玉座と片目とハンマーを失ったソーが、生き別れの姉ヘラ、ゴミ惑星サカールの剣闘場、再会したハルクを巻き込み、母国アスガルドの『破壊(ラグナロク)』を逆手に取って人々を救う、MCUフェーズ3屈指のロックオペラ。
マーベル・スタジオ製作、ウォルト・ディズニー配給。MCUフェーズ3第6作にしてソー単独シリーズ第3作。ニュージーランド出身のタイカ・ワイティティを監督に迎え、コメディ作家エリック・ピアソンとマーベル・アニメの脚本コンビ、クレイグ・カイル/クリストファー・ヨストが脚本を担当した。
ソーが姉ヘラの帰還、ムジョルニア破壊、ゴミ惑星サカールへの追放、ハルクとの再会、ヴァルキリーとの邂逅、そしてアスガルドを『場所ではなく民』として救う最終決断を経て、片目と王座とハンマーと故郷を引き換えに『雷神そのもの』へ覚醒する転換点。続く『インフィニティ・ウォー』冒頭のアスガルド難民船襲撃に直接接続する。
ロッテン・トマト批評家評は90%台前半、観客評はAと、MCUの中でも特に高い評価を受けた。Led Zeppelin『Immigrant Song』を効果的に用いた音楽演出、サカール部分の80年代SFパルプ調の美術、ジェフ・ゴールドブラム演じるグランドマスターの怪演、ケイト・ブランシェットのヘラ、コーグ/ミークの登場が支持された。
サートゥアの幽閉と『ラグナロクの予言』、ロキの偽オーディン王、ノルウェーでのオーディンの最期、ヘラの『死の女神』復活、ムジョルニアの粉砕、サカールでのコンテスト・オブ・チャンピオンズ、ハルクとの再会、ヴァルキリー(スクラッパー142)の素性、リベンジャーズ結成、コーグの革命、フェンリス/スコージ/死人の軍勢、ソーの片目喪失とビジョンの中のオーディン、サートゥアによるアスガルド焼却、ヘラ撃破、難民船での王ソー、そしてサノスの旗艦サンクチュアリII遭遇のミッドクレジットまで、すべてのネタバレを前提に整理する。
目次 35項目 開く
概要
『マイティ・ソー バトルロイヤル』(原題:Thor: Ragnarok)は、タイカ・ワイティティが監督し、エリック・ピアソン、クレイグ・カイル、クリストファー・ヨストが脚本を共同執筆した2017年公開のアメリカのスーパーヒーロー映画である。マーベル・スタジオが製作し、ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズが配給した。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)通算第17作、フェーズ3の第6作にあたり、ソー単独シリーズとしては『マイティ・ソー』(2011)、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2013)に続く第3作にあたる。アメリカと日本では2017年11月3日に劇場公開された。
中心となるのは、神話世界アスガルドの第一王子ソー(クリス・ヘムズワース)と、彼の名と血を継ぐ姉でありながら、長らくオーディンによって封印されてきた『死の女神』ヘラ(ケイト・ブランシェット)の対決である。父オーディンが弱り、虹の橋ビフレストを通って帰還したヘラはアスガルドへ凱旋し、ムジョルニアを素手で握り潰し、ソーを宇宙の彼方へ弾き飛ばす。流れ着いた先は『損なわれた物』が銀河じゅうから集まる無秩序な惑星サカール。そこでソーは奴隷剣闘士として『コンテスト・オブ・チャンピオンズ』に放り込まれ、二年間行方不明だったハルク(マーク・ラファロ)と再会し、亡命中のアスガルド戦士ヴァルキリー(テッサ・トンプソン)と出会う。
本作はそれまでのソー単独作品が漂わせていた荘厳でやや重い神話劇のトーンを一新し、80年代SFパルプとロックの感性を全面に投入した。脚本は、本作以前にマーベルのワンショット短編やTV関連プロジェクトを手がけていたエリック・ピアソンに加え、長年ソー単独シリーズの脚本を担ってきたクレイグ・カイルとクリストファー・ヨストが共同で執筆した。撮影現場では、ワイティティが俳優陣にアドリブを許す方針を貫いた結果、ヘムズワース、ヒドルストン、ラファロ、ゴールドブラムらの掛け合いが大量に追加されている。
本記事は、サートゥアによるラグナロクの発動でアスガルドという『場所』が燃え尽き、難民となったアスガルド人を率いるソーが宇宙船で旅立つ結末、そしてサノスの旗艦サンクチュアリIIが彼らの船に追いつくミッドクレジット、ニューヨークの路上でグランドマスターが革命勢に取り囲まれるポストクレジットに至るまで、すべてのネタバレを前提として整理した完全ガイドである。
- 原題
- Thor: Ragnarok
- 監督
- タイカ・ワイティティ
- 脚本
- エリック・ピアソン/クレイグ・カイル/クリストファー・ヨスト
- 原作
- マーベル・コミックの『マイティ・ソー』シリーズ、ウォルター・シモンソン期『ラグナロク』、グレッグ・パック『プラネット・ハルク』ほか
- 音楽
- マーク・マザーズボー
- 撮影
- ハビエル・アギレサロベ
- 米国公開
- 2017年11月3日
- 上映時間
- 130分
- ジャンル
- スーパーヒーロー、SFファンタジー、コメディ、神話劇
あらすじ
以下はミッドクレジットとポストクレジットを含む全編のあらすじである。物語はサートゥアの幽閉とラグナロクの予言から始まり、アスガルドの偽王ロキ、ノルウェーでのオーディンの最期、ヘラの帰還、サカールでのソーの転落と再起、リベンジャーズ結成、アスガルドの炎上、そしてソーが王として難民を率いて宇宙へ漕ぎ出すまでを描く。ヘラの正体、ムジョルニアの破壊、ヴァルキリーの過去、ハルクの行方、サートゥアの解放、サノス船の出現といった主要なネタバレをすべて含む。
サートゥアの幽閉とラグナロクの予言
映画は宇宙の片隅、火と硫黄の煙に満ちた荒涼たる地『ムスペルヘイム』の奥地で幕を開ける。鎖で吊るされたソー(クリス・ヘムズワース)が観客に語りかける独白から始まり、彼が炎の巨人サートゥアに捕らえられていたことが説明される。サートゥアは、自らの『角』にして魂の源である王冠を、アスガルドの永遠の炎『エターナル・フレイム』と結びつければ、神々の黄昏『ラグナロク』が訪れ、アスガルドが灰燼に帰すという予言を語る。ソーは『その予言は止める』と挑発し、鎖を引きちぎってムジョルニアを呼び寄せ、サートゥアの軍勢を雷光で殲滅する。Led Zeppelin『Immigrant Song』が爆発音とともに流れ、本作の音楽的トーンが一気に提示される。
ソーはサートゥアの王冠を戦利品としてアスガルドへ持ち帰る。アスガルドの黄金の都では、しかし奇妙な祝典が開かれていた。オーディン(アンソニー・ホプキンス)の名のもとに、ロキ(トム・ヒドルストン)の死を讃える舞台劇が上演され、ロキ役を兄マット・デイモン、ソー役を兄ルーク・ヘムズワース、フリッガ役をシャーリーズ・セロンならぬ無名俳優が演じている(オーディン役を演じるのはサム・ニール)。ソーは即座にこれが偽王のロキによる悪戯であると見抜き、玉座のオーディンに化けていたロキを変装解除させる。
ロキは『父上はミッドガルドの老人ホームに置き去りにした』としれっと認める。ソーは弟を連れて地球へ向かい、ニューヨークのその老人ホームへ赴くが、建物はすでに取り壊されていた。さらに『私を探しているらしいな』と地面に置かれた紙が突風で舞い上がり、二人を吸い込んでサンクタム・サンクトラムのドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ、本作にカメオ登場)の応接室へ転送する。
ドクター・ストレンジとオーディンの最期
サンクタム・サンクトラムで、ストレンジは『地球は魔術師が守っている。アスガルドの王族二人を地球から退去させる必要がある』と告げる。ロキはストレンジに二度、長時間にわたって落とし穴の異次元へ落とされ、最終的に居場所を吐かされる。ストレンジはオーディンの所在を示す手紙をソーに渡し、ノルウェーへ二人をポータルで送り出す。本シーンは前作『ドクター・ストレンジ』(2016)公開直後の連続性を観客に示す、シリーズを跨いだブリッジとして機能する。
ノルウェーの断崖に二人が現れると、白い髭をたなびかせたオーディンが、ただ静かに海を眺めている。彼はソーとロキに、自分の力が間もなく尽きること、そして自分の死をもって永らく封印してきた者が解き放たれてしまうことを告げる——『私の第一子、お前たちの姉ヘラ』。オーディンはかつてヘラとともに九つの世界を征服したが、彼女の野心が暴走したために彼女を幽閉した過去を語る。
黄金の光に包まれたオーディンは『私を見送ってくれ』と告げ、海を渡る一陣の風となって永遠に消える。ソーとロキは沈黙の中で父を失う。だがその直後、灰色の煙が渦を巻き、漆黒の頭飾りと細身の鎧を纏った女が現れる——アスガルドの王位継承を主張する『死の女神』ヘラ(ケイト・ブランシェット)である。
ムジョルニア粉砕とビフレスト脱落
ソーは初対面の姉に対し、即座にムジョルニアを投じる。ヘラは手を上げただけでハンマーを空中で受け止め、握り潰して粉々に破壊する。ソーは膝を屈し、ロキは絶句する。ヘラは『跪け』と命じるが、ロキの機転でビフレストを起動し、二人はアスガルドへ帰還しようとする——ところが虹の橋の道筋でヘラが先回りし、ソーとロキを順番に空間の彼方へ蹴り出す。
ヘラはそのままビフレストを通過し、虹の橋の番人ヘイムダル(イドリス・エルバ)が不在のアスガルドへ凱旋する。彼女は王の親衛隊エインヘルジャーと、城下を守る三戦士フォルスタッグ、フォンダル、ホーガンを瞬時に虐殺する。ヴォルスタッグとフォンダルは劇中で短く再登場するが即座に黒い剣で貫かれて殺害され、ホーガンは住民を守ろうとしてヘラに胸を刺し抜かれる。スクージ(カール・アーバン)はビフレストの番人として唯一生き残り、命惜しさにヘラの執行人を引き受ける。
ヘラは王宮の天井画を黒い水のような魔力で剥がし、隠されていた本当のアスガルド史——オーディンと共に九つの世界を血で塗りつぶし、ヘラが処刑人を務めていたという暗黒の真実——を露わにする。さらに地下牢に幽閉されていた巨狼フェンリスを呼び戻し、墓所に眠るアスガルドの戦死者を呪術で再起動して『死人の軍勢』を従える。アスガルドはたった一人の女王によって、夜のあいだに陥落する。
サカール到着とスクラッパー142
ビフレストから蹴り出されたソーは、銀河じゅうのポータル(『悪魔の肛門』と呼ばれる星間ワームホール)からゴミの雨が降り注ぐ惑星サカールへ転落する。ゴミ山の谷間で意識を取り戻したソーは、奴隷商人らしき集団に取り囲まれる。電気鞭で気絶させられそうになるところを、装甲を纏った賞金稼ぎ『スクラッパー142』が乱入して仲裁する。彼女はサカールに住む元アスガルドのヴァルキリー(テッサ・トンプソン)だが、本人の身元は隠したまま、ソーを賞金として支配者『グランドマスター』に売り渡す。
サカールはジェフ・ゴールドブラム演じる宇宙の長老『グランドマスター』が支配する、銀河じゅうの『敗者』が落ち着く廃棄惑星である。グランドマスターは『コンテスト・オブ・チャンピオンズ』という剣闘興行を最大の娯楽とし、ソーは即座にその出場奴隷として登録される。電気首輪を埋め込まれ、髪を切られそうになるソーに、有名な床屋——スタン・リー本人がカメオ出演——が出現し、ソーの長髪をバリカンで容赦なく刈り上げる。本作で短髪化したソーのビジュアルは、サーガを通じて以降のソーの基本造形になっていく。
コンテストの控室でソーは、グランドマスターの古参の同行者でブクブクと喋る岩石種族コーグ(タイカ・ワイティティ声)と出会う。コーグは元革命家でクロナンの戦士であり、伴侶ミーク——コミック原作のミーク・マスタソンを思わせる小型のヒアリ昆虫生命体——とともにグランドマスターの興行に従っている。コーグは控えめなナレーション役として、ソーに『現王者と戦うのは絶望的だ』と告げる。
再会、リベンジャーズ結成と脱出計画
場面はコンテスト・オブ・チャンピオンズの闘技場へ移る。ソーは『新しい挑戦者』として呼び出され、観客の歓声とともにスタジアムへ放たれる。対戦相手として登場するのは、緑色の巨人——ハルク(マーク・ラファロ)。『エイジ・オブ・ウルトロン』終盤でクインジェットに乗ったまま行方不明になってから二年、ハルクはサカールで剣闘士として連戦し、頂上に君臨していた。
ソーは『あいつなら言うことを聞く!』と歓喜し、観客にハルクが旧友だと宣言するが、ハルクはまったく覚えていないか、覚えていても友情より戦いを選ぶ。雷神と緑の巨人の死闘は、ヘラの幻覚に襲われたソーが一瞬で凍りつき、ハルクの拳に吹き飛ばされて敗北する形で決着する。グランドマスターは『一番気に入った!』と新人の敗者をますます気に入る。
敗北後の浴場で、ソーはハルクと並んで湯に浸かりながら、ようやくバナーへの言語的接近を試みる。ハルクは『プニーソー(ソーはちっぽけ)』と乱暴に語りかけ、サカールがいかに気に入っているかを片言で説明する。ソーはハルクを連れてアスガルドを救うと決意し、コーグたちの協力を得て『ヴァルキリー(前述のスクラッパー142)』を仲間に引き入れ、グランドマスターのお抱え戦士を奪取する作戦を立てる。これが冗談半分の『リベンジャーズ』結成シーンとなる。
ヴァルキリーの過去とハルクからバナーへ
ヴァルキリーは過去にアスガルドの女戦士集団『ヴァルキリー隊』の一員だったが、オーディンがヘラを処分するためにヴァルキリー隊を投入した際、隊の仲間が全滅し、唯一生き残った。仲間を全員ヘラに殺された経験が彼女のトラウマとなり、戦いから降りてサカールで酒に溺れていた。ソーはヴァルキリーの居室でそのトラウマの記憶を共有する一幕を経て、彼女に『アスガルドの戦士として帰ろう』と語りかける。
ヴァルキリーはその場では拒絶するが、グランドマスターの宮殿に潜入してハルクを盗み出す計画には合流する。ハルクはサカールでの暮らしを気に入っており、当初は脱出に反対する。ソーがクインジェットの自動操縦をたまたま起動した瞬間、機内に保存されていたナターシャ・ロマノフのメッセージ——『陽が沈むよ、緑のおじちゃん』——が再生され、ハルクは涙を流しながらバナーへ戻る。
ブルース・バナーが目覚めた時、彼は数年ぶりに自分自身であることを取り戻していた。だが二年間ハルクとして生きてきた身体は脆弱で、もう一度ハルクに戻ったらバナーは二度と帰ってこられないかもしれないと、本人は怯える。ソーはバナーに『私たちは強い。だが今は『ハルクの強さ』ではなく『あなたの頭脳』が必要だ』と告げ、脱出計画の指揮へ巻き込む。
サカール革命とビフレスト侵入
コーグはサカール社会の最下層に住む奴隷剣闘士たちを煽動し、武器庫から武器を奪う革命を起こす。グランドマスターのお抱え警備隊と彼らの宇宙船クィンジェット部隊が応戦するが、コーグのインターホン放送で次々に脱獄が連鎖する。ソーとヴァルキリーは別動隊として、サカールに残されていたグランドマスター個人のショウシップ『コミックドール号』——大ぶりの旗艦——を奪取し、宇宙へ脱出する。
途中、ロキは『お前と背中合わせで戦うのは飽きた』と裏切りを宣言し、グランドマスターの側に寝返ろうとするが、ソーは事前に予測しており、ロキを電気首輪で麻痺させて床に転がしてから去る。後にロキは自由になり、独自の判断でコーグの革命勢と合流し、奴隷たちを集めて大型船『スタートマスター号』でアスガルド戦線に駆けつける。
サカール脱出時、グランドマスターは敗北を認め、宮殿の屋上で『私とお前たちは多くの点で同じ』と最後の演説を試みるが、解放奴隷たちに取り囲まれて笑顔のまま語尾を濁す。彼の処刑は劇中では描かれず、ポストクレジットで暗示される。
アスガルド帰還とヘラとの決戦
ソー、バナー、ヴァルキリー、コーグの一団はビフレストを経由してアスガルドへ戻る。ヘラの軍勢——黒い剣を装備した『死人の軍勢』とフェンリス——が虹の橋の上で待ち構えており、橋上で大規模な戦闘が始まる。ハイマダルが救出した数百人の民間人は、虹の橋の根元にあるアスガルドの宮殿の地下シェルターに集まっており、ヘラの軍勢が橋を突破すれば全員が虐殺される情勢である。
ソーはヘラに単身挑むが、姉の力は彼を圧倒する。剣を額に突き刺されて右目を奪われ、瀕死の体勢で意識を失う。意識のないソーは、自分の精神の奥でオーディンの幻と再会する。オーディンは『私が雷を与えていなかったか? ハンマーが雷だったわけではない。お前自身が雷神なのだ』と諭す。ソーは目覚め、ムジョルニア無しで雷光をまとった姿でヘラの前に立つ。
それでもヘラは『私はアスガルドそのものから力を得ている』と笑う。彼女は虹の橋の上で天を裂くような黒い剣の雨を降らせ、アスガルドの建物と橋を黒い針で穿つ。ソーはこの瞬間に決定的な判断を下す——『アスガルドは場所ではない。民だ』。彼はロキとともにサートゥアの王冠をエターナル・フレイムに突き刺し、ラグナロクを意図的に起動させる。
業火の巨人サートゥアが復活し、アスガルドの黄金の都を巨大な剣で一閃する。ヘラはサートゥアに激突し、煙のように吹き飛ばされて消える——彼女が『アスガルドから力を得る』のなら、アスガルドそのものが滅びれば力の源は失われる、というソーの逆説的な戦略が成功する。ヘイムダル、ヴァルキリー、コーグ、ハルクは難民を大型船『スタートマスター号』に乗せて発進させ、サートゥアの剣がアスガルドを縦に断ち割る瞬間、船は宇宙空間へ離脱する。アスガルドという『場所』は完全に焼け落ちる。
難民船の出航と王ソーの誕生
宇宙空間に脱出した難民船の船橋で、ソーは右目に黒い眼帯を巻いて立つ。アスガルドの王たる父オーディンの容貌に酷似したシルエットが、ガラス窓に映る。ロキは隣で『君が王になるなら、彼らはどこへ行く?』と問い、ソーは『地球だ。私たちはミッドガルドへ向かう』と答える。難民船の中ではコーグが酒を飲み、ハルクが寛ぎ、ヴァルキリーが船橋に立つ。彼女は王の隣で戦士として再び生きることを選ぶ。
ロキは『地球は私の歓迎を覚えていないと思うが』とつぶやく——『アベンジャーズ』(2012)でロキがニューヨークを侵略した過去への自嘲である。ソーは『最後にお前を見たときは、お前は刺し殺されたふりをしていたな』と返し、二人は皮肉と兄弟愛のあいだで会話を切る。ソーは『すべて上手くいく』と語り、画面に映るアスガルドの黄金の灰がソーの背後で粒子となって流れる。
ここまでが本編の結末である。ソーはハンマーと右目とアスガルドの王宮を失い、代わりに『雷神』としての自覚、姉妹を抱える家族の現実、そして数百人の難民を率いる王の務めを得る。
ミッドクレジットとポストクレジット
ミッドクレジット・シーン:ソーとロキが立つ難民船の船橋に、巨大な影が差す。窓の外いっぱいに現れるのは、サノスの旗艦『サンクチュアリII』である。難民船の数倍の大きさを誇るその船を見上げ、ロキは『これは良くないですね』と呟く——『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の冒頭、サノスがアスガルド難民船を襲撃する場面に直結する予告的シークエンスである。
ポストクレジット・シーン:サカールの宮殿前の通りに、グランドマスターが疲れ切った様子で立ち、革命勢に取り囲まれている。彼は『ここまでがクライマックスだ。私はあなたたちの革命にちゃんと貢献した。技術的に勝者は私だ』と笑顔のまま語りかけて誤魔化そうとし、解放奴隷の一人がやれやれと首を振ったところで暗転する。これはサカールの権力構造のその後を匂わせる短いコメディタッチのカットである。
登場要素
本作に登場・言及される主な要素を分類して示す。固有名詞はシリーズ理解の手がかりだが、初見で暗記する必要はない。
主要人物
- ソー/ソー・オーディンソン(クリス・ヘムズワース)
- ロキ(トム・ヒドルストン)
- ハルク/ブルース・バナー(マーク・ラファロ)
- ヴァルキリー/スクラッパー142(テッサ・トンプソン)
- ヘイムダル(イドリス・エルバ)
- コーグ(タイカ・ワイティティ声)
- ミーク(コーグの伴侶/クリスタライン)
ヴィラン
- ヘラ/死の女神(ケイト・ブランシェット)
- スクージ(カール・アーバン)
- フェンリス(巨狼)
- 死人の軍勢(ヘラの呪術で再起動された戦死者)
- サートゥア(炎の巨人、終盤は味方化)
サポート
- オーディン(アンソニー・ホプキンス、ノルウェーで昇天)
- グランドマスター(ジェフ・ゴールドブラム)
- ドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ、カメオ)
- スタン・リー(サカールの床屋)
- ロキ/ソー/オーディン役の劇中俳優(マット・デイモン/ルーク・ヘムズワース/サム・ニール)
- 三戦士(フォルスタッグ/フォンダル/ホーガン、序盤で戦死)
- トパーズ(ヘリッシュ・パテル、グランドマスターの側近)
組織
- アスガルド王家
- アスガルドの親衛隊エインヘルジャー
- ヴァルキリー隊(過去)
- ヘラの死人の軍勢
- グランドマスターのコンテスト管理機構
- コーグの奴隷剣闘士革命勢
場所
- ムスペルヘイム(炎の巨人の世界)
- アスガルド(黄金の都/ラグナロクで焼失)
- ノルウェーの海岸(オーディン最期の地)
- サンクタム・サンクトラム(ドクター・ストレンジの居所)
- サカール(廃棄惑星)
- コンテスト・オブ・チャンピオンズの闘技場
- サカールの『悪魔の肛門』ワームホール群
- ビフレスト(虹の橋)
アイテム・技術
- ムジョルニア(中盤でヘラに破壊)
- サートゥアの王冠
- エターナル・フレイム(永遠の炎)
- ビフレスト剣(ヘイムダル所持)
- ヘラの黒剣群(複数の刃を生成)
- コンテスト用の電気首輪
- クインジェット『ヴェロニカ』(ハルクが乗り捨て)
- グランドマスターの『メルティング・スティック』
- 難民船スタートマスター号
- サノスの旗艦サンクチュアリII
能力・概念
- 雷神の力(ソー、本作で『ハンマー無しでも雷を生み出す』ことが確立)
- ヘラの『黒い武器を無限に生成する能力』
- ヘラの『死人を蘇生する能力』
- ラグナロク(神々の黄昏)
- サートゥアの予言
- ハルクとバナーの解離(本作では数年単位でハルクが優位)
- コーグのクロナン族の戦闘術
ポストクレジット要素
- サンクチュアリIIの出現(『インフィニティ・ウォー』への直結)
- グランドマスターの落ちぶれ
- ロキの動向(船倉でテッセラクトを所持していた可能性が示唆。次作冒頭で明確化)
主要登場人物
本作は『神話の英雄たちが、自分が拠って立っていた基盤を全て奪われたうえで何者かを再定義する』物語であり、ソー、ロキ、ハルク、ヴァルキリー、ヘラ、グランドマスターのそれぞれに『失う/剥がれる/逆に得る』という変容が割り当てられている。以下、本作の中心となる六人を取り上げる。
ソー/ソー・オーディンソン(クリス・ヘムズワース)
本作のソーは、シリーズ前二作で『高慢→学び→王子』と移行してきた青年から、王として家族と民を背負う成人男性へ完成する。冒頭ではまだムジョルニアとアスガルドの威信を頼りに振る舞っているが、姉ヘラとの遭遇でハンマーを失い、サカールで奴隷剣闘士に転落し、最終決戦で右目を奪われ、母国を物理的に失う——それらすべてを経て、ようやく『雷神は道具や場所ではなく、自分の中にある』というオーディンの言葉を体得する。
クリス・ヘムズワースは本作で初めて、これまで抑え気味にしてきたコメディの資質を全面に解放した。それはワイティティ監督の現場ルールがアドリブを許容したためで、レゴットのジョーク(『友達のアイデアだ』と熱弁する場面)、グランドマスターの宮殿で『そこ。あれ。コインだろ』と早口でまくし立てる場面など、ヘムズワースの軽妙なコメディ・タイミングが本作のトーンを決めている。最終局面のオーディンとの精神感応シーンでは一転して抑制された演技を見せ、本作以後の『悲嘆を抱えた雷神』のベースが築かれた。
ロキ(トム・ヒドルストン)
ロキは『ダーク・ワールド』終盤で『刺し殺されたふり』をしてオーディンに化けたまま玉座を簒奪し、本作冒頭でその欺瞞をソーに暴かれる。物語が進むにつれて、ロキはサカールの宮廷でグランドマスターの寵を得てしれっと貴族扱いを受けるなど、彼の処世の巧みさが繰り返し示される。
他方で、ソーとの旧来の関係——『裏切る/和解する/また裏切る』の往復——も忠実に再演される。脱出計画の途中でロキは再び裏切りを口にするが、ソーはあらかじめ電気首輪で麻痺させる対策を取っており、ロキは『成長したな』と認めざるを得ない。最終局面ではコーグの革命勢を率いてアスガルドへ駆けつけ、シリーズで初めて『裏切らない選択』を実行する。難民船の船橋でソーと並ぶラストシーンは、兄弟関係の到達点として記憶される。
ヘラ/死の女神(ケイト・ブランシェット)
ケイト・ブランシェットがMCUに初参加し演じる本作の主敵。物語的にはオーディンの第一子であり、ヘラはかつて父とともに九つの世界を血で塗り潰した『征服の時代』の処刑人だった。野心が父の手に余って以降、ヘラはアスガルドの記録から削除され、王宮の天井画は彼女の存在を覆い隠す形で描き直されていた。
ブランシェットは黒い角飾りの王冠と全身漆黒の鎧をまとい、撫でつけた長い黒髪で立ち姿そのものに威圧感を出す。彼女は『アスガルドそのものから力を得る』設定で、本国にいる限り無敵に近く、ソー一人では物理的に勝てない。本作の最大の発明は『勝てない敵に、勝てる場所そのものを潰すという形で勝つ』というラスト・アクションの解法であり、ヘラの強さの根拠を逆手に取った構造である。
ブランシェットによるとモーション・キャプチャと実写を混ぜた撮影で、リハーサル期間に7週間のトレーニングを積んだという。台詞回しの語尾を低音で滑らかに落とすスタイルは、彼女が事前に『ファム・ファタール的な俳優像』を要望してアドレナリン製のキャラクター像を提案したことに由来するとされる。
ヴァルキリー/スクラッパー142(テッサ・トンプソン)
本作で初登場したMCUのヴァルキリーは、コミック原作の高潔な戦士像とは大きく趣を変え、サカールで酒に溺れて賞金稼ぎとして生きる元戦士として描かれた。ヴァルキリー隊は過去にオーディンが『若きヘラを止める』ために投入した最強の女戦士集団であり、ヴァルキリーは唯一の生き残りである——仲間を全員失った夜の記憶は、彼女に変身を解けるだけのトラウマを残している。
テッサ・トンプソンは本作のオーディションで、トラウマと立て直しの二面性を体現する演技を提示し、その後MCUにおける数少ない明示的なクィアキャラクターとして位置付けられていく(本作中ではヴァルキリーの過去のパートナーを暗示するワンカットが撮影されたが、最終的にカットされた。後の『ラブ&サンダー』でセクシュアリティはより明確化される)。本作末尾でアスガルドの王の隣に立つことを選び、続く『ラブ&サンダー』ではキング・ヴァルキリーとして難民国家を治めていく。
ハルク/ブルース・バナー(マーク・ラファロ)
本作のハルクは『エイジ・オブ・ウルトロン』終盤、クインジェット『ヴェロニカ』に乗り込み宇宙へ消えてから二年後の姿である。サカールでハルクは初めて『人格を持って長期間生きてきた』状態として描かれ、コンテストの王者として豪華な居室に住み、片言ながら言葉で意思疎通する。
ナターシャ・ロマノフのメッセージで人間バナーに戻ったあとは、二年間の蓄積でハルク変身が容易に解けない状態に陥っており、再びハルクに戻ったら今度こそバナーは戻ってこないかもしれないと怯える。にもかかわらず、アスガルドへ向かう難民船から虹の橋へ飛び降りる場面では自発的にハルク化を選び、フェンリスとの戦いで決定的な役割を果たす。後の『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』の人格統合(プロフェッサー・ハルク)への伏線として、本作のハルク表現はMCU連続性の上で重要な位置を占める。
グランドマスター(ジェフ・ゴールドブラム)と『リベンジャーズ』の周辺
宇宙の長老たちの一人グランドマスターは、ジェフ・ゴールドブラム特有の歪んだリズムと長い間(ま)の演技で本作のトーンを成立させている。本人は『私は支配しているのではない。みんなが自発的に楽しんでくれているだけだ』と語るが、実態は奴隷興行の独裁者である。
コーグは本作で初登場し、本作以後『ラブ&サンダー』に至るまでMCUの語り部として頻繁に再登場する。タイカ・ワイティティ自身がモーション・キャプチャと声を担当し、岩石種族らしいゆったりした口調と意外な誠実さで観客に親しまれた。彼の伴侶ミークと、奴隷剣闘士の革命の指導者という二側面はその後の作品でも参照される。
舞台と用語
舞台は三つの異なる質感の空間に分かれる。アスガルドは前二作の荘厳な金色と石造りの神殿建築を引き継ぎつつ、本作では崩壊と焼失を通じて『場所としての神話』が幕を閉じる象徴的な舞台となる。ノルウェーの海岸はオーディンの最期の地として静かな自然光のみで撮影され、神話の威光が日常的な北欧の風景へ溶け込む転換点を担う。そして本作の発明であるサカールは、ジャック・カービーのコンセプトアートに着想を得たネオン色のパルプ宇宙であり、80年代のSF美術と『プラネット・ハルク』コミックの粗雑なロマンを統合したヴィジョンが投影されている。
用語面ではラグナロク、ムジョルニア、ビフレスト、エターナル・フレイム、サートゥア、フェンリスが鍵となる。『ラグナロク』は北欧神話における神々の終末であり、本作では『止めるべき災厄』と思われた予言が『あえて起動することでヘラを倒す手段』へ転倒する。ビフレストは前作までと同じく虹の橋として描かれ、本作ではヘラがそれを逆用して宇宙へ広がる出口にも使う。エターナル・フレイムは王宮の地下に置かれた永遠の炎で、サートゥアの王冠と接触させればラグナロクが発動する。サートゥアは北欧神話のスルトに対応する炎の巨人で、本作冒頭の敵から終盤の解放戦力へと役割を変える。
制作
『ダーク・ワールド』(2013)の興行結果が前作『マイティ・ソー』(2011)に届かなかった反省から、マーベル・スタジオはソー単独シリーズの第3作で大幅なトーン転換を図ることを早くから決めていた。監督候補にはルーベン・フライシャーやロブ・レターマンも挙がっていたが、最終的にケヴィン・ファイギは『フライト・オブ・ザ・コンコルズ』『ジョジョ・ラビット』前夜のタイカ・ワイティティを大抜擢する。以下、企画から特撮までの主要な経緯を整理する。
企画と脚本
本作の原案は、ウォルター・シモンソンが80年代に描いた『マイティ・ソー』の代表エピソード『ラグナロク』を主軸に、グレッグ・パックの『プラネット・ハルク』(2006-2007年連載)の構造を借り受ける形で組み上げられた。サカールやコンテスト・オブ・チャンピオンズという要素はすべて『プラネット・ハルク』直系の発想である。マーベル・スタジオは『プラネット・ハルク』単独の映画化を諦めるかわりに、ソー単独作の中にハルクを組み込む形で長年の課題を解決した。
脚本は2014年からクレイグ・カイルとクリストファー・ヨストが下書きを進め、ワイティティが2015年に登板してからエリック・ピアソンが現場でアドリブを脚本化する役を担った。ピアソンによると、撮影時には毎朝コメディ用の追加台詞をプリントしてリハーサルに持ち込んだという。最終的なクレジットの順序は『ピアソン/カイル/ヨスト』となり、コメディ寄りの仕上げをピアソンが担当したことが反映されている。
監督ワイティティは『マイティ・ソー』の重さを脱ぎ、80年代SF的なポップな宇宙活劇に書き換えたいと再三公言してきた。ソー単独シリーズの最終作でありながら、本作は同シリーズの『卒業作』として、ハンマー、長髪、片目、アスガルドの故郷といった『シリーズの記号』を一つずつ意図的に剥がしていく構造を採っている。
キャスティング
クリス・ヘムズワース、トム・ヒドルストン、イドリス・エルバ、アンソニー・ホプキンスが前作までから続投し、新たにケイト・ブランシェット(ヘラ)、テッサ・トンプソン(ヴァルキリー)、ジェフ・ゴールドブラム(グランドマスター)、カール・アーバン(スクージ)、タイカ・ワイティティ自身(コーグ声)が加わった。マーク・ラファロは『エイジ・オブ・ウルトロン』以来、『シビル・ウォー』を経て本作で本格再登板する形となった。
ベネディクト・カンバーバッチは『ドクター・ストレンジ』の続編的位置付けで本作にカメオ出演し、サンクタム・サンクトラムでロキを落とし穴に落とすシーンを担当した。スタン・リーはサカールの床屋として登場し、本作後に続く彼のMCU連続カメオの一つとして観客に親しまれた。マット・デイモン、ルーク・ヘムズワース、サム・ニールは劇中劇の役者として登場し、ヒドルストン/ヘムズワース/ホプキンス本人を演じるという楽屋落ちのギャグを実現した。
撮影と美術
主要撮影は2016年7月から10月にかけて、オーストラリアのクイーンズランド州ゴールドコーストにあるヴィレッジ・ロードショー・スタジオを拠点に行われた。同地は税制優遇とインフラの両面でハリウッド超大作の北米外撮影地として整備されており、本作はマーベル映画として初めて全編をオーストラリアで撮影した長編となった。ノルウェーの海岸シーンは現地ロケで撮影され、サカールの市街地はゴールドコースト郊外のセットで構築された。
美術監督ダン・ヘナは、ジャック・カービーの60-70年代のコズミック・コミックの色彩を直接の引用源としている。グランドマスターの宮殿の青とピンクのネオン、コンテスト闘技場のオレンジと黄の発光体、悪魔の肛門ワームホールのパステル調の渦巻きなど、画面の各層が原色で塗り分けられた。サカールのゴミ山は実物の廃車と発泡素材の組み合わせで構築され、撮影終了後にすべてリサイクル業者へ送られた。
視覚効果
視覚効果はILMを筆頭に、Method Studios、Framestore、Rising Sun Pictures、Luma Pictures、Image Engine ほか複数社で分担された。ハルクのフェイシャル・アニメーションは『エイジ・オブ・ウルトロン』からの蓄積を引き継ぎつつ、本作では数年単位で人格を保ったハルクの目線と表情筋を、より人間バナーに近い解像度で捉え直している。
ヘラの黒い剣群、フェンリスの巨狼、死人の軍勢、サートゥアの炎、最終局面のアスガルド大火災のVFXは、各社の分担作業で本作のVFXショット総数約2700のうち相当部分を占めた。とくにビフレスト上の大規模戦闘シーンは複数のVFXハウスがリレー方式で完成させ、Led Zeppelin『Immigrant Song』再演のBGMに合わせて1ショットあたり数十秒の長尺アクションが構築された。
音楽と音響
音楽はマーク・マザーズボーが担当した。マザーズボーは新世代シンセサイザー音楽の代表的作曲家であり、80年代のジョン・カーペンター作品を思わせるアナログ・シンセを大量に用いた。アスガルドの神話的金管とサカールのシンセウェーブを対比させる戦略は、本作の二つの世界の質感の違いを音響面でも明確にしている。
挿入歌としてLed Zeppelin『Immigrant Song』が冒頭のサートゥア戦と終盤のアスガルド突入の二度にわたって使用された。同楽曲はもともと北欧神話を歌詞のモチーフにしており、ロック史と本作の主題が直接結びつく稀有な選曲となった。Led Zeppelinが映画への楽曲使用許諾を出すのは異例で、ワイティティが直接バンドの代理人に企画書を送ったとされる。
編集と完成
編集はジョエル・ネグロンとジーン・ベイカーが担当した。本作はアドリブによる撮れ高が膨大で、最終版で残った台詞の多くは脚本に書かれていない即興である。最終尺は130分に収まったが、削除されたシーンには『ヴァルキリーが過去の恋人を回想する短いインサート』『グランドマスターのパーティでロキが哲学談議をする長尺』『コーグの故郷の回想』などが含まれる。
コメディの呼吸を成立させるための短いカットの積み重ねが本作の編集の特徴であり、とくにサカール側のシークエンスは平均ショット長がMCU長編平均より明確に短く、観客を笑わせる『間』の制御が編集段階で繰り返し調整されたという。
公開と興行
2017年10月10日のロンドン・プレミアを皮切りに、10月24日からオーストラリアと欧州主要国で先行公開され、北米と日本では2017年11月3日に劇場公開された。北米初週末興収は約1億2200万ドル、全世界興収は最終的に約8億5400万ドルに達し、ソー単独シリーズの中で最大、当時のMCU全体でも上位の興行成績を記録した。
ロッテン・トマト批評家評は90%台前半、観客評はA(CinemaScore)と、興行と批評の双方で前二作を上回る成功となった。日本興収は約12億円で、北米と比較すると相対的に控えめだったが、ファンコミュニティでの評価は高く、その後のソフト・配信での視聴率を押し上げた。第75回ゴールデングローブ賞ではノミネートに至らなかったものの、サターン賞、エンパイア・アワード等で複数のノミネートと受賞を得た。
批評・評価・文化的影響
公開時の批評家評価は概ね極めて高く、『MCUの大胆な再発明』『ジェフ・ゴールドブラムを最大限活用した作品』『Led Zeppelin楽曲の使用がここまで決まる映画は珍しい』といった肯定的なレビューが多数寄せられた。批判の多くは『ヘラの掘り下げが結末のスピードに対して足りない』『ヴァルキリーの過去がもう一段映像で描けたはず』『コメディの密度がドラマの重さを軽くしてしまった瞬間がある』といった点に集中した。
公開後、本作はMCUにおけるトーン転換の決定打として位置付けられ、続く『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』のソーの孤独や、『ラブ&サンダー』のロックオペラ調の前提を作った。タイカ・ワイティティのMCU内での影響力は本作の成功で決定的に増大し、彼は『ラブ&サンダー』の監督・脚本再登板に加え、『スター・ウォーズ』新作の監督内定なども得た。ジェフ・ゴールドブラム、ケイト・ブランシェット、テッサ・トンプソンの出演はそれぞれその後のキャリアに直接的な影響を与え、テッサ・トンプソンはMCUおよびハリウッド主流圏でリーディング・ロールを得ていった。
舞台裏とトリビア
ハルクの台詞のほとんどは現場で即興に作られた。マーク・ラファロは『ハルクの語彙は小さな子供レベル』と設定し、台詞を発する前にラファロ本人が短い文を選ぶ形で収録した。
ジェフ・ゴールドブラムには『毎日違うことを言って良い』という監督指示が出ており、グランドマスターの台詞回しの多くはゴールドブラムの即興である。完成版で残った台詞はその一部に過ぎず、未使用テイクから派生したミニ・コンテンツが公式YouTubeで複数公開された。
サカールの床屋を演じたスタン・リーは、当時94歳。撮影現場で『これは俺の人生の中で一番楽しいハサミだ』と冗談を飛ばし、本作以後のMCUカメオの中でも特に印象的な登場の一つとして記憶されている。
ロキ役マット・デイモン、ソー役ルーク・ヘムズワース、オーディン役サム・ニールによる劇中劇のカメオは、ワイティティが個人的に書き下ろした分量の長いシーンの一部であり、完全版は『ブルーレイの特典』として後年公開された。
コーグの伴侶ミークの登場シーンは、当初はもっと長く構想されていた。完成版で残ったのはコンテスト控室の数カットのみだが、本作のサウンドトラックには未使用テイクから抽出した彼の鳴き声が短くサンプリングされている。
アスガルドが燃えるラスト・ショットでは、ゴールドコーストのスタジオで燃焼テストを繰り返した実写炎と、複数のVFXハウスのデジタル合成を重ね合わせている。ヴィジュアル基準は『ターナーの絵画のような色温度』とワイティティが指示したと撮影監督が証言している。
テーマと解釈
中心にあるのは『神話の英雄が自分の依り代を全て剥がされる』という主題である。ソーは父、ハンマー、長髪、片目、アスガルドの王宮、王座継承の儀礼——シリーズが彼に与えてきたあらゆるシンボルを本作で失う。代わりに残るのは『雷神そのもの』としての自覚であり、ハンマーを介さず雷光をまとう終盤のソーは、シリーズが10年かけて辿り着いた『道具に依らない英雄』の到達点である。
もう一つの軸は『場所ではなく民』としての国家観である。アスガルドという『場所』を物理的に消すことでヘラに勝つというラスト・アクションは、国家とは王宮や領土ではなく『国民が生きていること』であるという宣言であり、難民船でソーが王として民を率いる結末は、その思想の実装である。本作以降のソーの肩書きは『アスガルドの王』ではなく『アスガルドの民の王』へと事実上スライドし、続く『ラブ&サンダー』ではノルウェー海岸のニュー・アスガルドという形で具体化される。
三つ目の軸は、姉妹/兄弟という家族の暴力性である。ヘラはオーディンが封印した『暗黒の家族史』そのものであり、ロキは『裏切る兄弟』のアーキタイプそのものである。家族のなかには『手を切るしかなかった者』も『何度でも戻ってくる者』もいる——本作の結末は、その二種類の家族とどう向き合うかをソーに突きつけ、彼は『前者は終止し、後者と並ぶ』という選択を取って物語を閉じる。
見る順番(補助)
ソー単独シリーズとして観るなら、『マイティ・ソー』(2011)→『ダーク・ワールド』(2013)→本作→『ラブ&サンダー』(2022)の順が公式の流れである。前二作のオーディン、フリッガ、三戦士の存在を知っていると、本作で彼らが順に退場していく重みが格段に増す。
MCU全体の文脈で観るなら、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)→『ドクター・ストレンジ』(2016)→本作→『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)の流れが望ましい。ドクター・ストレンジのカメオは前作を観ていると意味が増し、ミッドクレジットのサノス船は次作『インフィニティ・ウォー』冒頭へ直結する。
- 前々作『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』でロキが偽オーディン王になり潜伏
- 前作『ドクター・ストレンジ』でストレンジが地球の魔術師となる
- 本作アスガルド崩壊、ソーが王として難民を率いて旅立つ
- 次作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』冒頭でサノスが難民船を襲撃
よくある質問(補助)
『あらすじだけ知りたい』場合は、ヘラの帰還とムジョルニアの破壊、ソーがサカールへ飛ばされてハルクと再会、リベンジャーズ結成と脱出、アスガルドへ戻ってヘラを倒すためにラグナロクを意図的に発動、ソーが王として難民を率いて旅立つ、という五段階を押さえれば十分である。『結末・ネタバレを知りたい』場合は、ヘラがオーディンの第一子であること、ソーが片目を失うこと、アスガルドという場所が完全に焼け落ちること、ミッドクレジットのサノス船出現が次作『インフィニティ・ウォー』に直結することまでが核となる。
『評価を知りたい』場合は、ワイティティのコメディ演出、ジェフ・ゴールドブラムのグランドマスター、Led Zeppelin『Immigrant Song』に乗ったロック演出、ヘラの威圧感、ハルクの長期一貫した人格表現が本作の重心であると押さえるとよい。『見る順番』は前二作のソー単独シリーズと『ドクター・ストレンジ』を観ておくと、本作のカメオと家族関係の重みが最大化する。
参考資料・脚注
作品名、キャラクター名、画像、各種権利はそれぞれの権利者に帰属する。公開年・興行・制作・配信状況・外部評価は変動しうるため、視聴前に公式および各データベースの最新表示を確認されたい。本記事の本文は各種公開情報をもとに、Anna Movies用の独自の日本語文章として構成している。
参照・確認先
公式画像、作品名、キャラクター名、権利は各権利者に帰属する。公開年、配信状況、外部評価は変わる場合があるため、視聴前に公式・配信元・作品データベースで確認したい。