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ハリー・ポッター

ハリー・ポッターと秘密の部屋

夏休みのプリベット通りに屋敷しもべ妖精ドビーが現れる。「ホグワーツへ戻ってはいけません」——魔法学校2年目のハリーを待つのは、生徒を石化させる謎の襲撃事件と、五十年前に閉ざされた『秘密の部屋』の伝説、そして一冊の古い日記に潜む若き日のヴォルデモートだった。

媒体: 映画(実写) 英国公開: 2002年11月15日 米国公開: 2002年11月15日 日本公開: 2002年11月23日
ハリー・ポッターと秘密の部屋 公式ポスター

作品データ

作品
ハリー・ポッターと秘密の部屋
原題
Harry Potter and the Chamber of Secrets
媒体
映画(実写)
原作
J.K.ローリング『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(1998)
英国公開
2002年11月15日
米国公開
2002年11月15日
日本公開
2002年11月23日
監督
クリス・コロンバス
脚本
スティーヴ・クローヴス
製作
デヴィッド・ヘイマン
音楽
ジョン・ウィリアムズ(指揮:ウィリアム・ロス)
撮影
ロジャー・プラット
美術
スチュアート・クレイグ
編集
ピーター・ホネス
衣装
リンディ・ヘミング
視覚効果
インダストリアル・ライト&マジック/フレームストア/MPC ほか
製作会社
ヘイデイ・フィルムズ/1492ピクチャーズ/ワーナー・ブラザース
配給
ワーナー・ブラザース
上映時間
161分(劇場公開版)/約174分(拡張版)
製作費
約1億ドル
興行収入
全世界 約8億7900万ドル
受賞
サターン賞 ファンタジー映画賞 ほか
時系列上の位置
ハリーのホグワーツ2年目(1992-1993年)
シリーズ
ハリー・ポッター本編シリーズ第2作(全8作)
公式予告編は
劇場サイトで確認
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📖 全36章 / 約22K字 🔄 最終更新 2026年5月26日 ✍️ Anna Movies 編集部

ハリー・ポッターと秘密の部屋は、2002年公開のイギリス・アメリカ合作のファンタジー映画である。J・K・ローリングの同名小説を原作とし、実写映画シリーズの第2作にあたる。魔法学校ホグワーツで2年目を迎えたハリーは、生徒を次々と石化させる謎の襲撃事件に直面し、五十年前に閉ざされた「秘密の部屋」の伝説と、若き日のヴォルデモートが潜む一冊の古い日記の秘密へと迫っていく。前作から続く物語を深め、シリーズの謎の核心を予感させる一編である。

00概要

『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(Harry Potter and the Chamber of Secrets)は、クリス・コロンバスが監督したファンタジー映画である。2002年11月15日に米国・英国で、同年11月23日に日本で公開された。原作はJ.K.ローリングのベストセラー小説『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(1998)。前年の『賢者の石』(2001)に続く本編シリーズ第2作にあたる。脚本はシリーズの大部分を手掛けるスティーヴ・クローヴスが続投し、製作はデヴィッド・ヘイマン、配給はワーナー・ブラザースが務めた。

物語は、夏休みでマグルの叔父夫婦のもとに戻されたハリーの前に屋敷しもべ妖精ドビーが現れ、「ホグワーツへ戻ってはなりません」と警告する場面から始まる。学校に戻ったハリーを待ち受けるのは、五十年前に一度だけ開かれ、当時一人の生徒の命を奪ったとされる『秘密の部屋』伝説の再来だ。生徒を次々に石化させていく謎の襲撃事件が、学校を覆っていく。やがて「敵よ気をつけよ。継承者は再び現れた」と血の文字で壁に書かれ、犯人として疑われたハリーは、親友ロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャーとともに真相を追っていく。

本作は、シリーズ全体のなかでも、後のヴォルデモートにつながる『分霊箱(ホークラックス)』の概念が、名前を伏せたまま初めて画面に登場した作品である。ジニー・ウィーズリーが手にする古い日記。その日記が記憶を吸い取りながら少女を内側から食い破っていく筋立て。そして終盤に立ち上がるトム・リドルという美しい青年の姿。これらはシリーズ後半『謎のプリンス』『死の秘宝』で初めて意味を取り戻す重大な伏線として、ここで一斉に置かれている。

本記事は、結末を含む全編の内容に踏み込む。ドビーの解放、バジリスクの討伐、トム・リドル=ヴォルデモートのアナグラム、そしてジニーが日記の犠牲者だったという真相にまで触れる。物語の重大な驚きを保ちたい場合は、まず本編を鑑賞してから読み進めることを勧めたい。

概要

主要データ

原題
Harry Potter and the Chamber of Secrets
原作
J.K.ローリング(1998年・ブルームズベリー)
監督
クリス・コロンバス
脚本
スティーヴ・クローヴス
音楽
ジョン・ウィリアムズ
撮影
ロジャー・プラット
美術
スチュアート・クレイグ
編集
ピーター・ホネス
公開
2002年11月15日(米英)/11月23日(日本)
上映時間
161分
ジャンル
ファンタジー、ミステリー、青春劇、ホラー要素
舞台
1992-1993年の英国(プリベット通り/隠れ穴/ダイアゴン横丁/ホグワーツ城)

01あらすじ

以下では、結末までを含めた全編のあらすじを追っていく。プリベット通りに現れたドビーの警告に始まり、空飛ぶフォード・アングリアで果たすホグワーツ到着、ミセス・ノリスの石化と壁に刻まれた「秘密の部屋」の血文字、ポリジュース薬の生成、ハグリッドの過去とアラゴグ、嘆きのマートルの浴室から潜り込む地下のチェンバー、ジニーの誘拐と若きトム・リドルの正体、バジリスクとの死闘、そしてドビーの解放まで。物語の流れを時系列で順に見ていきたい。

あらすじ

プリベット通りとドビーの警告

1992年の夏、12歳になったハリー・ポッターは、夏休みのあいだサリー州プリベット通り4番地のダーズリー家で、物置部屋に閉じ込められていた。叔父バーノンは大事な接待の会食を控え、姪のいる『普通の家庭』を演じるため、ハリーに静かにしているよう厳命する。寮の友人たちからは手紙が一通も届かない。ハリーはホグワーツへ戻れる日を指折り数えながら、自室の窓辺でひとり誕生日を迎えようとしていた。

その夜、誰もいないはずのハリーの部屋に、長い耳とテニスボールのような目をした小さな生き物が、身を屈めて現れる。屋敷しもべ妖精のドビーだ。ベッドの上で泣きながら自分の頭をランプで叩き、必死の声で訴える——『ホグワーツへ戻ってはなりません、ハリー・ポッター様。今年、ホグワーツで恐ろしいことが起こります』。ドビーは仕える身でありながら掟を破ってここまで警告に来たため、口を開くたびに自らを罰さねばならないのだ。

ハリーが学校を諦めるはずがないと察したドビーは、机に積まれた友人からの未開封の手紙の束を、懐から取り出してみせる。手紙はすべてドビーが途中で奪い、ハリーに孤独を感じさせ家に留まらせようと隠していたものだった。返却を拒まれたドビーは階下の食卓まで降りていき、来客のシェフがこしらえた巨大なプリンを宙に浮かせ、天井から落としてシェフの頭上に派手にぶちまける。ハリーは魔法を使ったとして魔法省から正式な警告書を受け取り、未成年の魔法行使禁止を理由に部屋の窓へ鉄格子を打ちつけられ、完全に監禁されてしまう。

プリベット通りとドビーの警告

空飛ぶフォード・アングリアと隠れ穴、ダ…

数日後の夜、プリベット通り4番地——ではなく、その2階の窓の外に、ターコイズブルーの古びた英国車フォード・アングリアが宙に浮かんでいた。運転席にはロン・ウィーズリー、後部座席には双子のフレッドとジョージ。ウィーズリー家の三兄弟が、父アーサーが趣味で違法に魔法改造を施した車に乗り、ハリーを救い出しにやって来たのである。窓の鉄格子に鎖をかけて一気に引きちぎると、ハリーは荷物とふくろうのヘドウィグを抱え、車内へ飛び込む。

目を覚ましたダーズリー一家が窓辺に駆け寄ったときには、車はすでにサリーの夜空を後にしていた。たどり着いたのは、デヴォン州オッタリー・セント・キャッチポール近郊の田園に建つ、無造作な増築を重ねて傾いだ塔のような家——ウィーズリー家、通称『隠れ穴(バロウ)』である。台所では母モリーが、真夜中に家を抜け出した息子三人を雷のごとく叱りつける。その一方で、ハリーには我が子のように温かい朝食を用意してやるのだった。フライパンが宙を泳ぎ、編み針がひとりでにセーターを編み、ガラス瓶の中で毛糸玉が転がっていく。魔法に満ちたこの台所の光景こそ、ハリーが初めて目にする「魔法使いの、ごく普通の家庭」の姿となる。

夏の終わり、ウィーズリー一家とハリー、そして居候中のハーマイオニーは、教科書を買いそろえるため、煙突飛行粉(フルーパウダー)でダイアゴン横丁へ向かう。ところがハリーは行き先の発音を誤り、闇の魔法道具を商う店が並ぶノクターン横丁、『ボージン・アンド・バークス』の暖炉に出てしまう。店の物陰に身を隠した彼が目撃したのは、長い銀髪のルシウス・マルフォイと息子ドラコが、自宅にある闇の魔法アイテムの売却を店主と交渉する場面だった。ルシウスは魔法省の手入れを警戒し、危険な品の処分を画策していたのである。身を伏せたハリーの視線は、ルシウスが取り出した古いノートと帳簿の束に吸い寄せられる——のちに最大の伏線となるトム・リドルの日記が、この時すでに彼の手の内にあった可能性が、ここでひそかに示される。

ダイアゴン横丁の本通りに合流したハリーは、新刊『俺と魔法生物』『俺と妖精族』を求める生徒たちが長蛇の列をなす書店へと紛れ込む。サイン会の主役は、本年度の新任『闇の魔術に対する防衛術』教師ギルデロイ・ロックハート。金髪を波打たせ、紫のローブをまとって微笑む、稀代の自己宣伝家である。人混みの中にハリーを見つけた彼は、強引に肩を抱いて記者たちの前へ引きずり出し、勝手に共著の宣伝へと巻き込んでいく。書店の出口ではドラコ・マルフォイがハリーを侮蔑し、その口を父ルシウスが冷ややかな一瞥で制する。この一場面が、マルフォイ親子の人物像を一気に浮かび上がらせる。

空飛ぶフォード・アングリアと隠れ穴、ダ…

9と3/4番線の閉鎖、空飛ぶ車での到着

九月一日、キングス・クロス駅の9番線と10番線の柱の前に立ったウィーズリー家とハリーは、順にホグワーツ特急のホームへと抜けていく。ところが最後にカートを押して柱へ突っ込もうとしたハリーとロンを、見えない壁が弾き返した。何者かがホームへの通路を閉ざしていたのである。この妨害が、ハリーを学校に行かせまいとするドビーの必死の手段だったことは、のちに観客へと明かされる。

汽笛とともにホグワーツ特急が定刻でロンドンを発ったあと、二人は駐車場に停めてあったアーサーのフォード・アングリアを見つけ、空を飛んで列車を追うという無謀な手に出る。プロペラ機の整備工場の屋根すれすれをかすめ、ロンドンを離れた線路の真上を列車と並走するように低く飛ぶ。やがてスコットランド高地にホグワーツが見えてくる頃、エンジンが咳き込み始める。視界を覆う霧、夕暮れの紫の空、煙を吐く老いた車、その下で銀色に湾曲する湖。クリス・コロンバス監督は、ロンドン上空の俯瞰、子どもふたりの叫び声、駅から眼下を見守るハーマイオニーの顔を切り返しでつなぎ、この飛行のシークエンスをファンタジー映画らしい高揚へと仕立て上げた。

ホグワーツの敷地に降り立つ寸前、車は門の脇に植わる古い樹木——『暴れ柳(ホンピング・ウィロー)』——の真上に墜落する。柳は枝を激しく振り回し、動物のように襲いかかってくる。車内に閉じ込められたまま二人は揺さぶられ、やがて車は二人を吐き出すと、自ら森の方角へ走り去ってしまう。ロンの杖が真っ二つに折れたのもこの時で、修復しても接合部から火花を散らすようになる。中盤以降、彼の杖の不調が招くコミカルな失敗の数々——とりわけ自分の口にかけた『鼻血スラッグ吐き呪文』の暴発——は、すべてこの暴れ柳の場面に端を発している。

最初の襲撃

ホグワーツ城に着いた夜から、ハリーは原因のわからない冷たい声を耳の奥で拾うようになる。教室から教室への合間、城の壁の内側を這うように動く低い声は、彼にしか聞こえない——『裂け……引き裂け……殺せ』。はじめは疲れによる空耳と片づけられる。だがその声が遠ざかった先で、ハリーは凍りつくような光景に出くわす。

ハロウィン明けの夜、地下三階の廊下の壁に、血の色をした絵の具で大きな文字が浮かび上がっている——『秘密の部屋は開かれた。継承者の敵よ、気をつけよ』。その真下では、用務員アーガス・フィルチの愛猫ミセス・ノリスが、瞬きもせず体を硬直させたまま宙吊りになっている。死んではいない。だが、まるで石にされたように、毛の一本まで動かない。たまたま居合わせたハリー、ロン、ハーマイオニーは、駆けつけたフィルチに犯人として睨まれ、ダンブルドアの校長室で釈明する羽目になる。

校長は三人を疑わないが、教師たちのあいだで囁かれる『秘密の部屋』の伝説が、本作の縦糸として一気に重みを増していく。『変身術』の教師ミネルバ・マクゴナガルは、五十年前にこの城のどこかで起きた一件の生徒の死、それを引き起こしたとされる伝説の地下空間、そして『部屋の継承者だけが操れる怪物』について、淡々と生徒たちに語る。創設者の一人サラザール・スリザリンが他の三人と袂を分かち、純血の魔法使いだけが学べる学校を望んだ。そのために『継承者の血を引く者だけが開ける部屋』を城に残したという——その伝承を、彼女自身は『古いお話に過ぎないと信じたい』と断りつつ教えるのだ。

事件は終わらない。クィディッチの試合中、ドラコが買い与えてもらった最新箒ニンバス2001でスリザリン代表として現れ、ハリーのニンバス2000を圧倒する。だが試合の最中、何者かが細工した魔法のブラッジャーがハリーの右腕に集中砲火を浴びせる。追撃をかわそうと箒を握り直そうとした腕は、骨を折って吹き飛ばされる。試合後、保健室代行に呼び寄せられたロックハートが得意げに『修復呪文』を試すが失敗し、ハリーの右腕は骨そのものが消え失せて、ぶら下がるゴム人形のようになってしまう。ここに、マダム・ポンフリーが一晩かけて全骨を再生する『骨成長薬(スケレ・グロウ)』を飲ませる、痛みに満ちた処置の場面が挟まれる。

最初の襲撃

ポリジュース薬とドラコ尋問

二度目の襲撃で石化して発見されたのは、グリフィンドール塔のクラスメート、コリン・クリービーだった。カメラを構えたままの姿である。コリンが残したフィルムは現像中に黒く焼け焦げ、犯人の姿はどこにも残らなかった。事件が立て続けに起こるなか、ハリー、ロン、ハーマイオニーを追い詰めていくのが、ホグワーツ生のあいだに広まる噂だ。「ハリー・ポッターこそが部屋の継承者ではないか」——のちの決闘クラブでハリーが蛇語を話してしまうことで、この噂は決定的なものとなる。

三人は、嘆きのマートルの女子トイレを密造工房に変え、『ポリジュース薬』の調合を始める。ハーマイオニーが図書館の禁書区域の蔵書『最も強力な魔法薬』から書き写してきた調合法だ。一ヶ月かけて煮込むこの薬は、対象人物の体毛を一本入れれば、飲んだ者がその姿に一時間だけ変身できるという、おそろしく難度の高いものだった。狙いは、スリザリン塔への潜入である。ドラコ・マルフォイから「継承者は誰か」を直接訊き出そうというのだ。

薬が完成する場面の前に、ロックハートがやっとのことで開催した『決闘クラブ』で、ハリーはドラコと向かい合う。ドラコの放った蛇召喚呪文(セルペンソルティア)が黒い蛇を生み、観客の一人ジャスティン・フィンチ=フレッチリーへ襲いかかろうとする。ハリーは咄嗟に「よせ」と叫ぶ。だが彼の口から出たのは英語ではなかった。観衆全員の背筋を凍らせる蛇の言語『パーセルタング(蛇語)』である。観衆は息を呑んだ。サラザール・スリザリンが蛇語の使い手だったという伝承は、誰もが知っている。この瞬間からハリーは、正式に「部屋の継承者の容疑者」として学校中に晒されることになる。襲われかけたジャスティンもまた、後日、廊下で石化して発見される。

クリスマス当日、ポリジュース薬がついに完成する。三人はクラッブ、ゴイル、ミリセント・ブルストロードの体毛をそれぞれ手に入れる。ロンとハリーは食堂で前菜にチョコレートケーキを盛り、それぞれに薬を仕込んで二人を眠らせる。ところがハーマイオニーだけは別室で薬を飲み、思わぬ事態に陥る。ミリセントの「体毛」のはずだった毛が、実は飼い猫のものだったのだ。ハーマイオニーは黒い毛と耳と尻尾を生やした半猫人間に変じてしまう(マダム・ポンフリーの治癒には数週間を要した)。スリザリン寮へ潜入したハリーとロンは、共通休憩室の暖炉前でドラコと言葉を交わす。「継承者は私ではない。誰なのか父も話さなかった」「ただ五十年前にも一人マグル生まれが死んでいる」——決定的でありながら肝心なところがずれた情報を引き出し、二人は退散する。

ポリジュース薬とドラコ尋問

トム・リドルの日記とハグリッドの過去

嘆きのマートルの女子トイレで、ハリーは床に流れてきた一冊の古いノートを拾う。表紙には金色で『T.M.リドル』と打刻され、五十年前のホグワーツ生のものらしい。ページはすべて白紙だ。試しにインクをつけてみると、紙はいったんインクを吸い込み、何事もなかったかのように元の白さへ戻ってしまう。

実験のつもりで『僕の名前はハリー・ポッターです』と書き込むと、流麗な筆跡で返事が浮かび上がる——『はじめまして、ハリー。私はトム・リドル。きみは秘密の部屋について調べているのかい?』。日記は言葉を交わすのだ。やがてハリーが『五十年前に何が起きたか教えて』と頼むと、ページの中に映像が立ちのぼり、ハリーは若き日のトム・リドルの記憶へと飛ばされる。

そこで彼が目にするのは、ロンドンの孤児院で育った16歳の優等生トム・リドルが、当時の校長アルマンド・ディペットに『来年も学校に残らせてください、孤児院には戻りたくない』と請う場面、そして地下深くで生徒を襲った『怪物』を解き放った犯人として、当時のホグワーツ番人の少年——ルビウス・ハグリッドを糾弾する場面だった。リドルの記憶の中で、若いハグリッドは押し入れから巨大な蜘蛛のような何かを逃がそうとし、リドルがその場で取り押さえる。少女マートル・エリザベス・ワレンは当時すでに死亡しており、ハグリッドはその責任を負わされて魔法学校を退学させられ、杖を折られていた。

目を覚ましたハリーは、『五十年前の犯人はハグリッドだった』という信じたくない結論を抱えたまま日記を閉じる。だがその晩、寝室の枕元に置いていた日記が何者かに盗まれる。涙目で廊下を走り去るジニー・ウィーズリーの姿を、ハリーは目の端でとらえていた。誰が日記を持ち去ったのか——その伏線は観客には示されているが、ハリー自身は最後の最後まで気づかない。

トム・リドルの日記とハグリッドの過去

連続石化事件とハーマイオニーの石化

ホグワーツでの襲撃は、三件目、四件目と続いていく。リトル・ハングルトン出身のレイブンクロー生、純血の家系を持たないペネロピ・クリアウォーター、そしてマグル生まれの生徒たちが、次々と石化していく。校内には防衛魔法を心得た警備員が配され、わが子を引き取りに来る保護者からの連絡も相次ぐ。やがて学校の存続そのものが議論の的となり、コーネリウス・ファッジ魔法大臣が自らホグワーツへ足を運ぶ。

政治的圧力に屈したファッジは、五十年前の犯人と疑われたハグリッドを再び拘束する判断を下す。小屋を訪れた一行を前に、ハグリッドはハリーとロンへ、わざと聞こえるように告げる——『追いかけてくる者がいたら、蜘蛛を追え。蜘蛛を追えば、すべてが分かる』。そう言い残して連行されていく。同じ頃、ルシウス・マルフォイも小屋に現れ、校長アルバス・ダンブルドアに向かって、学校理事会十二名による解任決議を読み上げる。ダンブルドアは穏やかに、しかし含みを残して告げる——『真に助けを求める者がこの城にいる限り、私は本当にこの学校を離れることはありません』。

そしてもっとも衝撃的な事件が、ハーマイオニー・グレンジャーの石化である。彼女は禁書区域から借り出した古い書物の一ページを破り取り、隠し持ったまま、図書館脇の廊下で石化してしまう。真相に最も近づいていたのは、ほかならぬ彼女だった。それを物語る『破り取られた一ページ』を、ハリーとロンは後に、保健室で硬直した彼女の拳から取り戻すのだ。

連続石化事件とハーマイオニーの石化

アラゴグの森とバジリスクの正体

ハグリッドが遺した「蜘蛛を追え」の言葉を頼りに、ハリーとロンは夜半、闇に閉ざされた『禁じられた森』へと踏み込んでいく。森を縫うように走る、おびただしい数の蜘蛛の列。それを追う二人を、ロンの極度の蜘蛛恐怖症が容赦なく苦しめる。やがて蜘蛛たちが消えていく先で待ち受けていたのは、馬車ほどもある巨体の母蜘蛛——五十年前にハグリッドが孵化させ、この森に逃して育てた巨大アクロマンチュラの族長『アラゴグ』だった。

アラゴグはハグリッドを父と慕いながらも、二人をそのまま子孫の餌にしようとする。だがその会話のなかで、ハリーは決定的な手がかりを拾う。「五十年前にハグリッドが解き放ったとされた怪物は、私ではない。私はアクロマンチュラ、蜘蛛だ。城のなかで真に恐れられているのは、私たち蜘蛛さえ忌み嫌う、別の怪物である」。アラゴグはその名を口にしようとさえせず、ただ「城の奥に、誰の声でも目では捉えられない怪物がいる」とだけ告げるのだ。

窮地に陥った二人を救ったのは、ハグリッドの空飛ぶフォード・アングリア——昨秋に逃げ出したまま森で野生化していた老いた車だった。九死に一生を得て城へ戻った二人は、ハーマイオニーが石化する直前に握りしめていた『破られた書物の一ページ』を取り出す。そこには、何世紀にもわたり魔法界が恐れてきた怪物について、ハーマイオニーの几帳面な筆跡で『バジリスク(Basilisk)』と書き込まれていた。蛇の王。瞳を直視した者を殺し、間接的に見た者を石化させ、鶏の鳴き声と蜘蛛という天敵を恐れる、巨大な蛇である。そして、その怪物が城内を移動する手段が——『水道管』だった。マグル生まれの少女マートルが五十年前に命を落とした場所、ハーマイオニーが石化する直前まで疑っていた場所。それこそが、嘆きのマートルの女子トイレの洗面台の下に潜む『秘密の部屋』の入口だったのである。

アラゴグの森とバジリスクの正体

ジニーの誘拐と秘密の部屋への降下

その夜、ホグワーツの大広間の壁に新たな血文字が浮かび上がる——『継承者の骨は、永遠に秘密の部屋の中に横たわるであろう』。さらわれたのは、ロンの妹ジニー・ウィーズリーだった。教師たちが捜索に動き出すなか、ハリーとロンは、ハーマイオニーが残した手がかりを頼りに、嘆きのマートルの女子トイレへと走る。

二人を導いたのは、その浴室に永遠の少女として漂い続ける幽霊マートル本人である。マートルは、五十年前にここで『大きな黄色い目に直接見られて』命を落としたという当時の記憶を、初めて二人に語る。蛇の意匠が彫られた洗面台の蛇口こそがバジリスクの入口だった。ハリーが蛇語で『開け』と命じると、洗面台は崩れ落ち、城の下層へと続く真っ暗な縦穴が口を開ける。

ここでロックハートが、自ら進んで指揮を執ると申し出る——だが、それは生徒を救うためではなかった。『真相がここまで迫った以上、自分の名声を守るために君たちの記憶を消す』ためである。ロックハートは、自著『俺と〇〇』シリーズに綴られた『英雄譚』が、すべて他人の経験を聞き出したうえで記憶消去呪文をかけ、手柄を奪い取った虚構にすぎないことを、得意げに告白する。ところが、二人へ向けて放った呪文は、ロンの折れたままの杖から繰り出された『オブリビエイト』だった。呪文は暴発し、ロックハート自身の記憶を吹き飛ばす。天井の落盤の下敷きとなった彼は、自分が誰なのかも分からない『新生児めいた善人』に成り果てるのだった。

ジニーの誘拐と秘密の部屋への降下

トム・リドルの正体とI am Lord…

落盤でロックハートとロンから引き離されたハリーは、たった一人で『秘密の部屋』の中央広間へとたどり着く。巨大な蛇の彫像がずらりと並び、床は浅い水に覆われている。奥の高い壁には、サラザール・スリザリンその人の巨大な石像。その足元に、ジニー・ウィーズリーが倒れていた。半開きの目を閉じ、青白い顔を硬く凍らせたまま、ぴくりとも動かない。

ジニーの脇に膝をついたハリー。その背後に、ホグワーツの古い式服をまとった整った顔立ちの十六歳の少年が、煙のように立ち現れる。手に握られているのはハリーの杖だ。少年は穏やかな声で告げる——「ジニーは死にはしない。少なくとも、まだ」。彼こそが、日記を通じて少しずつ自らの記憶をジニーの心に流し込み、城の壁に「秘密の部屋は開かれた」と書かせ、雄鶏を絞めさせ、やがて少女自身の生気を吸い尽くしてここへ連れて来た張本人——「記憶のトム・リドル」だった。

ハリーが「あなたは何者だ」と問うと、リドルは杖の先で水面に光る文字を書き出す。最初の綴り——「TOM MARVOLO RIDDLE」。彼は静かに杖を振り、宙で文字の並びをかき混ぜる。並べ替えられた文字は、再びひとつの像を結ぶ——「I AM LORD VOLDEMORT(吾はヴォルデモート卿なり)」。本作でもっとも背筋の凍る数秒間だ。リドルこそ孤児院で育ったあの少年ヴォルデモートの本名であり、本作の悪はジニーが手にしてしまった日記そのものに巣食う「若き日のヴォルデモートの記憶」だった——観客はここで初めてその真相を知る。

ハリーは言い返す。「あなたは死にぞこないだ、ダンブルドアのいる学校では誰よりも弱い」。リドルは怒りを表に出さない。ただ静かに、スリザリンの石像の口へ向かって蛇語で命じる——「サラザールが残した、もっとも偉大な作品よ、来たれ」。石像の口がゆっくりと開いていく。その奥から、廊下に響き続けていたあの低い声の主が現れる。巨大な緑のバジリスクが、舌打ちのような音とともに、ついにその姿をあらわすのだ。

トム・リドルの正体とI am Lord…

バジリスクとの決闘とドビーの解放

瞳を直視すれば即死する——その掟から逃れるため、ハリーは両目を固く閉じたまま床を駆け回る。石像の頭上ではリドルが笑いながらバジリスクを煽り立てる。絶望の足音が迫るそのとき、ホグワーツの校長室から、不死鳥フォークスが燃えるような赤い翼で飛び込んできた。フォークスは、ダンブルドアへの忠誠の証としてハリーが手にしていた『分け前帽(組み分け帽)』を、嘴に咥えて落としていく。

フォークスは鋭い嘴でバジリスクの巨大な両眼を突き、『直視で殺す』という致命の武器を奪い去る。ハリーが組み分け帽の中へ手を突っ込むと、指先に剣の柄が触れた——ルビーをあしらった、ゴッドリック・グリフィンドール自身の剣である。帽から銀の剣を引き抜くと、瞳を潰されて闇雲に襲いかかるバジリスクの口へ、ハリーは下から剣を突き上げ、その頭蓋を貫いた。だが、その瞬間、上顎の毒牙が彼の右腕を深々と貫いてしまう。

床に倒れたハリーの脇で、リドルは満足げに告げる。『きみは死ぬ。バジリスクの毒は世界最強だ、誰にも治せない』。だが、その傷口にフォークスが涙を一滴落とした。不死鳥の涙が持つ癒しの力で毒は中和され、傷はみるみる塞がっていく。最後の一撃として、ハリーは剣の脇に転がっていたバジリスクの毒牙を握り、若きトム・リドルの日記の中心へ深く突き刺す。日記からは黒いインクが血のように噴き出し、リドルは絶叫を上げながら煙となって霧散した。そして、倒れていたジニーが目を覚ます。

城に戻ったハリーは、ダンブルドアの校長室で、ジニーを救った経緯と、リドルの日記そのものがこの一年間ずっと彼女を操っていたことを報告する。ダンブルドアは、ジニーの父アーサーが彼女を一切罰しないと決めたことを確かめたうえで、ハリーをこう諭す。『きみが孤児院で育った少年と多くを共有しているのは事実だ。しかし、何より大切なのは、私たちが持って生まれた力ではなく、私たちが選ぶ道なのだ』。シリーズ全体を貫く、もっとも重要な台詞の一つである。

校長室を出たところで、ハリーはルシウス・マルフォイと再会する。日記が破壊されたことで、一年前に自分がウィーズリー家の本のあいだへ密かに紛れ込ませた『主の遺品』が失われたと悟ったルシウスは、舌打ちして立ち去ろうとする。そこへハリーは、傷を負ったリドルの日記を、ルシウスが脱いだ汚れた靴下に包んで本人に押し返す。ルシウスは何の気もなく、その靴下を足元のドビーに『始末しておけ』と投げつけた。受け取った瞬間、ドビーは衝撃を受けたように立ち止まる——屋敷しもべ妖精は、主人から『衣服』を渡された瞬間に自由になる、という掟があるのだ。『主様は、ドビーに、衣服を、お与えに、なりました——ドビーは、自由です』。激昂したルシウスはハリーへ杖を向けかけるが、自由を得たドビーが指を一振りすると、年長の魔法使いは廊下の壁まで吹き飛ばされ、その場から退けられた。

学期末の大広間。マンドレイクから抽出された薬で、石化していた生徒たちが残らず目を覚まし、長いテーブルに着いていく。拘束を解かれて戻ったハグリッドが、生徒たちの拍手のなかへ照れくさそうに立ち上がる。ダンブルドアが『試験は中止する』と告げると、子どもたちは一斉に歓声を上げた。明朗な勝利でホグワーツ2年目は締めくくられ、物語はエンドクレジットへと続いていく。

バジリスクとの決闘とドビーの解放
ここまでが全編のあらすじである。以降は登場要素、人物、制作、公開と興行、舞台裏、テーマと続編への接続まで、作品を資料として理解するための章が続く。

登場要素

本作に登場・言及される主な要素を、人物・魔法生物・呪文・道具・場所・組織に分けて紹介する。これらの固有名詞はシリーズを読み解く手がかりであり、なかでも日記、組み分け帽、グリフィンドールの剣、フェニックスの涙は、本編終盤まで重要な意味を持ち続ける。

  • ハリー・ポッター
  • ロン・ウィーズリー
  • ハーマイオニー・グレンジャー
  • ジニー・ウィーズリー
  • フレッド/ジョージ・ウィーズリー
  • パーシー・ウィーズリー
  • アーサー・ウィーズリー
  • モリー・ウィーズリー
  • ドラコ・マルフォイ
  • ルシウス・マルフォイ
  • アルバス・ダンブルドア
  • ミネルバ・マクゴナガル
  • セブルス・スネイプ
  • ルビウス・ハグリッド
  • ギルデロイ・ロックハート
  • アーガス・フィルチ
  • ポピー・ポンフリー
  • コーネリウス・ファッジ
  • トム・マールヴォロ・リドル(若き日のヴォルデモート)
  • コリン・クリービー
  • ジャスティン・フィンチ=フレッチリー
  • ペネロピ・クリアウォーター
  • ニアリー・ヘッドレス・ニック
  • 嘆きのマートル
  • ドビー
  • ダーズリー家(バーノン、ペチュニア、ダドリー)

  • 屋敷しもべ妖精(ドビー)
  • バジリスク(蛇の王)
  • フェニックス(不死鳥フォークス)
  • アクロマンチュラ(アラゴグと一族)
  • マンドレイク(マンドラゴラの幼苗)
  • コーニッシュ・ピクシー(小妖精)
  • ヒッポグリフ(言及)
  • ふくろう(ヘドウィグ、エロール、ピッグウィジョン以前)
  • 幽霊(嘆きのマートル、ニック)
  • ノーム(隠れ穴の庭の小妖精)

  • フィニートまたは火花呪文(オブリビエイト=記憶消去)
  • セルペンソルティア(蛇召喚)
  • リクトゥセンプラ(くすぐり呪文)
  • エクスペリアームス(武装解除)
  • リパロ(修復)
  • ウィングアーディウム・レビオサ
  • 蛇語(パーセルタング)
  • ポリジュース薬
  • 未成年の魔法行使禁止
  • 煙突飛行粉(フルーパウダー)
  • 未検出可能拡張呪文(ホグワーツ特急のトランク)
  • 暴れ柳の防衛魔法
  • 鼻血スラッグ呪文の暴発

  • トム・リドルの日記(後の分霊箱の一つ)
  • 組み分け帽
  • ゴッドリック・グリフィンドールの剣
  • フォード・アングリア(空飛ぶ車)
  • ハリーのニンバス2000
  • ドラコのニンバス2001
  • ニンバス2001(ルシウスがスリザリン選抜全員に寄贈)
  • フォークスから贈られた涙
  • ルシウスがジニーの本に紛れ込ませた日記
  • 煙突付き暖炉のフルー網
  • ロックハートの記憶消去用の杖(折れたロンの杖)
  • ロンの折れた杖(自損呪文)

  • プリベット通り4番地(ダーズリー邸)
  • ウィーズリー家『隠れ穴』(オッタリー・セント・キャッチポール)
  • ダイアゴン横丁
  • ノクターン横丁(『ボージン・アンド・バークス』)
  • キングス・クロス駅 9と3/4番線
  • ホグワーツ城本館
  • ホグワーツ大広間/談話室
  • 嘆きのマートルの女子トイレ
  • ハグリッドの小屋
  • 禁じられた森(アラゴグの巣)
  • クィディッチ競技場
  • 保健室(病棟)
  • 暴れ柳
  • 秘密の部屋(サラザール・スリザリンの彫像のある地下広間)

  • ホグワーツ魔法魔術学校
  • ホグワーツ四寮(グリフィンドール/スリザリン/ハッフルパフ/レイブンクロー)
  • ホグワーツ理事会十二名
  • 魔法省(不適切な魔法使用課/魔法生物規制管理部)
  • ウィーズリー家
  • マルフォイ家
  • ホグワーツ職員一同
  • クィディッチ各寮代表チーム
  • 決闘クラブ(ロックハート発案、本作のみ)

14主要登場人物

本作は登場人物の描き方において、前作では「学校に入ったばかりの子どもたち」だったハリー、ロン、ハーマイオニーを、二年目という微妙な立ち位置へと置く。学校に慣れた者ならではの気の緩み、新たに入学してきた一年生(ジニー、コリン)への戸惑い、そして昨年と同じやり方ではとても解けない大きな謎の出現。これらが、彼らの輪郭を一段と濃く描き直していく。

ハリー・ポッター

前作で『生き残った男の子』として英雄に祭り上げられたハリーが、本作で初めて味わうのは、その英雄性が反転し、一転して『犯人扱い』される瞬間だ。彼は蛇語を話せてしまった。本来スリザリンの末裔だけが持つはずの能力が、なぜか自分の口をついて出る。その事実が、彼自身の自己像と、彼に向けられる学校全体のまなざしを大きく揺さぶっていく。

終盤、ダンブルドアがハリーに告げる『私たちが本当に何者であるかは、持って生まれた力ではなく、自分でどんな道を選ぶかで決まる』という言葉は、シリーズ全体を貫く倫理の出発点である。スリザリンの能力を持ちながら、グリフィンドールの剣を引き抜いたハリー。その彼が最後の最後で何を選んだか——日記を破壊し、ドビーを解放し、友を救った——。その選択そのものが、彼の答えになる。

ダニエル・ラドクリフは本作で13歳。声変わり直前の少年の身体と表情をもって、前作よりわずかに深い罪悪感と疲労の影を宿したハリーを、丁寧に演じている。

ハリー・ポッター

ロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グ…

ロンが本作で背負うのは、家族という新たな重荷だ。なかでも妹のジニーが日記に取り憑かれていく姿が、彼に重くのしかかる。折れた杖、克服できない蜘蛛恐怖症、そしてマルフォイ家との対比で繰り返し画面に映し出される家計の苦しさ。やがてジニー誘拐の報せを受けた瞬間、その顔が崩れる。一連の出来事が、二年目のロンを一気に大人びさせていく。ルパート・グリントの大仰なリアクション演技は、本作に数少ない笑いをもたらし、暗いミステリー全体の温度を救っている。

ハーマイオニーは本作で、シリーズを通じて最も「推理によって物語を動かす役」を担う。ポリジュース薬の調合、禁書区域の文献から割り出すバジリスクの正体、そして最後に破り取って手に残した一ページ。本作で明かされる真相は、すべて彼女の知性によって繋ぎ止められている。逆に言えば、中盤で彼女が石化することで、ハリーとロンは自分たちの足で残りの謎を歩かねばならなくなる。そういう構造の物語でもあるのだ。

エマ・ワトソンは本作でわずか12歳。ドラコに「穢れた血(マッドブラッド)」と侮蔑される場面の傷ついた表情と、それを庇おうとしたロンの暴発呪文(鼻血ナメクジ吐き)が同時に成立する。この一場面は、三人組の感情の核を最も短く伝える瞬間として、たびたび引用されてきた。

ロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グ…

アルバス・ダンブルドア

本作で校長アルバス・ダンブルドアを演じるのは、リチャード・ハリス。二度目の——そして結果として最後の——登板となった。ハリスは公開直前の2002年10月25日、72歳でこの世を去り、本作は遺作のひとつとなった。アイルランドが生んだ名優は、穏やかでありながら微塵も揺るがない口調、目尻に刻まれた優しい皺、長い銀髭の奥にひそむ鋼の意志を見せる。そのすべてが、シリーズが後年たどり着く“校長ダンブルドア像”の原型を形づくっている。

作中で彼が口にする『私たちが本当に何者であるかは、持って生まれた力ではなく、自分でどんな道を選ぶかで決まる』。ローリングが原作で何度も書き換え、磨き上げた一節であり、シリーズ全体の倫理を凝縮した核心の台詞である。リチャード・ハリスはこれを教師の説教としてではなく、夜の校長室の暖炉の前で年若い友人に語りかけるように、低く穏やかに発する。

アルバス・ダンブルドア

ギルデロイ・ロックハート

新任の『闇の魔術に対する防衛術』教師として登場するロックハートは、本作では数少ない、はっきりと喜劇的な役どころだ。演じるのはケネス・ブラナー。シェイクスピア劇とハリウッド映画の双方で名を成した英国の俳優・監督である。その彼が、自己愛と虚栄心の塊のような稀代の自己宣伝家を、上品なほど大袈裟に演じてみせる。

授業初回、教室に放ったコーニッシュ・ピクシーを制御できず大混乱に陥る場面。ハリーの腕の骨を消してしまう『修復呪文』の失敗。決闘クラブであっさりスネイプに弾き飛ばされる一幕。そして終盤、女子トイレで自分の杖の不始末から自らの記憶を消してしまう自業自得の結末——。どれも彼の自己愛にふさわしい報いであり、観客に笑いと納得を同時に与えてくれる。

本シリーズにおける彼のもう一つの役割は、『闇の魔術に対する防衛術』の教師は毎年呪われたように一度しか務まらない、というシリーズ全体のお約束(その由来は後に第6作で明かされる)の、二人目の犠牲者でもあるという点だ。

ギルデロイ・ロックハート

ルシウスとドラコ・マルフォイ

ルシウス・マルフォイが初めて姿を見せるのが本作だ。長い銀髪に漆黒のローブ、蛇の頭をかたどった握りの仕込まれたステッキ。ジェイソン・アイザックス演じるルシウスは、のちにシリーズ全体の影を握る存在――闇の魔法使いの再興を画策する純血主義の上流階級――を、わずか数場面で完璧に立ち上げてみせる。娘ジニーが拾った古本のあいだにトム・リドルの日記をひそかに紛れ込ませ、そのまま手放した。この一事こそが、本作で起こる事件すべての根本原因である。

息子ドラコ・マルフォイ(トム・フェルトン)の意地の悪さは前作より数段増している。ハーマイオニーに投げつける『穢れた血』は、純血主義の侮蔑語として本作で初めて口にされ、シリーズ全体の重要な伏線を担う言葉だ。やがて彼自身を苦しめることになる『純血主義者の息子』というアイデンティティが、ここで初めて画面に置かれる。

ルシウスとドラコ・マルフォイ

舞台と用語

舞台となるのは、夏のサリー州プリベット通り、初秋のロンドン(ダイアゴン横丁、ノクターン横丁、キングス・クロス駅)、そして秋から初夏にかけてのスコットランド高地にそびえるホグワーツ城だ。本作で初めて画面に姿を見せる魔法の地は、ウィーズリー家の『隠れ穴』、ノクターン横丁の闇の魔法用品店『ボージン・アンド・バークス』、嘆きのマートルの女子トイレ、そしてもちろん、地下深くに眠る『秘密の部屋』である。なかでも秘密の部屋の中央広間——緑色の照明、両側にずらりと並ぶ蛇の彫像、奥にそびえ立つサラザール・スリザリンの巨大な像、足元に広がる浅い水面——は、本作のクライマックスのために組まれた、シリーズ屈指の巨大屋内セットである。

用語の面でも、本作で初めて画面に登場する重要な概念がいくつもある。『パーセルタング(蛇語)』は、サラザール・スリザリンの末裔だけが受け継ぐとされる希少な能力だ。なぜハリーがこの力を持っていたのか——母を守って死ぬ前夜に、ヴォルデモートからその力の一部が移っていたから——という謎は、後の本編で決定的な伏線として回収される。『屋敷しもべ妖精(House-elf)』は、純血の上流魔法使いの家に古くから仕える奉公人種族で、自由になるための唯一の条件は『主から衣服を授かること』である。『マンドレイク(マンドラゴラ)』は、引き抜くときの叫び声が成人魔法使い以外を死に至らしめる薬草で、その成熟した根が、石化呪文の中和薬の原料になる。『分霊箱(ホークラックス)』という単語そのものは本作で一度も発音されないが、ジニーの日記が事実上の分霊箱第一号として機能している。

そして、本作でもっとも重要な舞台装置である『秘密の部屋』そのものは、ホグワーツ城の創設の時代——千年前——にさかのぼる。四人の創設者のひとりサラザール・スリザリンが、純血主義をめぐって他の三人と袂を分かったのち、自らの末裔のためだけに城の地下へ密かに残した別空間だ。バジリスクの飼育、蛇語による入口の開閉、そして『真の継承者だけがこの怪物を意のままに動かせる』という掟。これらはすべて、『マグル生まれの生徒に魔法を教えるべきでない』というサラザール本人の思想の延長として設計されている。

舞台と用語

21制作

ハリー・ポッター本編シリーズ第2作の製作が動き出したのは、前作『賢者の石』が世界興収9億7000万ドル超を叩き出した直後、2001年の半ばだった。監督のクリス・コロンバス、脚本のスティーヴ・クローヴス、製作のデヴィッド・ヘイマン、音楽のジョン・ウィリアムズ、撮影監督のロジャー・プラット、美術のスチュアート・クレイグ——主要スタッフはほぼ前作から続投し、原作との連続性を何よりも重んじる方針が貫かれた。本セクションでは、企画と脚本、キャスティング、衣装と美術、視覚効果、音楽と音響、撮影と編集に分けて整理していく。

制作

企画と脚本

脚本は、シリーズの大半を手がけることになるスティーヴ・クローヴスが続投した。クローヴスは『恋する人魚たち』『ワンダー・ボーイズ』など、文学的な人物像の映画化で知られる脚本家である。その脚本作法は、原作の長さを削るのではなく、感情の核を選び、その周辺を残すというものだった。本作の脚本は原作よりさらに長く、撮影完了時の劇場公開版は161分、拡張版は174分に及ぶ。シリーズの長尺路線は、ここで決定づけられた。

原作の重要な要素のうち、本作の脚本で唯一大きく削られたのが『絶滅日(デスデイ)パーティ』、すなわちニアリー・ヘッドレス・ニックの幽霊500周年命日を祝う地下の夜会である。劇場公開版では完全にカットされ、拡張版で復活した。日記の中の若きトム・リドルの回想場面も、原作の細部より大幅に短縮されている。だが、五十年前のハグリッド少年とリドル少年のあいだに走る緊張関係は、ほぼ原作通りに映像化された。

脚本上の決定的な発明のひとつが、終盤で『TOM MARVOLO RIDDLE』を『I AM LORD VOLDEMORT』へと並べ替える場面の演出である。原作では文字を空中で並べ替える描写だった。これを映画では、リドルが杖の先で水面に書いた光の文字が、宙へ浮かびながらゆっくりとアナグラムを成していく演出に翻案している。

キャスティング

前作の主要キャストは、ほぼ全員がそのまま続投している。ハリー役のダニエル・ラドクリフ、ロン役のルパート・グリント、ハーマイオニー役のエマ・ワトソン、ドラコ役のトム・フェルトン、ハグリッド役のロビー・コルトレーン、マクゴナガル役のマギー・スミス、スネイプ役のアラン・リックマン、そしてダンブルドア役のリチャード・ハリス。三人の主役は撮影当時いずれも12〜13歳。声変わりや身長が一年で大きく変わる、その難しい年頃にあった。

本作から加わった主要キャストには、ギルデロイ・ロックハート役のケネス・ブラナー、ルシウス・マルフォイ役のジェイソン・アイザックスがいる。アイザックスは当初ロックハート役のオーディションを受けていた。だが監督のクリス・コロンバスは、彼のまとう「冷たい上流階級の悪」にこそ価値を見いだし、長い金髪のかつらを与えてルシウス役へと配役を切り替えたという。この逸話は、後年のDVD特典で語られている。

屋敷しもべ妖精ドビーは全身がCGで描かれたキャラクターで、声には英国の俳優トビー・ジョーンズが起用された。低めながらどこか少年めいた声。激しい感情の波がそのまま身体ごと震えに変わるようなその演技が、自らを罰する場面と、ラストで自由を宣言する場面を、シリーズ屈指の忘れがたい瞬間へと押し上げた。トム・リドル役には、英国の若手俳優クリスチャン・コールソンが撮影時22歳で配役されている。十六歳に見せるための髪型と肌の処理が施され、リドルの「端正だが冷たい」雰囲気は、後のヴォルデモート像の起点として刻まれた。嘆きのマートル役にはシャーリー・ヘンダーソン(撮影時すでに36歳で、シリーズ中もっとも年齢を偽った配役の一つとなった)、アラゴグの声には英国の重鎮ジュリアン・グラヴァーが充てられている。

美術とプロダクションデザイン

美術監督を務めたのはスチュアート・クレイグ。シリーズ全8作に加え、続編にあたる『ファンタスティック・ビースト』3作のすべてで美術を手がけることになる人物で、シリーズ全体の継続性を支える最大の鍵といえる。本作で新たに造形されたのは、ウィーズリー家の住む『隠れ穴』──塔のように縦へ縦へと増築された奇妙な家屋、そしてノクターン横丁の店内である。さらにクライマックスのため、英国リーヴスデン・スタジオには『秘密の部屋』の中央広間が恒久セットとして組み上げられた。

秘密の部屋の広間は、両側に十数体の蛇の彫像を並べ、奥にはサラザール・スリザリンの巨像(高さ約12メートル)がそびえる。床には浅く水が張られて像を映し込み、照明は緑がかり、湿った空気を表すために霧が機械で投射された。バジリスクの彫像から這い出る巨大な蛇は、フレームストアが手がけた完全なCGモデルである。ただし接近ショットの一部には、実物大に造形したアニマトロニクスの頭部が用いられた。

ドビーは、本作のCGにおける最大の難関のひとつだった。表情と動き、原作どおり古い枕カバーをまとった衣装、そして声を担当したトビー・ジョーンズの動きを参考にしたモーション・キャプチャ素材──これらを組み合わせ、最終的に1100カットを超える合成が行われた。劇場公開の時点で『完全にCGの主要キャラクター』としては当時の最高水準に達したと評価された。

美術とプロダクションデザイン

視覚効果

視覚効果は、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)、フレームストア、MPC(ムービング・ピクチャー・カンパニー)、ダブル・ネガティブといった複数の主要VFXスタジオが分担して手がけた。なかでも難度が高かったのは、空飛ぶフォード・アングリアの長い飛行シーン、暴れ柳の動きのシミュレーション、クィディッチの試合中にブラッジャーを追うカメラ、不死鳥フォークスの炎と再生、そしてバジリスクの暴走だ。

暴れ柳は原作でも重要な存在だが、現実の樹木の枝を機械仕掛けで動かすとなると重量と速度の制御が難しい。そこでロケで撮影した一本のオークの巨木をベースに、枝の動きはすべてデジタル合成で重ねる手法がとられた。フォード・アングリアが柳の枝につかまれ、振り回される場面の衝撃は、車体の実写ロケと、枝のCG、そして車内の演技撮影という三層を合成して作り上げている。

不死鳥フォークスは、燃え尽きて卵から再生する場面、バジリスクの目を突く場面、ハリーの傷に涙を落とす場面、組み分け帽を運んでくる場面と、シリーズ全体でも屈指の出番をもつ魔法生物となった。本作で作られたフォークスのモデルは、その後の全シリーズに受け継がれる基本モデルとなる。

視覚効果

音楽と音響

音楽は前作に続いてジョン・ウィリアムズが手がけた。ただし、当時のウィリアムズは『ターミナル』『マイノリティ・リポート』『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』といったスティーヴン・スピルバーグ作品と並行して動いており、本作ではテーマ曲と主要場面のスコアに筆を集中させた。残る補助スコアの編曲と指揮は、長年の盟友ウィリアム・ロスに託されている。

前作で確立された『ヘドウィグのテーマ』『ホグワーツの大広間』『ニンバス2000』といった主題は本作でも繰り返し奏でられ、加えて『フォークスのテーマ(フェニックスのアリア)』、戦いの核を成す『秘密の部屋の主題(バジリスクのモティーフ)』、そしてエンドクレジットを彩る祝祭の主題が新たに書き下ろされた。フォークスのテーマはハープと女性ソプラノの無歌詞ヴォカリーズで紡がれ、シリーズ全体でも屈指の繊細な一曲とされている。

音響デザインに目を向けると、城壁の内側をバジリスクが這い進む低い擦過音、ハリーにだけ届く「裂け……殺せ」という蛇語の通奏低音、そして秘密の部屋の中央広間に響く濡れた足音と石の反響が、本作全体を貫くホラー要素を下支えしている。

撮影とロケ

撮影監督は『未来世紀ブラジル』『マイ・レフトフット』『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』を手がけたロジャー・プラットが務めた。本作のプリンシパル撮影は2001年11月に始まり、2002年7月まで約8ヶ月を費やしている。ホグワーツ城の内外は前作と同じく英国のリーヴスデン・スタジオを拠点に撮影され、グレートホール、動く階段、図書館、ダンブルドアの校長室といった前作で組まれた既存セットがそのまま再利用された。

ロケ撮影に使われたのは、廊下の血文字の場面を撮ったグロスター大聖堂の回廊、廊下と教室の追加場面のダラム大聖堂、ホグワーツの屋外にあたるホリーヘッドのスコットランド高地、隠れ穴の屋外となるヴァージニア・ウォーター、9と3/4番線の場面を撮ったロンドンのキングス・クロス駅本駅、そしてダイアゴン横丁の屋外参考素材を集めたロンドン市内の各種通りなどである。

ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンの3人は、撮影当時すでに学業との両立が厳しく制限されていた。撮影現場にはそれぞれの専任教師が同行し、英国の児童労働法に基づいて1日あたりの撮影時間と授業時間が厳密に管理されていたのである。長期にわたる撮影は、子役たちの身長と顔つきが目に見えて変わっていく一年でもあった。本作を通して観るとハリー、ロン、ハーマイオニーの背丈が冒頭と終盤で違って見える──シリーズおなじみのこの特徴は、ここから始まったといってよい。

編集

編集を手がけたのはピーター・ホネス(『ザ・ロック』『L.A.コンフィデンシャル』)。本作では『プリベット通り→隠れ穴→ダイアゴン横丁→ホグワーツ』という移動のリズムを丁寧に編むことに重点が置かれている。とりわけ前半1時間、隠れ穴とダイアゴン横丁の生活描写は、シリーズの核である『生活感のあるファンタジー』を担うパートだ。ここでは原作の細部を可能な限り残す方針で組み上げられた。

終盤の秘密の部屋のシークエンスは、編集上の最大の難所である。ロックハートの記憶消去呪文が暴発して天井が崩れ落ち、ハリーとロンは分断される。そこから、瓦礫の向こうでロックハートとロンが一本一本がれきをどかしていく『救出側』と、地下広間でハリーがリドルとバジリスクに対峙する『戦闘側』、二つの進行が同時に走り出す。この二つをクロスカットで畳みかけながら、観客を一度も置き去りにしないテンポへと組み上げる──そこに編集の腕が問われた。

29公開と興行

本作が英国・米国で同時公開されたのは2002年11月15日。日本では同年11月23日に全国公開された。北米のオープニング週末興収は約8800万ドルにのぼり、最終的に北米で約2億6200万ドル、全世界では約8億7900万ドルを記録した。当時のワーナー作品としては前作『賢者の石』に次ぐ大ヒットとなり、2002年の世界興行収入でも『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』に次ぐ第2位に食い込んでいる。

日本国内では公開4日間で約16億円を稼ぎ、最終的な興収は約173億円に達した。2002年の外国映画では首位、邦画を含む年間興行でも『千と千尋の神隠し』『猫の恩返し』に続く第3位という堂々たる成績である。このヒットを機にワーナー・ジャパンと東宝東和の合同配給体制が固まり、以降、ハリー・ポッター本編は日本の年末興行を彩る定番作品として位置づけられていく。

受賞面でも存在感を示した。第29回サターン賞ではファンタジー映画賞と最優秀若手俳優賞(ダニエル・ラドクリフ)に輝いている。さらに第56回英国アカデミー賞の美術賞、視覚効果賞、メイクアップ・ヘアスタイリング賞などにノミネートされ、第60回ゴールデングローブ賞、第26回日本アカデミー賞最優秀外国作品賞にも名を連ねた。

本作の成功は、全8作にわたるシリーズの継続を確かなものとした。第3作『アズカバンの囚人』(2004)ではアルフォンソ・キュアロンへ、第4作『炎のゴブレット』(2005)ではマイク・ニューウェルへと監督が交代し、第5作以降はデヴィッド・イェーツが4作連続でメガホンを取る。後年へと続くシリーズ展開の土台は、ここで築かれたのである。

30批評・評価・文化的影響

公開時の批評家の評価は、前作『賢者の石』とほぼ同水準の、おおむね好意的なものに落ち着いた。米国の主要な批評集計サイトでは批評家支持率が80%前後を保ち、観客の評価はそれをさらに上回った。原作は長尺だが、それを過不足なく映像化した一本として歓迎されたのである。一方で、『161分は子ども向け映画としては長すぎる』『前作と同じ監督による演出の延長で、トーンに新味がない』という声も上がった。

後年の再評価では、本作をシリーズ全体のなかで『最も原作に忠実な一本』と位置付ける見方が多い。第3作以降は監督の交代とともに、映像表現がより暗く、より省略的な方向へと移っていく。それゆえ本作は、『コロンバス時代のホグワーツ』を最も完全な形でとどめた記録として、独自の価値を持つ。子どもの目に映るホグワーツの広大さ、グレートホールの賑わい、寮の暖炉のぬくもり、廊下を行き交う生徒たちの軽口——それらを画面いっぱいに収めたこの映画で、コロンバスの描いた世界は事実上の頂点を迎えた。

文化的な面では、終盤の『TOM MARVOLO RIDDLE』から『I AM LORD VOLDEMORT』へと組み替えられるアナグラムの場面が、シリーズ全体のミステリーの根幹を可視化した瞬間として記憶されている。あの日記こそが後に『分霊箱(ホークラックス)』の第一号だったと、第6作『謎のプリンス』で改めて明かされる。そこで本作のクライマックスが、シリーズ最終巻まで連なる長大な伏線の最初の一手だったことが、振り返って浮かび上がってくるのだ。本編最後の数十秒——ドビーが靴下を受け取り、『ドビーは自由です』と宣言する瞬間——は、後の第7作『死の秘宝 PART1』、シェル・コテージの庭でのドビーの死と並んで、シリーズ最大の感情の対をなす場面である。

舞台裏とトリビア

ダンブルドア校長を演じたリチャード・ハリスは、本作公開直前の2002年10月25日、ホジキンリンパ腫のため72歳でこの世を去った。本作は彼の遺作のひとつである。エンドクレジットに追悼の献辞こそ添えられていないものの、撮影中に撮られた最後の校長室のシーンを、監督のクリス・コロンバスとプロデューサーのデヴィッド・ヘイマンは後年のインタビューで「シリーズで最も美しいダンブルドアの登場」と繰り返し語っている。続編『アズカバンの囚人』からは、アイルランドの名優マイケル・ガンボンが役を引き継いだ。

ハリー、ロン、ハーマイオニーを演じた3人の身長は、撮影が始まってから終わるまでの8か月のあいだに目に見えて変わった。とりわけルパート・グリントとダニエル・ラドクリフは数センチ単位で背が伸び、本作後半のシーンではホグワーツの制服のローブが丈の合わないように見えるカットもある。声変わりも撮影期間中に進み、編集上の音声を整えるためにADR(後録りの台詞)が多用された。

屋敷しもべ妖精ドビーは、原作者J.K.ローリングが映画化にあたってもっとも「カットしないでほしい」と願ったキャラクターである。CG表現の難度は高かったが、本作で完全な姿として映像化された。声を担当したトビー・ジョーンズの仕事は、脇のキャラクターを主役級の感情で支えるという、本作以後のシリーズに受け継がれる伝統の起点となった。

ギルデロイ・ロックハート役は当初ヒュー・グラントに内定していたが、スケジュールの都合で降板し、代わってケネス・ブラナーが配役された。原作が描く「虚栄心の塊だが憎めない」人物像を、ブラナーは自身の演出家としての経歴を逆手に取り、過剰な自己愛の喜劇として演じきった。

終盤のアナグラムの場面は、各言語版で訳語ごとに別のアナグラムを組み直す必要があった。日本語版字幕では「トム・マールヴォロ・リドル」を「闇の王ヴォルデモート卿」へと並べ替える吹替・字幕処理が施されている。各言語版でリドルの中間名「マールヴォロ」の綴りが異なるのは、すべてこのアナグラムを成立させるためである。

32テーマと解釈

本作の中心にあるのは「人は血筋ではなく、自らの選択で決まる」というテーマである。千年前、サラザール・スリザリンは「純血の生徒だけが学ぶべきだ」という思想を残した。その末裔の血を引きながら、マグル生まれの母から生まれたのがトム・リドル——のちのヴォルデモートである。一方、同じく蛇語を操りながらマグル生まれを庇うのがハリーだ。この三層の対比のなかに、終盤のダンブルドアの台詞「私たちが本当に何者であるかは、持って生まれた力ではなく、自分でどんな道を選ぶかで決まる」が、作品の倫理の核として置かれている。蛇語という「血の力」を持つ者が、グリフィンドールの剣を引き抜く——その対比こそ、本作のテーマを目に見える形にしたものだ。

もう一本の柱は「抑圧された者の解放」である。屋敷しもべ妖精のドビーは、ハリーを救うために主人の家を無断で抜け出し、そのたびに自らを罰しながらも警告を続けた。やがて終盤、ハリーが古い靴下にリドルの日記を包んでルシウスに返す。ほんの数秒の機転だが、これによってドビーは千年単位で続いた「主人に縛られる隷属」から解き放たれる。シリーズ後半でハーマイオニーが「屋敷しもべ妖精解放戦線(S.P.E.W.)」として追い求めるテーマも、その源流は本作のこの一場面にある。

そして第三のテーマが「記憶という凶器」である。トム・リドルの日記はジニーの心を読み取り、その記憶を吸い上げ、少女の生気そのものを糧にして自らの姿を作り直そうとする。これは原作後半で明かされる「分霊箱(ホークラックス)=魂の一部を物に分けて保存し、擬似的な不死を得る術」の最初の具体例であり、本作の悪は「過去の自分を物に封じ込め、他者を食らう者」として描かれている。終盤、ジニーの手から日記を奪い返したハリーに、リドルは「きみは死ぬ」と告げる。だがその直後、ハリーは日記の中心にバジリスクの牙を突き立て、「過去の自分を内側から殺す」。この構図は、シリーズ全体の最終決戦を、ここで一度先取りしているのだ。

テーマと解釈

33見る順番

初めて触れるなら、まずは前作『賢者の石』を観てから本作に進んでほしい。プラットフォーム9と3/4、ホグワーツ四寮、組み分け帽、ニンバス2000、ヴォルデモートが両親を殺したこと、ハリーの額の傷の意味——いずれも本作では既知のものとして扱われ、改めて説明されることはない。前作の続きであることを前提に編まれた一作である。

本作のあとは、第3作『アズカバンの囚人』、第4作『炎のゴブレット』、第5作『不死鳥の騎士団』、第6作『謎のプリンス』、第7作『死の秘宝 PART1』、第8作『死の秘宝 PART2』の順で観るのが標準だ。とりわけ本作に登場するトム・リドルの日記は、第6作で『分霊箱の第一号』であったことが正式に明かされる。本作のラスト数分が物語の最深部まで連なっていたと、後から振り返って分かる仕掛けになっている。

ファンタスティック・ビースト三部作(2016/2018/2022)は、本編8作を観終えたあとの『前日譚としての追加観賞』と位置付けると入りやすい。本作の悪のひとつである『純血主義』——その思想的な源流が、続編に登場するグリンデルバルドへと連なっていく。その流れを意識して観れば、シリーズ全体を貫く倫理的な構造が見えてくるはずだ。

見る順番

34よくある質問

『あらすじだけ知りたい』なら、押さえるべき流れはこうだ。ドビーがハリーの帰校を阻もうとするも、ハリーはホグワーツへ戻る。やがて校内で連続する石化事件と『秘密の部屋』伝説の真相を追い、嘆きのマートルが棲む女子トイレの下に広がる地下空間で巨大なバジリスクを倒す。そしてその正体だったトム・リドル=若き日のヴォルデモートの日記を破壊する。ここまで把握すれば十分である。

『結末・ネタバレを知りたい』なら、核となるのは次の点だ。誘拐された妹ジニーこそ日記に取り憑かれた本人だったこと。地下に現れた美しい少年がトム・マールヴォロ・リドル=後のヴォルデモートだったこと。ハリーは組み分け帽から引き抜いたグリフィンドールの剣でバジリスクを倒し、その毒牙で日記を貫いて勝負を決したこと。そしてラストでドビーが靴下によって解放されたことである。

『なぜハリーは蛇語が話せるのか?』。本作では『何らかの理由で』としか語られない。だが第4作『炎のゴブレット』、続く第5作『不死鳥の騎士団』で真相が明かされる。ハリーが赤ん坊だったとき、ヴォルデモートが彼を殺そうとして失敗した。その結果、ヴォルデモートの能力の一部がハリーに移ってしまったのだ。

『リチャード・ハリスのダンブルドアは本作が最後か?』。答えはイエスで、本作が彼の遺作にあたる。第3作『アズカバンの囚人』からは、アイルランドの名優マイケル・ガンボンが校長役を引き継ぐ。

『本作と原作小説の違いは?』。劇場版では絶滅日(デスデイ)パーティの場面がカットされ(拡張版で復活)、若きトム・リドルが語る五十年前の回想場面もかなり短縮されている。とはいえそれ以外の主要場面は、本シリーズの中でも特に原作に忠実に映像化されている。

35参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、その他各種の権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年や興行成績、受賞歴、配信状況、外部の評価は時とともに変わりうるため、視聴の前に公式サイトや各データベースの最新情報を確認されたい。本記事の本文は、各種の公開情報をもとに、Anna Movies独自の日本語記事として構成したものである。

参考資料・出典 (5件)
  1. Harry Potter公式(Wizarding World)作品ページ
  2. Wizarding World公式
  3. Harry Potter Wiki(英語)Harry Potter and the Chamber of Secrets (film)
  4. IMDb: Harry Potter and the Chamber of Secrets (2002)
  5. BAFTA: 2003 Awards Nominees