ホッグズ・ヘッドの暖炉の前で、アルバス・ダンブルドアはニュート・スキャマンダーに告げる——『私はゲラートと戦えない』。少年期に交わした血の誓いに縛られた若きダンブルドアは、ニュート、テセウス、ジェイコブ、ラリー、ユスフ、バンティらの『計画なき計画』に未来を託す。双子のキリン、エルクスタッグ監獄のマンティコア、ブータン山頂の首席魔法戦士選挙、そしてアバーフォースが明かす『クリーデンス=オーレリアス』の真実までを描く、魔法ワールド前日譚シリーズ第3作。
シリーズ3作連続でデヴィッド・イェーツが監督。脚本は前2作で単独執筆だったJ.K.ローリングに、ハリー・ポッター本編全作の脚本家スティーヴ・クローヴスが共同で加わった。撮影は前作のフィリップ・ルースロからジョージ・リッチモンドへ交代し、美術はスチュアート・クレイグとニール・ラモント。製作費約2億ドル、上映時間142分。
舞台は前作から数年後、ベルリン、ホグワーツ、ブータンの山頂、ニューヨークへと広がる。国際魔法使い連盟(ICW)の首席魔法戦士(Supreme Mugwump)を選ぶ古代の儀式『キリンの選択』を巡る攻防が物語の幹であり、ダンブルドアとグリンデルバルドが少年期に交わした血の誓いがついに破られる転回点でもある。
評価は前2作よりさらに割れ、興行は全世界約4億500万ドルとシリーズ最低を記録した。観客評価は前作の論争を整理する『修正回』として比較的好意的、批評はテンポと終幕の地味さに賛否。視覚効果と美術は引き続き高く評価され、複数の技術賞でノミネートを得た。
冒頭のホッグズ・ヘッドの密談、双子のキリンの誕生と強奪、ベルリンの国際魔法使い連盟の式典、エルクスタッグ監獄からのテセウス救出、ホッグズ・ヘッドでのアバーフォース告白、ブータン山頂の選挙、血の誓いの破壊、ジェイコブとクイニーの結婚式まで、重大ネタバレを前提に踏み込む。
目次 35項目 開く
概要
『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』(Fantastic Beasts: The Secrets of Dumbledore)は、デヴィッド・イェーツが監督し、2022年4月15日に米国で、これに先立つ4月8日に日本で公開されたファンタジー映画である。ワーナー・ブラザースの『魔法ワールド(Wizarding World)』前日譚映画シリーズの第3作にあたり、原作・原案を担うJ.K.ローリングと、『ハリー・ポッターと賢者の石』から『死の秘宝 PART2』までの本編映画全作で脚本を務めたスティーヴ・クローヴスとの共同脚本という、シリーズ初の体制で書き下ろされた。
舞台は1932年前後。前作『黒い魔法使いの誕生』のラストでアルバス・ダンブルドアとニュート・スキャマンダーが交わした密約から数年が経ち、ゲラート・グリンデルバルドはヨーロッパとアジアで信奉者を増やし、国際魔法使い連盟(International Confederation of Wizards、以下ICW)の中枢にまで影響力を伸ばしている。物語はホッグズ・ヘッド、ベルリン、エルクスタッグ監獄、ブータンの山頂、ニューヨークへと舞台を移し、首席魔法戦士(Supreme Mugwump)を選ぶ古代の儀式と、少年期に交わされた血の誓いという二つの『縛り』をめぐって展開する。
前作からの最大の変化は、グリンデルバルド役のジョニー・デップに代わってマッツ・ミケルセンが起用されたことである。さらに新キャラクターとして、イルバーモーニー魔法学校の呪文学教授ユーラリー・『ラリー』・ヒックス(ジェシカ・ウィリアムズ)、ニュートの助手バンティ・ブロードエイカー(ヴィクトリア・イェイツ)、ホッグズ・ヘッドの主人アバーフォース・ダンブルドア(リチャード・コイル)、ICW会長アントン・フォーゲル(オリヴァー・マスッチ)、ブラジル代表候補ヴィセンシア・サントス(マリア・フェルナンダ・カンディド)が加わり、群像劇としての厚みを増した。
本記事は結末を含む全編の内容に踏み込む。冒頭のホッグズ・ヘッドの密談、双子のキリンの誕生と強奪、ベルリンの選挙集会、エルクスタッグ監獄のマンティコア、ホッグズ・ヘッドでのアバーフォースの告白、ブータン山頂の選挙、血の誓いの破壊、結末の結婚式まで順に解説するため、物語の重大な驚きを保ちたい場合はまず本編を鑑賞してから読んでほしい。
- 原題
- Fantastic Beasts: The Secrets of Dumbledore
- 監督
- デヴィッド・イェーツ
- 脚本
- J.K.ローリング/スティーヴ・クローヴス
- 音楽
- ジェイムズ・ニュートン・ハワード
- 撮影
- ジョージ・リッチモンド
- 米国公開
- 2022年4月15日
- 日本公開
- 2022年4月8日
- 上映時間
- 142分
- ジャンル
- ファンタジー、冒険、群像劇、政治劇
- 主な舞台
- 1932年前後・ホグワーツ(ホッグズ・ヘッド)/中国・四川山岳地帯/ベルリン/エルクスタッグ監獄/ブータン/ニューヨーク
- 主舞台組織
- 国際魔法使い連盟(ICW)/英国魔法省/ドイツ魔法省/グリンデルバルド派
あらすじ
以下は結末までを含む全編のあらすじである。物語は中国・四川の山中でのキリンの誕生に始まり、ホッグズ・ヘッドでアルバスがニュートに任務を託す密談、ベルリンでの国際魔法使い連盟への政治工作、テセウスの逮捕とエルクスタッグ監獄からの救出、ホッグズ・ヘッドでアバーフォースが明かすクリーデンスの真の血筋、ブータン山頂の選挙、グリンデルバルドが復活させた偽のキリンの欺き、生き残った双子のキリンによる真実の指名、血の誓いの破壊、そしてジェイコブとクイニーの結婚式まで順に追う。
四川の山——双子のキリン
幕開けは中国・四川の山岳地帯。ニュート・スキャマンダーが、足の不自由なキリン(中国伝承の神獣を模した本作オリジナルの幻獣で、まっすぐな心を見抜く力を持つ)の出産に立ち会っている。母キリンは深い苦痛のなか、一頭の仔を産み落とす。だがその直後、グリンデルバルドの腹心キャロウ姉妹率いる黒衣の魔法使いたちが現れて母キリンを呪殺し、生まれた仔を奪い去る。
崩落する洞窟のなか、ニュートは決死の脱出を図るが、彼が知らないのはこの個体が『双子の妊娠』だったという事実である。一頭目を奪われた直後、母の遺骸からもう一頭の仔キリンが生まれる。ニュートはその二頭目を密かに自分のスーツケースへ匿い、何食わぬ顔で英国へ戻る。物語の終盤までこの『生き残ったもう一頭』は伏せられ、観客にもキリンが何頭存在するのかは長く明かされない。
キリンは、本作で導入された魔法ワールド初の幻獣設定の白眉である。その出生に立ち会う冒頭シークエンスは、グリンデルバルドが『純粋な心を見る神獣』を欲しがる動機を観客に強く印象づけ、政治劇と幻獣譚というシリーズの二本柱を、一頭の動物の上で交差させる役割を担う。
ホッグズ・ヘッド——『私は彼と戦えない』
舞台はホグズミード村の場末の酒場ホッグズ・ヘッドへ移る。雪のなか暖炉の前で、ニュートはアルバス・ダンブルドアと向かい合う。アルバスは『ゲラート・グリンデルバルドを止めなければならない、しかし私は彼と戦えない』と切り出し、自分とゲラートが少年期に交わした血の誓い(ブラッド・パクト)のせいで互いに直接手出しできないことを明かす。鎖の中に揺れる小さなガラスの容器——その血の誓いの結晶——は、二人のうちの一方が他方に害をなそうとすると術者自身を逆に壊す装置として、いまも作用し続けている。
アルバスはニュートに、グリンデルバルドの予知能力を打ち砕くための『計画なき計画』を提案する。複数の人物が複数の任務に分かれ、誰もが全体像を知らないまま動く——そうすればグリンデルバルド派の予知者(クイニー・ゴールドスタインを含む)が一つの未来像を確定できず、選挙当日の動きを完全には読めなくなる。これは映画の構造そのものを支える設計上の宣言でもあり、後半の同時多発的なシーケンスは、この『計画なき計画』が実行された姿として観客に提示される。
ホッグズ・ヘッドの店主は寡黙な中年の魔法使いで、後に重要な意味を帯びる『アバーフォース・ダンブルドア』である。アルバスの実弟であり、本編シリーズではすでに名前のみ語られていた人物が、本作で初めて映像化された。彼が黙ってグラスを磨くこの開幕の場面が、終盤の真実の告白への長い助走となっている。
集結する仲間たち
ロンドンでニュートは兄テセウス・スキャマンダー(英国魔法省のオーラー局長)と合流し、アメリカからイルバーモーニー魔法学校の呪文学教授ユーラリー・『ラリー』・ヒックスがダンブルドアに招かれて到着する。前作で記憶を消したはずのジェイコブ・コワルスキーは、ニューヨークでパン屋を再開しているところを訪ねられ、ダンブルドアから一本の杖(実際には魔力を持たない『杖もどき』)を授けられる。
杖を渡される理由は二重である。表向きはマグル(ノー・マジ)であるジェイコブを魔法世界の任務に巻き込むための『役柄』として、もう一つはグリンデルバルドの予知能力を撹乱するためである。グリンデルバルドの未来視は『重要な人物』を中心に像を結ぶため、本来なら無関係のマグルに杖を持たせて重要人物の振る舞いをさせれば、敵の予知のなかで彼が意図的にノイズになる——これがダンブルドアの仕掛けた最大の悪戯であり、本作のユーモアの源泉でもある。
ニュートの助手バンティ・ブロードエイカー、前作の生き残りで母を殺した過去とともに歩むユスフ・カマも合流する。一行は『誰も全体像を知らない』という前提のまま、別々の経路でベルリンへ向かう。前作で疎遠になったキャサリン・ウォーターストン演じるティナ・ゴールドスタインは、米国魔法議会の昇進により本作では限定的な登場にとどまり、結末で短く戻ってくる。
ベルリン——ICWと不戦の宣告
舞台はベルリン。国際魔法使い連盟(ICW)の本部では、現職の首席魔法戦士ヴォーゲル会長が、欧州大陸で勢力を急拡大するグリンデルバルドの裁定に揺れている。各国代表が居並ぶ大広間で、ICWは公の場での裁判を経ぬまま、グリンデルバルドへの追及を取り下げる宣告を行う。アルバス・ダンブルドアは群衆の中から無言でその裁定を見つめ、政治的に何も止められないことを観客に突きつける。
場外ではキャロウ姉妹がアバナシーらを引き連れ、ヤコブ・コワルスキーを暗殺者と仕立てる罠を仕掛ける。テセウス・スキャマンダーは部下たちの目の前で発生した未遂事件の責任を取らされ、グリンデルバルド派が支配権を握りつつあるエルクスタッグ監獄へ移送される。グリンデルバルドが法の手続きを使って敵の主力を一人ずつ削っていく手際の良さが、この章の眼目である。
ベルリンの市街地ではニュート、ジェイコブ、ラリーが別行動を取りながら、相次ぐ襲撃をかわす。ジェイコブが手にした杖もどきは、ラリーの介入によって彼自身でも驚くほどの『破壊の閃光』を一度だけ放ち、観客に魔法と非魔法の境界の曖昧さを再認識させる。
エルクスタッグ監獄とマンティコア
テセウスを救出するため、ニュートは弟だけが知るルートでエルクスタッグ監獄へ忍び込む。冷たい石牢の地下深くには、毒針を持つ巨大な蠍状の幻獣マンティコアの群れが棲みつき、囚人ごと餌として与えられる構造になっている。ニュートは『マンティコアは横ばいの動きにしか反応しない』という生態の知識を活かし、テセウスとともに身を低くした奇妙な蟹歩きで群れの真ん中を通り抜ける。
本作で最も有名な単独シーンが、この『マンティコアの群れの中を兄弟が蟹歩きする』場面である。命懸けの状況のなかで、寡黙な兄テセウスがニュートの背中越しにステップを真似していく不器用な滑稽さが、観客に張りつめた笑いを与え、シリーズ屈指のミーム的場面ともなった。ニュートはピケット(小さな緑のボウトラックル)の助けで地下水路の魔法錠を解き、二人はマンティコアの主からからくも逃れる。
脱出した兄弟はベルリン市街でアルバスとラリーに合流し、最終局面が間近に迫っていることを知らされる。ICWはグリンデルバルドが正式に首席魔法戦士候補として名乗りを上げることを認め、選挙はブータンの山頂で行われると発表する。
ホッグズ・ヘッド——アバーフォースとクリーデンスの真実
選挙前夜、舞台は再びホッグズ・ヘッドへ戻る。ニュートはバンティと再会し、スーツケースの中に匿われていた『生き残った双子のキリン』を彼女に託す手筈を確認する。だが、店の鏡に伝言が浮かび上がる——『助けて、父さん』。差出人はクリーデンス(オーレリアス・ダンブルドア)だった。
ここでアルバスは弟アバーフォースとともに、これまで秘していた事実をニュートたちに明かす。クリーデンスを生んだのはアルバスではなく、彼の弟アバーフォースだった。若き日のアバーフォースが恋人とのあいだに儲けた子が孤児院をたらい回しにされ、姓を改めたうえで米国へ送られて『クリーデンス・ベアボーン』として育ったのである。前作でグリンデルバルドが告げた『お前はオーレリアス・ダンブルドアだ』は、半分の真実と半分の操作だった——血筋はダンブルドアだが、父はアルバスではなくアバーフォースであり、グリンデルバルドはその秘密を武器化してクリーデンスを操ってきた。
オブスキュラス(抑え込まれた魔力が宿主自身を食い破る暗黒の生命体)に長年蝕まれてきたクリーデンスは、もはや余命いくばくもない。アバーフォースは『連れて帰る』と低い声で漏らし、選挙の翌日、戦いがすべて終わったあとに息子を引き取ることを心に決める。本編シリーズで長く謎とされてきたアバーフォース・ダンブルドアの人物像が、家族として最も静かな形で立ち上がる場面である。
クイニーの揺らぎとジェイコブ
前作でグリンデルバルド派に加わったクイニー・ゴールドスタインは、本作でも彼の側に身を置いている。だが彼女の脳裏にはジェイコブとの記憶が消えず、グリンデルバルドの『純血優越』思想と、彼女自身が愛した非魔法族の男との結婚という現実とのあいだで揺れ続ける。グリンデルバルドはクイニーの精神感応能力(レジリメンス)を、敵陣の予知装置として徹底的に利用する。
ベルリンの市場で偶然鉢合わせしたクイニーとジェイコブの場面、そしてグリンデルバルドの隠れ家でクイニーが自分の思考をジェイコブに見せまいと必死で遮断する場面が、彼女の離反への伏線として積み上げられる。最終的にクイニーはグリンデルバルドに『お前の心の中にはあの男が居続けている』と冷たく指摘され、選挙当日に彼女自身の意思で陣営を離れる選択を下す。
ブータン山頂——キリンの選挙
選挙はブータンの古都にある山頂の聖域で開かれる。雲海を見下ろす石舞台に、ICW加盟各国の魔法使いが集い、新しい首席魔法戦士を選ぶ古代の儀式『キリンの選択』が執り行われる。儀式は単純である。候補者たちが石舞台に並び、キリンが連れ出されると、それは『最もまっすぐな心を持つ候補者』の前で身を伏せる。最後にキリンが頭を垂れた人物が、次の首席魔法戦士に選ばれる。
候補者はアルバス・ダンブルドア、ブラジル代表ヴィセンシア・サントス、中国代表リウ・タオ、そしてICWが認めたゲラート・グリンデルバルド。冒頭で母から奪われた仔キリンはすでにグリンデルバルドの手に渡っており、彼は『黒の魔法(ネクロマンシー)』に近い術で殺したキリンを蘇生し、自分の前にだけ頭を垂れるよう操っている。蘇生されたキリンの目はうつろで、観客には『これはもう生きていない』ことが微妙に示される。
アバナシーがリウ・タオを陰で暗殺し、サントスは辞退、ダンブルドアは候補から外れる。残ったグリンデルバルドの前で『キリン』は深々と身を伏せ、群衆は雷鳴のような喝采で彼を新たな首席魔法戦士に選ぶ。グリンデルバルドは演壇に進み、笑顔のまま『これからの戦争はマグルとの戦いになる』と宣言する。
本物のキリンと血の誓いの破壊
勝利の宣言の最中、ニュートが懐から取り出すのは、誰にも知られていなかった『双子のもう一頭』である。生きたままの本物のキリンが石舞台に放たれると、群衆と候補者たちのあいだを歩み、迷わずアルバス・ダンブルドアの前にひざを折る。蘇生された偽のキリンも、最後に主の意志に逆らうように真実の側へ目を向け、グリンデルバルドの欺瞞が公の場で暴かれる。
信奉者の一部はそれでもグリンデルバルドにつき従おうとするが、彼は怒りに駆られてアルバスへ呪文を放つ。アルバスも同時に応戦するが、二人の杖から放たれた魔力は、互いの間に揺れる血の誓いの容器を介して交差し合う。アルバスとゲラートは互いに直接攻撃しないという『誓い』の境界を踏み越えそうになったその瞬間、不安定に駆け寄ったクリーデンスが二人のあいだに飛び込み、双方の杖と血の誓いの結晶を弾き飛ばす。
宙を舞ったガラスの容器は石床に砕け、中に渦巻いていた血の絆が無数の光となって雪のように散る。少年の日の誓いが砕け散る瞬間、アルバスとゲラートは互いを見つめる——もう、何の制約もなく相手と戦える。だがどちらも、この場で最終的な対決を選ばない。グリンデルバルドは敗者として静かに姿を消し、アルバスは弟と息子を抱き寄せるアバーフォースの肩に手を置く。
結末——ジェイコブとクイニーの結婚式
舞台はニューヨークへ戻る。ジェイコブのパン屋では、雪のなかささやかな婚礼の準備が整っている。グリンデルバルド派から離れたクイニーが花嫁としてジェイコブの隣に立ち、姉ティナ・ゴールドスタインが米国魔法議会から急行して立会人になる。ニュート、テセウス、ラリー、バンティ、ユスフ、そしてアルバスとアバーフォースが出席し、ジェイコブのもとへ前作で押収されたサンダーバードのフランクが束の間舞い戻ってくる——彼が記憶を消されたあの夜の和解の続きとして。
結婚式のあと、雪のニューヨーク五番街で、アルバスはひとりニュートに礼を述べる。『これまで何度ありがとうと言ったか分からない。だが、もう一度言わせてくれ』。背を向けて歩み去るアルバスを、ニュートは静かに見送る。最後のショットは閉じたパン屋の扉と、雪に消えていくダンブルドアの後ろ姿で、勝利と敗北が同居する余韻を残す。
グリンデルバルドはまだ完全には敗北していない。だが少年期の誓いは砕け、息子は父のもとへ帰り、愛し合う二人はもう一度結ばれた。これからアルバスとゲラートが正面から向き合う長い時間が始まる——本編シリーズで度々語られる『1945年、アルバス対ゲラートの伝説の決闘』へと続く前史として、本作は静かに幕を閉じる。
登場要素
本作に登場・言及される主な要素を分類して示す。固有名詞はシリーズ理解の手がかりだが、初見で暗記する必要はない。
人物
- ニュート・スキャマンダー
- アルバス・ダンブルドア
- ゲラート・グリンデルバルド
- アバーフォース・ダンブルドア
- クリーデンス・ベアボーン/オーレリアス・ダンブルドア
- テセウス・スキャマンダー
- ジェイコブ・コワルスキー
- クイニー・ゴールドスタイン
- ティナ・ゴールドスタイン
- ユーラリー・『ラリー』・ヒックス
- バンティ・ブロードエイカー
- ユスフ・カマ
- ヴィセンシア・サントス
- リウ・タオ
- アントン・フォーゲル
- アバナシー
- キャロウ姉妹(カルロウ姉妹)
- ヴィンダ・ロジエ
- ヘレナ/マクガビン助手
- ホグワーツ卒業生・職員
魔法生物・種族
- キリン(双子の幻獣)
- マンティコア
- ピケット(ボウトラックル)
- ニフラー(テディ)
- サンダーバードのフランク
- オブスキュラス(クリーデンスの内部)
- ホッグズ・ヘッドの山羊
- ベルリンの都市精霊(短いカット)
呪文・魔法
- 血の誓い(ブラッド・パクト)
- プリオリ・インカンタテム
- アバダ・ケダブラ(未遂)
- クルーシオ(過去言及)
- アパレイト/ディスアパレイト
- メモリーチャーム
- 未確認の蘇生術(キリンに対する黒魔術)
- 予知(クイニーとロジエ)
魔法道具
- 杖(各キャラクター)
- ジェイコブの杖もどき
- 血の誓いの容器
- ニュートのスーツケース
- 魔法地図(ベルリン)
- ホッグズ・ヘッドの伝言鏡
- ICW議事杖
- キリン捕獲用の鎖と檻
場所
- 四川の山岳地帯(中国)
- ホグズミード村
- ホッグズ・ヘッド酒場
- ホグワーツの図書室・廊下
- ロンドン魔法省
- ベルリン(地下交通・市街・ICW本部)
- エルクスタッグ監獄
- ブータン山頂の聖域
- ニューヨーク(コワルスキー・ベイカリー)
組織
- 国際魔法使い連盟(ICW)
- 英国魔法省(オーラー局)
- ドイツ魔法省
- 米国魔法議会(MACUSA)
- ホグワーツ魔法魔術学校
- イルバーモーニー魔法学校
- グリンデルバルド派
主要登場人物
本作の人物は『計画なき計画』の駒として動き、それぞれが個別の任務に意味を見いだしていく。中心にあるのはダンブルドア兄弟の沈黙と、ジェイコブという『非魔法族』を計画の柱に据えた逆説的な布陣である。
ニュート・スキャマンダー(エディ・レッドメイン)
本シリーズの語り手。前作までの内向的な魔法動物学者から、責任ある任務を背負うリーダーへと、わずかずつ歩を進める。本作のニュートは、双子のキリンの片方を秘匿してブータンへ運ぶという『裏側の計画』を一人で担い、観客にもクライマックスまでその全容を伏せて行動する。
兄テセウスとの兄弟関係も大きな軸である。マンティコアの群れを抜ける蟹歩きの場面に代表されるように、寡黙な兄と不器用な弟が互いの専門領域に踏み込み、ぎこちなく信頼を確認していく描写は、本作の感情の中心の一つになっている。
アルバス・ダンブルドア(ジュード・ロウ)
本作で初めて、ハリー・ポッター本編で語られてきた『若き日のアルバスとゲラート』の関係が中心に据えられる。少年期に交わした血の誓いゆえに直接戦えないアルバスは、自分の代わりに動く者たちを集め、結果に直接介入できない指揮官として振る舞う。
ホッグズ・ヘッドで弟アバーフォースと対面する沈黙、結末で雪の五番街をひとり歩む後ろ姿——本作のアルバスは『勝者』であると同時に『何もできなかった者』でもある。ジュード・ロウは静かな視線と長い沈黙によって、誰よりも雄弁に語る男を演じ切った。
ゲラート・グリンデルバルド(マッツ・ミケルセン)
前作のジョニー・デップから、本作よりマッツ・ミケルセンが役を引き継いだ。ミケルセン版のグリンデルバルドは、デップ版の派手な誇示よりも冷たい論理と知性を前面に出した造形で、笑顔のままアバナシーに『お前は今、私を信じている』と告げる場面など、相手の心を見透かしながら静かに掌握する怖さが際立つ。
本作の彼は政治家として頂点に立とうとする男であり、選挙という合法的な手続きで世界を握ろうとする。蘇生したキリンを使う詐術が暴かれる瞬間、彼の表情から確信が剥がれ落ちる一瞬の動揺は、ミケルセンの抑制された芝居がもっとも雄弁になる場面である。
アバーフォース・ダンブルドアとクリーデンス(リチャード・コイル/エズラ・ミラー)
本作で初めて映像化されたアバーフォース・ダンブルドア。ホッグズ・ヘッドの寡黙な店主として淡々と振る舞いながら、終盤で『クリーデンス=オーレリアス』の真の父親であることを告白する。山羊好きの飾らない弟が、長年兄に対して抱えてきた屈託と、それでも血を分けた家族として終局で兄の隣に立つ姿が、本作の家族劇としての芯を作っている。
クリーデンスは、オブスキュラスに蝕まれ、長く生きられないことが本作で初めて明示される。前作で叩きつけられた『オーレリアス』の名は、実際にはアバーフォースの息子としての血筋を指していた——半分の真実を武器化したグリンデルバルドの操作の犠牲者である彼は、結末でようやく『父』のもとへ帰る。
ラリー、バンティ、ジェイコブ、テセウス、ユスフ
イルバーモーニー魔法学校の呪文学教授ユーラリー・『ラリー』・ヒックスは本作の新キャラクターで、ジェシカ・ウィリアムズの軽やかな芝居が群像に温度を与える。学者然とした聡明さと、戦闘の最中でも崩れないユーモアの均衡が、ジェイコブの最も近くで彼を支える役を担う。
バンティ・ブロードエイカーは、ニュートの助手として『生き残った双子のキリン』をスーツケースで運ぶ大役を果たす。映画の中盤までは地味な存在に見える彼女が、結末でその意義を明かされる構造は、ローリングらしい伏線回収である。テセウス・スキャマンダーはエルクスタッグ監獄の場面で兄としての弱さと強さを同時に見せ、ユスフ・カマは前作の血の宿命から自由になる選択を選ぶ。
そしてジェイコブ・コワルスキー。本作の最大の発明は、マグル(ノー・マジ)である彼を、敵の予知を撹乱する『重要人物』として動かしたことである。役柄としての杖を握ったジェイコブが、ベルリンの市街で本当に魔法じみた閃光を放ってしまう場面は、シリーズが繰り返し描いてきた『境界線の意味のなさ』を象徴する。
舞台と用語
本作の舞台は『前作までより視覚的に静かで、政治的により切迫している』。ジャズ・エイジの華やかなニューヨークや前作の灰色のパリに代わって、雪のホッグズ・ヘッド、ベルリンの石とガラスのICW本部、ブータンの雲海といった『公的な場』が物語の中心になる。装飾を抑えた美術が、討議と選挙という非劇的な行為を画面の中心に据えるのを助けている。
用語面では、首席魔法戦士(Supreme Mugwump)と国際魔法使い連盟(ICW)の選挙手続き、血の誓い(ブラッド・パクト)の作用、キリンという新規幻獣の性質、そしてオブスキュラスがもたらす『宿主を内側から焼く』性質が、観客が理解しておくべき主要な仕掛けである。これらは劇中で短く説明されるが、本作のクライマックスはこの三つの装置の交差で構成されているため、初見では一度の鑑賞ですべてを把握しきれないことも多い。
制作
シリーズ第3作の制作は、前作の批判的な反応とキャストの大幅な交代という、二つの大きな逆風を抱えて始まった。以下、企画から特撮までの主要な経緯を整理する。
企画と脚本
脚本は、前2作で単独執筆を担っていたJ.K.ローリングと、ハリー・ポッター本編全8作(『不死鳥の騎士団』を除く)の脚本を手がけたスティーヴ・クローヴスの共同執筆となった。前作『黒い魔法使いの誕生』が物語の複雑さと情報量の多さで賛否を二分したことを受け、本作はクローヴスの『観客が辿りやすい一本道の動線』と、ローリングの伏線設計を組み合わせる方針に切り替えられた。
結果として、本作は前作で持ち越された複数の謎(クリーデンスの正体、血の誓いの存在意義、ティナとニュートの関係性)を一本ずつ整理し、最終的に『二人の宿敵がついに直接対峙する手前まで物語を進める』という、シリーズの宿題消化的な構成へ整理された。当初構想されていた5部作は、本作の興行結果を受けて事実上3部作で停止することになる。
キャスティング——マッツ・ミケルセンの起用
本作最大の話題は、グリンデルバルド役の交代である。前作までジョニー・デップが演じていたが、彼自身の私生活をめぐる訴訟を背景に、デップが本作からの降板を発表(公式には『辞任要請に応じた』とされる)した。代役には、デンマーク出身のマッツ・ミケルセン(『007 カジノ・ロワイヤル』『ハンニバル』『アナザーラウンド』など)が起用された。
ミケルセンは『デップ版を真似ない』ことを起用条件としていたと報じられ、長髪を切り、二色異色の目とブロンドの髪を維持しつつも、所作・声・笑い方を全面的に作り直している。観客の戸惑いは公開当初こそ大きかったが、ミケルセン版の静かな威圧感は次第に好意的に受け止められ、シリーズ屈指の知的なヴィランとして評価が定着していった。
主要キャストはエディ・レッドメイン、ジュード・ロウ、エズラ・ミラー、ダン・フォーグラー、アリソン・スドル、キャラム・ターナー、ウィリアム・ナディラム、ヴィクトリア・イェイツが続投。新たにジェシカ・ウィリアムズ(ラリー)、リチャード・コイル(アバーフォース)、オリヴァー・マスッチ(フォーゲル)、マリア・フェルナンダ・カンディド(サントス)、ダヴェ・ラム・パン(リウ・タオ)が加わった。キャサリン・ウォーターストン演じるティナは本作では短い登場にとどめられた。
美術と衣装
美術はハリー・ポッター本編から本シリーズ全作を支えてきたスチュアート・クレイグを中心に、ニール・ラモントとの共同で進められた。本作はホグワーツのホグズミード村、ICWの巨大な議事堂、エルクスタッグ監獄、ブータンの山頂聖域など、対照の強い舞台を行き来するため、各空間の素材(石、ガラス、雪、雲)の質感を変えることに重点が置かれた。
衣装はコリーン・アトウッドが続投し、グリンデルバルドの単色のロングコート、ダンブルドアの暗色のスリーピース、ラリーの旅装と教師服の中間にある軽やかな上着など、人物の立場を一目で示す『線』を強調するシルエットでまとめられた。とくにグリンデルバルドの衣装はミケルセン版の硬質な顔立ちに合わせ、装飾を限界まで削ぎ落とした、宗教的指導者にも軍服にも見える両義的な造形にまとめられている。
視覚効果と幻獣造形
視覚効果はクリスチャン・マンズの統括のもと、フレームストア、DNEG、ロデオFXら複数のVFXハウスが分担した。本作で新たに造形された目玉は、双子のキリンと地下のマンティコアの群れである。キリンは中国伝承の麒麟をモチーフに、馬とドラゴンと羊の中間のような優美な体躯と、瞳が魂の純度を映すという設定を視覚化するための丁寧なライティング設計が行われた。
マンティコアの群れは、撮影現場では低い棚と簡易マーカーのみを使い、後段でフルCGに置き換えられている。マンティコアの『横ばいの動きにしか反応しない』生態は、ニュートとテセウスの蟹歩きという物理的な演技を成立させるための装置として作り込まれ、生態描写とアクション設計を不可分に結びつけた。
音楽と音響
音楽はシリーズ3作通してジェイムズ・ニュートン・ハワードが続投。ジョン・ウィリアムズによる『ヘドウィグのテーマ』を本作でも控えめに引用しつつ、グリンデルバルドの主題、ニュートとキリンの主題、ジェイコブの結婚式のための柔らかなワルツ、そしてアルバスとアバーフォースの兄弟の主題が新たに編まれた。
音響面では、エルクスタッグ監獄のマンティコアの息遣い、ブータン山頂の風と雲海の遠い反響、ホッグズ・ヘッドの暖炉の薪の弾ける音といった『環境音の沈黙』が映画全体の落ち着いた呼吸を支えている。前作の喧騒に比べ、本作は意図的に静かな音場で組まれ、終盤の血の誓いが砕けるガラス音だけが鮮烈に立ち上がる構造になっている。
撮影とロケ
撮影監督は、前作のフィリップ・ルースロから『キングスマン』『1917 命をかけた伝令』のジョージ・リッチモンドへ交代した。撮影は2020年9月にロンドン郊外のワーナー・ブラザース・スタジオズ・リーブスデンで開始されたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う中断と再開を繰り返し、ベルリン市街の屋外撮影、四川の山岳地帯を想定したスタジオ撮影、ブータン山頂を模した大規模屋外セットへと移っていった。
リッチモンドは前2作の華麗な広角構図に対し、人物の顔と手の細部に寄る視線で本作を撮り、政治劇と家族劇の比重を画面構成からも明確化した。雪のニューヨーク五番街の結末ショットは、屋外大型セットと光学合成によって作られている。
編集
編集はシリーズ続投のマーク・デイ。本作は142分というシリーズ最長級の上映時間を保ちつつも、前作の『一場面に複数の謎が同時進行する』構成を改め、一章ごとに『今、誰が何のために動いているか』を観客が見失わない並び替えに重点が置かれている。
クライマックスのブータン山頂の選挙シーンは、当初の編集では選挙の手続きを長く描く構成だったが、最終版では儀式と政治と家族の対面を交互に切り返す、よりタイトな並びへ詰められたとされる。血の誓いの容器が砕け散る瞬間のスローモーション処理も、編集段階の試行を経て決定された。
公開と興行
本作はもともと2021年11月公開を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の世界的流行と、製作中断・再開、編集スケジュールの調整を受けて2022年春に公開が後ろ倒しされた。日本では2022年4月8日に先行公開され、米国は4月15日のイースター・ウィークエンドに公開されている。
全世界興行収入は約4億500万ドルで、製作費(約2億ドル)を考えると、シリーズで最も控えめな成績となった。これは新型コロナの影響、長期化したシリーズへの観客の疲弊、前作の論争、グリンデルバルド役交代への戸惑い、そして配信プラットフォームへの早期投下といった複合要因によるものとされる。受賞・候補は技術系の各賞ノミネートが中心で、視覚効果と美術が改めて高く評価された。
本作の興行的な結果を受けて、当初構想されていた『5部作』はワーナー・ブラザース側の判断で続編がいったん保留となり、シリーズは事実上3部作で休止する形となった。ハリー・ポッター本編に向けた接続点(1945年のアルバス対ゲラートの決闘)は、現時点では将来の続編に委ねられている。
批評・評価・文化的影響
批評の傾向は、前作の混乱を整理した『修正回』として概ね好意的だったが、同時に『静かすぎる』『盛り上がりに欠ける』といった指摘も少なくなかった。マッツ・ミケルセンのグリンデルバルドは公開直後から高い評価を獲得し、シリーズに『静かな悪』という新しい質感を持ち込んだとされる。観客評価は批評よりも一段高く、特にダンブルドア兄弟の物語と、マンティコアの蟹歩きシーンが繰り返し言及された。
文化的影響としては、双子のキリンが魔法ワールドの新たなアイコン的生物として定着し、テーマパークやグッズへも展開された。マンティコアの蟹歩きはミーム化し、ニュートとテセウスの兄弟関係を象徴する画として一人歩きしている。一方で、興行の落ち込みとシリーズの停滞は、現代のフランチャイズ映画における『前日譚を何作続けられるか』という問いを業界全体に投げかける結果となった。
舞台裏とトリビア
脚本にスティーヴ・クローヴスが共同名義で加わったのは、本シリーズで本作が初めてである。クローヴスはハリー・ポッター本編で『不死鳥の騎士団』を除く全作の脚本を手がけており、本作の参加で実質的に魔法ワールド映画シリーズの主要全作品に関与したことになる。
グリンデルバルド役の交代に際し、マッツ・ミケルセンは前任のジョニー・デップに敬意を表しつつ『デップ版を再現しない』方針を明言し、製作側もそれを支持した。ミケルセンが手にした杖の握り方、視線の置き方、笑いの抜き方は、ハンニバル・レクター役での経験を踏まえた、別の悪役像として再設計されている。
ニュートとテセウスの蟹歩きシークエンスは、エディ・レッドメインとキャラム・ターナーが現場で振付を共同で詰めたと伝えられる。レッドメインは事前に『マンティコアの正面では絶対に立ち上がらない』というルールだけを兄弟で守るよう監督から指示された。
中国名物の伝承生物『麒麟』をモチーフにしたキリン(Qilin)は本作の発明で、英語圏では『kee-lin』に近い発音で統一された。劇中の鳴き声は複数の鹿・羊・馬の鳴き声を合成し、最後に重ねたピアノの一音で完成しているという。
ブータン山頂の聖域は、現地ロケではなく英国内のスタジオ屋外セットと既存の山岳ロケ素材の合成で構築されている。雲海の俯瞰ショットは、別撮りのドローン素材をベースに、群衆と石舞台をデジタル合成して仕上げられた。
テーマと解釈
本作の中心テーマは『縛り』である。少年期に結ばれた血の誓い、首席魔法戦士を選ぶ古代の儀式、グリンデルバルド派が振りかざす『純血優越』、そしてダンブルドア家が抱える血縁の秘密——いずれも、人を縛りながら同時に守るルールとして描かれる。物語は、これらの縛りが順に砕け、緩み、結び直されていく過程として読むことができる。
もう一つの軸は『計画なき計画』である。アルバスが提示する『誰も全体像を知らないまま動く』戦略は、グリンデルバルドの未来視という最強の武器を逆に弱点へ変える知略であると同時に、群像劇という映画の構造そのものの自己言及になっている。観客はジェイコブが杖もどきで何をやらされているのか最後まで完全には理解できず、ニュートが二頭目のキリンを匿っていることもクライマックスまで知らされない。観客自身が『計画なき計画』のなかに置かれる体験そのものが、本作の主題と一致する。
そして最も静かな主題が『家族』である。ホッグズ・ヘッドで対峙する三人のダンブルドア——アルバス、アバーフォース、そして長く失われていた息子クリーデンス——の場面は、世界の趨勢を決める選挙の前夜にあえて挿入されることで、政治劇の規模を、最終的に一つの家庭の和解の規模へと収束させる役割を担う。マグルのジェイコブと魔法使いクイニーの結婚式が、世界の運命を分かつ選挙ではなく『二人が再び並ぶ』ことで物語の幕を閉じることも、この主題の延長線上にある。
見る順番(補助)
本作は『ファンタスティック・ビースト』前日譚シリーズの第3作であり、前2作『魔法使いの旅』(2016)と『黒い魔法使いの誕生』(2018)の続きとして書かれている。クリーデンス=オーレリアスの真の血筋、ジェイコブとクイニーの再合流、ティナの不在、血の誓いの存在など、本作の物語の前提となる情報は前作までで提示されているため、未見であれば必ず公開順に観るほうが分かりやすい。
ハリー・ポッター本編とのつながりという観点では、本作のあとに『賢者の石』から本編8作を観るのが最も整った流れだが、本編を先に観てから前日譚に戻る順番でも、ダンブルドア兄弟の関係性に新しい光を当てる体験として十分に成立する。
- 前作『黒い魔法使いの誕生』でクリーデンスがオーレリアスと宣告される
- 本作ダンブルドア兄弟の真実、血の誓いの破壊
- 未来1945年、アルバス対ゲラートの伝説の決闘へ
- 本編接続ハリー・ポッター本編の約59年前
よくある質問(補助)
『あらすじだけ知りたい』場合は、双子のキリンの誕生と片方の強奪、ブータン山頂の選挙、グリンデルバルドの詐術が暴かれる、血の誓いが砕ける、ジェイコブとクイニーが結婚するという5点を押さえれば十分である。『結末・ネタバレを知りたい』場合は、クリーデンスがアバーフォースの実子であるという真相と、アルバスとゲラートが最終的に直接戦える状態に解放されたという二点が、本編シリーズへの最大の橋渡しになる。
『なぜグリンデルバルドの俳優が変わったのか』は本作前後で繰り返し問われる論点で、前任ジョニー・デップの私生活をめぐる訴訟と、ワーナー側からの辞任要請が背景にある。マッツ・ミケルセンは『前任を真似ない』方針で完全に別人として演じている。『シリーズはこの後どうなるのか』については、興行結果を受けて当初構想された5部作はいったん中断され、続編は未定の状態である。
参考資料・脚注
作品名、キャラクター名、画像、各種権利はそれぞれの権利者に帰属する。公開年・興行・制作・配信状況・外部評価は変動しうるため、視聴前に公式および各データベースの最新表示を確認されたい。本記事の本文は各種公開情報をもとに、Anna Movies用の独自の日本語文章として構成している。
参照・確認先
公式画像、作品名、キャラクター名、権利は各権利者に帰属する。公開年、配信状況、外部評価は変わる場合があるため、視聴前に公式・配信元・作品データベースで確認したい。