物語 / 単行本
単行本第0巻
『HUNTER×HUNTER』第0巻「クラピカ追憶編」を解説。パイロとシーラ、外出試験、緋の眼、クルタ族虐殺までの前日譚を整理する。
第0巻「クラピカ追憶編」は前後編の読切を収録し、2013年1月12日から映画入場者へ配布された。2023年7月4日には電子版が刊行されたが、初版付録の作者質問企画などは収録範囲が異なる。
本編開始以前のクラピカとパイロを描き、外の世界へ出る約束から、クルタ族虐殺が報じられる六週間前までを扱う。虐殺そのものの全過程を描く巻ではない。

第0巻で外の世界を夢見る幼いクラピカとパイロ 引用『HUNTER×HUNTER』冨樫義博

負傷した旅人シーラと出会うクラピカ 引用『HUNTER×HUNTER』冨樫義博

旅立ち前にパイロとの約束を思うクラピカ 引用『HUNTER×HUNTER』冨樫義博

クラピカが旅立つ前のパイロとクルタ族 引用『HUNTER×HUNTER』冨樫義博

旅立ちから六週間後に報じられるクルタ族虐殺 引用『HUNTER×HUNTER』冨樫義博
基本情報
| 媒体 | 漫画読切・特典冊子 |
|---|---|
| 巻数 | 第0巻 |
| 巻題 | クラピカ追憶編 |
| 初回配布 | 2013年1月12日 |
| 収録 | 前編・後編 |
外の世界を望む二人
クルタ族の集落で、幼いクラピカは外出を認めない長老へ繰り返し反発する。閉鎖された生活を安全だけとは受け取れず、自分の目で世界を確かめたい。
親友パイロは外部の人々が緋の眼を恐れ、差別する危険を説明する。それでもクラピカの望みを否定せず、二人で旅をする未来を共有する。
一年ほど前に傷ついた旅人シーラと会ったことが、憧れを具体化した。彼女からもらった『Dハンター』を読み、知らない土地を進む冒険者の姿へ自分たちを重ねる。
シーラが残した本
シーラは負傷のため森へ留まり、クラピカとパイロから助けを受ける。外部の人間を一律の敵と教えられていた二人にとって、会話できる旅人の存在自体が規則への反例になる。
彼女が去った後も『Dハンター』は残り、二人の計画を支える。物語の本が現実の外出を安全にするわけではないが、見たことのない世界を想像する共通言語になる。
シーラの後年の行動と虐殺の因果は、この巻だけでは確定しない。出会い、贈書、旅立ちという確認できる事実と、後の事件を結ぶ推測を分ける必要がある。
外出試験と目薬
長老はクラピカへ外出試験を認める。学科に相当する二段階を通過した後、近隣のナンチャ市で買い物を完了する実地試験が課される。
出発前には特殊な目薬を使い、二十四時間以内に感情で眼が赤くなれば、その状態が戻らない仕掛けを施す。緋の眼を街で見せず、挑発へ耐えられるかを測る条件である。
クラピカは同行者にパイロを選び、三羽のピコを連れて出る。試験は一人の能力だけでなく、負傷した友人を守りながら買い物と帰還を終える課題になる。
パイロの負傷と約束
パイロの眼と脚の障害は、崖から落ちかけたクラピカを救った際の負傷に由来する。クラピカは自分の外出願望と友人の身体を切り離せず、外で治療法を探すと誓う。
パイロは保護されるだけの同行者ではない。街でクラピカの怒りを止め、目薬を自分の薬と入れ替え、試験を通過させるため主体的に動く。
二人が望む旅は、クラピカだけが先へ進むものではない。治療後に時間制限なく一緒に冒険する未来を想定しているため、出発時の別れにも再会が前提としてある。
ナンチャ市の挑発
百貨店では三人の男がパイロへ絡み、買い物を妨害する。周囲の市民が二人を助け、外部世界に差別だけでなく、見知らぬ子供を守る人もいると分かる。
帰路でも男たちは通行料を要求し、最後にはパイロを転ばせて障害を侮辱する。クラピカは怒りで緋の眼となり、三人を容易に倒しても謝罪を受け入れられない。
男たちは長老に雇われ、挑発役を演じたと白状する。ただしパイロへの暴力と侮辱は依頼の範囲を越えた。試験の仕掛けだった事実は、実際に加えた害を正当化しない。
街の善意と排斥
男たちが退いた後、百貨店で助けた老女まで小石を投げ、二人を悪魔の使いと呼ぶ。孫娘も、怒らせれば皆が殺されると恐れ、緋の眼への偏見を露わにする。
先ほど味方した人々が集団の恐怖へ転じることで、外部世界を善人と悪人へ単純に分けられない。個人への同情があっても、クルタ族という属性を知れば態度が変わる。
クラピカは反撃せず村へ戻る。試験の合否だけなら眼が赤くなった時点で失敗に見えるが、パイロの入れ替えと、最後の排斥へ耐えた行動が長老の評価を変える。
合格と旅立ち
パイロは目薬をすり替えたことを明かし、長老もクラピカの合格を認める。規則違反を見抜けなかったのではなく、街での判断と帰還までを含め、外へ出る力があると認めた。
長老は期限を定めず外出を許可し、パイロの病状を書いた封筒を渡す。クラピカは医師を探し、治療法を持ち帰る具体的な目的を得る。
別れ際、パイロは治療だけでなく、Dハンターのように楽しい旅をするよう約束させる。使命だけへ自分を追い込まず、外の世界を経験して帰ることが二人の約束だった。
六週間後の虐殺
クラピカの出発から六週間後、クルタ族百二十八人の虐殺が世界へ報じられる。緋の眼は奪われ、遺体には眼をより鮮やかにするため強い感情を引き出した痕跡が残る。
現場には、奪う者への報復を示す流星街と同じ文言が置かれていた。ただしメッセージの存在だけで、実行者全員の出自、依頼関係、事件の全動機まで確定するわけではない。
第0巻は旅立つクラピカ本人へ虐殺を目撃させない。楽しい旅と治療を約束した直後に、帰る場所とパイロを失った事実だけを読者へ示し、本編の復讐目的へつなぐ。
本編へ残る記憶
クラピカが長老へ反発する理由は、閉鎖生活への退屈だけではない。外部の書物を読み、シーラという実在の旅人へ会ったため、危険を理由に世界全体を禁じる説明へ納得できなくなった。知識が規則への疑問を具体化する。
長老の試験にも、緋の眼を見せれば集落全体の所在が知られるという現実的な恐れがある。ただし男たちを雇って挑発させ、パイロへの侮辱まで招いた方法は安全教育の範囲を越える。目的の正しさが手段を免責しない。
パイロが目薬をすり替えたことで、形式上の判定は操作される。それでもクラピカは街の買い物を終え、友人を連れ帰り、最後の投石へ反撃しなかった。長老は薬の結果だけでなく、一連の行動から外出を認める。
ナンチャ市の人々は最初から一様に差別的ではない。百貨店で助けた市民も、緋の眼を見た後には恐怖へ動く。個人として接した時の善意と、クルタ族へ抱く伝聞上の偏見が同じ人物内で衝突する。
クラピカが男たちの謝罪を拒む場面では、緋の眼による身体能力の上昇と感情の持続が表れる。後の絶対時間とは別の、生来の身体的特徴である。幼少期から怒りが戦闘力と露見危険を同時に増やす。
パイロは脚と眼を負傷していても、判断力と交渉でクラピカを支える。守られる弱者としてだけ描かれず、試験突破の仕掛けを作り、怒りを止め、旅の目的まで修正する。二人の関係は相互的である。
別れの約束が治療だけなら、クラピカは医師を見つける仕事へ集中できた。パイロは楽しい旅も求め、使命以外の経験を持ち帰るよう頼む。虐殺後のクラピカが復讐へ生活を絞るほど、この約束との距離が広がる。
虐殺報告にある百二十八人という人数と現場の文言は、事件後に外部へ伝わった情報である。第0巻は実行場面を直接描かず、誰がどの順で何をしたかを全て確定しない。残酷な結果とクラピカの不在が中心になる。
物理版は映画『緋色の幻影』の来場者先着特典であり、通常巻と流通経路が異なる。電子版は物語の前後編を読めるが、初回冊子にあった映画資料や作者への質問企画は同一内容ではないため、版を分けて扱う。
第0巻としての位置づけ
巻数は0だが、連載開始前に刊行された通常の第一巻ではない。本編が進んだ後に描かれた前日譚を、映画公開時の特典として冊子化したものだ。読む順序によってはクラピカの復讐理由を先に詳しく知る。
前後編は『週刊少年ジャンプ』に掲載された読切で、冊子には映画資料と作者への質問企画も加えられた。2023年の電子版は物語を再読できる一方、特典冊子全体を完全複製した版ではない。
『緋色の幻影』にはクラピカとパイロの関係を用いる独自物語があるが、第0巻の出来事すべてが映画版と同一ではない。漫画前日譚と映画の事件を別媒体として管理する必要がある。
本編のクラピカが語らない幼少期を読者だけが知るため、復讐者という現在像へ別の尺度が加わる。医師探しと楽しい旅を望んだ少年が、なぜ眼の回収へ人生を集中させたかを、失われた約束から読める。
緋の眼をめぐる二つの危険
緋の眼は感情が高ぶると発現し、身体能力も上げる。クラピカにとって自衛の力になる一方、外部へ種族を知られ、希少品として狙われる印にもなる。強さと被害の原因が同じ身体特徴へ重なる。
長老は露見を防ぐため怒りを抑える試験を課す。しかし街の人々が恐れるほど、侮辱や暴力が増え、発現条件を自ら作ってしまう。偏見が危険を避けるのではなく、恐れた現象を誘発する。
虐殺者は緋の色を鮮やかにするため、被害者の前で家族を傷つけたと報告される。怒りを抑えるという外出試験の条件が、後には収集価値を上げるため逆用される。
クラピカは生き残ったことで、眼を取り戻す唯一の当事者になる。外へ出た選択が命を救った一方、その不在によって家族を守れなかった罪悪感も背負う。合格と喪失が同じ旅立ちから生じる。
本編でクラピカが緋の眼を競売や人体収集家から回収する行為は、第0巻の家族生活を知ると単なる美術品奪還ではなくなる。一対ごとに名前と関係があった身体の一部を故郷へ戻す仕事である。
単行本第0巻が残したもの
第0巻は、クラピカがパイロと外の世界を夢見て試験を通過し、旅立った六週間後に故郷を失う前日譚である。
緋の眼をめぐる差別は街の悪意だけでなく、善意を示した人々の恐怖にも表れる。
パイロとの約束は治療と楽しい旅だったが、虐殺後のクラピカには緋の眼回収と復讐が残る。