ホグワーツへは戻れない。魔法省は陥落し、ヴォルデモートが英国魔法界を実質支配する暗黒の年、ハリー・ロン・ハーマイオニーの三人だけが残された使命——ヴォルデモートの魂を断ち切る七つの『分霊箱』の探索と破壊——のため、当てのない逃避行へと旅立つ。原作上巻を丸ごと費やして描かれる、シリーズ最も孤独で寒く、最も大人びた前編。
本編4作連続でメガホンを取るデヴィッド・イェーツが監督、シリーズの脚本家スティーヴ・クローヴスが第5作で離脱したのち本作で復帰、製作デヴィッド・ヘイマン、原作者J.K.ローリングが製作にクレジットされる。ワーナー・ブラザース/ヘイデイ・フィルムズ製作、上映時間146分。本作よりシリーズの音楽担当が、第1作以来のジョン・ウィリアムズ/ニコラス・フーパー体制から、アレクサンドル・デスプラへと完全に交代した。
原作小説『死の秘宝』(2007)の上巻に相当する内容を、丸ごと1本の長編に費やして映像化した『前編』にあたる。前作『謎のプリンス』直後の1997年初夏から、翌1998年初春までの約8ヶ月、本来ならホグワーツ7年目を過ごすはずの三人組が、学校を捨てて分霊箱探索の逃避行に出る。エンディングはヴォルデモートがダンブルドアの墓を暴き『長老の杖』を奪う場面で、続編PART2(2011)に直結する。
第83回アカデミー賞で美術賞と視覚効果賞にノミネート(いずれも『インセプション』『不思議の国のアリス』に譲り受賞は逃した)。第64回英国アカデミー賞では視覚効果賞ほかにノミネート。全世界興行収入は約9億6000万ドルに達し、シリーズ史上の興行最上位グループに入る大ヒットとなった。日本国内では興収約95億円を記録、その年の外国映画首位となった。
オープニング『これは新時代だ』のスクリムジョール演説、ハーマイオニーが両親の記憶を消す場面、七人のポッター作戦とヘドウィグ/マッド=アイの死、ビルとフルールの結婚式の襲撃、グリモールド・プレイス12番地への退避、魔法省潜入とロケット奪取、森のテントでの分裂、ゴドリックの谷でのバチルダ・バグショット=ナギニ、雌鹿のパトローナスとグリフィンドールの剣、三人兄弟の物語、マルフォイ屋敷でのハーマイオニー拷問、ドビーの死、そしてヴォルデモートがダンブルドアの墓から長老の杖を抜き取るラストカットまで、重大ネタバレを前提に踏み込む。
目次 38項目 開く
概要
『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』(Harry Potter and the Deathly Hallows – Part 1)は、デヴィッド・イェーツが監督し、2010年11月19日に英国・米国・日本でほぼ同時公開されたファンタジー・アドベンチャー映画である。J.K.ローリングの原作小説『ハリー・ポッターと死の秘宝』(2007)を、二本の長編に分けて映像化した前編にあたり、ハリー・ポッター本編シリーズ第7作を成す。脚本は第5作『不死鳥の騎士団』で一時降板していたスティーヴ・クローヴスが復帰し、製作はデヴィッド・ヘイマンとデヴィッド・バロン、原作者J.K.ローリング本人もエグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされた。
本作は、シリーズ全8作のなかで唯一、ホグワーツ城がほぼ画面に登場しない作品である。前作『謎のプリンス』のラストでアルバス・ダンブルドアを失ったハリー・ポッター、ロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャーの三人は、本来なら最終学年として戻るはずだったホグワーツへは戻らず、ダンブルドアが遺した『ヴォルデモートの魂が分けられた七つの分霊箱(ホークラックス)を全て破壊しなければ彼は倒せない』という遺言だけを頼りに、当てのない逃避行へと旅立つ。物語の大部分は、英国の人気のない湖畔、沼地、森、海岸、雪原、岩塊地帯といった荒涼たるロケ地で展開され、ホグワーツの暖かな大広間に代わって、寒風に吹きさらされる小さなテントの中の三人の沈黙が、シリーズ全体の最後の暗い章の地に据えられる。
本作はシリーズで初めて、音楽担当が大幅に変わった作品でもある。第1作から第3作までのジョン・ウィリアムズ、第5作・第6作のニコラス・フーパーに代わり、フランスのアレクサンドル・デスプラが新たな作曲家として参加。『ヘドウィグのテーマ』を直接引用することは抑えられ、より沈鬱で抽象的な弦楽中心のスコアが、孤独な逃避行のトーンを支えた。視覚的にも、撮影監督エドゥアルド・セラ(『仮面の男』『恋の闇 愛の光』)の起用により、シリーズ後半の柔らかな照明から、北欧の冬を思わせる青灰色のローキー基調へと舵が切り直された。
本記事は結末を含む全編の内容に踏み込む。ドビーの死、ナギニの正体、ヴォルデモートがダンブルドアの墓を暴いて長老の杖を手にするラストカットなど、物語の重大な驚きに触れるため、初めて本作を観る場合はまず本編を観賞してから読むことを勧める。
- 原題
- Harry Potter and the Deathly Hallows – Part 1
- 原作
- J.K.ローリング(2007年・ブルームズベリー)上巻相当
- 監督
- デヴィッド・イェーツ
- 脚本
- スティーヴ・クローヴス
- 音楽
- アレクサンドル・デスプラ
- 撮影
- エドゥアルド・セラ
- 美術
- スチュアート・クレイグ
- 編集
- マーク・デイ
- 公開
- 2010年11月19日(英米日同時)
- 上映時間
- 146分
- ジャンル
- ファンタジー、アドベンチャー、ダーク・ファンタジー、ロードムービー
- 舞台
- 1997-1998年の英国(プリベット通り/隠れ穴/トテナム・コート・ロード/グリモールド・プレイス/魔法省/森林・湖畔・海岸/ゴドリックの谷/マルフォイ屋敷/貝殻の家/ホグワーツ)
あらすじ
以下は結末までを含む全編のあらすじである。スクリムジョール大臣の演説から始まり、三人がそれぞれの家を去る冒頭、マルフォイ屋敷でのヴォルデモートの会議、七人のポッター作戦と空中戦、隠れ穴とビルとフルールの結婚式、ダンブルドアの遺言と遺品の配布、トテナム・コート・ロードでの襲撃、グリモールド・プレイス12番地、R.A.B.の正体、魔法省潜入とロケット奪取、森のテント生活と三人の不和、ロンの離脱、ゴドリックの谷でのバチルダ=ナギニ、銀の雌鹿とグリフィンドールの剣、ロケットの破壊、三人兄弟の物語、ゼノフィリウスの裏切り、マルフォイ屋敷での捕縛とハーマイオニー拷問、ドビーの救出と死、そしてヴォルデモートが長老の杖を奪う結末までを順に追う。
新時代の宣言と三人それぞれの別れ
1997年初夏。冒頭、新任の魔法大臣ルーファス・スクリムジョール(ビル・ナイ)が、暗い壇上から英国魔法界に向けて短い声明を発する——『これは新時代だ。困難な時代になるだろう。私たちは強くあらねばならない』。背景にはダンブルドアを失った魔法界の動揺と、ヴォルデモートが影で勢力を急速に取り戻していることが示される。観客はこの一分の演説によって、本作の世界が前作までとは違う、はっきりとした戦時下に切り替わったことを知らされる。
三人の主人公はそれぞれの家で、最後の朝を迎えている。ハーマイオニー・グレンジャーは、両親が居間でくつろぐマグルの家で、杖を二人に向けて『オブリビエイト(忘却の呪文)』を唱える。彼女が両親の記憶から自分自身の存在を消し去る場面——居間の写真立てから自分の姿が一枚一枚消えていく、デジタル合成によるカットの連なり——は、本作で最初に観客の心を撃つ静かなショックである。両親はモニカ・ウィルキンズとウェンデル・ウィルキンズという別人になり、オーストラリアへ移住する偽の記憶を植え付けられる。安全のための残酷な手だてが、本作全体の倫理の地として、最初の数分で示される。
プリベット通り4番地では、ハリー・ポッターが屋根裏の物置に詰めた荷物を整理し、最後に小さな鏡の破片——シリウス・ブラックの遺品である双面鏡の片割れ——を握ったまま立っている。階下では、彼を17年間引き取り続けてきたバーノン、ペチュニア、ダドリーの三人が、不死鳥の騎士団の手配で避難に旅立とうとしている。バーノンとペチュニアはハリーに最後まで冷淡な態度を崩さないが、ダドリー・ダーズリーはこの一瞬だけ振り返り、玄関先のハリーに『君は一緒に来ないのか?』と尋ね、ハリーの肩を一度だけ叩いて去っていく。シリーズ全体でもっとも遠回しに表現された『マグルの従兄弟との和解』である。
そして場面は北の闇——マルフォイ屋敷の長い食卓に切り替わる。長椅子の上座に、ヘビのような顔つきを取り戻したヴォルデモート(レイフ・ファインズ)が座り、両脇にはベラトリックス・レストレンジ、ルシウス・マルフォイ、セブルス・スネイプ、ヤックスリー、その他多数の死喰い人が並ぶ。天井からは『マグル学』の教師チャリティ・バーベッジが、空中に縛り上げられたまま吊るされている。彼女は身じろぎし、スネイプに『セブルス、お願い、私たちは友達でしょう』と呼びかけるが、ヴォルデモートは無言で杖を振る。チャリティの体が机に落下し、その亡骸を、ヴォルデモートの飼い大蛇ナギニがゆっくりと飲み込み始める。
この食卓の場面でヴォルデモートは、自分の杖がハリーの杖との『同根(兄弟杖)』の問題で勝てなかった事実を語り、ルシウスから杖を借り受ける——後の物語全体を貫く『杖の所有権』伏線の最初の一手である。スネイプはこの席でヴォルデモートに対し『ハリー・ポッターは7月30日にプリベット通りを離れて隠れ家へ移される』という情報を提供する。観客は本作の冒頭6分のうちに、悪の陣営の本拠地と、その中でスネイプが二重スパイとして得ている地位と、ハリー自身がまだ知らない次の動きの予告を、すべて受け取る。
七人のポッター作戦と空中戦
プリベット通り4番地に、不死鳥の騎士団の主要メンバーが続々と到着する。マッド=アイ・ムーディ(ブレンダン・グリーソン)、キングズリー・シャックルボルト、リーマス・ルーピン、ニンファドーラ・トンクス、ビル・ウィーズリー、フレッド・ジョージ・ロン、ハーマイオニー、ハグリッド、マンダンガス・フレッチャー。マッド=アイは6本のフラスコに金色のとろりとした液体——ポリジュース薬——を分け、ハーマイオニーを除く全員に、ハリーから抜き取った髪の毛を一本ずつ加えさせる。全員が同時に薬を飲み下し、それぞれの体がハリー・ポッターと同じ姿に変じる。
マッド=アイの作戦は単純で残酷である——本物のハリーがどの『おとり』なのかを、敵に分からせない。七人のハリーは、七つ別々の経路と七つ別々の乗物(テストラル、箒、ハグリッドが操る巨大な側車付きオートバイなど)で、それぞれ別の隠れ家へ同時に出発する。各組に騎士団員一名が護衛として付き、本物のハリーはハグリッドの側車に乗ることになる。トンクスとロンの仮装の組、ヘドウィグを連れたままのハリー本人とハグリッドの組、その他の組が、夜の南イングランドの夜空へ次々と飛び立つ。
数分のうちに、計画は破綻する。明らかに作戦の情報が漏れていたとしか思えない正確さで、空中に三十人以上の死喰い人が箒や煙のように現れ、七人のおとりに一斉に襲いかかる。本物のハリーが乗るオートバイの上に、雷鳴と緑の閃光が交錯し、ハグリッドの巨大なオートバイが英国の片田舎の上空を低空ですり抜ける。攻防のさなか、檻のなかにいたハリーの白いふくろうヘドウィグが、ハリーを庇うように檻から飛び出し、敵の杖から放たれた緑光をその身に受けて、最初に死を迎える。シリーズ全作を通してハリーの相棒だった一羽の死は、本作で最初に観客が失う命であり、開幕10分以内に『この映画ではもう、誰も安全ではない』という宣告として観客の腹に置かれる。
ハリーは咄嗟に杖を構え、迫り来る死喰い人の杖から金色の閃光が立ち上る——彼自身もまだ理解していない『杖の自律的な防衛』が起きる瞬間である。後にこの場面の意味は、ヴォルデモートの分け前の力が彼の中に居続けていたためだったと第7作後半および続編で再解釈されることになる。
ハリーとハグリッドは無事に隠れ穴(バロウ)に着地するが、続いて到着した他の組から、決定的な訃報がもたらされる。マッド=アイ・ムーディが空中戦のなかで、ヴォルデモート自身の手にかかって墜落し戦死した。マンダンガスは『ヴォルデモートが直接現れたのを見て逃げた』と認める。ジョージ・ウィーズリーは右耳を呪いで吹き飛ばされ、片耳のないままモリー・ウィーズリーの手当てを受ける。彼の双子の兄フレッドが『片耳が無くなったほうがましだぜ、ジョージ』と冗談を言って、家族全員に一瞬だけ笑顔を取り戻させる場面が、シリーズ最後の双子の軽口になる。
ダンブルドアの遺言と結婚式の襲撃
数日後、隠れ穴の応接間にスクリムジョール大臣がスーツケースを抱えて現れる。彼はダンブルドアの遺言状を、ハリー・ロン・ハーマイオニーの三人それぞれに正式に読み上げる。ロンには、ダンブルドア自身が長年使っていた『デリュミネーター(消灯器)』——光を吸い出す小さな銀の器具——が手渡される。ハーマイオニーには、古い童話集『吟遊詩人ビードルの物語』の原書が渡される。ハリーには、第1作で初めて飛んだ箒の頂上で握ったクィディッチの金のスニッチ——『開封すれば現れる』とだけ刻まれた、ダンブルドア直筆の謎の銘がある——が渡される。原作にあったグリフィンドールの剣の遺贈は、魔法省が『国家財産である』として保留され、ハリーの手には渡らない。スクリムジョールは内心で、これらの遺品が単なる思い出の品ではないことを察しているが、その意味までは見抜けない。
翌週、隠れ穴の庭に巨大な白いテントが張られ、ビル・ウィーズリーとフルール・デラクールの結婚式が開かれる。ビル役のドーナル・グリーソン(後にスター・ウォーズ続編三部作のハックス将軍を演じる若手)が、本作で初めて画面に登場する。式に、奇抜な黄色いローブを着たゼノフィリウス・ラブグッド(リス・エヴァンス)と、その娘ルーナ・ラブグッド(イヴァナ・リンチ)が出席し、ゼノフィリウスの首にかかる『デスリー・ハロウズ(死の秘宝)の紋章』——三角形・円・縦線が重なった図形——が画面の片隅に映る。物語全体を貫く第二の謎の最初の手がかりが、この瞬間に置かれる。
披露宴の真ん中、夜空に銀色の光がさし込む。それは、騎士団員キングズリー・シャックルボルトのパトローナス——銀の山猫——だった。山猫はテントの中央に降り、キングズリー自身の声でこう告げる——『魔法省は陥落した。スクリムジョールは死んだ。彼らは今ここに向かっている』。一拍の沈黙ののち、テントの天井を破って、黒い煙の柱となった死喰い人たちが空から舞い降りる。式参加者は一斉に杖を抜き、悲鳴と閃光が交錯する。ハリー、ロン、ハーマイオニーは、あらかじめハーマイオニーが用意していた小さなビーズのハンドバッグ——『未検出可能拡張呪文』で内部が無限の容積を持つよう拡張されている——だけを持って、結婚式のローブのまま、その場から共闘姿勢でディスアパレーション(姿くらまし)する。
トテナム・コート・ロードとグリモールド・プレイス12番地
三人が降り立ったのは、ロンドンのトテナム・コート・ロードの夜——マグルの若者が酒を飲みに集う繁華街のカフェだった。結婚式のドレスとローブのまま、まだ何が起きたのかも整理できないうちに、人気のない店の奥のテーブルに座った瞬間、隣のテーブルの二人の男——マグルではなく死喰い人のロウルとドロホフ——が立ち上がり、三人に杖を向ける。ハーマイオニーが咄嗟に『ステューピファイ(失神呪文)』を放ち、ロンとハリーも机ごと敵を吹き飛ばす。襲撃者の記憶を消したうえで、三人は安全な隠れ家として、シリウス・ブラックから相続した『グリモールド・プレイス12番地』——ロンドン中心の貴族街に隠された、ブラック家の暗い屋敷——へ移動する。
屋敷は前作以来、誰も足を踏み入れていない。玄関の柱には、第5作で死んだマッド=アイの罠呪文として、入ってきた者の口を蝋で塞ぐ『沈黙の呪い』と、ダンブルドアの巨大なゴースト像が幻影として立ち上がる罠が仕掛けてあった。最初の数十秒、誰がここに踏み込んだのかを確かめる仕掛けが、三人を試す。彼らの背中で、応接間の壁に飾られたフィニアス・ナイジェラス・ブラック(シリウスの先祖)の油絵の人物像が、フレームの中で目をこすり、彼ら三人を不機嫌そうに見つめ返す。
屋敷の奥で、彼らはハリーが第5作以来扱い慣れているはずの屋敷しもべ妖精クリーチャー(声:サイモン・マクバーニー)と再会する。シリウス亡きあと、クリーチャーは新しい主人であるハリーに対し、口先では悪態をつきながらも、ハリーが優しい言葉と『シリウスのロケットの片割れ』への執着を尊重した瞬間から、態度を一変させて忠実に仕えるようになる。クリーチャーから、ハリーは決定的な情報を得る——シリウスの双子の弟レギュラス・アークタルス・ブラック(R.A.B.)が、第6作のラストでダンブルドアが命を落とすほど苦労して取り戻した『偽のロケット』の中に、ヴォルデモートに対する別れの手紙を残した本人だったこと、そして本物の分霊箱のロケットは、レギュラスがクリーチャーに『主のために飲んで命を落としてこい』と命じられた洞窟から命がけで持ち帰り、グリモールド屋敷で何年も保管してきたが、第5作の大掃除の際に泥棒の闇商人マンダンガス・フレッチャーに盗み出されていたこと——。
クリーチャーは『マンダンガスを捕まえてまいります』と申し出る。数日後、捕縛されて連れて来られたマンダンガスは、ロケットを誰に売ったかを白状する——ロンドン中央の魔法省本省の高官、ドローレス・アンブリッジ(イメルダ・スタウントン)。第5作でハリーたちを苦しめた、ピンクのカーディガンの教育大臣補佐が、ヴォルデモート政権下で『マグル生まれ登録委員会』の議長として、奪った分霊箱のロケットを純血の証として首から下げて職務に就いていることが、ここで判明する。
魔法省潜入とロケット奪取
ロケットを取り戻すため、三人は魔法省本省への潜入計画を立てる。グリモールド・プレイスの台所で再びポリジュース薬を煮込み、三人それぞれが魔法省職員の体毛を入手し、ハリーは犯罪取締部の上級職員アルバート・ランコーンに、ロンはハーマイオニーの夫役を演じる魔法事故課のレジ・キャタモールに、ハーマイオニーは年配の魔法省職員マファルダ・ホップカークに、それぞれ姿を変える。
魔法省への入口は、ロンドン中心部の使われなくなった公衆便所の小便器——便器の中に立って排水レバーを引くと、職員が地下の魔法省本省の床に吐き出されるという、原作のもっとも独特なギャグの一つが、本作で初めて画面化される。三人はそれぞれの『本人』を雪降る街角で待ち伏せて捕まえ、彼らの服を奪い、便器ごとに地下へ降下する。
魔法省の地下中央広間は、第5作の薄暗い大理石とは様変わりしている。広間中央には、巨大な黒い石像——マグルが床に膝をついた屈服姿勢のまま、その上に魔法使いが座る一対の彫像——が新設され、『MAGIC IS MIGHT(魔法こそ力なり)』の銘が刻まれている。ヴォルデモート体制下の魔法省の純血主義イデオロギーが、たった一つの彫像で観客に伝わる、本作のもっとも記号的な美術である。
三人は別行動を取る。ハーマイオニーは『マファルダ』としてアンブリッジに付き従い、地下のマグル生まれ尋問法廷へ向かう。法廷では、ヤックスリーとアンブリッジが、マグル生まれの女性メアリー・キャタモール——本物のレジの妻——を被告人として、彼女の血統と杖の正当性を問い詰めている。ハリーは姿くらまし防止のはずの広間の中央で、アンブリッジに向かって杖を向け、ヤックスリーを失神させ、アンブリッジ本人を昏倒させる。アンブリッジの首から、本物の分霊箱のロケットを引きちぎる。
ハリーは法廷の床から、傍聴席の天井裏に隠された『不死鳥の騎士団』のメンバーであった守護霊(パトローナス)を解き放つ。ハリーの牡鹿のパトローナスが、法廷の天井いっぱいに広がる銀色の光のなかで、マグル生まれの被告人たち全員を護衛するように立ち上がる。三人はメアリーを連れて、エレベーターと階段を走り抜け、魔法省入口のフー・パウダー暖炉に飛び込んで脱出する。脱出の直前、ハーマイオニーがディスアパレーションでロンドンの地表へ抜けようとした瞬間、振り向きざまにヤックスリーがハーマイオニーの腕を掴む。
三人がグリモールド・プレイス12番地の玄関前に着地したとき、ヤックスリーは一瞬だけ屋敷の番地と外観を見てしまっていた。フィデリウス(秘密の守人)の呪文の盲点を突かれた以上、グリモールド屋敷はもはや安全ではない。三人は、奪い取ったロケットだけを握りしめて、もう一度ディスアパレーションし、英国の人気のない森——後にゴドリックの森とは別の、本作で長く滞在することになる雪に閉ざされた湖畔——へと逃げ込む。
森のテントと三人の不和
ここから物語は、シリーズで最も静かで最も寒い中盤に入る。ハーマイオニーは、未検出可能拡張呪文で内部に二段ベッドと暖炉と居間の付いた大きなウィザード・テントを、英国の各地の人気のない自然のなかへ次々と張る。湖畔、断崖、雪原、岩塊地帯、海岸線、塩湖——本作のロケはイングランドのバージニア・ウォーター、フォーリンガル城、シャフテスベリー、スワインジ、グレンコー、セブン・シスターズ、リーヴスデンの撮影所など、英国全域に散らばっている。三人はラジオで、各地で行方不明になった魔法使いとマグル生まれの名前を毎日のように聞く。
問題は、首にかけたロケットそのものだった。ヴォルデモートの魂の一部が宿るこの分霊箱は、装着している者の心の暗い部分を増幅させる。ロンがロケットを胸に下げている時間が長ければ長いほど、彼の中に蓄積していた家族への引け目、妹ジニーへの心配、ハーマイオニーへの叶わぬ恋慕、ハリーへの劣等感が、抑えきれない苛立ちとして表に出てくる。
ある夜、テントの中でロンはついに爆発する。『この国がどうなっているか、俺たちは何も分かっていない。家族が今どうなっているかも知らない。お前は何の計画も持っていない、ハリー。ダンブルドアは何も教えてくれなかった』。ハリーは反論し、ハーマイオニーは仲裁を試みるが、ロンはハリーへの最後の侮辱として『ハーマイオニーがどっちを選ぶか、はっきりしているじゃないか』と吐き捨て、ロケットを首から外してテーブルに叩きつけ、テントを出ていく。雨の中、ハーマイオニーがロンを追い、『戻って』と叫ぶが、ロンは『君がここに残るんなら、俺はもう来ない』と最後の一瞥でディスアパレーションする。
テントに戻ったハーマイオニーは、ハリーの前で口を開かないまま蹲り、暖炉の火だけを見つめている。シリーズ全体で初めて、ロンが完全に三人組から脱落する。残された二人は、リーダーシップを失ったまま、しばらく言葉数の少ない逃避行を続ける。あるシーンで、ラジオから流れる音楽——ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズの『O Children』——を聞いて、ハリーが沈黙のなかで黙ってハーマイオニーに手を差し出し、テントの中で二人だけのスローダンスを踊る場面がある。原作にはない映画オリジナルの一場面で、ロマンスの暗示ではなく、ロンを失った二人の友情と疲労と恐怖を、わずか一分のダンスで圧縮する、本作のもっとも穏やかな数十秒として記憶されている。
ゴドリックの谷とバチルダ・バグショット
クリスマス前夜、ハリーは『ゴドリックの谷へ行きたい』とハーマイオニーに告げる。彼の両親が殺された村、ダンブルドアの育った村、そして魔法史を著したバチルダ・バグショットがまだ住んでいるとされる村——そこに、ダンブルドアが何か手がかりを残しているのではないかとハリーは予感する。ハーマイオニーは反対しながらも、ポリジュース薬で老夫婦の姿に変装した二人を、雪の積もるゴドリックの谷へディスアパレートさせる。
村の中心の小さな広場に、雪に半ば埋もれた廃墟が立っている——ポッター家の家、すなわち1981年10月31日にヴォルデモートが訪れて、ジェームズとリリーを殺し、ハリーに失敗した呪いをかけた、その家の遺跡である。観光客が触ると、廃墟の門柱に魔法の文字盤が浮かび上がり、ハリー・ポッターの『生き残った男の子』の歴史を物言わぬ献辞として刻む——刻印には、ヴォルデモート支持者によって書き加えられたと思しき汚い落書きも残されている。隣の村の教会の墓地で、ハリーはようやく両親の墓——『ジェームズ・ポッター 1960–1981 / リリー・ポッター 1960–1981 / 最後の敵にて滅ぼされるべきは死なり』——の前で膝をつき、ハーマイオニーが魔法でクリスマスローズの花輪を作り、墓に置く。
村の通りで、彼らは雪の中に立つひとりの老婆と目を合わせる。やつれた灰色の髪、首まで覆う暗い色のショール——バチルダ・バグショット本人を装った何かが、無言で二人を手招きする。ハリーは、亡き両親の旧友であった魔法史家を訪ねるつもりで、彼女の家へ入っていく。家の二階の寝室で、バチルダはハリーだけに『あなたなら見せてもいい』と囁き、ハリーを傍に呼ぶ。
次の瞬間、老婆の体の喉の奥から、巨大な大蛇の頭がぬるりと滑り出る。バチルダ・バグショットはとっくに死亡しており、ヴォルデモートの飼い蛇ナギニが、彼女の死体を被り物として、ハリーが必ず訪れる村にずっと待ち伏せていた——『私が来るまで、ハリーを掴んで離すな』というヴォルデモートの命令を、ナギニはこの夜まで黙って待ち続けていたのだった。
ナギニはハリーに巻きつき首を絞めようとし、家具を吹き飛ばす。ハーマイオニーが二階に駆け上がり、ステューピファイと爆破呪文でナギニを跳ね返す。階下からは、家全体に降り注ぐ緑色の閃光——ヴォルデモートが村に降り立った気配。ハーマイオニーはハリーを抱き寄せ、最後の力を振り絞ってディスアパレーションする。脱出の瞬間にハーマイオニーの杖が、ハリーの杖の上に偶然落ち、ハリーの長年の連れ添いだったヒイラギの杖が真っ二つに折れる。二人は森の中の野営地に降り立つ。ハリーは杖を失う。本作の中盤の絶頂であり、シリーズ全体でハリーが最も無力になった瞬間である。
銀の雌鹿、グリフィンドールの剣、ロンの帰還
ハリーが見張りのため夜の森のテント外で焚き火の傍に座る、深夜のシーン。降りしきる雪の向こうから、銀色に光る一頭の雌鹿が、音もなく森の奥から歩み出る。守護霊(パトローナス)である。誰のものか分からない、しかし攻撃ではなく明らかな案内の意図を持つ動物だった。ハリーは杖の代わりにロンが残していった折れたままの杖を握り、雌鹿の後を追う。
雌鹿は森の奥の凍った浅い池の中央に立ち、ハリーの目を見つめてから空気のように消える。池の水面の下、薄い氷越しに、銀色に光る一振りの剣——柄にルビーを嵌めたゴッドリック・グリフィンドールの剣——が眠っている。ダンブルドアの遺言では魔法省に没収されたはずの剣が、なぜここに沈んでいるのか。ハリーは何の躊躇いもなく外套を脱ぎ、首のロケットも外さないまま氷を割って池に潜る。
潜り込んだ瞬間、ハリーの首のロケットが意思を持ったかのように紐を縮め、ハリーの首を絞めて池の底に縛り付ける。分霊箱が、自分を破壊するための剣を手にされる前に、所有者ごとハリーを溺死させようとする——もっともシリーズ的な、悪意ある『物』の場面である。冷たい水のなかで意識を失いかけたハリーの首から、誰かの手がロケットを引きちぎり、剣を池底から引き抜き、ハリーを岸へ引き上げる——ロン・ウィーズリーだった。
ロンは『デリュミネーターでハリーの声を聞いた』『道筋を示す光があった』とハリーに告げる。ダンブルドアが彼に遺した『消灯器』は、所有者が心から会いたいと思う相手の場所へと光で導く——ロンを森のなかのこの一点へ連れてきたのは、ロン自身の悔恨と、ダンブルドアの遺品の魔法そのものだった。
ハリーはロンに『剣で打て』とロケットを差し出す。ロケットの蓋が、蛇語の合言葉でハリーの手のうちに開き、内側にヴォルデモートの魂の断片が小さな双眼として浮かび上がる。鏡のような魂の中から、ロンの最も恐れる像——ハリーとハーマイオニーが半裸で抱き合い、ロンをあざ笑う幻影——がせり出して、ロンの心を引き裂きにかかる。煙のような二体は『お前の母が一番愛したのは双子だ』『ハーマイオニーは決してお前を選ばない』『お前は何者でもない』と囁きながら、ロンの胸の周りを取り囲む。ハリーは『これは噓だ。お前にしか壊せない、振り下ろせ』と叫び、ロンは涙を流しながらグリフィンドールの剣を頭上に振り上げ、ロケットに突き刺す。黒い煙が悲鳴をあげて霧散し、ロケットの蓋がぱたりと閉じる。分霊箱のひとつが、本作のうちに破壊される。
テントに戻ったロンは、ハーマイオニーから真っ先に拳を浴び、続けて『戻ってきてくれてありがとう』という言葉を背中で聞く。三人は再び一つの夜のテントに収まる。
三人兄弟の物語と『死の秘宝』の正体
ハリーは『デスリー・ハロウズ(死の秘宝)の紋章』が、結婚式で見たゼノフィリウス・ラブグッドの首飾り、第6作『謎のプリンス』でハリーが手に取ったダンブルドアの遺贈した古い吟遊詩人ビードルの童話集にも記されていることに気づき、ラブグッド家へ三人で向かう。
ラブグッド家は、はるか北のスコットランドの丘陵に建つ円錐形の奇妙な塔である。塔の中で、ゼノフィリウス(リス・エヴァンス)は『三人兄弟の物語』を、ハーマイオニーの音読する原文に合わせて語り始める。本作中盤のクライマックスのひとつが、ここに置かれた『三人兄弟の物語』のアニメーション・シーンである。
監督デヴィッド・イェーツが、シリーズで一度だけ、実写を完全に離れて、シャドウ・パペット風の3DCGアニメーション(演出:ベン・ヒボン/制作:フレームストア)を採用したこの3分弱の挿話は、ハリー・ポッター映画版のなかでもっとも美的に独立した一場面として、独立して芸術賞・批評家賞の対象になった。三人の兄弟が橋のない川を魔法で渡ろうとし、骸骨めいた『死』に出会い、それぞれ報酬として『無敵の杖(長老の杖)』『死者を呼び戻す石(蘇りの石)』『死から逃れる外套(透明マント)』を授かる、という三つの遺品の起源神話が、墨絵のような細い線で動き出す。
ハーマイオニーは『これは童話だ。実在するわけではない』と一蹴するが、三つの遺品を全て手にした者は『死を制する者』となる、という伝説そのものが、ハリーの中で別の問いを立てる——ヴォルデモートが今、三本の杖を試し続けているのは、まさにこの『長老の杖』を探しているからではないのか。
話し終えたゼノフィリウスは、しかし、三人が玄関を出ようとした瞬間に部屋の扉に鍵をかけ、上階を見上げて泣きながら告白する——『すまない。彼らが娘ルーナをアズカバンに拘束している。ハリー・ポッターを引き渡すと約束したから、ルーナを返してもらえるんだ』。家の上空には既に死喰い人の咒文の閃光が走り、ゼノフィリウスは咄嗟に屋根を吹き飛ばす爆破呪文を放って三人と自分自身の塔を半壊させる。ハーマイオニーは咄嗟に三人に変装の呪いをかけ、ハリーの顔をスティング・ジンクスで腫れ上がらせる。三人はディスアパレートして森へ戻る。
スナッチャーズの襲撃とマルフォイ屋敷への連行
森に降り立った直後、ハリーは口を滑らせて『ヴォルデモート』の名を呼んでしまう。ヴォルデモート政権下では、彼の名そのものに『タブー呪い』が仕掛けてあり、口にした者の周囲一帯のシールド呪文が即座に解け、死喰い人配下の追跡部隊『スナッチャーズ(人狩り)』が一瞬で居場所を特定して襲来する。
髭面の人狼フェンリール・グレイバックを先頭にしたスナッチャーズに、三人は瞬く間に包囲される。ハーマイオニーがハリーの顔に咒文をかけていたおかげで、ハリー本人はすぐには『傷の額の少年』とは見抜かれない。スナッチャーズは三人を縛り、『この顔の少年がもしハリー・ポッターなら、賞金は計り知れない』と判断し、本拠地——ウィルトシャー州の田園地帯に立つマルフォイ屋敷——へ連行する。
マルフォイ屋敷の応接間には、ベラトリックス・レストレンジ(ヘレナ・ボナム=カーター)、ナルシッサ・マルフォイ、ルシウス、そして本作で初めて画面に登場するドラコ・マルフォイ(トム・フェルトン)の蒼ざめた姿が並ぶ。ベラトリックスは、捕らえた三人のうちのハーマイオニーが手にしていたものに目を留める——グリフィンドールの剣のレプリカ、ではなく、自分が貸金庫グリンゴッツ銀行のレストレンジ家金庫に封印したはずの『本物のグリフィンドールの剣』だった。彼女は『これがレストレンジ家の金庫から盗まれているなら、私の金庫の中身は無事なのか』と凍りつく。観客はまだ知らないが、彼女の金庫の中身——ハッフルパフの杯——も分霊箱の一つであり、続編PART2の本筋を貫く伏線が、ここで立つ。
ベラトリックスは『どこでこの剣を手に入れた』とハーマイオニーに問い詰める。ハーマイオニーが沈黙を貫くと、ベラトリックスはハーマイオニーを応接間の床に組み伏せ、ナイフで彼女の左腕の内側に『MUDBLOOD(穢れた血)』と血の文字で深く刻みながら、『クルーシオ(磔の呪い)』を何度も浴びせる。階下の地下牢に閉じ込められたハリーとロンには、ハーマイオニーの絶叫だけが床を伝って届く。ロンは絶叫しながら『ハーマイオニー!』と叫び続け、シリーズ全体でもっとも見る側に消耗を強いる数分が続く。
ドビーの救出と死
地下牢には、先客がいた。ホグワーツ4年目で死んだはずのオリバンダー杖製作店主、ガリック・オリバンダー本人と、グリフィンドール寮の元生徒ディーン・トーマス、そしてかつてシリウス・ブラックがハリーに残したもう一つの双面鏡の片割れ——その鏡の中の青い瞳が、ハリーの絶望の声に応えて光った。ハリーが鏡に向かって『助けてくれ』と叫んだ、その瞬間、地下牢の真ん中に、屋敷しもべ妖精ドビーがパチンと音を立てて姿を現す。
ドビー(CG、声:トビー・ジョーンズ)は、シャンデリアのある応接間の真上から見下ろされている屋敷の地下に、純粋な意志の力で姿くらまししてきたのだった。屋敷しもべ妖精には、人間の魔法使いを阻む反姿くらまし障壁が利かない——マルフォイ家のすぐ近所のホグワーツ城には、屋敷しもべ妖精だけが入って来られるという、第2作以来の伏線の最後の使い方である。
ドビーはまず捕虜のオリバンダー、ディーン、ラブグッド家の娘ルーナ・ラブグッドを掴み、貝殻の家(シェル・コテージ)——ビル・ウィーズリーとフルールの新婚の海辺の隠れ家——へ転移させる。続いてハリーとロンを連れ戻りに地下牢に再度姿を現す。
応接間の真上ではベラトリックスの拷問が続いており、限界に達したハリーとロンは地下から階段を駆け上がり、応接間に飛び込む。ハリーはドラコの杖を奪い、ロンはピーター・ペティグリュー(ワームテール)の杖を奪い、彼らはルシウス、ドラコ、ベラトリックス、そしてワームテールに対し、家具と一体になった呪文の応酬を繰り広げる。ドビーは天井の中央——応接間で吊り上げられた巨大なシャンデリア——にしがみつき、ベラトリックスを威嚇しながら、シャンデリアを支える鎖を呪文で外す。シャンデリアは絶叫するハーマイオニーの真上を辛うじて外れ、ベラトリックスのほぼ足元に轟音と共に落下する。
ハリーはハーマイオニーをしっかり抱き、ロンとドビー、奪った二本の杖を手にした全員で、屋敷の正面玄関の敷石に転がり込みディスアパレートする。マルフォイ屋敷の上を飛び去る瞬間、絶望と憤怒の極限に達したベラトリックス・レストレンジが、手にしていた銀のナイフをディスアパレートしかけたドビーの背中目掛けて投げつける。
貝殻の家の砂浜に転送された5人——ハリー、ロン、ハーマイオニー、ルーナ、オリバンダー(ディーンは別経由)——のあいだに、ドビーが立つ。彼の小さな胸からは銀のナイフの柄が突き出している。ドビーはハリーの腕の中に倒れ、彼の最後の言葉を、シリーズで最初に出会ったときと同じ高い少年めいた声で残す——『ハリー・ポッター様……すばらしい場所……お友達と一緒……自由なエルフ、ドビー』。彼の大きなテニスボールのような両目が静かに閉じる。
ハリーは、ドビーを魔法で土に埋めることを断り、自分の素手だけで、貝殻の家の砂浜の斜面に小さな墓穴を掘る。シャベル一本、波の音、夜明け前の空。墓石には、ハリーが自分の杖で『ここに、自由なエルフ ドビー眠る』と銘文を刻む。シリーズで初めて『主役』の一人に明確に分類された脇役の死が、長い無音と、ハリーが砂を素手で扱う粗い手の感触と、ロンとハーマイオニーが遠くで何も言わずに見守る画で、最後まで描かれる。
本作はここで、シリーズで最も長い『死の余韻』を見せる。観客は、第2作のラストでドビーが靴下を受け取り『ドビーは自由です』と叫んだあの瞬間と、ドビーが文字通り『自由なエルフ』として、ハリーを救うために命を落としたこの瞬間とを、自分の中で繋ぎ直す時間を与えられる。
結末——ヴォルデモートと長老の杖
ドビーの墓の脇でハリーが手を洗っているのと同じ瞬間、英国の遥か北の山中——ホグワーツ城の校長アルバス・ダンブルドアの白い大理石の墓——では、別の物語が静かに最終局面に達している。
映画は最後に、ダンブルドアの石棺の傍に佇むヴォルデモートその人の姿を映す。彼は、第6作『謎のプリンス』のラストで天文台塔の上から落ちて以来ずっとここに眠っていたダンブルドアの墓の上蓋を、杖の一振りで吹き飛ばす。墓のなかには、白いひげの校長の遺体が穏やかに横たわっており、その両手は胸の上に組まれている。組まれた両手のあいだに、銀色に光る一本の長い杖が握られている。
ヴォルデモートは、ダンブルドアの両手のなかからゆっくりとその杖を引き抜き、空に向かって掲げる。三人兄弟の物語に出てきた『最も古い、最も強力な杖』——長老の杖(エルダー・ワンド)が、彼の手のなかにある。彼は満足げに杖を一振りし、夜空に向かって雷のような閃光を放つ。スコットランドの星空に、彼の歓喜の長い咆哮が稲妻となって走り、画面は唐突に黒く落ちる。本作のエンディングが、観客の心の真ん中に『最強の武器が世界最悪の魔法使いの手に渡った』という一行を残して、続編『PART2』への呼びかけとなる。
登場要素
本作に登場・言及される主な要素を、人物・魔法生物・呪文と魔法・道具・場所・組織に分類して示す。本作で初めて画面に現れる『死の秘宝(三つの遺品)』『デリュミネーター』『マグル生まれ登録委員会』などはシリーズ最終巻まで意味を持ち続ける。
人物
- ハリー・ポッター
- ロン・ウィーズリー
- ハーマイオニー・グレンジャー
- アルバス・ダンブルドア(遺言・遺品)
- セブルス・スネイプ
- ヴォルデモート卿(トム・マールヴォロ・リドル)
- ベラトリックス・レストレンジ
- ルシウス・マルフォイ
- ナルシッサ・マルフォイ
- ドラコ・マルフォイ
- ピーター・ペティグリュー(ワームテール)
- ヤックスリー
- ロウル
- ドロホフ
- フェンリール・グレイバック
- ドローレス・アンブリッジ
- ルーファス・スクリムジョール
- アーサー/モリー・ウィーズリー
- フレッド/ジョージ・ウィーズリー
- ビル・ウィーズリー
- フルール・デラクール(フルール・ウィーズリー)
- ジニー・ウィーズリー
- リーマス・ルーピン
- ニンファドーラ・トンクス
- キングズリー・シャックルボルト
- マッド=アイ・ムーディ
- マンダンガス・フレッチャー
- ルビウス・ハグリッド
- ドビー
- クリーチャー
- ルーナ・ラブグッド
- ゼノフィリウス・ラブグッド
- ガリック・オリバンダー
- ディーン・トーマス
- ダーズリー家(バーノン、ペチュニア、ダドリー)
- チャリティ・バーベッジ(マグル学教師、本作冒頭で死去)
- メアリー・キャタモール
- レジナルド・キャタモール
- フィニアス・ナイジェラス・ブラック(肖像画)
魔法生物・種族
- ナギニ(ヴォルデモートの大蛇)
- 屋敷しもべ妖精(ドビー、クリーチャー)
- ヘドウィグ(ハリーのふくろう、本作で死亡)
- テストラル
- ふくろう各種
- 巨人(オートバイの言及)
- 人狼(フェンリール・グレイバック、ルーピン)
- ゴブリン(後の伏線として登場)
呪文・魔法
- オブリビエイト(記憶消去呪文)
- ポリジュース薬
- 未検出可能拡張呪文(ハーマイオニーのビーズバッグ)
- ステューピファイ(失神呪文)
- プロテゴ(盾呪文)
- コンフリンゴ(爆破呪文)
- アクシオ(呼び寄せ呪文)
- エクスペリアームス(武装解除)
- クルーシオ(磔の呪い/許されざる呪文)
- アバダ・ケダブラ(死の呪い/許されざる呪文)
- フィデリウス(秘密の守人)
- タブー呪い(ヴォルデモートの名)
- ディスアパレーション/アパレーション(姿くらまし)
- フー・パウダー(煙突飛行粉)
- 守護霊(パトローナス)
- デリュミネーターの導き
- 蛇語(パーセルタング)
道具・遺品
- ロケットの分霊箱(サラザール・スリザリン)
- ダンブルドアの遺言で渡されたデリュミネーター
- 吟遊詩人ビードルの物語の原書
- 金のスニッチ『私はこの最後に開く』
- グリフィンドールの剣
- ハリーのヒイラギの杖(本作で破損)
- ハーマイオニーのビーズハンドバッグ
- ハリーとシリウスの双面鏡(片割れ)
- 魔法省の身分札と魔法省員ローブ
- ヴォルデモートが借り受けたルシウスの杖
- ヴォルデモートが墓から奪った長老の杖
- 死の秘宝の紋章のペンダント(ゼノフィリウス)
- 雷鳴音とともに動くハグリッドの三輪オートバイ
- メアリー・キャタモールの杖
場所
- プリベット通り4番地
- ウィーズリー家『隠れ穴』
- マルフォイ屋敷(ウィルトシャー州)
- 魔法省本省(地下中央広間と尋問法廷)
- トテナム・コート・ロードのカフェ
- グリモールド・プレイス12番地(ロンドン)
- ゴドリックの谷(ポッター家の廃墟、教会の墓地、バチルダの家)
- ラブグッド邸(円錐の塔)
- 貝殻の家(シェル・コテージ/海辺)
- 森のテント各地(フォーリンガル城、グレンコー、セブン・シスターズ ほか)
- ホグワーツ校 ダンブルドアの白い墓所
組織
- ヴォルデモート政権下の魔法省
- マグル生まれ登録委員会
- 魔法事故・大惨事課
- 不死鳥の騎士団
- 死喰い人
- スナッチャーズ(人狩り部隊)
- ホグワーツ魔法魔術学校(言及のみ)
- ウィーズリー家
- マルフォイ家
- ブラック家(グリモールド屋敷の主筋)
主要登場人物
本作の人物造形は、これまでの『学校の生徒たち』としての肖像を完全に脱皮させ、戦時下の若者たちのそれへと書き直されている。ハリー、ロン、ハーマイオニーはホグワーツの制服ではなくマグルのデニムとセーターを着、ローブの上に厚いダウンコートを羽織って、英国の冬の自然のなかを歩き続ける。サブキャラクターの多くは画面に出る時間が短くなる一方、ドビー、ゼノフィリウス、ベラトリックス、ナルシッサといった『脇役』が短い時間で物語の核心を担う配置に変わる。
ハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ)
本作のハリーは17歳。前作で師ダンブルドアを失い、本作で愛するふくろうヘドウィグと、自分を救うために命を落としたドビーを失う。シリーズ全体で『生き残った男の子』として、もっとも大切な誰かを次々と先に逝かせる若者として、彼の沈黙が画面の中央に座る。
脚本上、彼はもはや単なるヒーローではない。森のテントの中で、ロンとハーマイオニーの間に挟まれて『俺たちはどこに行くんだ』と問われ、まともに答えられない。ハーマイオニーの両親が失われ、ダンブルドアが何も明示的に教えてくれなかった怒りを抱え、それでもダンブルドアが彼に託した『勝者を選ばずに戦う者であれ』というメッセージの意味を、自分なりに探り続ける一年が、本作の彼の全てである。
ダニエル・ラドクリフは撮影当時20歳。声と背丈が完全に大人になった彼の演技は、本作で初めて子役の延長線上から離れた。とりわけ、ドビーを埋葬する数分のうち、台詞をほとんど削って手の動きと呼吸だけで悲しみを表現する場面は、シリーズ全体でラドクリフの代表的な演技として知られている。
ロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グレンジャー(ルパート・グリント/エマ・ワトソン)
ロンは本作で、シリーズ全体で最大の弱さと最大の成長を一度に経験する人物として描かれる。家族への引け目、家計の貧しさ、双子の妹ジニーへの心配、そしてハーマイオニーへの叶わぬ恋慕——これらすべてを首にかけたロケットが増幅し、ついに彼は二人のもとを去る。ルパート・グリントは、第1作以来コミックリリーフ役を担ってきた彼自身の役柄を、本作で完全に脱ぎ捨てる。とりわけテントを去る際の声の震えと、雪の池に潜るハリーを救出する一連の動きは、グリントの俳優としての到達点として、本作でしか見られない。
ハーマイオニーは本作で、文字通り『三人組の脳』として、すべての魔法と計画を一人で支える役を担う。両親の記憶を消す冒頭の場面、トテナム・コート・ロードでの咄嗟の応戦、ハリーの顔を変装させる呪い、グリモールド・プレイスから森への即時転送、未検出可能拡張呪文のビーズバッグの中身(テント、図書、ポリジュース薬、医薬、衣服)、魔法省潜入の全段取り——これらすべてが彼女のおかげで成立する。マルフォイ屋敷で長時間にわたって拷問を受ける彼女の演技は、シリーズ全体でエマ・ワトソンの最大の見せ場である。腕に刻まれる『MUDBLOOD』の傷は、続編PART2でも本作の傷跡として明示的に画面に映り続ける、シリーズ全体に残る肉体的な印になる。
ヴォルデモート卿(レイフ・ファインズ)
本作でヴォルデモートは、ようやく公的に英国魔法界の最高権力者として君臨する。スネイプを通じて魔法省を内部から掌握し、スクリムジョールを排し、純血主義者を要職に並べる。前作までの『闇の陣営の親玉』から、『現政権そのものの黒幕』へと、政治的な位置が決定的に変わる。
脚本は彼の出番を意識的に絞り、冒頭のマルフォイ屋敷会議、七人のポッター作戦への奇襲、ゴドリックの谷への登場、そしてラストのダンブルドアの墓所での長老の杖奪取——この四つだけに彼の登場を集約する。それでもなお、レイフ・ファインズの声と身体の威圧感は、本作の隅々まで満ちている。彼は本作で初めて、ハリー本人と本気で会話しようとせず、ただ『杖の問題』だけを解こうとする男として描かれる。シリーズ後半の彼の悲劇——『不死を求めて魂を分けたために、自分の心を読み解く能力を失う』——の根が、本作で初めて顔を出す。
ベラトリックス・レストレンジ(ヘレナ・ボナム=カーター)
前作で校長殺害の現場に立ち会ったベラトリックスは、本作では完全に『ヴォルデモートのいちばん信頼の篤い実行部隊長』として登場する。マルフォイ屋敷の応接間で、姪婿のシリウスを殺したあとも罪悪感を一切持たない冷酷さ、純血主義の優越感、そして彼女がヴォルデモート個人に対して抱く偏執的な献身——これらが、ヘレナ・ボナム=カーターの大きく見開いた目と、ナイフを握る手の震えで、画面いっぱいに描かれる。
ハーマイオニーへの拷問の場面で、彼女が腕に『穢れた血』を刻むためにナイフを使うのは、原作にはない映画オリジナルの脚色である。原作の『クルーシオの繰り返し』を、視覚的に肉体に残る一行に置き換えることで、続編PART2まで持ち越される傷痕の伏線が、ここで一つ作られた。
ドビー(CG、声:トビー・ジョーンズ)
第2作以来、シリーズの『屋敷しもべ妖精の英雄』として愛されてきたドビーは、本作で正式に物語の中央に戻り、その役目を全うして死ぬ。第2作のラストで靴下を渡されて自由になったあのドビーが、本作のクライマックスで自分の意志でハリー・ポッターのために命を投げ出す——この円環の閉じ方は、原作者J.K.ローリングが本作の映画化に際してもっとも忠実に再現することを求めた要素であり、製作陣もその通りに完成させた。
視覚効果としても、本作のドビーは、CGモデルが第2作から大きく改良され、皮膚の質感、目の濡れ、衣服のシワまで、人間の俳優と同じカットに違和感なく溶け込む水準に達している。海岸の砂浜にハリーの腕の中で倒れ込むドビーの最後の一分間は、CGキャラクターが演じた死としては映画史上もっとも観客の涙を誘った場面の一つとして、後年繰り返し議論される。
セブルス・スネイプ(アラン・リックマン)
本作のスネイプは、画面上では一貫してヴォルデモートの最も信頼篤い側近として描かれる。マルフォイ屋敷の食卓でハリーの移送予定を報告する冒頭の数十秒、そして魔法省内の権力構造の頂点に近い席にいるという描写。観客は彼を完全に『裏切り者』として記憶したまま本作を終える。
後の続編PART2で『彼が本当はずっとリリー・ポッターを愛し、ハリーを守るための二重スパイとして動き続けていた』ことが明らかになるとき、本作冒頭の食卓の場面でチャリティ・バーベッジの懇願に対して一切表情を変えなかった彼の沈黙、そして本作のあらゆる場面における彼の冷たい眼差し——その全てを、観客はもう一度別の角度から見直すことを要求される。本作はその意味で、最後まで観た者にしか正しい解像度では読めない作品でもある。
アラン・リックマンの本作の演技時間は短いが、彼の声の重さは画面外でも常に響いている。ハリーが森で銀の雌鹿のパトローナスを追う場面——あの守護霊が実はスネイプのものだったこと——も、続編PART2で明示されるまで観客には伏せられたまま、本作の核心の伏線の一つになる。
舞台と用語
本作の舞台は、シリーズで唯一ホグワーツ城の外を一年間ほぼ全て描き続ける。プリベット通り4番地から始まり、隠れ穴、マルフォイ屋敷、トテナム・コート・ロード、グリモールド・プレイス12番地、魔法省本省、英国各地の森林・湖畔・断崖・雪原、ゴドリックの谷、ラブグッド家の塔、マルフォイ屋敷、貝殻の家、そして最後にホグワーツ校外のダンブルドアの墓。シリーズで初めて、登場する場所が場所として『学校に居られないこと』そのものをテーマにする。
用語面では、本作で初めて画面に登場する重要な概念がいくつもある。『死の秘宝(デスリー・ハロウズ)』は、三人兄弟の物語に出てくる三つの遺品——長老の杖(エルダー・ワンド)、蘇りの石、透明マント——の総称であり、これらを全て手にした者は『死を制する者(マスター・オブ・デス)』となるという伝承である。長老の杖は本作のラストでヴォルデモートに渡り、透明マントはハリーが第1作から持っており、蘇りの石は第6作のスニッチの中にダンブルドアが封じている。本作冒頭のスニッチの謎『私はこの最後に開く』は、続編PART2で蘇りの石へとつながる。
『分霊箱(ホークラックス)』は、ヴォルデモートが自分の魂を七つに分けて物体に封じ、その全てが破壊されない限り彼自身は死なないとした、シリーズ最大の魔法的トリックである。本作で破壊されるのはサラザール・スリザリンのロケット一つで、残り(カップ、ティアラ、日記、ナギニ、指輪、そして本人すら気づいていない第七の分霊箱)は続編PART2で順次処理される。
『マグル生まれ登録委員会』『タブー呪い(名を呼ぶと居場所が漏れる)』『スナッチャーズ(人狩り)』『フィデリウス呪文の見破られ方』など、本作で初めて画面に登場する政治的・呪文的な概念は、続編PART2でも継続的に用いられる。
制作
ハリー・ポッター本編シリーズ第7作の製作は、原作『死の秘宝』の発表(2007年7月)からまもなく本格化した。製作陣は2008年初頭に『最終巻を二本に分割して映画化する』という決定を公式に発表する。原作の長さに加え、最終巻でしか開かれない伏線(分霊箱の正体、死の秘宝の伝説、スネイプの真実、19年後のエピローグ)を一本で消化することが脚本上難しかったこと、そして配給上の収益面の利点——双方が同時に作用したと、後年デヴィッド・ヘイマンとデヴィッド・イェーツが認めている。本セクションでは企画と脚本、キャスティング、衣装と美術、視覚効果、音楽と音響、撮影とロケ、編集を分けて整理する。
企画と脚本
脚本は、シリーズ第1〜4作および第6作を担当したスティーヴ・クローヴスが、第5作『不死鳥の騎士団』で離脱したあと、本作と続編PART2で復帰した。クローヴスは『死の秘宝』を二本に割る区切り目を、原作のおよそ中盤——ロンが森のテントを離れ、ハリーとハーマイオニーが二人だけで動き続ける時期——ではなく、もう少し後の『ドビーの死と、ヴォルデモートが長老の杖を手にする瞬間』に置くことを最終的に選んだ。原作読者の予測したいくつかの区切り(マルフォイ屋敷脱出と同時に終わる/グリンゴッツ襲撃の直前に終わる)よりさらに遅い場所が、本作の終端として確定する。
脚本上もっとも大きな脚色は二つある。第一は、ハリーとハーマイオニーが森のテントで踊る『O Children』の場面である。原作にこの場面はない。デヴィッド・イェーツが、ロンを失った後の二人の沈黙が長すぎることを懸念し、観客と二人の主役のあいだに一瞬の感情的な交流を挟むために、ニック・ケイヴの『O Children』をかけたという。脚本にはなく、撮影現場でクローヴスとイェーツが議論しながら付け加えた『3分の沈黙のダンス』が、本作のもっとも記憶される場面の一つになった。
第二は、ベラトリックスがハーマイオニーの腕に『MUDBLOOD』とナイフで刻む場面である。原作では『クルーシオの繰り返し』として描かれる拷問を、映画では身体に残る一行の傷へと置き換えた。続編PART2でもこの傷痕がはっきり映ることで、本作の身体的暴力が次作まで持続する記号として機能している。
削られた要素もある。ピーター・ペティグリュー(ワームテール)が地下牢で自身の銀の手に絞殺されて死ぬ原作の場面は、映画では明示的には描かれない。彼は本作で最後に応接間に現れたあと、続編PART2にも登場せず、観客の意識から静かに消える。ダドリー・ダーズリーとハリーの『君は一緒に来ないのか』の和解の場面も、劇場版では非常に短縮されたまま映像化された(拡張版はない)。
キャスティング
本編シリーズの主要キャストはほぼ全員が続投した。ハリー役のダニエル・ラドクリフ、ロン役のルパート・グリント、ハーマイオニー役のエマ・ワトソンは撮影当時いずれも19〜20歳。ヴォルデモート役のレイフ・ファインズ、スネイプ役のアラン・リックマン、ベラトリックス役のヘレナ・ボナム=カーター、ハグリッド役のロビー・コルトレーン、ルシウス役のジェイソン・アイザックス、ドラコ役のトム・フェルトン、ジニー役のボニー・ライト、ルーピン役のデヴィッド・シューリス、トンクス役のナタリア・テナ、ムーディ役のブレンダン・グリーソン、アンブリッジ役のイメルダ・スタウントン、フルール役のクレマンス・ポエジー、ルーナ役のイヴァナ・リンチも続投した。
本作で初登場の主要キャストとしては、新魔法大臣ルーファス・スクリムジョール役にビル・ナイ、ゼノフィリウス・ラブグッド役にリス・エヴァンス、ビル・ウィーズリー役にドーナル・グリーソン(父ブレンダン・グリーソンと親子で本シリーズに出演することになる)が起用された。ビル・ナイは『パイレーツ・オブ・カリビアン』『ラブ・アクチュアリー』などで知られる英国の名優で、シリーズ後半でもっとも遅く参加した主要俳優の一人である。彼はスクリムジョール役を本作のみで演じ、原作通り序盤で命を落とすため、スクリーンタイムは10分にも満たない。
ナギニのCG表現の補助として、本作以後シリーズで蛇の動きを参考にするため複数の実物大の蛇のスタジオ撮影が新たに行われた。ベラトリックスの拷問場面の撮影では、エマ・ワトソンとヘレナ・ボナム=カーターの両者から、別撮りの叫び声と表情をADRで複数テイク収録し、本編の最終ミックスに重ねた。
屋敷しもべ妖精ドビーの声優トビー・ジョーンズは、第2作以来9年ぶりに同役で復帰し、本作の死の場面のセリフを録音した。後年のインタビューでジョーンズは『ドビーの最期の台詞を録音した日の現場には沈黙が降りていた』と振り返っている。
美術とプロダクションデザイン
美術監督は、シリーズ全8作と続編ファンタスティック・ビースト3作を一貫して担当するスチュアート・クレイグ。本作は、シリーズ全体で最も新規セットの建設数が多い作品の一つとなった。理由は単純で、ホグワーツ城の内装をほとんど使わないかわりに、マルフォイ屋敷の応接間と地下牢、ヴォルデモート政権下の魔法省本省地下中央広間、魔法省の尋問法廷、グリモールド・プレイス12番地の応接間と台所、ラブグッド家の円錐の塔、貝殻の家——本作のためにこれだけの新規セットが、英国リーヴスデン・スタジオに大規模に組まれた。
魔法省地下中央広間の『MAGIC IS MIGHT』の彫像は、純血主義のプロパガンダ美術として、ナチス独裁下のドイツ美術を直接的に意識した造形がなされている。一対の魔法使いの像が、その下で組み伏せられたマグル像を踏みつけるという、視覚的に最も直接的な政治的記号が、シリーズで初めてここに置かれた。デザイン責任者はスチュアート・クレイグ、彫像のスケッチは美術部のミラフォーラ・ミナが担当した。
ドビーの最期の場面が撮影された貝殻の家の砂浜は、英国本土ではなくウェールズの海岸の一つ、ペンブロークシャー州のフレシュウォーター・ウェスト海岸に組まれた仮設のセットで、20メートル四方の小さな貝殻状の家の外景がロケで使われた。撮影終了後、海岸には木製の小さな墓標が残され、ハリー・ポッターのファンが世界中から訪れる『ドビーの墓』として地元の観光資源になり、後年に英国の自然保護当局と地元政府との間で『この墓標を撤去するか保存するか』の議論が長く続いた(最終的にハリー・ポッターのロゴ等の規制を経て『ドビーへの献辞』として一定期間残された)。
視覚効果
視覚効果は、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)、フレームストア、ダブル・ネガティブ、MPC、シネサイト、リズム&ヒューズなど多数のVFXハウスが分担した。とりわけ難度が高かったのは、冒頭の七人のポッター作戦における全員のフェイス・スワップ合成、七人のオートバイ/箒/テストラルが英国の南部夜空を低空飛行する空中追跡シークエンス、ロケットから立ち上る『ハリーとハーマイオニーの裸の幻影』の中間色のレンダリング、ナギニがバチルダの体内から滑り出てくるボディ・ホラー的合成、貝殻の家から舞い上がる無数の塩のしぶき、そしてラストカットのダンブルドアの墓から長老の杖が引き抜かれる瞬間の光の脱出である。
そして本作のもっとも独立した視覚的成果が、第3章で語られる『三人兄弟の物語』のアニメーション・シーンである。本編シリーズで唯一、実写を完全に離れて約3分間のシャドウ・パペット風3DCGアニメーションが導入された。演出はベン・ヒボン、制作はフレームストア。墨絵と切り絵を混ぜたような白黒のシルエットが、橋のない川、骸骨めいた死、無敵の杖、蘇りの石、透明マントを順に語る画面は、本作の視覚的見せ場として独立したアニメーション賞・批評家賞の対象になった。
ドビーのCG表現は、第2作から約8年経った2010年の水準に合わせて、皮膚の質感(毛穴・血管の透けの段階)、瞳の濡れの反射、衣服のシワの物理シミュレーション、口元の唾の表現まで根本的に更新された。死の場面のドビーの目から零れる涙、開いたままの口元、ハリーの腕の中で力を失う身体の重みなど、CGキャラクターの『死』の表現は本作以降、業界全体の参照点となった。
音楽と音響
音楽は、シリーズで初めてアレクサンドル・デスプラが担当した。デスプラは『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』『英国王のスピーチ』などで知られるフランスの作曲家で、本作以降PART2まで連続で担当することになる。第1作から第3作までジョン・ウィリアムズが書いた『ヘドウィグのテーマ』は、本作では直接の引用を抑え、エンドクレジットと数か所の象徴的場面でのみ短く呼び出される。
デスプラのスコアは、弦楽の小編成、ピアノ、女声合唱の最小限の組み合わせを基本にしており、ホグワーツの華やかな祝祭的音楽とは対極の、室内楽的で内省的な質感を持つ。代表曲は『Obliviate』(ハーマイオニーが両親の記憶を消す場面)、『Sky Battle』(七人のポッター作戦)、『Snape to Malfoy Manor』(マルフォイ屋敷の食卓)、『The Tale of the Three Brothers』、『Lovegood』、『Farewell to Dobby』である。とりわけ最後の『Farewell to Dobby』はピアノとチェロのみの数分間の楽曲で、ドビーの墓を掘るハリーの長回しのカットの背後に流れる。
本作のサウンドトラックには、原作にもデスプラのオリジナルにもない特例の楽曲が一つ含まれている——ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズの『O Children』(2004年)である。デヴィッド・イェーツとエマ・ワトソンが撮影現場で議論した結果、ロンを失ったあとのハリーとハーマイオニーが沈黙の中で踊るシーンに使われた。本作公開後、同曲は全英チャートで久しぶりに再ヒットを記録した。
音響デザインでは、本作のもっとも特徴的な仕事は『静かな環境音』である。テントの中の薪のはぜる音、雪が降り続ける森の遠い遠吠え、貝殻の家の海岸に打ち寄せる波の繰り返し——シリーズの華やかな効果音から一歩引き、観客がドビーの墓掘りやハーマイオニーの拷問のあいだ、登場人物と同じ呼吸の長さで居続けられる音の余白が、徹底して設計されている。
撮影とロケ
撮影監督はエドゥアルド・セラ(『仮面の男』『恋の闇 愛の光』『ジロー婦人とご主人さま』)。セラは本作で初めてハリー・ポッター・シリーズに参加し、続編PART2まで連続で担当した。前任の撮影監督ブリュノ・デルボネル(第6作)から、青みがかった硬質な低照度の画作りが引き継がれ、本作はシリーズ全体でもっとも光源の少ない冷たい画面に仕上がった。
本作と続編PART2は『バック・トゥ・バック』方式で撮影された。プリンシパル撮影は2009年2月19日に開始され、2010年6月12日に終了するまでの約16ヶ月。ハリー・ポッター・シリーズ史上もっとも長い撮影期間であり、ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンの三人は、この1年4ヶ月のあいだ実質的に他の仕事に出ることができなかった。
ロケ撮影は、英国全域に散らばっている。スコットランド高地のグレンコー渓谷(森のテントの俯瞰)、フォーリンガル城の湖畔(雌鹿のパトローナスを追う池の周辺)、シャフテスベリーのゴールド・ヒル(ゴドリックの谷の坂)、セブン・シスターズの白亜の崖(テントの宿営地)、ピーク・ディストリクトの断崖、ペンブロークシャーのフレシュウォーター・ウェスト(貝殻の家)、ヨークシャー地方の各種荒野、ロンドンのトテナム・コート・ロード、ロンドンのウェストミンスター橋からピカデリー周辺の街路、グロスター大聖堂、レイヴンスコート公園——主要な英国の自然と都市景観を、ほぼ全て本作の一本のなかに収めるロケ計画が組まれた。
三人の若手主役は、本作の長期ロケのあいだ、撮影現場での衣装替えと寒さで風邪を引き続けた。フォーリンガル城の凍結湖で氷を割って潜るシーンは、当然ながら主役本人がスタント代役に置き換えられた水中撮影だが、ハリーが岸へ引き上げられた直後の咳き込む場面はラドクリフ本人による撮影で、彼は本当に低体温症に近い状態になりながら最後のテイクを終えた、と後年のインタビューで語っている。
編集
編集は、第5作からシリーズに参加するマーク・デイ。本作は、原作上巻のほぼ全シーンを尺の許す限り映像化することを優先したため、シリーズで最も『時間の流れがゆっくり』に編まれている。ホグワーツの華やかなクロスカットがなく、登場人物の数が三人に絞られ、舞台が森のテント周辺に長く留まる中盤の30分は、シリーズで最もシーン転換が少ない時間帯になった。
編集上のクライマックスは、ベラトリックスの拷問の応接間と、地下牢のハリー/ロン/ドビーの脱出計画と、シャンデリアの落下を含む脱出の三層を、わずか8分のなかでクロスカットで畳みかける『マルフォイ屋敷シークエンス』である。ドビーが応接間の中央で『お前は今、屋敷しもべに服従しろなどと、命じるな』とベラトリックスを威嚇する瞬間と、シャンデリアの鎖が断ち切られる瞬間、ハリーがハーマイオニーの腕を引き上げる瞬間が、フレーム単位の精度で組み合わされている。
ラストカット——ヴォルデモートが長老の杖を空に掲げる瞬間と、ドビーの墓の傍でハリーが立ち上がる瞬間との、対のカット——は、編集段階で最後に決定された。撮影現場では別々に撮られた二場面を、編集室で一本の線に並べることで、本作は『悪が最強の武器を手にした瞬間』と『善が最も近しい仲間を失った瞬間』を、同じ無音のなかで重ね合わせる結びへ到達した。
公開と興行
本作は2010年11月19日に英国・米国・日本でほぼ同時公開された。北米でのオープニング週末興収は約1億2500万ドル、最終的に北米約2億9600万ドル、全世界興収は約9億6000万ドルに達した。当時のシリーズ史上の興収順位は『賢者の石』『不死鳥の騎士団』『謎のプリンス』に並ぶ上位グループで、PART2が翌2011年に約13億ドルを記録することで、二本合わせて当時のシリーズ最高興収を記録した。
日本国内では、公開4日間で興収約11億円、最終的に約95億円を記録し、2010年の外国映画首位(『アバター』(2009末公開)を除く同年公開外国映画の首位)となった。日本のハリー・ポッター映画は、本作の95億円・続編PART2の約97億円という二作連続のヒットで、シリーズの興行的なフィナーレを締めくくった。
受賞面では、第83回アカデミー賞で美術賞と視覚効果賞の2部門にノミネートされた(受賞はいずれも逃した)。第64回英国アカデミー賞では視覚効果賞ほかにノミネートされ、サターン賞ファンタジー映画賞、ロンドン批評家協会賞、放送映画批評家協会賞などにもノミネートされた。シリーズの中ではアカデミー賞での評価がもっとも高まった作品の一つである。
本作の興行的・批評的成功は、続編PART2(2011)の世界興行収入約13億4000万ドルへとつながり、ハリー・ポッター本編シリーズ全8作の世界興収累計を約77億ドルに押し上げた。本作と続編は『一つの物語を二本に分ける』というハリウッドの新しい商業モデルとして、後年の『トワイライト・サーガ ブレイキング・ドーン』前後編、『ハンガー・ゲーム モッキングジェイ』前後編、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』などに直接的な影響を与えた。
批評・評価・文化的影響
公開時の批評家評価は概ね好意的だった。米国の主要批評集計サイトでは批評家支持率がおおむね77%前後、観客評価は90%前後で、原作の上巻を丁寧に映像化した『シリーズで最も大人びた一本』として歓迎された。一方で『前半1時間半が原作のテント生活を忠実になぞるあまり、テンポが緩慢になりすぎている』『映画単体として完結しない構造になっている』という批判も少なからずあった。
後年の再評価では、本作はシリーズ全体の中で『最も雰囲気の濃密な一本』『最も大人の観客向けの一本』として位置付けられることが多い。第1作の華やかな入学式から数えて9年、子役だった三人がいよいよ大人として孤独な逃避行を演じる本作は、観客の側もシリーズと一緒に成長した者にとって、最も身体的に共感できる作品となった。本作のロケ地マップ——フォーリンガル城、シャフテスベリー、グレンコー、フレシュウォーター・ウェストなど——は、英国の観光資源として現在も多くの巡礼を生み続けている。
文化的には、ドビーの死、銀の雌鹿、三人兄弟の物語のアニメーション、『O Children』のダンス、ヴォルデモートが長老の杖を空に掲げるラストカット——本作のこれら五つの場面が、シリーズ全体のもっとも引用される映像として、現在のSNSや映画批評の場で繰り返し参照され続けている。本作以降、ハリー・ポッター・シリーズは『児童文学映画』というジャンルから完全に独立し、英国製ファンタジー・サーガとして、後年の魔法ワールド全体の地としての位置を確立した。
舞台裏とトリビア
本作はハリー・ポッター本編シリーズで唯一、ホグワーツ城の内装がほぼ画面に登場しない。城そのものはラストカット——ダンブルドアの墓の場面——に遠景として一度だけ登場するが、グレートホール、動く階段、図書館、寮の談話室など、シリーズの定番場所はすべて本作から削られている。
本作は当初、3D版でも公開される予定だった。ワーナー・ブラザースはPART1の3D変換作業を進めていたが、公開のわずか1ヶ月前に『品質基準を満たさないため2D公開のみに変更する』と発表し、世界中の劇場が急遽予定を変更する事態となった。続編PART2は当初の予定通り3Dでも公開された。
森のテント生活の長期撮影中、ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンの三人は、撮影スタッフから渡された大量の本を読み、Tシャツやセーターに季節ごとの汚れを付けるための専用の衣装スタイリストとともに、英国全土の僻地を旅した。エマ・ワトソンは『撮影が終わったときは、テントから出られないまま大学生活に戻った気がした』と後年回顧している。
魔法省地下中央広間の『MAGIC IS MIGHT』の彫像は、撮影終了後に解体されたが、その精密な造形は、撮影終了後にもファンと美術関係者から『シリーズ屈指の政治記号を可視化した造形』として評価が高く、英国リーヴスデン・スタジオの『ハリー・ポッター スタジオ・ツアー』に縮小レプリカが現在も展示されている。
ドビーの墓——ペンブロークシャー州フレシュウォーター・ウェスト海岸——は、撮影終了後にハリー・ポッターのファンが世界中から訪れる『非公式の聖地』となり、地元当局が一時撤去を検討するほどになった。最終的に、自然保護とプライバシーの観点から、商業ロゴや人工的な装飾は禁止される代わりに、訪問者が小石を積み、貝殻を置き、無記名で献辞を残すことが黙認される形で『ドビーへの献辞』として共存することになった。
本作のラスト、ヴォルデモートがダンブルドアの墓から長老の杖を引き抜く場面で、レイフ・ファインズが空に向かって発する咆哮は、ファインズ本人が現場で即興的に追加した演技である。脚本上はサイレントの予定だったが、彼が『勝者の歓喜のカタルシスを音にしたい』と提案し、デヴィッド・イェーツが採用した、と後年語られている。
テーマと解釈
中心テーマは『家を失った若者たち』である。ハリーは魔法省政権が彼を『指名手配第一号』と認定したことでマグルの家にも魔法界の家にも戻れず、ロンは家族の安全のために隠れ穴に戻ることを禁じられ、ハーマイオニーは両親の記憶から自分自身を抹消した。三人は文字通り、自分たちを匿ってくれる物理的な『家』を全て失ったうえで逃避行に出る。森のテントは『家ではない家』として、彼らの大人としての初めての共同生活の場になる。シリーズ全体で『学校こそが家だった』と繰り返し書かれてきた物語が、本作で初めて『家を失ってもなお続く物語』へと書き直される。
もう一本の柱が『戦時下の若者の倫理』である。本作の魔法省は明らかに全体主義的政権の戯画として描かれ、マグル生まれ登録委員会、地下尋問法廷、純血主義のプロパガンダ彫像など、ナチス独裁下のドイツや東欧の冷戦体制を直接的に意識した描写が並ぶ。その下で、ハリー・ロン・ハーマイオニーは『正しい大人』ではない、ただの17歳として、何が正しいかを自分の頭で考えながら逃げ続けなければならない。脱出のために他者の体毛を奪い、その人物の家庭を一時的に占拠し、罪悪感を抱きながらも前に進む彼らの姿は、シリーズで初めて子供向けの倫理から逸脱した、戦時下の道徳のなかに置かれる。
第三のテーマが『友人の死を超えて生きること』である。本作はヘドウィグ、マッド=アイ、チャリティ・バーベッジ、スクリムジョール、そしてドビーと、合計五人の主要な登場人物の死を一作の中で扱う。ハリーが砂浜にドビーを素手で埋葬する数分間は、シリーズ全体の『死を悼む』テーマの最も具体的な可視化であり、続編PART2でハリーが死へ自ら歩いていくクライマックスの倫理的な準備として機能する。『私たちが本当に何者であるかは、持って生まれた力ではなく、自分でどんな道を選ぶかで決まる』——第2作でダンブルドアが告げたあの言葉が、本作のハリーの行動原理そのものとして、テキスト化されないまま画面に響き続ける。
そして第四のテーマが『所有と権力の腐敗』——『死の秘宝』と『分霊箱』の対比である。ヴォルデモートは『分霊箱(魂を物に分けて永遠の命を求める)』を追求し、本作のラストで『死の秘宝(最強の杖)』をも手に入れる。それに対し、ハリーは透明マントを既に父から受け継いでおり、本作の最後ではダンブルドアが残したスニッチの中に蘇りの石を秘めていることを知らない。続編PART2で明かされる『ハリーは最初から死を制する者の候補だった』『しかし彼は所有しないことを選ぶ』という結末の倫理が、本作冒頭の三人兄弟の物語のなかに、もう既に書かれている。
見る順番(補助)
初見であれば、必ず前作『謎のプリンス』までを順に観てから本作に進んでほしい。分霊箱の概念、レギュラス・ブラックの遺品、ドビーが第2作で自由になった経緯、ベラトリックスがシリウスを殺した第5作の事実、スネイプがダンブルドアを殺した第6作のラスト——これらすべてが本作では既知のものとして扱われ、改めて解説されることはない。
本作のあとは、必ず続編『PART2』(2011)を続けて観るべきである。本作のラストは続編の冒頭に直結しており、二本の映画は本来一つの物語として書かれている。間に他の作品を挟まずに、できれば同じ日のうちに鑑賞することを強く勧める。
ファンタスティック・ビースト三部作(2016/2018/2022)は、本編8作を全て観終えたあとの『前日譚としての追加観賞』として位置付けるのが入りやすい。本作で初めて画面に登場する『死の秘宝』の最初の所有者ゲラート・グリンデルバルドが、ファンタスティック・ビースト続編の中心となる流れを意識して観ると、シリーズ全体の倫理的構造が見えてくる。
- 前作第6作『謎のプリンス』でダンブルドアが死亡(1997年6月)
- 本作ハリー17歳の逃避行(1997年7月-1998年初春)/分霊箱探索の前編
- 次作第8作『死の秘宝 PART2』でホグワーツの戦いと最終決戦(1998年5月)
- 最終決戦ヴォルデモートの死、ハリーの19年後のエピローグ(2017年)
よくある質問(補助)
『あらすじだけ知りたい』場合は、ホグワーツに戻れない一年、ハリーがダンブルドアの遺言で受け継いだ謎を解きながら分霊箱の一つ(ロケット)を破壊し、しかし最後にヴォルデモートが長老の杖を手に入れてしまうところで終わる、という流れを押さえれば十分である。
『結末・ネタバレを知りたい』場合は、ロケットの分霊箱がロンの手で破壊されたこと、『死の秘宝』が長老の杖・蘇りの石・透明マントの三遺品を指す伝承であること、マルフォイ屋敷でハーマイオニーが拷問を受け、ドビーが救出に駆けつけて命を落としたこと、そしてヴォルデモートがダンブルドアの墓を暴いて長老の杖を奪い空に掲げて終わることが核となる。
『PART2を観なくても本作だけで完結するか?』に対しては、しない。本作と続編PART2は元来一本の小説として書かれた物語を機械的に二分割した構成で、本作のラスト1分は続編の冒頭1分にそのまま接続される。一本で物語として閉じることを期待して観ると消化不良に終わるため、必ず続編PART2と続けて鑑賞してほしい。
『なぜホグワーツがほとんど出てこないのか?』に対しては、原作上巻が『ハリーが17歳の誕生日を迎えてホグワーツに戻る権限を持つ前に、ヴォルデモート政権が魔法省を掌握してしまい、ハリーが学校に戻れなくなる』という構成のため、舞台がホグワーツの外に設定されているからである。ホグワーツの内部に物語が戻るのは続編PART2の中盤以降である。
『ドビーは本当に死んでしまうのか?』に対しては、はい、ドビーは本作で死亡し、続編PART2には登場しない。彼の最後の場面はシリーズ全体でもっとも感情的な数分の一つとして広く知られている。
『ジョン・ウィリアムズは本作の音楽を担当していないのか?』に対しては、はい、本作と続編PART2の音楽はアレクサンドル・デスプラが担当した。シリーズの『ヘドウィグのテーマ』はジョン・ウィリアムズの作曲だが、本作では直接の引用が限定的に抑えられている。
参考資料・脚注
作品名、キャラクター名、画像、各種権利はそれぞれの権利者に帰属する。公開年・興行・受賞・配信状況・外部評価は変動しうるため、視聴前に公式および各データベースの最新表示を確認されたい。本記事の本文は各種公開情報をもとに、Anna Movies用の独自の日本語文章として構成している。
参照・確認先
公式画像、作品名、キャラクター名、権利は各権利者に帰属する。公開年、配信状況、外部評価は変わる場合があるため、視聴前に公式・配信元・作品データベースで確認したい。