ハリー・ポッターと炎のゴブレットは、2005年公開のファンタジー映画で、人気シリーズの第4作にあたる。百年ぶりに復活した三大魔法学校対抗試合の代表選手が炎のゴブレットによって選ばれるが、出場資格のないハリーの名までもが吐き出される。ドラゴン、湖、生垣の迷宮という三つの課題の果てで、ハリーはヴォルデモート卿の肉体での復活と、一人の生徒の理不尽な死に直面する。シリーズが明るい学園物語から暗い戦いへと転換する分岐点となる作品である。
00概要
『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(Harry Potter and the Goblet of Fire)は、マイク・ニューウェル監督によるファンタジー映画で、2005年11月18日に英国・米国で、同年11月26日に日本で公開された。J.K.ローリングの同名長編小説(2000年刊)を原作とし、前作『アズカバンの囚人』(2004)に続く本編シリーズ第4作にあたる。脚本はシリーズの大部分を手がけてきたスティーヴ・クローヴスが続投し、製作はデヴィッド・ヘイマン、配給はワーナー・ブラザースが担った。原作は本編七冊のなかでも特に分厚い一冊で、それを一本の映画にまとめあげるため、本作は副筋や脇役の描写を大胆に切り詰め、主軸となる三つの課題と、最終盤の墓場の出来事に焦点を絞っている。
物語の幕は、英国中部リトル・ハングルトンに残る古いリドル家の屋敷で開く。誰もいないはずの邸内に灯る火、そして家政管理人フランク・ブライスをじっと見据える一対の冷たい目——シリーズの空気を決定的に変える、不穏な序章だ。続く夏休み、ハリーはウィーズリー家に迎えられ、ロン、ハーマイオニー、そして一家の面々とともに、国際的な競技会クィディッチ・ワールドカップの決勝戦へ向かう。観戦を終えた夜、キャンプ場の頭上に緑色の髑髏と蛇が立ち上る。『闇の印(モースモードル)』である。それは、ヴォルデモートのかつての信奉者『死喰い人(デスイーター)』の影を、十三年ぶりに国際舞台へと呼び戻すしるしだった。
学校に戻ったハリーを待ち受けていたのは、百年ぶりに復活する『三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)』だった。ホグワーツ、ボーバトン魔法アカデミー、ダームストラング専門学校——三校それぞれの代表一名を選び出すのは、審判役を兼ねた魔法器物『炎のゴブレット』である。ところが、出場資格年齢に達していないはずのハリーの名が、四人目の選手として吐き出された。ハリーは応募していない。誰かが、ハリーを意図的にこの試合へ巻き込んだのだ。その『誰か』の正体が観客の前にさらされるのは、すべての課題が終わり、墓場での儀式と一本の杖の対決を経たあとのことである。
本作はシリーズの転換点に位置づけられる。前三作の青春劇めいた明朗さを残しながらも、終盤で映画は三つの重い出来事を観客の前に突きつける。ヴォルデモートの肉体の復活、生徒セドリック・ディゴリーの理不尽な死、そして魔法省による組織的な隠蔽——ここから物語は、続く『不死鳥の騎士団』以降の戦争の物語へと完全に舵を切る。本記事は結末を含む全編の内容に踏み込む。優先呪文(プライオリ・インカンテイタム)によってハリーの両親の影が現れる場面、バーティ・クラウチ・ジュニアの正体、ヴォルデモートの復活の儀式の手順までを記すため、初見で物語の驚きを保ちたい読者は、まず本編を鑑賞してから読み進めることを勧めたい。
主要データ
- 原題
- Harry Potter and the Goblet of Fire
- 原作
- J.K.ローリング(2000年・ブルームズベリー)
- 監督
- マイク・ニューウェル
- 脚本
- スティーヴ・クローヴス
- 音楽
- パトリック・ドイル
- 撮影
- ロジャー・プラット
- 美術
- スチュアート・クレイグ
- 編集
- ミック・オーズリー
- 公開
- 2005年11月18日(米英)/11月26日(日本)
- 上映時間
- 157分
- ジャンル
- ファンタジー、青春劇、ミステリー、ダーク・ファンタジー
- 舞台
- 1994-1995年の英国(リトル・ハングルトン/隠れ穴/クィディッチ会場/ホグワーツ城/リトル・ハングルトン墓地)
01あらすじ
ここから先は、結末までを含む全編のあらすじである。物語は、リドル屋敷の不穏な幕開けから始まり、クィディッチ・ワールドカップの熱狂、そして夜空に浮かび上がる闇の印へと続く。やがて炎のゴブレットがハリーを四人目の代表として選び出し、不死鳥の杖を持つ者と並ぶ各校の代表たちが顔をそろえる。ドラゴンとの一戦、湖の底をめぐる一戦、生垣に閉ざされた迷宮——三つの課題を経て、優勝杯に仕掛けられた罠が動き出す。たどり着いたリトル・ハングルトンの墓場では、ヴォルデモートの復活の儀式が執り行われ、優先呪文によって影たちが立ち現れる。さらに、マッド=アイ・ムーディの正体がバーティ・クラウチ・ジュニアであったことが明かされ、最後はセドリック・ディゴリーへの追悼で締めくくられる。その一部始終を、順を追って描いていく。
リドル屋敷とフランク・ブライス
映画は、英国中部のさびれた村リトル・ハングルトンの丘の上、廃屋寸前の大邸宅から幕を開ける。蔦に覆われた窓のひとつに、本来灯るはずのない光が滲んでいる。村でただ一人この屋敷を管理してきた老いた家政管理人フランク・ブライスは、長年の戦傷で杖を手放せない足を引きずりながら、その夜も様子を見ようと屋敷の扉を押し開ける。
暖炉のそばの肘掛け椅子に、誰かが背を向けて座っている。床では太く黒い大蛇——後に観客がナギニと知る生き物——が、絨毯をうねりながら椅子の脚へ巻きついていく。椅子の背後では、小柄な男ピーター・ペティグリュー(ワームテイル)が震える両手で釜と杖を操り、何かを煮ている。フランクが扉の蝶番のところに立ちつくしていると、椅子の住人が誰かに問いかける声が聞こえてくる。『そこにいるのは誰だ、ナギニ』。
椅子から響く声は、人のものとは思えぬほどしわがれ、それでいて鋭利な意志を湛えている。フランクが姿を見せると、椅子はゆっくりと回転する——だが観客にはまだ全身が見えない。子どもほどの大きさにしぼんだ青黒い体、皮膚の薄い顔。ハリー・ポッター登場以前のヴォルデモート卿の、もはや人ですらない『仮の肉体』である。彼は短く、『この男はもう必要ない』と告げる。緑の閃光が走り、フランクは床に崩れ落ちる。映画館は静まり返り、ここから物語の空気は一気に冷えていく。
舞台はホグワーツ近郊、ウィーズリー家『隠れ穴』へと移る。同じ夢を見て飛び起きたハリー・ポッターは、額の古傷を押さえ、荒い息を整える。リドル屋敷で起きたことは『夢』ではなかった——その確証だけが観客の側に置かれたまま、ハリーは何も知らずに友人たちのもとへ降りていく。
関連リンク
クィディッチ・ワールドカップ第422回…
ハリーはウィーズリー一家とハーマイオニーに合流し、夜明け前の野原で、片足のもげた古い長靴に手をかける。アーサー・ウィーズリーが用意した移動キー(ポートキー)だ。掌が長靴に吸いつき、世界がぐにゃりとねじれた次の瞬間、一行は数百キロ離れたクィディッチ・ワールドカップ会場の上空へ放り出される。決勝のカードはアイルランド対ブルガリア。数十万人を収容する巨大なすり鉢状のスタジアムでは、最上段の観客席までを埋め尽くす緑と赤のテントの海が広がり、この世界の途方もない規模を一目で観客に伝える。
貴賓席で一行を迎えるのは、魔法大臣コーネリウス・ファッジと、魔法ゲーム・スポーツ部長ルード・バグマンである。ブルガリア代表のスター選手は、若くして世界的名声を得たシーカー、ヴィクトール・クラム。対するアイルランドは、熟練のチェイサー陣とシーカーのエイダン・リンチをそろえる。試合はアイルランドのチェイサー陣が得点を重ねる展開のなか、クラムが空中でヴロンスキー・フェイントを披露し、急降下と急上昇で観客を絶叫させる。最後にスニッチを掴むのはクラムだが、その金星も点差を覆すには至らず、優勝杯はアイルランドの手に渡る。負けた側のシーカーが試合の幕引きに華を奪うという珍しい結末が、本作のスポーツシーンの白眉となっている。
映画ではクィディッチの試合そのものはほどなくフェードアウトし、原作で綴られた試合の細部の多くは省かれている。それでも、観客席のそばで子どものように飛び跳ねるロン、ふくれっ面のハーマイオニー、興奮を抑えきれないハリー——この三人の表情はじっくりととらえられ、シリーズの三人組がもはや子どもではなく若者へと変わりつつあることが、台詞ではなく所作で示される。
闇の印
試合の余韻に包まれたテント村が深夜の眠りに落ちたころ、遠くから歓声とはまるで違う叫び声が押し寄せてくる。仮面と黒いローブをまとった一団——後にハリーがその正体を知る『死喰い人』の残党だ——が、マグルのキャンプ管理人一家を宙吊りにし、酔った勢いのまま火を放ってキャンプ場を蹂躙していく。アーサーは「逃げろ、森へ走れ」と子どもたちを叩き起こすと、自身は他の魔法省職員とともに防衛へ回る。
ハリー、ロン、ハーマイオニーは黒い森のなかで離れ離れになってしまう。気を失っていたハリーが目を覚ますと、森の梢の上、月に取って代わるように夜空を覆っていたのは、緑の煙でできた巨大な髑髏と、その口から這い出すように伸びる蛇だった——魔法界がもっとも恐れる象徴、ヴォルデモートと死喰い人の『闇の印(モースモードル)』である。
印を上空へ放った何者かを追い、魔法省の即応部隊が姿を現す。職員に首根っこを掴まれた三人組のすぐそばで、藪の影に倒れていた小柄な家しもべ妖精ウィンキー——魔法ゲーム部のバーティ・クラウチ・シニア家に仕える妖精だ——が、ハリーの杖を握ったまま発見される。状況証拠だけでウィンキーは疑われ、クラウチ・シニアは公衆の面前で彼女を解雇する。ハリーの杖は『闇の印』を放った杖ではないかと検査され、後の杖検査の結果、『闇の印を放った杖』はハリーのものだったと判明する——杖を盗み、闇の印を夜空へ走らせた『何者か』の影が、観客にも示唆されるのだ。クィディッチ・ワールドカップは観客の歓声ではなく、悲鳴と緑の煙の記憶とともに幕を閉じる。
三大魔法学校対抗試合の発表
九月一日、ホグワーツ城の大広間で、アルバス・ダンブルドアが大きな発表を行う。今年、欧州の魔法学校に伝わる伝統行事『三大魔法学校対抗試合』が、百年以上ぶりに復活するというのだ。ボーバトン魔法アカデミー(フランス/南欧)とダームストラング専門学校(北欧/東欧)がそれぞれ代表団を率いて来訪し、ホグワーツが今年度の開催校を務める。歓声と緊張の入り混じる生徒たちを前に、ダンブルドアは『この試合は、ただの娯楽ではない。命に関わる危険を伴う』と釘を刺し、出場資格を満17歳以上に限る『年齢線(エイジ・ライン)』が引かれることを告げる。
夕食の席に、二校の代表団が劇的な入場を演じてみせる。ボーバトンの女生徒たちはパステル・ブルーの制服をまとい、大広間の天井に蝶を放つ。巨人の血を引く校長マダム・マクシームに導かれ、その最後尾を歩くのはヴィーラ(魅惑の魔法種族)の血を引く女生徒フラー・デラクールだ。続いて登場したダームストラングの男子生徒団は、棒術の演舞と火の演出で大広間を圧倒する。一団のなかには、夏に観たばかりのクィディッチのスター選手ヴィクトール・クラムの姿もある。率いる校長は、闇の魔法使いと噂され続ける、厳しい目つきの男イゴール・カルカロフだった。
新任の『闇の魔術に対する防衛術』教師は、退役オーラー(闇祓い)のアラスター・『マッド=アイ』・ムーディ。回転する魔法義眼、深い古傷、ステッキを引きずる足音、フラスコから絶えず吸引する飲み物——その登場ぶりは、シリーズ歴代の新任DADA教師のなかでもひときわ強烈だ。最初の授業でムーディは、闇魔法に対する『最も基本的な防衛は何か』ではなく、『最も恐るべき攻撃の三つの呪文』を生徒たちに直接見せる方針をとる。机の上の蜘蛛を相手に、『服従の呪文(インペリオ)』『苦痛の呪文(クルーシオ)』『死の呪文(アバダ・ケダブラ)』——魔法社会が禁じる『許されざる呪文』三つを、教室の生徒たちの目の前で実演してみせるのだ。宙に浮いた蜘蛛がアバダ・ケダブラの緑の閃光で動かなくなる場面では、ハリーの額の傷が痛みに反応する。
炎のゴブレットと四人目の代表
大広間の中央に、青い炎を絶やさず燃やし続ける古い大杯——『炎のゴブレット(ザ・ゴブレット・オブ・ファイア)』が据えられる。立候補する者は、自らの名を記した紙片を青い火に投じればよい。立候補の期間が終わると、ゴブレットの炎は赤く色を変え、各校の代表にふさわしい一名をゴブレット自身が選び出す。
ハロウィン祭の夜、大広間の灯が落とされ、ゴブレットの火が一段と高く燃え上がる。最初に飛び出した紙片に記されていたのはセドリック・ディゴリー——ホグワーツのハッフルパフ寮の最上級生で、品位を備えた成績優秀者、夏のクィディッチでも活躍した模範生である。続いてボーバトンの代表フラー・デラクール、ダームストラングの代表ヴィクトール・クラム。三人の代表が並び、対戦の顔ぶれが決したかに見えた。だがその瞬間、ゴブレットの火がふたたび荒々しく立ち上り、四枚目の紙片が宙へ舞う。ダンブルドアの手のひらに落ちたその名は——『ハリー・ポッター』。
ハリーは応募していない。そもそも応募できる年齢にも達していない。だが、ゴブレットは魔法によって拘束力を持つ選定装置であり、ひとたび出てしまった名は『契約』として扱われる。教員たちは校長室で言い争うが、結論は揺るがない——ハリーは出場せざるを得ない。四人の代表が顔をそろえると、ダームストラング校長カルカロフは『これは規則破りだ』と激高し、マダム・マクシームも不満を露わにする。ただひとり、マッド=アイ・ムーディだけが冷ややかに分析する。ホグワーツを有利に導くためにハリーを送り込んだ者がいるのではない、誰かがハリーを殺すためにこの試合を利用しようとしているのだ、と——後に振り返れば、これは犯人本人の言葉だった。
ロン・ウィーズリーは、ハリーが自分に黙って応募したと信じ込み、口を利かなくなる。記者リータ・スキーターは本人に無断で、『傷を負ったハリー・ポッターは涙を見せ、母親を恋しがった』という嘘の独占記事を書き立てる。ハーマイオニーが二人の仲を取り持とうと奔走するなか、ハリーは『不本意な四人目の代表』として、たった一人で第一の課題に臨まざるを得なくなる。
第一の課題
第一の課題を数日後に控えたある夜、ハグリッドはハリーを森へと呼び出す。木立を抜けた先の広場には巨大な金属檻が組まれ、その中で四頭の現役のドラゴンが咆哮を上げていた。スウェーデン・ショート=スナウト、ウェールズ・グリーン、シノ=ノルウェジアン・リッジバック、そしてもっとも凶暴なハンガリアン・ホーンテイル。各代表はこの四頭から無作為に一頭を引き当て、その巣に守られた金の卵を奪い取らねばならない。「反則だが教えてやる」というハグリッドの厚意は、やがてハリーが同じ情報をセドリック・ディゴリーにも分け合う流れを生む。二人の若き代表が対等に手を結ぶこの共謀こそ、本作を青春劇として支える軸となる。
課題当日、競技場は岩山を模したアリーナへと改装され、四代表が順に挑んでいく。フラーはウェールズ・グリーンに眠りの魔法を、クラムは目を狙う呪いを、セドリックは岩を犬に変える変身術を繰り出し、いずれも傷を負いながら卵を奪い取る。最後に呼ばれたハリーが対峙したのは、最強のハンガリアン・ホーンテイルだった。彼は箒を呼び寄せる呪文「アクシオ」を空へ向けて唱え、城から愛機「ファイアボルト」を呼び寄せる。
高速の箒にまたがったハリーとドラゴンの空中追走戦は、本作前半でもっとも疾走感あふれる場面である。岩塔、ゴシック様式の屋根、ホグワーツの尖塔、そして湖の上空——岩肌に擦りつけられ、尾の一撃で背中の制服を引き裂かれ、城の中庭を破壊しながら一頭のドラゴンが追ってくる。やがてハリーは追跡をかわして競技場へ戻り、無防備になった巣から金の卵を奪い取る。地上のスタンドはホグワーツの校章を描いた旗で揺れ、得点の合計で彼はセドリックと首位を分け合った。
拍手のなかで、ハリーとロンの間に張り詰めていた誤解もようやく解ける。命を懸けて空を逃げ回るハリーの姿を見たロンは、「誰もあれを楽しんで応募などしない」と確信する。そしてグリフィンドール塔の階段の上で、二人は短く、ぶっきらぼうに和解するのだった。
クリスマス
第一の課題と第二の課題のあいだに、伝統行事『ユール・ボール(クリスマス舞踏会)』が大広間で催される。各代表はパートナーを伴い、正装でダンスを披露しなければならない。十四歳前後の生徒たちはここで、生まれて初めて「誰かをダンスに誘う」という、ドラゴンよりも厄介な課題に直面することになる。
ハリーは想いを寄せるレイブンクロー寮のチョウ・チャンに勇気を振り絞って声をかけるが、彼女はすでにセドリック・ディゴリーに誘われていた。年下のハリーが、恋でも試合でも先輩に敵わない——その現実が丁寧に描かれる。結局ハリーはパーバティ・パチル、ロンは双子の妹パドマ・パチルをパートナーにする。マクゴナガル教授に手を引かれて練習させられるロンが、皺の寄った中古のローブで照れ笑いを浮かべる場面は、本作では数少ない笑いどころのひとつだ。
舞踏会当日、大広間は氷の樹と銀の蜘蛛の巣に覆われ、天井からは雪が舞い落ちる。各代表がパートナーとともに中央へ進み出る。だがハリーが息を呑んだのは、想い人にではなく、別の人物の姿に対してだった。薄紫のドレスを纏い、長い髪を結い上げ、踊りの相手としてヴィクトール・クラムの腕に手を置いたハーマイオニー・グレンジャー。普段の制服姿とはまるで別人だ。三人組のうちの二人にとって姉妹のような少女だったハーマイオニーが、対等な一人の少女として描かれる瞬間が、ここにある。
舞踏会も終盤、混雑から離れた階段で、ロンとハーマイオニーは初めて本気の口論を交わす。「どうして君が、敵の代表と踊るんだ」「敵じゃない、彼は私を見てくれた、あなたはそうじゃなかった」。涙を見せ、夜の階段で靴を片手に下りていくハーマイオニーの背中は、シリーズ屈指の「青春の傷」を映したショットのひとつとなった。一方、廊下では校長カルカロフが、自分の左腕の闇の印が日に日に色濃く戻っていくことに恐怖し、スネイプにそれを見せて怯える場面が短く挟まれる。ここで観客は、ヴォルデモートの「時計の針」が動き出していることを知る。
第二の課題
金の卵は水中で開けば歌声を発する——そう助言したのは、舞踏会の翌日に湖畔ですれ違ったセドリック・ディゴリーだった。第一の課題のドラゴンの情報をハリーから教わった、その借りをここで返したのである。本作のセドリックは、原作以上に丁寧に造形されている。模範生でありながら、対等な後輩としてハリーに接する青年——その人物像が、後半の悲劇へと観客の感情を静かに準備していく。
監督生用の浴室で、ハリーは卵を温かい湯に沈める。蓋が開き、人魚の合唱が響く——「我らの取ったものを取り返したくば、太陽の届かぬ場所へ来たれ。一時間で取り戻せ、さもなくば失う」。第二の課題が黒い湖の水底で行われると、ハリーはここで悟る。
課題当日、湖の桟橋に四人の代表が並ぶ。海に潜るための呪文も技も持たないハリーは、競技場に満ちる重圧のなか、半ば突き落とされるようにして湖へ落ちる。直前にネビル・ロングボトムから渡された海藻「ガリプラント(鰓昆布)」を口に含むと、息ができないはずの水中で首にエラが、両手両足に水掻きが生えた。シリーズ屈指の奇妙でユーモラスな"水中のハリー"が、こうして誕生する。
湖の底、人魚(マーピープル)の村の柱に縛りつけられていたのは、各代表にとって「この世でもっとも大事な人」だった。ハリーにはロン、クラムにはハーマイオニー、セドリックにはチョウ、そしてフラーには妹で十歳のガブリエル・デラクール。やがてフラーは水中の小妖怪グリンディローの群れに襲われて離脱し、クラムはサメ頭の半変身でハーマイオニーを救出して浮上する。セドリックも時間内にチョウを救い出す。
残ったハリーは、本来ならロンだけを連れて浮上すればよかった。だが保護役のフラーが上がってこないと知り、ガブリエルも一緒に二人とも連れて浮上することを選ぶ。人魚の長は「規則違反だ」と剣を構えるが、杖の先で水を切り裂き、二人を抱えて時間切れぎりぎりに水面へ吐き出すその光景は、課題の競争としては失格でも「道徳的優越(モラル・ファイバー)」として満点に値する、と審判団に評される。フラーはガブリエルを抱きしめて涙し、湖畔のハリーに頬への接吻で感謝を伝える。代表四人の関係が「敵」から「若き同志」へと変わるのは、ここでようやくのことだ。
禁じられた森
第二の課題と第三の課題のあいだに、観客の前には不穏な伏線が静かに積み重なっていく。バーティ・クラウチ・シニア——魔法ゲーム部の頂点に立ち、かつて息子バーティ・クラウチ・ジュニアを自らの手でアズカバンへ送った冷酷な父——が、突然職場を欠勤し、ホグワーツの森の外れに姿を現す。気を失う寸前のところをハリーとヴィクトール・クラムに発見された彼は、『ヴォルデモートが帰ってくる』『私の息子が……』と支離滅裂につぶやくと、そのまま姿を消す。クラムは樹の根もとに取り残されて意識を失い、のちに『誰かに気絶呪文をかけられた』と語る。
ハリーは、グリフィンドール塔談話室の暖炉に名付け親シリウス・ブラックの顔が浮かび上がる『フルー・ネットワーク通信』を通じて、危うい現状を相談する。シリウスは警告する。『カルカロフは元死喰い人だ。ムーディは正真正銘の名うてのオーラーで、ヴォルデモートの一味を半数以上アズカバンへ送り込んだ。バーティ・クラウチ・シニアの息子は、十年以上前に父親の手で囚われ、獄中で死んだとされている』。そして『ハリー、お前はこの試合の駒として、誰かに使われている』と。本作のシリウスが登場するのは、暖炉の煤の中に浮かぶ顔だけだ。それでもゲイリー・オールドマンの声と眼差しが、ハリーは独りではないというシリーズ全体の主題を、ひと息で支えている。
ハリーはまた、『取り憑かれたかのように』夢のなかでヴォルデモートの仮の体を見るようになる。ヴォルデモートとワームテイルの会話、追放された召使いカルカロフが追い詰められていく気配、そしてある『計画』の最終段階——観客は夢の断片を通して、リトル・ハングルトンで上がった幕がホグワーツの試合と確かに繋がっていることを知らされる。
第三の課題
学年末、クィディッチ競技場は深い緑の生垣がそびえる巨大な迷路へと姿を変える。第三の課題はいたって単純だ。迷宮の中心に据えられた『三大魔法学校対抗試合優勝杯(トライウィザード・カップ)』に最初に手をかけた者が優勝者となる。だが、生垣は意思を持っている。選手の精神を蝕み、方向感覚を狂わせ、視界を歪めていく。試合中は杖を使えるが、互いを妨害することも認められている。
現在の総合得点では、ハリーとセドリックが首位タイ、続いてクラム、フラーの順だ。生垣に踏み込んだ直後、フラーは霧に取り囲まれて悲鳴をあげ、リタイアのフレアを上空へ放つ。クラムは生垣の影で誰かに『服従の呪文(インペリオ)』をかけられた状態で現れ、セドリックに杖を向けて襲いかかる。ハリーは『失神呪文(ステューピファイ)』でクラムを倒し、以後二人は原作以上に鮮明な「一緒に走る二人組」として迷宮を進んでいく。
迷宮の中心部、霧の上に黄金の優勝杯が光っている。セドリックがわずかに先んじて杯へ手を伸ばしかけた瞬間、生垣が突然その足元を絡め取り、彼を絞め上げて引きずり込もうとする。ハリーは反射的に駆け戻り、セドリックを救い出す。一度は「君が勝て、僕は触らない」と譲り合った二人だが、結局「二人で同時に触ろう、ホグワーツの引き分け優勝にしよう」と合意し、湯気を立てる黄金の杯へ同時に手を伸ばす。
次の瞬間、優勝杯はハリーとセドリックの二人をともに掴んで光を放つ。観客は、これが優勝の演出ではなく、移動キー(ポートキー)の発動だと気づく。二人は競技場ではない、見たこともない夜の墓地の真ん中へ、地面に放り出される。
リトル・ハングルトンの墓場
墓地は、本作冒頭でフランク・ブライスが命を落としたリトル・ハングルトン村、リドル家の墓地だ。中央には『トム・リドル』と刻まれた大きな墓石が立つ。その向こうから、黒いローブのまま頭巾をかぶった小柄な男が、布にくるまれた『何か』を抱えて歩いてくる——ワームテイル、ペティグリューである。
ハリーが額を押さえて崩れ落ちる。ヴォルデモートの傷の痛みが、これ以上ないほど強く走る。ワームテイルの腕に抱かれた包みから、子どもほどの大きさの仮の体——ヴォルデモートの『仮肉』——が短く命じる。『余計者は殺せ(Kill the spare.)』。
ワームテイルが杖を振る。緑色の閃光が走り、セドリック・ディゴリーは防御呪文を唱える間もなく、墓石の脇に倒れて二度と動かない。ここまで丁寧に描かれてきた青年セドリックが、説明も別れも台詞もないまま、たった二語の命令で殺される——本シリーズで初めて、無辜の生徒が画面のなかで命を奪われる瞬間だ。劇場の空気が、ここで一段だけ重く沈む。
ワームテイルはハリーを引きずってトム・リドル家の墓石にロープで縛り上げ、口元に布を噛ませる。墓石の足元に置かれた大釜にヴォルデモートの仮の体が浸され、ワームテイルが唱える。『骨を父より、与えられずして取る』——墓石の前の地面から、トム・リドル・シニア(ヴォルデモートの父)の白い骨が一片、釜の中へ吸い上げられる。『肉を僕より、進んで捧げる』——震えるワームテイルは大ナイフで自分の右手首を切り落とし、釜に投げ込む。『血を敵より、力ずくで取る』——ナイフがハリーの腕を切り裂き、その血が一滴、釜へ落ちる。
釜から沸き上がる蒸気のなかで、十三年ぶりに、ヴォルデモート卿が完全な肉体を取り戻して立ち上がる。ラルフ・ファインズが本シリーズで初めて演じる、鼻の穴だけが残った青白い顔、両のスリットの目。復活したばかりの両手で自分の指を確かめ、笑みなのか痙攣なのか分からない表情を浮かべると、空に向けて杖を振る——左腕の闇の印を炎で蘇らせ、世界中に散らばる死喰い人を一斉に呼び寄せるのだ。
優先呪文と両親の影
墓地の周囲に、フードを目深にかぶった死喰い人たちが次々と移動術(アパレート)で姿を現す。ルシウス・マルフォイ、マクネア、エイヴリー、ノット、クラッブとゴイルの父——映画に登場するのは数名にとどまるが、十三年身を潜めていた信奉者たちが集う場面そのものが、シリーズ後半に待ち受ける戦争の予告編となっている。
集まった信奉者を前に、ヴォルデモートは自分が消えていた十三年間を語り出す。『お前たちのうちの何人かは、私が永久に消えたと思ったろう。何人かは、私を見限った。一人だけが、死を覚悟して私のもとに帰ってきた』——そう言って彼が指したのは、片手を釜に捧げたばかりのワームテイルだった。続けてヴォルデモートはマルフォイら他の死喰い人を一人ずつクルーシオで罰し、それからハリーの縛めを解くと、『これは公正な決闘だ』と告げて杖を渡す。
ハリーとヴォルデモートが互いに杖を構え、お辞儀の所作とともに呪文を放つ。ヴォルデモートの『アバダ・ケダブラ』の緑の閃光と、ハリーが反射的に放った『エクスペリアームス(武装解除)』の赤い閃光が、空中で衝突し融合する。二本の杖の間に光の橋が架かり、両者の足は地面から数センチ浮かび上がる。これが、優先呪文『プライオリ・インカンテイタム』——『同じ羽根(不死鳥フォークスの尾羽)を芯材とする兄弟杖』が衝突したときに生じる、シリーズ屈指の魔法現象である。
光の橋からヴォルデモートの杖に向けて、輝く玉がいくつも漂い出る。それらは杖が直近に放った呪文の『影(こだま)』であり、ヴォルデモートが過去に手にかけた人々の幻だった。最初に現れたのはセドリック・ディゴリー——『ぼくの遺体を、家族のもとに連れ帰ってほしい』。続いて夏の冒頭で殺されたフランク・ブライス、その前に殺された見知らぬ老女、そして——リリー・ポッターとジェームズ・ポッター、ハリーの両親が、十三年越しに姿を見せる。
リリーは『おまえに会えてよかった、ハリー』と告げ、ジェームズは『杖を持ったまま、私たちが彼の気を逸らす。橋を切れ。優勝杯のところまで走れ。私たちが守る』と、短く息子に作戦を授ける。ハリーは杖を引きちぎるように上へ振り上げ、光の橋を断ち切る。橋から零れ出た影たちがハリーとヴォルデモートの間に立ちはだかり、ヴォルデモートの杖をひととき封じる。その隙にハリーは墓石の脇に倒れたセドリックの遺体まで走り、もう片方の手で『来い』と優勝杯を呼び寄せる——優勝杯は再びポートキーとして発動し、ハリーとセドリックの遺体を、ホグワーツのクィディッチ競技場へと送り返す。
マッド=アイ・ムーディの正体
競技場では、移動キーで戻ってきた優勝者ハリーを、生徒と教員の歓声が出迎える。だが当のハリーは地面にうずくまり、セドリックの遺体を抱いて泣き崩れていた。やがて観客席からセドリックの父アモス・ディゴリーの絶叫が響き、歓喜の空気はその一声で粉々に砕ける。ただひとり冷静に駆け寄ったのはマッド=アイ・ムーディだった。『城に運んで手当てしよう』——そう言ってハリーを抱え起こす。
ムーディはハリーを自分の研究室へ連れ込み、扉を閉ざす。その問いはどこかおかしい。『ヴォルデモートはどうやって帰ってきた』『どんな順番で死喰い人を呼んだ』『お前は誰の名を見た』。詰問の途中、ムーディはフラスコから絶えず飲んでいた『何か』が切れかかっているのに苛立ち、最後の一口を一気に呷る。すると鏡に映る輪郭が、見る見るうちに変わっていく。白く濁った義眼の老オーラー(闇祓い)から、若く整った顔立ちの男へと。
扉を蹴破り、ダンブルドア、マクゴナガル、スネイプが踏み込む。スネイプの杖の先で、姿を変えた『ムーディ』は壁に縫いつけられる。スネイプが研究室の隅の大型旅行用トランクを開けると、その最下層には、本物のアラスター・『マッド=アイ』・ムーディが、痩せ衰えた姿で監禁されていた。一年間、ハリーたちが『ムーディ』として接してきた人物は、ポリジュース薬で姿を偽った別人だったのだ。
ダンブルドアは『ムーディ』の顔をした男の口に、スネイプ調合の真実薬(ヴェリタセラム)を流し込む。男は淀みなく自白を始める。自分はバーティ・クラウチ・ジュニア。十年以上前にアズカバンへ送られたあと、母を身代わりにする魔法で密かに釈放され、父バーティ・クラウチ・シニアの家に屋敷しもべ妖精ウィンキーとともに監禁され続けてきた。やがてクィディッチ・ワールドカップで父の杖を盗み、闇の印を空に走らせる。今年は、本物のムーディが新任の闇の魔術に対する防衛術(DADA)教師として招かれる前に襲って気絶させ、その姿に成りすまして教師として潜り込んだ。さらに炎のゴブレットに『四校目』の偽の学校名でハリーの名を書いた紙を投げ込み、ゴブレットを『規則違反』ではなく『四校目の代表選出』として誤作動させる。ドラゴンの情報、卵を風呂で開くヒント、湖の昆布、迷宮での他選手への妨害——そのすべては、ハリーを第三の課題まで無事に生き延びさせ、優勝杯のポートキーで主君のもとへ運ぶための、一年がかりの介添えだった。父バーティ・クラウチ・シニアは、息子の脱獄と支援を償わせまいとして禁じられた森で口を開きかけ、その息子に殺されていた。
短い自白ののち、魔法大臣コーネリウス・ファッジが連れてきた吸魂鬼(ディメンター)が、許可も得ずにクラウチ・ジュニアの口へ吸魂の口づけ(ディメンターズ・キス)を加える。彼の魂は失われ、最重要証人は永遠に沈黙する空っぽの器となった。ダンブルドアは激高する。『お前は、最後の証人を破壊した』。対するファッジは、『ヴォルデモートが帰ったなどという狂気の妄想を、世間に広めるわけにはいかない』と告げ、職務上の判断のすべてを『安全な側』へ倒していく。何が起きたかではなく、誰がそれを認めるか——本作終盤の主題が、ここで一気に立ち上がる。
学年末
学年末の大広間。食事を終えた生徒たちを前に、ダンブルドアがろうそくの灯のなかで静かに立ち上がる。そして全校生徒に向けて告げる。『今日、私たちはひとりを失った。素晴らしいハッフルパフ生であり、フェアな対戦相手、誠実な友人、そして立派な息子だった、セドリック・ディゴリー』。その言葉に、広間の一同が次々と立ち上がる。
『魔法省は、私が今夜君たちにこれから話すことを禁じている。だが私は、君たちが嘘で守られるのではなく、真実で立ち向かうべきだと信じている。セドリック・ディゴリーは、ヴォルデモート卿に殺された。彼は事故で死んだのではない、迷宮の事故で死んだのでもない。彼は、戻ってきたヴォルデモートの命令で殺されたのだ』。教師団が居並ぶなか、画面にはスネイプの伏せた目だけが残る。ダンブルドアはなおも続ける——『暗い時代がやってくる。正しい道と楽な道のあいだで選ばねばならぬ日が、必ず来る。そのとき、君たちはセドリック・ディゴリーを思い出してほしい』。
翌朝、ボーバトンとダームストラングの代表団が、それぞれの輸送魔法で故郷へと帰っていく。グリフィンドール塔の窓辺では、ハーマイオニーが『何もかも、変わってしまうのね』と呟く。ハリーは『本当の戦いは、ここから始まる』ことを、まだ言葉にはせず、ただ静かに受け止めている。そんな二人の間に、ロンが歩み寄って立つ。三人の影は、シリーズで初めて『戦争を引き受けた若者』としてフレームに収まる。本作はそこで幕を引き、続く『不死鳥の騎士団』へとバトンを渡す。
登場要素
本作に登場・言及される主な要素を、人物・魔法生物・呪文・道具・場所・組織に分類して整理する。なかでも『闇の印』『許されざる呪文』『移動キー』『優先呪文』は本作の核を成す概念だ。後続作で描かれるヴォルデモート対魔法省、そして不死鳥の騎士団という構図を読み解くうえでも、これらは欠かせない手がかりとなる。
- ハリー・ポッター
- ロン・ウィーズリー
- ハーマイオニー・グレンジャー
- セドリック・ディゴリー
- ヴィクトール・クラム
- フラー・デラクール
- ガブリエル・デラクール
- アルバス・ダンブルドア
- ミネルバ・マクゴナガル
- セブルス・スネイプ
- ルビウス・ハグリッド
- シビル・トレローニー(言及)
- アラスター・『マッド=アイ』・ムーディ(本物/偽物)
- バーティ・クラウチ・シニア
- バーティ・クラウチ・ジュニア
- ルード・バグマン
- コーネリウス・ファッジ
- リータ・スキーター
- ピーター・ペティグリュー(ワームテイル)
- ヴォルデモート卿
- ナギニ
- フランク・ブライス
- イゴール・カルカロフ
- マダム・マクシーム
- アーサー・ウィーズリー
- モリー・ウィーズリー
- フレッドとジョージ・ウィーズリー
- ジニー・ウィーズリー
- シリウス・ブラック(暖炉越し)
- ドラコ・マルフォイ
- ルシウス・マルフォイ
- ジェームズとリリー・ポッター(影として)
- アモス・ディゴリー
- チョウ・チャン
- パーバティ/パドマ・パチル
- ネビル・ロングボトム
- ウィンキー(屋敷しもべ妖精)
- ドラゴン(ハンガリアン・ホーンテイル/ウェールズ・グリーン/スウェーデン・ショート=スナウト/シノ=ノルウェジアン・リッジバック)
- 人魚(マーピープル)
- グリンディロウ(水生小妖)
- 屋敷しもべ妖精
- ヴィーラ
- 巨人の血統(マダム・マクシーム)
- 吸魂鬼(ディメンター)
- ニフラー(言及)
- セストラル(未登場、後続作で出現)
- 蛇ナギニ
- 不死鳥(言及・尾羽が両者の杖芯)
- アバダ・ケダブラ(死の呪文)
- クルーシオ(苦痛の呪文)
- インペリオ(服従の呪文)
- エクスペリアームス(武装解除)
- ステューピファイ(失神呪文)
- アクシオ(呼び寄せ)
- モースモードル(闇の印)
- プライオリ・インカンテイタム(優先呪文)
- ポリジュース薬
- ヴェリタセラム(真実薬)
- ポートキー(移動キー)
- フルー・ネットワーク(暖炉通信)
- ディスアパレート/アパレート(瞬間移動)
- 気泡呪文(バブルヘッド・チャーム/クラムとセドリックの想定技)
- 鰓昆布(ガリプラント)の効果
- 炎のゴブレット(ザ・ゴブレット・オブ・ファイア)
- 三大魔法学校対抗試合優勝杯(移動キー)
- ハリーのファイアボルト
- ハリーの杖(不死鳥フォークスの尾羽)
- ヴォルデモートの杖(同じ不死鳥フォークスの尾羽)
- ムーディの魔法義眼
- ムーディの常飲フラスコ(ポリジュース薬)
- 黄金の卵(第一の課題の報酬)
- 鰓昆布
- リータ・スキーターの『早書き羽根ペン』
- クラウチ家のトランク(多層魔法トランク)
- クラウチ家の地図/盗聞き器(言及)
- リトル・ハングルトン村とリドル家の屋敷/墓地
- ウィーズリー家『隠れ穴』
- クィディッチ・ワールドカップ会場
- ホグワーツ城本館
- ホグワーツ大広間/グリフィンドール塔/監督生用浴室
- ホグワーツの校庭・第一課題の岩山アリーナ
- 黒い湖
- クィディッチ競技場(迷宮の生垣)
- 禁じられた森
- ボーバトン魔法アカデミー(南欧・パステル青)
- ダームストラング専門学校(北欧・船で来訪)
- 三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)
- 炎のゴブレットによる代表選出
- 魔法省(コーネリウス・ファッジ政権)
- 国際魔法協力部
- 魔法ゲーム・スポーツ部
- 魔法生物規制管理部
- オーラー本部(闇祓い)
- 死喰い人(デスイーター)
- アズカバン
- ヴィーラとドラゴンを巡る国際協定(言及)
- 預言者新聞とリータ・スキーターのジャーナリズム
- 不死鳥の騎士団(実体は本作では未登場、ダンブルドアの示唆のみ)
17主要登場人物
本作は、三人組と並んで『四人の代表』『二人のクラウチ親子』『二つのムーディ(本物と偽者)』など、人物を対の構図でとらえると理解が深まる。とりわけハリーとセドリックの並走、ロンとハーマイオニーの揺れる距離感、そしてハリーとヴォルデモートをつなぐ兄弟杖の関係が、後続作すべての伏線となっている。
ハリー・ポッター
本作のハリーは十四歳、ホグワーツ4年目を迎えている。前作までの「未熟ながら正しい少年」から、「自分が何者として周囲に見られているか」に苦しむ若者へと作り替えられた。応募してもいない試合に名を呼ばれ、級友からも親友からも敵視され、リータ・スキーターには作り話を書かれる。そして最後には、同級生を目の前で殺される。この一年こそ、彼が「救世主」として担がれていくシリーズ後半の自己像の起点となる。
墓場で杖を構え、ヴォルデモートと対峙する場面は、本作のハリーが「大人と渡り合うほどではないが、もはや子どもでもない」ことを画面で示す瞬間でもある。両親の影がハリーを取り囲み、息子に作戦を授けるわずか数秒間は、シリーズ屈指の感情的密度を湛えている。ダニエル・ラドクリフはこの一作で表情の引き出しを大きく増やし、後続作の「怒り続ける十五歳」へと橋を渡してみせた。
関連リンク
ロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グ…
本作でロンが直面するのは、友情の側からの、もっとも厳しい試練だ。親友は試合に出る、自分は出られない、そのうえ周囲は自分を先輩格の代表のように扱う——その嫉妬と恥ずかしさから、ロンは一時ハリーのもとを離れる。だが第一の課題で、ハリーが命懸けで空を逃げ回る姿を目にし、『誰も望んで応募などしない』と悟ったロンは、不器用に和解の手を差し出す。『友情とは何か』を、台詞ではなく、黙って戻ってくる行動だけで語る——シリーズで初めてそれをやってのけるのが、この一作のロンである。
ハーマイオニーがユール・ボールで描かれるのは、『勉強と魔法の優等生』としてではない。初めて『ひとりの少女として、対等に誰かの目に映る存在』として立ち現れる。クラムと踊る場面、そして夜の階段でロンに『あなたは私を、別の女の子として見たこともなかったのね』と詰め寄る場面は、十代の感情の機微をシリーズへ持ち込んだ。本作以降、三人組の関係は『同じ目線に並ぶ三人』から『恋愛の磁場を抱えた三人』へと作り替えられていく。
セドリック・ディゴリー
セドリックは本作のもう一人の主人公である。ハッフルパフ寮の最上級生にして、品のある成績優秀者、クィディッチ部長、そして寮の象徴。映画は彼を原作以上に踏み込んで描く。模範生でありながら、後輩を対等の代表として遇する青年——その人物像が、ハリーとの関係を通じて積み上げられていく。ドラゴンの情報を分け合い、卵のヒントを授け、迷宮で生垣に絞められた瞬間には救い出し、やがて優勝杯を同時に受け取る。その一つひとつが、二人を「ともに走る代表」として丁寧に結んでいく。
それゆえに、墓場で告げられる「余計者は殺せ」という二語とともに訪れる死は、観客にとって耐えがたい衝撃となる。台詞もなく、別れの仕草もなく、ただ緑の閃光だけで退場する役。ロバート・パティンソンはこの難役で、シリーズの感情のトーンを一段深く沈めてみせた。後の『トワイライト』『TENET』『ザ・バットマン』へと続く俳優人生の原点が、ここにある。
マッド=アイ・ムーディとバーティ・クラ…
新任の闇の魔術に対する防衛術(DADA)教師として登場するアラスター・『マッド=アイ』・ムーディは、異様な風貌、ぐるぐると回転する魔法の義眼、片時も手放さないフラスコ、そして教室で『許されざる呪文』を堂々と実演してみせる乱暴な指導法によって、シリーズ屈指の強烈な印象を残す。飄々としながらも重量感のあるブレンダン・グリーソンの演技は巧みで、彼が偽者だったという結末を、観客に最後まで悟らせない。
その正体はバーティ・クラウチ・ジュニア——かつてオーラーだったクラウチ・シニアの息子であり、若くしてヴォルデモート派に身を投じ、十年以上前に父の手でアズカバンへ送られた死喰い人である。本作では母が身代わりとなる魔法によって密かに釈放され、ホグワーツに偽教師として一年潜伏したうえで、ハリーを優勝杯のポートキーで墓場へ送り届ける役割を担う。デイヴィッド・テナントは、ヴェリタセラムによる尋問の場面でわずか数分間、舌をちらりと覗かせ、目を泳がせる——その演技が、のちの『ドクター・フー』第10代博士役の前史を垣間見せるとして、記憶に残る配役となった。
ヴォルデモート卿
本作は、シリーズで初めて肉体を得たヴォルデモートが画面に登場する作品である。ラルフ・ファインズは特殊メイクで鼻のスリットと白い皮膚をまとった。墓場の中央で復活した直後、指を曲げる。再生したばかりの自分の声に耳を澄ます。信奉者を前に十三年の不在を語る独白、そしてハリーに『公正な決闘だ』と告げる嘲り——その全てを過剰に演じることはない。むしろ静かに、しかし背筋の冷える低い声で、闇の帝王を立ち上げてみせた。
ヴォルデモートが復活する儀式の手順(父の骨、僕の肉、敵の血)は、後の『分霊箱』や『杖の所有権』をめぐる伏線と並び、シリーズ後半の戦争すべての出発点となる。本作のヴォルデモートは、まだ完全な戦争体制を整えていない、生まれ直したばかりの不安定な王である。だが、その不安定さこそが画面の脅威を強めている。
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舞台と用語
物語の舞台は、対照的な二つの場所に大きく分かれる。英国中部リトル・ハングルトン村にあるリドル屋敷とその墓地、そしてスコットランド高地にそびえるホグワーツ城だ。リドル屋敷と墓地は、朽ち果てた英国の田舎と、没落した古い貴族を象徴する。一方のホグワーツは、魔法社会の文化的中心として、二つの学校の代表団を迎え入れる国際的な舞台へと広がっていく。なかでもクィディッチ・ワールドカップの会場は、数十万人を収容するすり鉢状のスタジアムとして描かれ、本シリーズで初めて『魔法世界の規模感』を観客に体感させる場となっている点に注目したい。
用語の面でも、本作には後続作の戦争を読み解く鍵が数多くちりばめられている。『許されざる呪文(アンフォーギヴァブル・カース)』『闇の印(モースモードル)』『移動キー(ポートキー)』『優先呪文(プライオリ・インカンテイタム)』、不死鳥の尾羽を芯材とする兄弟杖、『真実薬(ヴェリタセラム)』、そして『ポリジュース薬』。いずれも今後の展開を支える重要な要素だ。とりわけ『血を敵より、力ずくで取る』というヴォルデモートの復活の手順は見逃せない。これが後年、『リリー・ポッターの愛の魔法とハリーの血の関係』、さらには『ヴォルデモートとハリーの肉体的な紐帯』という、シリーズ最大級の伏線の一つを生むことになる。
24制作
原作小説『炎のゴブレット』は、本編シリーズ七冊のなかでも最も分厚い一冊だ。これを一本の映画にどう凝縮するかが、映画化における最大の課題となった。以下では、企画から特撮に至るまでの主要な経緯を整理していく。
監督交代
前作『アズカバンの囚人』を手掛けたアルフォンソ・キュアロンが続投を辞退し、シリーズの新たな監督として白羽の矢が立ったのが、英国の中堅マイク・ニューウェルである。『フォー・ウェディング』(1994)、『ドニー・ブラスコ』(1997)、『モナリザ・スマイル』(2003)と、ジャンルを横断するキャリアを重ねてきた監督だ。シリーズ初の英国人監督として、生徒たちが過ごす『英国の私立寄宿学校の青春劇』としての側面を強く打ち出した。
ニューウェルはインタビューで、本作を『青春劇とパラノイア・スリラーの二層構造で組んだ』と語っている。前半はユール・ボールやドラゴンを軸にした青春の躁状態を、後半はリトル・ハングルトンの墓場が放つ冷たさを描く。相反する二つの空気を同じ一本の中に並べるその演出方針が、シリーズの空気を決定的に塗り替える結果につながった。
脚本
脚本はスティーヴ・クローヴスが続投した。七百ページを超える原作小説を二時間半に収めるため、映画は多くの副筋を意図的に切り捨てている。屋敷しもべ妖精解放戦線(S.P.E.W.)、リータ・スキーターがアニメーガス(動物に姿を変える魔法使い)であること、その正体、ウィーズリー家の双子のいたずらにまつわる長大な挿話、ハグリッドの母親フリッダの巨人族の物語——いずれも姿を消した。代わりに、三つの課題と終盤の墓場の出来事へと物語の重心を据える。そうした編集方針が貫かれている。
ファンの間では、なかでもウィンキーとS.P.E.W.の省略、ダドリーの「ダイエット・キャンディ」の挿話の削除、そしてリータ・スキーターの正体である甲虫姿のアニメーガスが明かされない点をめぐって、長く議論が続いた。だが映画としては、二時間半という枠のなかで、ヴォルデモートが帰ってくること、そして生徒が一人殺されること——この二点を観客に体感させなければならない。そのためには副筋の大胆な切除もやむを得なかった。評論家の見方はそこで一致している。
キャスティング
本作のキャスティングで最大の話題を呼んだのは、ヴォルデモート役にラルフ・ファインズが起用されたことだ。『シンドラーのリスト』(1993)でアカデミー助演男優賞にノミネートされ、『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)では主演男優賞候補にも名を連ねた英国の名優である。そのファインズをシリーズ後半の悪役に据える――この選択は、本シリーズが大人の観客に向けて成熟していくことの宣言でもあった。ハリーと初めて対面する場面のわずか数分、その独白だけで、ファインズは後続三作分のヴォルデモート像を一気に確立してみせた。
セドリック・ディゴリー役には、当時十九歳のロバート・パティンソンが起用された。本作出演の後、彼は『トワイライト』(2008)でエドワード・カレン役に抜擢され、世界的なスターへと駆け上がる。マッド=アイ・ムーディ役のブレンダン・グリーソンは、『ブレイブハート』『28日後...』を経た重量級の演技派だ。そしてその“正体”であるバーティ・クラウチ・ジュニア役には、BBC『ドクター・フー』新シリーズで二代目となる第10代博士を演じる前のデイヴィッド・テナントが起用された。わずか数分の出演がこれほど強い余韻を残したのは、のちに英国を代表するスターとなる俳優の出発点として、二十年後にあらためて見直される配役でもあったからだろう。
ほかにも、フラー・デラクール役のクレマンス・ポエジー、ヴィクトール・クラム役のスタニスラフ・ヤネフスキ、チョウ・チャン役のケイティ・リューン、リータ・スキーター役のミランダ・リチャードソン、バーティ・クラウチ・シニア役のロジャー・ロイド=パック、マダム・マクシーム役のフランシス・デ・ラ・トゥール、ワームテイル役のティモシー・スポール、そしてナギニの声と動作を担った特殊効果チームらが、本作の国際色を支えた。
美術と視覚効果
美術監督スチュアート・クレイグは、本作のためにホグワーツの城内、校庭、そして湖畔を大幅に拡張した。ボーバトンとダームストラングの代表団を迎える大広間、ユール・ボールのために氷と銀の蜘蛛の巣で覆い直された大広間、第一の課題のために組まれた岩山のアリーナ、そして第三の課題の生垣の迷宮——。いずれも実物大セットとミニチュア合成を組み合わせて作り上げられている。
視覚効果は、インダストリアル・ライト&マジック(ILM)、ムービング・ピクチャー・カンパニー(MPC)、ダブル・ネガティブ、フレームストアといった英国・米国の主要VFX会社が分担した。最も難度の高い場面が各社に振り分けられている。ハンガリアン・ホーンテイルとの空中追走戦はMPCが担当し、湖の人魚(マーピープル)とグリンディロウ、クィディッチ・ワールドカップ会場のスタジアムの遠景、そして墓場におけるヴォルデモート復活の煙と再生のショットなどが手がけられた。本作は第78回アカデミー賞美術賞にノミネートされ、第59回BAFTA賞でも美術賞と視覚効果賞のノミネートを獲得。シリーズの視覚的到達点の一つとして高く評価された。
音楽
本編三作の音楽を手掛けたジョン・ウィリアムズは、他作品との掛け持ちが難しく本作で離脱。代わって作曲を託されたのが、英国・スコットランド出身のパトリック・ドイルである。ドイルは『ヘンリー五世』『ハムレット』をはじめ、盟友ケネス・ブラナーの監督作でシェイクスピア劇の音楽を書き続けてきた人物だ。ヨーロッパの宮廷音楽と現代の交響楽、その両方の語彙を自在に操る。
本作のスコアは、ジョン・ウィリアムズの『ヘドウィグのテーマ』を主旋律として受け継ぎながら、ドイルが新たな楽曲を書き下ろした。ユール・ボール序盤の舞踏会で演奏される『フォースタス・ブラッグ・バンド』、『迷宮のテーマ』、『フォークスの再来』、さらに墓場の儀式に流れる低音の弦楽が放つ刺さるような不協和音。なかでもエンディングの『ホグワーツの行進曲』と、闇に沈むエピローグの編曲が印象に残る。シリーズの音楽が『英雄譚の主題』から『戦争と犠牲の主題』へと移り変わる、その転換を支えているのだ。
撮影とロケ地
撮影は2004年5月から2005年3月にかけて、英国南東部のリーヴスデン・スタジオを拠点に約十か月をかけて行われた。ホグワーツ城の中庭や回廊、湖畔のショットは、前作までと同じくスコットランドのグレンコー、グレンフィナン高架橋、エアハイランド地方で撮影された。第一の課題が繰り広げられる岩山のアリーナはリーヴスデン敷地内の屋外セットに組まれ、ドラゴンの追跡が城の屋根を破壊して飛び越える後半のCG合成のため、城のミニチュアが緻密に作り込まれた。
湖の中の場面は、専用の巨大な水中スタジオで撮影された。子役のダニエル・ラドクリフは、撮影に向けて専門家の指導のもとで長時間の水中保持訓練を積み、実際のドライ撮影とウェット撮影を組み合わせることで第二の課題の場面が成立した。墓場のシーンはサリー州の屋外セットと屋内のスタジオ撮影を組み合わせ、霧の演出は手動の発煙機と後処理での重ね合わせによって作り出された。
31公開と興行
2005年11月18日に英国・米国で同時公開された本作は、初日から週末興行を席巻し、シリーズ第3作『アズカバンの囚人』の数字を大きく上回るスタートを切った。米国国内では公開から2か月で2億9000万ドルを突破。最終的に米国国内2億9000万ドル、海外興行6億ドル超を合わせ、全世界興行収入は約8億9600万ドルに達した。これは2005年の全世界興行収入第1位という記録である。
日本では2005年11月26日に公開され、興行収入115億円超を記録した。その年の外国映画興収では第2位、シリーズの中でも上位に食い込む数字を残している。批評家の評価も概ね好意的で、Rotten Tomatoes や Metacritic といった集計サイトでもシリーズ最上位級の数字を保っている。第78回アカデミー賞では美術賞、第59回BAFTAでは美術賞、視覚効果賞、メイクアップ&ヘア賞、衣装賞、プロダクション・デザイン賞のノミネートを獲得した。
32批評・評価・文化的影響
本作最大の功績は、シリーズの空気を子ども向けの冒険譚から大人向けのダーク・ファンタジーへと一気に橋渡しした点にある。前三作までの「学校での一年間の事件を解決する」というフォーマットは保ちながら、終盤で「無辜の生徒の死」「悪の肉体的な復活」「国家による真実の否認」という、シリーズ後半の戦争を貫く三つの主題を一挙に観客の前へ突きつけた。その構成は、続く『不死鳥の騎士団』以降の作品すべての出発点として機能している。
公開後、ファンと評論家のあいだで議論を呼んだのは、原作の副筋——とりわけウィンキーとS.P.E.W.、リータ・スキーターの正体、ダドリー一家の場面、ハグリッドの巨人族の母——を大胆に省略した点である。それでも本作は、「ヴォルデモートが帰ってくる」という一つの主題に映画を集中させ、シリーズ全体の物語を動かす力を強めた。マイク・ニューウェルが醸し出す英国寄宿学校的な空気、パトリック・ドイルの音楽が落とす暗い陰影、ラルフ・ファインズの登場、そしてセドリック・ディゴリーの理不尽な死。観客の集合的記憶に深く刻まれたこれらの要素が、後続作と並んで本シリーズの「大人になっていく映画」という側面を確立したのである。
舞台裏とトリビア
本作はシリーズで初めて、劇場公開時の英国・米国の映倫レーティングが引き上げられ、英国では『12A』、米国では『PG-13』が付与された(前三作はいずれも『PG』)。墓場でセドリック・ディゴリーが緑の閃光に撃たれて命を落とす場面、そしてヴォルデモートの復活の儀式の手順が、子ども向け作品のレーティングの上限を超えると判断されたためである。これはシリーズが「子どもと大人が一緒に観る作品」から「十代以上を主要観客とする作品」へと移り変わる、興行上の節目でもあった。
ラルフ・ファインズは、当初この出演を辞退しようとしていたと公言している。撮影所のメイクで鼻のスリットを作り上げる工程に難色を示していたが、原作の大ファンだった姪に「お願いだから出演して」と懇願され、最終的に引き受けたという。後年のインタビューで語られた挿話である。
クィディッチ・ワールドカップ決勝戦は、原作小説では数十ページにわたって試合が詳細に描かれる。ところが映画ではそのほとんどがカットされ、観客席の場面と選手入場のみで構成される。シリーズ全体のテンポを優先した編集判断だったが、原作ファンからは長くやり玉に挙げられてきた選択でもある。
ユール・ボールの場面で大広間のステージに登場するロックバンド「ザ・ウィアード・シスターズ」は、原作通りの架空のバンドだ。だが映画版で実際に演奏しているのは、実在のミュージシャンたち——パルプのジャービス・コッカー、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドとフィル・セルウェイら、英国オルタナティブ・ロック界の重鎮である。J.K.ローリングが愛する英国ロックの趣味が反映された場面といえる。
本作で初めて画面に登場した「ホグワーツ大広間でのクリスマス舞踏会の床」のセットは、撮影後も保存された。現在はリーヴスデン・スタジオの常設展示『Warner Bros. Studio Tour London — The Making of Harry Potter』で見学できる。
34テーマと解釈
中心となる主題は『成長と、それに伴う代償』だ。本作のハリーは応募してもいない試合に放り込まれ、ドラゴンと湖と迷宮を駆け抜けたあげく、目の前で一人の同級生を理不尽に失う。十四歳の一年間は、シリーズで初めて『勝つこと』ではなく『失うこと』を学ぶ年として描かれる。学年末にダンブルドアが告げる『正しい道と楽な道のあいだの選択』は、ハリー、ロン、ハーマイオニー、セドリック、ダンブルドア、ファッジ、クラウチ親子——本作の登場人物すべてに、同じ重さで突きつけられる問いだ。
もう一つの軸は『真実と否認』である。ヴォルデモートの復活は観客の目の前で物理的に起きるのに、魔法省はそれを認めない。コーネリウス・ファッジが吸魂鬼にクラウチ・ジュニアを処分させ、ダンブルドアの証言を退ける場面は、続く『不死鳥の騎士団』が描く『公的機関による組織的な真実の否認』の予告編にほかならない。本作以降、J.K.ローリングは魔法社会を『純粋な善対悪』の物語から、『真実を恐れる組織を前に、若者がどう動くか』という、はるかに政治的な物語へと作り替えていく。
そして最も静かで、しかし最も重い主題が『誰のもとに帰るか』である。墓場に立ち現れた両親の影が息子に告げる『杖を持って、私たちが時間を作る、走れ』という二、三秒の言葉。優勝杯を手に競技場の地面へ戻り、セドリックの遺体を抱いて泣くハリーの一秒。学年末の大広間でダンブルドアが『セドリック・ディゴリーを思い出してほしい』と言い切る一節。こうした場面の積み重ねが、シリーズ全体の倫理の中心を本作で確立する。
35見る順番
本編シリーズ8作のなかでは、前作『アズカバンの囚人』を観たあとに本作へ進むのが望ましい。シリウス・ブラックの存在、ピーター・ペティグリュー(ワームテイル)の復帰、そして許されざる呪文に対するハリーの感受性——本作の物語の前提は、いずれも『アズカバンの囚人』の終盤に置かれているからだ。そして本作は次の『不死鳥の騎士団』へと直結する。魔法省による真実の否認、ハリーの怒り、不死鳥の騎士団の活動再開は、すべて本作のラストを起点に動き出す。
原作小説と映画版を読み比べるなら、本作は両者の差が最も大きい一本である。屋敷しもべ妖精解放戦線、アニメーガスとしてのリータ・スキーターの正体、ダドリー一家の場面、巨人族の母といった副筋は、いずれも映画では省かれている。原作の充実した世界観を存分に味わいたい読者には、本作だけは映画と原作の双方に触れることを勧めたい。
36よくある質問
『あらすじだけ知りたい』のであれば、押さえるべき流れはおおむね決まっている。リドル屋敷の不穏な冒頭に始まり、クィディッチ・ワールドカップの夜空に浮かぶ闇の印、炎のゴブレットによるハリーの選出、そしてドラゴン・湖・迷宮という三つの課題へと進む。やがて優勝杯がポートキーとなってハリーをリトル・ハングルトンの墓場へ運び、そこでヴォルデモートが復活し、セドリックが命を落とす。最後にマッド=アイ・ムーディの正体がバーティ・クラウチ・ジュニアであったことが明かされ、ダンブルドアの追悼演説で幕を閉じる。この骨格をたどれば十分だ。
『結末・ネタバレを知りたい』場合の核となるのは、四点である。優勝杯がポートキーであったこと。ヴォルデモートが『骨を父より/肉を僕より/血を敵より』の儀式によって復活すること。優先呪文によって両親を含む影が現れ、ハリーを逃がすこと。そして新任の闇の魔術に対する防衛術教師ムーディが偽者であり、その正体がバーティ・クラウチ・ジュニアだったこと。この四つを押さえれば、物語の決着は見渡せる。
『初見でどこを観れば泣くか』と問われれば、挙げたい場面は三つある。ユール・ボールの夜、階段でロンと言い争うハーマイオニーの一場面。優先呪文でリリー・ポッターが息子に『おまえに会えてよかった』と告げる、わずか数秒の間。そして、ハリーがセドリックの遺体を地面に下ろした瞬間、競技場を包む沈黙である。『見る順番』については、本作を単独で観るのは勧めにくい。必ず前作の後に置きたい。そうすれば、ペティグリューの登場が背負う重みは、まるで違って見えてくるはずだ。
37参考資料・脚注
作品名、キャラクター名、画像、および各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年や興行成績、制作・配信の状況、外部からの評価は今後変動しうるため、視聴の前に公式サイトや各データベースの最新情報を確認されたい。なお本記事の本文は、各種の公開情報をもとに、Anna Movies独自の日本語記事として構成したものである。