ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2は、2011年公開のイギリス・アメリカ合作のファンタジー映画で、原作小説を映画化した本編シリーズの最終章にあたる。ヴォルデモートの手に長老の杖が渡るなか、ハリー・ロン・ハーマイオニーは残る分霊箱を破壊すべく、グリンゴッツ銀行とホグワーツ城で最後の戦いに挑む。スネイプの真の忠誠やハリー自身に隠された秘密、長老の杖の真の主人が明かされ、全8作・10年にわたる物語の集大成として描かれる。
00概要
『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(Harry Potter and the Deathly Hallows – Part 2)は、デヴィッド・イェーツが監督を務め、2011年7月15日にイギリス・アメリカ・日本でほぼ同時に公開されたファンタジー・アドベンチャー映画である。J.K.ローリングの原作小説『ハリー・ポッターと死の秘宝』(2007)を二本の長編に分けて映像化した、その後編にあたる。ハリー・ポッター本編シリーズの第8作であり、同時に最終作でもある。脚本は前作に続いてスティーヴ・クローヴス、製作はデヴィッド・ヘイマンとデヴィッド・バロンが手がけ、原作者のJ.K.ローリング自身もエグゼクティブ・プロデューサーとして名を連ねた。
物語は、前作PART1のラスト、ヴォルデモートがダンブルドアの墓から長老の杖(エルダー・ワンド)を奪い取る瞬間から、そのまま地続きに始まる。森のテントにこもり続けた逃避行の重苦しい空気を一掃するように、本作はグリンゴッツ銀行への押し入りという派手な強奪の場面で幕を開ける。やがて舞台はホグワーツへの帰還、城をめぐる「ホグワーツの戦い」、そしてハリーとヴォルデモートの一対一の最終決闘へと移り、シリーズ最大規模のアクションと感情のクライマックスを130分のうちに一気に畳みかけていく。本編シリーズのなかで上映時間は最も短く、それでいて描かれる出来事の密度はもっとも高い一本である。
本作はシリーズで初めて、3D版が同時公開された作品でもある。前作PART1は公開直前に「品質が基準に達していない」として3D公開を見送っていたが、本作ではワーナー・ブラザースが入念に3D変換の作業を重ね、当初の予定どおり3D版・IMAX 3D版・2D版が並行して公開された。撮影そのものは2Dで行われ、3Dは後処理で施されている。その効果は、グリンゴッツ地下に潜むドラゴンの炎、必要の部屋を焼き尽くすフィエンドファイア、崩れ落ちるホグワーツの石壁、そしてヴォルデモートとハリーの杖と杖がせめぎ合って立ち上る金色の閃光など、終盤の大規模な視覚効果を際立たせるために用いられた。
本作はまた、第1作『賢者の石』(2001年)から数えて10年に及ぶハリー・ポッター本編シリーズの完結編でもある。ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンの三人は、11歳から21歳までを同じ役で演じ抜いた。ラスト、19年後を描くエピローグでは特殊メイクで37歳前後の姿を演じ、シリーズは原作者J.K.ローリングが当初から思い描いていた「9と3/4番線で子供たちを見送る、大人になったハリー」という最後の一場面へとたどり着く。
本記事は、結末を含む全編の内容に踏み込んでいる。スネイプの真実、ハリー自身が分霊箱だったという事実、ヴォルデモートの最期、そして19年後のエピローグなど、本作の重大な驚きに触れているため、初めてご覧になる場合は、まず本編を観賞してから読み進めることをお勧めしたい。
主要データ
- 原題
- Harry Potter and the Deathly Hallows – Part 2
- 原作
- J.K.ローリング(2007年・ブルームズベリー)下巻相当
- 監督
- デヴィッド・イェーツ
- 脚本
- スティーヴ・クローヴス
- 音楽
- アレクサンドル・デスプラ
- 撮影
- エドゥアルド・セラ
- 美術
- スチュアート・クレイグ
- 編集
- マーク・デイ
- 公開
- 2011年7月15日(英米日同時)
- 上映時間
- 130分
- ジャンル
- ファンタジー、アドベンチャー、ダーク・ファンタジー、エピック
- 舞台
- 1998年春の英国(貝殻の家/グリンゴッツ銀行/ホグズミード/ホグワーツ城/禁じられた森)/2017年のキングス・クロス9と3/4番線
01あらすじ
以下は、結末までを含む全編のあらすじである。貝殻の家に築かれたドビーの墓と、『マスター・オブ・デス』をめぐる予感。オリバンダーとグリップフックがもたらす情報。グリンゴッツへの襲撃と、ドラゴンにまたがっての脱出。ホグズミードでアバーフォースに救われ、やがてホグワーツへと帰還し、スネイプが追放される。ヴォルデモートがホグワーツを包囲するなか、ハリーは分霊箱を探し求める。必要の部屋に隠されたレイブンクローのダイアデム、燃え盛るフィエンドファイアとクラブの死。ロンとハーマイオニーは秘密の部屋でカップを破壊する。そしてホグワーツの戦いが幕を開ける。スネイプの最期と明かされる『プリンスの物語』、ハリー自身が分霊箱であったという真実。禁じられた森でのハリーの死、キングス・クロスのリンボ、ナルシッサの嘘によるハリーの帰還。ネビルがナギニを斬り落とす瞬間、モリーがベラトリックスを討つ場面。さらにハリーとヴォルデモートの最終決闘へと至り、長老の杖の真の主が明かされ、ヴォルデモートの肉体は崩れ去る。ハリーが長老の杖を折るという選択、そして19年後のエピローグまでを、順に追っていく。
貝殻の家とオリバンダー、グリップフック
貝殻の家。前作『PART1』のラストでドビーが命を落とした海辺の隠れ家。その砂浜に作った小さな墓の前で、ハリー・ポッターは立ち尽くしている。素手で掘った墓の縁には、杖の代わりに使っている折れたヒイラギの杖の先で『ここに、自由なエルフ ドビー眠る』と刻んだ。彼はその墓標を、もう一度静かに見つめる。背景に広がるのは暮れかけた英国の北の海で、聞こえるのは波の音だけ。ハリーは振り返ることなく、しばらく動かない。物語は、この一分の沈黙から始まる。
屋内では、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人が、ビル・ウィーズリーとフルール・デラクールの新婚の家に匿われている。前作の終盤で救い出した捕虜たちも、同じ屋根の下にいた。杖製作職人のガリック・オリバンダー、グリフィンドール寮の元級友ディーン・トーマス、ラブグッド家の娘ルーナ・ラブグッド、そしてゴブリンのグリップフックである。ハリーはまず、病み上がりのオリバンダー老人を訪ねる。その寝室で、長老の杖(エルダー・ワンド)にまつわる伝承の真偽を尋ねるのだ。
オリバンダーは答える。『ダンブルドアは長老の杖の最後の所有者でした。彼は若き日にゲラート・グリンデルバルドからその杖を勝ち取り、以来ずっと自分のものとして使ってきた』。長老の杖は『前の所有者を倒した者』に従う——その伝承の根幹が、ここで観客にも明かされる。ヴォルデモートは、ダンブルドアを殺したスネイプこそが長老の杖の真の主人だと信じている。クライマックスへ向けた伏線が、静かに張られていく。
ハリーはもう一人の捕虜、ゴブリンのグリップフックを呼び寄せる。グリップフックの申し出はこうだ。貸金庫から奪われたグリフィンドールの剣を取り戻せるなら、ハリーたちが望むどの貸金庫へも案内しよう、と。狙いはレストレンジ家の貸金庫——ベラトリックスがマルフォイ屋敷で『これが盗まれたなら、私の金庫の中身は無事なのか』と凍りついた、あのハッフルパフのカップ(分霊箱)を封じた金庫である。ハリーは交渉を成立させる。ただし剣の引き渡しは『計画が成功した後』という条件付きだ。剣の所有権の倫理をめぐる、小さな、しかし重要なすれ違いの種が、この瞬間に蒔かれる。
グリンゴッツ襲撃とドラゴンでの脱出
翌朝、三人とグリップフックはロンドンの魔法銀行グリンゴッツへ向かう。ハーマイオニーはポリジュース薬でベラトリックス・レストレンジ本人に変装し、ロンは黒く長い髭をつけた架空の魔法使い『ドラゴミール・デスポード』として付き添う。ハリーは透明マントに身を隠し、グリップフックはハーマイオニーのハンドバッグに潜む。屋根のように高い大理石の天井を戴くグリンゴッツのロビーには、人狼フェンリール・グレイバックを伴う死喰い人たちも、別件で姿を見せていた。
受付のゴブリンは『ベラトリックス』に本人確認を求め、杖を検めようとする。ベラトリックス本物の杖は前作でハーマイオニーが奪っているが、金庫管理人はそれでも杖に宿る魔力の流れを精査し、本人かどうかを見極めようとするのだ。ハーマイオニーはすかさず『コンファンドゥス(混乱呪文)』を放ち、地下金庫への通路を開かせる。それでも受付ゴブリンの疑念は消えない。階下へ向かう金属のトロッコが進む先には、あらゆる魔法の偽装を解く水、滝のような『泥棒の滝(シーフズ・ダウンフォール)』が待ち構えていた。浴びれば変装は一瞬で剥がれ落ちる。
レストレンジ家の貸金庫。鉄扉の奥には、ベラトリックスが愛蔵する宝飾と古書が山と積まれ、その中央、高い棚の上に、金で縁取られたハッフルパフの杯——分霊箱のカップ——が確かに置かれている。だが金庫には『ジェミニオの呪い(複製呪い)』と『フランベの呪い(炎の呪い)』が掛けられており、触れた物は無限に複製され、同時に焼けつくほど熱を帯びる。黄金の山に呑み込まれそうになりながら、三人はようやく杯へとたどり着く。グリフィンドールの剣はすでにグリップフックの手にある。ハリーは咄嗟に布で杯をつかみ、棚から取り上げた。
ところが金庫の外で、グリップフックはハリーの予想を裏切る行動に出る。剣を握りしめたまま、彼はこう叫んだのだ——『泥棒だ!助けてくれ!』。約束など、はじめから守られるはずのない取り決めだった。ゴブリンには『ゴブリンが作った物は、作ったゴブリンのものである』という独自の倫理が根づいている。杯を手にしたハリーは一転して追われる身となり、ゴブリンの守衛隊と死喰い人たちが金庫前の通路を駆け上がってくる。三人は逃げ場を失う。
ここでハリーが選んだ脱出路は、グリンゴッツの最深部に鎖でつながれた『地下のドラゴン』だった。何十年も地下に閉じ込められ、白く色褪せ、目も見えなくなった巨大なウクライナンアイアンベリー種——ハリーはその鎖を解き放つ。ドラゴンは怒号とともに石の天井を突き破り、グリンゴッツ銀行の中央ロビーの大理石を粉々に砕き、やがてダイアゴン横丁の真上、青空の下にその姿を現す。観光地ロンドンの目抜き通りの上空を、三人を背に乗せた白く老いたドラゴンが、煙を引きながら飛んでいく。シリーズ全体でも屈指のスペクタクル・シークエンスが、本作開幕10分のなかに据えられている。
数時間後、英国北部の湖の水面上でドラゴンが疲れ果てたところを見計らい、三人は身を投げて湖へ飛び込む。ずぶ濡れで岸に這い上がった瞬間、ハリーはヴォルデモートの心と直接つながる幻視に襲われる。グリンゴッツ襲撃の報を聞いたヴォルデモートが、自らの分霊箱を一つひとつ確かめようと、ロンドンに隠した場所、ホグワーツに隠した場所、そして本人さえ知らぬうちに最後の分霊箱が置かれた場所を巡り始める——その姿が、ハリーの目の奥に同時に映し出される。最後の分霊箱はホグワーツ城の中にある。ハリーはそう確信する。
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ホグズミード、アバーフォース・ダンブル…
三人は姿くらましでホグワーツ城に隣接する魔法使いの村ホグズミードへ降り立つ。第3作以来たびたび画面に映ってきた『三本の箒』『ハニーデュークス』『ホッグズ・ヘッド』が軒を連ねる夜の小さな村は、しかし以前とはまるで様子が違う。通りには死喰い人による戒厳令が敷かれ、街灯は黒く塗り潰されている。ハリーの足が雪に触れた瞬間、ヴォルデモート政権がホグズミードに仕掛けた『侵入者警報の咒文』が鳴り響き、夜の闇から黒い煙の柱となって、複数の死喰い人が三人を取り囲む。
三人が絶望的に杖を構えた瞬間、ホッグズ・ヘッド酒場の扉が音もなく開く。灰色の長い髭をたくわえた老人が現れ、三人を店内へと手招きする。無言で引き入れ、扉を閉めると、外の死喰い人たちには『俺の山羊が騒いだだけだ』とぶっきらぼうに応える。死喰い人は不本意ながら引き上げていく。
店内のカウンターの裏で、老人——アバーフォース・ダンブルドア(キーラン・ハインズ)——は、自分こそがアルバス・ダンブルドアの実の弟であると名乗る。第6作までほとんど触れられてこなかった『ダンブルドアにも兄弟がいた』という設定が、本作で初めて画面に立ち上がる。店の壁には、アルバスとゲラート・グリンデルバルドの友情、妹アリアナの死、そして一家の悲劇——シリーズ最大の伏線の一つ——を物語る、少女アリアナの古い肖像画が掛かっている。
アバーフォースは、ホグワーツへ戻ることを思いとどまるようハリーたちに懇願する。『あの城は今、戦場だ。お前たちはもう兄を信じすぎている』。だがハリーは静かに『あなたの兄が、僕にやるべきことを残したんです』と返す。アバーフォースは諦め、壁のアリアナの肖像画に向かって『あの子を呼んでくれ』と命じる。少女の肖像画は無言で振り返ると、絵の奥の長い通路を歩いて消えていく。やがて遠くの絵の枠の中に、もう一人の人物——ぼろぼろの制服を着た少年ネビル・ロングボトム——を連れて戻ってくる。
ホッグズ・ヘッドの壁の絵の中を抜ける秘密の通路は、ホグワーツ城の『必要の部屋』に掛かる一枚の絵の額縁の裏側へと繋がっていた。ハリー、ロン、ハーマイオニーは、アリアナの肖像画の額の中の道をたどり、スネイプの監視と魔法省の包囲を完全に迂回して、ホグワーツ城へ内側から帰還する。
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ホグワーツへの帰還とスネイプ追放
必要の部屋に踏み込んだ三人を出迎えたのは、ぼろぼろの制服をまとい、呪文の火傷を負った数十人のホグワーツ生徒たち——ダンブルドア軍団の生き残りである。第5作で結成され、第6作では休眠していた地下抵抗組織だ。ハリーが不在のこの一年も、ネビル・ロングボトム、ジニー・ウィーズリー、ルーナ・ラブグッド、シェイマス・フィネガン、ディーン・トーマスを中心に、必要の部屋を本拠地として静かに活動を続けてきた。ネビルは、ハリーを長く待ち続けた若き指揮官だ。頬に痣を残したまま、ハリーの肩を抱く。
ハリーは告げる。『分霊箱の最後の一つがホグワーツの中にある。それを破壊するために戻ってきた』。ジニーが城内の動きを伝える——スネイプはダンブルドアの椅子に座り、ヘッドマスターとして君臨している。アミカスとアレクトのキャロー兄妹は、純血主義の『マグル学』を教え、生徒たちには腹立たしい体罰を科していた。
ハリーは、大広間の生徒たちの前で正体を明かす決意をする。夜の集会のため、スリザリン、レイブンクロー、ハッフルパフ、グリフィンドール四寮の生徒たちが整列し、教師団も居並ぶ。その前で、セブルス・スネイプ(アラン・リックマン)が壇上に立つ。そして、ハリー・ポッターを庇った疑いのある者は前に出るよう、冷たく命じる。長い静寂が流れたのち、ハリー本人が大広間の中央通路へと歩み出て、スネイプと正面から向き合う。
ハリーは大声で告げる——『この場の全員に聞いて欲しいことがある。あなたは——アルバス・ダンブルドアを殺したのだから——校長を名乗る資格はない』。スネイプが杖を抜き、両者は一瞬の対峙に入る。だが、ハリーが守護霊めいた金色のパトローナス——いや、純粋な杖の構えだけ——でスネイプを牽制した瞬間、大広間の入口から、寝間着の上にチェック柄のローブを羽織ったマクゴナガル先生(マギー・スミス)が走り込んでくる。そしてハリーの前に立ち、自らの杖を抜いてスネイプへと向ける。
フリットウィック、スプラウト、スラグホーンら数人の教師もマクゴナガルの背後に並び、四方からスネイプに杖を向ける。スネイプは大広間の窓から黒い煙の柱となって飛び出し、雪のホグワーツの校庭の上空を抜けて消えていく。シリーズで最も長く『信頼できない教師』として描かれてきた男が、最終局面でついに、教師団によって正面から追放される。本作前半最大の対決は、わずか一分で決着がつく。
ホグワーツの防衛体制とヴォルデモート包囲
スネイプ追放の直後、大広間の壁の高い窓の向こうから、ヴォルデモートその人の声が城全体に響きわたる。声は城の境界を越えては来ない。だが、こう宣告する——『城の境界を超えて来ない。ハリー・ポッターを引き渡せ。さもなくば、夜明けまでにホグワーツの全員を殺す』。生徒たちは思わず互いの顔を見合わせる。やがてスリザリン寮の一人が立ち上がり、『あいつだ。ポッターを捕まえろ』と叫ぶ。
マクゴナガル先生は冷静に、スリザリン寮の生徒全員を地下牢へ避難させるよう命じる。これは敵意ではない。純血主義の家庭に育った者がヴォルデモートに従いかねないことを見越した、あくまで安全のための措置である。続いてマクゴナガルは、シリーズ全8作で観客が最も待ち望んでいた呪文の一つを唱える。杖の先で大広間の天井のシャンデリアを、何百体もの中世の鎧を、そして城門に立つ石彫りの動物像(猛禽と石獅子)を順に指し示し、『ピエルトータム・ロコモートル!』と詠唱するのだ。
石の猛禽たちが台座から舞い上がり、石獅子が前足を伸ばして地に降り立つ。何百体もの中世の鎧は槍を構え、『私は決して、私は決して』と低い斉唱を響かせながら、ホグワーツの城門と橋へと進軍を始める。マクゴナガルは杖を口元に寄せ、誰にも届かぬ呟きを漏らす——『ずっとこれをやってみたかったのよ』。シリーズを通じて唯一の、そして決定的に勝ち誇ったマクゴナガル先生の喜劇の瞬間が、ここに置かれている。
教師たちは城全体に巨大な保護シールドを張る。ホグワーツの空をまるごと覆うほどの透明な半球がせり上がり、ヴォルデモート側が放った最初の呪文の波を、いったんは弾き返す。だが、長老の杖の力を握るヴォルデモートに、千人を超える死喰い人、ジャイアント、人狼、そして巨大蜘蛛アクロマンチュラの軍団が加わり、シールドを少しずつ削り取っていく。
レイブンクローのダイアデムと必要の部屋…
最後の分霊箱を求めて、ハリーはホグワーツ城内を駆けめぐる。手がかりは一つ。本作冒頭、ヴォルデモートが分霊箱を一つひとつ確認していた映像から浮かび上がった記憶だ。白く高くそびえる大理石の建造物のような場所——学生時代の彼が、城内のある特別な空間に何かを隠していた。
大広間でハリーが声をかけたのは、レイブンクロー寮のゴースト『灰色の婦人(グレイ・レディ)』(ケリー・マクドナルド)だった。彼女は、自分が生前『ヘレナ・レイブンクロー』——寮の創設者ロウェナ・レイブンクローの娘——であったことを明かす。母から『叡智のダイアデム(王冠型ティアラ)』を盗んで森に隠したこと、そして後年、ホグワーツ生のトム・リドル——若き日のヴォルデモート——にだけ、その隠し場所をうっかり明かしてしまったことを語った。ダイアデムを取り戻したトム・リドルは、彼自身しか知らない場所——『必要の部屋』の中の、捨てられた物が山積みになった『失われた物の部屋』——にそれを封じ、分霊箱へと変えていた。ハリーは必要の部屋へと駆け込む。
『失われた物の部屋』は、何世紀分もの没収品、忘れ物、卒業生が捨てた家具と本が、まるでロンドンの中央倉庫のように山積みになった迷宮である。ハリーは、古い胸像の上に置かれたダイアデムを発見する。だがその瞬間、部屋の入口にドラコ・マルフォイ、グレゴリー・ゴイル、ヴィンセント・クラブの三人が姿を現す。純血主義の側からハリーを追ってきたのだ。
クラブ——映画版では原作と違い、クラブ役の俳優ジェイミー・ウェイレットが裁判中であったため、彼の出番をゴイルが代行する形で再脚色されたシーンが多く、映画版ではゴイルが実質的にクラブの役を演じる——が調子に乗り、ホグワーツ7年目に習った禁呪『フィエンドファイア』(悪魔の業火)を放つ。
フィエンドファイアは、火そのものが意思を持つ呪われた炎だ。巨大な火の蛇、火の獅子、火の象、火のキメラの形をとり、必要の部屋に積もった何世紀分もの没収品を瞬時に焼き尽くしながら、放った者すら飲み込もうとする。ドラコは滑落する古い椅子の山に追い詰められる。ハリーは咄嗟に古い空飛ぶ箒を二本掴み、ロンとハーマイオニーの背中へ押し付けると、自らはドラコを掴んだまま箒で部屋の天井近くを飛び抜ける。
クラブ(映画版ではゴイルが該当役を演じる)は炎の中で制御を失い、巨大な火の蛇に飲み込まれて死ぬ。部屋を脱出する瞬間、ハリーは地上に落ちたダイアデムを掴む。すると悪魔の業火の力で、分霊箱のダイアデムに宿った魂が悲鳴を上げて飛び出した。掌の中で焼けるダイアデムを、ハリーは廊下へ投げ捨てる。フィエンドファイアそのものが、ダイアデムの分霊箱を破壊したのだ。
秘密の部屋でのカップ破壊とロンとハーマ…
必要の部屋からの脱出と前後して、ロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グレンジャーは別行動を取る。二人が向かったのは、第2作『秘密の部屋』以来一度も画面に映らなかったホグワーツ地下の秘密の部屋だ。目的はただ一つ。分霊箱を破壊する三つの手段——バジリスクの牙、グリフィンドールの剣、悪魔の業火——のうち、二人の手元にあるのはハッフルパフのカップだけ。剣はグリンゴッツ襲撃でゴブリンに奪われてしまった。残された手段は、第2作の決戦のあと、秘密の部屋の床に転がったままのはずの巨大なバジリスクの牙である。
ロンは、第2作でハリーが秘密の部屋の扉を開いたとき、唯一蛇語(パーセルタング)を話せるハリーが発したシューシューという音を、そっくりそのまま覚えていた——という、どこかギャグめいた設定が本作で明かされる。ロンが洗面所の蛇口の前で蛇語を真似てみせると、第2作以来閉ざされていた蛇の門が音を立てて開く。
薄暗い地下の池、その中央に巨大なバジリスクの白骨がそのまま横たわる。秘密の部屋の床に立ったロンが、骨格から牙を二本折り取る。ハーマイオニーは石床の上にハッフルパフのカップを置いた。ロンが牙を振り下ろし、カップを貫く。その瞬間、カップから黒い水のような魂の流体が悲鳴とともに噴き上がり、池の水面を巨大な波となって押し上げる。降りかかる波しぶきを浴びながら、ロンとハーマイオニーは並んで立つ。
ロンの胸の中で、何かが弾けた。前作PART1からずっと抱えてきた「家族と仲間を守ることこそ、自分の存在の核心だ」という確信——それを言葉にせずハーマイオニーへ伝える方法を、彼はようやく見つけた。ハーマイオニーが目を見開いた瞬間、ロンは咄嗟に彼女を引き寄せる。波しぶきのなか、二人はついに本物のキスを交わす。観客の誰もが第1作以来待ち続けてきた、シリーズ初のキスだ。「遅すぎたが、間違いなくしっくり来た」場面としてシリーズ全体でも記憶される、原作のままのこの瞬間が、映画でもこの位置に置かれた。
ホグワーツの戦いの開戦
教師団が張りめぐらせた防御の盾が、ついにヴォルデモートと長老の杖の力に屈する。城の上空を覆っていた半球が裂け、無数の死喰い人、ジャイアント、人狼、アクロマンチュラがホグワーツの校庭になだれ込んだ。中世の鎧と石獅子からなる防衛隊、そしてホグワーツ生、教師団、不死鳥の騎士団の面々が、城門と長橋、中庭と回廊で、一斉に最後の戦いへと身を投じる。
本作のホグワーツの戦いは、シリーズで初めて『教師たちが本気の魔法使いとして戦う』場面である。マクゴナガルが石獅子とともに階段を駆け降り、フリットウィックが小さな体で大広間の壁伝いに呪文を放つ。さらにスプラウトが温室から走り出て『マンドレイクを撒くわよ!』と叫び、庭中に投げ込まれた巨大なマンドレイクが死喰い人を麻痺させていく。シリーズの『学校』が最も激しい『戦場』へと書き換わる十数分が、ここに凝縮されている。
ジニー・ウィーズリー、ネビル・ロングボトム、ルーナ・ラブグッド、そして爆破物の達人として最後の橋を爆破する役を担うシェイマス・フィネガンが、それぞれの持ち場で戦う。シェイマスは『俺は爆発の天才だ!』と笑いながら、ホグワーツの石造りの長橋を一気に爆破し、城へ向かおうとする巨人たちの先頭を、橋もろとも谷底へ突き落とす。
そしてハリーが廊下を駆け抜けながら目にするのは、シリーズで幾度も観客の側にいた登場人物たちが、本作のうちに散っていく姿である。リーマス・ルーピンとニンファドーラ・トンクスの夫妻が、互いの手を取り合いながら、別々の床に倒れている——その姿が無言のカットで映し出される。本作は二人の戦死を、明示的な場面ではなく、戦いのあとに大広間の床へ並べられた亡骸の形でだけ観客に伝える。シリーズで最も静かで、最も残酷な脚色だ。
フレッド・ウィーズリーは、双子の兄ジョージ、長兄パーシーとともに城内の廊下で死喰い人を撃退している最中、城壁の崩落に巻き込まれて命を落とす。ウィーズリー家の双子の片割れが、シリーズ全体でも観客に最も慕われた脇役の一人として、本作で世を去る。床に倒れた彼の最後の表情は、笑い顔のまま固まっている。制作陣が現場で何度もテイクを撮り直した、本作で最も心を抉る一カットである。
スネイプの最期とプリンスの物語
戦いの最中、ハリーはヴォルデモートとの心の接続を通じて、彼が城内にはいないと直感する。ヴォルデモートは戦場から離れた『叫びの屋敷(シュリーキング・シャック)』——ホグズミード村の外れの廃屋——にスネイプを呼び寄せていたのだ。ハリーとロンとハーマイオニーは透明マントを掛け、戦場の隙を縫って叫びの屋敷へと走る。
叫びの屋敷の薄暗い部屋。スネイプと向き合ったヴォルデモートは、低く落ち着いた声で告げる——『お前は、私の最も忠実な僕だった。しかし私の長老の杖は、まだ完全には私のものになっていない。なぜなら、ダンブルドアを殺したのはお前——お前こそが、この杖の真の主人だからだ』。スネイプは反論しようとする。だがヴォルデモートは無言のまま、首にかけていた大蛇ナギニのケージを宙に浮かべ、スネイプに向かって放つ。
ナギニはスネイプの首に襲いかかり、喉を三度、深く噛む。ヴォルデモートは『悪く思うな、セブルス』とだけ告げ、ナギニを連れて立ち去る。床に倒れ、出血するスネイプのもとへ、隠れていたハリーが咄嗟に駆け寄り、抱き起こす。死の間際、スネイプは自分の眼から流れる涙のような銀色の液体——記憶の流れ——を取り出し、ハーマイオニーが急いで差し出した小瓶に納めることを許す。そして最後にハリーの顔を見上げ、『私を見てくれ……お前は……母親と同じ目をしている』とだけ呟いて、息を引き取る。
ハリーは小瓶を握りしめて校長室まで戻る。ダンブルドアが残していった『憂いの篩(ペンシーブ)』に銀色の液体を注ぎ、その中へ顔を浸す。ここから観客は、シリーズで最も衝撃的なフラッシュバック・モンタージュへと足を踏み入れる。本作中盤の白眉であり、原作のチャプター名から『プリンスの物語(The Prince's Tale)』と呼ばれる、約10分におよぶ長尺の挿話である。
若き日のスネイプとハリーの母リリー・エヴァンスは、子供のころからの親友だった。やがてスネイプはホグワーツのスリザリン寮へ、リリーはグリフィンドールへと進み、二人は次第に疎遠になっていく。純血主義のグループに引き寄せられたスネイプは、ついにリリーを失う。卒業後には、彼がヴォルデモートの予言を盗み聞きしてしまい、それがリリーを標的に追いやってしまう。その罪悪感から、彼は生涯ダンブルドアの二重スパイとして働き続けた。リリーの死後も、その息子であるハリーを、彼は望まぬまま守り続けてきた。第6作で天文台塔の上でダンブルドアを殺したのも、『あらかじめ約束した安楽死』だった。そして——もっとも決定的に——ダンブルドアが計画していた最後の真実が明かされる。
ペンシーブの記憶の中で、ダンブルドアの肖像画はスネイプにこう告げる——『ハリー・ポッターは生まれた夜、ヴォルデモートに殺されたとき、ヴォルデモートの魂の最後の一片を意図せず自分の身体に取り込んだ。彼は最後の、第七の分霊箱なのだ。ヴォルデモートを完全に滅ぼすためには、ハリーは死ななければならない』。スネイプは涙ながらに『あなたは私に、彼を屠れと言うのですか』と叫ぶ。ダンブルドアは『お前は、いつから心を持つようになったのだ?』と返す。すると、スネイプの守護霊が——銀の雌鹿、リリー・ポッターの守護霊と同じ姿となって——彼自身の杖から立ち上る。前作PART1で森に現れた銀の雌鹿は、彼の守護霊だったのだ。スネイプは『常に(Always)』とだけ答える。本作の、そしてシリーズ全体の、もっとも引用される一語が、ここで初めて発される瞬間である。
関連リンク
禁じられた森でのハリーの死
ペンシーブの記憶から戻ったハリーは、自分自身が分霊箱であり、ヴォルデモートを倒すには自らが死ななければならない事実を受け入れる。校長室へと続く廊下を、誰にも声をかけずに一人で歩いていく。途中で偶然ネビルと出会ったときだけ、『大事な蛇のナギニを、必ず殺してくれ』と短く言い残し、ホグワーツ城をあとにした。
校門を抜けた禁じられた森の入口で、ハリーはようやくあの石を取り出す。ダンブルドアが第6作のスニッチ『私はこの最後に開く』に封じていた、小さな黒い石——三人兄弟の物語に登場する『蘇りの石』である。スニッチが唇に触れた瞬間、銀色の文字が浮かび上がる。『I open at the close(私は終わりに開く)』。スニッチは二つに割れ、蘇りの石が手のひらへ転がり落ちた。
石を三回まわすと、ハリーを取り囲む森の闇のなかから、死者の魂の影が立ち上がる。父ジェームズ・ポッター(エイドリアン・ローリンズ)、母リリー・ポッター(ジェラルディン・サマヴィル)、ゴッドファーザーのシリウス・ブラック(ゲイリー・オールドマン)、そしてリーマス・ルーピン(デヴィッド・シューリス)。夜の森にたたずむハリーのまわりへ、半透明の影となって現れる。「死ぬのは怖いの?」と、ハリーは静かに父へ尋ねる。シリウスは「いいや、何の痛みもないさ。私たちは皆ここにいる」と答え、母リリーは「あなたは決して一人ではないわよ」と微笑む。シリーズ全体でもっとも穏やかに描かれた死の場面が、このわずか数分のなかにある。
ハリーは森の奥へさらに歩を進め、ヴォルデモートと死喰い人、ジャイアント、人狼グレイバック、そして縛られたハグリッドが集う野営地の中央に、無防備のまま姿を現す。杖を下ろし、両手を体の脇へ垂らして、ヴォルデモートと正面から向き合う。ヴォルデモートは長老の杖を突きつけ、満面の歓喜とともに『アバダ・ケダブラ(死の呪い)』を放った。緑色の閃光がハリーを直撃し、彼は悲鳴ひとつあげずにその場へ崩れ落ちる。シリーズの主人公が、完結編の中盤、観客の目の前で死ぬのだ。
やがてハリーが目を覚ましたのは、真っ白な空間だった。後年『キングス・クロス』のリンボと呼ばれる、現実のキングス・クロス駅さながらの、しかしすべてが真っ白で人影ひとつない不思議な場所である。中央のベンチには、第6作のラストで死んだはずのアルバス・ダンブルドア(マイケル・ガンボン)が腰かけていた。
ここでダンブルドアは、シリーズの根幹をなす長い説明をハリーに語る。ハリーがヴォルデモートの第七の分霊箱であったこと。ヴォルデモートがいま長老の杖の力で放った死の呪いは、ハリーのなかの『ヴォルデモートの魂の断片』だけを殺したこと。ハリー自身は第1作の戦い以来、魂のなかにヴォルデモートの血を抱えていたために、ヴォルデモートと『運命的に繋がっており』、それでもハリー自身の魂は無傷であること。ベンチの下に転がる黒い小さなものは何かと尋ねるハリーに、ダンブルドアは『これがヴォルデモートの魂のもっとも壊れた部分だ。お前にも、誰にも、もはや救えない』とだけ答える。そして最後に、ハリーの前に二つの道を示す。『私と一緒に進む(つまり完全に死ぬ)か、ホグワーツに戻って戦いを終わらせるか』——。ハリーは、戻る道を選んだ。
ナルシッサ・マルフォイの嘘とハリーの帰還
ハリーは禁じられた森の地面で意識を取り戻すが、咄嗟に死んだふりを続ける。本当に息絶えたのかを確かめようと、ヴォルデモートは最後まで彼の傍に残ったナルシッサ・マルフォイ(ヘレナ・マッコリー)に命じる——『彼が死んでいるか確かめろ』。ナルシッサがハリーの胸に手を当てると、その心臓は確かに脈打っていた。
彼女はハリーの耳元に小声で問う——『ドラコは生きているか? ホグワーツの城内にいるか?』。ハリーは『生きている』とだけ答える。やがてナルシッサは立ち上がり、ヴォルデモートと死喰い人たち全員に向かって、はっきりとした声で告げた——『彼は死んでいる』。
母として息子の生死だけを知ろうとした、純血主義の家系の使命とは無縁の小さな嘘——ナルシッサ・マルフォイの一行のうそ——が、シリーズ全体の結末を救う。ヴォルデモートは喜びの咆哮を上げ、死喰い人たちはハリーの『遺体』を見せ物にしながらホグワーツ城へと進軍を始める。
ネビルがソーティングハットから剣を抜く
ヴォルデモートの軍勢が、ついにホグワーツの中庭に到達する。ハグリッドはハリーの“遺体”を腕に抱えさせられ、その後ろにヴォルデモート、ナギニ、ベラトリックス、ルシウス、ナルシッサ、ドラコ、さらに生き残った数百人の死喰い人と巨人が続く。城の階段の上には、ホグワーツの教師たちと生き残った生徒たちが、疲れ切った姿のまま立ち尽くしている。
ヴォルデモートはハグリッドにハリーの遺体を地面へ置かせ、勝利を高らかに宣言する——『ハリー・ポッターは死んだ。今夜から、我々の新しい魔法界が始まる。私の側に来る者は許す。来ない者は皆死ぬ』。ロン、ハーマイオニー、ジニー、マクゴナガル、フリットウィック、スプラウト——誰もが足を縛りつけられたように、一歩も動けない。
そこへ、ネビル・ロングボトム(マシュー・ルイス)がただ一人、城の階段の上から足を踏み出す。痣だらけの顔で、片足を引きずりながら、彼はヴォルデモートの真正面まで歩み寄り、ホグワーツの全員に向けて短い演説を放つ。それはシリーズ全編のテーマを一息に凝縮した言葉だった——『ハリーは死んでいない。彼は今もここにいる。彼の信じたものは、ここにいる僕たち全員のなかにある。今夜、僕たちが戦うことそのものが、ハリーを生かす』。
ヴォルデモートはネビルに杖を向け、大広間に長く打ち捨てられていた古びた“組分け帽子(ソーティングハット)”を呼び寄せると、その頭にかぶせる。そして『今夜から、組分け帽子は要らない。皆スリザリンだ』と言い放ち、帽子に火を放つ。ネビルの頭上で、炎に包まれた帽子が燃え上がる。
次の瞬間、ハグリッドの腕のなかの“ハリーの遺体”が突如として動き出す。透明マントの下からハリー・ポッターが立ち上がり、死喰い人たちは大混乱に陥る。それと同時に、燃え盛る組分け帽子のなかから、ネビル・ロングボトムの手にゴッドリック・グリフィンドールの剣の柄が現れる。まるで何百年もそこに納められていたかのように。グリフィンドール寮の真の継承者だけが帽子から取り出せるとされた剣を、ネビルは堂々と頭上へ振り上げる。
ネビルは、ハリーがダンブルドアの夢のなかでだけ託していた一行の命令——『ナギニを殺せ』——を、ホグワーツの中庭の中央で実行に移す。振り下ろされた剣が、空中で大蛇ナギニの首を一閃のもとに斬り落とす。ヴォルデモート最後の分霊箱が、中庭の石畳へと滑り落ちる。ヴォルデモートの絶叫が響き渡る。
モリー・ウィーズリーがベラトリックスを…
ナギニが斬られ、最後の分霊箱が破壊された瞬間、ハリー・ポッターは完全に息を吹き返し、ホグワーツの中庭は再び全面戦闘へと突入する。ハリーは透明マントを脱ぎ捨て、人ごみをかき分けてヴォルデモートのもとへと走り出す。
大広間の中央では、ベラトリックス・レストレンジ(ヘレナ・ボナム=カーター)が、ジニー・ウィーズリー、ハーマイオニー、ルーナの三人を相手に呪文を撃ち合っている。ベラトリックスがジニー・ウィーズリー(ボニー・ライト)めがけて緑色の死の呪いを放つ。閃光は床のすぐ脇をかすめ、ジニーの間近を抜けていく。
ジニーへ迫る呪いの軌跡を見たその瞬間、母モリー・ウィーズリー(ジュリー・ウォルターズ)は杖を抜いて中央へと駆け出し、観客の誰もが忘れられない一言を、シリーズ全体で最も声を荒げて叫ぶ——『私の娘に手を出すな、この野郎!(Not my daughter, you bitch!)』。原作通りに本作へ残された、もっとも観客の歓声を誘うせりふである。
モリーとベラトリックスの一対一の決闘は、十数秒で決着する。ベラトリックスは『お前のような家庭の主婦が、私に勝てるものか』と嘲笑うが、モリーは目を細め、緑ではない一発の呪文を撃ち込む。閃光がベラトリックスの胸を貫いた瞬間、その身体は内側から砕け、白い灰のような結晶へと分解されて、その場に崩れ落ちる。観客が長年待ち望んだ復讐の場面のひとつが、ここに刻まれる。
ハリー対ヴォルデモートの最終決闘
ホグワーツの中庭から大広間へ、回廊を抜けて塔の階段、そして城外の橋へ——ハリー・ポッターとヴォルデモート卿の最後の追跡劇は、城のあらゆる空間を巡る一連の長いシークエンスとして編まれている。映画版はここで、原作の「大広間の中央でかわされる決闘」を大胆に脚色した。互いを抱えるように塔の上から飛び降り、城の中心にある鐘楼の階段を駆け上がり、ふたたび中庭へと戻る——シリーズ全体の景観を背景に決着をつける、長い「動の決闘」へと書き換えられているのだ。
最終的に二人は、中庭の石畳の中央でふたたび向き合う。長老の杖を構えるヴォルデモート、そしてドラコ・マルフォイから前作のマルフォイ屋敷で奪ったサンザシの杖を構えるハリー。両者の呪文——アバダ・ケダブラとエクスペリアームス——が同時に放たれる。空中で衝突した二筋の閃光は、緑色と金色の螺旋となって絡み合い、二人の杖の先で爆発する。
そのときハリーは、塔の上で起きていたもう一つの事実をヴォルデモートに告げる——「お前の長老の杖の主人は、スネイプではない。第6作のラスト、天文台塔でダンブルドアを武装解除したのは、ドラコ・マルフォイだった。長老の杖は、その瞬間からドラコの杖だったのだ」。
ヴォルデモートは「ドラコは私の前で杖を捨てた」と反論する。だがハリーは続ける——「そして前作PART1のマルフォイ屋敷で、僕がドラコのサンザシの杖を奪った。その瞬間から、長老の杖の真の主人は——僕だ」。長老の杖は、真の主人であるハリーに向けては、決して牙をむかない。
中庭の石畳の上、長老の杖がヴォルデモートの手を離れ、空中に弧を描いてハリーの手のひらへと飛び込む。同時に、ヴォルデモートの放ったアバダ・ケダブラが、彼自身の杖を経由して跳ね返り、その身体を直撃する。長老の杖を失ったヴォルデモートは、その力に飲み込まれていく。肉体は内側から白い灰の粒子へと分解され、ホグワーツの朝の風のなかで何百万もの白い砂粒となって散っていく。観客の前で、シリーズ全体の悪の象徴が、一切の音もなく消滅する。
ハリーの手のなかには二本の杖がある——折れていた自分のヒイラギの杖、そして奪い取った長老の杖だ。彼は折れた自分の杖を、長老の杖の力で完全に修復する。そしてシリーズ全体で唯一、長老の杖を「所有しないことを選ぶ」瞬間が訪れる。ハリーは修復したヒイラギの杖だけを手に残し、長老の杖を両手で握ると、橋の上で——半ば崩れ落ちた中央の橋の欄干に向かって——一気に折る。二つに割れた長老の杖は、橋の下の谷へと静かに落下していく。世界最強の杖は、シリーズの完結とともにその使い手を失うのだ。
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結末
戦いの終わったホグワーツの大広間。夜が明けた朝、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人は、誰もいない壊れた大広間で、中央のテーブルの前に並んで立つ。言葉はほとんど交わされない。ハリーは何かを言いかけて、結局口をつぐむ。ロンとハーマイオニーは互いの手を握り、ハリーの隣で前を見据える。シリーズ全8作をともに歩んだ幼馴染三人が、最後にもう一度三人だけで並ぶ——わずか数十秒のこのショットが、本作の物語本編の終わりを告げる。
画面はそのまま、19年後——2017年——キングス・クロス駅の9と4分の3番線へと滑らかに移る。スクリーンには『19 YEARS LATER(19年後)』の文字が短く重なる。
37歳前後となったハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフが特殊メイクで演じる)が、妻ジニー・ポッター(旧姓ウィーズリー/ボニー・ライト)とともに、二人の息子ジェームズ・シリウス・ポッターとアルバス・セブルス・ポッター、娘リリー・ルナ・ポッターをホグワーツ行きの汽車へと見送る。隣のホームには、ロン・ウィーズリー(ルパート・グリント)と、その妻となったハーマイオニー・グレンジャー(エマ・ワトソン)の夫妻、そして娘ローズ・ウィーズリーが立つ。少し離れたホームには、ドラコ・マルフォイ(トム・フェルトン)が、妻アストリア・グリーングラスと息子スコーピウス・マルフォイを連れて立っている。ハリーとドラコは、人ごみのなかで一瞬だけ目を合わせ、無言のまま一度だけ頷き合う。シリーズ全体を貫いた対立の幕引きを、これほど遠回しに描いたカットはない。
出発の直前、ハリーの次男アルバス・セブルス・ポッター(アーサー・ボウェン)は、父の手を握ってしゃがみ込み、不安そうに尋ねる——『パパ、もし僕がスリザリン寮になったらどうするの?』。ハリーはしゃがんで息子の目を見つめ、シリーズ全体の倫理を締めくくる最後の一行を告げる——『お前の名前——アルバス・セブルス——は、ホグワーツの二人の校長から取った。そのうちの一人はスリザリンだったが、私の知る限り、最も勇敢な男だった。それに、組分け帽子は、お前自身が望めば、その希望を聞いてくれるはずだ』。
アルバスは少し安心して父の手を離し、汽車の窓へと駆け出していく。窓辺では、長男ジェームズと娘リリー、そしてアルバスの三人が、ハリーとジニーに手を振る。汽笛が一度鳴り、9と4分の3番線に蒸気が立ち上るなか、ホグワーツ・エクスプレスが動き出す。ハリーが額の傷をそっと指でなぞり、何も言わずに前を向く——このカットが、シリーズ全8作のラストを成す。もはや痛むことのない、ただの古傷となった、稲妻の形をした傷跡だ。
画面は最後に、ハリーとジニー、ロンとハーマイオニーの四人がホームの一点に並び、遠ざかる汽車の煙を見送る引きのカットへと移る。子供として始まり、子供を見送る大人として終わる——ハリー・ポッターというシリーズ全体を貫く円環が、ここで完全に閉じる。
登場要素
本作に登場・言及される主な要素を、人物・魔法生物・呪文と魔法・道具・場所・組織に分類して紹介する。本作で初めてスクリーンに姿を見せる『ヘレナ・レイブンクロー(灰色の婦人)』『アバーフォース・ダンブルドア』『アリアナ・ダンブルドアの肖像画』『キングス・クロスのリンボ』、そして19年後を描くエピローグに登場するジェームズ・シリウス/アルバス・セブルス/リリー・ルナ/ローズ/スコーピウスといった次世代の顔ぶれは、本編シリーズの完結を象徴する存在である。
- ハリー・ポッター
- ロン・ウィーズリー
- ハーマイオニー・グレンジャー
- セブルス・スネイプ
- アルバス・ダンブルドア(キングス・クロスのリンボ/ペンシーブの記憶)
- ヴォルデモート卿(トム・マールヴォロ・リドル)
- ベラトリックス・レストレンジ
- ルシウス・マルフォイ
- ナルシッサ・マルフォイ
- ドラコ・マルフォイ
- アバーフォース・ダンブルドア(初登場)
- ネビル・ロングボトム
- ジニー・ウィーズリー
- ルーナ・ラブグッド
- ガリック・オリバンダー
- グリップフック(ゴブリン)
- モリー・ウィーズリー
- アーサー・ウィーズリー
- フレッド・ウィーズリー(戦死)
- ジョージ・ウィーズリー
- ビル・ウィーズリー/フルール・ウィーズリー
- パーシー・ウィーズリー(戦闘に復帰)
- リーマス・ルーピン(戦死)
- ニンファドーラ・トンクス(戦死)
- ミネルバ・マクゴナガル
- フィリウス・フリットウィック
- ポモナ・スプラウト
- ホレス・スラグホーン
- シェイマス・フィネガン
- ディーン・トーマス
- リー・ジョーダン
- オリバー・ウッド
- チョウ・チャン
- コーマック・マクラーゲン
- ハグリッド(人質)
- アミカス・キャロー/アレクトラ・キャロー
- フェンリール・グレイバック
- ピーター・ペティグリュー(言及/不在)
- リリー・ポッター(蘇りの石/ペンシーブの記憶)
- ジェームズ・ポッター(蘇りの石/ペンシーブの記憶)
- シリウス・ブラック(蘇りの石)
- ヘレナ・レイブンクロー/灰色の婦人(初登場)
- アリアナ・ダンブルドア(肖像画)
- テディ・ルーピン(言及)
- 19年後:ジェームズ・シリウス・ポッター
- 19年後:アルバス・セブルス・ポッター
- 19年後:リリー・ルナ・ポッター
- 19年後:ローズ・ウィーズリー
- 19年後:スコーピウス・マルフォイ
- ナギニ(ヴォルデモートの大蛇、本作で死亡)
- ウクライナンアイアンベリー(グリンゴッツ地下のドラゴン)
- バジリスク(白骨化/秘密の部屋)
- ジャイアント(戦闘部隊)
- アクロマンチュラ(巨大蜘蛛、禁じられた森から襲来)
- 人狼(フェンリール・グレイバック)
- 屋敷しもべ妖精(クリーチャー率いる厨房軍)
- セストラル
- ゴブリン(グリップフック、グリンゴッツ受付)
- ふくろう各種
- ピエルトータム・ロコモートル(彫像起動の咒文)
- プロテゴ・マキシマ/フィアナト・デュリ/レペロ・イニミクム(保護シールド三重咒)
- コンファンドゥス(混乱呪文)
- ポリジュース薬(ハーマイオニー=ベラトリックス変装)
- ジェミニオ呪文(複製の呪い/グリンゴッツ)
- フランベ呪文(炎の呪い/グリンゴッツ)
- フィエンドファイア(悪魔の業火/必要の部屋)
- 蘇りの石(スニッチの中/三人兄弟の物語)
- 守護霊(パトローナス/スネイプの銀の雌鹿)
- アバダ・ケダブラ(死の呪い)
- エクスペリアームス(武装解除/ハリーの代名詞)
- ステューピファイ(失神呪文)
- クルーシオ(許されざる呪文)
- シーフズ・ダウンフォール(泥棒の滝)
- ロウモス(火光呪文)
- アクシオ(呼び寄せ呪文)
- ペンシーブ(憂いの篩/スネイプの記憶)
- 蛇語(パーセルタング/ロンが模倣)
- ハッフルパフのカップ(分霊箱/秘密の部屋で破壊)
- レイブンクローのダイアデム(分霊箱/必要の部屋で破壊)
- ナギニ(分霊箱/中庭で斬首)
- ハリー・ポッター自身(最後の分霊箱/禁じられた森)
- 長老の杖(エルダー・ワンド/最終的に折る)
- 蘇りの石(スニッチの中)
- 透明マント(ハリーが第1作から所有)
- グリフィンドールの剣(グリンゴッツでグリップフックに奪われ、ソーティングハットからネビルが取り出す)
- バジリスクの牙(カップ破壊用)
- ハリーのヒイラギの杖(戦闘終了後に長老の杖の力で修復)
- ドラコのサンザシの杖(前作で奪取/決闘で使用)
- ベラトリックスのクルミの杖(ハーマイオニーが使用)
- 金のスニッチ『私はこの最後に開く』
- ペンシーブ(憂いの篩)
- ヴォルデモート政権の魔法省身分札
- アリアナ・ダンブルドアの肖像画(ホッグズ・ヘッド〜必要の部屋)
- 貝殻の家(シェル・コテージ/本作冒頭)
- グリンゴッツ魔法銀行(ロビー/レストレンジ家貸金庫/地下ドラゴン洞窟)
- ダイアゴン横丁の上空(ドラゴン脱出)
- ホグズミード村(夜の戒厳令下)
- ホッグズ・ヘッド酒場(アバーフォースの店)
- ホグワーツ城(大広間/回廊/中庭/鐘楼/天文台塔/必要の部屋/秘密の部屋/校長室)
- ホグワーツの長橋(シェイマスが爆破)
- 禁じられた森(蘇りの石/ヴォルデモートの野営地)
- キングス・クロスのリンボ(白い駅)
- キングス・クロス駅 9と3/4番線(19年後)
- 不死鳥の騎士団
- ダンブルドア軍団(必要の部屋を本拠地に)
- 死喰い人
- ヴォルデモート政権下の魔法省
- スナッチャーズ(人狩り部隊)
- ホグワーツ魔法魔術学校(四寮)
- ウィーズリー家
- マルフォイ家
- レストレンジ家(金庫)
- ゴブリン(グリンゴッツ)
18主要登場人物
本作の人物造形は、シリーズ全体を貫く伏線を回収する役割を担っている。ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人組は、第1作から第7作まで積み上げてきた友情を、本作の130分のなかで一気に大人のものへと書き換えていく。脇役にも見せ場は多い。第1作では臆病な少年だったネビル・ロングボトムは英雄へ、家庭を守る母だったモリー・ウィーズリーは戦士へ、純血主義に凝り固まっていたナルシッサ・マルフォイは一人の母親へ、そして『裏切り者』と目されてきたセブルス・スネイプはシリーズ最大のヒーローへと姿を変える。登場人物たちは本作のなかで、それぞれの最後の顔を観客の前にさらすのだ。
ハリー・ポッター
本作のハリーは17歳。前作で師ダンブルドアを失い、ヘドウィグとドビーを失った。そして本作では、フレッド、ルーピン、トンクス、スネイプ、さらには自分自身までを、順に失っていく。シリーズを通じて『生き残った男の子』と呼ばれてきた彼は、最後には自分を含むすべての分霊箱を破壊するため、文字どおり自らの命を差し出すのだ。
禁じられた森でヴォルデモートに向かって杖を下ろし、両手を体の脇に垂らす——その十秒間は、シリーズ全体を通じたダニエル・ラドクリフの俳優としての到達点として広く知られている。10年前、第1作に立っていた彼は、まだ眼鏡をかけた11歳の小さな少年だった。本作の彼は、その同じ眼鏡をかけたまま、自らの死を受け入れて森へ歩いていく21歳の青年として、観客の前に立つ。
ラストでハリーは、長老の杖を所有しないという選択をする。シリーズ全体を貫く倫理の、最後の一行だ。修復した自分のヒイラギの杖だけを手に、長老の杖を折って橋の下へ捨てる。その姿は、シリーズを貫く『所有しないことの強さ』という主題を、最も短い動作で映し出している。
19年後を描くエピローグでは、特殊メイクで37歳前後を演じる。額の傷を一度だけ触れ、何も言わずに前を向く——その最後のカットこそ、ラドクリフが10年間演じきった一人の少年が、自らの物語を完全に閉じる、シリーズの終点である。
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ロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グ…
ロンは本作で、家族の死(フレッド)と恋人との結ばれ(ハーマイオニー)を同じ夜のうちに経験する人物として描かれる。秘密の部屋でカップを破壊した直後の波しぶきのなかでのハーマイオニーとのキスは、原作の通り映画にも残された、ロンとハーマイオニーの関係の最終回答である。ルパート・グリントはこのキスの撮影の前、エマ・ワトソンに『俺たち、ずっと役で姉弟みたいに育ったから、緊張するな』と冗談を言ったと後年語っている。
ハーマイオニーは本作で、グリンゴッツでベラトリックスに変装する数十分間、エマ・ワトソンが声と仕草をヘレナ・ボナム=カーターから直接吸収する形で演じきった。実際の撮影では、ヘレナ・ボナム=カーター本人が現場でエマ・ワトソンの仕草と声を撮影した素材を基に、ベラトリックス役の動作を上書き演技し、最終編集ではボナム=カーター本人の身体に置き換えるという複雑な手順が取られた。
前作PART1のマルフォイ屋敷で腕に刻まれた『MUDBLOOD』の傷は、本作でも何度かはっきり画面に映る。シリーズ全体に残った、ハーマイオニーの肉体的な記憶として、19年後のエピローグでも長袖の下に隠したまま、ジニーと並ぶ母親としての彼女の中に残されている。
セブルス・スネイプ
本作のスネイプは、第1作から第7作まで観客が「信頼できない教師」「冷たい裏切り者」として記憶してきた人物像を、わずか15分のペンシーブ・モンタージュ「プリンスの物語」のなかで完全に書き換える。リリー・エヴァンスとは幼少期からの親友だったこと、純血主義に引き寄せられて彼女を失ったこと、卒業後にヴォルデモートへ偶然漏らした予言が彼女の死を招いたこと、そのリリーの息子ハリーを17年間にわたって守り続けてきたこと、ダンブルドアの死は計画された安楽死だったこと——そしてスネイプの守護霊が銀の雌鹿、すなわちリリーの守護霊と同じ姿であったこと。それらが一気に明かされる。
彼の最後の一語「常に(Always)」は、ハリー・ポッター・シリーズ全体でもっとも有名な一行として、公開から10年以上を経た今もなお愛され続けている。SNSや書店のグッズ、刺青、さらには結婚指輪の刻印にまで広く使われているほどだ。リックマン本人は、原作最終巻の発売(2007年)以前から、J.K.ローリングよりスネイプの真の役割を非公式に伝えられていた数少ない俳優の一人だった。シリーズ全7作で「本当の彼」を知ったうえで演技を重ねてきたことが、本作のペンシーブ場面の説得力を根底から支えている。
アラン・リックマンは本作公開から5年後の2016年、肺癌で世を去った。本作での彼の演技は、長いキャリアのなかでも観客の記憶にもっとも深く刻まれた役の一つとして、公開以降も繰り返し語り継がれている。
ヴォルデモート卿
本作のヴォルデモートは、PART1で長老の杖を手にした絶頂から、肉体が灰の粒子に分解されて完全に消滅するラストまでが描かれる。中盤、分霊箱が一つずつ破壊されていることを直感し、ナギニを後生大事に自分の側へ留め置くようになるあたりから、その心理は不安と苛立ちで目に見えて崩れ始める。
叫びの屋敷でスネイプを処刑する場面で、レイフ・ファインズは「悪く思うな、セブルス」という台詞を低い声で口にする。シリーズ全体を通じてヴォルデモートが唯一、相手を名で呼ぶ瞬間だ。彼が本気で誰かの名を呼ぶ声を、観客が聞けるのはこのときだけである。
ヴォルデモートとハリーの最終決闘は、原作とは異なり、互いの体を抱えるように二人が塔から飛び降り、城を巡る長いアクション・シークエンスへと再脚色されている。ファインズはこの場面のため、ハリー役のラドクリフと現場で長時間のクライミング・ワイヤー稽古を重ねた。やがて長老の杖が彼の手から飛び去る瞬間、目を見開いて呆然とするファインズの表情は、シリーズを貫いたヴォルデモート像の終焉として、観客の記憶に強く焼きつく。
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ネビル・ロングボトム
本作のネビル・ロングボトムは、シリーズ全体でも屈指のドラマティックな成長を見せる脇役として描かれる。第1作では臆病な丸顔の少年でしかなかったが、本作では片足を引きずりながらもヴォルデモートの真正面へ歩み出る若き指揮官へと変貌する。ホグワーツの中庭、その中央で彼が放つ演説こそ、シリーズ全体の倫理の核をなすものだ。
組み分け帽子の中からゴッドリック・グリフィンドールの剣を抜き放ち、空中で大蛇ナギニの首を一閃のもとに斬り落とす――この場面は、観客が長く待ち望んできた「脇役の英雄化」の頂点といえる。最後の分霊箱を破壊する栄誉は、原作通り、ハリー本人ではなくネビルに託される。シリーズを通してもっとも観客に近い位置にいた「普通の少年」、そのネビルにこそ与えられるのだ。
マシュー・ルイスは、第1作から本作までの撮影の合間に重ねた数年で、俳優としても肉体的にも大きく成長した。本作の彼は精悍な顔立ちとなり、第1作と同一人物だとは気づきにくいほどである。撮影現場では、外見の変化を抑えるために特殊な歯のキャップを長年使い続けてきたが、本作で初めてそれを外して撮影に臨めたと、彼は後年語っている。
ミネルバ・マクゴナガル
本作のマクゴナガル先生は、それまでの大きな転機を迎える。シリーズ全8作を通じて『副校長』の座にあった彼女が、ここで初めて『ホグワーツの実質的な校長』として前面に立つのだ。スネイプの追放、城全体を覆う保護シールド、彫像と鎧を呼び覚ます起動咒『ピエルトータム・ロコモートル』、スリザリン寮への地下牢避難命令、そして教師団の総指揮——これらすべての判断を、彼女は大広間の中央から下していく。
彫像を起動する直前の『ずっとこれをやってみたかったのよ』という呟きは、原作にも存在する有名な一行であり、本作でも原作通りに残された。マギー・スミスはこの台詞の収録にあたり、現場で何度もテイクを重ね、最終的に最も口元の控えめなテイクが採用されたという。本作はマギー・スミスにとってハリー・ポッター・シリーズ出演の最終作であり、その後はジョージ・ハリソン主演の伝記映画やテレビ・ドラマ『ダウントン・アビー』など、別の代表作へと活躍の場を移していった。
モリー・ウィーズリーとベラトリックス…
本作のモリー・ウィーズリーは、第1作から第6作まで七人兄妹を抱える母として、もっぱら家事や料理の場面で描かれてきた。その彼女が、最終作の終盤で「戦う母」として一気に観客の前面へ躍り出る場面で記憶される。フレッドを失い、ジニーへ向けてベラトリックスが死の呪いを放った瞬間、彼女は自らの杖を抜く。そしてシリーズ全体で最も声を荒げた一行、「私の娘に手を出すな、この野郎!」を叫び、ベラトリックスをただ一発の呪文で粉砕するのだ。
原作の英文台詞「Not my daughter, you bitch!」をめぐっては、脚本段階で議論があった。家族向け映画として、最終作のクライマックスで「bitch」という単語をどう扱うか、という問題である。最終的には、原作ファンの期待を尊重し、原文の単語をそのまま残すことが決定され、本編の最終ミックスにも残された。演じたジュリー・ウォルターズは、母としての怒りの声を、家庭の枠を超えた声として一度だけ放つ——その演技プランをデヴィッド・イェーツと長時間打ち合わせたうえで、撮影に臨んだという。
ヘレナ・ボナム=カーター演じるベラトリックスは、本作で完全に幕を閉じる。マルフォイ屋敷にある自分の貸金庫の中身が無事かどうかを、彼女は最後まで気にかけていた。だが、その貸金庫は暴かれ、崇拝する「主」も分霊箱を次々と失っていく。そして最後は、ホグワーツの大広間で、一人の家庭の母に粉砕されるのだ。シリーズ全体の悪役のなかで最も狂気的だった一人が、善側の最も家庭的な一人に倒される——この構図は、本作でもっとも整った対の場面といえる。
ナルシッサとドラコ・マルフォイ
ナルシッサ・マルフォイは、物語の結末を救う一行の嘘——「彼は死んでいる」——を放つ役どころで、シリーズ全体を彩った主要な脇役たちの、その最後の一人として描かれる。純血主義の家系を代表する女性であり、これまで公にはヴォルデモートに従ってきた。だが本作で我が子の生死を確かめたその瞬間、彼女を動かすのは純血主義などではなく、ただ一人の母としての思いだ。演じたヘレナ・マッコリーは本作のあと、テレビドラマ『ピーキー・ブラインダーズ』のポリー・グレイ役で広く知られるようになり、2021年に他界した。
ドラコ・マルフォイは、本作で家系の重圧から完全に解き放たれるわけではない。それでも必要の部屋を包むフィエンドファイア(呪いの業火)からハリーに救い出され、最後の中庭の決戦では一度はヴォルデモート側へ呼び戻されながらも、その場の空気から滑り落ちるように母の脇へと戻っていく。19年後を描くエピローグでは、妻アストリアと息子スコーピウスを連れて9と3/4番線に立ち、ハリーと無言のまま一度だけ頷き合う——シリーズ全体の対立がどう終わったかを示す、もっとも遠回しな一カットを、トム・フェルトンが受け持つのだ。
舞台と用語
本作の舞台は、シリーズで最も多彩な空間を130分のうちに巡っていく。貝殻の家の海辺、ロンドンのグリンゴッツ銀行、戒厳令下に沈む夜のホグズミード、アバーフォースが営むホッグズ・ヘッド酒場、そしてホグワーツ城の大広間、回廊、必要の部屋、秘密の部屋、天文台塔、校長室、中庭、鐘楼、長橋——さらに禁じられた森、キングス・クロスのリンボ、19年後のキングス・クロス9と3/4番線へと続く。シリーズを通して観客が訪れてきた場所のほとんどすべてが、本作で最後にもう一度画面に姿を見せるのだ。
用語の面でも、本作で初めて画面に立ち上がる重要な概念がいくつもある。『フィエンドファイア(悪魔の業火)』は、炎そのものが意思を持つ呪われた火だ。必要の部屋でクラブ(映画版ではゴイル)が制御を失って放つ場面が初登場となる。『ピエルトータム・ロコモートル』は彫像と鎧を起動する咒文で、マクゴナガルが大広間で唱える。『プロテゴ・マキシマ/フィアナト・デュリ/レペロ・イニミクム』の三重保護シールドも、本作のホグワーツ防衛戦で初めて画面に現れる。
本作で最も重要な伏線回収が、『長老の杖(エルダー・ワンド)の所有権の連鎖』である。ダンブルドア(ゲラート・グリンデルバルドから勝ち取った)から、第6作の天文台塔でダンブルドアを武装解除した瞬間に所有権を得たドラコ・マルフォイへ。さらに前作PART1のマルフォイ屋敷でドラコのサンザシの杖を奪った瞬間に所有権を得たハリー・ポッターへ——この流れが、本作のクライマックスで初めて整理されて観客に提示される。ヴォルデモートは長老の杖を手にしながら、なぜ本作で勝てないのか。杖が彼を真の主人と認めていないからだ。その理由が、ここでようやく完成する。
七つある『分霊箱(ホークラックス)』のうち、本作で破壊されるのは四つ——ハッフルパフのカップ(秘密の部屋)、レイブンクローのダイアデム(必要の部屋)、ナギニ(中庭)、そしてハリー・ポッター自身(禁じられた森)である。残る三つ、日記、指輪、ロケットは、それぞれ第2作、第6作、前作PART1で既に破壊されている。シリーズ全体を貫いてきた魔法の仕掛けが、本作ですべて決着を見るのだ。
28制作
『ハリー・ポッター』本編シリーズ第8作にして最終作の制作は、前作PART1とまったく同じ日程で進められた。撮影は2009年2月19日に始まり、2010年6月12日に終了。前後編を一気に撮りきる「バック・トゥ・バック」方式が採られた。本セクションでは、企画と脚本、キャスティング、美術とプロダクションデザイン、視覚効果、音楽と音響、撮影とロケ、編集の各分野に分けて整理していく。
企画と脚本
脚本を手がけたのは、シリーズ第1〜4作および第6作を担当したスティーヴ・クローヴスである。第5作ではいったん離れたが、前作PART1と本作で復帰した。クローヴスは原作『死の秘宝』の下巻にあたる内容——グリンゴッツ襲撃からホグワーツの戦い、そしてエピローグまで——を130分にまとめるにあたり、原作のいくつかの脇道は大胆に削る一方、シリーズ全体に張られた伏線を映像で最大限に回収すべく、構成を大きく組み直した。
最大の脚色は、ハリーとヴォルデモートの最終決闘の場面だ。原作では大広間の中央で、二人が観客に取り囲まれながら静かに長い対話を交わし、そのうえで決闘に至る。だが映画版では、ホグワーツ城のあらゆる空間を駆け巡る長大なアクション・シークエンスへと作り替えられた。互いを抱えたまま塔から飛び降り、鐘楼を走り抜け、再び中庭へ戻ってくる十数分——原作読者の一部からは「観客に媚びた過剰な脚色」との批判もあった。だがデヴィッド・イェーツは後年、「最終作のクライマックスには、映画でしか出せない物理的な迫力が必要だった」と語っている。
二つ目の大きな脚色は、ヴォルデモートの肉体の崩壊である。原作では彼は「ごく普通の死体として」中央に崩れ落ちる。それが映画版では、身体が白い灰の粒子へと分解され、朝の風に散っていく描写へと書き換えられた。これはイェーツと、本作でアカデミー賞視覚効果賞にノミネートされたVFXスーパーバイザーのティム・バークが協議のうえで施した脚色である。シリーズ全体を通じての悪の象徴、その最期を視覚的に観客の記憶へ刻むためだった。
三つ目は、ハリーが長老の杖を折る場面だ。原作ではダンブルドアの墓に杖を戻すが、映画版では崩れた橋の上で両手で杖をへし折り、谷底へ投げ捨てる。クローヴスは「彼が『所有しないことを選んだ』というメッセージを、観客に最も明確に伝えるためだ」と説明している。
削られた要素もある。原作のエピローグの前に置かれた、ハーマイオニーとロンが今後の人生を語り合う長い対話は省かれ、夜が明けた大広間での三人の沈黙のショットだけで締めくくられた。原作にあるパーシー・ウィーズリーと家族の和解の長い場面、テディ・ルーピン誕生の場面、そしてドラコがハリーに礼を言う場面も、映画版では大幅に短縮されるか、削除されている。
キャスティング
本編シリーズの主要キャストは、ほぼ全員が続投した。ハリー役のダニエル・ラドクリフ、ロン役のルパート・グリント、ハーマイオニー役のエマ・ワトソンは、撮影当時20〜21歳。さらにヴォルデモート役のレイフ・ファインズ、スネイプ役のアラン・リックマン、ベラトリックス役のヘレナ・ボナム=カーター、ハグリッド役のロビー・コルトレーン、ルシウス役のジェイソン・アイザックス、ドラコ役のトム・フェルトン、ナルシッサ役のヘレナ・マッコリー、マクゴナガル役のマギー・スミス、フリットウィック役のワーウィック・デイヴィス、スプラウト役のミリアム・マーゴリーズ、スラグホーン役のジム・ブロードベント、ジニー役のボニー・ライト、モリー役のジュリー・ウォルターズ、アーサー役のマーク・ウィリアムズ、フレッド/ジョージ役のジェームズ・フェルプス/オリヴァー・フェルプス、ビル役のドーナル・グリーソン、ルーピン役のデヴィッド・シューリス、トンクス役のナタリア・テナ、フルール役のクレマンス・ポエジー、ルーナ役のイヴァナ・リンチ、ネビル役のマシュー・ルイス、そしてグリンデルバルド役の言及登場——いずれも本作が最終出演となった。
本作で初めて主要キャストに加わったのが、アバーフォース・ダンブルドア役のキーラン・ハインズと、ヘレナ・レイブンクロー(灰色の婦人)役のケリー・マクドナルドである。両者ともそれまでハリー・ポッター・シリーズには登場していなかった。だが、物語を決定づける情報——アバーフォースが守るアリアナの肖像画の通路、そして灰色の婦人だけが知るダイアデムの隠し場所——を託された重要な脇役として、短いながらも強烈な印象をシリーズ全体に刻んだ。
ゴブリンのグリップフック役は、シリーズ全8作にわたってフリットウィック教授とグリンゴッツの受付ゴブリンを並行して演じてきたワーウィック・デイヴィスが担当する。デイヴィスは本作で、フリットウィック教授、グリンゴッツの受付ゴブリン、そしてグリップフックという三役を、同じ作品の中で別個に演じきった。
19年後を描くエピローグでは、特殊メイクで37歳前後を演じる三人の主役に加え、本作のために子役が新たにキャスティングされた。アルバス・セブルス・ポッター役にアーサー・ボウェン、ジェームズ・シリウス・ポッター役にウィル・ダンビー=アッシュ、リリー・ルナ・ポッター役にデイジー・ホップキンス、ローズ・ウィーズリー役にヘレナ・バーロウ、スコーピウス・マルフォイ役にバートラム・ベルが起用されている。
美術とプロダクションデザイン
美術監督を務めたのは、シリーズ全8作に続編『ファンタスティック・ビースト』3部作までを一貫して手がけたスチュアート・クレイグ。本作はシリーズを通じて、新規セットと大規模な再建セットの数がもっとも多い作品のひとつとなった。最終作としてホグワーツ城の内装を全空間にわたって使い切り、グリンゴッツ銀行はロビー、地下貸金庫、地下のドラゴン洞窟をすべて新たに建設。必要の部屋の『失われた物の部屋』はシリーズ最大の没収品の山として組み上げ、ホグワーツの中庭、大広間、長橋は崩落した姿を造形し、さらにキングス・クロスのリンボには真っ白な駅を建てた。これらすべてが本作のために欠かせなかったのである。
ホグワーツの戦いの後半では、大広間の中央が崩れ落ち、長橋は爆破され、中庭は瓦礫の山と化す。これら『破壊された城』のセットは、観客が9年にわたって慣れ親しんできた『綺麗な城』のセットを、本作のために徹底的に作り直す形で組み直された。撮影現場となったリーヴスデン・スタジオでは、同じセットの『戦闘前』『戦闘中』『戦闘後』という三段階を並行して維持する手間が求められた。
グリンゴッツ銀行の地下に広がるドラゴン洞窟は、本作のために組まれた最大規模の新規セットのひとつである。何十年も地下に閉じ込められ、白く色褪せた巨大なウクライナンアイアンベリー種のドラゴンが鎖に繋がれた空間として、シリーズでもっとも陰鬱な美術が組み上げられた。撮影終了後、このセットは英国リーヴスデン・スタジオの『ハリー・ポッター スタジオ・ツアー』に一部が保存され、いまも観光客が訪れることができる。
キングス・クロスのリンボのセットは、現実のキングス・クロス駅をミニチュア化したかのような真っ白な空間として、リーヴスデン・スタジオ最大のサウンドステージに組まれた。床も、壁も、天井も、ベンチも、そして列車も——すべてが真っ白に塗られ、影は照明だけが微かに描き出す。シリーズでもっとも『非現実的』な美術であり、ダンブルドアとハリーが言葉を交わす場の、象徴的な空白として機能している。
視覚効果
視覚効果は、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)、フレームストア、ダブル・ネガティブ、MPC、シネサイト、リズム&ヒューズをはじめとする多数のVFXハウスが分担した。視覚効果スーパーバイザーはティム・バークが務めた。本作のVFXは第84回アカデミー賞視覚効果賞にノミネートされたが、受賞は『ヒューゴ』に譲っている。一方、第65回BAFTA視覚効果賞・特殊視覚効果賞は本作が射止めた。
本作には、難度の高い視覚効果が枚挙にいとまがない。グリンゴッツ地下貸金庫を埋め尽くす『ジェミニオ呪い』による黄金の無限複製、地下のドラゴンに乗ってのロンドン上空への脱出、シーフズ・ダウンフォールの滝。さらに、必要の部屋を呑み込むフィエンドファイア(火が獅子・蛇・象・キメラの形をとる生きた炎)、ホグワーツを覆う保護シールドの透明な半球が立ち上がり、やがて崩れ落ちるさま、彫像と鎧が起動して歩き出す場面、長橋の爆破と崩落、そしてヴォルデモートの肉体が白い灰の粒子へと分解されていく最終シーン。極めつけは、19年後のキャストを演じ分ける特殊メイクである。
とりわけ、火が生き物の形をとるフィエンドファイアの場面はフレームストアが担当した。火そのものに筋肉と骨格、そして意思を持たせるシミュレーションを新たに開発したのである。実在の火災映像と動物の動きのモーションキャプチャを組み合わせ、火の獅子が顎を開き、火の蛇が舌を出し、火の象が鼻を振り上げる——それぞれの動物の解剖学的に正確な動きを、純粋な炎のレンダリングとして再現してみせた。
ヴォルデモートの肉体崩壊は、ダブル・ネガティブが手がけた。レイフ・ファインズの身体を3Dスキャンし、その表面が内側から無数の白い粒子へと分解されていく過程を、ピクセル単位でシミュレートしたのである。粒子の数は最終的に1カットあたり10億単位に達し、当時としてはハリウッド最大規模の粒子シミュレーション・ショットの一つとなった。
音楽と音響
音楽は前作『PART1』に続き、アレクサンドル・デスプラが手がけた。前作ではテント生活を映す沈鬱で室内楽的なトーンが基調だったが、本作のスコアはそこから一変する。シリーズ全体を締めくくるにふさわしく、大編成のオーケストラと女声合唱を前面に押し出した、壮大なシンフォニック・スコアへと書き上げられた。
代表曲は、『Lily's Theme』(オープニング・タイトル、リリー・ポッターのテーマ)、『Underworld』(グリンゴッツ地下)、『Dragon Flight』(ドラゴン脱出)、『Statues』(マクゴナガルの彫像起動)、『Battlefield』(ホグワーツの戦い)、『Severus and Lily』(プリンスの物語)、『Harry's Sacrifice』(禁じられた森)、『A New Beginning』(19年後のエピローグ)である。なかでも『Lily's Theme』は、本作のオープニング・タイトルの冒頭数十秒を担う女声ソプラノの独唱で、シリーズ最終作の幕開けを象徴する一曲だ。デスプラのキャリアを代表する楽曲の一つとなった。
『ヘドウィグのテーマ』(ジョン・ウィリアムズ作曲、第1作)は、本作では19年後のエピローグの最後の数十秒に流れる。シリーズ全体を閉じる楽曲として、ホグワーツ・エクスプレスの蒸気が立ち上るホームのカットに重なっていく。シリーズ第1作の冒頭でハリーが初めて9と3/4番線に立った瞬間と、本作のラストで自分の息子を見送る瞬間。この二つが同じ楽曲によって直接結びつけられる、シリーズ屈指の音楽的に整った場面として知られる。
音響デザインでは、本作は「戦場の音」を主軸に据えた。城壁の崩落、彫像の歩行、ジャイアントの足音、フィエンドファイアの咆哮、長橋の爆破、ヴォルデモートの呪文の風切り音、そして最終決闘で二本の杖から立ち上る金色と緑色の閃光が空中で衝突する瞬間の独特なバズ音——これらはすべて、サウンドデザイナーのジェームズ・マザーが新たに作り出したものである。
撮影とロケと3D変換
撮影監督はエドゥアルド・セラ。前作PART1と本作はバック・トゥ・バック方式で撮影され、2009年2月19日から2010年6月12日までの約16ヶ月のうち、本作分のプリンシパル撮影は主に後半に集中した。前作のテント生活を彩った青灰色のローキー基調から一転、本作はホグワーツの戦いの場面で赤い炎と黒い煙、夜明けの青白い光が画面を支配する。より大規模なエピックへと、画作りそのものが舵を切り直された。
ロケ撮影には、英国の主要な都市景観のいくつかが重要な場面の舞台として使われた。ホグワーツの長橋にはスコットランド高地のグレンコー渓谷、グリンゴッツ受付の大理石ロビーにはロンドンに実在するオーストラリア・ハウス、そして19年後のエピローグの9と3/4番線には、ロンドンのキングス・クロス駅の実際の9番線と10番線の間に組まれた仮設のホームが、それぞれあてられている。
本作の3D変換作業が本格化したのは、撮影終了後の2011年初頭からである。前作PART1も同じ作業を行ったが、品質基準を満たさず、公開直前に2D公開のみへと切り替えた。その反省を踏まえ、本作の3D変換にはより長い時間と予算が割かれている。こうして本作は、シリーズで初めて3D版・IMAX 3D版・2D版が全世界で並行公開された。3Dの効果は終盤の大規模な視覚効果を際立たせるために用いられ、グリンゴッツ地下のドラゴンの炎、必要の部屋のフィエンドファイア、ホグワーツの石壁の崩落、最終決闘で杖と杖が鬩ぎ合うなかから立ち上る金色の閃光などが、その見どころだ。
19年後のエピローグが撮影されたのは、シリーズ全体の本編撮影が完全に終わる直前の数日間だった。ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンの三人に特殊メイクを施し、9と3/4番線の仮設ホームで一日のうちに撮り終えている。エマ・ワトソンは後年、この最後のカットを撮り終えた瞬間について『私たち三人は何も言わずに長く抱き合った』と語っている。
編集
編集を手がけたのは、第5作からシリーズに加わったマーク・デイ。本作は130分とシリーズで最も短い本編でありながら、原作下巻の出来事をほぼ余さず映像化することを優先した。そのぶん、シーン転換はシリーズで最も密に編まれている。
編集上のクライマックスは三層に分かれる。第一は、グリンゴッツ襲撃と脱出を描くヒースト・シークエンス。ハーマイオニーのベラトリックスへの変装、シーフズ・ダウンフォール、ジェミニオ呪いのかけられた金庫、そしてドラゴンでの脱出までを、15分弱に圧縮してみせる。第二は、ホグワーツの戦いを並行して進める難度の高い編集だ。必要の部屋のフィエンドファイア、秘密の部屋でのカップ破壊、回廊と中庭の戦闘、スネイプの最期、そしてハリーがペンシーブに浸る『プリンスの物語』のフラッシュバック・モンタージュ——これらすべてを同じ時間軸の上に重ね、同時に進行させていく。第三は、最終決闘、ヴォルデモートの肉体崩壊、長老の杖を折る決断、19年後のエピローグへの移行を、シリーズ全体の総括として一つの流れに結ぶ、結びの数分である。
『プリンスの物語』のフラッシュバック・モンタージュは、本作の編集における最大の見せ場の一つだ。約10分にわたり、リリー・エヴァンスとセブルス・スネイプの幼少期、ホグワーツ時代、卒業後、ヴォルデモートへの服従と転向、ダンブルドアとの密約、リリーの死、ハリーの守護、ダンブルドアの計画的な安楽死、銀の雌鹿の守護霊、そして『常に(Always)』に至るまでを、時系列をやや前後させながら一気に観客へ提示する。マーク・デイはこの10分を仕上げるために、撮影された全素材の三倍を超える長さの仮編集を重ねた。そのうえで、観客が一度の観賞ですべてを把握できる順番と長さへと削り込んでいったのである。
36公開と興行
本作は2011年7月15日、英国・米国・日本でほぼ同時に公開された。北米のオープニング週末興収は約1億6900万ドルにのぼり、当時の歴代オープニング記録を塗り替えている。最終的な興収は北米で約3億8100万ドル、全世界では約13億4200万ドルに達し、シリーズ全8作で最高の数字を記録した。この興収は当時の映画史全体でも歴代トップ4の一角を占め、『アバター』『タイタニック』『アベンジャーズ』に次ぐ位置につけている。ハリー・ポッター・シリーズの興行的なフィナーレを、文字どおり完全な勝利で締めくくったのである。
日本国内では公開初週末で興収約16億円、最終的には約97億円を記録し、2011年の外国映画首位に立った。前作PART1の約95億円に本作の約97億円が続く連続ヒットで、日本のハリー・ポッター映画はシリーズ全体の興行的なクライマックスを飾ったといえる。
受賞面では、第84回アカデミー賞で美術賞・メイクアップ賞・視覚効果賞の3部門にノミネートされた(受賞はそれぞれ『ヒューゴの不思議な発明』『鉄の女』『ヒューゴの不思議な発明』に譲っている)。第65回BAFTAでは視覚効果賞・特殊視覚効果賞を受賞し、メイクアップ&ヘア賞・プロダクションデザイン賞・撮影賞ほか多数の部門でノミネートを果たした。さらにサターン賞ファンタジー映画賞を受賞、ヒューゴ賞ドラマティック・プレゼンテーション長編部門にもノミネートされている。シリーズ8作のなかで批評家からの評価がもっとも高かったのも、最終作である本作だ。米国の主要な批評集計サイトでは批評家支持率96%前後、観客評価89%前後を獲得している。
本作の興行的・批評的な成功は、シリーズ全体の累計世界興収を約77億ドルにまで押し上げた(後年の再公開と続編『ファンタスティック・ビースト』三部作を含めない時点での数字である)。本作と前作がとった前後編の商業モデルは、その後の『トワイライト・サーガ ブレイキング・ドーン』前後編、『ハンガー・ゲーム モッキングジェイ』前後編、そして『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』へと、直接的な影響を与え続けている。
37批評・評価・文化的影響
公開当時、批評家からの評価はきわめて高かった。米国の主要な批評集計サイトでは批評家支持率がおよそ96%、観客スコアも89%前後を記録し、原作下巻を見事に映像化したシリーズ全体の集大成として迎えられた。多くの批評家が絶賛したのは、『プリンスの物語』を語るペンシーブの回想場面、モリーがベラトリックスを討ち取る一幕、ネビルが組分け帽子から剣を引き抜く瞬間、そして19年後を描くエピローグである。いずれもシリーズ全体を締めくくるにふさわしい名場面として、繰り返し名指しで評価された。
後年の再評価では、本作はシリーズ全体のなかでも「最も大規模で、最も感情的に充実した一本」と位置づけられることが多い。第1作の華やかな入学から数えて10年、子役だった三人がついに大人として最終決戦を演じ、さらに19年後の親となった姿までを一作のうちに見せきる。シリーズとともに成長してきた世代の観客にとって、これほど体感的に幕を閉じる映画体験はなかっただろう。
文化的な影響も大きい。スネイプの「Always(常に)」、モリーの「私の娘に手を出すな」、ネビルによるナギニの斬首、禁じられた森へと歩いていくハリーの後ろ姿、灰の粒子へと崩れ落ちるヴォルデモートの最期、そして9と3/4番線でわが子を見送るハリーのラストカット——本作のこれら六つの場面は、シリーズ全体のなかでも最も引用される映像となった。今なおSNSや映画批評の場で、繰り返し参照され続けている。
本作を境に、ハリー・ポッター・シリーズは世界規模の魔法ワールド・フランチャイズへと広がっていった。J.K.ローリング自身が手がけた前日譚『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(2016)、『黒い魔法使いの誕生』(2018)、『ダンブルドアの秘密』(2022)の三部作。ハリーの19年後を描く続編として舞台化された『ハリー・ポッターと呪いの子』(2016年初演)。さらにテーマパーク(ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの『ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター』2014年開業など)や、ハリー・ポッター スタジオ・ツアー(ロンドン2012年/東京2023年)へと展開していった。本作はそのフランチャイズ全体の「母作品の集大成」として、今もすべての派生作品の倫理と世界観の礎であり続けている。
舞台裏とトリビア
本作のラストカット——19年後のキングス・クロス駅9と4分の3番線——は、シリーズ全体の本編撮影を締めくくる最終日に撮影された。ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンの3人、そしてデヴィッド・イェーツ監督とデヴィッド・ヘイマン製作は、最後のテイクを終えると現場で長く抱き合った。やがてスタッフ全員から自然と拍手と歓声が湧き上がる。その光景は、公開後のドキュメンタリー『ハリー・ポッター 完結への軌跡』に映像として残されている。
ハリー・ポッター本編シリーズの撮影は10年に及んだ。ダニエル・ラドクリフは11歳から21歳まで、ルパート・グリントは12歳から22歳まで、エマ・ワトソンは10歳から21歳まで、同じ人物が同じ役を演じきった。撮影を終えたとき、3人はそろって「この10年、私たちはほとんど他の仕事をしていない」と振り返っている。エマ・ワトソンは撮影終了の直後、ブラウン大学へと進学した。
アラン・リックマンは、『プリンスの物語』のペンシーブの場面に臨む前、デヴィッド・イェーツにこう打ち明けたと記録されている。「この場面の感情の重さは、第1作の撮影初日からずっと自分の中で温め続けてきたものだ」。彼は原作者J.K.ローリングから、シリーズ最終巻の発売(2007年)より前にスネイプの真の役割を非公式に知らされていた数少ない俳優の一人だった。全7作にわたる自らの演技を、最初から「リリーを愛し続けた男」として組み立て続けてきたのである。
朝の風にのって灰となって散っていくヴォルデモートの最期。この場面は、現場ではレイフ・ファインズが普通に立った状態で撮影され、身体が崩れていく映像は後処理で加えられた。最後のテイクを終えたファインズは、その場でスタッフ全員に向かって深々と頭を下げたという。本作のメイキング映像に残された一幕である。
ラストの「19年後」を演出する特殊メイクは、シリーズ全体でも観客の評価が最も割れた要素の一つだ。「37歳には見えない、不自然な老けメイク」と評する声がある一方で、「シリーズの円環を閉じるには欠かせない、時の流れをはっきりと示す表現だ」と擁護する意見も少なくなかった。公開後、J.K.ローリングはインタビューでこう語っている。「原作を書いていたとき頭に描いていた19年後のハリーの姿は、映画版とほとんど同じだった」。
本作の終盤、ハリーが長老の杖を二つに折って橋の下へ投げ捨てる場面は、原作にはない映画版独自の脚色である。原作のハリーは長老の杖をダンブルドアの墓に戻すが、映画版では橋の上で折ってみせる。こうして「ハリーは長老の杖を持たないことを選んだ」というメッセージが、観客によりはっきりと伝わる形となった。J.K.ローリングはこの脚色について、公開時のインタビューで「原作とは違うが、映画としては正しい選択だと思う」と支持を表明している。
本作のワールドプレミアは、ロンドンのトラファルガー広場で開催された。エマ・ワトソン、ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリントをはじめとするシリーズの主要キャストとスタッフ、そして原作者J.K.ローリング本人が顔をそろえた。会場には世界中から数万人のファンが詰めかけ、ロンドン市内の交通が一時的に麻痺するほどの熱気に包まれた。
39テーマと解釈
中心に据えられているのは『所有しないことの強さ』というテーマである。シリーズを通じてヴォルデモートは、『不死』と『力』、そして『最強の杖』を手にすることで自らの存在を保とうとした。だが、その所有への執着こそが彼の魂を七つに引き裂き、ついには身体までも灰の粒子へと崩していく。対するハリーは、透明マントを父から受け継ぎ、蘇りの石を森に捨て、長老の杖を折って手放す。三つの『死の秘宝』すべてを、あえて所有しない道を選ぶのだ。シリーズ全体を貫く倫理が、ラストのわずか数分のうちに最も明確なかたちで描き切られる。
もう一本の柱となるのが『大人になるとはどういうことか』である。本作のハリーは、ダンブルドアからもスネイプからも『大人としての真の役割』を最後の瞬間まで明かされずにきた17歳だ。『自分が分霊箱だった』こと、『ダンブルドアは自分の死を計算していた』こと、『スネイプは生涯ずっと自分を守り続けてきた』こと——シリーズ全体を支える根本のトリックを、ハリーは中盤のペンシーブの場面でようやく知る。その真実を受け止めたうえで、彼は大人としての最初の選択、すなわち『自分の命を差し出す』ことを、誰にも相談せず、ただ一人で下す。子供から大人へと至る通過点が、禁じられた森でのこの数分間に置かれている。
第三のテーマは『愛による犠牲の連鎖』である。第1作の冒頭、リリー・ポッターは息子ハリーを守るために自らの命を差し出し、その愛の魔法がハリーをヴォルデモートから守った。本作でスネイプは、生涯リリーを愛し続けたがゆえに、彼女の息子を17年にわたって守り抜く。そしてハリーは禁じられた森で、ホグワーツの全員を守るために自分の命を差し出す。ナルシッサ・マルフォイは我が子を救うためにヴォルデモートへ嘘をつき、モリー・ウィーズリーは娘を守るためにベラトリックスを撃つ。シリーズ全体の魔法的なトリックが、ことごとく『愛による犠牲の連鎖』の物理的な記述として閉じていく——その構造が、本作の130分のなかに凝縮されている。
そして第四のテーマが『普通の人の英雄性』である。本作で最も大きな英雄的瞬間は、ハリー・ポッター自身——禁じられた森で死を受け入れる彼を別とすれば——ではなく、ネビル・ロングボトムが組分け帽子から剣を抜きナギニを斬る場面と、モリー・ウィーズリーがベラトリックスを撃つ場面に置かれている。第1作で『臆病な丸顔の少年』だったネビルと、『七人兄妹の家事と料理に追われる母』だったモリー。その二人が、シリーズの最終局面でもっとも観客を歓声に巻き込む英雄として描かれる。この構図こそ、『普通の人にも英雄になれる選択は必ず訪れる』とシリーズが一貫して書き続けてきたメッセージへの、最終的な回答にほかならない。
40見る順番
本作は本編シリーズの完結編であり、前作PART1から物語が直接続く一本だ。単独で観ても物語として完結しない構造になっているため、必ず前作PART1のすぐ後に続けて鑑賞してほしい。できることなら同じ日のうちに前作PART1と本作を続けて観るのがいい。二本がもともと一本の物語として書かれた事実を、もっとも自然な形で体験できるはずだ。
初めて観るなら、第1作『賢者の石』から第7作『死の秘宝 PART1』までを順に追ってから本作に進んでほしい。本作はシリーズ全体の伏線を一気に回収する一本である。第2作のドビーと屋敷しもべ妖精、同じく第2作の秘密の部屋とバジリスクの牙、第3作の叫びの屋敷、第5作のダンブルドア軍団と必要の部屋、第6作の天文台塔の決闘とスニッチ、そして前作PART1の三人兄弟の物語と長老の杖の奪取——これらすべてが本作で再び画面に立ち現れ、ほとんど説明されることなく観客の記憶に委ねられる。
本作を観終えたら、原作者J.K.ローリングが脚本を手掛けた前日譚シリーズへ進むのもいい。『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(2016)、『黒い魔法使いの誕生』(2018)、『ダンブルドアの秘密』(2022)の三部作である。いずれも本編8作の数十年前の魔法界を舞台にしており、本編全8作を観終えたあとの追加鑑賞作として位置づけるのが自然だ。
本作の19年後を描くエピローグの、その先に当たる物語は、映画ではなく舞台として用意されている。舞台劇『ハリー・ポッターと呪いの子』(2016年初演、原作者J.K.ローリングとジョン・ティファニー、ジャック・ソーンによる戯曲)がそれだ。映画版は2025年5月現在、制作が進められている。
41よくある質問
「あらすじだけ知りたい」という人は、おおまかな流れを押さえておけば十分だ。ハリーたちはグリンゴッツでハッフルパフのカップを奪い、ホグワーツへ戻る。そこでレイブンクローのダイアデム、ナギニ、そしてハリー自身の中に潜む分霊箱を破壊し、最後にヴォルデモートを倒す。物語は19年後のエピローグへと至る。
「結末・ネタバレを知りたい」という人のために、核となる要素を挙げておく。スネイプは生涯リリー・ポッターを愛し続けた二重スパイだったこと。ハリー本人が分霊箱だったこと。ハリーは禁じられた森で一度死に、キングス・クロスのリンボでダンブルドアと再会したのち蘇ること。ネビルがソーティングハットから剣を抜き、ナギニを斬ること。モリー・ウィーズリーがベラトリックスを倒すこと。長老の杖の真の主人はハリーであること。そしてハリーは長老の杖を折って捨てる道を選び、19年後のエピローグで自分の子供たちをホグワーツへ見送る——以上が物語の骨格となる。
「前作PART1を観なくても本作だけで完結するか」という問いには、否と答えるほかない。本作と前作PART1は、もともと一本の小説として書かれた物語を機械的に二分割した構成だ。前作のラスト1分が、そのまま本作の冒頭1分へと接続される。一本で物語が閉じることを期待して観ると消化不良に終わるため、必ず前作PART1と続けて鑑賞してほしい。
「スネイプは結局、善か悪か」という問いには、シリーズ全体で最も重い倫理的な答えが用意されている。スネイプは若き日に純血主義へ引き寄せられ、取り返しのつかない罪を犯した。だがその罪悪感ゆえに、生涯ダンブルドアの二重スパイとしてハリーを守り続け、最後には自らの命を投げ出す。彼は紛れもなく「英雄」だった。ハリーは19年後のエピローグで、次男に「アルバス・セブルス」という名を与え、息子にこう告げる。「私が知る限り最も勇気のある男だった」。
「ヴォルデモートはなぜ最後に弱体化するのか」。それは、長老の杖の所有権がドラコからハリーへとすでに移っていたためだ。ヴォルデモート自身が長老の杖を手にしていても、杖は彼を真の主人と認めず、その呪文の力は半減していた。長老の杖は「前の所有者を倒した者」に従う、伝承上の杖である。ヴォルデモートはダンブルドアを直接倒してはいない。ダンブルドアを倒したのはスネイプであり、さらにその前にダンブルドアを武装解除したのはドラコ・マルフォイだった。こうしてヴォルデモートは、所有権の連鎖から外れていたのである。
「19年後のエピローグに登場する子供たちの名前には、どんな意味があるのか」。ジェームズ・シリウスは、ハリーの父ジェームズと、ゴッドファーザーのシリウス・ブラックから。アルバス・セブルスは、アルバス・ダンブルドアとセブルス・スネイプから。リリー・ルナは、ハリーの母リリーとルーナ・ラブグッドから取られている。シリーズ全体で最も大切な四人の登場人物の名が、ハリーの三人の子供の名として受け継がれていく構造だ。
「この後ハリー・ポッターはどうなるのか」。その先は、舞台劇『ハリー・ポッターと呪いの子』(2016年初演)で別の物語として描かれている。19年後を舞台に、ハリーはオーロル(闇祓い)の上司として魔法省で働きながら、次男アルバス・セブルスとの父子関係に苦しむ。映画版は2025年5月現在、制作中である。
42参考資料・脚注
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