夏休みのプリベット通りに屋敷しもべ妖精ドビーが現れる。「ホグワーツへ戻ってはいけません」——魔法学校2年目のハリーを待つのは、生徒を石化させる謎の襲撃事件と、五十年前に閉ざされた『秘密の部屋』の伝説、そして一冊の古い日記に潜む若き日のヴォルデモートだった。

基本データ 2002年・クリス・コロンバス監督

第1作『賢者の石』に続きクリス・コロンバスが監督、スティーヴ・クローヴスが脚本、デヴィッド・ヘイマンが製作。ワーナー・ブラザース/ヘイデイ・フィルムズ/1492ピクチャーズ製作、上映時間161分。アルバス・ダンブルドア役のリチャード・ハリスが本作公開直前の2002年10月に他界し、本作が彼の遺作となった。

物語上の位置 ハリーのホグワーツ2年目

1992年夏のプリベット通りから始まり、1993年初夏までの一年間を描く。本編シリーズ7年間の第2学年にあたり、五十年前に当時の生徒を一人殺害した『秘密の部屋』伝説と、若き日のトム・リドル(後のヴォルデモート)の過去が初めて画面に登場する重要作。

受賞・評価 サターン賞 ファンタジー映画賞受賞

第29回サターン賞ファンタジー映画賞、最優秀若手俳優賞(ダニエル・ラドクリフ)を獲得。全世界興行収入は約8億7900万ドルに達し、2002年の世界興収第2位。日本国内でも興収約173億円を記録し、その年の外国映画首位となった。

この記事の範囲 結末・バジリスク戦・リドルの正体まで完全解説

ドビーの初登場、9と3/4番線の閉鎖と空飛ぶフォード・アングリア、ポリジュース薬の生成、ハグリッドの過去とアラゴグの森、嘆きのマートルの浴室、バジリスク戦、トム・リドル=ヴォルデモートのアナグラム、ドビー解放まで、重大ネタバレを前提に踏み込む。

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概要

『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(Harry Potter and the Chamber of Secrets)は、クリス・コロンバスが監督し、2002年11月15日に米国・英国で、同年11月23日に日本で公開されたファンタジー映画である。J.K.ローリングのベストセラー小説『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(1998)を原作とし、前年の『賢者の石』(2001)に続く本編シリーズ第2作にあたる。脚本はシリーズの大部分を手掛けるスティーヴ・クローヴスが続投し、製作はデヴィッド・ヘイマン、ワーナー・ブラザースが配給した。

物語は、夏休みでマグルの叔父夫婦のもとに戻されたハリーのもとに、屋敷しもべ妖精ドビーが現れ「ホグワーツへ戻ってはなりません」と警告する場面から始まる。学校に戻ったハリーを待ち受けるのは、五十年前に一度だけ開かれて当時一人の生徒の命を奪ったとされる『秘密の部屋』伝説の再来と、生徒を次々に石化させていく謎の襲撃事件である。「敵よ気をつけよ。継承者は再び現れた」と血の文字で壁に書かれ、犯人として疑われたハリーは、親友ロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グレンジャーとともに真相を追う。

本作はシリーズ全体のなかでも、後のヴォルデモートにつながる『分霊箱(ホークラックス)』の概念が——名前を伏せたまま——最初に画面に登場した作品である。ジニー・ウィーズリーが手にする古い日記、その日記が記憶を吸い取りながら少女を内側から食い破っていく筋立て、終盤に立ち上がるトム・リドルという美しい青年の姿は、シリーズ後半『謎のプリンス』『死の秘宝』で初めて意味を取り戻す重大な伏線群として、ここで一斉に置かれている。

本記事は結末を含む全編の内容に踏み込む。ドビーの解放、バジリスクの討伐、トム・リドル=ヴォルデモートのアナグラム、ジニーが日記の犠牲者だったという真相に触れるため、物語の重大な驚きを保ちたい場合はまず本編を鑑賞してから読むことを勧める。

原題
Harry Potter and the Chamber of Secrets
原作
J.K.ローリング(1998年・ブルームズベリー)
監督
クリス・コロンバス
脚本
スティーヴ・クローヴス
音楽
ジョン・ウィリアムズ
撮影
ロジャー・プラット
美術
スチュアート・クレイグ
編集
ピーター・ホネス
公開
2002年11月15日(米英)/11月23日(日本)
上映時間
161分
ジャンル
ファンタジー、ミステリー、青春劇、ホラー要素
舞台
1992-1993年の英国(プリベット通り/隠れ穴/ダイアゴン横丁/ホグワーツ城)

あらすじ

以下は結末までを含む全編のあらすじである。プリベット通りでのドビーの警告、空飛ぶフォード・アングリアでのホグワーツ到着、ミセス・ノリスの石化と『秘密の部屋』の文字、ポリジュース薬の生成、ハグリッドの過去とアラゴグ、嘆きのマートルの浴室から潜る地下のチェンバー、ジニーの誘拐と若きトム・リドル、バジリスクとの死闘、そしてドビーの解放までを順に追う。

プリベット通りとドビーの警告

1992年夏、12歳になったハリー・ポッターは、夏休みのあいだサリー州のプリベット通り4番地にあるダーズリー家の物置部屋に閉じ込められている。叔父バーノンは重要な接待会食を控えており、姪のいる『普通の家庭』を演じるためにハリーには静かにしているよう厳命する。寮の友人たちからの手紙は一通も届かず、ハリーはホグワーツへ戻れる日を指折り数えながら、自室の窓辺で誕生日を迎えようとしている。

その夜、誰もいないはずのハリーの部屋に、長い耳とテニスボールのような目を持つ小さな生き物が腰を屈めて現れる。屋敷しもべ妖精のドビーは、ハリーのベッドの上で泣きながら自分の頭をランプで叩き、必死の声で語る——『ホグワーツへ戻ってはなりません、ハリー・ポッター様。今年、ホグワーツで恐ろしいことが起こります』。ドビーは、誰かに仕える身でありながら掟を破ってここまで警告に来たために、口を開くたびに自らを罰しなければならないのである。

ハリーが学校を諦めるはずがないと察したドビーは、机に積まれていた友人からの未開封の手紙の束を懐から出してみせる。すべての手紙はドビーが途中で奪い、ハリーに孤独を感じさせ自宅に留まらせるために隠していたのだった。返却を拒否されたドビーは、階下の食卓まで降りていき、来客のシェフが作った巨大なプリンを宙に浮かせて天井から落とし、シェフの上に派手にぶちまける。ハリーは魔法を使ったとして魔法省から正式な警告書を受け取り、未成年の魔法行使禁止を理由に部屋の窓に鉄格子を打ち付けられ、完全に監禁される。

ハリー・ポッターの人物ページ ドビーの人物ページ

空飛ぶフォード・アングリアと隠れ穴、ダイアゴン横丁

数日後の夜、プリベット通りの2階の窓の外に、ターコイズブルーの古い英国車フォード・アングリアが浮かんでいる。運転席にはロン・ウィーズリー、後部座席には双子のフレッドとジョージがいる。ウィーズリー家の三兄弟は、父アーサーが趣味で違法に魔法改造した車に乗ってハリーを救出にやって来たのだった。窓格子に鎖をかけて引きちぎり、ハリーは荷物とふくろうのヘドウィグを担いで車内に飛び込む。

目を覚ましたダーズリー夫妻が窓に駆け寄ったときには、車はもうサリーの夜空を離れている。ハリーが連れて来られたのは、デヴォン州オッタリー・セント・キャッチポール近郊の田園地帯に立つ、無造作に増築を繰り返して傾いだ高い塔のような家屋——ウィーズリー家の通称『隠れ穴(バロウ)』である。台所では母モリーが息子三人の真夜中の家出を雷を落として叱る一方、ハリーに対しては自分の子のように温かく朝食を出す。フライパンが宙を泳ぎ、編み針が勝手にセーターを編み、ガラス瓶の中の毛糸玉が転げていく台所の魔法の光景が、ハリーにとって初めて見る『魔法使いの普通の家庭』の像になる。

夏の終わり、ウィーズリー家とハリー、そしてその家に居候中のハーマイオニーは、教科書を買い揃えるためダイアゴン横丁へ煙突飛行粉(フルーパウダー)で向かう。ハリーは行き先の発音を誤り、闇の魔法用品を売るノクターン横丁の店『ボージン・アンド・バークス』の暖炉に出てしまう。店内に隠れた彼が目撃するのは、長い銀髪のルシウス・マルフォイと息子ドラコが、自宅の闇の魔法アイテムを店主に売却交渉する場面である。ルシウスは魔法省の手入れを警戒し、家にある危険な品の処分を画策していた。ハリーは身を伏せたまま、ルシウスが取り出した古いノートと帳簿の束に視線を留める——後に最大の伏線となる、トム・リドルの日記が、この時すでに彼の手の中にあった可能性が暗示される。

ダイアゴン横丁本通りに合流したハリーは、生徒たちが新刊『俺と魔法生物』『俺と妖精族』を求めて長蛇の列をなす書店に紛れ込む。サイン会の主役は、本年度の新任『闇の魔術に対する防衛術』教師ギルデロイ・ロックハート——金髪を波打たせ、紫のローブで微笑む、稀代の自己宣伝家である。彼は人混みの中にハリーを見つけると、強引に肩を抱いて記者の前へ引きずり出し、勝手に共著の宣伝へ巻き込む。書店の出口でドラコ・マルフォイがハリーを侮蔑し、その息子の口を父ルシウスが冷ややかな視線で制する場面が、本作のマルフォイ親子の像を一気に立ち上げる。

9と3/4番線の閉鎖、空飛ぶ車での到着

九月一日、キングス・クロス駅の9番線と10番線の柱の前で、ウィーズリー家とハリーは順番にホグワーツ特急のホームへ抜けていく。ところが、ハリーとロンが最後にカートを押して柱に突っ込もうとした瞬間、見えない壁が二人を弾き返す。ホームへの通路が、何者かによって閉ざされたのである。後にこの妨害がドビーの『ハリーを学校に行かせないための』必死の手段だったと観客に明かされる。

汽笛とともにホグワーツ特急が定刻でロンドンを離れたあと、二人は駐車場に停めてあったアーサーのフォード・アングリアを見つけ、空を飛んで列車を追うという無謀な選択をする。プロペラ機の整備工場の上をすれすれで抜け、ロンドンを離れた線路の真上を、列車と並走するように低く飛び、やがてスコットランド高地のホグワーツが見える頃にはエンジンが咳き込み始める。視界を覆う霧と夕暮れの紫の空、煙を吐く老車、その下で銀色に湾曲する湖。クリス・コロンバス監督はこの飛行のシークエンスを、ロンドン上空の俯瞰と、子どもふたりの叫び声、ハーマイオニーが眼下から駅で見守る顔のカットバックで、ファンタジー映画らしい高揚に仕立てる。

ホグワーツの敷地に降り立つ寸前、車は門の脇に植わる古い樹木——『暴れ柳(ホンピング・ウィロー)』——の真上に墜落する。激しく枝を振り回して動物のように襲ってくる柳に、二人は車内に閉じ込められたまま激しく揺さぶられ、最終的に車が二人を吐き出して森の方角へ自走して逃げてしまう。ロンの杖はこの時に真っ二つに折れ、修復しても接合部から火花を散らすようになる。本作の中盤以降、彼の杖の不調がもたらすコミカルな失敗の数々——とりわけ自分の口にかけた『鼻血スラッグ吐き呪文』の暴発——は、すべてこの暴れ柳の場面に端を発している。

最初の襲撃——ミセス・ノリスと壁の血文字

ホグワーツ城に到着した夜から、ハリーは原因のわからない冷たい声を耳の奥で拾うようになる。教室と教室の合間、城の壁の内側を這うように動く低い声は、彼にしか聞こえない——『裂け……引き裂け……殺せ』。最初は疲労による空耳と片付けられるが、その声が遠ざかった先で、ハリーは凍りついたような光景に出くわす。

ハロウィン明けの夜、地下三階の廊下の壁面に、血の色の絵の具で大きく書かれた文字が浮き上がっている——『秘密の部屋は開かれた。継承者の敵よ、気をつけよ』。その真下に、用務員アーガス・フィルチの愛猫ミセス・ノリスが、瞬きもせずに体を硬直させて宙吊りになっている。死んではいない。だが、まるで石にされたかのように、毛の一本まで動かない。たまたまその場に居合わせたハリー、ロン、ハーマイオニーは、駆けつけたフィルチに犯人として睨まれ、ダンブルドアの校長室で釈明する羽目になる。

校長は三人を疑わないが、教師たちのあいだで囁かれる『秘密の部屋』の伝説が、本作の縦糸として一気に重みを増す。『変身術』の教師ミネルバ・マクゴナガルは生徒たちに、五十年前にこの城のどこかで起きた一件の生徒の死、それを引き起こしたとされる伝説の地下空間、そして『部屋の継承者だけが操れる怪物』について、淡々と語る。創設者サラザール・スリザリンが他の三人と袂を分かち、純血の魔法使いだけが学べる学校を望み、そのために『継承者の血を引く者だけが開ける部屋』を城に残したという伝承を、彼女自身は『古いお話に過ぎないと信じたい』と断りながら教える。

事件は終わらない。クィディッチ試合中、ドラコが買い与えてもらった最新箒ニンバス2001でスリザリン代表として登場し、ハリーのニンバス2000を圧倒する。だが試合中、何者かが細工した魔法のブラッジャーがハリーの右腕に集中砲火を加え、追撃のためにつかんだ手から箒を握り直そうとしたハリーの腕は、骨を折って吹き飛ばされる。試合後、保健室代行に呼び寄せられたロックハートが、得意げに『修復呪文』を試したが失敗し、ハリーの右腕は骨そのものが消失して、ぶら下がるゴム人形のようになる。マダム・ポンフリーが一晩かけて全骨を再生する『骨成長薬(スケレ・グロウ)』を飲ませる、痛みに満ちた処置の場面が挟まれる。

ポリジュース薬とドラコ尋問

二度目の襲撃で、グリフィンドール塔のクラスメート、コリン・クリービーがカメラを構えたまま石化して発見される。コリンが残したフィルムは現像中に黒く焼け焦げ、誰の目にも犯人の姿は残らない。事件が立て続けに起きるなかで、ハリー、ロン、ハーマイオニーは、ホグワーツ生のあいだで広まる『ハリー・ポッターこそが部屋の継承者ではないか』という噂——彼が後の決闘クラブで蛇語を話してしまうことで決定的になる噂——に追い詰められていく。

三人は、嘆きのマートルの女子トイレを密造工房に転用し、ハーマイオニーが図書館の禁書区域の蔵書『最も強力な魔法薬』から書き写してきた『ポリジュース薬』の調合を始める。一ヶ月かけて煮込むこの薬は、対象人物の体毛を一本入れれば、飲んだ者がその姿に一時間だけ姿を変えるという、おそろしく難度の高い物だった。三人の目的は、スリザリン塔に潜入し、ドラコ・マルフォイから『継承者は誰か』を直接訊き出すことである。

薬が完成する場面の前、ロックハートはやっとのことで開催した『決闘クラブ』で、ハリーをドラコと向かい合わせる。ドラコの放った蛇召喚呪文(セルペンソルティア)で生まれた黒い蛇が、観客の一人ジャスティン・フィンチ=フレッチリーへ襲いかかろうとする。ハリーは咄嗟に『よせ』と叫ぶが——彼の口から出たのは英語ではなく、観衆全員の背筋を凍らせる蛇の言語『パーセルタング(蛇語)』だった。観衆は息を呑む。サラザール・スリザリンが蛇語の使い手だったという伝承を全員が知っており、ハリーはこの瞬間から正式に『部屋の継承者の容疑者』として学校中に晒される。襲われかけたジャスティンもまた、後日、廊下で石化して発見される。

クリスマス当日、ポリジュース薬は完成する。三人はクラッブ、ゴイル、ミリセント・ブルストロードの体毛をそれぞれ手に入れ、ロンとハリーは食堂で前菜にチョコレートケーキを盛り、それぞれに薬を仕込んで眠らせる。ハーマイオニーだけは別室で薬を飲み、ミリセントの『体毛』のはずだった毛が実は彼女の飼い猫のものであり、ハーマイオニーは黒い毛と耳と尻尾を生やした半猫人間に変じてしまう(マダム・ポンフリーが治癒に数週間を要する)。スリザリン寮へ潜入したハリーとロンは、ドラコと共通休憩室の暖炉前で会話し、『継承者は私ではない。誰なのか父も話さなかった』『ただ五十年前にも一人マグル生まれが死んでいる』という、決定的なのにずれた情報を引き出して退散する。

トム・リドルの日記とハグリッドの過去

嘆きのマートルの女子トイレで、ハリーは床に水浸しになって流れてきた一冊の古いノートを拾う。表紙には金色で『T.M.リドル』と打刻されており、五十年前のホグワーツ生のもののようだった。ページはすべて白紙で、インクを試してみると、紙はインクを吸い込んでから何事もなかったかのように元の白さに戻る。

実験のつもりで『僕の名前はハリー・ポッターです』と書くと、紙の上に流麗な筆跡で返事が浮かぶ——『はじめまして、ハリー。私はトム・リドル。きみは秘密の部屋について調べているのかい?』。日記は対話する。ハリーが『五十年前に何が起きたか教えて』と頼むと、ページの中に映像が浮かび上がり、若き日のトム・リドルの記憶へハリーは飛ばされる。

そこで彼が見るのは、ロンドンの孤児院に育った16歳の優等生トム・リドルが、当時の校長アルマンド・ディペットに『来年も学校に残らせてください、孤児院には戻りたくない』と請うていた場面、そして地下深くで仲間の生徒に襲い掛かった『怪物』を解き放った犯人として、当時のホグワーツ番人の少年——ルビウス・ハグリッドを糾弾する場面だった。リドルの記憶の中で、若いハグリッドは押し入れから巨大な蜘蛛のような何かを逃がそうとし、リドルが現行犯で押さえつける。少女マートル・エリザベス・ワレンが当時死亡しており、ハグリッドはその責任を負わされて魔法学校を退学させられ、杖を折られていた。

目を覚ましたハリーは『五十年前の犯人はハグリッドだった』という、信じたくない結論を抱えて日記を閉じる。だが、その晩、ハリーの寝室の枕元に置いてあった日記は何者かに盗まれ、ジニー・ウィーズリーが涙目で廊下を走り去る姿を、ハリーは目の端で捉える。誰が日記を持ち去ったかという伏線は、観客には示されているが、ハリー自身は最後の最後まで気づかない。

連続石化事件とハーマイオニーの石化

ホグワーツでは襲撃が三件目、四件目と続く。リトル・ハングルトン出身のレイブンクロー生、純血の家系を持たないペネロピ・クリアウォーター、そしてマグル生まれの生徒たちが次々に石化していく。校内に防衛魔法の警備員が立ち、保護者から子どもを引き取りに来る連絡が相次ぐ。学校の存続そのものが議論の対象になり、コーネリウス・ファッジ魔法大臣が直接ホグワーツを訪れる。

ファッジは政治的圧力に屈し、『五十年前の犯人と疑われたハグリッドを再度拘束する』判断を下す。ハグリッドの小屋を訪れた一行に向かい、ハグリッドは『追いかけてくる者がいたら、蜘蛛を追え。蜘蛛を追えば、すべてが分かる』とハリーとロンに、わざと聞こえるように告げて連行されていく。ルシウス・マルフォイも同時に小屋に現れ、校長アルバス・ダンブルドアに対し、学校理事会十二名による解任決議を読み上げる。ダンブルドアは穏やかに、しかし含みを残して告げる——『真に助けを求める者がこの城にいる限り、私は本当にこの学校を離れることはありません』。

そしてもっとも衝撃的な事件が、ハーマイオニー・グレンジャーの石化である。彼女は禁書区域から借り出した古い書物の一ページを破り取って隠し持ったまま、図書館の脇の廊下で石化する。彼女が真相に最も近づいていたことを示す、その『破り取られた一ページ』を、ハリーとロンは保健室の彼女の硬直した拳から後に取り戻す。

アラゴグの森とバジリスクの正体

ハグリッドの『蜘蛛を追え』の言葉に従い、ハリーとロンは闇に閉ざされた『禁じられた森』へ夜半に踏み込む。森のあいだを走るおびただしい数の蜘蛛の列を追っていく二人を、ロンの極度の蜘蛛恐怖症が苦しめる。蜘蛛たちが消える先で彼らを待ち受けていたのは、馬車ほどの大きさの母蜘蛛——ハグリッドが五十年前に孵化させ、森に逃して育てた巨大アクロマンチュラの族長『アラゴグ』だった。

アラゴグは、ハグリッドを父と慕いながらも、二人をそのまま子孫の餌として食わせようとする。会話のなかでハリーが拾うのは決定的な手がかりである——『五十年前にハグリッドが解き放ったとされた怪物は、私ではない。私はアクロマンチュラ、蜘蛛だ。城のなかで真に恐れられているのは、私たち蜘蛛さえ忌み嫌う、別の怪物である』。アラゴグは怪物の名を口にしようとさえせず、ただ『城の奥に、誰の声でも目では捉えられない怪物がいる』とだけ告げる。

ハリーとロンはハグリッドの空飛ぶフォード・アングリア——昨秋に逃げ出したまま森で野生化していた老車——に救出されて九死に一生を得る。城に戻った二人は、ハーマイオニーが石化する直前に握りしめていた『破られた書物の一ページ』を取り出す。そこには、何世紀にも渡り魔法界が恐れた怪物について、ハーマイオニーの几帳面な筆跡で『バジリスク(Basilisk)』と書き込まれている。蛇の王、瞳を直視した者を殺し、間接的に見た者を石化させ、鶏の鳴き声と蜘蛛の天敵を恐れる、巨大な蛇。そして、その怪物が城内を移動する手段が——『水道管』だった。マグル生まれの少女マートルが五十年前に死んだ場所、ハーマイオニーが石化する直前まで疑っていた場所、それが嘆きのマートルの女子トイレの洗面台の下に潜む『秘密の部屋』の入口である。

ジニーの誘拐と秘密の部屋への降下

その夜、ホグワーツの大広間の壁に新しい血文字が浮かぶ——『継承者の骨は、永遠に秘密の部屋の中に横たわるであろう』。さらわれた生徒は、ロンの妹ジニー・ウィーズリーだった。教師たちが捜索のため動き始めるなか、ハリーとロンは、ハーマイオニーが残した手がかりを頼りに、嘆きのマートルの女子トイレへ走る。

二人を案内したのは、その浴室で永遠の少女として漂い続ける幽霊マートル本人である。マートルは五十年前、ここで『大きな黄色い目に直接見られて』死んだという、当時の自分の記憶を初めて二人に語る。蛇の意匠が彫られた洗面台の蛇口がバジリスクの入口であり、ハリーが蛇語で『開け』と命じると、洗面台は崩れ落ち、城の下層へと続く真っ暗な縦穴が口を開ける。

ロックハートが、ここで初めて自分から進んで指揮を取ると申し出る——ただし、それは生徒救出のためではなく、『真相がここまで近づいた以上、自分の名声を守るため君たちの記憶を消す』ための行動だった。ロックハートは、自分の本『俺と〇〇』シリーズの『英雄譚』が全て他者の経験を盗み聞きしてから記憶消去呪文をかけて奪った虚構であることを、得意げに告白する。だが、彼が二人へ向けた折れたままのロンの杖から放たれた『オブリビエイト』は、暴発して自分自身の記憶を吹き飛ばし、ロックハートは天井の落盤の下敷きになって、自分が誰なのか分からない『新生児めいた善人』に成り果てる。

トム・リドルの正体と「I am Lord Voldemort」

落盤でロックハートとロンと分断されたハリーは、たった一人で、巨大な蛇の彫像が並ぶ『秘密の部屋』の中央広間に出る。床は浅い水で覆われ、奥の高い壁にはサラザール・スリザリン本人の巨大な石像が彫られている。その足元の床に、半開きの目を閉じたジニー・ウィーズリーが、青白い顔を硬く凍らせて倒れている。

ジニーの脇に膝をついたハリーの背後に、ホグワーツの古い式服を着た、整った顔立ちの十六歳の少年が、煙のように立ち現れる。彼の手にはハリーの杖が握られている。少年は穏やかな声で告げる——『ジニーは死にはしない。少なくとも、まだ』。彼こそが、日記を通じてジニーの心に少しずつ自らの記憶を流し込み、少女に城の壁へ『秘密の部屋は開かれた』と書かせ、雄鶏を絞め、最終的に少女自身の生気を吸い尽くしてここに連れて来た——『記憶のトム・リドル』だった。

ハリーがリドルに『あなたは何者だ』と問うと、リドルは杖の先で水面に光る文字を書き出す。最初の綴り——『TOM MARVOLO RIDDLE』。彼は静かに杖を振り、文字の並びを宙でかき混ぜる。並べ替えられた文字は再び像を結ぶ——『I AM LORD VOLDEMORT(吾はヴォルデモート卿なり)』。本作のもっとも凍るような数秒間、観客はリドルが孤児院に育ったあの少年ヴォルデモートの本名であり、本作の悪はジニーが手にしてしまった日記そのものに巣食う『若き日のヴォルデモートの記憶』であったことを、初めて知る。

ハリーは『あなたは死にぞこないだ、ダンブルドアのいる学校では誰よりも弱い』と返す。リドルは怒りを表に出さず、ただ静かにスリザリンの石像の口へ向かって蛇語で命じる——『サラザールが残した、もっとも偉大な作品よ、来たれ』。石像の口がゆっくりと開き、その奥から、廊下に響き続けていたあの低い声の主——巨大な緑のバジリスクが、舌打ちのような音とともに姿を現す。

バジリスクとの決闘とドビーの解放

ハリーは、瞳を直視すれば即死するという掟を守るため、両目を強く閉じて床を走り回る。リドルは石像の頭上から、笑いながらバジリスクを煽る。絶望の足音のなかへ、突如、フェニックスの不死鳥フォークスが、燃えるような赤い翼でホグワーツの校長室から飛び込んでくる。フォークスは、ダンブルドアの忠誠の証としてハリーが手にしていた『分け前帽(組み分け帽)』を、その嘴に咥えて落としていく。

フォークスはバジリスクの巨大な両眼を鋭い嘴で突き、相手の致命の武器である『直視で殺す』能力を奪う。組み分け帽の中にハリーが手を突っ込むと、剣の柄が触れる——ルビーをあしらった、ゴッドリック・グリフィンドール自身の剣だった。帽の中から銀の剣を引き抜いたハリーは、瞳を潰されて闇雲に襲ってくるバジリスクの口に剣を突き上げ、頭蓋を貫通させる。が、その際に上顎の毒牙が彼の右腕を深く貫く。

床に倒れたハリーの脇で、リドルは満足げに、『きみは死ぬ。バジリスクの毒は世界最強だ、誰にも治せない』と告げる。だが、ハリーの傷口に、フェニックスのフォークスが涙を一滴落とす。フェニックスの涙の癒しの力で毒は中和され、ハリーの傷は塞がる。最後の一撃として、彼は剣の脇に転がっていたバジリスクの毒牙を握り、若きトム・リドルの日記の中心に深く突き刺す。日記からは黒いインクが血のように吹き出し、リドルは絶叫しながら煙となって霧散する。倒れていたジニーは目を覚ます。

城に戻ったハリーは、ダンブルドアの校長室で、ジニーを救った経緯と、リドルの日記そのものがジニーをこの一年間ずっと操っていたことを報告する。ダンブルドアは、ジニーの父アーサーが彼女を一切罰しない判断を確認したうえで、ハリーに『きみが孤児院で育った少年と多くを共有しているのは事実だ。しかし、何より大切なのは、私たちが持って生まれた力ではなく、私たちが選ぶ道なのだ』と諭す。本シリーズ全体を貫く、もっとも重要な台詞の一つである。

校長室の外で、ハリーはルシウス・マルフォイと再会する。日記が破壊されたことで、自分が一年前にウィーズリー家の本のあいだに密かに紛れ込ませた『主の遺品』が失われたことを悟ったルシウスは、舌打ちしてその場を去ろうとする。ハリーは、傷を負ったリドルの日記を、ルシウスが脱いだ汚れた靴下に包んで本人に押し返す。ルシウスは何の気もなしにその靴下を、足元のドビーに『始末しておけ』と投げつける。靴下を受け取った瞬間、ドビーは衝撃を受けたように立ち止まる——屋敷しもべ妖精は、主人から『衣服』を渡された瞬間に自由になるという掟があった。『主様は、ドビーに、衣服を、お与えに、なりました——ドビーは、自由です』。激昂したルシウスはハリーに杖を向けかけるが、自由を得たドビーが指の一振りでルシウスを廊下の壁まで吹き飛ばし、年長の魔法使いを退ける。

学期末の大広間で、石化していた生徒たち全員がマンドレイクから抽出された薬で目覚め、長いテーブルに着く。ハグリッドが拘束から戻り、生徒たちの拍手のなかへ照れくさそうに立つ。ダンブルドアは『試験は中止する』と告げ、子どもたちは一斉に歓声を上げる。明朗な勝利でホグワーツ2年目が締めくくられ、エンドクレジットへ続く。

登場要素

本作に登場・言及される主な要素を、人物・魔法生物・呪文・道具・場所・組織に分類して示す。固有名詞はシリーズ理解の手がかりであり、特に日記、組み分け帽、グリフィンドールの剣、フェニックスの涙は本編後半まで意味を持ち続ける。

人物

  • ハリー・ポッター
  • ロン・ウィーズリー
  • ハーマイオニー・グレンジャー
  • ジニー・ウィーズリー
  • フレッド/ジョージ・ウィーズリー
  • パーシー・ウィーズリー
  • アーサー・ウィーズリー
  • モリー・ウィーズリー
  • ドラコ・マルフォイ
  • ルシウス・マルフォイ
  • アルバス・ダンブルドア
  • ミネルバ・マクゴナガル
  • セブルス・スネイプ
  • ルビウス・ハグリッド
  • ギルデロイ・ロックハート
  • アーガス・フィルチ
  • ポピー・ポンフリー
  • コーネリウス・ファッジ
  • トム・マールヴォロ・リドル(若き日のヴォルデモート)
  • コリン・クリービー
  • ジャスティン・フィンチ=フレッチリー
  • ペネロピ・クリアウォーター
  • ニアリー・ヘッドレス・ニック
  • 嘆きのマートル
  • ドビー
  • ダーズリー家(バーノン、ペチュニア、ダドリー)

魔法生物・種族

  • 屋敷しもべ妖精(ドビー)
  • バジリスク(蛇の王)
  • フェニックス(不死鳥フォークス)
  • アクロマンチュラ(アラゴグと一族)
  • マンドレイク(マンドラゴラの幼苗)
  • コーニッシュ・ピクシー(小妖精)
  • ヒッポグリフ(言及)
  • ふくろう(ヘドウィグ、エロール、ピッグウィジョン以前)
  • 幽霊(嘆きのマートル、ニック)
  • ノーム(隠れ穴の庭の小妖精)

呪文・魔法

  • フィニートまたは火花呪文(オブリビエイト=記憶消去)
  • セルペンソルティア(蛇召喚)
  • リクトゥセンプラ(くすぐり呪文)
  • エクスペリアームス(武装解除)
  • リパロ(修復)
  • ウィングアーディウム・レビオサ
  • 蛇語(パーセルタング)
  • ポリジュース薬
  • 未成年の魔法行使禁止
  • 煙突飛行粉(フルーパウダー)
  • 未検出可能拡張呪文(ホグワーツ特急のトランク)
  • 暴れ柳の防衛魔法
  • 鼻血スラッグ呪文の暴発

魔法道具

  • トム・リドルの日記(後の分霊箱の一つ)
  • 組み分け帽
  • ゴッドリック・グリフィンドールの剣
  • フォード・アングリア(空飛ぶ車)
  • ハリーのニンバス2000
  • ドラコのニンバス2001
  • ニンバス2001(ルシウスがスリザリン選抜全員に寄贈)
  • フォークスから贈られた涙
  • ルシウスがジニーの本に紛れ込ませた日記
  • 煙突付き暖炉のフルー網
  • ロックハートの記憶消去用の杖(折れたロンの杖)
  • ロンの折れた杖(自損呪文)

場所

  • プリベット通り4番地(ダーズリー邸)
  • ウィーズリー家『隠れ穴』(オッタリー・セント・キャッチポール)
  • ダイアゴン横丁
  • ノクターン横丁(『ボージン・アンド・バークス』)
  • キングス・クロス駅 9と3/4番線
  • ホグワーツ城本館
  • ホグワーツ大広間/談話室
  • 嘆きのマートルの女子トイレ
  • ハグリッドの小屋
  • 禁じられた森(アラゴグの巣)
  • クィディッチ競技場
  • 保健室(病棟)
  • 暴れ柳
  • 秘密の部屋(サラザール・スリザリンの彫像のある地下広間)

組織

  • ホグワーツ魔法魔術学校
  • ホグワーツ四寮(グリフィンドール/スリザリン/ハッフルパフ/レイブンクロー)
  • ホグワーツ理事会十二名
  • 魔法省(不適切な魔法使用課/魔法生物規制管理部)
  • ウィーズリー家
  • マルフォイ家
  • ホグワーツ職員一同
  • クィディッチ各寮代表チーム
  • 決闘クラブ(ロックハート発案、本作のみ)

主要登場人物

本作の人物造形は、前作で『学校に入ったばかりの子どもたち』だったハリー、ロン、ハーマイオニーを、二年目という微妙な位置に置く。学校に慣れた者の気の緩み、新しく入ってきた一年生(ジニー、コリン)への戸惑い、そして昨年と同じ手段では到底解けない大きな謎の出現が、彼らの輪郭を一段濃く引き直す。

ハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ)

前作で『生き残った男の子』として英雄に祭り上げられたハリーが、本作で初めて経験するのは、その英雄性が反転して『犯人扱い』される瞬間である。彼は蛇語を話せてしまった。スリザリンの末裔だけが持つはずの能力が、なぜか自分の口から出る。そのことが、彼の自己像と、彼に向けられる学校全体の視線を大きく揺さぶる。

終盤でダンブルドアから告げられる『私たちが本当に何者であるかは、持って生まれた力ではなく、自分でどんな道を選ぶかで決まる』という言葉は、シリーズ全体を貫く倫理の出発点である。スリザリンの能力を持ちながらグリフィンドールの剣を引き抜けたハリーが、最後の最後で何を選んだか——日記を破壊し、ドビーを解放し、友を救った——という選択そのものが、彼の答えになる。

ダニエル・ラドクリフは本作で13歳。声変わりの直前の少年の身体と表情で、前作よりわずかに深い罪悪感と疲労の影を持つハリーを丁寧に演じている。

ハリー・ポッターの人物ページ

ロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グレンジャー(ルパート・グリント/エマ・ワトソン)

ロンは本作で、家族——とりわけ妹のジニーが日記に取り憑かれていく姿——という新しい荷重を背負う。折れた杖、蜘蛛恐怖症、家計の苦しさ(マルフォイ家との対比で何度も画面に出てくる)、そしてジニー誘拐の知らせを受けた瞬間の彼の崩れた表情が、二年目のロンを一気に大人びさせる。ルパート・グリントの過剰なリアクション演技は、本作の数少ない笑いの源として、暗いミステリーの全体の温度を救っている。

ハーマイオニーは本作で、シリーズで最も『推理によって物語を動かす役』を担う。ポリジュース薬の調合、禁書区域の文献からのバジリスク特定、最後に破り取って手に残した一ページ——本作で起きるすべての真相は、彼女の知性によって繋ぎ止められている。逆に言えば、彼女が中盤で石化することによって、ハリーとロンが自分たちの足で残りの真相を歩かなければならなくなる、という構造でもある。

エマ・ワトソンは本作でわずか12歳。彼女がドラコに『穢れた血(マッドブラッド)』と侮蔑される場面の傷ついた表情と、それを庇ったロンの暴発呪文(鼻血スラッグ吐き)が同時に成立するシーンは、彼ら三人組の感情の核を最も短く伝える瞬間として、何度も引用される。

ロン・ウィーズリーの人物ページ ハーマイオニー・グレンジャーの人物ページ

アルバス・ダンブルドア(リチャード・ハリス)

本作の校長アルバス・ダンブルドアは、リチャード・ハリスが演じる二度目の——そして、結果的に最後の——登板である。ハリスは本作公開直前の2002年10月25日に72歳で他界し、本作は彼の遺作のひとつとなった。アイルランド出身の名優が見せる、穏やかでありながら少しも揺るがない口調、目尻の優しい皺、長い銀の髭の奥に潜む鋼の意志——それらすべてが、シリーズが後年たどり着く『校長としてのダンブルドア像』の原型を作っている。

本作で彼が口にする『私たちが本当に何者であるかは、持って生まれた力ではなく、自分でどんな道を選ぶかで決まる』は、ローリングが原作で何度も書き換えて磨き上げた一節であり、シリーズ全体の倫理を要約する核心台詞である。リチャード・ハリスは、この台詞を、教師の説教ではなく、夜の校長室の暖炉の前で年若い友人に語りかけるように、低く穏やかに発する。

アルバス・ダンブルドアの人物ページ

ギルデロイ・ロックハート(ケネス・ブラナー)

新任の『闇の魔術に対する防衛術』教師として登場するロックハートは、本作の数少ない明確に喜劇的なキャラクターである。ケネス・ブラナーは、シェイクスピア劇とハリウッド映画の双方で名を成した英国俳優・監督であり、その彼が、自己愛と虚栄心の塊である稀代の自己宣伝家を、上品なほど大袈裟に演じる。

授業初回でコーニッシュ・ピクシーを教室で解き放ったあと制御を失う場面、ハリーの腕の骨を消す『修復呪文』の失敗、決闘クラブでスネイプにあっさり弾き飛ばされる場面、そして終盤の女子トイレで自分の杖の不始末で自分自身の記憶を消す自業自得の結末——どれも彼の自己愛そのものに見合った報いとして、観客に笑いと納得を同時に提供する。

彼の本シリーズにおける役割は、『闇の魔術防衛術』教師は毎年呪われたように一度しか務まらない、というシリーズ全体のジョーク設定(後に第6作で由来が明かされる)の、二人目の犠牲者でもある。

ルシウスとドラコ・マルフォイ(ジェイソン・アイザックス/トム・フェルトン)

ルシウス・マルフォイの初登場は本作である。長い銀髪、漆黒のローブ、蛇の頭を象った杖の柄を内蔵したステッキ。ジェイソン・アイザックスが演じるルシウスは、後にシリーズ全体の影の中心となる『闇の魔法使い再興を画策する純血主義の上流階級』を、たった数場面で完璧に立ち上げる。彼が娘ジニーが拾った『古本』のあいだに、密かにトム・リドルの日記を紛れ込ませて手放したという事実が、本作の事件すべての根本原因である。

息子ドラコ・マルフォイ(トム・フェルトン)は前作よりも数段意地悪さを増しており、ハーマイオニーへの『穢れた血』発言は本作で初めて口にされる純血主義の侮蔑語として、シリーズ全体の重要な伏線を担う。彼自身が後年苦悩することになる『純血主義者の息子』というアイデンティティが、本作で初めて画面に置かれた。

ドラコ・マルフォイの人物ページ

舞台と用語

舞台は、夏のサリー州プリベット通り、初秋のロンドン(ダイアゴン横丁/ノクターン横丁/キングス・クロス駅)、そして秋から初夏にかけてのスコットランド高地のホグワーツ城である。本作で初めて画面に現れる魔法的場所は、ウィーズリー家『隠れ穴』、ノクターン横丁の闇の魔法用品店『ボージン・アンド・バークス』、嘆きのマートルの女子トイレ、そしてもちろん地下深くの『秘密の部屋』である。とりわけ秘密の部屋の中央広間——緑色の照明、両側に並ぶ蛇の彫像、奥にそびえるサラザール・スリザリンの巨大な像、足元の浅い水面——は、本作のクライマックスのために組まれたシリーズ屈指の巨大屋内セットである。

用語面では、本作で初めて画面に登場する重要な概念がいくつもある。『パーセルタング(蛇語)』は、サラザール・スリザリンの末裔だけが受け継ぐとされる希少な能力であり、後の本編で、なぜハリーがこの能力を持っていたのか——母を守って死ぬ前夜にヴォルデモートからその力の一部が移っていたから——が決定的な伏線として回収される。『屋敷しもべ妖精(House-elf)』は、純血の上流魔法使いの家に古来仕える奉公人種族で、自由になるための唯一の条件は『主から衣服を授かること』である。『マンドレイク(マンドラゴラ)』は、引き抜くときの叫び声が成人魔法使い以外を死に至らしめる薬草で、その成熟した根が石化呪文の中和薬の原料になる。『分霊箱(ホークラックス)』という単語そのものは本作では一度も発音されないが、ジニーの日記が事実上の分霊箱第一号として機能している。

そして本作でもっとも重要な舞台装置である『秘密の部屋』そのものは、ホグワーツ城の創設の時代——千年前——に、四創設者のひとりサラザール・スリザリンが、他の三人と純血主義をめぐって袂を分かったあと、自らの末裔のためだけに城の地下に密かに残した別空間である。バジリスクの飼育、入口の蛇語による開閉、そして『真の継承者だけがこの怪物を意のままに動かせる』という掟。これらはすべて、サラザール本人の思想——『マグル生まれの生徒に魔法は教えるべきでない』——の延長として設計されている。

用語:ホグワーツ 用語:ホグワーツ四寮 用語:組み分け帽 用語:魔法ワールド

制作

ハリー・ポッター本編シリーズ第2作の製作は、前作『賢者の石』が世界興収9億7000万ドル超を記録した直後の2001年中盤に開始された。スタッフのほぼ全員——監督クリス・コロンバス、脚本スティーヴ・クローヴス、製作デヴィッド・ヘイマン、音楽ジョン・ウィリアムズ、撮影監督ロジャー・プラット、美術スチュアート・クレイグ——が前作から続投し、原作との連続性を最優先する方針が貫かれた。本セクションでは企画と脚本、キャスティング、衣装と美術、視覚効果、音楽と音響、撮影と編集を分けて整理する。

企画と脚本

脚本はシリーズの大半を担うことになるスティーヴ・クローヴスが続投した。クローヴスは『恋する人魚たち』『ワンダー・ボーイズ』など、文学的な人物像を映画化することで知られる脚本家であり、彼の脚本作法は『原作の長さを削るのではなく、感情の核を選び、その周辺を残す』というものだった。本作の脚本は原作よりさらに長く、撮影完了時の劇場公開版は161分(拡張版は174分)と、シリーズの長尺路線の流れを決定づけた。

原作にあった重要要素のうち、本作の脚本で唯一大きく削られたのは『絶滅日(デスデイ)パーティ』、すなわちニアリー・ヘッドレス・ニックの幽霊500周年命日の地下夜会である。劇場公開版では完全にカットされ、拡張版で復活した。日記の中の若きトム・リドルの回想場面も、原作の細部より大幅に短縮されたが、五十年前のハグリッド少年とリドル少年のあいだの緊張関係は、ほぼ原作通りに映像化された。

脚本上の決定的な発明のひとつが、終盤の『TOM MARVOLO RIDDLE』を『I AM LORD VOLDEMORT』に並べ替える場面の演出である。原作では文字を空中で並べ替える描写だったが、映画ではリドルが杖の先で水面に書いた光の文字を、宙でゆっくりとアナグラムさせて見せる演出に翻案された。

キャスティング

前作の主要キャストはほぼ全員が続投した。ハリー役のダニエル・ラドクリフ、ロン役のルパート・グリント、ハーマイオニー役のエマ・ワトソン、ドラコ役のトム・フェルトン、ハグリッド役のロビー・コルトレーン、マクゴナガル役のマギー・スミス、スネイプ役のアラン・リックマン、ダンブルドア役のリチャード・ハリス。三人の主役は、撮影当時いずれも12〜13歳という、声変わりと身長差が一年で大きく変わる年齢にあった。

本作で初登場の主要キャストとして、ギルデロイ・ロックハート役にケネス・ブラナー、ルシウス・マルフォイ役にジェイソン・アイザックスが起用された。アイザックスは元々ロックハート役のオーディションを受けていたが、監督コロンバスは彼の『冷たい上流階級の悪』にこそ価値があると判断し、彼に長い金髪のかつらを与えてルシウス役へ配役を切り替えたという逸話が、後年のDVD特典で語られている。

屋敷しもべ妖精ドビーは完全なCGキャラクターであり、声優として英国俳優トビー・ジョーンズが起用された。低めだが少年めいた、強い感情の波がそのまま身体ごと震えるような声が、ドビーの自己罰の場面と、ラストの自由の宣言の場面を、シリーズで最も忘れがたい瞬間に押し上げた。トム・リドル役には英国の若手俳優クリスチャン・コールソンが、撮影時22歳で配役された。十六歳に見せるための髪型と肌の処理が施され、リドルの『端正だが冷たい』雰囲気が、ヴォルデモート像の起点として記録された。嘆きのマートルにはシャーリー・ヘンダーソン(撮影時すでに36歳だったがシリーズ中もっとも年齢を偽った配役の一つとなった)、アラゴグの声には英国の重鎮ジュリアン・グラヴァーが充てられた。

美術とプロダクションデザイン

美術監督はスチュアート・クレイグ。彼はシリーズ全8作と続編『ファンタスティック・ビースト』3作の全作で美術を担当し続けることになる、シリーズ最大の継続性の鍵となる人物である。本作で新規に組まれたのは、ウィーズリー家『隠れ穴』の縦に増築された塔のような家屋、ノクターン横丁の店内、そして本作のクライマックスのために英国リーヴスデン・スタジオに恒久的に組まれた『秘密の部屋』の中央広間である。

秘密の部屋の広間は、両側に十数体並ぶ蛇の彫像、奥にそびえるサラザール・スリザリン像(高さ約12メートル)、床に張られた浅い水の反射、緑がかった照明、湿気を帯びた空気を表現するための霧の機械投射といった要素で組み上げられている。バジリスクの彫像から這い出る巨大な蛇は、フレームストアによる完全なCGモデルで、頭部のみ実物大のアニマトロニクスの頭を一部の接近ショットで使用した。

ドビーは本作におけるCGの最大の挑戦のひとつだった。表情、動き、衣装(古い枕カバーを着ているという原作設定)、そして声優トビー・ジョーンズの動きを参考にしたモーション・キャプチャ素材を組み合わせ、最終的に1100カット以上の合成が行われた。劇場公開時点で『完全にCGの主要キャラクター』としては当時の最高水準の達成と評価された。

視覚効果

視覚効果は、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)、フレームストア、MPC(ムービング・ピクチャー・カンパニー)、ダブル・ネガティブなど複数の主要VFXスタジオが並行担当した。とりわけ難度が高かったのは、空飛ぶフォード・アングリアの長時間飛行シークエンス、暴れ柳の動的シミュレーション、クィディッチ試合中のブラッジャー追跡カメラ、フェニックスのフォークスの炎と再生、そしてバジリスクの暴走である。

暴れ柳の場面は、原作の重要な記号でありながらも、現実の樹木の枝を機械的に動かすには重量と速度の制御が極めて難しいため、ロケで撮影した一本のオーク巨木をベースに、枝の挙動をすべてデジタル合成で乗せる手法が採られた。フォード・アングリアが柳の枝に握られて振り回される場面のショックは、車体の物理的なロケ撮影と、枝のCG挙動と、車内の演技撮影を三層に重ねた合成によって作られた。

フェニックスのフォークスは、燃え尽きて卵から再生する場面、バジリスクの目を突く場面、ハリーの傷に涙を落とす場面、組み分け帽を運び込んでくる場面と、シリーズ全体でも最も多用された魔法生物のひとつになった。本作のフォークスのモデルは、その後の全シリーズで継承される基本モデルとなる。

音楽と音響

音楽は、前作に続きジョン・ウィリアムズが作曲を担当した。ただし、本作と並行して『ターミナル』『マイノリティ・リポート』『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』などスティーヴン・スピルバーグ作品を抱えていたウィリアムズは、本作のスコアの大半をテーマと主要場面に絞って書き、それ以外の補助スコアの編曲・指揮は、長年の共同作業者ウィリアム・ロスに委ねられた。

前作で確立された『ヘドウィグのテーマ』『ホグワーツの大広間』『ニンバス2000』などの主題は本作でも繰り返し使用され、新たに『フォークスのテーマ(フェニックスのアリア)』、本作の戦闘の核となる『秘密の部屋の主題(バジリスクのモティーフ)』、そしてエンドクレジット用の祝祭主題が書き下ろされた。フォークスのテーマは、ハープと女性ソプラノの無歌詞ヴォカリーズで構成され、シリーズ全体でも最も繊細な楽曲のひとつとされる。

音響デザインでは、バジリスクが城の壁の中を移動するときの低い擦過音、ハリーにだけ聞こえる『裂け……殺せ』の蛇語の通奏低音、そして秘密の部屋の中央広間の濡れた足音と石の反響が、本作全体に通底するホラー要素を支えている。

撮影とロケ

撮影監督はロジャー・プラット(『未来世紀ブラジル』『マイ・レフトフット』『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』)。本作は2001年11月にプリンシパル撮影を開始し、2002年7月までの約8ヶ月を費やした。ホグワーツ城の内外景は前作と同じく英国リーヴスデン・スタジオを拠点に、グレートホール、動く階段、図書館、ダンブルドアの校長室など、前作で組まれた既存セットが再利用された。

ロケ撮影では、グロスター大聖堂の回廊(廊下の血文字場面)、ダラム大聖堂(廊下と教室の追加場面)、ホリーヘッドのスコットランド高地(ホグワーツ屋外)、ヴァージニア・ウォーター(隠れ穴の屋外)、ロンドンのキングス・クロス駅本駅(9と3/4番線の場面)、ロンドン市内の各種通り(ダイアゴン横丁の屋外参考素材)などが使用された。

ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンの3人は、撮影当時すでに学業との両立が厳格に制限されており、撮影現場には3人それぞれの専任教師が同行し、英国の児童労働法に基づき1日あたりの撮影時間と授業時間が厳密に管理されていた。本作の長い撮影期間は、子役の身長と顔つきが目に見えて変化していく一年でもあり、本作全体を通して観るとハリー、ロン、ハーマイオニーの背丈が冒頭と終盤で異なって見える、というシリーズの特徴がここから始まる。

編集

編集はピーター・ホネス(『ザ・ロック』『L.A.コンフィデンシャル』)。本作は『プリベット通り→隠れ穴→ダイアゴン横丁→ホグワーツ』という移動のリズムを丁寧に編むことに重点が置かれた。とりわけ前半1時間の隠れ穴とダイアゴン横丁の生活描写は、シリーズの『生活感のあるファンタジー』の核を成すパートとして、原作の細部を可能な限り残す方針で組まれた。

終盤の秘密の部屋シークエンスは、編集上の最大の負荷である。ロックハートの記憶消去呪文の暴発による天井落盤、ハリーとロンの分断、ロックハートとロンが落盤の向こうで瓦礫を一本一本どかす『救出側』の進行、ハリーが地下広間でリドルとバジリスクと対峙する『戦闘側』の進行を、編集上クロスカットで畳みかけながら、観客を一度も置き去りにしないテンポで組み上げる必要があった。

公開と興行

本作は2002年11月15日に英国・米国で同時公開され、日本では同年11月23日に全国公開された。北米での週末興収オープニングは約8800万ドル、最終的に北米約2億6200万ドル、全世界興収は約8億7900万ドルに達した。当時のワーナー作品としては前作『賢者の石』に次ぐ大ヒットで、2002年の世界興行収入では『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』に次ぐ第2位を記録した。

日本国内では、公開4日間で興収約16億円、最終的に約173億円を記録し、2002年の外国映画首位、邦画含む年間興行第3位(『千と千尋の神隠し』『猫の恩返し』に続く)となった。本作のヒットによって、ワーナー・ジャパンと東宝東和の合同配給体制が確立し、以後のハリー・ポッター本編は日本での年末興行の定番作品として位置付けられていく。

受賞面では、第29回サターン賞のファンタジー映画賞と最優秀若手俳優賞(ダニエル・ラドクリフ)を受賞した。第56回英国アカデミー賞では美術賞、視覚効果賞、メイクアップ・ヘアスタイリング賞などにノミネートされ、第60回ゴールデングローブ賞、第26回日本アカデミー賞最優秀外国作品賞などにもノミネートされた。

本作の成功は、シリーズ全8作の継続を確かなものとし、第3作『アズカバンの囚人』(2004)でアルフォンソ・キュアロン監督への交代、第4作『炎のゴブレット』(2005)でマイク・ニューウェル監督への交代、そして第5作以降のデヴィッド・イェーツ4作連続監督という、後年のシリーズ展開の前提を作った。

批評・評価・文化的影響

公開時の批評家評価は、前作『賢者の石』と同水準の概ね好意的なレビューに着地した。米国の主要批評集計サイトでは批評家支持率がおおむね80%前後、観客評価はさらに高い水準で、原作の長尺ながら充実した映像化として歓迎された。一方で『161分は子ども向け映画として長すぎる』『同じ監督による前作の延長線上の演出で、トーンに新しさがない』という批判もあった。

後年の再評価では、本作はシリーズ全体の中で『最も原作に忠実な一本』として位置付けられることが多い。第3作以降、監督交代とともにシリーズの映像表現はより暗く・より省略的にシフトしていくため、本作は『コロンバス時代のホグワーツ』を最も完全な形で保存した記録としての価値を持つ。子どもの目から見たホグワーツの広さ、グレートホールの賑わい、寮の暖炉の暖かさ、廊下を行き交う生徒たちの軽口——これらが画面いっぱいに撮られた本編は、本作で事実上のピークを迎えた。

文化的には、本作の終盤『TOM MARVOLO RIDDLE』→『I AM LORD VOLDEMORT』のアナグラム場面が、シリーズ全体のミステリーの根幹を可視化した瞬間として記憶されている。日記そのものが後年『分霊箱(ホークラックス)』の第一号だったと第6作『謎のプリンス』で再確認されることで、本作のクライマックスはシリーズ最終巻まで連なる長大な伏線の最初の一手であったことが回顧的に明らかになる。本作の最後の数十秒——ドビーが靴下を受け取り『ドビーは自由です』と宣言する瞬間——は、後年第7作『死の秘宝 PART1』のシェル・コテージの庭でのドビーの死と並んで、シリーズ最大の感情の対をなす場面である。

舞台裏とトリビア

リチャード・ハリス(ダンブルドア役)は本作公開直前の2002年10月25日にホジキンリンパ腫により72歳で他界した。本作は彼の遺作のひとつであり、エンドクレジットには彼への追悼の献辞は付されていないが、撮影中の彼の最後の校長室シーンを、監督コロンバスとプロデューサーのヘイマンが『シリーズで最も美しいダンブルドアの登場』として後年のインタビューで繰り返し挙げている。続編『アズカバンの囚人』からは、アイルランドの名優マイケル・ガンボンが配役を引き継ぐ。

ハリー、ロン、ハーマイオニー役の三人の身長は、撮影開始から終了までの8ヶ月のあいだに目に見えて変化した。とりわけルパート・グリントとダニエル・ラドクリフは数センチ単位で背が伸び、ホグワーツの制服のローブが本作後半のシーンでは丈の合わないように見えるカットも存在する。声変わりも撮影期間中に進行し、編集上の音声整合のためADR(後録り台詞)が多用された。

屋敷しもべ妖精ドビーは、原作者J.K.ローリングが映画化に際してもっとも『カットしないでほしい』と願ったキャラクターであり、CG表現の難度の高さにもかかわらず、本作で完全な姿で映像化された。トビー・ジョーンズの声優としての貢献は本作以後、シリーズの『脇キャラを主役級の感情で支える』伝統の起点となった。

ギルデロイ・ロックハート役は当初ヒュー・グラントが内定していたが、スケジュールの都合で降板し、ケネス・ブラナーが代役で配役された。ブラナーは原作の『虚栄心の塊だが憎めない』像を、自身の演出家としての経歴を逆手に取って、過剰な自己愛の喜劇として完成させた。

終盤のアナグラム場面は、各言語版で訳語ごとに別のアナグラムを再構成する必要があった。日本語版字幕では『トム・マールヴォロ・リドル』が『闇の王ヴォルデモート卿』として並べ替えられる吹替・字幕処理が施されている。各言語版でリドルの中間名『マールヴォロ』が異なる綴りに変えられている理由は、すべてこのアナグラム成立のためである。

テーマと解釈

中心テーマは『血筋ではなく選択で人は決まる』である。サラザール・スリザリンが千年前に残した『純血の生徒だけが学ぶべき』という思想と、その末裔としての血を引きながらマグル生まれを愛する母親から生まれたトム・リドル=ヴォルデモート、そして同じく蛇語を話せるがマグル生まれを庇うハリー——この三層の対比のなかで、終盤のダンブルドアの台詞『私たちが本当に何者であるかは、持って生まれた力ではなく、自分でどんな道を選ぶかで決まる』が、本作の倫理の核として配置される。蛇語が話せるという『血の力』を持ちながら、グリフィンドールの剣を引き抜けた——その対比そのものが、本作のテーマの可視化である。

もう一本の柱が『抑圧された者の解放』である。屋敷しもべ妖精ドビーは、ハリーを救うために主の家から無断で動き、自らを罰し続けながらも警告を続けた。終盤、ハリーが古い靴下にリドルの日記を包んでルシウスに返すという、ほんの数秒の機転によって、ドビーは千年単位で続いた『主に縛られる隷属』から解放される。シリーズ後半で『屋敷しもべ妖精解放戦線(S.P.E.W.)』としてハーマイオニーが追求するテーマも、本作のこの一場面に源流がある。

そして第三のテーマが『記憶という凶器』である。トム・リドルの日記は、ジニーの心を読み取り、その記憶を吸い上げ、少女の生気そのものを糧に自分の姿を再構成しようとする。これは原作後半で明示される『分霊箱(ホークラックス)=魂の一部を物に分けて保存することによる擬似不死』の最初の具体例であり、本作の悪は『過去の自分を物に封じ込めて他者を食う者』として描かれている。リドルが終盤、ジニーの手から日記を奪い返したハリーに対し『きみは死ぬ』と告げた直後、ハリー自身がその日記の中心にバジリスクの牙を突き立てて『過去の自分を内側から殺す』という構図は、シリーズ全体の最終決戦を、ここで一度先取りしている。

見る順番(補助)

初見であれば、必ず前作『賢者の石』を先に観たうえで本作に進んでほしい。プラットフォーム9と3/4、ホグワーツ四寮、組み分け帽、ニンバス2000、ヴォルデモートが両親を殺したこと、ハリーの額の傷の意味——これらすべてが本作では既知のものとして扱われ、改めて解説されることはない。本作は前作の続きであることを前提に編まれている。

本作のあとは、第3作『アズカバンの囚人』、第4作『炎のゴブレット』、第5作『不死鳥の騎士団』、第6作『謎のプリンス』、第7作『死の秘宝 PART1』、第8作『死の秘宝 PART2』の順で観るのが標準である。とくに本作で登場したトム・リドルの日記は、第6作で『分霊箱の第一号』であったことが正式に判明し、本作の最後の数分が物語の最深部まで連なっていたことが回顧的に分かる構造になっている。

ファンタスティック・ビースト三部作(2016/2018/2022)は、本編8作を通したあとの『前日譚としての追加観賞』として位置付けるのが入りやすい。本作の悪のひとつ『純血主義』の思想的源流が、ファンタスティック・ビースト続編のグリンデルバルドへとつながる流れを意識して観ると、シリーズ全体の倫理的構造が見えてくる。

  1. 前作『賢者の石』でハリーがホグワーツに入学(1991年9月)
  2. 本作ホグワーツ2年目(1992年9月-1993年6月)/日記と秘密の部屋
  3. 次作『アズカバンの囚人』でシリウス・ブラックが脱獄(1993年9月-)
  4. 最終決戦第8作『死の秘宝 PART2』で本作の日記=分霊箱第一号の意味が完結(1998年)
前作:賢者の石 次作:アズカバンの囚人 魔法ワールド映画一覧 公開順で見る 時系列順で見る 初心者向けガイド あらすじでつなぐ見方ガイド

よくある質問(補助)

『あらすじだけ知りたい』場合は、ドビーがハリーの帰校を阻もうとし、それでも戻ったハリーがホグワーツで起き始めた連続石化事件と『秘密の部屋』伝説の真相を追い、嘆きのマートルの女子トイレの下の地下空間で巨大なバジリスクを倒し、その正体だったトム・リドル=若き日のヴォルデモートの日記を破壊する、という流れを押さえれば十分である。

『結末・ネタバレを知りたい』場合は、誘拐された妹ジニーが日記に取り憑かれた本人だったこと、地下にいた美しい少年がトム・マールヴォロ・リドル=後のヴォルデモートだったこと、ハリーが組み分け帽から引き抜いたグリフィンドールの剣でバジリスクを倒し、そのバジリスクの毒牙で日記を貫いて勝負を決したこと、そしてラストでドビーが靴下によって解放されたことが核となる。

『なぜハリーは蛇語が話せるのか?』に対しては、本作では『何らかの理由で』としか説明されないが、後の第4作『炎のゴブレット』および第5作『不死鳥の騎士団』にて、ハリーが赤ん坊だったときヴォルデモートが彼を殺そうとして失敗した結果、ヴォルデモートの能力の一部がハリーに移ってしまったから、と明らかにされる。

『リチャード・ハリスのダンブルドアは本作が最後か?』に対しては、はい、本作が彼の遺作にあたる。第3作『アズカバンの囚人』からは、アイルランドの名優マイケル・ガンボンが校長役を引き継ぐ。

『本作と原作小説の違いは?』に対しては、絶滅日(デスデイ)パーティの場面が劇場版でカット(拡張版で復活)されたほか、若きトム・リドルの五十年前の回想場面がかなり短縮されている。それ以外の主要場面は、本シリーズの中でも特に原作に忠実に映像化されている。

参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、各種権利はそれぞれの権利者に帰属する。公開年・興行・受賞・配信状況・外部評価は変動しうるため、視聴前に公式および各データベースの最新表示を確認されたい。本記事の本文は各種公開情報をもとに、Anna Movies用の独自の日本語文章として構成している。

  1. Harry Potter公式(Wizarding World)作品ページ
  2. Wizarding World公式
  3. Harry Potter Wiki(英語)Harry Potter and the Chamber of Secrets (film)
  4. IMDb: Harry Potter and the Chamber of Secrets (2002)
  5. BAFTA: 2003 Awards Nominees

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参照・確認先

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