使徒
サキエル
第壱話・第弐話に現れる第3使徒と初号機の初陣
サキエルは、テレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』に登場する敵性生命体「使徒」の1体で、作中では「第3使徒」と呼ばれる。セカンドインパクト以来、15年ぶりに人類へ襲来した使徒であり、特務機関NERVが初めて迎撃にあたった相手でもある。第壱話「使徒、襲来」と第弐話の2話にわたり登場し、エヴァンゲリオン初号機の初陣の相手となった。名称はユダヤ・キリスト教伝承で水を司る天使サキエルに由来するが、劇中の台詞でこの名が呼ばれることはなく、本編では「第3使徒」とだけ呼ばれる。
ネタバレ:TV版第壱話・第弐話、および『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の決着まで扱います。





第3使徒が物語の入口に立つ
サキエルは使徒のうち、TV版の物語が最初にシンジと視聴者へ見せる相手である。番号は第3使徒だが、第1使徒アダムや第2使徒リリスについて知らない段階で、その脅威だけを先に体験する構成になっている。第壱話では国連軍が迎撃し、第弐話では初号機が初めて交戦する。背景設定の説明より先に、正体の分からない相手の侵攻と、エヴァの出撃を迫られる圧力が来る。
国連軍の火器は有効打にならず、N²地雷でいったん足止めしてもサキエルは活動を再開する。ここまでが、訓練を受けていない碇シンジを初号機へ乗せる前段である。NERVにとって初戦であると同時に、シンジにとっては父の命令、負傷したレイ、避難する街の人々を一度に突きつけられる場面でもある。
使徒一般の設定や各個体の違いは使徒・生命体索引で整理できる。後の使徒まで同じ目的や行動原理だと一括して決めつけると、初戦で人間側が何を知り、何を知らなかったかが曖昧になる。第壱話と第弐話では、目の前の一体を止められない人間側の切迫が中心に置かれている。
N²地雷から初号機の暴走まで――TV版の順序
サキエルは第3新東京市へ接近し、まず国連軍と交戦する。ミサイルや砲撃を受けても進行を止めず、国連軍はN²地雷を使用した。巨大な爆発の後、使徒は一時的に沈黙するが、倒されてはいない。顔の形を変えて復帰し、地下へ向かう。この国連軍による攻撃は、初号機が出撃する前に起きた出来事である。
国連軍の迎撃に限界が見えた後、NERVは初号機を投入する。パイロット候補の碇シンジは父ゲンドウの命令に反発するが、負傷した綾波レイを見て出撃を選ぶ。第壱話は、初号機がサキエルの前に立つところまでを大きな区切りとし、戦闘の全貌は第弐話で明かされる。
第弐話の初戦では、歩くことさえ安定しない初号機にサキエルが迫る。初号機の腕と頭部が損傷し、シンジの意識は途切れる。病院で目を覚ました後に戦いの続きが断片的に示されるため、勝ったと聞かされることと、その勝ち方を知ることの間に時間差がある。ここは第弐話「見知らぬ、天井」の構成上の要点でもある。
活動停止したように見えた初号機は、シンジの通常操作とは異なる動きで再起動する。使徒のA.T.フィールドへ踏み込み、サキエルを押し返す。追い詰められたサキエルは初号機を巻き込んで自爆するが、初号機は残る。人間側は勝利を得たものの、計画どおりに兵器を運用できたわけではない。初号機そのものへの新たな疑問が残った。
この順序を取り違えると、第壱話の国連軍の敗北と、第弐話で明かされる初号機の暴走が同じ時間帯の出来事に見えてしまう。戦闘を時系列で追う際は、国連軍のN²地雷、シンジの搭乗、初号機の初戦と再起動、サキエルの自爆の順に整理すると分かりやすい。
姿と能力
外見は四肢を持つ人型だが、頭身の比率は人間とは異なる。肩が大きく張り出し、手足は細く長い。首にあたる部分はなく、頭部は仮面のような無機質な形状をしており、胸部には赤いコアが露出している。大腿部には魚類の鰓(えら)に似た器官があり、出現直前の水中航行時には呼吸するかのような挙動を見せていた。水の天使という名称に対応する特徴とされる。仮面状の頭部は硬質な印象を与えるが、作中ではまばたきをする場面があり、その様子は視聴者の間でも印象に残る描写となった。
主な能力は以下の通りである。
- A.T.フィールド:砲撃やミサイルによる国連軍の迎撃を退ける防御障壁。ただしN²地雷では一時的に足を止められており、すべての攻撃が無作用だったわけではない
- 腕からの光の槍:初号機との近距離戦で頭部へ攻撃を加える。細長い腕の外観と、実際の攻撃範囲が一致しない怖さを見せる
- 顔の変化と光線:N²地雷を受けた後に二つ目の顔を現し、地下へ向けて高出力の光線を放つ
- 活動再開:N²地雷で一時停止した後も進行を再開する。外見の変化は国連軍が止め切れなかったことを視覚的にも示す
- 自爆:初号機に追い詰められた際、相手を巻き込む形で爆発する
『:序』では「第4の使徒」になる
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』には、TV版サキエルに対応する姿の使徒が「第4の使徒」として登場する。公式商品もこの番号で販売されている。旧作名のサキエルはデザインを見分ける手がかりとして便利だが、新劇場版内の正式な呼称と番号をTV版の「第3使徒」に置き換えて読まないほうがよい。
『:序』の公式ストーリーは、シンジが第3新東京市で使徒に遭遇し、ゲンドウから初号機への搭乗を求められる流れを示す。父の命令に反発し、負傷したレイを見て出撃するという骨格はTV版の第壱話と重なる。一方、新劇場版は再制作された別系列であり、後の使徒の番号や出来事まで旧作と一対一で対応するわけではない。
フィギュア画像では、仮面状の頭部、張り出した肩、胸部の赤いコアといった形を確認できる。画面上で似ていることと、媒体をまたいで同一個体であることは別の話である。このページではTV版の交戦を中心に記し、『:序』の第4の使徒は比較対象として区別する。
初号機の初陣としての役割
サキエルの戦いは、第壱話と第弐話の境目にまたがる。第壱話だけを見るとシンジは出撃を決めたところで終わり、第弐話だけを見ると戦いはすでに終わった後の病院から始まる。初めての敵を倒す過程を一直線に見せないことで、シンジ自身が何をしたのか分からない不安を視聴者も共有する。
この戦いで浮かぶ問いは、サキエルの強さだけではない。国連軍の兵器が通じないとき、なぜ子どもを乗せた初号機へ判断を預けるのか。初号機が暴走して勝ったとして、それをNERVの勝利と呼べるのか。サキエルは倒されるが、エヴァの力を人間が制御できているという安心は得られない。
初号機とシンジの関係は、この初戦後に日常生活へ戻っても解消されない。ミサトの家で食事をし、学校へ通う生活と、エヴァの装甲の下に生身のような眼を見た記憶が並行する。サキエルは短い登場で退くが、作品の「勝利しても問題が増える」という戦い方を最初に成立させた相手である。
仮面状の顔が使徒の入口になった
劇中の会話ではサキエルという名が繰り返し説明されることはない。視聴者は「第3使徒」という番号と、仮面に見える顔を警報や戦況図と結びつけて識別する。無表情に近い外観は、人間側の恐怖や焦りと強い対照を作る。
公式商品でも顔の形と胸部のコアは一目でサキエルと分かる意匠として残されている。デフォルメされた画像だけでは戦闘中の速度や大きさは伝わらないため、記事では第弐話の配信場面写真と合わせて掲載する。造形の説明と、実際に初号機を追い詰めた場面を混同しないためである。
後の使徒は姿も接近方法もさまざまに変わる。その前にサキエルが人型に近い姿で街へ歩いてくることは、初見の視聴者が「敵」を認識する足場になる。しかし正体や目的のすべてをこの一体から推し量ることはできない。サキエルの記事は、作品の入口で見えた範囲を明確にする役割を持つ。
サキエル戦で分かること、まだ分からないこと
N²地雷を受けたサキエルは、姿を変えて再び進む。爆発は一時的に足を止めるが、勝敗を決めるには届かない。迎撃する側は、どこまで時間を稼げるかと、何を使えばコアへ届くかを考え続けなければならない。エヴァの投入も万能の答えにはならない。国連軍の手段を使い切った後に、初号機と未経験のパイロットへ全てを委ねる危険な賭けが始まる。
初号機はサキエルのA.T.フィールドへ踏み込み、反撃する。だがシンジは病院で目覚めるまで、その過程を自分の経験として整理できない。人類側の勝利を成立させた力が、パイロット本人の理解や組織の制御を越えているというねじれが残る。このねじれは、後の使徒戦や初号機の正体を考えるときの出発点になる。
サキエルは自爆して戦闘を終えるため、その後に行動の意図を確かめる場面はない。地下に向かった理由も、この二話だけで使徒全体へ通用する一つの答えとしては語れない。初戦で見えた行動と、シリーズ後半で開示される設定を区別することが、序盤の緊張を保ったまま読み直す助けになる。
第壱話でシンジが見るサキエルは、戦況を映すモニターや避難の警報を通した遠い脅威である。第弐話では初号機の腕や頭部が傷つく至近距離の相手になり、さらに回想の中で初号機が使徒へ肉薄する。距離の変化によって、同じ敵が軍事的な迎撃対象からシンジの身体感覚へ迫る恐怖へ変わる。二話を並べて読むと、この視点の移り方がはっきりする。
映像上のサキエルと商品化されたサキエルを見比べると、顔とコアの特徴は共通していても、戦闘の印象は大きく異なる。商品画像は姿の確認には役立つが、巨大な街の中で歩く速度、攻撃を受けてから動き出す間、初号機へ接近したときの圧力までは伝えない。第弐話の場面写真は、造形を見せる商品写真とは違い、初号機との距離や攻撃の向きを画面の中で確かめる手がかりになる。