第4話「奇跡も、魔法も、あるんだよ」は、巴マミの死後も続く日常と、美樹さやかが契約へ踏み切るまでを描く。まどかとさやかは魔法少女になる話を断り、キュゥべえとも別れる。しかし上条恭介は、二度とヴァイオリンを弾けないという診断に絶望していた。さやかは彼を救う方法を知っているからこそ、何もしない選択へ耐えられなくなる。
マミの死を知る者がいない日常
学校では、マミが亡くなった事実を誰も知らない。身寄りのない彼女は行方不明者として扱われるだけで、命を懸けて街を守ったことも共有されない。まどかは教室の日常が変わらず続くことに苦しみ、魔法少女になる勇気はないとキュゥべえへ伝える。
さやかも契約を断ったように見えるが、恭介の見舞いは続けている。二人ともマミの死を恐れている一方、さやかには願いで救える具体的な相手がいる。この差が、同じ経験をした二人の進路を分ける。

恭介が失った音楽
病室で恭介は、自分の左手が現在の医療では元に戻らず、演奏家として復帰できないと告げられた苦しみをさやかへぶつける。音楽を聴かせようとする善意も、二度と自分では演奏できない現実を思い出させてしまう。さやかは彼の絶望を前に、奇跡を起こせる契約を意識する。
題名の言葉は、恭介が現実には存在しないと嘆く奇跡と魔法を、さやかが実行できることへの応答になっている。ただし、願いによって腕を治すことと、さやか自身が幸福になることは同じではない。その違いはまだ本人にも見えていない。
志筑仁美と集団自殺未遂
帰宅途中のまどかは、首筋に魔女の口づけを受けた志筑仁美を見つける。仁美は同じ印を持つ人々と廃工場へ入り、洗剤などを混ぜて有毒ガスを発生させようとしていた。まどかは薬品の入った容器を窓から投げ出して止めるが、操られた人々に囲まれ、魔女の結界へ引き込まれる。

ハコの魔女は、マミを失ったまどかへ自己否定を重ねるような映像を見せる。戦う力のないまどかは抵抗できず、使い魔に追い詰められる。この危機を救うのは、ほむらではない。恭介の腕を治す願いで契約を終えたさやかである。
魔法少女となったさやか
青い衣装と剣を得たさやかは、結界へ現れて魔女を倒す。恭介の治癒と友人の救助が同時にかなったため、この時点の彼女には契約が正しい選択だったと感じられる。マミの志を継ぎ、人を守る魔法少女になるという自己像もここで固まる。
その様子を知った佐倉杏子は、マミのいなくなった見滝原と新しい魔法少女へ関心を向ける。第4話は喪失から再出発する回に見えるが、さやかが代償を知らないまま成功だけを受け取ったこと、別の価値観を持つ杏子が近づくことで次の対立を準備している。

マミの死後に残る日常
翌日の学校では、巴マミが亡くなった事実を知る者はほとんどいない。彼女には同居する家族がなく、魔法少女としての戦いも社会へ知られていない。まどかとさやかだけが喪失を抱えながら、授業と会話が続く。英雄的に戦った人物が、日常から静かに欠落する残酷さが描かれる。
まどかはキュゥべえへ契約を断る意思を示す。これは恐怖から逃げただけではない。マミの生き方へ憧れながら、その代価を見た上で、自分には引き受けられないと判断した結果である。キュゥべえは決定を責めずに去るが、契約の機会自体は別の危機によって再び現れる。
契約の瞬間を直接見せない効果
さやかがキュゥべえへ願いを告げる場面は詳しく描かれず、恭介の回復と魔法少女としての登場によって契約成立が分かる。視聴者は奇跡の成果を先に受け取り、代価や迷いを本人の説明から推測することになる。契約を華やかな変身の出発点として強調せず、日常の決断が取り返しのつかない状態へ接続したことを示す構成である。

まどかにとっても、友人が自分の知らない間に契約者になった事実は大きい。二人で相談していた選択が、恭介の事情によって一人の決断へ変わり、以後は同じ条件で話せなくなる。この情報と立場のずれが、さやかの孤立を早い段階から準備している。
上条恭介の絶望とさやかの決断
さやかが見舞う恭介は、治らない腕と、続けられない音楽人生への怒りを露わにする。さやかが持参した音楽を拒み、現代の医療では回復できない現実を突き付ける。彼を支えたいさやかにとって、キュゥべえの奇跡は唯一の解決策として急速に現実味を帯びる。
さやかの願いは純粋に他者を救うものだが、自分が恭介にとって特別な存在になりたい気持ちも含む。本人はその期待を利己的と感じ、正義の願いとして語ろうとする。この時点で願いの表向きの目的と、言葉にできない感情の間にずれがあり、後の後悔へつながる。

志筑仁美と集団自殺の危機
魔女の口づけを受けた仁美は、同じ印を持つ人々と廃工場へ集まり、洗剤などを混ぜて有毒ガスを発生させようとする。魔女は人を直接襲うだけでなく、絶望した本人の選択に見せかけて死へ誘導する。日常の友人が被害者になることで、魔法少女の不在が現実の犠牲へ直結する。
まどかは一人で人々を止め、薬品を外へ投げ出すが、自身も結界へ取り込まれる。契約していない彼女は戦えず、それでも他人を救うために動く。この行動は、魔法を持たないまどかにも物語上の主体性があることを示す。

さやかの初戦が持つ二つの意味
窮地に現れたさやかは、青い衣装と剣をまとった魔法少女として魔女を倒す。恭介の腕は回復し、目の前のまどかも救われ、願いと契約は成功したように見える。マミを失った直後に新しい魔法少女が誕生することで、空白を埋める希望が提示される。
同時に、視聴者はマミの死を知っているため、華やかな初戦を無条件には喜べない。さやかは奇跡の成果を手にしたが、魂の分離も魔女化も知らない。サブタイトルの肯定は真実である。奇跡も魔法も実在する。ただし、それが幸福と同義ではないという後半の問いが、この成功の瞬間から始まっている。
ほむらが契約を止められなかった理由
ほむらはまどかの契約阻止を最優先にし、さやかを同じ強さでは監視していない。上条恭介の危機と仁美の事件が重なる中、さやかは短い時間で契約を成立させる。ほむらがすべての契約者を救うのではなく、まどか一人へ目的を絞っている限界が表れる。

さやかから見れば、ほむらはマミを救えず、真意も説明しない人物である。契約を止める忠告があっても信用する理由がない。未来の知識を持つことと、他者の判断を変えられることは別であり、ほむらの情報は信頼の不足によって力を失う。
さやかの願いに含まれる自己像
さやかは恭介の腕を治すだけでなく、その奇跡を選べる自分をマミのような正義の側へ置こうとする。誰かのための願いで契約すれば、命を賭ける理由も明確になると考えるからである。願い、恋愛、魔法少女としての使命が一つの選択へ束ねられている。
この束ね方は、どれか一つが崩れた時に全体を否定しやすい。恭介との関係が望みどおりにならず、正義を保てなくなると、願いそのものが間違いだったように感じられる。第4話の成功は、後の絶望の大きさを作る希望でもある。

第4話から始まる第二段階
第1〜3話では、契約前のまどかとさやかがマミの案内で魔法少女の世界を見る。第4話の終わりで、さやかが契約者となり、二人は同じ立場ではなくなる。まどかは見届ける側、さやかは戦う側へ分かれ、共有できる経験に差が生まれる。
以後の物語は、契約の外から危険を考えるまどかと、契約後の身体と責任を背負うさやかを並行して描く。キュゥべえが提示した選択肢を、二人が異なる速度で選んだ結果である。この分岐があるから、まどかはさやかの末路を自分の願いへ含めることができる。
第4話には、誰かを救うための三つの方法が並ぶ。まどかは言葉と行動で仁美たちを止め、ほむらは契約しない選択を勧め、さやかは奇跡を使って恭介の身体を治す。どれも救済だが、届く範囲と代価が異なる。魔法だけが人を救う手段ではない一方、魔法でしか変えられない現実も存在する。

サブタイトルは、奇跡を否定する作品ではないことを明確にする。問題は奇跡が存在するかではなく、誰が条件を決め、誰が代価を知り、結果を誰と共有できるかである。さやかの契約は願いを実現したからこそ、その後に生じる孤独を制度の問題として追える。
また、仁美を救った時点で、さやかの力は実際に誰かの命を守っている。後に魔女化した結末だけを見て、契約後のすべてを無価値とすると、この救済も消えてしまう。作品は願いの成果と制度の代価を同時に描き、どちらか一方だけで人物を裁けないようにしている。
この両立が、本話を単純な契約成功回では終わらせない。
