「謎のリフト」とは
「謎のリフト」は、青山剛昌の漫画『名探偵コナン』単行本50巻に収録された10番目のFileで、連載時の通算番号はFile.520にあたる。小学館の公式事件データベースでは事件番号148「服部平次VS工藤新一 ゲレンデの推理対決!」を構成する5本のFileの3番目に位置し、山形県のスキー場で起きた主演俳優射殺事件について、中学時代の工藤新一と服部平次が現場の不可解さを検証していく章である。題名の「リフト」は、遺体が発見されたペアリフトそのものを指し、動き続ける搬器の上でなぜ銃撃が成立したのかという物理的な謎が本章の中心にある。
収録位置と書誌
50巻にはFile1からFile11までの11本が収録され、「謎のリフト」は10番目にあたる。直前はFile9「雪女の計」、直後はFile11「雪女の銀衣伝説」で、同じ事件がそのまま51巻File1「吹雪の中の復讐」へ続く。週刊少年サンデーでは50巻収録分が2005年11号から14号および16号から22・23合併号にかけて掲載され、File.511からFile.521までがこの並びに対応する。本章は通算File.520であり、掲載号の並びから2005年21号にあたる。50巻自体は2005年7月15日発売、ISBNは978-4-09-126420-6である。 事件データベース側の整理では、本事件は50巻と51巻にまたがる全5章構成である。File8「平次の思い出」が発端、File9「雪女の計」が怪異の演出、File10「謎のリフト」が現場検証、File11「雪女の銀衣伝説」が仕掛けの解明、51巻File1「吹雪の中の復讐」が真相と動機の収束という流れになる。本章は5章中の中央にあたり、「何が起きたか」から「どうやって起きたか」へ読者の注目を移す転換点である。 なお50巻の表紙は、スキーウェア姿のコナンを背景のリフト写真と組み合わせたもので、巻の顔となる装画自体が本章の舞台を使っている。英語版では本章はCase Closedの "The Mysterious Lift" と訳され、50巻の英語版は2014年4月8日にViz Mediaから発売された。

前提となる4年前の出来事と銀衣伝説
本章の検証を追うには、事件の土台となる二つの要素が必要になる。一つはこの山に伝わる「雪女の銀衣伝説」である。吹雪の夜に雪女が男へ銀色の衣と大事な物の交換を持ち掛け、男は心臓を奪われてしまう。そして心臓を奪われた男の風呂敷の中身は、銀の衣ではなく雪の塊だったという民話である。もう一つは4年前の現実の死である。スタントマンの水上二朗がスキー場のペアリフトに1人で乗り、拳銃で頭を撃って絶命した。遺体の横に置かれたバッグには大量の雪が詰められており、当時は自殺と処理された。水上には俳優へ転向したい意向があったとされる。 この二つを下敷きに、撮影隊は「雪女の怪」「雪女の恋」「雪女の計」という雪女3部作映画の3作目を同じ山で撮っていた。File10の検証は、伝説の再現に見せかけた新たなリフト上の死が、4年前の死と同じ構造を持つのかを問う場面である。
File10で起きること
吹雪の中、リフトに乗っていた主演俳優・箕輪奨兵が銃声とともに絶命しているのが発見された。遺体の脇には雪がぎっしり詰まった布バッグが残され、4年前に同じゲレンデで死んだスタントマン・水上二朗の死と状況が一致するため、現場は雪女の仕業という伝説どおりの事件として騒がれる。山形県警は箕輪が自らこめかみを拳銃で撃った自殺と判断した。 本章の核となるのは、この自殺判定に対する現場の再検証である。止められていたリフトが動き出した後で現場へ到着した平次は、箕輪の遺体があった搬器と所持品に3つの不自然な点を挙げる。1つ目は箕輪がリフトに持ち込んでいたストック2本の先端に付く輪のはめ方が、どちらも上下逆さになっていたこと。2つ目は箕輪が座っていたリフト座面の右側に、割れたような跡が残っていたこと。平次はこれを何かの細工に使われた痕と見る。3つ目は遺体の脇に置かれていた布バッグが凍り付いていたことである。

先に現場を見ていた中学生
さらに平次が刑事へこの3点を指摘すると、少し前にまったく同じ3点を指摘していった中学生がいたことが明かされる。その中学生こそ、平次に先んじて現場を見ていた新一だった。一方、新一は下のリフト乗り場へ戻り、箕輪がリフトへ乗る様子をビデオで撮影した人物を探す。名乗り出た平次の母・静華の映像を借りて、新一は撮影班や関係者がリフトに乗った順番を確認する。現場で起きたことを「誰がどの搬器にどの順で乗ったか」という時系列へ落とし込む作業が、本章のもう一つの軸である。 そして新一の両親である工藤優作と有希子も、双眼鏡で息子の一連の検証を見守っていた。水上の事件をヒントに小説を書こうとしていた優作は、この段階ですでに犯人が誰か分かっていた。解決のカギが「もう1つの銀衣伝説」にあることが示唆されて本章は閉じ、仕掛けの具体的な中身は次のFile11へ持ち越される。
検証の対象となる関係者
本章で乗車順や立ち位置が問題になるのは、映画の撮影班とその周辺の人物である。主演俳優の箕輪奨兵は32歳の被害者で、撮影中の3作目は実際の事件を題材にしていた。映画監督の大山守蔵は水上の友人で、事件をファンへ軽々しく語る箕輪へ注意を促す一方、箕輪からは友人の死を題材に映画を撮る立場そのものを指摘される場面があった。スタントマンの三俣耕介は水上の死によって後釜に収まった後輩で、メイク担当の立石雫は水上の婚約者だった。そして私立探偵の片品陸人は、管轄外である水上の事件を追い続けて山形県警をクビになった元刑事で、バッグに詰められた雪を不自然と見て関係者の中に犯人がいると睨んでいた。File10の検証が意味を持つのは、この面子の中に4年前と現在の両方の死へ通じる者がいるという前提があるからである。
登場人物と回想内完結の構成
原作資料サイト・コワレ処名探偵コナン支部の収録話データでは、File10の登場人物は工藤新一、服部平次、毛利蘭、遠山和葉、工藤有希子、工藤優作、服部静華と記録され、「工藤新一メイン・服部平次登場」と整理されている。注目すべきは江戸川コナンの名が本章に挙がっていない点である。File8やFile9には現在進行形の枠としてコナンが記載されるが、File10は全編が3年前の回想世界の内部で完結しており、現在の語り手を介さずに検証が進む珍しい構成になっている。鈴木園子や服部平蔵もFile9とFile11には登場するがFile10には列記されず、本章がリフト現場と搬器の順番へ絞り込まれた密度の高い章であることが分かる。

「謎のリフト」という題名が指すもの
本章のリフトは単なる移動手段ではなく、殺人が成立し得ないはずの密閉された空中現場である。吹雪で視界はほとんど奪われ、標的は索道に吊られて動き続ける。地上から狙うにも距離と天候が許さず、同じ搬器に乗れば目撃される。遺体に握らせられた拳銃は自殺を示唆し、雪の詰まったバッグは雪女伝説をなぞる。物理的に説明できない状況を「怪異の再現」として見せかける構造こそが、File9「雪女の計」が用意し、本章が解体していく仕掛けである。
スキー場に由来する命名
題名との対応で興味深いのは、ゲスト人物の命名由来である。Detective Conan Wikiの記録によれば、本事件の容疑者らの姓は日本のスキー場に由来し、箕輪は箕輪スキー場とロープウェイ、大山は大山スキー場と森、水上は水上高原スキーリゾートとロッジ、三俣は三俣スキー場とコース、立石は雫石スキー場と立入禁止、そして私立探偵の片品陸人はかたしな高原スキー場と「リフト」をそれぞれ含む。本章の題名と最も直接に響き合うのは、この「リフト」に名を負う片品である。
アニメ第490話「服部平次vs工藤新一 ゲレンデの推理対決」
本事件はテレビアニメ第490話「服部平次VS工藤新一 ゲレンデの推理対決!」として2007年12月3日に1時間スペシャルで放送され、視聴率8.8パーセントを記録した。原作File.518からFile.522までを一本にまとめた構成で、File10に相当する検証場面は中盤の山場として扱われる。放送時のオープニングは「Glorious Mind」、エンディングは「世界はまわると言うけれど」、ネクストコナンズヒントは「スキーリフト」だった。またテレビスペシャル「Black History 2」は本事件を再編集したものとして知られる。
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殺害の手口と残された証拠
犯人はスタントマンの三俣耕介である。ファンの前でプロ級の滑りを披露して見せた「箕輪」は変装した三俣であり、本物の箕輪は麓で三俣に持ち上げられた大型バッグの中に隠れ、変装した三俣の代わりに見物人へ向けて声だけを発していた。リフト上で三俣は箕輪を殺害し、あらかじめ雪を詰めて長い持ち手を凍らせ立たせておいたバッグを、リフトがゲレンデに接近する地点でストックを使って座面へ引き込んだ。座面右側の割れた跡はこの細工の痕であり、2本のストックの輪が上下逆だったのは持ち手を引っ掛けたことの痕跡だった。三俣はリフトが斜面に近づく2カ所のうち2カ所目で飛び降り、先にゲレンデへ降りた者として、降り損ねて戻った立石へ声をかけることで、銃声の時点で自分が搬器上にいなかったと示す目撃者を作った。 証拠は四つ整理される。過去の映画で箕輪のスキー場面の直後にアップのカットが続く継続ミスがあり、滑っていたのが別人であることを示す。人物が入るほどの長い持ち手を持つバッグはゲレンデの土産店で複数サイズ販売されていた。リフトは斜面へ3メートルまで近づく地点が2カ所あった。そして三俣は上着の下に箕輪の服を着たままだった。
動機とエピローグ
動機は水上二朗への復讐である。箕輪は4年前、自身のスキー場面がスタント任せであることを水上に暴露されるのを恐れ、今回と同じトリックで水上を殺害していた。水上の死を他殺と見て追い続けた片品とは別に、スタント仲間だった三俣は自らの手で復讐を果たす道を選んだ。凶器はトカレフTT-33と記録されている。新一と平次はそれぞれ父親の助言を得て同じ結論へたどり着き、互いの正体を知らぬまま「もう一人の名探偵」として再会を期して事件を締めくくる。
