騎士団に属しながら逃げ続けた小悪党
マンダンガス・フレッチャーは、盗品売買や詐欺まがいの商売に手を出す一方で、二度の魔法戦争で不死鳥の騎士団に加わった魔法使いである。
通称は「ダン」。
アルバス・ダンブルドアに過去のトラブルから救われた恩があり、そのため騎士団への忠誠を口にする。
しかし危険が迫る場面では、仲間の役目より自分の身を守る判断を優先する。
マンダンガスは裏切り者として単純に切り捨てられる人物ではないが、信頼を置くにはあまりに不安定な協力者だった。
彼の行動は、ハリーの人生を三度大きく揺らす。
まずリトル・ウィンジングでハリーの見張りを放棄し、吸魂鬼の襲撃を招く。
次にグリモールド・プレイス十二番地からブラック家の品を盗み、レギュラスが残したロケットを外へ流す。
最後に「七人のポッター作戦」でヴォルデモートを見て逃げ、同行していたムーディの死につながる。
どの場面でも、彼は自分が窮地に立った瞬間に、他者の危険を引き受ける選択から離れている。
ダンブルドアへの恩と騎士団での位置
マンダンガスが騎士団にいる理由は、正義のために規律を守る性格だからではない。
ダンブルドアが彼を以前から知り、厄介な状況から助けたことが、所属のきっかけになった。
マンダンガスはその恩を忘れてはいない。
仲間の前でダンブルドアを侮辱する者ではなく、死喰い人の支配に好意を持つ人物でもない。
それでも、彼は騎士団の中で最も警戒される存在の一人だった。
盗品の大鍋を売り、身を隠す変装を使い、魔法省の摘発から逃げる技術を持つ。
こうした能力は地下組織では役に立つが、危険な任務を任せた時に責任まで引き受ける保証にはならない。
仲間が彼を完全に追放しないのは、ダンブルドアとの関係と、情報や物資を扱う際の使い道があったからである。
騎士団は、立派な人物だけで構成された集団ではない。
マンダンガスの存在は、ヴォルデモートに対抗する側にも、弱さ、打算、過去の借りを抱えた人々が集まることを示す。
ただし、仲間であることと信頼に値することは同じではない。
彼が担った任務で何が起きたかを追うと、その違いが具体的に見える。
ハリーの護衛を放棄した夜
『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』の夏、マンダンガスはリトル・ウィンジングにいるハリーを、密かに見張る役目を負っていた。
しかし彼は任務の最中に持ち場を離れ、盗品取引へ向かう。
その隙に二体の吸魂鬼がハリーとダドリーを襲った。
ハリーは守護霊の呪文で二人を救うが、未成年魔法使いが魔法を使ったとして魔法省から処分を受けかける。
マンダンガスは後になって、吸魂鬼を見て逃げたと説明する。
だが問題は、襲撃を止められなかったことだけではない。
そもそもハリーを守るための監視を、私的な商売のために放棄していた。
ハリーが裁判へ呼ばれ、ファッジの魔法省が彼を追い詰める流れは、この空白から始まる。
マンダンガス自身が吸魂鬼を送り込んだわけではない。
それを命じたのは別の人物であり、彼が直接ハリーを害そうとした証拠もない。
しかし任務から逃げた結果、ハリーが一人で危機と行政処分を受け止めることになった。
彼の過失は、悪意の命令より見えにくいが、守ると引き受けた責任を放り出した点では重い。
盗まれたブラック家のロケット
シリウスの死後、マンダンガスはグリモールド・プレイスに残された品を盗み出して売ろうとする。
彼にとっては、持ち主のいない屋敷にある値の付きそうな古道具だった。
ところがその中には、レギュラス・ブラックが命を懸けて持ち出したスリザリンのロケットが混じっていた。
ロケットはヴォルデモートの分霊箱であり、ハリーたちが探していた魂の器の一つだった。
マンダンガスはロケットの正体を知らない。
それでも盗品を扱う彼の行動により、レギュラスの犠牲は屋敷の中で守られず、外部の取引へ流れる。
やがて彼は魔法省のドローレス・アンブリッジに捕まり、脅されてロケットを渡した。
ハリー、ロン、ハーマイオニーは、ロケットを取り戻すため魔法省へ潜入することになる。
この経路は、分霊箱探索が強大な闇の魔法だけとの戦いではないことを示す。
一人の小悪党が古道具を盗み、別の人物が権力を使って取り上げたことで、重要な品はどこにあるか分からなくなる。
マンダンガスはヴォルデモートの計画を理解していないが、彼の欲と軽率さは、その計画の一部を長く隠す結果になった。
失敗が次の任務を重くする
マンダンガスが盗んだロケットをアンブリッジが身につけていると分かった後、ハリーたちはそれを奪うために魔法省へ入る。
変装に必要なポリジュース薬、職員になりすます役割、捕まれば脱出が難しい地下庁舎という危険は、ロケットが屋敷に残っていれば避けられたものだった。
彼の盗みは一度の損失では終わらず、三人の分霊箱探索をより危険な潜入任務へ変えた。
マンダンガスは金や品物を得ようとして行動し、大きな戦争を動かすつもりはなかった。
だからこそ、日常的な不正が予想外に広がる怖さがある。
分霊箱のような重大な品でなくても、守るべき物を誰かが「売れそうな物」として扱えば、情報と安全の両方が失われる。
騎士団がマンダンガスを監督し切れなかったことも、組織の弱点として残る。
作戦の知恵と現場での責任
七人のポッター作戦で、マンダンガスはポリジュース薬を使って複数のハリーを作る発想に関わったとされる。
この案は追手を分散させ、実際のハリーの所在を隠すためには合理的だった。
危険な作戦を考えつくことと、実行の瞬間に仲間を守れることは別である。
マンダンガスは前者には寄与しても、ヴォルデモートを見た後の後者を果たせなかった。
ムーディは長い戦いを生き抜いた魔法使いであり、マンダンガスよりはるかに経験豊富だった。
それでも二人で飛ぶ計画は、一人が消えれば成り立たない。
護衛の役目は最も強い者がいるから安心なのではなく、危険が来た時に互いを見捨てないという前提で成り立つ。
マンダンガスの逃走は、その前提を破った出来事として、残った仲間の記憶に刻まれる。
七人のポッター作戦での逃走
『ハリー・ポッターと死の秘宝』では、ハリーをプリベット通りから脱出させるため、仲間がポリジュース薬でハリーの姿になり、七組に分かれて移動する。
マンダンガスはアラスター・ムーディと組み、囮の一人を護衛する役を担った。
作戦には危険があると分かっていたが、ヴォルデモート本人が現れた時、彼は恐怖で姿くらましをする。
ムーディは一人で追撃を受け、死亡する。
マンダンガスが逃げなければムーディが必ず助かったとは断定できない。
しかし二人で担うはずの護衛を一人にし、最も経験豊かな戦闘員を孤立させたことは事実である。
後にその知らせを聞く仲間たちは、作戦の損失と、マンダンガスが戻らないことを同時に受け止める。
この逃走は、彼が勇気を持たないと決めつけるだけの場面でもない。
死喰い人ではない者でも、ヴォルデモートを前にすれば恐怖で判断を失う。
ただし、恐怖を感じることと、同行者を残して消えることは別である。
マンダンガスの弱さは、危険を恐れた点ではなく、恐れた後に誰の命を危険へ押し出したかに現れる。
原作と映画での位置づけ
原作では、マンダンガスは騎士団の陰にいる胡散臭い人物として繰り返し現れ、ハリーの危機やロケット探索に現実的な障害を作る。
彼は大きな悪役ではない。
しかし小さな不誠実さが積み重なり、より危険な人々の行動を助けてしまう。
映画版では出番が限られるため、ハリーの護衛放棄やロケットの移動といった細部は原作ほど追いにくい。
原作を読むと、マンダンガスは騎士団の一員という肩書きだけでは評価できないことが分かる。
ダンブルドアへの恩、組織への参加、仲間を見捨てる逃走は矛盾したまま並び、戦争の側に立つ人間の不完全さを残している。
彼は大義へ寝返った死喰い人ではなく、危険から逃げるうちに味方を傷つける人物である。
そのため、ハリーたちが彼の行為を知った時に残るのは、敵意だけではない。
一度でも役目を引き受けた者が、必要な時に戻らないことへの怒りと失望である。
マンダンガスの物語は、善い陣営に名前を連ねるだけでは、他者を守る責任を果たしたことにならないと示している。
彼が騎士団へ加わった恩義と、任務の場で逃げた事実は、どちらも消えずに残る。
その責任はとても重い。


