『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』は、2018年に公開されたイギリス・アメリカ合作の映画である。「魔法ワールド」シリーズの前日譚『ファンタスティック・ビースト』の第2作にあたる。
1927年、拘禁から脱獄した闇の魔法使いゲラート・グリンデルバルドはパリへ姿を消し、若き日のアルバス・ダンブルドアの密命を受けたニュート・スキャマンダーが再びクリーデンスの行方を追う。レタ・レストレンジの過去やクイニーの離反が絡み合い、シリーズの対立を決定づける物語が展開される。
00概要
『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』(Fantastic Beasts: The Crimes of Grindelwald)は、デヴィッド・イェーツ監督によるファンタジー映画で、2018年11月16日に米国、同年11月23日に日本で公開された。脚本は前作に続いてJ.K.ローリングが単独で手がけており、ワーナー・ブラザースの新シリーズ『魔法ワールド(Wizarding World)』の前日譚映画としては第2作にあたる。
舞台は1927年、前作の結末から半年後にあたる。米国魔法議会(MACUSA)に拘束されていたゲラート・グリンデルバルドが、欧州側への身柄引き渡しを名目とした大西洋上空の移送中に脱獄する——物語はそこから動き出し、ロンドン、パリ、そしてホグワーツへと舞台を移していく。前作の主要キャストであるエディ・レッドメイン、キャサリン・ウォーターストン、ダン・フォーグラー、アリソン・スドル、エズラ・ミラーが続投。本作からはジュード・ロウが青年期のアルバス・ダンブルドアを、ジョニー・デップが素顔のグリンデルバルドを本格的に演じる。
本作は当初の3部作構想が拡張された5部作構想の第2作として企画されたが、最終的にこの5部作構想は3作で完結することになった。シリーズ全体の中心にあるのは、ハリー・ポッター本編で繰り返し語られながら一度も映像化されてこなかった物語——青年期のアルバス・ダンブルドアと、彼の最大の親友にして最大の敵となるゲラート・グリンデルバルドという二人組の関係である。本作は、その二人がなぜ正面から戦えないのか、すなわち血で交わした不可侵の誓いという核心に踏み込む第一作となっている。
本記事は結末を含めた全編の内容に踏み込んでいる。脱獄シーンに始まり、レタ・レストレンジの過去、クリーデンスの正体宣告、クイニーの離反、そしてホグワーツでの血の誓いの開示まで順を追って解説するため、物語の重大な驚きを味わいたい方は、まず本編を鑑賞してから読み進めてほしい。
主要データ
- 原題
- Fantastic Beasts: The Crimes of Grindelwald
- 監督
- デヴィッド・イェーツ
- 脚本
- J.K.ローリング
- 音楽
- ジェイムズ・ニュートン・ハワード
- 撮影
- フィリップ・ルースロ
- 米国公開
- 2018年11月16日
- 上映時間
- 134分
- ジャンル
- ファンタジー、冒険、ミステリー、群像劇
- 主な舞台
- 1927年・ロンドン/パリ/ホグワーツ/(プロローグのみニューヨーク)
- 主舞台組織
- 英国魔法省/MACUSA/フランス魔法省/グリンデルバルド派
01あらすじ
以下に、結末までを含めた全編のあらすじを時系列で追う。物語が動き出すのは、欧州への身柄引き渡しを目前に控えたグリンデルバルドが、MACUSA(アメリカ合衆国魔法議会)の移送中に脱獄する場面だ。一方、ニュート・スキャマンダーは英国魔法省へ呼び出され、やがて若き日のアルバス・ダンブルドアから密命を託される。舞台はパリへと移り、追跡が始まる。そこでティナ、クイニー、ジェイコブが再び合流。さらにレタ・レストレンジが少女時代に犯した過ちが明かされ、物語はヌメンガード地下で開かれるグリンデルバルドの集会へとなだれ込む。レタの自己犠牲、そしてクイニーの離反を経て、最後に告げられるのは『お前はオーレリアス・ダンブルドアだ』という宣告である。
プロローグ
幕開けは雷雨の夜のニューヨーク。前作のラストでアリゾナの護送車基地に収監されたゲラート・グリンデルバルドを、米国魔法議会(MACUSA)が国際魔法使い連盟へ引き渡そうとしている。移送に使われるのは、巨大な漆黒のセストラルが牽く馬車だ。議長セラフィーナ・ピッカリーは『彼の口を封じ続けたまま運べ』と命じる。グリンデルバルドの口元には封印魔法が施され、舌は黒い金属の鉤で繋ぎ留められている。
馬車が雷雲を抜け、大西洋上空を駆け抜ける。そのとき、グリンデルバルドの寡黙な信奉者でMACUSA幹部のアバナシーが、護衛のオーラたちを次々と襲撃する。圧巻は、グリンデルバルドが薬で意識を失ったふりをして看守を呼び寄せ、自らの杖を取り戻す瞬間だ。彼は『お前は私の友になってくれるか?』とアバナシーに微笑みかけ、二人の身柄を入れ替える——いまや人質となったアバナシーが拘束具に繋がれ、グリンデルバルドは解き放たれる。
嵐のなか、馬車のセストラルが切り離される。グリンデルバルドはピッカリーの杖と国際魔法使い連盟の議長杖を奪い取り、雷雲の奥へと消えていく。落雷に照らされた青い瞳が、観客へまっすぐ視線を投げかける——物語はここから半年後、舞台をロンドンへと移していく。
ニュート・スキャマンダーと英国魔法省
半年後、舞台はロンドンへ移る。前作の事件で米国魔法議会から非公式にその名を知られるようになったニュート・スキャマンダーは、自身にかけられた国際旅行禁止令を解いてほしいと英国魔法省に出頭する。弁護に立つのは、副大臣に近い職位にある兄テセウス・スキャマンダー。そこへもう一人の上級職員トーキスが、「魔法省の正式なオーラ補佐として、グリンデルバルド派対策の任務に就くなら旅行禁止を解いてやる」という取引を持ちかける。
だがニュートは、いずれの陣営にも属さない「戦わない動物学者」としての立場を頑なに守り、その条件をきっぱりと断る。短いやり取りのなかで、兄テセウスとの微妙な距離感、そして学生時代から英国魔法省に対して抱いてきた違和感が、わずかな言葉と視線の交換だけで観客に伝わってくる。
魔法省をあとにしたニュートが向かう先はホグワーツだ。そこにはすでに、「闇の魔術に対する防衛術」を教える教師として、若き日のアルバス・ダンブルドアの姿があった。彼は人気のない天文学塔の屋上で、ニュートとひそかに会う。
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若きダンブルドアの密命とパリ
青年期のアルバス・ダンブルドアを演じるのはジュード・ロウ。本作で初めて、その若き日の姿が正式に映画に登場する。深いボルドーのロングコートをまとい、赤茶色の長い髪と顎ひげを整え、青い瞳を光らせる。『ハリー・ポッター』本編のリチャード・ハリス、マイケル・ガンボン版に比べると、より細身でしなやかで、どこか青年らしい翳りを漂わせている。
ダンブルドアはニュートに『パリに行ってほしい』と告げる。そこには、生死不明のままMACUSAから姿を消したクリーデンス・ベアボーンが潜伏しているはずで、グリンデルバルド側もそのオブスキュリアルを自陣営に取り込もうと動いていた。『なぜあなた自身が行かないのですか?』と問うニュートに、ダンブルドアは『私はあの男と戦えない』と短く答える——本作のクライマックスで明かされる血の誓いを、観客に最初に予告する台詞である。
ニュートはこの密命を引き受け、姿変えと密航を駆使してパリへと向かう。同じころ、ティナ・ゴールドスタインもMACUSAのオーラとしてパリでクリーデンスを追っており、クイニー・ゴールドスタインは記憶を消されたはずのジェイコブ・コワルスキーをロンドンのニュート宅へ連れてきていた。クイニーはジェイコブに弱い恋慕の魔法をかけ、ローパポート法を破ってでも二人で結婚する道を探していたのである。
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クイニーとジェイコブの再会
ロンドンのニュートの家に飛び込んできたクイニーとジェイコブの再会は、本作では数少ない明るい場面だ。ジェイコブは前作のラストで雨に記憶を流されてしまったが、クイニーの読心術と弱い記憶魔法によって、ふたたびクイニーへの愛情を取り戻している。だがニュートとティナの妹は、ジェイコブが本来の自由意志で自分を選んだわけではないと、すぐに見抜く。
ニュートは、クイニーがひそかにジェイコブへかけていた「弱い恋慕の呪文」を解く。記憶がよみがえり、自分の感情が魔法で操られていたと知ったジェイコブは、クイニーと衝突し、結婚を拒む。クイニーは「私が悪い、姉のところへ戻る」と言い残してロンドンを発つ——だが、この逃避こそが、後半のクイニー離反劇を引き起こす最初のドミノとなる。
残されたニュートとジェイコブは、ティナとクイニーを追ってパリへ向かう。ニュートの旅は、英国魔法省の旅行禁止令を破ったうえでの密航である。
パリの霧
クリーデンスは、シティ・ホール駅での銃撃を生き延び、いまはパリ郊外のサーカス団『シルク・アルカン』に身を寄せている。団長スキェンダー(チェコ系のサーカス興行師)に、自分の母親の正体を知っているなら教えてほしいと頼み込むが、スキェンダーは知っていることを明かそうとしない。
このサーカス団の見世物のひとりが、本作で物議をかもしたキャラクター、ナギニである。彼女はマレディクタス——母から子へと女系に受け継がれる血の呪いを負った女性で、定められた期日を過ぎると永久に大蛇の姿に縛りつけられてしまう——という設定だ。いまはまだ人間の姿と蛇身を行き来できる。『ハリー・ポッター』本編に登場するヴォルデモートの使い魔ナギニの、はるか前史にあたる人物像である。本作で彼女はクリーデンスの仲間となり、ともに檻を抜け出す。
クリーデンスは、自分の出生の手がかりを握る人物として、シルク・アルカンの帳簿に記された名『イルマ・デュガード』を追い、パリの旧市街へと向かう。エズラ・ミラー演じるクリーデンスの目に宿るのは、前作の暗く陰惨な恐怖ではなく、自らの名と血を求めてやまない青年の渇望だ。
レタ・レストレンジの過去
ロンドンを舞台にした物語のもう一本の縦糸となるのが、ニュートのホグワーツ時代の元恋人で、いまは兄テセウスの婚約者であるレタ・レストレンジ(ゾーイ・クラヴィッツ)だ。フランスの名門純血家系レストレンジ家に生まれ、その血を継ぐ数少ない生き残りである。ニュートとは魔法生物学の研究室で出会った。孤独な学生時代を、二人は互いに支え合って過ごした。
レタは英国魔法省のテセウスのもとを離れてパリへ向かい、ニュートとともにレストレンジ家の家族霊廟と出生記録をたどっていく。彼女が胸に秘めているのは、幼い少女時代に犯した取り返しのつかない過ちだ。大西洋を渡る蒸気船のなかで、泣きやまない異母弟コルヴァス・レストレンジ五世の籠を、隣室にいた別の女性の赤ん坊の籠とこっそり入れ替えてしまった。やがて船は嵐に襲われて沈み、籠ごとすり替えられたコルヴァスは海の底へと消える。レタはそれを誰にも打ち明けないまま大人になった。
レタの過去を追うもう一人が、ユスフ・カマである。レストレンジ家に対して『家の最後の男系の男児を殺す』というブラッド・オース(血の誓い)を、父から受け継いだ青年だ。彼はレタの異母兄弟コルヴァス五世がまだ生きていると信じ、その男児を見つけ出して殺すため、パリでクリーデンスを追っている。コルヴァス五世こそがクリーデンスではないか——そんな推理を胸に抱きながら。
クイニーの離反
パリの街頭でジェイコブと別れ、半ば取り乱したクイニーは、雨のなか身を寄せる場所を失っていた。そこへ、紳士然とした微笑をたたえた長身の男が傘を差し出し、自分の馬車の屋根の下へと彼女を招き入れる。観客にはすぐ分かる——ゲラート・グリンデルバルドだ。
グリンデルバルドは、クイニーに対して決して声を荒げない。呪文を撃つこともない。代わりに彼は、こう囁く。「君の妹(ティナ)が離れていったのも、君が愛するノーマジ(マグル)と結婚できないのも、すべてはローパポート法と国際魔法機密保持法の縛りのせいだ。これらを取り払えば、君は誰とでも自由に愛し合える」と——彼女のもっとも痛む箇所を、真綿で包むような言葉でそっと撫でていく。
本作で観客がもっとも息を呑むのは、グリンデルバルドが武力ではなく、愛と自由という耳ざわりの良い言葉でクイニーを取り込んでいく過程である。彼女は読心術の使い手でありながら、グリンデルバルドの心の奥——純血優越と、来たるべき戦争の予感——までは読み通せない。あるいは読み取りながら、それでもなお魅了されてしまう。本作のヴィランは暴力ではなく、「理解されることへの飢え」を武器に、人の心を絡めとっていくのだ。
ペール・ラシェーズ地下集会の演説
本作のクライマックスの舞台は、パリのペール・ラシェーズ墓地の地下に広がる空間だ。ヌメンガードへ通じる古代の円形劇場を思わせるこの場所で、グリンデルバルドの大集会が開かれる。各国から集まった数千人の信者に加え、変装して潜り込んだニュート、ティナ、ジェイコブ、テセウス、レタ、ユスフ・カマ、そしてフランス魔法省のオーラ隊が、白い円形の階段席を埋めていく。
壇上のグリンデルバルドは、武力革命を煽る荒々しい演説者ではない。静かに、低い声で語りながら、観衆の頭上に巨大なヴィジョンを空中投影してみせる。第二次世界大戦下のヨーロッパ、強制収容所、原子爆弾のキノコ雲、ホロコースト、そしてロンドン大空襲。『これがノーマジに世界を任せた結果である。我々魔法族にはこれを止める力がある。これは戦争の呼びかけではない。我々の自由の宣言だ』——その言葉が、静かに会場を満たしていく。
演説の最後に、彼は信者一人ひとりへ問いかける。『今ここで私から離れるか、私に従うかを選べ。離れる者は道を開けてやる』と。立ち上がって退場しようとした若いオーラの女性が、背後からフランス魔法省の同僚に呪いをかけられ、床に崩れ落ちる。彼女は演説に潜入していたティナの上司だった。手を下したのは、グリンデルバルドの信奉者である。
壇上に膝を屈める信者の数は、最初の数十人から数百人、やがて千数百人へと、うねりのように膨れ上がっていく。グリンデルバルドはその頭上に青い炎の輪——『プロテゴ・ディアボリカ』(防御の悪魔の炎)——を会場全体へ張り巡らせ、信者だけが通り抜けられる結界を作り出す。信者ではない者がこの青い炎に触れれば、たちまち燃え尽きてしまう。
観衆の中で、レタ・レストレンジがテセウスとニュートの兄弟と短く目を交わす。そして階段の頂上へ進み出ると、グリンデルバルドへ静かに歩み寄り、『私はあなたを知っている、ゲラート、あなたは私を知らない』と告げ、杖の先から一撃を放って彼を押し戻す。グリンデルバルドはレタを焼かない。だがその瞬間、彼の青い炎は彼女を呑み込むように大きく揺らぐ。レタはニュートとテセウスへ『I love you(あなたたちを、愛している)』と微笑みかけ、青い炎の壁の向こうへと消えていく。彼女の自己犠牲によって、ニュート、ティナ、ジェイコブ、テセウス、ユスフ・カマ、そして観衆の半分が、プロテゴ・ディアボリカの外側へと脱出を果たす。
お前はオーレリアス・ダンブルドアだ
炎の壁に囲まれて、クリーデンス・ベアボーンがひとり残る。これまでの旅程、ベアボーン家の養子記録、レストレンジ家の霊廟が示した取り違え事件、そしてダンブルドア家にまつわる隠された出生記録——グリンデルバルドはそのすべてを踏まえてクリーデンスへ向き直り、最後の宣告を下す。
『お前の本当の名前はクリーデンス・ベアボーンではない。お前は——アウレリウス・ダンブルドア(Aurelius Dumbledore)だ。お前の兄、アルバス・ダンブルドアこそが、長年お前から名前を奪っていた男だ』。グリンデルバルドはクリーデンスに、出生地ゴドリックの谷の風景や、母ケンドラ・ダンブルドアと父パーシバル・ダンブルドアの記憶らしき断片を見せる。そうして、彼の内に長く眠っていたオブスキュラスをふたたび解き放つための『目的(憎しみの対象)』を与えるのだ。
クリーデンスはその名を受け取り、グリンデルバルドの差し出す杖——ニワトコの杖の一部にも見える漆黒の杖——を握りしめる。ヌメンガードの城へ戻った彼のもとに、不死鳥が舞い降りる。『ダンブルドア家の長男に絶望が訪れたとき、不死鳥が現れる』。グリンデルバルドは、その古い言い伝えを静かに口にする。
この宣告の真偽は、本作公開時、ハリー・ポッター本編の設定——アルバスにはアバーフォースとアリアナしか兄弟がいない——と矛盾し、世界中で激しい論争を呼んだ。シリーズ第3作『ダンブルドアの秘密』で、この『血のつながり』がどう再解釈されたのか。その点については、本記事末尾の続編接続パートで触れたい。
ホグワーツ
パリから生還したニュート、ティナ、ジェイコブ、テセウス、ユスフ・カマは、まずホグワーツへと向かう。ニュートはレタの遺品のなかから、父スキャマンダーの古い遺物を取り出す。青いガラス球の内側に、銀色の鎖と一滴の血が閉じ込められたものだ。彼はそれを、アルバス・ダンブルドアの校長室——当時はまだ闇の魔術に対する防衛術の教官執務室だった——の机に置く。
ダンブルドアは黙ってそのガラス球を持ち上げ、闇に翳して語る。『若いころ、私とゲラートは血の誓い(ブラッド・パクト)を交わした。互いに対して直接戦わない、互いを傷つけないという誓いを、血で結んだのだ』。ニュートが見つけ出してきたのは、その血の誓いを封じた容器そのものだった。『これがある限り、私はあの男に手を出せない』。そう告げる青年期のダンブルドアの瞳には、若き日の選択への後悔と、その後悔を共に背負う仲間がようやく現れたことへの静かな喜びが、同時に宿っている。
ダンブルドアは『これを壊す方法を、私たちは探さなければならない』と、本作の幕引きを予告する台詞を残す。物語はここで閉じる。血の誓いの破壊、そしてグリンデルバルドとの正面からの対峙というシリーズ全体の課題は、次作『ダンブルドアの秘密』へと持ち越される。
登場要素
本作に登場・言及される主な要素を整理しておこう。前作で導入されたMACUSA、ノーマジ、オブスキュラスといった概念に加え、本作からはレストレンジ家系図、マレディクタス、血の誓い(ブラッド・パクト)、プロテゴ・ディアボリカなど、魔法ワールドの新たな概念が次々と登場する。
- ニュート・スキャマンダー
- ティナ・ゴールドスタイン
- クイニー・ゴールドスタイン
- ジェイコブ・コワルスキー
- クリーデンス・ベアボーン/オーレリアス・ダンブルドア(と宣告される人物)
- ゲラート・グリンデルバルド
- アルバス・ダンブルドア(青年期)
- レタ・レストレンジ
- テセウス・スキャマンダー
- ユスフ・カマ
- ナギニ(マレディクタス)
- アバナシー
- ヴィンダ・ローズィエ(グリンデルバルドの側近)
- ロジエ・ル・ロワール
- クラフトール(魔法生物学者の従者)
- イルマ・デュガード
- ニコラ・フラメル
- スキェンダー(シルク・アルカン団長)
- コルヴァス・レストレンジ四世
- コルヴァス・レストレンジ五世(赤子)
- セラフィーナ・ピッカリー(プロローグ)
- トーキス(英国魔法省)
- ニフラー(と本作で初登場する子ニフラー4匹)
- ボウトラックル(ピケット)
- ケルピー(鞄内の水生獣、ニュートが鱗を清掃する場面)
- ズーウー(東洋の巨大なネコ科獣)
- オーグリー(アイルランドの泣く鳥)
- アウギュレイ
- マタゴ(パリ地下のフランス系魔法ネコ)
- セストラル(移送馬車)
- 不死鳥(クリーデンスの前に現れる)
- マレディクタス(女系遺伝の血の呪いを受けた人間)
- プロテゴ・ディアボリカ(防御の悪魔の青い炎)
- ブラッド・パクト(血の誓い)
- 未検出可能拡張呪文(鞄内)
- リフレンドラム(記憶魔法/本作でクイニーが解除を試みる場面)
- アロホモラ
- アクシオ
- 守護霊呪文(ニュートとレタの学生時代の幻影)
- ヴェリタセラム類の自白薬
- 影変身術(グリンデルバルドの偽装)
- 魔法地図の動的投影(グリンデルバルドの戦争予言映像)
- アパレート(瞬間移動)
- ニュートのスーツケース(魔法動物の生態系)
- 血の誓いの容器(青いガラス球)
- レストレンジ家の家系樹(パリの魔法省記録保管室の天井に咲く)
- イルマ・デュガードの帳簿
- MACUSAの移送馬車
- グリンデルバルドの白い杖(後にエルダー・ワンドではない)
- クリーデンスに渡される黒い杖
- ニコラ・フラメルの賢者の石(書斎の机上に小さく置かれる)
- クラインの瓶のようなフランス魔法省記録の機構
- 大西洋上空(MACUSAの移送馬車)
- ロンドンの英国魔法省
- ホグワーツ魔法魔術学校(防衛術教室/天文塔/屋上)
- パリ市街(モンマルトル、ノートルダム周辺)
- ペール・ラシェーズ墓地と地下円形空間
- フランス魔法省(パリの宝石箱のような記録保管室)
- シルク・アルカン(魔法サーカス団の本拠)
- ニコラ・フラメルの錬金術師の家
- レストレンジ家の家族霊廟
- ニュートのロンドンの家
- 英国魔法省
- MACUSA(米国魔法議会)
- フランス魔法省
- 国際魔法使い連盟
- グリンデルバルド派(信奉者集団)
- シルク・アルカン
- ホグワーツ教職員
- オーラ・オフィス(各国)
13主要登場人物
本作は前作の四人組——ニュート、ティナ、クイニー、ジェイコブ——を引き継ぎながら、青年期のダンブルドアとグリンデルバルド、さらにレタ・レストレンジ、テセウス・スキャマンダー、ユスフ・カマ、ナギニといった新顔を一挙に加えた群像劇である。情報量は前作のほぼ倍。観客が覚えておくべき固有名詞も、二倍以上に膨れ上がっている。
ニュート・スキャマンダー
動物学者としての存在感は前作から引き継がれているが、本作のニュートはより明確に「戦わない英雄」としての立場を引き受ける。英国魔法省の取引——オーラ補佐になれば旅行禁止を解くという誘い——を断り、ダンブルドアの密命を承諾する。この二つの選択は、彼が国家ではなく個人の倫理にこそ従う人間であることを宣言してみせる。
兄テセウスとの関係も、ここで初めて描かれる。テセウスは英国魔法省の出世コースを歩んできた「模範生」だ。一方のニュートは、ホグワーツ時代に魔法生物の取り扱いをめぐる事件で退学処分を受けかけた「はみ出し者」である。その兄弟の温度差は、エディ・レッドメインとキャラム・ターナーが並んだときの背丈と肩の角度だけで、台詞に頼ることなく観客へと伝わってくる。
そしてレタ・レストレンジとの過去——ホグワーツ時代、魔法生物の研究室で分かち合った共通の孤独——が、本作で初めて視覚化される。彼が彼女を本当に愛したのかは、台詞では明言されない。だが、プロテゴ・ディアボリカに呑まれる直前、彼女がニュートとテセウスへ同じ重みで投げかける「I love you」は、二人の兄弟が同じ女性を愛した過去をも一瞬で照らし出すのだ。
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アルバス・ダンブルドア
ハリー・ポッター本編で繰り返し言及されながら、ついぞ映像化されることのなかった「青年期のダンブルドア」。本作で初めて、ジュード・ロウがその姿を正面から演じる。年齢設定は四十代半ば、ホグワーツで闇の魔術に対する防衛術の教授職に就いていた時期にあたる。
ジュード・ロウは、リチャード・ハリスとマイケル・ガンボンの両者が築いた「老いた賢者ダンブルドア」のイメージに敬意を払いつつ、別の像を作り上げた。しなやかさ、悪戯っぽさ、片頬に浮かぶ微笑み、青い目に揺れる秘密——。彼の演じるダンブルドアは、知っていながら語らず、笑っていながらどこか哀しい。
本作で初めて明かされる「血の誓い」とは、若き日のダンブルドアとグリンデルバルドが、互いに刃を向けないと血で交わした不可侵の誓いである。ハリー・ポッター本編で「なぜダンブルドアは長年グリンデルバルドと戦わなかったのか」という空白を、シリーズが正面から物語の主題に据えた、最初の作品でもある。
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ゲラート・グリンデルバルド
前作ではラスト数分だけ素顔をのぞかせたグリンデルバルドが、本作では冒頭の脱獄から終幕の宣告まで、ジョニー・デップの素顔で全編に姿を現す。銀色の短髪、左右で色の異なる瞳(左が薄い灰色、右が薄い青)、白いコートに白い杖、そして低くゆったりとした声。
彼の暴力は最小限だ。本作のグリンデルバルドは、人を斬らず、撃たず、脅さない。代わりに、人の傷を見つけ、その傷の上にそっと毛布をかける。クイニーにも、クリーデンスにも、自らの信奉者にも、彼が最初に差し出すのは『君は不当に扱われてきた、私はそれを理解している』というメッセージである。
ジョニー・デップは、長年演じてきた派手な役柄(ジャック・スパロウ、ウィリー・ウォンカ、マッド・ハッター)から距離を置き、本作では身振りを徹底的に抑えた静かな悪を体現する。一切のジョークを排した彼の演技は、本作の悪役を、ハリー・ポッター本編の『憎悪のヴォルデモート』とはまったく異なる極へと運んでいる。
レタ・レストレンジ
本作のもう一人の中心人物が、レタ・レストレンジである。フランスの古い純血家系であるレストレンジ家の最後の女系後継者であり、ニュートのホグワーツ時代における唯一の友人、そしてかつての恋人でもあった。現在はテセウス・スキャマンダーの婚約者という立場にある。
ゾーイ・クラヴィッツは、強さと脆さを同じ厚みで併せ持つ"家族の罪をひとりで背負ってきた女性"を、ほとんど目線と細い指の震えだけで演じきる。少女時代、蒸気船で起きた赤子の取り違え——あれは本当にコルヴァス五世だったのか、それとも別の赤子だったのか。その記憶が、本作における彼女のあらゆる行動を内側から縛っている。
クライマックス、プロテゴ・ディアボリカの中での自己犠牲は、本作でもっとも美しい数十秒のひとつだ。彼女はテセウスとニュート、二人の兄弟それぞれに向けて、同じ重さの『I love you』を残し、炎の中へと消えていく。
クリーデンスとナギニ
クリーデンス・ベアボーンは、前作の地下鉄シーンで散ったはずのオブスキュリアルだ。だが本作冒頭、彼が生き延びていたことが明らかになる。自らの出生の真実を求めて、サーカス団の檻からマレディクタスのナギニを連れ出し、パリの旧市街でイルマ・デュガード、レストレンジ家系図、そしてグリンデルバルドへと、一歩ずつ近づいていく。
エズラ・ミラーの演技は、前作の「恐怖と抑圧に内側を食われる青年」から、「自分の名前を求めて街を歩く青年」へと色合いを変える。杖の握りは前作より強く、目線は前作より高い。
ナギニ役のクラウディア・キムは、本編で長くヴォルデモートの蛇として知られてきたキャラクターの前史を、人間時代の女性として演じる。本作のナギニは、まだ蛇身へ永久に固定される前の段階にある。サーカス団の見世物として大蛇に変身する場面と、人間として静かに椅子に座る場面とを、交互に往復する。クリーデンスへの感情は、明確に恋愛ではない。「同じく檻に閉じ込められてきた者」としての連帯である。
テセウス、ジェイコブ、ティナ、クイニー
テセウス・スキャマンダー(キャラム・ターナー)は、英国魔法省の闇祓い局長で、ニュートの兄にあたる。第一次世界大戦の戦争英雄であり、レタの婚約者でもある。本作で初めて登場し、ニュートとのぎくしゃくした兄弟関係、レタへの一途な献身、そしてクライマックスでレタの死を腕に抱きとめるわずか数秒の芝居で、観客の記憶に深く刻まれる。
ジェイコブ・コワルスキー(ダン・フォーグラー)は、前作で記憶を消す雨を浴びながらも、心の奥でクイニーへの愛情だけは消えずに保ち続けていた男として再登場する。本作では、クイニーが彼にひそかにかけていた弱い恋愛魔法が解けたあと、二人は価値観の違いから激しく衝突する。その亀裂が、やがてクイニーをグリンデルバルドの側へと走らせるきっかけとなってしまう。
ティナ・ゴールドスタイン(キャサリン・ウォーターストン)は、アメリカ合衆国魔法議会(MACUSA)の闇祓いに復職し、パリ任務に就いている。ニュートとの再会はどこかぎこちなく始まる。何者かが『ニュートとティナが婚約した』と新聞記事を読み違えた情報が二人の間に割り込み、前半は互いの想いがすれ違うコメディとして進んでいく。やがて終盤のペール・ラシェーズ墓地で、二人は手を取り合い、燃えさかる炎の壁の外へと脱出する。
クイニー・ゴールドスタイン(アリソン・スドル)は、本作で最も大きな変化を見せる人物だ。前作では天真爛漫な読心術の使い手だった少女が、本作では『愛する人とともにいられるなら、ローパポート法を破ってでも、グリンデルバルドの言葉を信じてでも構わない』と動く女性へと変わっていく。彼女の離反は、本作のなかでもっとも痛ましく、静かな悲劇として描かれる。
舞台と用語
舞台は1927年の欧州。プロローグの大西洋上空をはじめ、ロンドン、パリ、そしてホグワーツが本作の主要な舞台となる。前作の舞台であるジャズ・エイジのニューヨークが「新しい大陸の魔法社会」を描く空間だったのに対し、本作のロンドンとパリは「古い大陸の魔法社会の影」を映す空間として立ち現れる。霧、雨、石畳、地下、墓地——画面は前作より数段暗く、湿り気を帯びている。
用語の面でも新たな要素が次々と投入される。レストレンジ家の家系図、マレディクタス(女系に遺伝する血の呪い)、ブラッド・パクト(血の誓い)、プロテゴ・ディアボリカ(防御の悪魔の炎)、フランス魔法省、シルク・アルカン、そしてニコラ・フラメル。なかでも本作で初めて画面に登場するニコラ・フラメルは、『ハリー・ポッター』本編第1作で言及された六百歳の錬金術師であり、本作の時点でもなお存命であるという接続が示される。
場所の選定にも意味が込められている。クライマックスの舞台となるペール・ラシェーズ墓地は、ショパン、オスカー・ワイルド、ジム・モリソンが眠るパリ東部の歴史的墓地として実在する。その地下に古代の円形劇場のような秘密空間がある——という架空の設定を重ねることで、ここがグリンデルバルドの集会の舞台となる。実在の墓地の上に魔法的な地下世界を描き込むこの視覚処理は、現実と地続きの場所に魔法ワールドが存在するという本シリーズの世界観をいっそう強めている。
21制作
前作の興行的成功を受け、ワーナー・ブラザースは2016年内に本作の製作開始を発表した。撮影は2017年7月から12月にかけて行われ、製作費は約2億ドル。前作の約1.8億ドルから増額された。本セクションでは、企画と脚本、キャスティング、衣装、美術と視覚効果、音楽と音響、撮影と編集に分けて整理していく。
企画と脚本
本作は前作の公開直後から脚本作業が本格化し、J.K.ローリングが単独で脚本を書き下ろした。ハリー・ポッター本編全8作の脚本を手がけたスティーヴ・クローヴスは、本作でも製作として並走している。
脚本上の最大の挑戦は、五部作構想の『第2作』という位置付けにあった。前作で導入された四人組のドラマを引き継ぎつつ、青年期ダンブルドアとグリンデルバルドの血の誓い、レストレンジ家の家系劇、ナギニ・マレディクタスの呪いといった新たな縦糸を同時に張らねばならない。結果として本作の情報密度は、前作の倍近くにまで膨れあがった。
脚本上、最も論争を呼んだ決断が、ラストカットで明かされる『クリーデンス=オーレリアス・ダンブルドア』の宣告である。ハリー・ポッター本編で確立されたダンブルドア家の家族構成(アルバス、アバーフォース、アリアナの三兄妹)と一見矛盾するこの宣告は、本作の公開時、世界中のファンコミュニティで激しい論争を呼んだ。続編『ダンブルドアの秘密』でこの『血のつながり』がどう再解釈されるのかは、本記事末尾の続編接続で触れる。
キャスティング
本作のキャスティングの中心となるのが、青年期のアルバス・ダンブルドアを演じるジュード・ロウだ。2010年代以降、シャーロック・ホームズ映画シリーズのワトスン、『ホリディ』『コールド・マウンテン』などで落ち着いた英国紳士役を重ねてきた俳優であり、本作のしなやかなダンブルドアにも違和感なくはまった。
兄テセウス・スキャマンダーを演じるのはキャラム・ターナー。『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』(2015)で頭角を現したばかりの英国俳優で、本作によって一気に国際的な知名度を高めた。レタ・レストレンジ役のゾーイ・クラヴィッツは、『ディヴァージェント』シリーズや『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を経て、本作のレタで初めて魔法ワールドのドラマの中心に立つ。
ナギニを演じるクラウディア・キムは韓国出身の俳優で、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』のヘレン・チョ博士役で国際的に知られていた。ハリー・ポッター本編で長くヴォルデモートの蛇として描かれてきたキャラクターを、その前史でアジア系の女優が人間として演じる——この配役そのものが、本作公開時に大きな議論を呼んだ。
ユスフ・カマ役にはセネガル系フランス人俳優のウィリアム・ナディラム、ニコラ・フラメル役にはチリ系フランス人の演劇人ブロンティス・ホドロフスキー(アレハンドロ・ホドロフスキー監督の息子)が起用された。フランス魔法省の幹部や群衆エキストラの多くもパリでの追加撮影で集められ、本作のヨーロッパ的な空気感を支えている。
衣装デザイン
衣装デザインを手がけたのは、前作に続いて参加したコリーン・アトウッド。前作で4度目のアカデミー衣装デザイン賞に輝いた名手であり、本作でも第91回アカデミー賞、第72回英国アカデミー賞の双方で候補に名を連ねた。
本作の衣装は、前作のニューヨーク1920年代から、パリとロンドンの1920年代へと舞台を大きく移している。グリンデルバルドの白いコートと白い杖、ダンブルドアの深いボルドーのロングコート、レタ・レストレンジの黒い細身のドレスとケープ、ティナの旅装をまとうオリーブ色、そしてクイニーの淡いピンクから後半にかけて灰色へと沈んでいく色設計——どの衣装も前作以上に、各キャラクターの心情と「どちらの陣営に近づきつつあるのか」を色で物語る。
MACUSAの黒い制服群、英国魔法省の濃紺の制服、フランス魔法省の灰青色の制服、そしてグリンデルバルド派の黒と銀の祭服。各国・各陣営の色彩設計は明確に描き分けられている。なかでも、ペール・ラシェーズの大集会で観衆が円形階段を埋める場面は、まるでオペラの群像劇を思わせる色面構成だ。
美術と視覚効果
美術監督は前作に続いてスチュアート・クレイグが務めた。本作では1927年のパリを再現するため、英国リーヴスデン・スタジオのバックロットに、パリの街路を模した長大なセットが新たに組まれている。マンサード屋根、鋳鉄製のバルコニー、ペール・ラシェーズの墓所群、遠くにのぞむノートルダム、ガス灯と石畳の路地——。いずれもパリでの実地ロケと組み合わせたうえで、スタジオのセットへと落とし込まれた。
フランス魔法省のロビーは、本作の美術における見どころの一つだ。天井まで吹き抜けた高い空間に円柱、彫像、書架、台帳が幾何学的に配され、その天井そのものがレストレンジ家の家系図を映す動的なタペストリーとなって、絶えず動き続ける。『ハリー・ポッター』本編の魔法省の階段と並ぶ、シリーズ屈指の魔法建築といえる。
視覚効果はフレームストアとDNEG(旧ダブル・ネガティブ)を中核に、複数のスタジオが並行して手がけた。ペール・ラシェーズ地下で繰り広げられるプロテゴ・ディアボリカ(青い炎)のシークエンスは、流体シミュレーション、火炎パーティクル、衣服の布のシミュレーション、群衆エキストラのデジタル合成を一つの場面に幾重にも重ね合わせた、本シリーズで最も複雑なVFXショットの一つに数えられる。第91回アカデミー視覚効果賞の候補にも挙がった。
ニュートのスーツケースの内部は前作からさらに拡張された。本作ではケルピー(水生獣)の水中清掃シーンや、子ニフラー4匹が繰り広げるドタバタなど、新たな魔法動物たちの生態系が加わっている。
音楽と音響
音楽は前作に続いてジェイムズ・ニュートン・ハワードが手がけた。前作で確立した『主役テーマ(ニュート/スーツケース)』、『ティナ/クイニーの優しい主題』、『グリンデルバルドの薄ら寒い陰影』に加え、本作ではジョン・ウィリアムズの『ヘドウィグのテーマ』を、ホグワーツの場面の終盤に控えめに引用してみせる。青年期ダンブルドアの執務室、その窓辺にあの旋律が静かに重なる瞬間こそ、観客にとって『魔法ワールドへ帰ってきた』と実感させる、本作随一の時間旅行の合図となる。
ハワードはレタ・レストレンジのためだけの旋律も書き下ろした。フルートとハープを中心とした静かな主題で、彼女の少女時代を描く蒸気船の回想と、クライマックスのプロテゴ・ディアボリカによる自己犠牲、その双方でほぼ同じ旋律が変奏されて流れる。
音響を支えるのは三つの層だ。グリンデルバルドの低く乾いた声、プロテゴ・ディアボリカの『青い炎が空気を裂く音』、そしてペール・ラシェーズに集う群衆の沈黙——演説のさなか、数千人の観衆が一切音を立てない、あの一瞬。この三層が本作のドラマを下支えしている。
撮影とロケ
撮影監督は前作に続いてフィリップ・ルースロが務めた。撮影はほぼ全編が英国のワーナー・ブラザース・スタジオ・リーブズデンで行われ、加えてフランス・パリでの実地ロケも組まれた。リーブズデンには前作のニューヨーク街路セットの隣に、パリの街路セットとフランス魔法省ロビーの巨大セットが新たに築かれている。
撮影期間は2017年7月3日から2017年12月20日まで、およそ24週におよんだ。ジョニー・デップとジュード・ロウのスケジュールを調整するため、一部のシーンは撮影順を入れ替えて進められている。
ロケのハイライトは、パリ郊外、スイス国境にほど近い実在の修道院や、リバプール市内のジョージ王朝建築群だ。建築群は前作と同じく、1927年のロンドンとパリの代用として用いられた。本作の色温度は前作よりも全体に青く、緑がかった寒色に寄せて設計されている。ルースロは「この物語は冬の物語だ」としばしば語っていた。
編集
編集は前作に続いてマーク・デイが手がけた。本作は『ニュート+ジェイコブ』『ティナ』『クイニー』『クリーデンス+ナギニ』『レタ+テセウス』『ダンブルドア』『グリンデルバルドと信奉者』という七本の縦糸を同時に編み込まねばならず、編集の難度はシリーズ随一となった。
クライマックスとなるペール・ラシェーズの地下集会では、観客の入場からグリンデルバルドの登場、戦争予言映像の投影、信者の選別、プロテゴ・ディアボリカの発動、レタの自己犠牲、そしてヌメンガードでのオーレリアス宣告までを、約20分にわたる切れ目のないアクション・ドラマシークエンスとして編み上げている。マーク・デイはこの編集により、本作の視覚的なクライマックスをシリーズ屈指の濃度へと押し上げた。
29公開と興行
本作は2018年11月16日に米国で、同年11月23日に日本で全国公開された。北米の初週末興収は約6240万ドル、最終的な北米興収は約1億5950万ドル、全世界興収は約6億5500万ドルに達した。
全世界興収の約6.5億ドルはシリーズの基準として十分な数字だが、前作の約8.14億ドルからは下落した。とりわけ米国本国での落ち込みが目立ち、前作の北米約2.34億ドルから本作は約1.6億ドルへと減らしている。その一方で、アジア、なかでも中国本土では前作を上回る興収を記録した。結果として海外比率(全世界興収のうち北米以外が占める割合)はシリーズ最高となった。
受賞面では、第91回アカデミー賞視覚効果賞、第72回英国アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞、サターン賞ファンタジー映画賞、同ファンタジー助演女優賞(ゾーイ・クラヴィッツ)などにノミネートされた。
こうした興行成績の落ち込みと批評の割れを受け、ワーナー・ブラザースは『魔法ワールド』前日譚シリーズの5部作構想を最終的に3部作へと縮小することを決定した。続編『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』(2022)は、シリーズの完結編として企画されていくことになる。
30批評・評価・文化的影響
本作の評価は、シリーズで最も激しく割れた。米国の主要な批評集計サイトでは、批評家スコアが前作から大きく下落し、『賛否が拮抗する以下』の水準まで落ち込んでいる。観客スコアは批評家スコアを上回ったものの、それでも前作より明らかに低い数字での着地となった。
批判の中心は、情報量の多さと、五部作構想の途中であるがゆえの『一本の映画としての結末の不在』にある。レストレンジ家系図、マレディクタス、血の誓い、オーレリアス宣告——こうした新たな概念が同時並行で投げ込まれ、初見の観客は登場人物の関係を整理するだけで上映時間の半分を費やしてしまう。そのうえ本作単体のクライマックスは『次作への引き継ぎ』に終始し、独立した完結感を抱きにくい。
一方で、評価された点も少なくない。ジュード・ロウのダンブルドア、ジョニー・デップのグリンデルバルド、ゾーイ・クラヴィッツのレタという三人の演技、フランス魔法省のセットデザイン、コリーン・アトウッドの衣装、ジェイムズ・ニュートン・ハワードの音楽——これらはおおむね高く評価された。とりわけレタの自己犠牲の場面は『シリーズ全体で最も美しい数十秒のひとつ』として、肯定派の評論で繰り返し引用されている。
文化的に見れば、本作はハリー・ポッター本編が十数年にわたって築いてきた『ダンブルドア家の家族構成』という安定した設定に、正面から踏み込んだ作品として記憶されている。クリーデンス=オーレリアス・ダンブルドアの宣告は、公開当時のファンコミュニティを真っ二つに割った。そして続編『ダンブルドアの秘密』の解釈とあわせて、シリーズの評価そのものに長く影を落とすことになる。
舞台裏とトリビア
本作冒頭、MACUSAからの移送中に起こる脱獄シーンは、当初の脚本では地上の街道を舞台とする予定だった。だが撮影に入る前、イェーツ監督とローリングの脚本のあいだで議論が重ねられ、最終的には大西洋上空を飛ぶ馬車へと設定が書き換えられている。雷雲のなかを進む馬車という構図は、ジョン・ウィリアムズ『プリズナー・オブ・アズカバン』に登場する三階建てバスのシークエンスから着想を得たとも語られている。
ジュード・ロウは、ダンブルドア役のオファーを受けると、リチャード・ハリスとマイケル・ガンボン両者の演技を改めて見直したという。そのうえで『同じ人物に見えなくてもよい、ただし同じ目をしていればよい』という方針を立て、青年期のダンブルドア像を作り上げたと、公開後のインタビューで明かしている。
ナギニ役のキャスティングをめぐっては、公開前から議論が噴出した。『ハリー・ポッター』本編で長らくヴォルデモートの蛇として描かれてきたキャラクターを、前史にあたる本作でアジア系の女優が人間として演じる――その点が論争を呼んだのである。演じたクラウディア・キム自身は『この役柄は、檻に閉じ込められた人間として演じるべきもの。その出自を含めて受け止めて演じた』と複数のインタビューで答えている。
ペール・ラシェーズでの実地撮影は、早朝、本物の墓地のすぐ近くで行われた。ただし墓地内部での撮影は許可されず、地下のシーンはリーブズデンのスタジオセットで再現している。地下に古代の円形劇場が広がるという設定は、完全なフィクションである。
ニコラ・フラメルを演じたブロンティス・ホドロフスキーは、アレハンドロ・ホドロフスキー監督の息子であり、子供のころから父の作品(『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』)に出演してきた俳優・演劇人だ。『ハリー・ポッター』本編第1作では名前が語られるだけだった六百歳の錬金術師は、彼のしわの深い顔と低い声によって、ここで初めて映像化されたことになる。
32テーマと解釈
本作が描く中心テーマは、「優しい言葉で勧誘される全体主義」である。グリンデルバルドが恐ろしいのは、暴力で人を屈服させる怪物だからではない。傷ついた人間の痛みを正確に見抜き、その痛みに向かって「私には分かる。私と来れば自由になれる」と手を差し伸べてくる——そこにこそ、彼の危うさがある。クイニーが、信者たちが、そしてクリーデンスが彼を選んでいく過程は、「なぜ人々は歴史上の独裁者についていったのか」を、観客の前でやさしく、ゆっくりと再演してみせる。本作が公開されたのは、欧米各国で極右ポピュリズムが台頭していた時期と重なる。グリンデルバルドの演説が「戦争の予告」ではなく「自由の宣言」として行われる——この脚本上の選択は、同時代の政治状況への明確なコメントとして受け取られた。
もう一本の柱は、「血で結ばれた誓いは、血を超えて続く」である。アルバスとゲラートが交わした血の誓い、レストレンジ家に流れる家族の血、ダンブルドア家が隠してきた家族の血、ユスフ・カマが父から受け継いだ復讐の誓い——本作の登場人物のほとんどが、自ら選んだわけではない血の契約に縛られて動いている。本作のもっとも静かな悲劇は、自分の血も自分の名も選べなかった人間たちに集約される。クリーデンス、ナギニ、レタ、クイニー——彼らが、外から差し出された「名前」や「誓い」に思わず飛びついてしまう、その瞬間にこそ悲劇は宿るのだ。
そして第三のテーマが、ニュートを通して繰り返し描かれる「戦わない選択」である。英国魔法省の取引を断り、グリンデルバルドの集会でも杖を抜かず、レタの自己犠牲を抱きとめて炎の壁の外へと走り出す——本作のニュートは、前作にも増して「戦わずに収める英雄」として徹底されている。『ハリー・ポッター』本編が、学園に集う少年少女たちの「闇と戦う英雄譚」であったのに対し、本シリーズはここで明確に宣言する。戦いの外側に居続けようとする人間の倫理を、長編五部作の主題として掲げてみせるのだ。
おすすめの視聴順
本作は『魔法ワールド』前日譚シリーズの第2作にあたる。まず第1作『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』を観てから本作に臨むことを強くすすめたい。第1作のラスト、アリゾナでのグリンデルバルド逮捕の場面が、本作冒頭の脱獄へとそのまま繋がっていくからだ。
ハリー・ポッター本編との関わりでいえば、本編8作を公開順で観終えたうえで本シリーズへ進むのが標準的な視聴順である。アルバス・ダンブルドアとゲラート・グリンデルバルドの関係、ニコラ・フラメル、ナギニ、ホグワーツの闇の魔術に対する防衛術の教室——いずれも本編で繰り返し語られてきた要素だ。本編で知ったうえで本作の細部に立ち返ると、ジュード・ロウ演じるダンブルドアの一瞬の沈黙が、何倍もの重みをもって迫ってくる。
時系列順にこだわるなら、本作(1927年)から続編『ダンブルドアの秘密』(1932年)、そしてハリー・ポッター本編1作目(1991年の入学)へと並べ替える観方もある。ただし初見では、設定がどの順で明かされるかが物語の感情を支えている。やはり公開順での視聴を強くすすめたい。
34よくある質問
『あらすじだけ知りたい』なら、次の流れを押さえれば十分だ。MACUSAの拘禁から脱獄したグリンデルバルドがパリで信奉者を集める。ニュート・スキャマンダーは若き日のアルバス・ダンブルドアから密命を受け、クリーデンスを追う。そしてパリのペール・ラシェーズ墓地の地下で、クリーデンスの出生の真実が宣告される。
『結末・ネタバレを知りたい』なら、核となるのは次の四点だ。レタ・レストレンジが青い炎の中で自己犠牲を遂げること。クイニー・ゴールドスタインがグリンデルバルド側へ離反すること。クリーデンスが『お前はオーレリアス・ダンブルドアだ』と宣告を受けること。そしてホグワーツで、アルバス・ダンブルドアが青いガラス球——血の誓い——をニュートに開示すること。
『ハリー・ポッター本編との矛盾はどうなるのか』。本作のラストでグリンデルバルドが告げる『お前はアルバスの弟だ』という宣告は、シリーズ第3作『ダンブルドアの秘密』で再解釈される。本作の時点では、その宣告の真偽は意図的に宙吊りにされたままだ。
『前作との温度差が大きく感じる』。これは脚本の意図であり、前作の『魔法動物のスーツケース捕り物』から、本作の『欧州全体を巻き込む政治劇』へと、シリーズの軸が大きくシフトしたと捉えるのが妥当だろう。とはいえ前作の軽さも一部は引き継がれている。クイニーとジェイコブの再会、ニフラーの子ニフラー4匹のドタバタなどがそれだ。
『続編はどれを見ればよいか』。本作から『ダンブルドアの秘密』(2022)へ、公開順で問題ない。第3作では、青年期のダンブルドアとグリンデルバルドの関係が真正面から決着へと向かう。
35参考資料・脚注
作品名、キャラクター名、画像、その他各種の権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年や興行成績、受賞歴、配信状況、外部からの評価などは変動する場合があるため、視聴の前に公式サイトおよび各データベースの最新情報を確認されたい。なお本記事の本文は、各種の公開情報をもとに、Anna Movies独自の日本語記事として構成したものである。