1926年のニューヨーク。スーツケースに魔法動物たちを詰めて到着した英国人魔法動物学者ニュート・スキャマンダーが、ノーマジの菓子職人ジェイコブと姉妹魔女ティナ・クイニーを巻き込み、街を引き裂く謎の魔の力『オブスキュラス』と、その背後に潜む暗黒魔法使いゲラート・グリンデルバルドの陰謀へ近づいていく——魔法ワールド前日譚シリーズ第1作。

基本データ 2016年・デヴィッド・イェーツ監督

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』以降の本編4作を演出したイェーツが続投。脚本はJ.K.ローリング自身の映画脚本デビュー作で、原案は2001年の慈善本『幻の動物とその生息地』。ワーナー・ブラザース/ヘイデイ・フィルムズ製作、上映時間133分。

物語上の位置 1926年ニューヨーク、ハリー本編の約70年前

本編で副読本として登場する『幻の動物とその生息地』の著者ニュート・スキャマンダーを主人公に据え、ジャズ時代の禁酒法下ニューヨークを舞台に魔法界の前史を描く。米国魔法議会(MACUSA)、ノーマジ(米国式マグル呼称)、オブスキュラスといった新概念が一挙に導入される。

受賞・評価 アカデミー衣装デザイン賞受賞

コリーン・アトウッドが第89回アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞(彼女にとって4度目のオスカー)。美術賞、衣装デザイン賞でアカデミー・英国アカデミー賞双方にノミネート。全世界興収約8億1400万ドルを記録し、ワーナーの『魔法ワールド』ブランド誕生の礎を築いた。

この記事の範囲 クリーデンスとグリンデルバルドの真相まで完全解説

オープニング字幕に相当する冒頭の新聞モンタージュから、地下鉄でのオブスキュラスの解放、パーシバル・グレイブスの正体(実はゲラート・グリンデルバルドが変身した姿)、クリーデンスの結末、雨と忘却の閉幕、エピローグ的なアリゾナでの逮捕場面まで、重大ネタバレを前提に踏み込む。

目次 38項目 開く

概要

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(Fantastic Beasts and Where to Find Them)は、デヴィッド・イェーツが監督し、2016年11月18日に米国で、同年11月23日に日本で公開されたファンタジー映画である。J.K.ローリングが2001年にコミック・リリーフのチャリティ用に発表した架空の動物図鑑『幻の動物とその生息地』を原案とし、その著者という設定だった英国人魔法動物学者ニュート・スキャマンダーを主人公に据えて、ローリング本人が脚本を初めて書き下ろした。

舞台は1926年のニューヨーク。物語は、世界中の魔法動物を救出し研究するためにスーツケース一つでマンハッタンに到着したニュートと、新人魔法捜査官ティナ・ゴールドスタイン、ノーマジ(No-Maj=米国における非魔法族の呼称、英国でいうマグル)の菓子職人ジェイコブ・コワルスキー、ティナの妹で読心術の達人クイニー・ゴールドスタインという四人を中心に進む。彼らが脱走した魔法動物を追ううちに、街を引き裂く正体不明の暗黒の力『オブスキュラス』と、その背後で動く闇の魔法使いゲラート・グリンデルバルドの計画が浮上していく。

本作はワーナー・ブラザースが『ハリー・ポッター』本編完結後に立ち上げた新シリーズ『魔法ワールド』の第1作にあたり、本編より約70年前の時代を描く前日譚として企画された。当初の予告では3部作、企画進行のなかで5部作と発表され、結果的に『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』(2018)、『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』(2022)の続編がつくられた。

本記事は結末を含む全編の内容に踏み込む。冒頭新聞モンタージュからクライマックスの地下鉄、パーシバル・グレイブスの正体、クリーデンスの結末、ジェイコブの記憶消去までを順に解説するため、物語の重大な驚きを保ちたい場合はまず本編を鑑賞してから読んでほしい。

原題
Fantastic Beasts and Where to Find Them
監督
デヴィッド・イェーツ
脚本
J.K.ローリング
音楽
ジェイムズ・ニュートン・ハワード
撮影
フィリップ・ルースロ
米国公開
2016年11月18日
上映時間
133分
ジャンル
ファンタジー、冒険、ミステリー、青春群像
舞台
1926年・ニューヨーク市(マンハッタン/地下鉄/中央公園/シティ・ホール駅 ほか)
主舞台組織
MACUSA(米国魔法議会)/第二セイラム慈善協会

あらすじ

以下は結末までを含む全編のあらすじである。物語は、欧州でグリンデルバルドが姿を消したことを伝える新聞モンタージュに始まり、ニュート・スキャマンダーのニューヨーク到着、スーツケースの取り違え、魔法動物たちの脱走、街を襲う暗黒の力の捜査、第二セイラム協会のクリーデンスをめぐる悲劇、地下鉄シティ・ホール駅でのクライマックス、そしてグリンデルバルドの正体露見と、雨に流される記憶までを順に追う。

プロローグ——欧州を逃れたグリンデルバルド

映画はジェイムズ・ニュートン・ハワードの新主題が流れるなか、世界各地の新聞の見出しが切り替わるモンタージュで幕を開ける。ヨーロッパ、北アメリカの魔法・非魔法双方の紙面が立て続けにめくれ、闇の魔法使いゲラート・グリンデルバルドが各地の魔法政府を相手に攻撃と逃走を繰り返していること、彼の所在が掴めなくなりつつあること、そして米国でも『ノーマジ(No-Maj)』の死者が出る不可解な事件が起こり始めていることが、観客に短く提示される。

新聞モンタージュは、本作冒頭の数十秒で、後の三本のあらゆる伏線を観客の目の前に並べきる役目を負っている。グリンデルバルド、米国魔法界、暗い闇の力、そして魔法と非魔法のあいだに走り始めた亀裂——以後の二時間あまりのすべてが、この一連の見出しから派生して動き出す。

見出しの嵐が一段落すると、画面は霧雨に煙る1926年のニューヨーク港へ切り替わる。蒸気船から大勢の移民が降り立つ群衆のなか、茶色いコートとマフラー姿のひょろりとした英国人青年が、傷だらけの茶色い革製スーツケースを大切そうに抱えて入国審査の列に並んでいる。彼こそが本作の主人公、ニュート・アルティミス・スキャマンダーである。

ニュート・スキャマンダーのニューヨーク到着

ニュートのスーツケースは、外見こそ古ぼけた革鞄だが、その内部は『未検出可能拡張呪文』により広大な空間に拡張されており、世界中から保護してきた魔法動物たちが暮らす移動式の生態系になっている。入国審査ではスーツケースが揺れ、税関職員に開かれそうになるが、ニュートは鞄の留め金を『マグル』側に密かに切り替え、衣類しか入っていない普通の鞄として通過する。

ニューヨーク中心部に出たニュートは、街頭演説の輪に出くわす。『第二セイラム慈善協会』を率いる険しい目をしたメリー・ルー・ベアボーンが、自分の周りに養子の子どもたちを並ばせ、魔女と魔法使いの存在を米国市民に訴え、『魔女狩り』への支持を集めている。聴衆の中には、銀行融資を断られたばかりの元軍人、菓子職人志望のジェイコブ・コワルスキーがいる。ジェイコブは、メリー・ルーの長男で内向的な青年クリーデンス・ベアボーンと一瞬目を合わせるが、その視線の重さに気づくことはない。

ニュートのスーツケースから、金属光沢のあるクチバシを持つ小型の哺乳類『ニフラー』がこっそりと逃げ出す。光るもの・貴金属に強迫的な執着を持つこの魔法動物は、近くの銀行に駆け込み、ジェイコブの順番を待つ列の足元を抜けてカウンターの背後へ消える。ニュートは追跡の途中でジェイコブと衝突し、二人のスーツケースが床に倒れる。

銀行の混乱とスーツケース取り違え

銀行の中で、ニフラーは支配人の机から札束と硬貨と万年筆まで自分の腹袋に詰め込み、暖炉の煤の中、頭取室のヴェルヴェット張りソファの裏、貴賓室の宝石ケースの中まで縦横無尽に動き回る。ニュートは『杖を見せずに』この動物を捕獲しなければならないため、人間の客たちに気取られないよう柱の影でこっそり呪文をかけ、誤って金庫室の重い扉を一瞬で開けてしまったり、ジェイコブの足元から黒い影を引き出してニフラーごとスーツケースに戻したりと、コミカルな捕り物が続く。

騒動を遠くから見ていたのが、MACUSA(米国魔法議会)の元魔法捜査官(オーラ)で、現在は降格中のティナ・ゴールドスタインである。彼女は、街頭演説の現場でニュートが魔法生物を取り逃がしたことに気づき、銀行騒動の後にニュートを尾行して捕えようとする。

問題は、銀行で倒れた二つのスーツケースを、ニュートとジェイコブが取り違えたまま帰宅したことだった。ジェイコブが自宅で開いた『パン屋融資の事業計画書のはずだったスーツケース』は、世界各地から救出された魔法動物が暮らす広大な世界の入口だった。蓋が開いた瞬間、いくつかの動物が室内に飛び出し、ジェイコブはエラムペントという巨大な角持ち獣にうなじを突かれる——本作中盤、彼が原因不明の発熱と発疹に苦しむことになる伏線である。

MACUSAとセラフィーナ・ピッカリー

ティナはニュートをMACUSA本部、ウールワース・ビルディング地下深くの巨大ロビーへと連行する。米国魔法議会の議長セラフィーナ・ピッカリーは、東欧でグリンデルバルドの動向が掴めなくなっていること、ノーマジの世界で次々に犠牲者を出す『何か』が出現していること、そして国際魔法使い連盟が近く米国で会合を開く予定であることを、最高幹部会議で議論している。MACUSAは、英国魔法省と異なる独自の規範、すなわち『ローパポート法』により、魔法族とノーマジの完全な分離(友人関係や結婚すら禁ずる厳格な隔離)を国是としている。

ティナは、無許可で英国から魔法動物を持ち込んだ違反者として、ニュートをロビーに連れ込む。だが、ニュートが見せた『証拠品』のスーツケースを開けてみると、中にはマカロンや林檎パイ、シナモンロールが整然と並んでいる——ジェイコブの試作品スイーツが詰まった鞄の方だった。ティナはニュートを連れて室外に出されるが、その間に本物のスーツケースは、第六感的な不安を抱えたジェイコブのアパートで開いてしまっている。

MACUSAのもう一人の重要人物が、暗い目をした魔法捜査局の最高責任者、パーシバル・グレイブスである。長身、銀髪交じりの黒髪、磨き上げられた黒いコート。グレイブスは、街で起きている『不可解な破壊事件』の現場を視察し、その奥に何か巨大な力——彼が『オブスキュラス』と呼ぶ別の存在——が潜んでいると確信している。

用語:魔法省(MACUSAの対応組織)

魔法動物たちの脱走と捕獲行

ニュートとティナはジェイコブのアパートに駆け込むが、開いたスーツケースから動物たちはすでに街へ散らばっていた。ニュートはジェイコブを観察対象、味方、目撃者の三役に置きながら、彼を連れたままスーツケースの内部へ降りていく。革張りの梯子を下りた先には、雪原、サバンナ、岩場、湿地、夜空の星々が同居する広大な空間が広がっており、それぞれの環境に合わせた魔法動物が暮らしている。

この『鞄の中の動物園』のシークエンスは、本作の見せ場の一つである。サイ型のエラムペント、目に見えない皮膚を持つ霊長類デミガイズ(ニュートは『ダガル』と呼ぶ)、銀色の蛇身と鳥の頭を持つ精巧な蛇竜オカミー、雷を呼ぶ巨大な鳥サンダーバード(『フランク』)、毒の蝙蝠ボウトラックル(『ピケット』)など、後年のシリーズで繰り返し参照される動物の大半が、ここで初めて観客の前に披露される。ピケットはニュートの胸ポケットに棲み、彼の杖の動きに合わせて葉と小枝で出来た細い指を握る。

街に逃げた動物のうち、特に物語の主軸に絡むのは、エラムペント、デミガイズ、オカミー、そしてふたたびニフラーである。エラムペントは中央公園の動物園区画で雌のカバに発情して暴れ、ニュートとジェイコブはコートと角の上で奇妙なダンスを舞いながら鞄に戻す。デミガイズはデパートの五階で小さなオカミーの群れの面倒を見ており、ニュートはチーズと甘い菓子で誘い出す。中盤の魔法動物捕獲は、笑いとファミリー映画的な軽さで、街と魔法界の境界線をぎりぎり保とうとする物語のスリルを支えている。

クリーデンスとグレイブスの密約

並行して進行するもう一本の縦糸が、第二セイラム慈善協会のクリーデンス・ベアボーンの物語である。クリーデンスは、養母メリー・ルーから日常的に体罰を受け、姉のチャスティティと妹のモデスティとともに、教会の地下のような暗い空気の家で暮らしている。彼は何度もメリー・ルーの皮剥ぎベルトで右の手の甲を打たれ、その手にはミミズ腫れの古傷が残っている。

そのクリーデンスに、MACUSAの捜査局長パーシバル・グレイブスが、街の路地裏や教会の脇で何度か接触している。グレイブスは、メリー・ルーの組織の内側に『強い魔法の素質を持つ子ども』が一人いるはずだと言い、その子を見つけ出せばニューヨークから連れ出し、二度と打たれない自由を与えてやろう、とクリーデンスに約束する。クリーデンスはグレイブスを『救い手』と信じ、その懐に小さく抱きしめられる場面が、本作の暗い詩情の核を成す。

観客はこの段階で『グレイブスが探している子』がクリーデンスの妹モデスティではないかと示唆されるよう仕向けられる。だが、その推理は終盤で完全に反転する。

ノーマジ上院議員候補の死

ニュートたちが動物を追い回す一方で、ニューヨーク市内では正体不明の力による破壊事件が再び発生する。新聞王ヘンリー・ショー・シニアの大広間で、息子で次期上院議員候補のヘンリー・ショー・ジュニアが、招待客の前で何かに殴打されて惨殺される。事件現場には黒い砂のような渦と引っかき傷だけが残る。

MACUSAは、これを魔法族による『国際魔法機密保持法違反』とみなし、ニュートとティナに容疑をかける。二人と、巻き込まれたジェイコブとクイニーは、グレイブスとピッカリー議長の決定により、即時の処刑(『デス・セル』への投下処分)を言い渡される。ニュートのスーツケースは取り上げられ、ピケットだけがニュートのポケットに残っている。

クイニーが看守を読心術で攪乱し、ジェイコブと協力して仲間の処刑装置からニュートとティナを救出する。鞄の中身は、ニフラーが盗み出した銀の金具を歯車に噛ませて装置を停止させ、四人は地下水路を抜けてMACUSAから逃走する。

オブスキュラスとオブスキュリアル

鞄の中の小屋で、ニュートはジェイコブとクイニー、ティナの前で、自分が長年研究してきた現象——『オブスキュラス』『オブスキュリアル』——について語る。魔法の素質を持って生まれた子どもが、家族や周囲からの暴力・恐怖・宗教的抑圧などによって自分の魔力を徹底的に押し殺すと、その押し殺された魔力は黒い砂のような破壊的な寄生体『オブスキュラス』へと姿を変え、本人を内側から食い破る。その宿主となった子どもを『オブスキュリアル』と呼ぶ。歴史上、オブスキュリアルが十歳を超えて生き延びた例はほぼなく、ニュート自身も以前、北アフリカのスーダンで一人の幼いオブスキュリアル(八歳のクレジット表記での少女)を救おうとして失敗した経験を抱えている。

ニューヨークで連続している破壊事件は、まさにそのオブスキュラスの徴候を示している。ニュートは、宿主となっている子どもを救出することを最終目的にする——殺すのではなく、生かす——という姿勢を、はっきりとティナの前で明言する。

この語りのなかで、ニュートはピケットを胸ポケットから出してジェイコブに紹介し、四人がスーツケースの中で食事を取る短い場面が挟まれる。クイニーが読心術と魔法でケーキを作り、ジェイコブが涙ぐむ。本作のもっとも温かいシークエンスであり、終盤の別れを胸に響かせる仕掛けでもある。

地下鉄シティ・ホール駅のクライマックス

事件はクリーデンスの最終的な暴走で頂点へ達する。グレイブスから『お前ではなく妹のモデスティが探している子どもだ』と告げられたクリーデンスは、メリー・ルーから受けた最後の体罰の後、長年抑え込んできた魔力を一気に解放する。彼の体は黒い砂の渦——巨大なオブスキュラスへと姿を変え、第二セイラム慈善協会の家で養母メリー・ルーと姉チャスティティを殺害する。彼が本作の真のオブスキュリアルだった。

黒い渦は街を引き裂きながらマンハッタンを横断し、最終的にニューヨーク地下鉄の閉鎖駅・シティ・ホール駅へ流れ込む。MACUSAの全部隊、駆けつけたニュート、ティナ、そして偽の救い手としてその場に現れるグレイブスが、トンネルと白いタイルの駅構内でクリーデンスのオブスキュラスと対峙する。

ニュートはオブスキュラスを抑え込むのではなく、その奥にいるクリーデンスへ届く言葉を選ぶ。北アフリカで救えなかった少女の写真を心の中で重ね合わせるように、彼はクリーデンスに『止まれ、もういい、これ以上自分を傷つけるな』と語りかける。ティナも涙ながらに彼の名を呼ぶ。だが、その瞬間、地下のホームに到着したセラフィーナ・ピッカリー率いる魔法捜査局の一斉射撃が、クリーデンスのオブスキュラスを撃ち抜く。黒い砂は風に散らされ、残るのは少しの欠片だけになる——少なくとも観客にはそう見える。

パーシバル・グレイブスの正体——グリンデルバルドの変身

クリーデンスが散らされた直後、地下のホームに残るのはニュート、ティナ、グレイブスの三人になる。クリーデンスを失ったことに激昂し、自身の手で『お前を引き上げてやれたのに』とつぶやくグレイブスは、その怒りの中でついにニュートとティナに杖を向ける。ニュートは魔法動物スウーピング・イービル——蝶のような大きな翅と鋭い嘴を持つ小型の捕食動物——を解き放ち、グレイブスの杖を弾き飛ばす。グレイブスは縛り上げられ、彼を取り囲む形でセラフィーナ・ピッカリーが現れる。

ピッカリーはまっすぐにグレイブスの顔を見据え、『お前は本当はパーシバル・グレイブスではないだろう?』と問い詰める。縛られた男は薄笑いを浮かべ、『どう思うのです、議長殿?』と返した直後、その姿が崩れる。背の高い銀髪短髪の男、青い目、白い肌、その口元にうっすらと刻まれた微笑——闇の魔法使いゲラート・グリンデルバルドが、その姿を現す。本物のパーシバル・グレイブスは、ずっと前からグリンデルバルドに殺されているか、どこかに監禁されていることが暗示される。

ピッカリーが、グリンデルバルドが米国に潜入し、最高魔法捜査局長の身分を奪い、クリーデンスというオブスキュリアルを利用してノーマジ社会と魔法族の戦争を意図的に勃発させようとしていたことを宣告する。グリンデルバルドは、ピッカリーの目を見据えながら『君たちは、これ(オブスキュラスのような力)を本当に隠し続けられるのか?』と笑い、MACUSAの拘禁室へ連行されていく。

雨の忘却と別れ

オブスキュラスの暴走と、街中で起きた破壊・目撃事件によって、ノーマジ社会は魔法界の存在を直視しかけている。ローパポート法を国是とするMACUSAにとって、これは前代未聞の機密侵害だった。セラフィーナ・ピッカリーは、街中のノーマジの記憶を一度に消去するため、ニュートが鞄から呼び出した雷を呼ぶ巨大な鳥サンダーバード『フランク』に、忘却薬を含んだ雨をニューヨーク中に降らせるよう命じる。

強い記憶喪失効果を持つ雨が、夜のマンハッタンの空からビル群を白く煙らせる。タクシーの運転手も、橋の上の通行人も、新聞王ヘンリー・ショーも、第二セイラム協会の周辺住民も、その夜起きたあらゆる魔法的事件の記憶を、雨に打たれながら静かに失っていく。

問題は、四人の中で唯一のノーマジであるジェイコブだった。MACUSAの規定どおりであれば、彼の記憶も同様に消されなければならない。ジェイコブは自分から、『最初から夢だったんだ』と微笑みながら、雨の降る通りに歩み出ていく。彼の身体の上で雨粒が爆ぜ、ニフラー、エラムペント、オカミー、デミガイズ、サンダーバード、そしてニュートとティナとクイニーの面影が、一度だけ脳裏をよぎり、そして消えていく。クイニーは、雨の中ジェイコブの背中を遠くから見つめ、強く唇を噛む。

桟橋の別れとエピローグ

翌朝、ニュートはニューヨーク港の桟橋で英国行きの蒸気船に乗ろうとしている。ティナは見送りに来ており、二人のあいだには言葉にしきれない感情がある。ニュートは『君の本を持って戻ってくる。手渡しでね』と告げ、ティナの髪に触れかけて思いとどまり、軽く手を当てるだけで離れる。本シリーズに通底する、シャイで距離のあるロマンスの始点である。

場面は、ジェイコブが融資を断られたあの銀行に変わる。彼は鞄一つを抱えて、再び融資窓口の列に並んでいる——ただし今度の鞄の中には、ニュートが密かに置いていったオカミーの卵殻(純銀でできた極めて高価な素材)が詰まっており、それを資本に菓子工房『コワルスキー・クオリティ・ベイクド・グッズ』を開業することができる。店頭には、ニフラー、デミガイズ、エラムペントを模した、誰の指示でもないのに精巧な動物菓子が並んでいる。並んでいた女性客のなかにクイニーがいる。ジェイコブは彼女に気づき、まったく覚えていないはずなのに、ふっと胸を衝かれたような顔で彼女の方へ歩み出す——記憶は雨に流されたが、感情のかたちは消えていなかったことが、台詞なしで示される。

そして最後に、画面はがらりと変わり、アリゾナ州の荒野にある不毛の岩塊の前へ。米国魔法議会の護送部隊が、拘束されたゲラート・グリンデルバルドを大陸横断列車のような銀色の長距離護送車で輸送し、ピッカリーが直接立ち会いのもとに彼の引き渡しを欧州側へ告げる。グリンデルバルドは、ピッカリーに向き直り、深い青い目で『欧州の魔法政府が、私を裁ける?』と言いたげな笑みを浮かべて、護送車に乗り込んでいく。本作の物語はここで閉じ、彼が次作『黒い魔法使いの誕生』でこの拘禁から脱走するまでの予告として、画面が暗転する。

登場要素

本作に登場・言及される主な要素を分類して示す。固有名詞は魔法ワールドの広がりを把握する手がかりであり、続編三部作と本編との結節点になる用語が多く含まれる。

人物

  • ニュート・スキャマンダー
  • ティナ・ゴールドスタイン
  • クイニー・ゴールドスタイン
  • ジェイコブ・コワルスキー
  • クリーデンス・ベアボーン
  • メリー・ルー・ベアボーン
  • チャスティティ・ベアボーン
  • モデスティ・ベアボーン
  • パーシバル・グレイブス(実体はゲラート・グリンデルバルド)
  • セラフィーナ・ピッカリー
  • ヘンリー・ショー・シニア
  • ヘンリー・ショー・ジュニア
  • ラングドン・ショー
  • ガナーマック・ガストロフ
  • アバナシー(MACUSA職員)
  • アルバス・ダンブルドア(言及のみ)

魔法生物・種族

  • ニフラー
  • ボウトラックル(ピケット)
  • デミガイズ(ダガル)
  • オカミー
  • エラムペント
  • サンダーバード(フランク)
  • スウーピング・イービル
  • マートラップ
  • ムーンカーフ
  • ディリコール
  • グラフォーン
  • ビリーウィッグ
  • オブスキュラス(寄生体)
  • オブスキュリアル(宿主)

呪文・魔法

  • 未検出可能拡張呪文(鞄の内部空間)
  • アロホモラ(解錠)
  • フィニート
  • 閃光呪文
  • 杖なしで使う変身術(グリンデルバルドのグレイブスへの変身)
  • 忘却術/忘却の雨
  • プロテゴ(防御)
  • 守護霊呪文
  • リパロ(修復)
  • 蛇のような魔力放出(鳥の死神めいたグリンデルバルドの呪文)

魔法道具

  • ニュートのスーツケース(魔法動物の生態系)
  • ニュートのトチノキ・ユニコーン毛芯の杖
  • グリンデルバルドの杖(後のエルダー・ワンドとは別個体)
  • ティナの杖
  • クイニーの杖
  • ニフラーの腹袋
  • オカミーの卵殻(純銀)
  • MACUSAの杖登録札
  • デス・セルの薬液装置
  • 新聞紙の魔法版『ニューヨーク・ゴースト』

場所

  • 1926年ニューヨーク市マンハッタン
  • ニューヨーク港の入国審査所
  • スティーン・ナショナル銀行
  • 第二セイラム慈善協会の建物
  • MACUSA本部(ウールワース・ビルディング地下)
  • セントラル・パーク動物園
  • メイシーズ風百貨店
  • ジェイコブのアパート
  • ゴールドスタイン姉妹のアパート(エスポジト夫人宅)
  • ブラインド・ピッグ(魔法界の地下酒場)
  • ニューヨーク地下鉄シティ・ホール駅
  • アリゾナ州の護送車基地

組織

  • MACUSA(米国魔法議会)
  • MACUSA魔法捜査局(オーラ・オフィス)
  • 国際魔法使い連盟
  • 第二セイラム慈善協会
  • 英国魔法省(言及)
  • ホグワーツ魔法魔術学校(言及)
  • イルヴァーモーニー魔法魔術学校(米国側魔法学校・言及)
  • ニューヨーク市警(事件現場で言及)
  • 新聞王ヘンリー・ショー一族の出版社

主要登場人物

本作の人物造形は、ハリー・ポッター本編とは異なり、子どもの学園劇ではなく成人手前の社会人たちの群像劇として描かれる。すれ違いの恋、職場での挫折、家族による暴力、政府機関への失望といった『大人の影』が、各キャラクターの線を一段濃く引いている。

ニュート・スキャマンダー(エディ・レッドメイン)

英国出身の魔法動物学者。ホグワーツ卒業生で、寮はハッフルパフ。本作の時点でホグワーツを離れて数年が経ち、世界中の魔法動物を救出・研究しながら、後年の名著『幻の動物とその生息地』の執筆準備に取り組んでいる。常に目を伏せ気味で、人間の目をまっすぐに見ることを避け、相手より魔法動物のほうへ自然に視線と意識を向ける性質を持つ。エディ・レッドメインはこの『相手の目を見ないが世界をよく見ている』という独特の所作を、肩の角度と歩幅の刻み方で表現している。

彼は『魔法動物は救うべきもの、殺すべきものではない』という確固たる信念を持ち、その信念が結末のクリーデンスへの語りかけにも直結する。MACUSAの即決の暴力(オブスキュラスを射殺する判断)と、ニュートの『救おう』とする姿勢の対比が、本作の倫理的中心線を作っている。

オリジナル小説本編のハリー、ロン、ハーマイオニーが学園生として『悪と戦う英雄』だったのに対し、ニュートは『戦わない英雄』である。彼が振るうのは杖と知識と動物への共感であって、誰かを撃ち倒すための力ではない。

ニュート・スキャマンダーの人物ページ

ティナとクイニー・ゴールドスタイン姉妹(キャサリン・ウォーターストン/アリソン・スドル)

姉ティナは、MACUSA魔法捜査局のかつてのオーラで、第二セイラム慈善協会のメリー・ルーが行った児童虐待を黙視できず、規律違反の独断行動でメリー・ルーを攻撃したことで降格中の身である。本作の彼女は『正義感が強すぎて職場で居場所をなくした優秀な実務家』という、米国型ヒロインの王道を踏んでいる。ニュートとの距離の取り方は徹底して不器用で、自分の感情に対しても他人の感情に対しても、誤読と謝罪を繰り返す。

妹クイニーは強力な読心術(レジリメンス)の使い手で、相手の頭の中の声を、本人が気づくより早く拾い読みしてしまう。彼女のジェイコブへの恋愛感情は、本作で唯一、ローパポート法(魔法族とノーマジの交流禁止)が真正面から踏み越えられる関係であり、雨の中の別れの場面に最大の重さを与える。

二人の姉妹愛——共有アパートの夕食、ティナがクイニーを優しく抱き留める一瞬の所作——が、本作の家族劇としての層を支えている。

ジェイコブ・コワルスキー(ダン・フォーグラー)

ポーランド系米国人のノーマジ。第一次世界大戦のヨーロッパ戦線から帰還した元軍人で、缶詰工場で働きながら、いつかおばあちゃんのレシピを使った菓子工房を開くことを夢に見ている。本作冒頭で銀行融資を断られ、その帰り道で偶然ニュートと出会う。

ジェイコブは『観客の代理人』としての役割を持ち、魔法ワールドのあらゆる驚きに目を見開き、手を口に当て、笑い声を上げる。彼の感情の振幅が、観客にとっての世界の手触りを規定する。同時に、彼はクイニーへの想い、ニュートとの友情、自分自身が抱える戦争の記憶を背景に持ち、単なる滑稽な脇役にとどまらない厚みを与えられている。

終盤、彼が雨に打たれて記憶を失う場面は、本作の感情のピークの一つである。ダン・フォーグラーは『これでよかった』と微笑む役を、笑顔の中に涙の手触りを混ぜて演じる。

クリーデンス・ベアボーン(エズラ・ミラー)

第二セイラム慈善協会で養母メリー・ルーから日常的に暴力を受けて育った青年。長身でやせ細り、髪は黒く、いつも目を伏せている。本作の最大の悲劇の中心であり、ニューヨーク中で起きていた破壊事件は、彼の中で押し殺されてきた魔力が制御不能のオブスキュラスへ膨れ上がった結果だった。

クリーデンスの造形は、宗教的抑圧と児童虐待が引き起こす『見えない災厄』のメタファーとして機能している。彼が掌で握りしめていたメリー・ルーの皮ベルト、教会の冷えた床、グレイブス(実はグリンデルバルド)に体を寄せられる際の微かな安堵——これらは、子どもの魔力を抑え込んだ社会そのものが作り出した怪物の像でもある。

シティ・ホール駅での銃撃で散らされた彼が、続編『黒い魔法使いの誕生』で生き延びていたことが判明する伏線として、ニュートが見つめる空中に小さな黒い欠片が残る最終カットが置かれている。

パーシバル・グレイブス/ゲラート・グリンデルバルド(コリン・ファレル/ジョニー・デップ)

本作の表向きの敵役パーシバル・グレイブスは、MACUSA魔法捜査局の最高責任者として登場し、コリン・ファレルが演じる。長身、黒のオーバーコート、磨かれた黒革の手袋、整えられた銀混じりの黒髪。クリーデンスへの接触の一瞬一瞬で、捕食者的な静けさと、わずかな救済者めいた優しさを同時に滲ませる。

終盤、その姿は崩れ、青いコート、銀色の短髪、左右で色の違う目を持つゲラート・グリンデルバルドが現れる。グリンデルバルドはジョニー・デップが演じ、本作のラスト数分間のみ素顔で登場する。彼の本物の意図は、オブスキュリアルというノーマジ社会への『見える脅威』を意図的に利用し、世界の魔法族とノーマジを戦争状態へ追い込み、その混乱のなかで魔法族の優越を確立することにあった。

本作の彼の登場は、長大な続編三部作の発火点として置かれている。アリゾナの護送車に乗せられた瞬間、観客は彼が次作で必ずこの拘禁から脱出することを予感する。

ゲラート・グリンデルバルドの人物ページ 用語:グリンデルバルド

セラフィーナ・ピッカリー(カルメン・イジョゴ)

MACUSAの大統領(議長)。ホレース・スラグホーンと同世代、ホグワーツのライバル校イルヴァーモーニーで首席を務めた経歴を持つ、魔法ワールドにおける米国魔法行政のトップ。本作では、危機的事態のなかでローパポート法を守るために強硬な意思決定を続ける為政者として描かれる——クリーデンスへの即時射殺命令も、彼女の指示である。

ピッカリーの選択は、観客にとって倫理的に複雑なものとして残される。彼女は魔法族とノーマジ双方の安全のために動いており、その判断のすべてが冷酷に見えるわけではない。だが、ニュートの『救おうとする』姿勢との対比のなかで、本作は『国家の正義』と『個人の救済』の衝突を、姉妹劇や恋愛劇の背後に置いている。

舞台と用語

舞台は1926年のニューヨーク——禁酒法時代、ジャズ・エイジ、世界大戦帰りの兵士たちが街に戻り、移民の最後の大波がエリス島から押し寄せていた時代である。マンハッタンの摩天楼はまだ完成形ではなく、ウールワース・ビルディングは街でいちばん高い建築物の一つだった。本作は、その時代のニューヨークを、空撮、ジャズ風のニュートン・ハワード主題、20年代スーツ/チョッキ/クロッシュ帽の衣装デザインで丹念に再現する。

用語面では、本作で初めて導入される概念が多い。米国における非魔法族の呼称『ノーマジ(No-Maj)』は、英国の『マグル』と対応する。『MACUSA(Magical Congress of the United States of America、米国魔法議会)』は英国の魔法省にあたる組織で、本部はウールワース・ビルディングの地下に格納されている。『ローパポート法』は、1790年の事件を契機に制定された厳格な魔法族・ノーマジ分離法。『オブスキュラス』『オブスキュリアル』は本作のドラマの中心概念であり、抑圧された魔力が宿主を内側から食い破る現象を指す。これらの語は丸暗記する必要はなく、物語のなかで自然に意味が立ち上がる構成になっている。

場所の選定も意味を持つ。クライマックスに用いられるシティ・ホール駅は、ニューヨーク地下鉄が1904年に最初に開業した時の白タイルとガラス天井の美しい駅で、1945年に閉鎖されて以降『失われた地下空間』として知られる。ローパポート法下の隠された魔法社会が、ノーマジ社会から忘れられた地下に流れ込むという構図そのものが、舞台選びに込められている。

用語:魔法ワールド 用語:幻の動物(ファンタスティック・ビースト) 用語:魔法の杖

制作

ハリー・ポッター本編全8作の完結後、ワーナー・ブラザースが2013年に新シリーズ製作を発表してから3年後の公開となった。J.K.ローリングが映画脚本そのものを書き下ろすのは初めての試みで、ハリー・ポッター本編で脚本を務めたスティーヴ・クローヴスは『製作』として彼女に並走した。本セクションでは企画と脚本、キャスティング、衣装と美術、視覚効果、音楽と音響、撮影と編集を分けて整理する。

企画と脚本

原案となった『幻の動物とその生息地』は、2001年にJ.K.ローリングがコミック・リリーフのチャリティ用に書き下ろした薄い動物図鑑である。ハリー・ポッターの世界の魔法動物を百種以上収録した架空の参考書で、その『著者』として作中名前のみ言及される人物がニュート・アルティミス・スキャマンダーだった。

本作の企画は2013年9月にワーナーから公式発表され、ローリングはこの著者を主人公にした完全な前日譚映画を、自ら脚本として書き下ろすことになった。当初は3部作として企画されたが、製作の進行のなかで5部作構想に拡張された(最終的には3作のみ製作・公開)。

脚本上の最大の発明は『オブスキュラス/オブスキュリアル』である。これは原作小説には登場しない、映画オリジナルの概念で、抑圧された子どもの魔力が破壊的な寄生体に変わるという設定により、本作のニューヨーク事件と児童虐待のテーマを一本に結びつけた。ローリングはまた、英国魔法省にあたる米国側の組織『MACUSA』、米国側の呼称『ノーマジ』、米国側の魔法学校『イルヴァーモーニー』など、本作以降の魔法ワールドの米国側設定の大半を、本作の脚本段階で組み立てている。

キャスティング

主人公ニュート・スキャマンダーには、第87回アカデミー主演男優賞受賞直後のエディ・レッドメインが起用された。彼は『博士と彼女のセオリー』(2014)でホーキング博士を演じた繊細な身体表現に定評があり、ニュートの伏し目がちで肩を丸めた立ち姿は、彼の身体演技に大きく依拠している。

ティナ・ゴールドスタイン役は、ポール・トーマス・アンダーソンの『インヒアレント・ヴァイス』(2014)で映画デビューしたキャサリン・ウォーターストン。クイニー役には、ミュージシャンと俳優を行き来していたアリソン・スドル。ジェイコブ役には、トニー賞ミュージカル助演男優賞を獲得した舞台出身のダン・フォーグラーが選ばれ、ノーマジ視点を担う『観客の代理人』として欠かせない温度を持ち込んだ。

クリーデンス・ベアボーン役はエズラ・ミラー、メリー・ルー・ベアボーン役はオスカー受賞俳優サマンサ・モートン。MACUSA議長セラフィーナ・ピッカリー役にカルメン・イジョゴ、新聞王ヘンリー・ショー・シニア役にはアカデミー受賞俳優のジョン・ヴォイトという、米国側のキャストの厚みも本作の特色である。

そして本作の最重要キャスト判断が、ラストカットで素顔を明かすゲラート・グリンデルバルド役のジョニー・デップである。ニューヨーク市内での大半をパーシバル・グレイブス(コリン・ファレル)として描き、クライマックスでデップへ姿が変わる構成は、公開時点で完全に伏せられていた。

衣装デザイン

コリーン・アトウッドが衣装デザインを務めた。彼女はティム・バートンとの仕事や『シカゴ』(2002)、『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)で既に3度のオスカーを獲得しており、本作で4度目のアカデミー衣装デザイン賞を受賞した。

本作の衣装は『1926年のニューヨーク』と『魔法界の風変わりさ』のあいだの線引きが秀逸である。ニュートの薄いマスタード色のチョッキと深い青のロングコート、ティナのオリーブ色の細身コートと中折れ帽、クイニーの淡いピンクのフレアコートと砂糖菓子のような髪型、ジェイコブのチェック柄のスーツとサスペンダー——どの衣装も20年代のリアルな素材感を保ちながら、それぞれの人物の心情と階級を端的に語る。

MACUSAの黒い制服群、ピッカリー議長の紫と金のローブと冠めいた頭巾、第二セイラム慈善協会の白とグレーのモノクロームの制服など、各陣営の色彩設計も明確に分けられている。

美術と視覚効果

美術監督はハリー・ポッター本編全8作とその後の魔法ワールド全作品を一貫して担うスチュアート・クレイグ。本作では、1926年マンハッタンを再現するため、英国リーヴスデン・スタジオの広大なバックロットに長大な街路セットが組まれた。地下鉄シティ・ホール駅の構内は内装の細部まで再現され、白タイル、ガラス天井、回送式の電球までスタジオ撮影で再構築されている。

視覚効果は、フレームストアとダブル・ネガティブを中核に複数のスタジオが並行担当した。とくに難度が高かったのは、ニュートのスーツケース内部の広大な生態系——複数の異なる気候帯が一つの空間に折り畳まれている、というルールを画面上で破綻させずに見せる必要があった。デミガイズの透けた皮膚、サンダーバードの稲妻、オカミーの伸縮自在の体(鞄の中では巨大、紅茶ポットの中ではティーカップサイズに収まる)、エラムペントの突進の重量感など、それぞれの魔法動物は別個のリギングとシミュレーションで作られている。

オブスキュラスの渦そのものは、流体シミュレーションと黒い砂粒のパーティクル、衣服の布の動きを混ぜた複合素材で構成された。トンネル内の暴走シークエンスでは、白タイルの照明反射と黒い砂粒の質量感の対比が、ホラー映画の手触りに近い緊張を作っている。

音楽と音響

音楽は『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』以降の本編シリーズ作曲家ニコラス・フーパーでも、本編初期のジョン・ウィリアムズでもなく、本作のためにジェイムズ・ニュートン・ハワード(『ダークナイト』『プラダを着た悪魔』『マレフィセント』など)が起用された。

ハワードは本作のために『主役テーマ(メイン・タイトル)』を新たに作曲した。フォーン、ハープ、弦、シェイカーが軽やかに走る、いかにも20年代ジャズ・エイジに通じる主題で、ホグワーツの石造の重みを引き継いだジョン・ウィリアムズ『ヘドウィグのテーマ』とは別系統の、米国寄りの旋律になっている。

ハワードはまた、ニュートの内省、ゴールドスタイン姉妹の柔らかな日常、グリンデルバルドの薄ら寒い陰影、クライマックスの地下鉄駅の轟音まで、複数の主題を巧みに織り合わせた。本作の音楽は第74回ゴールデングローブ賞作曲賞にノミネートされている。

撮影とロケ

撮影監督はフィリップ・ルースロ(『ファイト・クラブ』『ある日どこかで』『ハリー・ポッターと謎のプリンス』)。本作はほぼ全編が英国ロンドン郊外のワーナー・ブラザース・スタジオ・リーブズデンと、近郊のロケ地で撮影された。リーブズデンの広大なバックロットには、1926年マンハッタン数ブロックを再現した街路セットが恒久的に組まれ、ティナのアパート、ブラインド・ピッグ、第二セイラム協会の建物、MACUSAロビーの円形大広間など、本作の主要セットは全てここに集約されている。

リバプール市内の歴史的建造物群が、1926年ニューヨーク街路の追加ロケとして使われた。これは『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』のロンドンの場面でも同じく使われた手法で、リバプールの整然としたボザール様式建築が、当時のマンハッタンの代用として極めて効果的だったためである。

撮影期間は2015年8月から2016年1月にかけて行われ、合計約20週に及んだ。視覚効果の比率が非常に高い本作では、撮影後半から長期にわたるポストプロダクションが続き、最終的にIMAX、3D、ドルビーシネマ複数フォーマットで2016年11月の公開を迎えた。

編集

編集はハリー・ポッター本編後半の主要作品を担ったマーク・デイ。本作は『ニュートと動物の捕獲行』『MACUSAの捜査』『第二セイラム協会とクリーデンス』という三本の縦糸を交互に編む構成で、観客がいつでも『自分は今どの線を見ているか』を見失わないリズム作りが求められた。

クライマックスの地下鉄シーンは、編集上の負荷が特に高い。クリーデンスのオブスキュラスの暴走、ニュートとティナの追跡、グレイブスの介入、MACUSAの一斉射撃、雨による忘却までを、ほぼ連続する一夜の出来事として組み上げ、観客の集中を切らさないテンポで畳みかける。マーク・デイは本作の編集で第70回英国アカデミー賞編集賞にノミネートされている。

公開と興行

本作は2016年11月18日に米国で、同年11月23日に日本で全国公開された。公開規模は北米約4144スクリーン、世界同時公開規模としては当時のワーナー作品でもトップクラスである。北米初週末は約7400万ドル、最終的に北米約2億3422万ドル、全世界興収は約8億1400万ドルに達した。

全世界興収約8億ドルは、ハリー・ポッター本編後半各作の数字(『死の秘宝 PART2』は約13.4億ドル)と比べれば一段下がるが、新しい主人公・新しい時代を主軸にした完全な前日譚としては、十分以上の興行成功と評価された。日本国内では公開4日間で興収約9.6億円、累計で約34.7億円を記録し、その年の外国映画として上位入りした。

受賞面では、コリーン・アトウッドが第89回アカデミー賞衣装デザイン賞を獲得した。同賞でアカデミー美術賞、第70回英国アカデミー賞では美術賞、衣装デザイン賞、視覚効果賞、編集賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞などにノミネートされている。第74回ゴールデングローブ賞では作曲賞にノミネート。本作はまた、グラミー賞のサウンドトラック部門にもノミネートされている。

本作の成功を受けて、ワーナー・ブラザースは『魔法ワールド(Wizarding World)』を正式なブランド名として確立し、続編『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』(2018)、『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』(2022)が製作・公開された。

批評・評価・文化的影響

公開時の批評家評価は概ね好意的で、米国の主要批評集計サイトでは賛意がやや上回る範囲に着地した。エディ・レッドメインの繊細な演技、ジェイムズ・ニュートン・ハワードの音楽、コリーン・アトウッドの衣装、スチュアート・クレイグの美術が広く称賛された一方、『3部作(後に5部作)構想ゆえに、本作単体としては結末の独立感が薄い』『中盤の魔法動物コメディと、終盤のクリーデンス悲劇の温度差が大きい』といった批判も並んだ。

観客評価は、ハリー・ポッター本編のファン層からは概ね歓迎され、特にジェイコブとクイニーの恋、ニュートとティナの距離感、ピケットとニフラーの愛らしさが繰り返し言及された。一方で、本編世代より広い大衆に対しては『前知識なしでも入れるが、ハリー本編との接続を予感した上で見るほうが感情の流れが追いやすい』という評価が一般的だった。

文化的には、本作は『非戦の英雄像』を魔法ワールドに持ち込んだ作品として位置付けられる。ハリー、ロン、ハーマイオニーが学園生として『闇の魔法使いと戦う』物語を担ったのに対し、ニュート・スキャマンダーは『動物を救い、子どもに語りかけ、戦わずに収める』姿勢で物語を貫いた。これは2010年代後半以降の英米ファンタジー映画における主人公像の変化(『闘わずに共感する』ヒーロー)の一例としても、しばしば論じられる。

舞台裏とトリビア

ニュートが胸ポケットに住まわせる魔法動物ボウトラックル『ピケット』は、エディ・レッドメインのアドリブ的な所作からシリーズ全体の人気キャラクターに育った。脚本段階ではここまで前面に出るキャラクターではなく、撮影現場でレッドメインが繰り返し『今、肩の上に乗ってる』『今、ポケットから顔を出してる』と動かしたことで、編集段階で出番が増えていった。

グリンデルバルド役のジョニー・デップは、ラスト数分の素顔披露以外は『パーシバル・グレイブス』としてコリン・ファレルが演じていたため、彼の出演自体が公開時点まで完全に伏せられていた。北米初日、デップの素顔が画面に現れた瞬間に劇場から驚きの声が上がったことが、公開直後の各紙レビューで言及されている。

アルバス・ダンブルドアの名は、本作中で台詞として一度だけ登場する。MACUSAでの取り調べの場面で、ティナがニュートの『身元保証人』として、彼の学生時代の教師アルバス・ダンブルドアの名を挙げる短い台詞である。続編『黒い魔法使いの誕生』『ダンブルドアの秘密』で大きな役割を担うダンブルドアの、本作における唯一の前触れである。

MACUSA本部の所在地はウールワース・ビルディングの地下とされており、これはマンハッタン・ロウアー・ブロードウェイに実在する1913年完成のネオ・ゴシック様式高層ビルである。本作公開後、観光客のあいだで『ウールワース・ビルディングの正面ロビーを覗いて魔法的なものを探す』という小さな観光行動が流行したと一部報道が伝えている。

テーマと解釈

中心テーマは『抑圧された力は内側から人を食う』である。クリーデンスのオブスキュラスは、児童虐待・宗教的抑圧・社会的差別によって自分自身を否定するよう迫られた子どもの内側に生まれる『見えない災厄』として描かれる。MACUSAは秩序のため、第二セイラム協会は信仰のため、メリー・ルーは家族の名のもとに、それぞれクリーデンスを抑え込み続け、その結果、ニューヨーク全体を引き裂くオブスキュラスを育ててしまった。本作の悪は、外部から襲ってくる闇の魔法使いではなく、抑圧する側の『善意』の集積として描かれている点が、原作シリーズより一段深い。

もう一本の柱が『境界線の踏み越え』である。ローパポート法という魔法族とノーマジを完全に分離するルールが、ジェイコブとクイニー、ニュートとティナという二組の関係によって繰り返し試される。最後にジェイコブの記憶を消すという選択は、法的には完璧な処理だが、感情的には完全な敗北を意味する。クイニーがジェイコブの店に再び現れるラストカットは、『法は別れさせたが、感情は別れていない』という宣言である。

そして第三のテーマが、ニュート個人の倫理——『戦わない選択』である。MACUSAは射殺で決着をつけ、グリンデルバルドは戦争を煽ろうとする。そのなかで、ニュートだけが地下のホームで、暴走するオブスキュラスの奥の少年に向かって膝を屈めて語りかけた。本作のもっとも美しい数十秒は、剣戟でも稲妻でもなく、その膝の高さと、震える指先と、低い声である。続編で繰り返し問われていく『魔法を何のために使うか』という設問は、ここで最初に静かに置かれた。

見る順番(補助)

初見であれば、ハリー・ポッター本編8作を公開順で先に通し、その後に本作および続編『黒い魔法使いの誕生』『ダンブルドアの秘密』を追加する形が最も入りやすい。本編で繰り返し言及されるニュート・スキャマンダーの著書『幻の動物とその生息地』や、青年期のダンブルドア、グリンデルバルドという存在の前史を見たうえで本作に戻ると、台詞の細部や、ラストでグリンデルバルドが見せる笑みの重みが何倍にも増す。

ハリー・ポッター本編を未見でも本作単体で楽しむことは可能だが、ダンブルドアの台詞での一瞬の登場、グリンデルバルドの黒い魔法使いとしての知名度、MACUSAと魔法省の関係などは、本編を知っていてこそ理解が深まる要素である。時系列順で見るのであれば、本作(1926年)→続編2作(1927/1932年)→ハリー・ポッター本編1作目(1991年学校入学)と並べ替えることもできるが、初見では公開順を強く勧める。

  1. 本編本筋1991年〜1998年(ハリー・ポッターのホグワーツ7年間)
  2. 本作1926年・ニューヨーク(ハリー本編の約65年前)
  3. 次作1927年・パリ(『黒い魔法使いの誕生』)
  4. 3作目1932年・ベルリン/ブータン/ホグワーツ(『ダンブルドアの秘密』)
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よくある質問(補助)

『あらすじだけ知りたい』場合は、ニュート・スキャマンダーがニューヨークに到着し、スーツケースから魔法動物が脱走し、その背後でクリーデンス・ベアボーンの抑圧されたオブスキュラスが街を引き裂き、MACUSAの最高捜査官パーシバル・グレイブスが実は変身したゲラート・グリンデルバルドであったことが明かされる、という流れを押さえれば十分である。

『結末・ネタバレを知りたい』場合は、クリーデンスがMACUSAに射殺された(と見える)こと、グレイブスの正体がグリンデルバルドだったこと、ジェイコブを含むノーマジたちが忘却の雨で記憶を失ったこと、そしてクイニーが菓子工房でジェイコブと再会するラストまでが核となる。

『ハリー・ポッター本編を見ていなくても楽しめるか?』に対しては、単体で楽しめる作りにはなっているが、ダンブルドア/グリンデルバルド/MACUSAという要素は、本編で知ったうえで戻るほうが感情の重みが大きい、と答えるのが安全である。

『続編はどれを見ればよいか』に対しては、本作→『黒い魔法使いの誕生』(2018)→『ダンブルドアの秘密』(2022)の公開順で問題ない。第2作の終盤でクリーデンスの真の出自が明かされ、第3作で青年期ダンブルドアとグリンデルバルドの関係が中心になる。

参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、各種権利はそれぞれの権利者に帰属する。公開年・興行・受賞・配信状況・外部評価は変動しうるため、視聴前に公式および各データベースの最新表示を確認されたい。本記事の本文は各種公開情報をもとに、Anna Movies用の独自の日本語文章として構成している。

  1. Harry Potter公式(Wizarding World)作品ページ
  2. Wizarding World公式
  3. Harry Potter Wiki(英語)Fantastic Beasts and Where to Find Them (film)
  4. IMDb: Fantastic Beasts and Where to Find Them (2016)
  5. Academy Awards Database (89th, Costume Design)

関連ページ

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参照・確認先

公式画像、作品名、キャラクター名、権利は各権利者に帰属する。公開年、配信状況、外部評価は変わる場合があるため、視聴前に公式・配信元・作品データベースで確認したい。

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