ハリー・ポッターと賢者の石は、2001年に公開されたファンタジー映画である。J・K・ローリングの同名小説を原作とし、両親を失い親戚の家で虐げられて育った11歳の少年ハリーが、自らを魔法使いだと知り、ホグワーツ魔法魔術学校へ入学する姿を描く。組み分け帽や9と3/4番線、クィディッチ、そして地下に隠された賢者の石をめぐる冒険を通じて、全八部作にわたる物語の序章となる作品である。
00概要
『ハリー・ポッターと賢者の石』(Harry Potter and the Philosopher's Stone、北米題 Harry Potter and the Sorcerer's Stone)は、クリス・コロンバス監督による不朽のファンタジー大作である。2001年11月16日に英国・米国で、同年12月1日に日本で公開され、世界中を一気に魔法の世界へと引き込んだ。原作はJ.K.ローリングが1997年にブルームズベリー社から刊行した世界的ベストセラー小説『ハリー・ポッターと賢者の石』。本編シリーズ全8作という映画史に残る壮大な物語の、まさに記念すべき第1作にあたる。脚本を手がけたのは『ワンダー・ボーイズ』などで知られるスティーヴ・クローヴス、製作はシリーズの顔とも言えるデヴィッド・ヘイマン、配給は大手ワーナー・ブラザース(米メジャースタジオ)。これだけの布陣が揃った時点で、すでに只者ではない。
物語の幕開けは、1991年夏のサリー州プリベット通り四番地。叔父バーノンと叔母ペチュニアに引き取られ、階段下の物置で寝起きさせられて育った11歳の少年ハリー・ポッターのもとに、差出人不明のホグワーツ魔法魔術学校からの入学通知が舞い込む。何百通も握りつぶされながら、なお届きつづけるのだ。やがて嵐吹きすさぶ岩屋に巨漢ルビウス・ハグリッドが踏み込み、こう告げる——『ハリー、おまえは魔法使いだ』。この一言だけで背筋がゾクッとする。ここからホグワーツでの1年目が一気に動き出す。組み分け帽による寮選び(生徒の資質を見抜いて寮を決める魔法の帽子)、クィディッチ(箒に乗って行う魔法界のスポーツ)での初フライト、ハロウィンの夜に乱入してくるトロール、クリスマスに現れるみぞの鏡、そして地下三階に厳重に隠された『賢者の石』を狙う何者かを追う冒険——まさに王道ファンタジーの全部入りである。
本作は、シリーズ全体の語彙——ホグワーツ城、四つの寮、9と3/4番線、ダイアゴン横丁、グリンゴッツ、ニンバス2000、組み分け帽、フィニート呪文、ふくろう便、闇の魔術防衛術、そしてもちろんヴォルデモート卿の名——を初めて差し出す役割を担っている。それと同時に、後のシリーズでもう一度意味を帯びてくる伏線——母リリーの『愛による護り』、闇の魔法使いを宿す者の存在、欲望を映す装置としてのみぞの鏡——も、本作のなかにそっと置かれている。あらためて見返すと、すべてここにあったのかと唸らされる。
この記事は、結末を含む全編の内容に踏み込んでいく。地下に仕掛けられた七つの試練の答えはもちろん、クィレル教授の頭の後ろにヴォルデモートの顔が貼り付いているという衝撃の真相、賢者の石の入手方法、そして終盤でクィレルが灰となる原因が母リリーの護りにあることまで、しっかり触れていく。物語の重大な驚きをそのまま味わいたい方は、まず本編を鑑賞してから読み進めるのがおすすめだ。
主要データ
- 原題
- Harry Potter and the Philosopher's Stone(英国版)/Harry Potter and the Sorcerer's Stone(北米版)
- 原作
- J.K.ローリング(1997年・ブルームズベリー)
- 監督
- クリス・コロンバス
- 脚本
- スティーヴ・クローヴス
- 音楽
- ジョン・ウィリアムズ
- 撮影
- ジョン・シール
- 美術
- スチュアート・クレイグ
- 編集
- リチャード・フランシス=ブルース
- 公開
- 2001年11月16日(米英)/12月1日(日本)
- 上映時間
- 152分
- ジャンル
- ファンタジー、青春劇、冒険
- 舞台
- 1991-1992年の英国(プリベット通り/ロンドン/ダイアゴン横丁/キングス・クロス駅/ホグワーツ城)
01あらすじ
以下では、結末までを含む全編のあらすじを順に追っていく。プリベット通りに置き去りにされた赤ん坊のハリー、十一回目の誕生日に現れるハグリッド、ダイアゴン横丁での買い物とオリバンダーでの杖選び。9と3/4番線で出会うロンとハーマイオニー、組み分け帽の選択、ハロウィンに現れるトロール、そしてクィディッチの初戦。やがてクリスマスのみぞの鏡、番犬フラッフィの先に待ち受ける七つの試練、さらにクィレル教授とヴォルデモートの正体、母リリーの愛による護りへと物語は進んでいく。
プリベット通りに置かれた赤ん坊
1981年11月1日、サリー州リトル・ウィンジングの中産階級向け住宅地、プリベット通り四番地。薄明かりの街灯の下に、長い銀の髭をたくわえ紫のローブをまとった老人がひとり立っている。銀色の道具を手にかざすたび、街灯はひとつ、またひとつと光を吸い取られ、通りはやがて月明かりだけに沈んでいく。そのかたわらに灰色のトラ猫が現れる。猫はゆっくりと、四角縁の眼鏡をかけた女性——ミネルバ・マクゴナガル教授——へと姿を変えた。二人が語り合うのは、その朝に起きた『ヴォルデモートが姿を消した事件』、そして生き残ってしまった一歳の男の子のことである。
そこへ、巨大なオートバイにまたがったハグリッドが空から舞い降りる。腕に抱くのは、毛布にくるまれた赤ん坊。その額には稲妻形の傷が刻まれている。ダンブルドアは赤ん坊をダーズリー家の玄関先にそっと横たえ、ただひとり残された血縁——母リリーの妹であるペチュニア・ダーズリー夫人——にその身を委ねる手紙を添えた。『この家庭で本当にこの子は育つのですか』とマクゴナガルは眉をひそめるが、ダンブルドアは静かに答える——『他に手はないのです』。三人が立ち去ると街灯は再び灯り、通りは何事もなかったかのように夜の眠りへと戻っていった。
時は流れ、十年後の1991年夏。階段下の薄暗い物置で、11歳の誕生日を翌週に控えたハリー・ポッターが目を覚ます。同じ屋根の下には甘やかされ放題の従兄ダドリーが暮らし、ドリル会社の重役である叔父バーノンと叔母ペチュニアは、『普通でない』ものすべてを忌み嫌い、ハリーを厳しく押さえつけて育ててきた。額の稲妻形の傷は、『両親が交通事故で死んだときの古傷』だと言い聞かされている。学校では、一晩で髪が伸びる、檻のガラスが消えるといった説明のつかない出来事が時折起こり、そのたびに物置へ閉じ込められた。そんな日々のなかで、ハリー自身も『自分は他人とは違うのかもしれない』と、漠然と感じ始めていた。
嵐の岩屋とハグリッドの来訪
ダドリーの誕生日にロンドン動物園へ連れて行かれたハリーは、爬虫類館でビルマニシキヘビと、まるで言葉を交わすように目を合わせる。次の瞬間、ガラスはすうっと消え失せ、檻のなかへ押しのけられたダドリーが転がり落ちた。蛇は『ブラジルへ帰る』と感謝の言葉を残し、館内を悠然と抜けていく。バーノンの怒りは頂点に達し、ハリーは何日も部屋に閉じ込められた。 ところが、その直後から奇妙な手紙が郵便受けに届き始める。宛先は『プリベット通り四番地、階段下の物置 ハリー・ポッター様』と、異様なまでに正確だった。バーノンは封も切らずに暖炉へ放り込むが、手紙は翌日には数十通、翌々日には数百通へとふくれ上がる。やがて煙突からは、滝のように手紙が降り注いできた。
発狂寸前のバーノンは、家族を引き連れて海に浮かぶ荒れ果てた岩礁の小屋へと逃げ込む。嵐の夜、時計の針が午前零時を回った瞬間——ハリーの11歳の誕生日だ——小屋の鉄扉が巨大な拳に蹴破られ、轟音とともに吹き飛んだ。現れたのは身の丈3メートルにも届かんとする巨漢、ルビウス・ハグリッド。バーノンが構えた猟銃を指一本でぐにゃりと曲げ、暖炉に向かって何事かをつぶやくと、たちまち炎が燃え上がる。そしてハリーに差し出されたのは、『ハッピー・バースデー』と不器用な字で記された、手作りのピンクのケーキだった。
何のことか分からず呆然とするハリーをよそに、ハグリッドはダーズリー夫妻を一喝して語り出す——両親リリーとジェイムズ・ポッターは、交通事故で死んだのではない。闇の魔法使い『その名を言ってはいけない例の人』に襲われ、殺されたのだ。なぜハリーだけが生き残ったのか、それは誰にも分からない。だがその夜以来、ハリーは魔法界全体で『生き残った男の子(The Boy Who Lived)』として知られている。そして今日、十一歳を迎えた魔法使いの子すべてに送られるホグワーツ魔法魔術学校への入学通知が、ハリーのもとにも届いていた。ハグリッドはピンクの傘で従兄ダドリーに豚の尻尾を生やし——これは使えない杖の代用品である——ハリーを連れて岩礁を後にする。
ダイアゴン横丁、グリンゴッツ、オリバン…
翌朝、ロンドンに到着した二人は、表通りに面した安宿『漏れ鍋』の裏庭へと回る。何の変哲もない煉瓦塀。だが、ハグリッドがピンクの傘で特定の煉瓦を叩くと、煉瓦は生き物のように渦を巻きながら開いていく。その向こうに現れるのは、ダイアゴン横丁——尖塔と曲がった煙突、銅製の看板が軒を連ねる、魔法使いたちの商店街である。初めて踏み入れる魔法ワールドの市井を、ハリーは一歩ずつ歩み進めていく。
二人がまず向かうのは、横丁の奥に大理石の正面を構える銀行グリンゴッツである。受付の高い机に座るゴブリン、磨かれた床に映る無数の燭台、奥へと続くトロッコ。ハグリッドは「ホグワーツの用事だ」とダンブルドアの手紙を差し出し、ハリー名義の金庫(687番)と、誰の名義でもない厳重保管の金庫(713番)へ案内される。687番の扉が開くと、両親が遺したガリオン、シックル、クヌートが山と積まれていた。
横丁での買い物のなかでも、ひときわ印象深いのがオリバンダーの杖店である。長い銀髪の老主人ギャリック・オリバンダーは、『ジェイムズ・ポッターさんが選ばれたのは、マホガニーの11インチ』と、訪れた者ひとりひとりの杖を即座に思い出してみせる。ハリーが何本もの杖を振ってはカウンターを吹き飛ばすあいだ、店の奥の棚から長い箱を取り出したオリバンダーの表情が、ふと曇る。柊(ホリー)、11インチ、芯はフェニックスの羽根——その杖を握った瞬間、店内に金色の風が舞い起こる。オリバンダーは静かに告げる。『不思議な縁ですな、ポッターさん。その杖の兄弟と呼ぶべき杖は、ただ一本。十年前にあなたのおでこに、その傷をつけた杖です』。ハリーとヴォルデモートは、一対の杖によって結ばれていたのだ。
横丁の出口で、ハグリッドはハリーに雪のように真っ白なメスのシロフクロウを買い与える。のちにハリーがヘドウィグと名付けるこのフクロウは、シリーズ全体を通して彼の使い魔として行動をともにする。
9と3/4番線とホグワーツ特急
9月1日、キングス・クロス駅。ハリーは荷物とヘドウィグを載せたカートを押しながら、構内図と切符を交互に見比べていた。だが、9番線と10番線のあいだにあるはずの『9と3/4番線』が、どこにも見当たらない。途方に暮れる彼の脇を、赤毛で恰幅のよい母親と五人の子どもの大家族——ウィーズリー家——が騒がしく通り過ぎていく。母モリーが息子たちに『9と3/4番線へはこの柱に向かって走るのよ』と諭す。その声を頼りに、ハリーは助けを求めた。
9番線と10番線のあいだの煉瓦柱へ、目を閉じてカートごと突っ込む。その瞬間、ハリーは深紅の蒸気機関車『ホグワーツ特急』が停車する別のホームへと抜けていた。客車に乗り込んだ彼が最初に同席するのは、年下に見えるロン・ウィーズリー。ロンの兄チャーリーはルーマニアのドラゴン保護区で働き、もう一人の兄ビルはエジプトでグリンゴッツの呪い破り、長兄パーシーは生徒会型の真面目な五年生、双子のフレッドとジョージは賑やかなクィディッチ部員、そして末の妹ジニー。そんな大家族の顔ぶれが、ロンの口から次々と語られていく。
客車の通路を歩いてきたのは、栗色の長い髪をうしろに払いながら『カエルを見ませんでしたか?』と訊ねてまわる一年生、ハーマイオニー・グレンジャーだった。ロンが杖を振ってカエルを黄色く染めてみせようとするが、失敗に終わる。ハーマイオニーは『あなたの杖、まだうまく使えていないみたいね。ところで——わたしの本で読んだ呪文をひとつ』と言うと、ロンの折れた鼻に向けて『オキュラス・リパロ』と唱える。続けてハリーの眼鏡へ視線を移すと、テープがするりとほどけ、割れたレンズも元どおりに塞がった。彼女はそのまま勢いよく『私はハーマイオニー・グレンジャー、あなたたちは?』と名乗り、『あなた、ハリー・ポッターよね?私、あなたのことが書いてある本を四冊読んだわ』と続ける。のちにシリーズを通して固い友情で結ばれる三人が、この客車の中で初めて顔を合わせた瞬間である。
組み分け帽と寮の決定
夜のホグワーツ城。ふもとに広がる湖を、一年生たちは小舟に分乗し、ハグリッドの先導で渡っていく。湖面に揺れる無数の窓灯り、霧の合間からせり出す尖塔、頭上を覆う巨大な月。ジョン・シールの撮影が、そしてジョン・ウィリアムズの『ヘドウィグのテーマ』がはじめてその主題を奏で、この情景を彩る。
城内に着いた一年生たちを、大階段の中ほどで出迎えたのは、変身術の教授で副校長のミネルバ・マクゴナガルである。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン——四つの寮について、『あなたの寮は家族のような場所になる』『勝点で寮杯を競う』と短く語り、一同を大広間へと導く。天井には夜空が広がり、無数のろうそくが宙に浮かぶ。シリーズで最も名高い大広間だ。その正面、教師席の中央に腰を下ろすのは、長い銀の髭に半月眼鏡をかけた校長アルバス・ダンブルドア。演じるはリチャード・ハリスである。
一人ずつ前に呼ばれた一年生は、四つの寮を判定する古い人格を宿した帽子『組み分け帽』を頭にかぶる。ハーマイオニーは少し考えてから『グリフィンドール!』、ロンはほぼ即座に『グリフィンドール!』、ドラコ・マルフォイは触れる前に『スリザリン!』と告げられる。最後にハリーが帽子を被ると、帽子は彼の頭の中で長く葛藤する——『なるほど、勇気はある。頭も悪くない。才能もある。喉から手が出るほど何かを証明したがってもいる……スリザリンに行けば、必ず偉大になれるぞ』。ハリーは目を強く閉じ、心の中で唱える——『スリザリンだけは嫌だ、スリザリンだけは嫌だ』。一拍置いて、帽子が宣言する——『よかろう、ならば……グリフィンドール!』。血の力ではなく、自らの選択によってグリフィンドール生となったハリーは、ロン、ハーマイオニーと同じ寮で学生生活を始める。
関連リンク
授業の日々
翌朝からハリーの授業が始まる。変身術の時間、マクゴナガル教授は机から猫へと姿を変えてみせ、普段から教室に居座っていた灰色のトラ猫こそ自分だったと明かす。マッチ棒を縫い針に変える練習で成功するのは、ハーマイオニーただ一人。彼女の優等生ぶりがここで早くも刻まれる。一方、魔法薬学の地下教室で待ち受けるのは、脂じみた長い黒髪をまとった陰気な男、セブルス・スネイプ教授だ。初日のハリーに向かって、スネイプは『眠っている毒草の根に薬草の粉を混ぜたら何が出来る?』『フェアリーの羽根とアコナイトの違いを言ってみろ』と質問を矢継ぎ早に浴びせる。答えに詰まるハリーへ、『新たな有名人どのも、教科書を開いてから来ることだ』と冷たく言い放つ。この常軌を逸した敵意こそ、やがて「スネイプこそ賢者の石を狙う黒幕ではないか」という疑念をハリーの胸に芽生えさせていく。
闇の魔術に対する防衛術を担当するのは、紫色のターバンを巻いた小柄で吃りの教授クィリナス・クィレル。教室にはニンニクの匂いが漂い、本人はトロールに襲われた経験から「どんな闇の生き物も怖くて手が震える」と打ち明ける。クィディッチ場での初めての飛行訓練を受け持つのは、銀髪の女性教師ロランダ・フーチ。生徒たちは一人ずつ、地面に置かれた箒の脇に立ち、「箒よ来い(Up!)」と命じる練習に取り組む。ロンの箒は顔めがけて飛びつき、鼻血を出させる。ネビル・ロングボトムの箒に至っては、彼を地上から数十メートルの高さまで暴走させ、そのまま落下させてしまう。
ネビルの落下事故のあと、祖母から預かった魔法道具 『リメンブラル(覚え玉)』 を、ドラコ・マルフォイが嘲笑とともに拾い上げ、箒で高く舞い上がる。フーチ教授の不在中という禁を破り、ハリーは初めて握った箒で空へと追いすがる。そして、ドラコが投げ放った覚え玉を空中で見事につかみ取り、地上へと舞い降りた。 その一部始終を窓から見ていたマクゴナガル教授は、ハリーを叱責するどころか——校長級の評価をもって——「すぐにオリヴァー・ウッドのところへ来なさい」と呼びつける。グリフィンドール代表クィディッチ・チームのシーカー、それも創設以来100年ぶりとなる 「一年生のシーカー」 として、ハリーを推挙したのだった。
ハロウィンのトロールと、三人の友情の成立
10月31日、ハロウィンの大広間。夕食の最中に、汗だくのクィレル教授が転がり込んできて叫んだ。『地下牢に、トロールが! 地下牢に、トロールが! ……申し上げました』——そう言い残すと、その場で気を失う。ダンブルドアの指示で各寮が談話室へ誘導されていくなか、ハリーはハーマイオニーがこの騒ぎを知らないことに気付く。昼間、ロンが『あの娘ったら、規則ばかり並べて、誰とも友達になれないだろうな』と陰口を叩くのを耳にした彼女は、午後のあいだずっと女子トイレにこもり、一人で泣き続けていたのだ。
ハリーとロンは群衆と逆へ駆け出し、彼女のいる二階の女子トイレを目指す。だが、間に合わなかった。トロールはすでにトイレの扉を蹴破り、ハーマイオニーめがけて棍棒を振り下ろそうとしていた。身長三メートル半の灰色の巨体が、木製の個室を次々に砕いていく。床を這いながら悲鳴をあげるハーマイオニー。ハリーはトロールの背中に飛び乗り、勢いあまって自分の杖を相手の鼻の穴に深々と突き刺してしまう。一方のロンは、足元に転がっていたトロールの棍棒を、ハーマイオニーが教えてくれた呪文 「ウィングアーディウム・レビオサ(フェザー軽くなれ)」 で宙に浮かせると、そのままトロールの頭上へ落とし、見事に失神させた。
駆けつけたマクゴナガル、スネイプ、クィレルが目にしたのは、巨大なトロールの脇でぐったりするハリーとロン、そして床に座り込んだハーマイオニーの姿だった。重い沈黙のなか、ハーマイオニーは教師たちにこう打ち明ける。『自分で本を読めばトロールを倒せると思って、女子トイレに探しに来てしまったんです。ハリーとロンは、私を助けに来てくれただけです』。この一件でグリフィンドールはハーマイオニーから5点を減点されるが、ハリーとロンには「仲間のために闇に立ち向かった勇気」として5点ずつ加点される。教室を出ていくマクゴナガル教授の口元が、ほんの一瞬だけ笑みに緩む。三人が本物の親友になった、その瞬間である。
クィディッチ初戦と、箒に細工する者
11月、ホグワーツのクィディッチ競技場で、ハリーの初陣——グリフィンドール対スリザリン——の幕が開く。1年生ながらシーカーに大抜擢されたハリーは、マクゴナガル教授が自費で贈ってくれた真新しいニンバス2000を手に、空へ舞い上がる。試合中盤、ハリーの箒が突如として激しく揺れ出し、乗り手を振り落とそうと暴れ始めた。観客席のハーマイオニーが双眼鏡で教師席をのぞくと、ターバンを巻いたクィレル教授が目を伏せてじっと座り、その隣ではスネイプ教授が口元を低く動かし、呪文を唱え続けていた。
ハーマイオニーはスネイプが箒を呪っていると確信する。教師席へ駆け寄ると、スネイプの長い黒のローブの裾にさりげなく青い炎の呪文をかけ、火をつけた。スネイプは慌てて立ち上がり、その拍子に呪文が途切れる。ハリーの箒は安定を取り戻した。ハリーは急降下し、地上すれすれで口からスニッチを吐き出すように飛ばし、そのまま手中に収める——シリーズでも類を見ない奇妙な決着となった、グリフィンドールの初勝利の瞬間である。
試合後、3人はハグリッドの小屋で温かい紅茶を飲みながら、誰が箒を呪ったのかを話し合う。3人の見解は一致していた——犯人はスネイプだ、と。
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クリスマス、透明マント、みぞの鏡
クリスマスの朝、グリフィンドール塔のベッドの脇に、差出人不明の包みがひとつ置かれていた。ハリーが包みを解くと、手のひらから流れる水のように滑り落ちたのは、銀色の布——父ジェイムズ・ポッターから受け継がれた『透明マント』である。同封のカードには『お父様の遺品だ。これをよく使ってほしい』と短く記されているだけで、署名はない。これがダンブルドアからの贈り物だと、ハリーが知るのはずっと後のことだ。
夜更け、透明マントを羽織って一人で図書館の禁書区域に忍び込んだハリー。だが突然甲高い悲鳴を上げ始めた古い本に追われ、廊下を必死に駆け抜けた末、見知らぬ教室へと転がり込む。そこに静かに佇んでいたのが、額縁に『ERISED STRA EHRU OYT UBE CAFRU OYT ON WOHSI』(鏡文字で I show not your face but your heart's desire)と彫り込まれた巨大な姿見——みぞの鏡(the Mirror of Erised)だった。
鏡の前に立ったハリーがそこに見たのは、自分のすぐ後ろで微笑む若い男女——両親のジェイムズとリリー・ポッター、そしてその背後にずらりと並ぶ大勢の祖先たちの姿だった。生まれてから一度も会えなかった顔が、いま鏡の中にある。翌晩も、そのまた翌晩も、ハリーは夜ごとマントを羽織って同じ教室へ通い、鏡の前に座り続けた。
数日目の夜、誰もいないはずの教室の暗がりに、椅子へ静かに腰かけたアルバス・ダンブルドアが現れる。校長はハリーに告げる。『この鏡は、心の最も深い欲望を映す。最も幸福な者は、鏡の中に自分自身そのものを見るだろう』。そして、明日にはこの部屋から鏡を移すから、もう探さないように、と静かに諭すのだ。みぞの鏡の前で交わされるこの夜の対話は、欲望に取り憑かれて生きる者は決して幸せにならないという倫理を、最も静かに、最も強く照らし出す。
ノーバートと禁じられた森の罰
春先、ハグリッドの小屋を訪ねた三人は、暖炉の炎の中で大きな黒い卵が揺れているのに気づく。やがて卵は孵り、緑色の鱗をまとったノルウェー・リッジバック種の赤ん坊ドラゴン、ノーバートが姿を現す。飼育そのものが違法な上、ノーバートは小屋を壊しかねないほどの大きさへ、みるみる育っていく。手に負えなくなった三人は、ルーマニアのドラゴン保護区で働くロンの兄チャーリーに手紙を書き、深夜、彼の友人たちがホグワーツ城最上階の天文台までドラゴンを引き取りに来る手筈を整えた。
深夜、透明マントに身を隠してドラゴンを天文台塔まで運び上げる作戦は、首尾よく成功する。だが塔から戻る途中、塔の鍵を預かる管理人アーガス・フィルチに見つかってしまう。罰として、ハリー、ハーマイオニー、ネビル、ドラコの四人には、ハグリッド引率による禁じられた森の深夜パトロールが課される。森の奥では近頃、何者かに襲われ瀕死となったユニコーンの目撃が相次いでおり、その犯人を追うのが今夜の任務だ。
森に入ると、ハリーとドラコは別ルートの二人組に振り分けられる。林床に倒れた純白のユニコーンの脇で、フードを目深にかぶった人物が、銀色に輝くその血をすすって体を癒していた。そこへハリーが行き当たる。フードの男が顔を上げ、こちらへ向き直ろうとした瞬間、額の傷が裂けるように痛み、ハリーはたまらずうずくまる。蹄の音とともに駆けつけたケンタウロスのフィレンツェが、男を蹴散らし、ハリーを背に乗せて告げる——『ハリー・ポッター、君に近づいたのが何者であったかわかるか?ユニコーンの血を飲めば、たとえ余命一秒であっても命をつなぐことができる。だがその瞬間から、罰として呪われた半分の命を歩むことになる。誰がそれを払ってまで生きようとしているか、想像できるか?』。ハリーは『……ヴォルデモート』とつぶやく。フィレンツェはうなずく——『あなたの両親を殺した者は、いまもホグワーツの近くに潜み、賢者の石によって完全な肉体を取り戻そうとしている』。
賢者の石とフラッフィの番犬
城に戻った三人は、図書館の本でようやく事件の全体像を組み立てていく。ハーマイオニーが拾い読んだ分厚い人物事典に、一人の魔法使いの名が記されていた——『ニコラス・フラメル、賢者の石を製造した唯一の現役錬金術師』。賢者の石とは、卑金属を黄金に変え、所有者に永遠の命を与える『生命の水』を生み出す、伝説の魔法物質である。実はその名を、三人は以前にも目にしていた。夏の終わり、ハグリッドが717番金庫から持ち出した小さな包みについて、『フラメルさんのもの』とうっかり口を滑らせていたのだ。あの何気ない一言が、ここでようやく一本の線として結びつく。
賢者の石は今、ホグワーツの地下三階に隠されている。三階右手の廊下が立ち入り禁止になったのも、その守りのためだ。石を守るのは、ハグリッドが酔った勢いで見知らぬ男に名前まで明かしてしまった三つ頭の巨大犬『フラッフィ』。唯一の弱点は、音楽を聴かせると眠ってしまうことである。
三人がさらに重大な事実に気付くのは、終盤の出来事だ。ハグリッドは酒場でフードをかぶった見知らぬ男に酒を奢られ、その席でフラッフィを眠らせる方法をうっかり口走っていた——そんな経緯を本人から聞き出した三人は、ダンブルドア校長に直訴しようと走る。ところが校長は『緊急の用件で魔法省へ呼ばれた』として不在。職員室で三人を迎えたのは、なぜか石が今このタイミングで狙われると知っていたかのようなスネイプ教授だった。今夜、誰かが石を取りに行く——そう確信した三人は、自分たちで先回りすることを決める。
七つの試練
深夜、透明マントを羽織った三人は、ハープの自動演奏で眠りに落ちたフラッフィの足元に開いた跳ね上げ戸(トラップドア)から、地下へと飛び降りる。最初の試練は、落下の衝撃を吸い込む代わりに侵入者を絡め取る植物「悪魔の罠(Devil's Snare)」だ。もがけばもがくほど蔓は締め付けを強めていく。そんな植物を前に、ハーマイオニーは冷静に『悪魔の罠は陽光と火に弱いのよ、ロン、リラックスして!』と告げ、杖を抜いて『ルーモス・ソレム(太陽光)』を放つ。眩い光に植物はたじろいで身を引き、三人は床へと落ちる。
次の部屋は、無数の鍵が翼を生やして天井近くを舞う「飛ぶ鍵の間」。奥には古い銅の鍵穴の付いた重い扉が立ちはだかり、壁ぎわには3本の箒が立てかけてある。ここでロンが、これまでのクィディッチ観戦の経験から「片方の羽を折られて飛んでいる鍵が一本ある、あれが本物だ」と即座に見抜く。シーカーであるハリーは箒にまたがって宙へ舞い上がり、鳥の群れさながらに一斉に襲い掛かる金属の鍵を振り切って、片羽根の鍵を掴み取り、扉を開ける。
続く試練は、実物大の魔法のチェス盤――『生きたチェス』である。三人はそれぞれ駒の位置に立ち、生身のキングやクイーンに代わって自らチェスを指し、勝たねば先へは進めない。ハーマイオニーは『私、チェスは下手なの』、ハリーも『分からない』と答え、指揮を執るのはロンだ。チェスは彼の趣味だった。終盤、ロンは自分が立つナイトの駒を、あえて相手のクイーンに討たれる位置へと進め、ハリーが王を取れる一手を作り出す。傷を負い、意識を失う寸前、ロンはハーマイオニーに『ハリーひとりで先に進ませて』と告げる。その言葉どおり、三人組はハリーひとりが先へと進むことになった。
次の部屋には、卒倒したトロールがすでに横たわっていた。冒頭のハロウィンの夜に三人が倒したのと同種のトロールが、別の侵入者の手で先に打ち倒されていたのだ。不気味な痕跡である。続く部屋のテーブルには、七つの瓶と一巻の羊皮紙が置かれている。スネイプ教授が仕掛けた論理の試練だ。七本のうち一本は前へ進む者のための毒消し――黒い炎を通り抜けられる薬。もう一本は退却する者のための毒消しで、紫の炎を通り抜ける薬。残る五本は致死毒、あるいはぶどう酒である。ハーマイオニーは羊皮紙の謎を読み解き、正しい一本をハリーに手渡す。自分は逆方向の瓶を飲み、ロンを連れ戻すと申し出た。ハリーが『ハーマイオニー、君は本当にすごい魔女だ』と告げると、彼女は涙ぐみながら『ハリー、あなたは偉大な魔法使いだわ』『私には本と賢さしかない、でも、もっと大事なものが――友情と勇気が――あなたにはある』と返し、二人は別れていく。
クィレル教授の正体とヴォルデモート
最後の扉の向こうには、円形の部屋が広がっていた。中央に据えられているのは、見覚えのある巨大な姿見——みぞの鏡である。その前に静かに佇むのは、紫のターバンを巻いた男。スネイプではない。中盤からハリーが疑い続けてきた相手の正体は、闇の魔術防衛術のクィレル教授だったのである。
クィレルは穏やかな口調で告白を始める。万聖節(ハロウィン)の夜に城内へトロールを放ったのも、クィディッチ第一戦でハリーの箒に呪いをかけたのも、すべて自分の仕業だった。スネイプはむしろ反対呪文でハリーを救おうとした『目障りな邪魔者』に過ぎなかったのだ。だが、ただ一つだけ分からないことがある。石を鏡から取り出す方法だ。クィレルはハリーを鏡の前に立たせる。
ハリーがみぞの鏡の前に立つと、鏡の中のハリーが自分のポケットから赤い石を取り出し、ウィンクをして、そっとポケットに戻してみせる。次の瞬間、現実のハリーのポケットにずっしりとした重みが宿った。賢者の石が、彼自身のポケットに落ちていたのだ。みぞの鏡に最後に仕込まれていた魔法——それはダンブルドアが定めた『石を所有しようと欲しない者にだけ、石を渡す』という掟だった。
クィレルは「嘘をつくな、ポッター、何を見た?」と詰め寄る。答えに窮するハリーの背後から、低くかすれた声が響いた——「おまえ自身が話せ……ポッター本人と、面と向き合って話したい」。クィレルが頭のターバンを解き、ゆっくりと頭を後ろへ回す。その後頭部にあったのは、青白く目を充血させた、顔だけのヴォルデモート卿の姿だった。十年前の襲撃で肉体を失い、寄生の宿主を渡り歩いてきた魂が、今はクィレル教授の頭部の裏側から、直接ハリーに語りかけていたのである。
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母リリーの護りと、灰になるクィレル
ヴォルデモートはハリーに「力を貸せ、私たちは似た者同士だ。共に生きる道を選べ」と囁き、最後には「石を渡せ」と命じる。だがハリーは拳を握り締めて拒む。するとヴォルデモートはクィレルに「ポッターを殺せ」と命じ、クィレルはハリーの首へ両手を伸ばす。
ところが触れた瞬間、クィレルの両手は燃えた砂のように崩れ始める。皮膚はひび割れ、灰となって落ちていく。クィレルが悲鳴をあげて振りほどこうとした刹那、ハリーはとっさに両手を相手の顔へ押し当てる。クィレルの顔そのものが灰と化して崩れ落ち、宿主を失ったヴォルデモートの霊体は黒い煙となり、絶叫を残してハリーの体を貫き、窓の外へと飛び散っていく。ハリーは床に倒れ伏し、そのまま意識を失う。
保健室で目を覚ましたハリーの枕元には、白い髭のダンブルドアが座っている。ダンブルドアは静かに告げる——『きみのお母さんは、きみを救うために自分の命を捨てた。あれほど純粋な愛による護りは、跡を残す。それは目に見えないが、皮膚にも血管にもしみ込んでいる。クィレルの皮膚がきみに触れた瞬間に焼けたのは、彼の内側にヴォルデモート卿という、その種の愛を最も憎む者がいたからだ』。母の愛による護り——シリーズ全体を貫く決定的な掟が、この静かな枕元の会話によって初めて言葉になる。
賢者の石は、ニコラス・フラメル本人との合意のうえで破壊された。フラメル夫妻は人類史上最長の683歳まで生き永らえてきたが、もはや延命をやめるべき時が来た——それはフラメル自身の判断だった。ダンブルドアはこう言い添える。『よく整理された人生にとって、死とはより大きな冒険のひとつに過ぎないのです、ハリー』。
終業の祝宴とハグリッドのアルバム
学年末の大広間。教師席に立ったダンブルドアが、寮対抗杯の表彰を告げる。スリザリンの緑のドレープが大広間を覆ったまま、彼は『ところで、最後のいくつかの点数を申し添えたい』と切り出した。ロンには『一年生として最高のチェスの腕前』で60点。ハーマイオニーには『火に直面しての冷静な論理』で50点。ハリーには『純粋な勇気と決して屈しない意志』で60点。さらにネビル・ロングボトムにも、『友人に立ち向かう勇気は、敵に立ち向かう勇気以上に必要である』として10点が加算される。総得点でグリフィンドールがスリザリンを逆転し、見事に寮杯を奪取した。ダンブルドアが手を叩くと、天井を覆っていた緑のドレープは一斉に深紅と金へと染め替わり、グリフィンドールのライオンの紋章が大広間いっぱいに広がる。
翌朝、夏休みでロンドン行きの汽車に乗り込むハリーのもとへ、ハグリッドが息を切らして駆け寄り、革表紙のアルバムを差し出す。父ジェイムズと母リリーの若き日の写真を、ホグワーツの古い友人たちから一枚ずつ集めて綴じたアルバムだ。両親の顔を初めて手にしたハリーは、それを胸に抱える。9と3/4番線をくぐり、現実の駅のホームへ戻ったハリーを、仏頂面のバーノンとペチュニアが迎える。ハリーは笑顔で「今年の夏は、何もできないと思いますか?従兄に魔法を使うことだって僕にはできるんですよ、向こうは知らないけれど」と言い置き、シリーズの第1作はエンドクレジットへと流れていく。
登場要素
本作に登場・言及される主な要素を、人物・魔法生物・呪文・道具・場所・組織に分けて整理しておきたい。固有名詞は、シリーズ全体を読み解くうえでの大切な手がかりだ。とくに賢者の石、みぞの鏡、透明マント、ニコラス・フラメル、ヘドウィグ、ニンバス2000、組み分け帽は、本編後半まで意味を持ち続ける重要なアイテムでありキーワードである。ここを押さえておけば、物語の解像度はぐっと高まるはずだ。
- ハリー・ポッター
- ロン・ウィーズリー
- ハーマイオニー・グレンジャー
- ルビウス・ハグリッド
- アルバス・ダンブルドア
- ミネルバ・マクゴナガル
- セブルス・スネイプ
- クィリナス・クィレル
- ロランダ・フーチ
- ポピー・ポンフリー
- オリヴァー・ウッド
- ネビル・ロングボトム
- シーマス・フィネガン
- ディーン・トーマス
- リー・ジョーダン
- パーシー/フレッド/ジョージ・ウィーズリー
- モリー・ウィーズリー
- ジニー・ウィーズリー
- ドラコ・マルフォイ
- クラッブ/ゴイル
- アーガス・フィルチ
- ギャリック・オリバンダー
- ヴォルデモート卿(クィレルの後頭部に寄生)
- ニコラス・フラメル(言及)
- ペレネル・フラメル(言及)
- ジェイムズ・ポッター/リリー・ポッター(写真・回想)
- ダーズリー家(バーノン、ペチュニア、ダドリー)
- ニアリー・ヘッドレス・ニック
- 血まみれ男爵
- 灰色のレディ
- フェニックス(言及)
- ユニコーン(瀕死の個体)
- ケンタウロス(フィレンツェ、ベイン、ロナン)
- ノルウェー・リッジバック種ドラゴン(ノーバート)
- 三つ頭の犬(フラッフィ)
- トロール(地下牢の山岳トロール)
- ゴブリン(グリンゴッツの行員)
- ふくろう(ヘドウィグほか)
- ヒッポグリフ(言及)
- 幽霊(ニアリー・ヘッドレス・ニック、血まみれ男爵、灰色のレディ、太った修道士)
- ウィングアーディウム・レビオサ(フェザー軽くなれ)
- ルーモス/ルーモス・ソレム
- アロホモラ(解錠)
- ペトリフィカス・トタルス(全身金縛り)
- オキュラス・リパロ(修復)
- ロコモータ(移動)
- 悪魔の罠の対処
- 煙突飛行粉(フルーパウダー:言及)
- 未成年の魔法行使禁止
- 透明マント(不可視化)
- 組み分け帽の判定
- クィディッチ場の防衛魔法
- 賢者の石を取り出すみぞの鏡の掟
- 母リリーの愛による護り
- 賢者の石
- みぞの鏡
- 透明マント(ジェイムズ・ポッター遺品)
- 組み分け帽
- ハリーの杖(柊・11インチ・フェニックスの羽根芯)
- ヴォルデモートの杖(イチイ・13.5インチ・フェニックスの羽根芯/兄弟杖)
- ハグリッドのピンクの傘(折れた杖)
- ニンバス2000
- リメンブラル(覚え玉)
- 魔法のチェス盤
- 飛ぶ鍵
- 光消し(プット・アウター/消灯器)
- ハグリッドのオートバイ
- クリスマス・アルバム(両親の写真集)
- プリベット通り4番地(ダーズリー邸)
- ロンドン動物園 爬虫類館
- 海に浮かぶ岩屋(嵐の小屋)
- 漏れ鍋(ダイアゴン横丁入口の宿酒場)
- ダイアゴン横丁
- グリンゴッツ魔法銀行
- オリバンダーの杖店
- キングス・クロス駅 9と3/4番線
- ホグワーツ特急
- ホグワーツ城湖畔
- 大広間
- グリフィンドール談話室/寮
- 天文台塔
- 地下三階の右手廊下
- クィディッチ競技場
- ハグリッドの小屋
- 禁じられた森(ユニコーンの死場)
- 図書館・禁書区域
- みぞの鏡の部屋
- 悪魔の罠の部屋
- 飛ぶ鍵の間
- 魔法のチェスの間
- 論理の試練の間
- 石の間(最終決戦の円形ホール)
- ホグワーツ魔法魔術学校
- ホグワーツ四寮(グリフィンドール/スリザリン/ハッフルパフ/レイブンクロー)
- 魔法省(言及)
- ホグワーツ職員一同
- クィディッチ各寮代表チーム
- グリンゴッツのゴブリン銀行員一同
- 禁じられた森のケンタウロス一族
18主要登場人物
本作のキャラクター造形は、シリーズの『はじめの一歩』として、のちの人間関係の原型をすべて初お披露目することに注力している。三人組(ハリー、ロン、ハーマイオニー)、教師陣(ダンブルドア、マクゴナガル、スネイプ、ハグリッド、クィレル)、悪役サイド(マルフォイ親子の遠景、ヴォルデモート)——その後の七年間にわたる関係図のほぼ全員が、この第一作のうちに立ち位置をきっちりと確定させてしまう。シリーズ全体の設計図が、ここに敷かれているのだ。
ハリー・ポッター
本作のハリーは十一歳。物置に寝起きする孤児として登場し、約20分後には『君は魔法使いだ』と告げられ、120分後には闇の魔法使いの霊体と対峙し、これを灰にしてしまう。この約一年で『普通の子ども→魔法界の希望』へと跳ぶ、その移動の幅こそが本作の劇的構造そのものだ。物置で膝を抱えていた少年が、ラストでは命を懸けて悪と渡り合う存在になっている。たった2時間の映画でこれだけの跳躍を違和感なく描き切る——その一点だけでも、本作が「現代ファンタジー映画の原点」と呼ばれる理由は腑に落ちるはずだ。
ここで何より大切なのは、ハリーが本作で何度も「選ぶ」姿を見せる点である。組み分け帽に「スリザリンは嫌だ」と訴え、トロールに襲われるハーマイオニーを助けに走り、賢者の石を自分のものにはしないと決める。後にダンブルドアが第2作『秘密の部屋』で口にする「私たちが本当に何者であるかは、持って生まれた力ではなく、自分でどんな道を選ぶかで決まる」——シリーズ全体を貫くこの倫理(モラル)が、本作の 選択の連続 のなかですでにしっかりと体現されている。
ダニエル・ラドクリフは撮影当時十一歳。プロデューサーのデヴィッド・ヘイマンが列車で偶然見かけ、両親に声を掛けたという有名な逸話のとおり、ラドクリフはほぼ無名のままこの世界最大級の役を引き受けた。本作の彼の表情には、声変わり前の少年だけが持つ独特の透明感と、両親を失った子どもにしか宿らない静かな目が同居している。このキャスティングこそ、シリーズ全体の運命を決定づけた瞬間だったと言っていい。
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ロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グ…
ロン・ウィーズリー(ルパート・グリント)は、貧しいながらも愛情にあふれた大家族「ウィーズリー家」の六男坊として登場する。お下がりのローブに折れた杖、そして古ぼけたネズミ(スキャバーズ)を抱えてホグワーツへやって来る——その姿だけで、すでに観客の心をつかんでしまう愛すべきキャラクターだ。そんな彼が本作で見せる最大の山場が、地下に待ち受ける七つの試練のひとつ、「魔法のチェス」の場面である。自分が立つナイトの駒をあえて犠牲にし、ハリーが最後の部屋へ進む道を切り開く。まだ一年生だ。それなのに、シリーズ全体で幾度も繰り返される「仲間の誰かが身を投げ出し、残る者を先へ進ませる」という構図。その最初の発露が、ここですでに描かれている。胸が熱くなる名場面だ。
ハーマイオニー・グレンジャー(エマ・ワトソン)は、両親がともにマグル(非魔法使い)の歯科医という、ホグワーツでは少数派の出自を持つ。彼女こそ本作の知性の核である。悪魔の罠に対する『陽光と火』の知識、スネイプの論理パズルを解く読解力、そしてトロール事件で二人組の仲を守るためについた嘘——いずれも彼女の判断によるものだ。一方で「学校の規則を破る彼女」「友達のために嘘をつく彼女」は、本作の前半と後半で人物像が一変する瞬間であり、シリーズ全体を貫く感情の起点でもある。
ルパート・グリントは撮影当時12歳、エマ・ワトソンは10歳。エマ・ワトソンは本作のオーディションに、「自分こそハーマイオニー以外あり得ない」と確信して臨んだという逸話が残る。その揺るぎない一年生の自信は、彼女が画面に現れるすべての場面にそのまま刻み込まれている。10歳とは思えない堂々とした佇まいは、役と完全に一体化していたとしか言いようがない。
アルバス・ダンブルドア
ホグワーツ校長アルバス・ダンブルドアを演じるのは、アイルランド出身の名優リチャード・ハリス。だが彼がこの役を務めたのは、本作と続く第2作『秘密の部屋』の二本のみである。第2作公開直前の2002年10月25日、72歳でこの世を去ったためだ。結果として、ハリス版ダンブルドアの姿は、この二本の中だけに永遠に刻まれることとなった。あの厳かで温かな眼差しを新作で目にすることはもう叶わない。それだけに、かけがえのない遺産といえる。
本作でハリスが演じるダンブルドアは、長い銀の髭、半月の眼鏡、紫のローブの裾を引きずるように歩く姿が印象に残る。冒頭プリベット通りで赤ん坊のハリーをそっと置く場面、組み分け式での祝辞、ハロウィン晩餐の慌ただしさ、クリスマス前夜の校長室、保健室での『母の愛による護り』の説明、そして終業式で寮杯を逆転させる粋な演出——どの場面を切り取っても、低く落ち着いた声と、ゆったりとした所作の品が滲み出ている。後年のシリーズで他の俳優が演じる『より厳格なダンブルドア』とは一線を画す、温和で童心の残る校長像がここにある。
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セブルス・スネイプ
セブルス・スネイプ(アラン・リックマン)は、初登場と同時に物語の誤誘導を一身に背負う、シリーズ屈指の難役である。長く伸びた黒髪に漆黒のローブ、低く、わざとらしく間を置く話し方、そしてハリーへのあからさまな敵意——これだけ揃えば、犯人はこの男しかいないと観客に思い込ませてしまう。事実、ラストの十分前まで、彼こそが黒幕だと信じて疑わない作りになっている。リックマンの怪演が見事だ。
ところが終盤、地下の石の間で待ち構えていたのは、まさかのクィレルだった。クィディッチの初戦でスネイプが口の中でぶつぶつと唱えていたのは『反対呪文』であり、実はハリーの箒を救おうとしていた側だったという事実が、ここで明かされる。スネイプの本当の動機は、本作ではあえて伏せられたままだ(シリーズ第7作で完全に解き明かされる伏線である)。ただし、ハリーの父ジェイムズ・ポッターに大きな借りがあり、その息子を守ると誓っている——この一点だけは、校長との対話の隅にそっと置かれている。見過ごせない要点だ。
アラン・リックマンは、ローリングからスネイプの最終的な秘密を本作公開以前に直接告げられていた、数少ない俳優の一人である。その情報を踏まえた抑制的な演技は、冷たさのなかにかすかに揺れる何かとして、後年シリーズを通して再評価されていく。あの無表情の奥に、すでに答えが宿っていた。そう思って見返すたびに、新たな発見がある。
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ルビウス・ハグリッド
ルビウス・ハグリッドを演じるのは、英国の名優ロビー・コルトレーン。J.K.ローリング本人が「ハグリッド役は最初からコルトレーン以外に考えなかった」と語ったほどの大本命キャスティングである。コルトレーンはこの巨人の番人をシリーズ全作で演じ切った。2022年10月、彼が世を去るその時まで——。まさに人生をかけてハグリッドと歩んだ名優といえる。
ハグリッドは本作で三つの役割を同時に担う、きわめて重要な存在だ。主人公を魔法界へ導く案内人であり、生徒たちの感情の拠り所であり、物語の重大な秘密をうっかり漏らす困った仲介人でもある。岩屋に踏み込み「ハリー、おまえは魔法使いだ」と告げるあの名場面。ダイアゴン横丁で杖と白いふくろうを贈る場面。酒場で見知らぬ男にフラッフィ(三つ首の番犬)の弱点を口走ってしまった経緯を、ばつが悪そうに白状するくだり。そして終業日に、両親の写真アルバムをハリーへそっと手渡す場面——。そのどれもが、彼の温かい不器用さを映し出し、シリーズ全体の感情の核を担っている。涙腺を刺激してやまない。
ロビー・コルトレーンの撮影では、巨人としての視点的優位を生むために「大きいハグリッド/小さい三人組」という構図が何度も用いられた。本作では、コルトレーン本人の遠景ショットと、身長240センチを超える元ラグビー選手のスタントマン、マーティン・ベイフィールドの近接ショットを、編集で慎重に組み合わせている。遠目では本人、寄りではスタントマン。この使い分けがあるからこそ、ハグリッドの巨体に説得力が生まれているのだ。
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マクゴナガル教授とクィレル教授
ミネルバ・マクゴナガル教授(マギー・スミス)が初めて姿を見せるのは、本作冒頭、プリベット通りで一匹の猫として先回りしている場面だ。変身術の教師であり、グリフィンドール寮監、そして副校長。一貫した立ち位置から物語を支え続ける。マギー・スミスといえば、当時すでに英国アカデミー賞・米国アカデミー賞を手にしていた大女優である。彼女のまなざしひとつで、「この学校は厳しいが信頼できる」という本作の空気感がほぼ成立してしまう。眼鏡の奥のあの目力(めぢから)が凄まじい。たった一瞥(いちべつ)で校則の重みと生徒への深い愛情を同時に伝えてしまうのだから、脱帽するほかない。
新任の闇の魔術防衛術教師クィリナス・クィレル教授(イアン・ハート)は、紫色のターバンとひどい吃りが特徴で、見るからに最も無害そうな人物として登場する。最後の最後まで観客に警戒心を抱かせない、丁寧な伏線の積み重ねがミソだ。そして終盤、ターバンを解いた頭の後ろから、死を逃れるために寄生する宿主(取り憑く相手)を求めて彷徨い続けるヴォルデモートの顔が現れる。シリーズ屈指の「正体の反転」が、ここで成立するわけである。忘れがたい衝撃だ。イアン・ハートは、クィレルの「穏やかな良心」とヴォルデモートの「冷酷な意志」を見事に一人二役で演じ分け、しかも後者のヴォルデモートの声まで自ら当てている。その徹底ぶりに注目したい。
舞台と用語
物語の舞台となるのは、夏のサリー州プリベット通り、海に浮かぶ岩礁の小屋、ロンドンのダイアゴン横丁/グリンゴッツ/オリバンダーの店/キングス・クロス駅、そしてスコットランド高地に佇むホグワーツ城である。なかでもホグワーツ城は本作で初めてスクリーンに姿を現す。その威容は圧巻だ。「四階の動く階段」「大広間(天井に夜空が映る、あの名物セット)」「グリフィンドール談話室(暖炉と肖像画が並ぶ温かな空間)」「天文台塔」「地下のスネイプの薬学教室」「禁じられた森」「地下三階の右手廊下」——シリーズ全作で繰り返し使われる主要セットの基本形が、この一作で一気に固まった。後の作品を見返せば、その原型がすべてこの一作目に詰まっていることに気づくはずだ。
美術監督スチュアート・クレイグが本作で確定させたホグワーツの空間設計は、後のシリーズすべての土台となった。縦に高く積み上がる尖塔、巨石を組み上げた重厚な外壁、長く湾曲して伸びる木製の橋、霧に霞む静かな湖、内部に広がる高い天井と巨大な暖炉、そして四つの寮ごとに異なる色彩設計。いずれも、後に続く本編7本と続編『ファンタスティック・ビースト』3本を貫く視覚的継続性(シリーズ全体で世界観の見た目を統一する設計思想)の出発点となった仕事である。
用語の面でも、本作で初めて画面に登場する重要な概念は多い。「マグル」は魔法を一切使えない非魔法族の人間を指す。「マッドブラッド」「純血」「混血」はいずれも魔法族の血筋に関する分類用語で、このうち「マッドブラッド」は本作には登場しない。続編『秘密の部屋』で、ドラコがハーマイオニーに向けて初めて口にする言葉だ。「分霊箱(ホークラックス)」にいたっては本作で一度も発音されない。だが、ヴォルデモートが肉体を失ってもなお消えず、寄生宿主を渡り歩いているという事実は、後から振り返ると「この時点で既に複数の分霊箱が魔法ワールドに散らばっていた」ことの遠回しの提示になっている。この匂わせ方が絶妙だ。「不死鳥フォークス」「闇祓い(ダークウィザード専門の魔法使い捜査官)」「魔法省」「アズカバン」なども、本作では名前だけがそっと置かれ、姿を見せるのは後の作品である。この伏線の置き方が実に巧みだ。
そして本作最大の物語上の装置である「賢者の石」そのものは、作中でたった一度しか画面に映らない(クィレルが手にする寸前、ハリーのポケットに転送されてくる、あの血のように赤い石だ)。その所有者ニコラス・フラメルは、実在のフランスの錬金術師・写本師(1330年代-1418年)をモデルにした人物である。原作と本作では、現役で生き続ける683歳の錬金術師、そしてダンブルドアの古き友人として位置づけられている。たった一度きりの登場で、これだけの背景を背負わせる。なんとも憎い演出だ。
26制作
ハリー・ポッター本編シリーズ第1作の製作が動き出したのは1999年。原作第1巻『賢者の石』(1997)と第2巻『秘密の部屋』(1998)が世界的なベストセラーとなった直後のことである。ワーナー・ブラザースがJ.K.ローリングから映画化権を取得した、まさにその瞬間に企画は始まった。ローリングが提示した契約条件は強気なものだった。「主要キャストは全員英国・アイルランド系俳優であること」、そして「原作の重要要素を勝手にカットしないこと」。この二つの強烈な条件を突きつけ、最終的にワーナーがこれを呑んだと言われている。原作ファンにとって、この一手の意味は大きい。本セクションでは、企画と脚本、キャスティング、衣装と美術、視覚効果(VFX)、音楽と音響、撮影と編集に分けて整理していく。
企画と脚本
==PARA=== 監督候補として名を連ねたのは、スティーヴン・スピルバーグ、テリー・ギリアム、ロブ・ライナー、アルフォンソ・キュアロン、ジョナサン・デミ。いずれ劣らぬ大物ばかりだった。なかでもスピルバーグは、物語を大幅にアメリカ化し、ハリーをアメリカ人俳優に演じさせたいと提案したことで降板している。もし実現していれば、まったく別物の作品になっていただろう。一方、原作者ローリングが第一に推していたのはギリアムだったが、ワーナーは家族向け映画としての手堅さを優先する。最終的に白羽の矢が立ったのは、『ホーム・アローン』『ミセス・ダウト』で家族映画の名手として知られるクリス・コロンバスだった。
脚本を託されたのは、シリーズ全7作のうち6作を手がけることになるスティーヴ・クローヴスである。クローヴスはローリングとの最終面接で「あなたが好きな登場人物は誰か」と問われ、即座に「ハーマイオニー・グレンジャーです」と答えた。するとローリングは「あなたなら大丈夫」と笑い、その場で起用が決まったという。後年のDVD特典(本編収録外の特典映像)で、本人たちがそう振り返っている。たった一度の受け答えで脚本家が決まった、忘れがたいエピソードである。
脚本の方針は、原作からカットせず、可能な限りすべての要素を映像化するというものだった。その結果、劇場公開版は152分、拡張版は159分と、当時のファミリー映画としては異例の長尺に仕上がっている。子ども向け作品としては、なかなかの冒険だったといえる。 原作の重要な要素のうち、本作でカットされた主な場面は、ピーヴズ(ホグワーツに住みつくいたずら好きなポルターガイスト)、城内にあるほかの寮の談話室の紹介、そしてノーバート(ドラゴンの子ども)を引き取らせるまでの詳しい経緯などだ。とはいえ、これだけ詰め込んでなおカットがこの程度にとどまったあたりに、原作再現への並々ならぬこだわりがうかがえる。
キャスティング
主要三人組のオーディションは、英国全土で行われた史上最大規模の児童キャスティングのひとつだった。ダニエル・ラドクリフについては、当初両親が「芸能界に長く拘束されるのは避けたい」と固辞していたが、プロデューサーのデヴィッド・ヘイマンと監督コロンバスが直接両親を説得。最終的に、父アランの「一年だけ」という条件付きで出演が決まったとされる。撮影開始時はわずか11歳、第8作完成時には22歳——彼の身体的な成長そのものが、シリーズ全体の時間軸を体現することになった。改めて振り返れば、奇跡的とも言える座組みである。
ルパート・グリント(ロン役)は、当時すでに学校劇への出演経験があり、自宅でラップ動画を撮影してオーディションテープとして送りつけたという強烈な逸話で知られる。一方のエマ・ワトソン(ハーマイオニー役)は、本作以前の出演経験が皆無。学校の演劇教師が「この子は絶対にいける」と強く後押しした結果、見事に起用された。撮影現場では、規律を守りながら大人とも対等に話す彼女の性格そのものが、ハーマイオニーの基礎演技を支えていたと、プロデューサーが後年の回想で語っている。素の人柄がそのまま役に乗り移った、まさに運命的なキャスティングだったと言えるだろう。
教師陣のキャスティングは、まさに英国演劇界の名鑑と呼ぶべき布陣だった。ダンブルドア役のリチャード・ハリス、マクゴナガル役のマギー・スミス、スネイプ役のアラン・リックマン、ハグリッド役のロビー・コルトレーン、クィレル役のイアン・ハート、オリバンダー役のジョン・ハート、フィルチ役のデヴィッド・ブラッドリー、ポンフリー夫人役のジェマ・ジョーンズ、フーチ夫人役のゾーイ・ワナメイカー——いずれも英国アカデミー賞や国際エミー賞の常連がずらりと顔を揃えた。反則級の豪華さと言うほかない。なかでも有名なのが、リチャード・ハリスのダンブルドア就任秘話である。当初は高齢を理由に断ろうとしたが、孫娘から「おじいちゃんが断ったら、もうおじいちゃんとは口を利かない」と告げられ、引き受けたと本人がインタビューで明かしている。名優を動かしたのは賞でもギャラでもなく、孫娘のひと言だった。なんとも粋な舞台裏ではないか。
美術とプロダクションデザイン
美術監督を務めたのはスチュアート・クレイグ。シリーズ全8作と続編『ファンタスティック・ビースト』3作の全作で美術を担い続けた、シリーズ最大の継続性を支える人物である。本作で彼が手がけた主要セット——大広間、グリフィンドール談話室、ダンブルドアの校長室、地下のスネイプの教室、9と3/4番線、ダイアゴン横丁の屋外通り、グリンゴッツ銀行の大理石ロビー、オリバンダーの杖店——のほぼ全てが、英国リーヴスデン・スタジオ内に常設セットとして組まれ、後続の全作で再利用されていった。第1作の段階で、すでに「この世界観を10年以上守り抜く土台」が物理的に組み上がっていたわけだ。だからこそ後年の作品を観返しても、ホグワーツの空気感はまったくぶれない。クレイグという一人の美術監督が、原作の世界を「実在する場所」として固定した。その出発点が、まさに本作だった。
外部ロケでは、グロスター大聖堂の回廊(廊下シーン)、ダラム大聖堂(廊下/教室)、オックスフォード大学クライストチャーチ・カレッジの食堂(大広間の参考と上層階段)、オックスフォード大学ボードリアン図書館のディヴィニティ・スクール(保健室)、アニック城(飛行訓練の屋外)、ロンドン・ゴート地下道(ダイアゴン横丁の屋外参考)、キングス・クロス駅本駅(9と3/4番線実景)、ヴァージニア・ウォーターの湖畔(ホグワーツ城屋外湖の遠景)などが使用された。
衣装デザイナーのジュディアナ・マコフスキーは、本作で第74回アカデミー賞衣装デザイン賞にノミネートされ、第28回サターン賞では衣装賞を受賞している。寮ごとのスカーフの色——グリフィンドール=深紅と金、スリザリン=緑と銀、レイブンクロー=青と銅、ハッフルパフ=黄と黒——この配色は、ひと目で「あの寮だ」と分かる完成度に達している。ホグワーツのローブの黒、ダンブルドアの紫と銀のローブ、マクゴナガルのエメラルドグリーンとタータン(スコットランド伝統の格子柄)。いずれも本作で確立され、シリーズ全作に踏襲されていく基本形である。第1作にして世界観の「正解」をここまで作り切ったセンスには、ただ脱帽するほかない。
視覚効果
ヴィジュアル面を支えたのは、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)、ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス、ジム・ヘンソンズ・クリーチャー・ショップといった名だたる主要VFXスタジオが並行で動く豪華な体制だった。なかでも難所となったのが、フラッフィ(三つ頭の犬)、地下牢シーンのトロール、赤ん坊ドラゴンのノーバート、ケンタウロスのフィレンツェ、そして初飛行訓練や最初のクィディッチ試合での空中追走シーンである。さらに悪魔の罠の植物の不気味な動き、飛ぶ鍵の群飛行、極めつけは最終決戦でクィレルが灰になる場面——いずれも当時の技術陣が総力を挙げて挑んだ難関ばかりだ。これを1本にまとめ上げた手腕には唸らされる。
クィディッチのシーンは、本作と続編全作を通じてシリーズ最大の技術的挑戦のひとつだった。本作で採用されたのは、ブルースクリーン・スタジオ内に固定した箒の上に俳優を乗せ、頭上の青空をブルースクリーンで囲い、あとからCGで観客席と球場を合成する「動かない箒・動く空」方式。発想の逆転が見事だ。スニッチ(金色の小さな飛行球)はソニー・ピクチャーズ・イメージワークスが完全CGで作り込んでおり、本作のラストでハリーが地上ぎりぎりで口から吐き出してキャッチする、あの名場面につながる。当時の編集上、もっとも合成カットが密集した数秒のひとつと言われ、何度見返しても鳥肌が立つ仕上がりだ。
クィレル教授の後頭部からヴォルデモートの顔がぬっと現れる、あの戦慄の場面。実はジム・ヘンソンズ・クリーチャー・ショップが手掛けた実物のシリコンマスクと、ILMによるデジタル合成のハイブリッドで作られている。撮影では、イアン・ハートの後頭部に半球状のクリーンプレート(合成用の下地パネル)を装着し、青いマーカーを置いた状態で芝居をしてもらい、後工程でヴォルデモートの顔をCGで貼り込む凝った手法がとられた。さらに、ハートの「前向きの顔」「後ろ向きの顔」を別々に撮影し、編集で時間軸をぴたりと揃える作業も並行して進められたというから驚きだ。クライマックスでクィレルが灰となって崩れ落ちる場面も、シリコン製の人形を熱でじわじわと崩していくスローモーション撮影に、CGの風化エフェクトを重ねて合成している。アナログとデジタルの合わせ技であり、地味に手間のかかった一枚だ。
音楽と音響
音楽を手がけたのは、巨匠ジョン・ウィリアムズ。作曲のみならず、自ら指揮も務めている。本作のために書き下ろされたのが、あの名高い『ヘドウィグのテーマ(Hedwig's Theme)』だ。3拍子のチェレスタ(鍵盤打楽器の一種で、星のきらめきを思わせる澄んだ音色が特徴)が奏でる、夜空を想起させる短い主題。ひと聴きするだけで、たちまち魔法の世界へと誘われる。本作のメインテーマであると同時に、以降のシリーズ全7作、さらに続編『ファンタスティック・ビースト』3作のすべてで引用されていく、まさに本シリーズ最大の音楽的遺産である。
本作のスコアには、シリーズで繰り返し顔を出すことになる主題が、ほかにもふんだんに盛り込まれている。『ニンバス2000のテーマ』『学校への到着』『プロローグ(プリベット通り赤ん坊置去り)』『みぞの鏡』『フラッフィの子守唄(ハープによる催眠主題)』『闇の魔術との初遭遇』『勝利の主題』——いずれも、初めてスクリーンに立ち上がる魔法ワールドの場面に、ぴたりと寄り添うように書かれた主題ばかりだ。一曲一曲が映像と分かちがたく結びつき、後のシリーズ作品でこれらの旋律が再び鳴り響くたび、胸を強く掴まれる。そんな仕掛けになっている。
音響面にも、語るべき見どころが山ほどある。組み分け帽が喋るときの声、地下三階で唸るフラッフィの吠え声と寝息、悪魔の罠がじわりと絡みついてくる草のざわめき、宙を舞う鍵が一斉に羽ばたく金属音、そしてクィレルの後頭部から漏れ出るヴォルデモートの低くかすれた声——どれも本作のために一から造り込まれたオリジナルの効果音(サウンドエフェクト)だ。しかもこれらは一作限りの仕事にとどまらない。シリーズの後続作品でも繰り返し引用・再利用されていく音響デザインの原型となった。耳でも世界観を覚えてしまう、まさにそんな仕事ぶりに注目したい。
撮影とロケ
撮影監督を務めたのは、オーストラリア出身の名手ジョン・シール。『イングリッシュ・ペイシェント』『刑事ジョン・ブック/目撃者』、そして『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を手がけた映像の魔術師である。本作の本編撮影がクランクインしたのは2000年9月29日。そこから2001年3月まで、およそ半年をかけて撮り上げられた。撮影の拠点となったのは英国のリーヴスデン・スタジオである。以降、シリーズ全作はもちろん、続編シリーズ『ファンタスティック・ビースト』に至るまで使われ続け、文字どおり魔法ワールドの総本山となっていく場所だ。
ロケ地には、グロスター大聖堂、ダラム大聖堂、オックスフォード大学クライストチャーチ・カレッジ、ボードリアン図書館、アニック城、ヴァージニア・ウォーター、キングス・クロス駅、ロンドン動物園など、英国を代表する歴史的建造物が惜しみなく動員された。なかでも圧巻なのがグロスター大聖堂の回廊である。本作では「動く階段の上層」「闇の魔術防衛術教室前の廊下」「フィルチに発見される深夜の廊下」と、まったく異なる複数のシーンに、化粧替え(同じ場所を装飾や照明で別物に見せる手法)を施しながら何度も登場している。同じ回廊がこれほど違う表情を見せるとは、にわかには信じがたい。
撮影中、ダニエル・ラドクリフを含む主要児童俳優の三人は、英国の児童労働法(未成年の労働時間を厳しく規制する法律)に基づき、1日あたりの撮影時間が厳密に制限されていた。しかも現場には三人それぞれに専任教師が同行し、撮影の合間にはきちんと授業を受ける。この撮影と授業を並行する方式は、シリーズ全8作にわたって維持されたというから驚きだ。子役たちが映画作りと学業を両立させながら成長していった――その積み重ねが、あのキャストの自然な空気感を生んでいる。しみじみと味わいたい裏話である。
編集
編集を手がけたのはリチャード・フランシス=ブルース(『刑事グラハム/凍りついた欲望』『ショーシャンクの空に』『セブン』『パール・ハーバー』)。アカデミー賞ノミネート4回を誇る英国・豪州の名編集者である。本作で彼が引き受けたのは、なかなかの難題だった。プリベット通りからダイアゴン横丁、9と3/4番線を経てホグワーツへ――前半1時間の怒涛の場面転換を、観る者を一人も置き去りにせず、軽快なテンポでつないでいく。世界観を一気に説明しなければならないのに、退屈する瞬間が一切ない。この職人技が見事だ。シリーズの導入として完璧な仕事ぶりであり、まさに名編集と呼ぶにふさわしい仕上がりだ。
終盤の地下七つの試練のシークエンスは、本作の編集上もっとも負荷の高いパートである。悪魔の罠、飛ぶ鍵、生きたチェス、論理パズル、みぞの鏡前のクィレルとの対峙、保健室での目覚め、終業の祝宴、そして汽車での帰路――クライマックスをひとつのリズムで畳みかけていく編集設計が、感情のフィナーレをしっかり支えている。短いカットの連続から、ふっと静けさに落ち着く保健室の場面への切り替えも見事だ。祝宴での寮対抗の逆転、汽車のラストカットまで、テンポを乱さず一気に駆け抜ける構成は、何度観ても胸に迫る。
34公開と興行
本作は2001年11月16日、英国と米国で同時に封切られ、日本では同年12月1日に全国公開された。北米の週末オープニング興収は約9050万ドル、最終的に北米で約3億1700万ドル、全世界では約10億2400万ドルに達した。この数字は2001年の世界興行収入第1位にあたる。当時のワーナー・ブラザース作品としては歴代最高、全作品を見渡しても『タイタニック』(1997)に次ぐ歴代第2位という、記録ずくめのスタートを切った。後年の作品に更新され順位こそ下がったものの、当時のインパクトは絶大だった。
日本国内での記録もすさまじい。公開からわずか4日間で興収約14億円を叩き出し、最終的には約203億円という大台に到達。2001年の興行収入年間第1位(邦画含む)に輝いた。日本における外国映画歴代興収のランキングでも、長らく上位に位置付けられてきた一作である。そして何より、ハリー・ポッター本編シリーズが日本市場で年末興行の定番として定着する、その出発点となった作品だ。冬の映画館にハリポタ、という風物詩はここから始まった。
賞レースでの活躍も見逃せない。第55回英国アカデミー賞では、美術賞、衣装賞、視覚効果賞、メイクアップ・ヘアスタイリング賞、助演男優賞(ロビー・コルトレーン)、英国貢献賞、音響賞、サウンドトラック賞、衣装賞、子役賞の計9部門にノミネートされた。受賞こそ逃したものの、これだけの部門に名を連ねた事実だけでも、本作の完成度の高さがうかがえる。さらに第28回サターン賞(米国のSF・ファンタジー作品を対象とした映画賞)でも、ファンタジー映画賞、衣装賞、若手俳優賞、特殊メイク賞などにノミネートされ、見事衣装賞を受賞。そして第74回アカデミー賞でも、作曲賞(ジョン・ウィリアムズ)、美術賞、衣装デザイン賞の3部門にノミネートという快挙を成し遂げた。まさに世界が認めた一本である。
本作の成功は、シリーズ全8作とスピンオフ『ファンタスティック・ビースト』3作を含む、ワーナー・ブラザース史上最大のフランチャイズの起点となった。第2作『秘密の部屋』(2002)、第3作『アズカバンの囚人』(2004)、第4作『炎のゴブレット』(2005)、第5作『不死鳥の騎士団』(2007)、第6作『謎のプリンス』(2009)、第7作『死の秘宝 PART1』(2010)、そして第8作『死の秘宝 PART2』(2011)。ほぼ年1本のペースで完結まで一気に走り抜けた。ハリウッド史でも稀に見る快挙といえるだろう。
版差分と特別篇
本作には、実は二つのバージョンが存在する。152分の劇場公開版と、159分の拡張版(Extended Edition)だ。後者は後年のDVD・Blu-ray・4K UHDに収録されている。拡張版で加わる主な場面は、ダイアゴン横丁のさらに細やかな情景、グリフィンドール談話室で新入生たちが交わす何気ない会話、ホグワーツ城の動く階段をより踏み込んで描いたくだり、闇の魔術に対する防衛術の授業、寮での食事風景、そして終業日に生徒たちが別れを惜しむ姿である。いずれもファンには嬉しい「場面の追加」ばかりで、物語の根幹にかかわる事実が変更された箇所は一切ない。あくまで世界観をより深く味わうための付加要素、という位置づけだ。
さらに、北米地域とそれ以外の地域とでは、台詞やタイトル表記が異なるバージョンも存在する。原作小説の北米版が『Sorcerer's Stone』と書名を改めた経緯から、本作の北米版予告編や本編中の小道具、そして数か所の台詞では、『Philosopher's Stone』を『Sorcerer's Stone』に置き換えた別撮りのカットが使われている。最も有名な例が、ハグリッドが初めて石の存在を口にする場面だ。このテイクは、英国版と北米版でわざわざ別々に撮影されている。
36批評・評価・文化的影響
公開当時の批評家の評価はおおむね好意的だった。とりわけ絶賛されたのが「原作への忠実な翻案」であり、主要児童俳優三人の自然体な演技である。加えて、英国全土から集められた名優陣の層の厚さ、そしてジョン・ウィリアムズによる主題歌の魔法のような魅力も、軒並み高く評価された。一方で、「152分は子ども向け映画としては長すぎる」「細部の再現を優先するあまり、ドラマの起伏が単調になる場面がある」といった指摘も少なからずあった。それでも後年の再評価では空気が一変する。本作はシリーズ全体のなかで「最も原作に忠実な一本」、そして「コロンバス時代のホグワーツを最も完全な形で保存した一本」として、確かな位置を占めている。
文化的に見れば、本作は2000年代を象徴する「ファンタジー大作映画の復活」、その起点として位置付けられる作品である。同じ年の12月に第1作が公開された『ロード・オブ・ザ・リング/旅の仲間』と並び、ファンタジー映画というジャンルそのものを商業的にも芸術的にも復権させた二大巨頭として語られてきた。とりわけ大きいのが、子ども・青年・大人の三世代が同じ劇場で同じ作品を楽しむという「家族映画」の概念を、現代的なかたちで再定義してみせたことだ。その功績は計り知れない。
本作の世界興収10億ドル超えは、当時の映画史上わずか6本目という快挙だった(『タイタニック』『ジュラシック・パーク』『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』に続く形である)。この結果を受けて、ワーナーは即座にシリーズ全8作の継続を確約した。まさに歴史が動いた瞬間だ。シリーズ累計興収は最終的に約78億ドル、続編『ファンタスティック・ビースト』3作を含めれば約95億ドルにまで到達し、映画フランチャイズ(複数作品で構成される作品群)史上、長らくマーベル・シネマティック・ユニバースに次ぐ第2位の規模を維持してきた。
舞台裏とトリビア
リチャード・ハリス(ダンブルドア役)は、本作公開当時すでに健康面に不安を抱えていた。それでも本作と続編『秘密の部屋』の二本でこの役を演じきり、2002年10月25日、ホジキンリンパ腫(リンパ系のがんの一種)により72歳でこの世を去る。続く第3作『アズカバンの囚人』からは、アイルランドの名優マイケル・ガンボンがダンブルドア役を引き継いだ。2023年9月の本人の死去まで、第8作まで連続で演じきっている。伝説の校長は、二人の名優の手で受け継がれていったのである。
ハリー、ロン、ハーマイオニーを演じた三人組の身長は、撮影開始から終了までのわずか半年で目に見えて変わっていった。とりわけダニエル・ラドクリフはこの一年で7センチ近く伸びており、本作の前半と後半でホグワーツの制服の丈が微妙に異なる、という現象まで起きている。シリーズ全体を貫くことになる『時間の刻み』(キャストの成長そのものが作品の時間軸になっていく現象)は、すでに本作の編集段階から始まっていた。あらためて見返すと、なかなか感慨深いポイントである。
ハグリッド役のロビー・コルトレーンの撮影では、巨人としての視覚的な存在感を出すために「大きいハグリッド/小さい三人組」というフレーミングが何度も用いられている。本作ではコルトレーン本人を映した遠景ショットと、身長240センチを超えるラグビー選手出身のスタントマン、マーティン・ベイフィールドによる近接ショット(手元や背中のアップなど)を、編集で慎重に繋ぎ合わせているのだ。岩屋の小屋の場面でハリーの座る椅子がやけに大きく見えるのも、実はコルトレーン側の椅子を逆に通常サイズで撮っているため。こうした錯視を利用した古典的な映画術が、ハグリッドの巨大さをリアルに見せている。
オリバンダーを演じたのは、『エイリアン』『エレファント・マン』でおなじみのジョン・ハート。本作での登場時間はわずか3分ほどである。それでもこのたった一場面が、シリーズ全体でもっとも引用される「ハリーとヴォルデモートが兄弟杖の関係にある」という重大な伏線を、まるごと一手に背負っている。しかもハートはこの後、長らくシリーズに姿を見せず、再びオリバンダーとしてスクリーンに戻ってくるのは約十年ぶり。第7作『死の秘宝 PART1』のたった一場面だけというのが、なんとも憎い演出だ。
本作の制作中、原作者J.K.ローリングは、脚本のクローヴスと監督コロンバスに対し、いくつかの場面について「絶対に変更してはいけない」と直接指示を出していた。最も有名なのが、「ハーマイオニーの両親をマグルにすること」、「ハグリッドの出生の秘密(後の第4作で明かされる半巨人の出自)を本作で示唆しないこと」、そして「ニコラス・フラメルを実在の歴史人物に基づく実名のまま登場させること」の三点だ。いずれも続編シリーズの伏線にかかわる、シリーズの根幹を支える重大な指示だった。原作者自らがここまで具体的に釘を刺していた——その事実だけでも、本作がいかに長期的なビジョンのもとに作られていたかが伝わってくる。
38テーマと解釈
本作の中心テーマは、ずばり「愛による護り」である。冒頭、プリベット通りに赤ん坊のハリーが置き去りにされる場面。そして終盤、クィレルがハリーに触れた瞬間に灰となって崩れ落ちる場面。この二つは、十年という時を隔てて響き合う対の場面として描かれる。母リリーは我が子を救うために自らの命を捧げた。その事実そのものがハリーの皮膚にも血管にも痕として刻まれ、ヴォルデモートを宿す者を物理的に焼き尽くす力へと変わっている。シリーズ全体を貫く倫理が、ここで一度しっかりと打ち立てられる。最も強い魔法は、計算でも血筋でもなく、誰かを心から愛して命を捧げる行為そのものに宿る——。すべてはこの一点に集約されている。
もうひとつの柱が、「欲望に取り憑かれない者だけが石を手にできる」という、みぞの鏡の掟だ。終盤でダンブルドアがあらためて語る「この鏡は、心の最も深い欲望を映す」というしくみ。ここから立ち上がるのは、賢者の石——永遠の命と無限の富——を手にできるのは、ただひとり「手に入れたいと思わない者」だけだ、という見事な逆説である。クィレルは石を欲したがゆえに取り出せず、ハリーは欲しなかったからこそ、ポケットへすとんと落ちてくる。これはシリーズ最終巻『死の秘宝』で、ハリーが死の秘宝の三品を「所有しようと思わなかった」ことで真の所有者となる、あの結末に通じている。その壮大なテーマを、本作の段階で——まだ十二歳の主人公に——そっと体現させているのだ。極めて精緻な、テーマの最初の提示といえる。
そして第三のテーマが「選択」である。組み分け帽の前でハリーが「スリザリンだけは嫌だ」と祈ったこと。ハーマイオニーが教師たちに自ら嘘をつき、三人組の友情を成立させたこと。ロンが自分の駒を犠牲にしてハリーを先へ進ませたこと。さらにハリーが、ヴォルデモートの「我々は似た者同士だ、共に生きよ」という誘いに首を振ったこと——。本作で繰り返される選択の場面、そのすべてが、続編『秘密の部屋』でダンブルドアが台詞で要約することになる核心倫理を、第1作の時点で描き切っている。「私たちが本当に何者であるかは、持って生まれた力ではなく、自分でどんな道を選ぶかで決まる」。その物語を貫くモラルを、台詞ではなく行動そのもので示しているのだ。
39見る順番
ハリー・ポッター本編シリーズの記念すべき第1作が、この『賢者の石』である。シリーズ未見なら、必ずここから順番に観ていくことを強くおすすめしたい。本作が担うのは、これから始まる七年間を彩るすべての固有名詞——ホグワーツ、組み分け帽、グリフィンドール、クィディッチ、ヴォルデモート、マグル(魔法を使えない人間)、ニンバス2000、みぞの鏡、賢者の石、ニコラス・フラメル——を一気に提示するという、きわめて大切な役割だ。第2作以降は、これらが「知っていて当然」のものとして物語が進んでいく。だからこそ、最初の入口となる本作は外せない。
本作を観たあとは、第2作『秘密の部屋』(2002)、第3作『アズカバンの囚人』(2004)、第4作『炎のゴブレット』(2005)、第5作『不死鳥の騎士団』(2007)、第6作『謎のプリンス』(2009)、第7作『死の秘宝 PART1』(2010)、第8作『死の秘宝 PART2』(2011)の順で追いかけていくのが王道だ。とくに本作で初めて言及される「母の愛による護り」、そして「分霊箱」——本作では一度もその言葉が口にされないが、ヴォルデモートが寄生する宿主を渡り歩く姿によってそれとなく示唆されている——、さらに「兄弟杖」。この3つは、シリーズ最終盤となる第7・8作で物語の核心として大きく回収される、最大級の伏線である。ここを意識しながら一作目を観返せば、ローリングの仕込みの周到さに改めて唸らされるはずだ。
ファンタスティック・ビースト三部作(2016/2018/2022)は、本編8作を見終えたあとの前日譚として追加で味わうのが入りやすい。
40よくある質問
「あらすじだけ知りたい」という向きには、こう押さえておけば十分だ。孤児として育てられたハリーは、11歳の誕生日にハグリッドから自分が魔法使いだと告げられ、ホグワーツ魔法魔術学校に入学する。やがて親友となるロンとハーマイオニーに出会い、地下三階に隠された賢者の石を狙う何者かと対峙していく——そんな一年間の物語である。最初の入口としては、これくらいシンプルに掴んでおくほうが、かえって作品世界へすんなり入っていける。
「結末・ネタバレを知りたい」という向きには、核心をまとめておこう。三人で挑む地下七つの試練(悪魔の罠/飛ぶ鍵/生きたチェス/論理パズル/みぞの鏡)を突破した先、最終室で待ち構えていたのは、闇の魔術防衛術のクィレル教授だった。しかもクィレルの後頭部にはヴォルデモートの顔が寄生しているという衝撃の構図である。そして決着をつけたのは、母リリーの愛による護りだ。クィレルが触れた瞬間に灰となって崩れ落ちる、あの忘れがたい場面である。最後に賢者の石は破壊された——ここがシリーズ全体を貫く核となる。
「なぜハリーは生き残ったのか?」という最大の謎について、本作ではダンブルドアがこう説明する。「母リリーが我が子を救うために自分の命を捨てた、その純粋な愛による護りが、ハリーの皮膚と血管に痕として残っているから」と。つまり愛そのものが魔法の盾になっているという、シリーズの根幹を貫くテーマが、ここでさりげなく提示されているのだ。見事なのは、この設定が単なる感動エピソードで終わらない点である。後の第7作では、この護りが「血の魔法」として具体的にどう発動するのか、その仕組みまで詳細に明かされる。一作目の何気ない説明が、最終巻への壮大な伏線になっていた。実に見事な構造だ。
「北米題が違うのはなぜか?」という疑問への答えは、実はかなりシンプルである。北米の出版社スカラスティックが、「Philosopher」という単語は米国の子どもには馴染みがないと判断し、書名を「Sorcerer's Stone」へ変更させた——これが発端だ。映画版も北米市場ではこの「Sorcerer's Stone」として公開され、台詞の数か所では英国版と北米版がわざわざ別撮りされている。たった一語の違いが、ここまで丁寧に作り分けられているとは、まさに芸が細かい。
リチャード・ハリスが演じたダンブルドアは、本作と『秘密の部屋』の二本だけである。第3作以降はマイケル・ガンボンが役を引き継いだ。あの柔和で慈愛に満ちたハリス版ダンブルドアは、まさに初期2作だけの特別な存在だ。だからこそ、最初の2作を観返すたびに、ハリスならではの温かな佇まいが胸に沁みてくる。
「本作と原作小説の違いは?」という疑問について。ピーヴズ(騒霊)の登場場面、ホグワーツ城のさらに細やかなディテール、ノーバートのドラゴンを引き取ってもらう経緯の詳しい描写、ハリーの誕生日にまつわる細部などは映像化されていない。とはいえ、それ以外の主要場面については、シリーズの中でも特に原作に忠実な映像化がなされた一作である。
41参考資料・脚注
作品名、キャラクター名、画像、および各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年・興行成績・受賞歴・配信状況・外部評価といった情報は変動しうるため、視聴前には公式サイトや各種データベース(IMDb、Rotten Tomatoesといった映画情報を扱う外部サービス)の最新の表示を確認してほしい。なお本記事の本文は、各種公開情報をもとに、Anna Movies独自の日本語記事として構成したものである。
99主要キャスト
本作の主要キャスト7名。