ明。演出は前編が長崎秀樹、後編がのがみかずおと伊藤真朱。作画監督は前編が石田啓一、後編が志村泉と青野厚司である。オープニングは倉木麻衣の「Winter Bells」、エンディングは上原あずみの「青い青いこの地球に」。ネクストコナンズヒントは前編が「足跡」、後編が「キズ」だった。 ゲスト声優は、大門源一郎に村松康雄、竜子に竹口安芸子、一樹に梅津秀行、良朗に松本大、加代子に沢海陽子、北条初穂に伊藤美紀、秀友祭りの主催者に菅原淳一が配されている。

この回の位置づけ

本作は橋場千晶が手がけた最後の『名探偵コナン』アニメオリジナル脚本とされ、彼女の死から約1年後の放送となった。未完の部分は共同名義の小松崎史子が完成させたとされる(英語版Detective Conan Wikiの記載)。雪に閉ざされた屋敷、当主と長男の連続死、一族の確執、怨霊伝説というクローズド・サークルの古典的な構成に、足跡と密室の二つの機械的トリックを組み合わせた回である。 また、前編が放送された12月10日は、劇中で事件が起きた夜——秀友の500回目の命日であり初穂の父の命日——と同じ月日にあたる。

出典と確認の範囲

本記事は、読売テレビ公式サイトの事件ファイル(第261話・第262話)を基に、二次資料(名探偵コナン情報局、英語版Detective Conan Wiki、真実はいつもひとつの世界、柯南百科-名探偵コナン档案馆)で人物関係・トリック・動機・スタッフ・視聴率の細部を照合して作成した。本編映像の直接確認は未実施であり、細部の描写は二次資料の記載範囲に基づく。初穂の父の名は資料間で表記が分かれるため、本文では「佐草健一」と二次資料に記される旨を添えた。また「良朗」は読売テレビのあらすじでは「良郎」と表記されるが、二次資料とキャスト表記に合わせて「良朗」で統一している。

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鎧の足跡の正体

実際の順序は小五郎の推理とは逆だった。犯人は母屋から離れへ向かって源一郎を殺害したあと、離れにあった鎧兜を身に着け、来た道の自分の足跡を踏み消しながら母屋へ戻った。雪には重い鎧姿で戻る復路の足跡だけが残る。コナンがこの仕掛けに気づいたのは、小五郎が自分の足跡を踏んで消してしまった偶然からだった。 この仕掛けには、離れから母屋へ向かう大きな足跡だけを残して「鎧武者が殺人のために歩いた」と見せかける狙いと、犯人自身の行きの足跡を消す狙いが重なっていた。さらに犯人は、伝説を強く信じる竜子に鎧姿で歩くところを見せている。秀友の命日に竜子が夜中の12時から仏壇へ祈ることは、大門家の者なら誰もが知っていた習慣だった。

刀で完成させた密室

オーディオルームの密室は、秀友の刀そのものを道具にして作られていた。犯人は一樹を殺害したあと遺体に鎧を着せ、扉の近くの壁へ刀を突き刺し、反対側の柄の部分が扉の閂に当たるよう取っ手の上に乗せる。刀が落ちないよう気をつけながら室外へ出てゆっくり扉を閉めると、閉まる力で閂が刀の柄に押され、扉は施錠される。 頑丈な扉を開けるには壊すほかなく、その衝撃で刀は床へ落ちる。小五郎が斧で扉を破った際に刀が転がり落ちたことで、仕掛けの痕跡は自ら消え去る構造になっていた。刀が凶器であると同時に密室の部品だったことに気づかせたのが、扉近くの壁に残った傷と、刃先から拭い取られた血だった。

「刀を持たない鎧武者」と犯人・北条初穂

犯人を絞り込んだのは竜子の証言だった。竜子が見た鎧武者は「刀を持っていなかった」。実際には持っていなかったのではなく、竜子の位置からは体の陰になって見えない右手に刀を持っていた。抜いた刀と鞘を持つ手の配分から、犯人は左利きだと判断される。大門家で左利きなのは、次男の良朗と家政婦の初穂の二人だけだった。 コナンが眠りの小五郎として指摘した犯人は、家政婦の北条初穂だった。 初穂の犯行はこうだ。オーディオルームの一樹が、睡眠薬を混ぜたコーヒーで眠るのを見届け、裏口から離れへ向かう。源一郎は初穂が声を掛ければ疑いなく入口を開け、そこで殺害された。初穂は鎧兜を身に着け、来た足跡の上を踏んで母屋へ戻り、オーディオルームで眠る一樹を秀友の刀で殺して密室を作った。 決定的な証拠は、台所の釜戸の中に返り血を浴びたパーカーと一緒に隠されていた白い足袋に付いた、初穂の血液である。初穂は離れで源一郎を殺した際、落として割ったグラスの破片で足裏を切っていた。そのまま鎧の靴を履けば血が付くため、竜子が供えた足袋を履いてから靴を履いたのである。足袋はパーカーとともに台所へ隠し、次に釜戸が使われるときに焼き捨てるつもりだったが、蘭がコーヒーの手伝いに入ったため処分の機会を失っていた。 ほかにも初穂は綻びを見せている。源一郎の遺体を知らせたとき、彼女の位置からは倒れた姿しか見えないはずなのに「亡くなっている」と伝えていた。部屋には、高校を卒業したばかりの初穂と父親が並んだ写真が残されており、そこから初穂の素性が明らかになる。

動機——潰された工場と奪われた鎧

初穂の父は工場を経営する人物だった(二次資料では「佐草健一」と記される)。商売より人情を大切にする気質で、昔からの取引だと言って大門工業からの無理な注文も笑って引き受けていた。ところがある日、ちょっとしたミスを境に大門工業との取引が止まり、工場は倒産に追い込まれる。大門工業は初穂の父の工場を切り捨てることで、自らの経営難を乗り切っていたのである。 追い打ちをかけるように、源一郎は借金の形として父から家宝の秀友の鎧を取り上げた。父は従業員のために少しでも金を作ろうと家宝を売る決意をしたが、従業員のために何もできず家の歴史も失ったと自らを責め、12月10日に自殺した。東京で働いていた初穂は父の無念を晴らすため名を変え、約1年前から大門家へ住み込み、父の命日にあたる夜に復讐を果たしたのである。 秀友の500回目の命日と父の命日が同日だったことは偶然ではない。伝説の日に犯行を重ねることで、鎧武者の怨霊による殺人という筋書きを成立させる狙いがあった。

「復讐という名の冷たい鎧」

すべてを認めた初穂に、小五郎の声を借りたコナンはこう告げる。「初穂さん、お父さんの復讐を果たしたことで——あなたのお父さんは喜んでいるでしょうか。よくやったと褒めてくれるでしょうか。初穂さん、鎧を着けていたのは秀友の亡霊なんかじゃない、あなたの心が。鎧を着けてしまっていたんです、復讐という名の冷たい鎧を」 数日後、雪道を歩くコナンと蘭は相次いで尻もちをつく。コナンの転んだ跡は蘭が滑ったことで消えており、「こないだの鎧の足跡と同じだね」と呟いたコナンは、意味を問い詰める蘭から全速力で逃げ出した。

出典