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アベンジャーズ/エンドゲーム

宇宙人口の半分が指で消えた世界で、残された六人と仲間たちが時間そのものを盗みに出る。インフィニティ・サーガ22作の積み重ねを「アベンジャーズ、アッセンブル」の一語へ収束させた、シリーズ最大の終章。

📅 2019年4月26日 米国公開 / 2019年4月26日 日本公開 ⏱ 181分 🎬 ルッソ兄弟 🏛 マーベル・スタジオ
94%
Rotten Tomatoes批評家
90%
Popcornmeter観客
4.4/5
Filmarks日本
4.3/5
Letterboxd全世界
8.4/10
IMDb
アベンジャーズ/エンドゲーム 公式ポスター

作品データ

作品
アベンジャーズ/エンドゲーム
原題
Avengers: Endgame
媒体
映画(実写)
米国公開
2019年4月26日
日本公開
2019年4月26日
監督
アンソニー・ルッソ/ジョー・ルッソ
脚本
クリストファー・マルクス/スティーヴン・マクフィーリー
原作
マーベル・コミック(ジム・スターリン『インフィニティ・ガントレット』ほか)
製作
ケヴィン・ファイギ
音楽
アラン・シルヴェストリ
撮影
トレント・オパロック
編集
ジェフリー・フォード/マシュー・シュミット
視覚効果
ILM/Weta Digital/Digital Domain/Framestore/Cinesite ほか
製作会社
マーベル・スタジオ
配給
ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ
上映時間
181分
製作費
約3.56億ドル(前作と合算で公表される版もあり)
興行収入
全世界 約27.99億ドル(再公開含む、最終的に『アバター』を一時抜いて歴代1位)
MCU区分
フェーズ3・第22作/インフィニティ・サーガ完結編
時系列上の前後
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』 → 本作 → 『スパイダーマン/ファー・フロム・ホーム』
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📖 全38章 / 約24K字 🔄 最終更新 2026年5月26日 ✍️ Anna Movies 編集部

アベンジャーズ/エンドゲームは、2019年に公開されたアメリカのスーパーヒーロー映画である。宇宙の生命の半分が消滅した世界で、生き残ったアベンジャーズが時間旅行によって失われた者たちの復活を目指す。マーベル・シネマティック・ユニバースの第22作にあたり、22作を積み重ねた「インフィニティ・サーガ」を締めくくる完結編として位置づけられる。

00概要

『アベンジャーズ/エンドゲーム』(Avengers: Endgame)は、アンソニー・ルッソとジョー・ルッソが監督を務めたアメリカのスーパーヒーロー映画である。2019年4月26日に米国・日本ほか世界各地でほぼ同日公開され、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の第22作にあたる。シリーズの章立てではフェーズ3のクライマックスであり、2008年の『アイアンマン』から続く「インフィニティ・サーガ」三幕22作の最終章として設計された一本だ。11年かけて積み上げてきた物語を畳みにいく、まさに集大成と呼ぶべき位置に置かれた作品である。

脚本は前作『インフィニティ・ウォー』に続き、クリストファー・マルクスとスティーヴン・マクフィーリーのコンビが続投した。この二作、もともと二部作として一本の原稿に書き上げ、後から二作へ分割して仕上げたという経緯がある。撮影もほぼ前作と地続きで、英国とアメリカ・アトランタを拠点に進められた。したがって本作は、前作の延長線上にある完結編というより、最初から一つの長編として構想された後半パートとして捉えるのが正しい。

物語の核はきわめてシンプルだ。『インフィニティ・ウォー』のラスト、サノス(ジョシュ・ブローリン)が六つのインフィニティ・ストーンをガントレットに揃え、指を鳴らして宇宙の全生命の半分を塵に変えてしまった——あの絶望的な出来事を、生き残ったアベンジャーズが「どうにかして取り消す」物語である。だが、その「どうにか」が単なる時間遡行ではないところが肝だ。量子領域を利用したタイムヒースト(時間強奪)として組み上げられており、シリーズ過去作の“あの現場”にヒーローたちが直接踏み込み、お宝であるインフィニティ・ストーンを奪い返していく。ファンサービスと物語の総決算を兼ねた、なんとも贅沢な構造で描かれている。

本記事は結末を含む全編の内容に深く踏み込む。トニー・スタークの犠牲ナターシャ・ロマノフの自己犠牲、ソーの王位放棄、スティーブ・ロジャースの引退、サノスとガントレットの最後、そして最後のポータルから始まるあの「アベンジャーズ、アッセンブル」——シリーズ最大級のネタバレを大前提にした構成になっている。まだ観ていない方は、まず本編をじっくり鑑賞してから読み進めることを強くおすすめしたい。初見の感動は、一度きりなのだから。

概要

主要データ

原題
Avengers: Endgame
監督
アンソニー・ルッソ/ジョー・ルッソ
脚本
クリストファー・マルクス/スティーヴン・マクフィーリー
音楽
アラン・シルヴェストリ
撮影
トレント・オパロック
編集
ジェフリー・フォード/マシュー・シュミット
米国公開
2019年4月26日
日本公開
2019年4月26日
上映時間
181分
ジャンル
スーパーヒーロー、アクション、SF、群像劇
シリーズ区分
MCUフェーズ3・第22作/インフィニティ・サーガ完結編

01あらすじ

以下では、結末までを含めた全編のあらすじを追う。物語は大きく四幕で展開していく。指鳴らし直後に襲う喪失、それから22日後の宇宙漂流とサノスの首、5年後の世界とアントマンの帰還、量子領域を経由したタイムヒースト、そして現代へ戻ってからのニューヨーク最終決戦、最後に待つトニーのスナップとキャプテン・アメリカの帰還――。ひとつずつ、順を追って詳しく辿っていきたい。

あらすじ

指鳴らし直後

映画は前作のクライマックスの宇宙ではなく、地球の郊外、クリント・バートンの裏庭から幕を開ける。クリント/ホークアイ(ジェレミー・レナー)は妻ローラと三人の子供たちと夕暮れの芝生で過ごし、娘ライラに弓の構えを教えていた。「もう少しだ、いいぞ」——だが次の瞬間、娘も妻も息子たちも、声を上げる間もなく塵となって消える。振り返ったクリントの前に広がるのは、誰もいなくなった芝生だけだ。前作の結末で宇宙の半分が失われたあの出来事が、ひとつの家族の崩壊として、バートン家の夕暮れに訪れる。

場面はトニー・スタークとネビュラに移る。サノスとの戦いを終え、宇宙船ベネターに乗ったまま深宇宙に取り残された二人は、酸素も燃料も食料もほぼ尽きた状態で漂流していた。トニーは録音装置に向かい、ペッパー・ポッツへの遺言めいたメッセージを残し続ける。「ヘルメットの中に消費できる残り時間は六時間だ。蜘蛛の子も逃げ出すような場所だな……」。衰弱しきった体で、ただ闇の中を漂っていくしかない。

やがて地球軌道に到達したキャプテン・マーベル/キャロル・ダンバース(ブリー・ラーソン)がベネターを救出し、サンクチュアリ施設へと運び込む。生還したトニーをペッパー(グウィネス・パルトロウ)が抱きしめる。その再会の場で、トニーはスティーブ・ロジャースに「お前があの時いれば」と疲労にまみれた怒りをぶつけた。生き残ったメンバー——スティーブ、ナターシャ、ローディ、ブルース、ロケット、ソー、ネビュラ、キャロル——はまず、サノスの居場所と、奪われたストーンで何ができるのかを突き止めようと動き出す。

指鳴らし直後

22日後

ネビュラは、養父サノスがかつて「引退する」と語っていた『庭の惑星』を潜伏先と見抜く。生き残った一同は、キャプテン・マーベルの宇宙巡航能力を頼みに惑星へ向かった。降り立つと、のどかな農地を思わせる景色が広がっている。サノスはそこで、独居老人さながらに一人で穀物を育てて暮らしていた。左手のガントレットは、すでに焼け焦げていた。指鳴らしの直後、自らストーンを使ってストーンを破壊したのだ——サノスはそう語る。

「私は不可避の存在だ。やったことを再現される心配のない宇宙を選んだ」。そう語るサノスを前に、ソーは交渉も拷問も挟まない。雷をまとったストームブレイカーを一閃させ、サノスの首を斬り落とす。生存組から言葉を奪い、シリーズの想定を裏切る凶行だ。だが、斬っても何も戻らない。インフィニティ・ストーンはすでに分子レベルまで還元され、消えた宇宙の半分は復帰しないのである。

この衝撃的な22分間で、前作から期待されていた「リベンジ」という直接的な解決は意図的に手放される。映画は一度暗転し、画面には控えめなフォントで『5年後(FIVE YEARS LATER)』とだけ表示される。物語はここから、復讐ではなく、喪失そのものを生き残った人間がいかに乗り越えるのか——より長く、重い問いへと移っていく。

22日後

5年後の世界とアントマンの帰還

5年後の世界。街の至る所に「行方不明者」を悼む追悼板が掲げられ、トリ・ヤード(ホールフーズ)の棚から商品は消え、地下鉄もスタジアムも人影はまばらだ。そのころサンフランシスコでは、量子領域に取り残されていたスコット・ラング/アントマン(ポール・ラッド)が、ネズミが偶然レバーを踏んだ拍子に通常空間へと舞い戻る。彼の体感ではわずか『5時間』。だが外の世界では、すでに5年が過ぎていた。スコットは行方不明者リストに娘キャシーの名を探す。見つからずに号泣したあと、住宅街の窓越しに、すっかり大きく育った娘と再会する。

アベンジャーズ施設では、運営の代表を担うブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフ(スカーレット・ヨハンソン)が、銀河規模のホログラム会議室で、オコエキャプテン・マーベルロケットローディら遠隔のメンバーから状況報告を受けている。サブマリン火災、メキシコ沖の海上騒動、宇宙の海賊問題——半分が消えた宇宙の管理が、彼女の肩に重くのしかかる。一方、スティーブ・ロジャースは遺族のためのカウンセリング・グループを主催している。だが、その椅子に腰かけながら、誰よりも前へ進めずにいるのは、ほかならぬ彼自身だった。

そこへスコットが現れる。「量子領域では時間が違う。一日が一秒だ。ストーンを壊せなくても、過去へ取りに行くことならできる」——この仮説こそが、シリーズ後半を突き動かす種子となる。スティーブとナターシャは、まずトニーのもとを訪ねる。しかし、ペッパーとの間に娘モーガンを授かり、湖畔のキャビンで第二の人生を送るトニーは、即座に協力を拒む。「俺はこの娘の父親だ。これ以上の何かが欲しいか?」——だがその夜、ガレージでウェブを叩いて再現にこぎ着けた『EPR=Möbius時間旅行モデル』が、物語をふたたび動かしていく。

5年後の世界とアントマンの帰還

ニュー・アスガルドのソー、ハルクとブル…

ナターシャとロケットがソーを迎えに向かったのは、ノルウェーの海辺に築かれたニュー・アスガルド。難民となったアスガルド人が、ノルウェー政府の協力を得て築いた小さな漁村である。王位を継いだはずのソーは、髪も髭も伸び放題、長らくビールに溺れたせいで腹回りもすっかり様変わりした姿で、薄暗い小屋に引きこもっていた。サノスの首を斬り落としたところで、妻ジェーンも、母フリッガも、兄ロキも戻ってはこない——その事実に押し潰され、王としての務めはコーグやミークに丸投げし、自らは現実から目を背けている。「俺は前にも一度やった、しくじった、それだけだ」と独りごちる彼を、ロケットが半ば強引に外へ連れ出す。

一方、ブルース・バナー/ハルク(マーク・ラファロ)は、5年のあいだに自らのガンマ放射線研究を推し進め、知性と理性はブルースのまま、肉体だけをハルクと統合させたプロフェッサー・ハルクとして再起を遂げていた。スコットがアントマンの量子スーツで実験を試みる場面では、ハルクが年齢のずれ、つまり若返りや老化といった事故を引き起こしてしまう。ここで示されるのは、時間旅行とは『過去を変える』ものではなく、『過去から物を持ち帰る』類のものでしか成立しない、というルールだ。

トニーが完成させた『時間GPS』をブルースが組み合わせ、アベンジャーズ施設に量子トンネル(量子領域を経由するタイム・ゲート)が築かれる。第一回のテスト走行は、スコットによる過去への小旅行。彼は『5秒前』ではなく、『若返り』『老化』『13歳の自分』を一度に経験してしまう。このテストを通じて示されるのは、作中のタイムトラベルが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』式の歴史改変ではなく、ある時点の物体を別の宇宙線上に置いてくる形式である、ということだ。

ニュー・アスガルドのソー、ハルクとブル…

タイムヒースト作戦

全員が会議室に揃い、白板の前に並ぶ場面は、シリーズで最も理詰めの五分間だ。ホワイトボードには六つのストーンの過去と現在の位置が書き出され、誰がどこへ向かうかが割り振られていく。アイアンマンキャプテン・アメリカハルクアントマンは2012年のニューヨークへ。チタウリ戦のあとに残されたマインド・ストーン(ロキの杖)、タイム・ストーン(エンシェント・ワンのアマレット)、スペース・ストーン(テッセラクト)の三つを一挙に確保するためだ。ソーロケットは2013年のアスガルドへ向かい、リアリティ・ストーン(エーテル)をジェーン・フォスター(ナタリー・ポートマン)の体内から取り出す。ローディネビュラは2014年のモラグ星でパワー・ストーン(オーブ)を、ホークアイブラック・ウィドウは同じく2014年のヴォーミアでソウル・ストーンを狙う。

全員が量子スーツに着替え、円形の量子ゲートを潜って一斉に飛び立つ。物語はここで四つの過去へと枝分かれし、シリーズ過去作の舞台——『アベンジャーズ』のニューヨーク決戦『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』のアスガルド王宮『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のモラグ、そして『インフィニティ・ウォー』で語られたヴォーミア——が、ヒーロー側の二度目の視点から改めて描き出される。過去作の名場面が自己引用と再演として随所に織り込まれ、それと並行して、過去への侵入は必ず代償を伴うという因果が一歩ずつ積み上がっていく。

タイムヒースト作戦

ニューヨーク

アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ハルク、アントマンの四人は、2012年『アベンジャーズ』のクライマックス、サンクタム前のスターク・タワー周辺へと降り立つ。ハルクはエンシェント・ワン(ティルダ・スウィントン)からタイム・ストーンを譲り受けるべく、サンクタムの屋上で交渉に臨む。ブルースはここで初めて自分の名前と声を取り戻し、『プロフェッサー』として振る舞いながら、サノスの宣告と未来に訪れる崩壊を順序立てて語っていく。エンシェント・ワンは最終的に、『分岐宇宙を生まない』ことを条件にアマレットを彼に手渡し、ドクター・ストレンジへと続く責任までも託すのだった。

チタウリ襲来直後のロビーで、アイアンマンアントマンは、ロキを連行する2012年のトニー一行に紛れ込み、テッセラクトの入ったブリーフケースを奪う計画に挑む。だが計画はあえなく破綻する。スコットがトニーの心臓を強く叩きすぎたために2012年のトニーが気を失い、その騒ぎのなかで床に滑り落ちたテッセラクトを2012年のロキが手にし、そのまま姿を消してしまうのだ。これこそ、のちの『ロキ』シリーズ全体を生み出すことになる時間軸分岐の発生点である。回収に失敗したトニーは、やむなく1970年へとさらに遡る案を提案する。

同じ時間軸で、キャプテン・アメリカは別の任務に就く。ロキの杖を奪取するためエレベーターでスターク・タワーへ向かう途中、2012年版の自分自身と一対一で鉢合わせ、激しい肉弾戦へと突入する。やがて現在のキャップは2012年のキャップに「バッキー……は生きてる(Bucky... is alive.)」と囁き、相手の動きが一瞬止まった隙を突いて昏倒させる。直後にこぼす「あいつ、本当に美しいケツしてるよな(That is America's ass.)」という自嘲気味のジョークも、印象に残る一幕だ。

ニューヨーク

アスガルド2013/モラグ2014

ソーとロケットが向かうのは、2013年『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』当時のアスガルドだ。リアリティ・ストーン(エーテル)はジェーン・フォスターの体内に取り憑いており、王宮の薄暗い廊下でそれを抽出するのが二人の任務である。ところがソーは廊下の途中で、まだ生きている母フリッガ(レネ・ルッソ)の姿を遠目にとらえてしまう。母はひと目で息子の異変を見抜き、彼が未来から来たことを察したうえで静かに語りかける。「失敗してこそ、本当に何者なのかが分かる」——この母子の対話が、ニュー・アスガルドで腐りきっていたソーを、ふたたび一人の戦士へと立て直していく。ロケットがエーテルを抽出して帰還する一方、ソーはムジョルニア(この時点ではまだ破壊されていない)にそっと手を伸ばす。ハンマーはまっすぐ彼の手元へと飛んでくる。「私はまだ価値がある」とつぶやくその瞬間が、彼の戦線復帰を確かなものにするのだ。

ローディとネビュラが降り立つのは、2014年のモラグ星。ピーター・クイル/スター・ロードが軽快に踊りながらオーブを盗みに現れる、あの名場面である。ローディは物陰から彼を殴り倒し、あっさり気絶させてしまう。軽妙な一幕だが、同時に最大級の地雷を踏み抜いた瞬間でもあった。ネビュラがオーブの儀式装置を起動すると、量子スーツ内部の通信が、2014年のサンクチュアリにいる若きネビュラと部分的にリンクしてしまう。記憶と肉体が、二人のネビュラのあいだで共有されてしまうのだ。玉座に座したままの2014年のサノスは、若いネビュラの脳内モニターを通して、未来から来たアベンジャーズの全計画を盗み見ることになる。

物語が決定的に陰り始めるのは、この“ネビュラ通信”の場面からだ。2014年のサノスはまだガントレットを手にしていない。それでいて彼は、宇宙人口の半分どころか全人類を消し去る計画へと目的を引き上げ、未来のネビュラを地雷として未来へ送り込む決断を下す。時間旅行コメディの軽やかな空気は、ここで音もなく崩れ落ちていく。

アスガルド2013/モラグ2014

ヴォーミア

ホークアイとブラック・ウィドウは、ソウル・ストーンを手に入れるため2014年のヴォーミアへと降り立つ。岩壁の端に佇む紅の頭蓋骨(レッドスカル、声:ロス・マルキャンド)が、二人を案内役として迎える。ソウル・ストーンを得る条件——最も愛する者の命を捧げた者だけが手にできる——は、前作で語られた通り二人も知るところであった。岸壁の途中、二人は互いを抱きしめ合いながらも相手を岸壁に縛りつけ、自分こそが身を投げようと取っ組み合いを始める。

「私を行かせて、君は家族のもとへ帰れ(Let me do it.)」とクリントが告げる。「私はあなたを家族のもとへ帰すために来た(You won't.)」とナターシャが応じる。やがてナターシャはロープを切り、岸壁から身を投げる。クリントの指先はわずかに届かず、岩肌を掴むのみ。眼下の石の床には、ナターシャが静かに横たわっていた。場面はソウル・ストーンの黄色い水面へと切り替わる。その水面に浮かび上がったクリントは、手のひらに小さなオレンジ色のオーブを握りしめ、ゆっくりと立ち上がる。

ナターシャの死は、本作で最も賛否が分かれた場面のひとつだ。『ブラック・ウィドウ』の単独作がまだ公開されていなかった2019年の公開時点では、女性主人公の死がソウル・ストーンの代償として消費されたことへの批判が強かった。ルッソ兄弟とファイギも、本作Blu-rayの監督解説で代替案——彼女自身が量子GPSを破壊して残る、クリントを撃って自分が死ぬ、など——の検討経緯に触れている。残されたアベンジャーズ施設。ストーンを手にしたクリントが膝をつき、トニー、スティーブ、ソー、ブルースが沈黙したまま彼女を悼む。本作のあらゆる勝利は、彼女ひとりの命の上に立っている。

ヴォーミア

キャンプ・リーハイ

2012年でテッセラクトを取り逃がしたトニーとスティーブは、量子粒子も残りわずかとなり、さらに深い過去——1970年、ニュージャージー州キャンプ・リーハイ陸軍基地——へと飛ぶ。ここでは若き日のハワード・スターク(ジョン・スラッテリー)が研究所長を務めており、テッセラクトもまた地下の保管室にひっそりと置かれていた。トニーは廊下で父とすれ違いざま、父子の関係をめぐって一言ずつ言葉を交わす。ハワードは、まだ生まれていない息子——映画の中の今のトニー本人——について語り、「彼が私より優れた人間になってほしい」と独白する。撮影の際、当初はハリソン・フォードにシナリオが渡されかけたという。だが結局この場面で帰ってきたのはジョン・スラッテリーであり、シリーズの起点『アイアンマン』の主題が長い円を描いて閉じられていく。

スティーブもまた、研究員として滞在していたハンク・ピムのパイム研究室に潜入し、補給用の量子粒子を盗み出す。その途中、ガラス越しに元婚約者ペギー・カーター(ヘイリー・アトウェル)の姿を一瞬だけ目にする。ガラスの向こうの彼女へ伸ばしかけた手を、彼は静かに引っ込めた。それでも、この瞬間の選択がのちに実を結ぶ予感を、確かに胸へ刻む。やがて二人は粒子を携え、量子トンネルを抜けて2023年の現在へ、全員揃って帰還した。

キャンプ・リーハイ

新ガントレットとハルクのスナップ

アベンジャーズ施設の格納庫で、ロケットとトニーは6つのストーンを納めた新たなガントレットを設計する。サノスの旧型のような完璧な合金製ではない。ローキー型・ナノテック型を組み込み、ハルクの巨体に合わせた長手袋型である。ストーンが揃った瞬間、ガンマ放射線への耐性を最も備えた者は誰かという議論が起こる。手を伸ばそうとするソーを制し、最終的にプロフェッサー・ハルクが自ら装着を志願した。

ブルースは手袋を嵌め、ストーンが胴体まで焼き付くような激痛のなか、左手の指を鳴らす。「みんなを戻せ。サノスとその軍隊だけは戻さなくていい」と独白しながら、宇宙から消えた半分の生命を呼び戻す。スナップは宇宙の隅々で同時に起こった。スパイダーマン/ピーター・パーカー、ドクター・ストレンジ、ティ・チャラ、ワカンダの戦士たち、ガーディアンズ、ピーター・クイル、グルート、ニック・フューリー、マリア・ヒル、ホークアイのローラと子供たち——そのすべてが還ってくる。

施設の窓越しに鳥のさえずりが戻る。だがその次の瞬間、2014年のサノス艦隊(サンクチュアリII)が現代の上空に出現し、施設めがけて長距離砲撃を浴びせる。ハルクのスナップで戻った世界は、わずか2分後、2014年のサノスの侵攻によって即座に攻撃にさらされた。瓦礫の下で互いの名を呼び合うスコット、ホスト・ロケット、ホークアイ。施設は崩落する。

新ガントレットとハルクのスナップ

ニューヨーク決戦

瓦礫の地下から、2014年のサノスが玉座を立ち、二振りの両刃剣を手に現代の地表へと歩み出る。向かい合うのはアイアンマンソーキャプテン・アメリカの三人。いずれも満身創痍だ。連戦の末に三人は次々と打ち倒され、サノスは「私は不可避だ」と繰り返す。それでもスティーブは、折れた盾の片腕を支えに立ち上がる。その背後、通信装置から無線越しに声が届く。サム・ウィルソン/ファルコン(アンソニー・マッキー)だ。「キャップ。聞こえるか。キャップ。左にいる(On your left.)」。

立ち上がったスティーブの眼前で、最初のポータルが開く。ドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)が指輪状のサークルを描くと、ワカンダサンクタムタイタンI、そして宇宙――各地のヒーローたちがポータルから次々と姿を現す。ティ・チャラとオコエとシュリ、サム・ウィルソン、バッキー・バーンズ、スパイダーマン、ガーディアンズ、ドクター・ストレンジとウォン、キャプテン・マーベル、巨大化したスコット、ヴァルキリーのペガサス隊、ワカンダ軍、マスター・オブ・ザ・ミスティック・アーツ、デュテン社、レッド・ウィザード団。すべての勢力が一斉に戦線へ加わる。

膝をついていたスティーブが立ち上がり、ハンマーを構える。すると、ハンマーのほうが彼の手元へと飛んでくる。このムジョルニアは、本作の前半でブルースが量子GPS実験用に過去から借りてきたものだ。「私は知ってた」と一瞬笑うトニーの傍ら、スティーブは初めてアスガルドの稲妻を全身に纏い、サノスへと突進する。続いて発せられるのが、シリーズ22作で初めて完成形として口にされる台詞――『アベンジャーズ、アッセンブル(Avengers, assemble.)』。シリーズの歴史を通じて言い止められてきた一語が、ここでついに完全な形で響き渡る。

ニューヨーク決戦

ガントレットの継承とトニー・スタークの…

戦場の中心で、新たに鍛え直されたガントレットがバトンのように手から手へと渡り、走り続ける。スパイダーマン、キャプテン・マーベル、シュリ、ワスプ、そしてレスキュー・スーツをまとったペッパー・スターク——ヒーローたちは互いを庇い合いながら、ガントレットを量子ゲートまで運ぼうとする。だがサノスは旗艦からのレーザー一斉砲撃でゲートを破壊。ガントレットは戦場中央の瓦礫の上へと転がり落ちる。

サノスはガントレットを拾い上げ、6つのストーンを取り戻して指を鳴らす。だが、何も起こらない。ストーンはすでにトニーがひそかに自らの手元へと移し、ナノテック手袋の側に収めていたのだ。「私は」とサノスはゆっくり口にし、「不可避だ」と続ける。トニーは焼け焦げた喉から、かすれた声を絞り出す。「俺は、アイアンマンだ(And I... am... Iron Man.)」。

彼の右手の指が鳴る。サノス軍の全兵士、ブラックオーダー、そしてサノス自身——すべてが順に塵となっていく。サノスはトニーの目の前の岩に腰を下ろし、敗北を受け入れると、静かに座ったまま分解されていった。

ストーンの放射線で右半身を焼かれたトニーは、瓦礫の上に座り込んだまま動けなくなる。ローディが、ピーター・パーカーが、ペッパーが、相次いで側に駆け寄る。ピーターが「ミスター・スターク、僕たち、勝ったんだよ」と話しかけても、トニーはほとんど応えられない。ペッパーは胸甲のリアクター核にそっと手を当て、「ありがとう、私の馬鹿」と語りかける——『Tony, you can rest now.』。リアクターの光が静かに消え、トニーは息を引き取る。シリーズ最初の主人公の最期が、シリーズの中心で最も静かに描かれる。

ガントレットの継承とトニー・スタークの…

葬送、ソーの王位放棄、キャプテン・アメ…

湖畔のキャビンの桟橋で、トニーのリアクターを乗せたティアダール(蓮の花)が静かに水面を漂う。ペッパー、モーガン、ハッピー、ニック・フューリー、マリア・ヒル、スティーブ、ナターシャ(の写真)、ソー、ローディ、サム、バッキー、スコット、ホープ、ハンク、ジャネット、ワンダ、ヴィジョン(一場面の写真として)、ピーター、ストレンジ、ワカンダの王族、ガーディアンズ、フューリー、ハワード(言及)、エド・ハリス、メイ叔母——シリーズ22作の登場人物がほぼ全員、桟橋に静かに並ぶ。葬儀には、トニーが生前に録画していた『君に何かあった場合のメッセージ』の音声が流れ、その言葉が湖面に響きわたる——『Part of the journey is the end.』

葬儀から数日後、ソーはニュー・アスガルドへ戻る。アスガルド人を率いる女王の座を託すのは、自分ではなくヴァルキリー(テッサ・トンプソン)だ。「君がアスガルドを統治する」と告げると、ソー自身はガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのベネター号に乗り込み、宇宙へと旅立っていく。ピーター・クイルとの「誰がリーダーだ」という小競り合いが最後の笑いを誘い、続編『ソー:ラブ・アンド・サンダー』への橋渡しとなる。

アベンジャーズ施設の量子トンネルの前で、過去から借りた6つのストーンを返却する最終任務がスティーブに託される。サムバッキーに別れを告げ、『5秒で帰ってくる』と約束して、ブルースが起動した量子ゲートをくぐる。だが、5秒経っても戻ってこない。湖畔のベンチへ目をやると、そこには白髪の老人が腰かけていた。振り向いたその顔は、まぎれもなくスティーブ・ロジャースである。ストーン返却の旅の途中で1945年頃のペギー・カーターのもとへ戻り、彼女とともに人生を歩んできたのだ。

サムが歩み寄り、ベンチに腰掛ける老いたスティーブから星条旗の盾を受け取る。「これを継ぐ気はあるか?」「やってみる」「それでいい」。最後のショットは静かに切り替わり、若き日のペギーがレコードに『It's Been a Long, Long Time』をかけ、スティーブが彼女へ手を差し伸べる1940年代のリビングが映し出される。181分の物語は、ふたりがゆっくりと踊り出す姿で静かに幕を下ろす。クレジット後に流れるのは、トニーが『アイアンマン』第一作の終盤で叩いていた自宅ガレージの金属音のみ——シリーズの始点と終点を、ひとつの音が結ぶ。

葬送、ソーの王位放棄、キャプテン・アメ…
ここまでが全編のあらすじである。インフィニティ・サーガ22作のほぼ全要素が本作の最終決戦に参加し、トニー・スタークの犠牲、ナターシャの自己犠牲、ソーの王位放棄、キャプテン・アメリカの引退とサムへの盾の継承で物語は終わる。直接の続編は『スパイダーマン/ファー・フロム・ホーム』、フェーズ4の起点は『ファルコン・アンド・ウィンター・ソルジャー』『ロキ』である。

登場要素

本作に登場・言及される主な要素を、ジャンルごとに整理して紹介する。なにしろインフィニティ・サーガ22作品で張り巡らされてきた伏線が、ここでほぼすべて回収される。固有名詞はまさに洪水のごとくあふれ出す。とはいえ、初見でそのすべてを覚えようと身構える必要はない。「この名前が気になる」と引っかかったものだけ、各キャラクター・用語のページで個別に確かめていく——これが最も無理のない観方だ。

  • トニー・スターク/アイアンマン
  • スティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカ
  • ソー
  • ブルース・バナー/プロフェッサー・ハルク
  • ナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ
  • クリント・バートン/ホークアイ/ローニン
  • ジェームズ・ローズ/ウォーマシン
  • スコット・ラング/アントマン
  • キャロル・ダンバース/キャプテン・マーベル
  • ロケット
  • ネビュラ(2023年版/2014年版)
  • ペッパー・ポッツ/レスキュー
  • ハッピー・ホーガン

  • 2014年サノス(ジョシュ・ブローリン)
  • エボニー・モウら2014年ブラックオーダー
  • 2014年ガモーラ(陣営転換)
  • 2012年ロキ(テッセラクトとともに分岐へ消える)
  • サンクチュアリIIと2014年チタウリ・アウトライダーの大群
  • (言及)レッドスカル

  • スパイダーマン/ピーター・パーカー
  • ドクター・ストレンジとマスター・オブ・ザ・ミスティック・アーツ
  • ティ・チャラ/ブラックパンサーとオコエ・シュリ・ンジョブ
  • サム・ウィルソン/ファルコン
  • バッキー・バーンズ/ウィンター・ソルジャー
  • ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(クイル、ドラックス、マンティス、グルート)
  • ホープ・ヴァン・ダイン/ワスプ
  • スコットの巨大化版(ジャイアントマン)
  • ワンダ・マキシモフ/スカーレット・ウィッチ
  • ヴァルキリー
  • ハウンドリング軍、ジャバリ族、ドラ・ミラージュ
  • ヴェノミック近接戦闘員(ペッパーのレスキュー・スーツ)

  • モーガン・スターク
  • ハワード・スターク(1970年)
  • フリッガ(2013年)
  • ペギー・カーター(1970年/1945年以降)
  • ローラ・バートンと子供たち
  • コーグとミーク
  • アンセル(5年後の店主)
  • シールド残党の地下グループ

  • アベンジャーズ(再編/解散と再集結)
  • ニュー・アスガルド(ノルウェー)
  • ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー
  • ワカンダ王国
  • マスターズ・オブ・ザ・ミスティック・アーツ
  • シールド残党/フューリー直轄ネットワーク
  • 2014年のオーダー・オブ・サノス
  • ピム・テック量子研究

  • クリント・バートンの裏庭(指鳴らし直後)
  • 深宇宙のベネター
  • サノスの『庭』の惑星
  • アベンジャーズ施設(ニューヨーク州北部)
  • サンフランシスコ(スコット帰還)
  • ニュー・アスガルド
  • 湖畔のスターク家
  • 量子領域
  • 過去2012年ニューヨーク(『アベンジャーズ』のクライマックス)
  • 過去2013年アスガルド王宮
  • 過去2014年モラグ星/ヴォーミア
  • 過去1970年キャンプ・リーハイ陸軍基地

  • インフィニティ・ストーン(6個全て)
  • サノス旧型ガントレット(焼け焦げ)
  • 新型ナノテック・ガントレット(ハルク用/トニーが奪取)
  • 量子スーツと量子トンネル
  • 量子GPSの腕時計
  • ムジョルニア(過去から借りた版)
  • ストームブレイカー
  • ナノテック・スーツMk85
  • ペッパーのレスキュー・スーツMk49
  • ローニンの刀
  • テッセラクトのブリーフケース
  • ピム粒子の最終ストック

  • 量子領域のタイム・スリップ
  • 『過去を変えるのではなく過去から借りる』タイムトラベル理論
  • 分岐宇宙(ブランチド・タイムライン)
  • ガンマ放射線への耐性とプロフェッサー・ハルクの統合
  • 『価値ある者』の判定とムジョルニアの継承
  • ソウル・ストーンの『最も愛する者を捧げよ』の条件
  • スナップ(クリック)の物理コスト
  • アッセンブル(号令としての一語)

  • 公式のシーン後シーン(クレジット後シーン)は存在しない
  • ラスト音声でトニーが『アイアンマン』第一作のガレージで金属を叩く効果音だけが流れる
  • サムが盾を継承する場面はシリーズ後の『ファルコン・アンド・ウィンター・ソルジャー』へ直結
  • ソーのガーディアンズ合流は『ソー:ラブ・アンド・サンダー』へ直結
  • ロキの分岐は『ロキ』TVシリーズへ直結

16主要登場人物

本作が描くのは、創設メンバーであるアベンジャーズ六人——アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソー、ハルク、ブラック・ウィドウ、ホークアイ——それぞれの『終着駅』を、一本の映画の中で一気に描き切るという、途方もない構成だ。ここでは主要キャラクターを、本作で完結するアーク(キャラクターがたどる物語上の成長曲線)ごとに整理していく。なお、ここから先は結末まで含めて核心に踏み込むので、その点はあらかじめご了承いただきたい。

トニー・スターク/アイアンマン

本作のトニーは、『アイアンマン』から続くシリーズで彼が背負い続けてきたものをすべて抱えたまま辿り着いた、最終段階にいる。冒頭、宇宙の死の縁から救出された彼は湖畔のキャビンへと退き、ペッパー、そして娘モーガンとともに穏やかな第二の人生に入る。ところが、5秒の量子領域実験を再現したスコットの仮説と、ガレージで偶然解いてしまった『EPR–モビウス時間モデル』(量子もつれを利用した時間移動の理論モデル)のスケッチが、彼を再びチームへと引き戻す。ここで描かれるトニーの動機は、もはや英雄性ではない。『娘の世代に同じ恐怖を残さない』という、ひたすらに個人的な責任感だ。その一点が、胸を打つ。

ガントレットを最終的に右手へと移し替え、自分の指で鳴らす彼の最後の選択は、すべての映画的アーティファクト(劇中の象徴的アイテム)のなかで最も短く、最も重い一言——『私はアイアンマンだ(I am Iron Man.)』に集約される。シリーズ最初の主人公が、シリーズ最後の脅威を自らの手で終わらせる。構造上の対称性として、これ以上ないかたちで設計されているのだ。そして葬儀のシーンにほぼ全登場人物が集う——あの最終形式が許されるのは、本当にこの作品だけである。

トニー・スターク/アイアンマン

スティーブ・ロジャース/キャプテン・ア…

公開から5年——変わり果てた世界に、ひとり取り残されたキャップ。喪失を抱えた人々のためのカウンセリング・グループを主催してはいるが、誰よりも前に進めずにいるのは、ほかならぬ彼自身だ。冷凍睡眠が奪い去った1940年代の人生。ペギー・カーターと交わしながら果たせなかった、あのダンスの約束。家族同然の居場所だったSHIELD(米国の諜報機関)。そしてシビル・ウォーで袂を分かった同志たち——。本作のキャップは、その全てを背負ったまま、それでも最後にもう一度だけ、椅子から立ち上がる。

ニューヨーク決戦で彼がムジョルニアを手に取り、全身に稲妻をまとってサノスへと突進する瞬間。ここはシリーズ全体が、彼を「価値ある者」だと公式に宣言する、最大の儀式にほかならない。そして最後の量子トンネルの帰路、彼は1945年付近のペギーのもとへ帰り、自らの人生をもう一度選び直す。湖畔のベンチに腰掛ける老人となって戻り、サム・ウィルソンに盾を託す——この選択こそが、『エンドゲーム』というタイトルそのものへの答えとなっている。

スティーブ・ロジャース/キャプテン・ア…

ソー

本作のソーは、『ラグナロク』『インフィニティ・ウォー』を経てアスガルドを、そしてロキ、ヘイムダル、母フリッガ、兄ロキを次々と失い、ニュー・アスガルドの薄暗い小屋に5年も引きこもってきた、まさに文字通りの「敗北の王」である。ロケットに引きずり出されるまでのだらしない姿は、表向きコメディとして配されている。だがその裏には、PTSD(心的外傷後ストレス障害)的な深い悲しみが重く沈んでいる。痛々しく、それでいてたまらなく胸を打つ造形だ。

2013年のアスガルドで、廊下越しにまだ生きている母フリッガと交わす対話——「失敗してこそ何者かが分かる」——この場面が、彼を一人の戦士へと立て直す決定的な転機となる。最終決戦では、ムジョルニアとストームブレイカーを両手に握っての二刀流で大暴れ。そしてラスト、ヴァルキリーに王位を譲り、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのベネター(彼らの宇宙船)に乗り込んで宇宙へと旅立っていく。胸が熱くなる幕引きだ。彼の旅はこのあと『ラブ・アンド・サンダー』『マイティ・ソー4』へと続いていく。

ソー

ハルク/ナターシャ/ホークアイ

ブルース・バナーは5年のあいだに、ハルクとの統合に成功した“プロフェッサー・ハルク”として再起を果たす。新たなガントレットを最初に装着し、消し去られた宇宙の半分を取り戻すスナップを担うのも彼だ。自らの力で誰かを失うことを恐れ続けてきたバナーにとって、これはまさに物語的な解放の瞬間といえる。ガンマ放射線によって右腕は大きな損傷を負い、その傷は後続作『シー・ハルク』などにもしっかりと引き継がれていく。こうした“代償の継続性”こそ、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)ならではの丁寧な描写だ。

クリント・バートンは、冒頭の「家族を失う場面」で物語の感情を一身に背負う。あの喪失が彼を変え、東京の闇社会で武装組織をたった一人で潰して回るローニン(侍)として再登場することになる。5年後の彼は、もはや事実上のアサシンだ。癒えない傷を抱えたまま、彼はヴォーミアの岸壁でナターシャと永遠の別れを告げる。胸に迫る流れである。

ナターシャ・ロマノフは、赤い部屋(ロシアの暗殺者養成施設)で育てられた殺し屋だ。ウェドン時代から繰り返し描かれてきた「家族を持てない」というテーマが、ついにヴォーミアで決着を迎える。ソウル・ストーンが突きつける条件——「最も愛する者を捧げよ」——に対し、彼女が出した答えは「友のために自分自身を捧げる」という、いかにも彼女らしい逆説的な選択だった。ストーン取得のための必要条件にとどまらず、彼女の死は本作全体で最も静かに、そして重く響く喪失でもある。そして、のちの単独作『ブラック・ウィドウ』へ先回りして捧げられた鎮魂歌としても機能している。

ハルク/ナターシャ/ホークアイ

アントマン/キャプテン・マーベル/ネビ…

スコット・ラングは『アントマン&ワスプ』のラストで量子領域に取り残されたまま、本作の冒頭で偶然帰還を果たす。彼が語る「量子領域では時間が違う」という一言の証言こそ、タイムヒースト計画全体を成立させる決定的なピースだ。感情の窓口として置かれた、シリーズ屈指の「普通の父親」ヒーロー。その彼が最終決戦で巨大化したジャイアントマンに変身し、サノスの艦砲を真正面から受け止める。この姿もまた、本作のもう一つの泣き所となっている。

キャプテン・マーベルは冒頭でトニーたち一行を救出し、ラストでは再びオフ・ワールド(宇宙規模の他惑星活動)へと旅立っていく。本作での彼女の役どころは、まさに宇宙規模の脅威に立ち向かう「最後の盾」である。ニューヨーク決戦の終盤、サノスの艦隊にただ一人で正面から斬り込み、新型ガントレットを輸送するコースを切り開く――その超重要な役割に、彼女の活躍は集約されている。艦隊を真っ二つに切り裂くあの一場面から目が離せない。

ネビュラは本作で最も繊細な弧を描く人物だ。2023年のネビュラ(黒目)はもう完全に仲間としてアベンジャーズに溶け込んでいる。一方、2014年から並走してきた若いネビュラ(赤目)は、妹ガモーラを生かしたまま、サノスへの忠誠を抱え込んだまま。この対比が切ない。そして最終決戦、2023年版のネビュラが2014年版を撃ち殺すあの瞬間。これはシリーズで初めて「自分を許す」という選択を、一人の人物の中で完結させる場面である。本作の隠れた中心場面のひとつと言ってもいいほど、重い瞬間だ。

アントマン/キャプテン・マーベル/ネビ…

サノス

本作にはサノスが二人登場する。一人は、冒頭の「22日後」のパートであっさり首を斬られる2018年(現在線)のサノス。もう一人は、タイムヒースト中盤の分岐から現代へ攻め込んでくる2014年(オーダー・オブ・サノス時代)のサノスだ。前者は「私は不可避だ」という哲学を完成させきった、いわば引退済みのサノスである。対する後者は、ガントレット(インフィニティ・ストーンを装着する籠手)すらまだ完成していない。未来のネビュラの脳内モニターから盗み見た情報だけを頼りに、現代へ殴り込んでくる。より粗削りで野蛮な「戦士」としてのサノスだ。同じ顔をしていても、立っているフェーズがまるで違う。この対比こそ、本作の大きな見どころだ。

2014年のサノスは、ハーフィング(半分削減)ではなく『すべて消し去って一から作り直す』へと目的を引き上げる。本作の終盤で彼が完全な悪役として扱われるのは、ここに理由がある。トニーが『私はアイアンマンだ』と告げた瞬間、サノスはガントレットの空虚を悟り、座り込んで静かに塵となる。シリーズ最大の敵が、最後は岩に腰掛け、すべてを受け入れながら消えていく——この結末は、ジム・スターリンのコミックが宿す哲学的な余韻を、見事に映画的な造形へと翻訳してみせた瞬間である。

サノス

舞台と用語

本作の舞台は、大きく分けて現代の地球、過去のMCU、そして宇宙の数か所に及ぶ。まずこの振り幅が圧巻だ。現代の地球パートでは、人口の半分が消えた後の静まり返ったアメリカ郊外、サンフランシスコの倉庫街、ノルウェーの漁村ニュー・アスガルド、ニューヨーク州北部のアベンジャーズ施設、そして湖畔に佇むスターク家の桟橋——こうした場所のひとつひとつが、派手な戦闘ではなく「生きている者の喪失」というテーマを、それぞれ違う質感でじっくり描き出す。物語を信じさせるための重力、いわば説得力の重みは、こうした静かな場所でこそ着実に蓄えられていく。ここが本作の屋台骨だ。

過去パートの舞台は四地点。2012年ニューヨーク(『アベンジャーズ』クライマックスのスターク・タワー周辺とサンクタム)、2013年アスガルド王宮(『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』のジェーン・フォスター事件)、2014年モラグ/ヴォーミア(『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のオーブ強奪と『インフィニティ・ウォー』のソウル・ストーン)、そして1970年キャンプ・リーハイ陸軍基地(テッセラクト保管庫とピム研究室)である。シリーズ過去作のセットをわざわざ再構築・再撮影して使い回す、この大胆な構造こそが、『エンドゲーム』を「シリーズへの巨大な引用劇」として成立させている肝だ。10年以上積み上げてきた記憶の地層を、もう一度掘り返して見せる仕掛けである。

用語面の楽しさも、本作の大きな魅力だ。量子領域(クォンタム・レルム)、量子GPS、量子スーツ、タイム・ヒースト、分岐宇宙(ブランチド・タイムライン)、そしてインフィニティ・ストーンの個別呼称(マインド/タイム/スペース/リアリティ/パワー/ソウル)、ガントレット、サンクチュアリII、ピム粒子、さらにはエド・サンドラがいう「EPRブリッジ」(量子もつれを使った理論上の経路、の意)まで——これらはすべて『アントマン&ワスプ』『ドクター・ストレンジ』『ガーディアンズ』『マイティ・ソー』から積み上げてきた語彙の蓄積であり、本作でようやくその意味が完全に花開く。過去作で散りばめられたピースが、ここで一気に噛み合う快感。シリーズを追ってきた者にとっては、たまらない瞬間だ。

舞台と用語

24制作

前作『インフィニティ・ウォー』との二部一体として企画された本作。シリーズのなかでもずば抜けて準備期間が長く、最も多くの制約と厳重な秘密保持のもとで完成した一本である。ここでは、その制作の経緯を企画・脚本・撮影・特撮・音楽・編集に分けて整理していきたい。

制作

企画と脚本

本作の企画が実質的に動き出したのは、2014年のサンディエゴ・コミコンで二部作『インフィニティ・ウォー パート1/パート2』が予告された、まさにあの瞬間だった。ところが途中で『パート2』というタイトルがひっそりと取り下げられ、最終的には『エンドゲーム(Endgame)』という独立した題名へと切り替わる。これがじつに重要な変更だ。本作を前作の単なる続きではなく、一つの独立した完結編として受け取ってほしいという制作側の強い意図がにじむ。タイトル『エンドゲーム』の由来もまた粋だ。前作の終盤、ドクター・ストレンジが「エンドゲームに入った(We're in the endgame now)」と静かに独白する、あの伝説的なセリフから引かれている。タイトル一つに、ここまで物語が詰まっているのだ。

脚本を手がけたのは、クリストファー・マルクスとスティーヴン・マクフィーリーの名コンビ。『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー』『インフィニティ・ウォー』と渡り歩いてきた二人である。キャップ・チームの内面を描かせれば、これ以上の書き手はいないと言ってもいい。ルッソ兄弟とがっちり手を組み、二部作全体のプロットをともに組み上げていった。興味深いのは、本作の脚本が当初、二作分まるごと連続した一本の稿として書き上げられていた点だ。そこから二本に分解する形で最終稿まで仕上げられている。二部作が驚くほど地続きに感じられる秘密は、この作り方にあるのかもしれない。

ハイスト(強盗映画の定番フォーマット)構造とSF時間旅行という二重構造を一本の脚本に通すため、ライターズ・ルームでは「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』型は採用しない」という方針が早い段階で固まった。代わりに採用されたのが、「今ある過去から物を借り、必ず元の位置に戻す」「戻さなければ分岐宇宙が生まれる」「分岐は『ロキ』TVシリーズで別途扱う」という三段ルールである。これが内部メモとして共有されていたというから驚きだ。本作のタイムトラベルが他のSF作品と一線を画す理由は、まさにここにある。

キャスティングと再集結

シリーズの礎を築いた創設アベンジャーズ六人(RDJ、エヴァンス、ヘムズワース、ラファロ、ヨハンソン、レナー)は、本作でも全員が続投する。さらにサノス役のジョシュ・ブローリンも、パフォーマンス・キャプチャによる主要悪役の座を守り抜いた。とにかく規模が桁違いだ。シリーズ22作に出演してきた俳優陣のほぼ全員が、たとえ出番がほんの一瞬であろうと本作のために再集結する。葬儀の場面や、ニューヨーク決戦でのポータル登場では、ほぼ全員が同じフレームに収まるという奇跡的な画が実現した。まさにシリーズ史上最大規模のキャスト編成であり、これ以上の祭典は望むべくもない。

ペギー・カーター役のヘイリー・アトウェル、ハワード・スターク役のジョン・スラッテリー、フリッガ役のレネ・ルッソ、エンシェント・ワン役のティルダ・スウィントン、レッドスカル役のロス・マルキャンド(ヒューゴ・ウィービング降板後の後任)、そして若き日のハンク・ピムを思わせる科学者の経歴を持つマイケル・ダグラスによるカメオ的な再現——こうした面々の再登板こそが、本作とシリーズ過去作を直接重ね合わせる効果を担っている。しかも一部の役は、デジタルでの若返り(ディエイジング=VFXで俳優の顔を若く見せる技術)によって実現された。ダウニー、エヴァンス、ヨハンソン、スラッテリーらが、本作と過去の年代を自在に行き来する仕掛けである。観ていて思わず頬がゆるむ、まさにファン冥利に尽きる演出だ。

キャスティングと再集結

撮影とロケ地

本撮影は2017年8月から2018年1月、そして2018年9月から2019年1月にかけて、ジョージア州アトランタのパインウッド・スタジオを拠点に進められた。前作からそのまま続く撮影体制ではあったが、2018年内には追加撮影が幾度も組み込まれている。これは脚本の終盤——とりわけ最後の決戦と葬儀シーン——を仕上げるため、断続的に行われたものだ。ああしたクライマックスを納得のいく形に磨き上げるには、こうして粘り強く撮り直しを重ねる必要があったのだろう。

ロケ地もまた本作の見どころのひとつだ。スコットランドのエディンバラ(前作との接続)、英国ロンドン近郊、アトランタ周辺の屋外、ニューヨーク市の一部の街頭、そして葬儀シーンの湖畔(実際はジョージア州ボウリング湖の私有地)が用いられている。ニュー・アスガルドの撮影は、英国のセットにアイスランドとノルウェーの参照を組み合わせて構築され、北欧の荒涼とした空気感を見事に再現した。ロケ地ひとつをとっても、シリーズへのこだわりが伝わってくる作りである。

キャストやスタッフは、情報漏洩対策のため本作の脚本を完全な形では受け取らなかったと言われている。ルッソ兄弟とマルクス/マクフィーリーは、出演者ごとに自分のキャラクターが登場するシーンだけを記した「部分台本」を配布した。さらに、トム・ホランドやマーク・ラファロのように『口の軽さで知られる』出演者には、わざとニュアンスを変えた偽の台本を渡していた、という証言まで残っている。その徹底ぶりには驚かされる。

視覚効果とディエイジング

本作のVFXは、ILM、Weta Digital、Digital Domain、Framestore、Cinesite、Method Studiosなど、業界の主要なベンダーがほぼ全社参加するという前代未聞の規模で進められた。中心となった技術は大きく三つに分かれる。CGによるサノス本人のフルパフォーマンスキャプチャ(俳優の演技をまるごとCGキャラクターに移植する手法)、若返りを施すディエイジング(俳優を若い頃の姿に見せる加工)、そしてポータルを数十枚同時に描画する最終決戦の合成である。この三本柱が、あの圧倒的な画づくりを支えている。

サノスのCG表現は前作に続いてDigital Domainが担当し、ジョシュ・ブローリンの顔の演技を高解像度でキャプチャしてCGモデルへ転写する『マサ・スターガード』技術が、進化したかたちで投入された。賢者ハルク(プロフェッサー版)は、マーク・ラファロの表情を100%CGのハルクの顔へまるごと翻訳し直す方式で作り込まれており、その仕上がりは絶妙だ。ディエイジング(俳優を若返らせるVFX処理)はダウニー・JR.、エヴァンス、ヨハンソン、スラッテリー、ラファロら過去の姿に適用されたが、シーンの流れを壊さないよう誇張を避け、控えめなトーンで統一されている点も見逃せない。

ニューヨーク決戦のポータルシーケンスは、シリーズ最大の合成負荷がかかった場面である。ヒーロー数十人と数千の兵士、宇宙艦、ワカンダの装甲獣、さらにペガサスに跨るヴァルキリーまで、そのすべてを一画面に同時レンダリングしている。これを破綻なくまとめ上げた手腕には驚かされる。本作は第92回アカデミー視覚効果賞にノミネートされた(受賞は『1917 命をかけた伝令』)。惜しくも逃したとはいえ、この物量を一枚の画に仕立てた技術力は語り継がれるべき水準だ。

音楽と音響

音楽は前作から続投のアラン・シルヴェストリが手がける。彼が2012年の『アベンジャーズ』で築き上げた 「The Avengers Theme(栄光の主題)」 が、本作でも感情を貫く背骨として再び鳴り響く。とりわけ語り草になっているのが、ニューヨーク決戦のポータル合流シーンだ。あの瞬間、主題がフルオーケストラの最大編成で力強く帰ってくる。このアレンジは、シリーズ全体の音楽的クライマックスとして名高い名場面である。葬儀の場面では、トニー・スタークの遺言に寄り添うように、静かなピアノ独奏のテーマがそっと置かれる。その対比が涙を誘う。そしてエンドクレジット直前の最終ショットには、『It's Been a Long, Long Time』(ハリー・ジェイムス&キティ・カレン、1945年)が再び流れる。これ以上ない締めくくりだ。音楽の力で物語をそっと抱きしめるような、見事な幕引きである。

音響デザインの妙が光るのは、なんといってもラストショットだ。あの 金属を叩く音 が、シリーズの原点である『アイアンマン』第一作のガレージ作業の効果音と、デジタル的にぴたりと整合するよう配置されている。181分という長尺の幕引きを、無音からたった一つの金属音だけですっと切り替える。この大胆な設計が、シリーズの最初と最後をわずか一音で重ね合わせてしまう。10年以上にわたる物語の円環を、台詞でも映像でもなくで閉じる──この余韻には、思わず唸らされる。

編集と尺

編集を手がけたのはジェフリー・フォードとマシュー・シュミットの両名。181分という尺は、当時マーベル・スタジオが公開していた作品のなかでも最長クラスで、当初の暫定版にいたっては3時間30分を超えていたとも言われる。ルッソ兄弟は「観客を席から立たせないために必要な情報量」を基準に据え、とりわけ5年後パートの導入部と、バートン農場周辺の細かな芝居の単位(ビート)を、ひとつひとつ丁寧に削り込んでいったという。この見極めこそが、長尺を最後まで走らせきった陰の立役者だった。

「私はアイアンマンだ」のテイクのうち、最終版に採用されたのは、ダウニー・JR本人がアドリブで微調整したバージョンである。脚本上は『I am Iron Man』とあるのみだったが、彼の声の調子と間合いの取り方が決定的な役割を果たした。スティーブのアッセンブルの号令も、撮影中に複数のテイクが録られ、感情の流れが最も自然になる『左にいる』の直後に配置されている。この緻密な編集こそ、ラストバトルが伝説となった理由のひとつだ。

31公開と興行

本作のお披露目は華やかなものだった。2019年4月22日、ロサンゼルスのLAコンベンションセンターでワールド・プレミアが開催され、4月24日を皮切りに世界各地で順次公開。米国と日本では4月26日、ついに劇場へとなだれ込んだ。前売りの段階からチケットサイトがパンクするほどの記録的な動員が予測され、その熱狂はそのまま数字へと直結する。蓋を開けてみれば、北米オープニング3日間で約3.57億ドル、世界初週末では約12.23億ドル。シリーズはおろか映画史そのものを塗り替える、桁違いの興行成績を叩き出したのである。もはやお祭り騒ぎという言葉では収まらない。

最終的な世界興行収入は約27.97億ドルに到達し、公開時点で『アバター』(2009)が保持していた世界興収歴代1位の座を一時的に奪い取った。後年、『アバター』の中国再公開によって順位は再び入れ替わることになるが、それでも本作はマーベル・スタジオ作品として、そして長く続いた連続シリーズの締めくくりとして、映画史上もっとも成功した興行例のひとつに数えられる一本だ。

アカデミー賞では第92回視覚効果賞にノミネートされた(受賞は『1917 命をかけた伝令』に譲ったが)。一方で、MTV Movie Awards、Saturn Awards、Hollywood Critics Associationといったアワードでは作品賞・ヒーロー賞・ヴィラン賞を軒並み受賞し、批評家・観客スコアもシリーズ上位を保ち続けている。さらに驚くべきは、米国と日本のどちらでも、公開後の劇場で観客が思わず立ち上がって拍手を送る現象が各地で報告されたことだ。単なる興行ヒットを超え、興行と文化現象の境界を飛び越えた“事件”として映画史に刻まれた一本、と言っていいだろう。

32批評・評価・文化的影響

本作は、22作にも及ぶ連続した映画シリーズの結末として、ハリウッド史上もっとも整然と完結したケースのひとつに数えられる一本である。アクション・スペクタクル(大規模な映像見せ場)としての完成度は前作と同等、いやそれ以上だ。そこに『私はアイアンマンだ』『左にいる』『アベンジャーズ、アッセンブル』という三つの台詞の置き方が見事に決まり、観客の共通の記憶に深く刻み込まれている。

批評で大きな論点となったのは、まずタイムトラベル理論の整合性だ。とくに2014年のサノスが現代へ来てしまうことで生じる分岐(並行する時間軸の枝分かれ)の扱いは、公開直後からファンの間で激しい議論を呼んだ。さらに、ナターシャの死をソウル・ストーンの代償として描く構造には、ジェンダーの観点からの批判も少なくない。加えて、ホークアイのローニン期の容赦ない暴力描写、そして「5年後の世界」がもたらした社会的影響を十分に描き切れているのか、という問いも繰り返し取り上げられた。興味深いのは、これらの論点が続くフェーズ4の『ファルコン・アンド・ウィンター・ソルジャー』『ロキ』『シャン・チー』『ハワード』『ホークアイ』『ブラック・ウィドウ』で意図的に拾い直されていく点だ。本作が残した“宿題”に、その後のMCUがじっくり答えていく構造になっている。

私はアイアンマンだ」――この一言は、第一作『アイアンマン』のラストでトニーが初めて口にした台詞と、本作の最終決戦の最後の一言が、寸分違わぬ同じ言葉で重なる。シリーズ全体の対称性を象徴する決め台詞として、映画史に刻まれた一行となった。しかも本作以降の続編の作り――『シビル・ウォー』『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』に見られる「時間軸の縦割りと連続するクライマックス」の構造である――は、後発の多くのフランチャイズにとって、構造設計の基準点として参照され続けている。

批評・評価・文化的影響

舞台裏とトリビア

本作の脚本は、実は最終的な完成稿が出演者全員に渡されたわけではない。とりわけクライマックスの 『私はアイアンマンだ』『アッセンブル』『左にいる』 周辺は、現場での口頭指示と一回限りのリハーサルでテイクが録られたとされる。トム・ホランド(スパイダーマン)に至っては、自身の役がどの場面で生き返るのかを撮影直前まで知らされなかったと公言しているほどだ。情報統制の徹底ぶりは尋常ではない。

葬儀シーンには、シリーズの主要キャラクターがほぼ全員、たとえ前後の場面に登場しない者まで、桟橋にずらりと並ぶ。撮影はわずか一日で行われたとされ、ルッソ兄弟は「この一日のために本作全体を撮ったようなものだった」と振り返っている。これだけのキャストを一堂に会させた重みが、画面から伝わってくる。トニーの遺言映像はロバート・ダウニー・JR.が単独で先に撮影し、編集段階で本編へ織り込まれたという。あのラストの余韻は、こうした丁寧な積み上げがあってこそ生まれたものだ。

ラスト・ショットの「金属を叩く音」は、2008年の第一作『アイアンマン』冒頭、アフガニスタンの洞窟でトニーが装甲を作り始める場面の音響データを参照し、シルヴェストリと音響チームが入念に整合させたものだ。181分におよぶ長い物語の最後の最後に、たった一つの効果音だけで幕を引くという設計。これはシリーズの「最初の一音」への返礼として作られている。エンドロール直前に響くあの金属音に、すべての歴史が詰まっている。実に粋な仕掛けだ。

ペッパー・ポッツのレスキュー・スーツMk49は、『アイアンマン3』で披露されたMk42の系譜を受け継ぐ、赤と金の女性用スーツである。本作でついに完全装着のうえ実戦投入される、待望の瞬間だ。胸が熱くなる。そしてもうひとつ見逃せないのが、終盤でハッピー・ホーガンがモーガンとチーズバーガーを頬張る場面。これは第一作『アイアンマン』冒頭、アフガニスタンから生還したトニーにハッピーがチーズバーガーを差し出した名場面へのオマージュだ。シリーズを通して観てきた者にとっては、涙腺を崩壊させずにはおかない仕込みである。

34テーマと解釈

本作の核にあるのは、勝利の物語ではなく『喪失とどう生きるか』という主題だ。前作『インフィニティ・ウォー』で半分が消えた直後ではなく、あえてその5年後から物語を始める——この構造こそ、本作が描きたかったのが『失った瞬間』ではなく『失ったまま生きてきた時間』のほうだという、何よりの証拠といえる。バートンの裏庭、湖畔のスターク家、遺族カウンセリング・グループ(喪失を抱えた人々の自助会)、ニュー・アスガルドの薄暗い小屋、そしてサンフランシスコの追悼板。こうした静かな場面の数々が、後半の派手な戦闘よりもずっと長く心に残る。

対をなすのは、もう一つの主題である『継承』だ。トニーの遺言、スティーブの盾の継承、ソーの王位放棄、ハルクのスナップ、ナターシャの自己犠牲、ホークアイの父親としての帰還、ワンダのスカーレット・ウィッチ化、ピーター・パーカーのシリーズ後の引き受け——本作のクライマックスは、ヒーローたちが自分の役目を次世代へ引き渡す儀式として組まれている。エンドゲーム(Endgame)とは『最終局面』であると同時に、『誰に何を渡すかを選ぶ局面』でもある。ここにしびれる。

三つ目の主題は「時間そのものの倫理」である。本作のタイムトラベルは、現代物理学のジョークを織り込んだ三段ルール(過去改変についての作中独自の取り決め)を採用しつつも、過去の自分を変えることはきっぱり拒む。変えていいのは、自分の人生をこの先どう続けるかという「主観的な未来」だけ——そんなメッセージが、しっかりと手渡される作りだ。スティーブが1945年のペギーのもとへ帰る選択は、シリーズ全体を貫く「失った時間も、生きていればちゃんと取り戻せる」という静かな約束として読まれてきた。爽快一辺倒ではなく、痛みと贈与の両方を抱え込んだ結末。だからこそ本作は、シリーズの締めくくりとして広く受け入れられたのだろう。

テーマと解釈

視聴順ガイド

初見の観客にはまず、最低でも『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を直前に観てから本作に臨むことを強くおすすめしたい。というのも、この2作品は完全な二部一体構造、つまり前後編として一組で成立する作りで設計されているからだ。サノスの動機、ガモーラとネビュラの姉妹の関係、ストレンジが残した『一つの未来』に込められた意味、ヴィジョンの最期、そして半分が消滅する衝撃——こうした要素は、正直なところ本作単体では半分も伝わってこない。前作を踏まえてこそ、この結末の重みがようやく胸に刺さる。そういう作りなのだ。

余裕があるなら、シリーズの原点となる『アイアンマン』『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』、創設メンバーが集結する『アベンジャーズ』、そしてガモーラの背景をつかむために欠かせない『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』、さらにスティーブとペギー、トニーとハワードの関係を理解するための『ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー』あたりまで補強として観ておきたい。ここまで押さえておけば、あの葬儀のシーンとラスト・ダンスの両方が、完全に胸へと刺さってくるはずだ。

視聴順ガイド

36よくある質問

「あらすじだけ知りたい」という向きには、5年後の世界、量子領域を経由したタイムヒースト(時間泥棒作戦)、過去からのストーン奪取、ニューヨークでの最終決戦、トニーのスナップ、そしてキャップのペギーのもとへの帰還——この骨格さえ押さえておけば十分だ。一方、「結末・ネタバレまで踏み込みたい」なら、ナターシャの自己犠牲ハルクのスナップトニーの最後の指鳴らし、サムへの盾の継承、さらにソーのガーディアンズ合流まで。ここが物語の核となる。

「初めて観る」という人にとっての最低条件は、必ず直前に『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を観ておくことだ。これを欠くと、サノスの動機もガモーラとネビュラの姉妹関係も、そしてストレンジが選んだあの一手の重みも伝わらず、本作で味わえるはずの感動が大きく目減りしてしまう。「タイムトラベル理論は本当に整合しているのか」「ロキは結局どこへ行ったのか」「分岐した宇宙はその後どうなったのか」——こうした疑問は、TVシリーズ『ロキ』や、それに続くフェーズ4・フェーズ5の作品群で順次回収されていく。気になる点は置き去りにされず、確かに拾われていく構成だ。

37参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年や興行成績、受賞歴、配信状況、外部評価は変動する可能性があるため、視聴前には公式サイトや各データベース(IMDb、Rotten Tomatoesなどの映画情報サイト)の最新の表示を確認してほしい。本記事の本文は、各種公開情報をもとに、Anna Movies独自の日本語記事として構成したものである。

参考資料・出典 (5件)
  1. Marvel公式 Avengers: Endgame
  2. Marvel Cinematic Universe Wiki: Avengers: Endgame
  3. IMDb: Avengers: Endgame (2019)
  4. Box Office Mojo: Avengers: Endgame
  5. Rotten Tomatoes: Avengers: Endgame

99主要キャスト

本作の主要キャスト6名。

ロバート・ダウニー・Jr.
ロバート・ダウニー・Jr.
トニー・スターク / アイアンマン
クリス・エヴァンス
クリス・エヴァンス
スティーブ・ロジャース / キャプテン・アメリカ
クリス・ヘムズワース
クリス・ヘムズワース
ソー
スカーレット・ヨハンソン
スカーレット・ヨハンソン
ナターシャ / ブラック・ウィドウ
マーク・ラファロ
ブルース・バナー / ハルク
ジェレミー・レナー
クリント・バートン / ホークアイ