アベンジャーズは、2012年に公開されたアメリカのスーパーヒーロー映画である。テッセラクトを狙うロキの侵略を受け、S.H.I.E.L.D.の招集でアイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソー、ハルクら6人の英雄が集結し、マンハッタンの空に開いた門から現れる敵と戦う。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)フェーズ1を完結させ、複数のヒーローを一堂に集める大型クロスオーバーの設計図を確立した記念碑的作品である。
00概要
『アベンジャーズ』(Marvel's The Avengers、原題: The Avengers)は、ジョス・ウェドンが脚本と監督を手がけたアメリカのスーパーヒーロー映画である。2012年5月4日に米国で公開され、日本では同年8月14日に劇場公開された。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の第6作にあたり、シリーズの章立てではフェーズ1を締めくくる一本であり、インフィニティ・サーガの第一幕の幕切れを担う。
原作は、スタン・リーとジャック・カービーが1963年の『The Avengers #1』で世に送り出した、複数のスーパーヒーローが結成する団体「アベンジャーズ」だ。本作の翻案では、原作初期メンバーだったハンク・ピムとワスプは姿を見せず、代わりに先行するソロ作品の主人公六人——アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソー、ハルク、ブラック・ウィドウ、ホークアイ——が結集する。ソロ映画でそれぞれの主人公を準備し、合流させて巨大な一本に束ねる。以後のハリウッド大作に地殻変動を引き起こしたこの設計図は、本作で初めて形になった。
本作の構想は、2005年にマーベル・スタジオがメリル・リンチの融資を得て独立した時点で、すでに視野に入っていた。先行作品では、各作のミッドクレジットやエンドクレジットに必ず本作への伏線が仕込まれてきた。ニック・フューリーの来訪、フィル・コールソンの登場、テッセラクト、そしてロキ。2010年4月にジョス・ウェドンが監督として正式に発表されると、彼はそれまでザック・ペンが書いていた原案を全面的に書き直し、自身の脚本で本作を完成させた。
出来上がった作品は、地理的にも縦軸でも飛び石を渡るような複合的スケールで構成されている。ニューメキシコ州の砂漠地下にあるジョイント・ダーク・エナジー・ミッション施設、ロシアの倉庫、インド・コルカタのスラム、ドイツ・シュトゥットガルトの夜の街頭、上空3万フィートを飛行する空母ヘリキャリア、そしてニューヨーク・マンハッタン中心部のスターク・タワー——舞台は目まぐるしく移り変わる。本記事は結末、サノス初登場、シャワルマ・シーンまでを含むネタバレを前提に整理している。物語の驚きを保ちたい読者は、視聴後に戻ってきてほしい。
主要データ
- 原題
- Marvel's The Avengers
- 監督・脚本
- ジョス・ウェドン
- 原案
- ザック・ペン/ジョス・ウェドン
- 音楽
- アラン・シルヴェストリ
- 撮影
- シェイマス・マクガーヴェイ
- 編集
- ジェフリー・フォード/リサ・ラセック
- 米国公開
- 2012年5月4日
- 日本公開
- 2012年8月14日
- 上映時間
- 143分
- ジャンル
- スーパーヒーロー、SF、アクション
- シリーズ区分
- MCUフェーズ1・第6作/インフィニティ・サーガ
01あらすじ
ここからは結末、ミッドクレジット、エンドクレジットまでを含む全編のあらすじである。ジョイント・ダーク・エナジー・ミッション施設の崩壊とその制圧に始まり、フューリーによる六人の招集、シュトゥットガルトでのロキ捕縛、ヘリキャリア襲撃とコールソンの死、そしてニューヨーク決戦へ。さらに核ミサイルの転送、ロキの拘束とアスガルドへの帰還、ジ・アザーとサノス、最後はシャワルマを黙々と頬張る一幕まで、時系列に沿って順に追っていく。
ジョイント・ダーク・エナジー・ミッショ…
映画はモーガン・フリーマンの語り——ではなく、宇宙の闇を旋回するカメラから幕を開ける。岩塊めいた小惑星の上、フードを被った異星の使者ジ・アザー(アレクシス・デニソフ)が、玉座にうずくまる紫色の巨人に報告する。後にサノスと判明する人物だ。地球の人類が青く光る立方体「テッセラクト」を発見したこと、そして「我らの王の代理人」ロキにそれを取り戻させようとしていることを告げる。観客はまだその巨人の名を知らない。だが本編のラストで、観客はこの同盟をもう一度目にすることになる。
場面は地球へと移る。ニューメキシコ州の砂漠の地下に隠された米軍とS.H.I.E.L.D.の合同研究施設「ジョイント・ダーク・エナジー・ミッション(プロジェクト・ペガサス)」だ。研究主任エリック・セルヴィッグ博士(ステラン・スカルスガルド)は、青い立方体テッセラクトをエネルギー源として研究している。『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』のラストで、フューリーが氷海から回収したものである。だがテッセラクトは突如、自ら電力を発しはじめ、研究室の奥に青いポータルを開く。そこから現れたのが、ロキ(トム・ヒドルストン)だ。
到着するなり、ロキはS.H.I.E.L.D.の警備兵を倒す。フューリー長官(サミュエル・L・ジャクソン)が制止に駆けつけるよりも早く、自分の杖——後にマインド・ストーンを内蔵すると判明するセプター——の青い宝石を兵士たちの胸に当て、次々と支配下に置いていく。同じ瞬間、施設の警備主任クリント・バートン/ホークアイ(ジェレミー・レナー)も、セルヴィッグも、杖の力で精神を奪われる。テッセラクトの持ち出しは許さないと言い張るフューリー。だがロキは「私はアスガルド王家の血を引く者、地球の自由なる重荷を解いてやりに来た」と告げ、施設ごと脱出する道を選ぶ。
脱出はヘリコプターと地下道を介した派手なシークエンスとなる。フューリーの副官マリア・ヒル(コビー・スマルダーズ)も追撃に加わるが、ロキは杖でフューリーを薙ぎ倒し、テッセラクトとともに施設の外へ逃れる。直後、地下施設は崩壊し、地中へと埋没する。フューリーは無線で「ワールド・セキュリティ・カウンシル」に状況を報告しながら、自らの最後の切り札を切る。「アベンジャーズ・イニシアティブ」の再起動を宣言するのだ。
招集
深夜、マリブの邸宅にトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr.)を訪ねてきたのは、コールソン捜査官(クラーク・グレッグ)だった。トニーはこのとき、ペッパー・ポッツ(グウィネス・パルトロウ)とともに、自宅と本社機能を兼ねたスターク・タワーに灯をともしたばかり。自社製のアーク・リアクターがまかなう自立した電力網——「クリーン・エネルギーの灯台」である。コールソンは予定していた夕食を取りやめさせ、ロキとテッセラクトの資料を手渡す。乗り気でないトニーだったが、「彼、行きたがってるわ」とペッパーに背中を押され、参加を決めた。
ナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)は、ロシア軍の元将官ゲオルギー・ラチコフに椅子へ縛りつけられ、尋問を受けている。だがこれは、ロマノフが彼の組織から情報を引き出すための芝居にすぎない。コールソンの電話に「コールソン、私はちょっと忙しいんだけど」と返した直後、彼女は手錠とハイヒールを武器に、部下たちを一瞬で制圧してみせる。続いて下された指令は、ブルース・バナー博士(マーク・ラファロ)の確保。舞台はインドのコルカタへと移る。
コルカタのスラム。流行り病の少女を装ったおとりでバナーに近づくロマノフに、彼は「あなたは私を怒らせに来たのね?」と穏やかに微笑む。窓の外には、武装したS.H.I.E.L.D.の包囲網がすでに敷かれていた。「君が怒れば、街が一つ消える」と恐怖をにじませるロマノフ。対して「俺はずっと怒っている」と返すバナー。このやり取りは、のちにニューヨークで見せるハルクの行動原理への伏線となっている。
スティーヴ・ロジャース/キャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンス)は、70年ぶりの解凍を経て、ブルックリンのジムでリハビリに励んでいた。サンドバッグを一発のパンチで吹き飛ばし続ける彼のもとを、フューリーが訪ねる。手渡されたのはテッセラクトのファイルだ。かつてシュミット/レッド・スカルが追い求めたあの立方体が、ふたたび姿を現した——その事実だけで、スティーヴは復帰を承諾した。
ノルウェー上空のアスガルドでは、ソー(クリス・ヘムズワース)が地球へと送り出される。破壊されて途絶えたままの虹の橋に代わり、オーディン王の暗黒エネルギーが彼を運ぶのだ。その目的はただ一つ、弟ロキの拘束にある。
ヘリキャリア、ロキの捕縛、シュトゥット…
六人は、海面下にも潜航できる空母ヘリキャリアに集結する。海面から浮上した巨大な空母が、四基のローター・タービンと光学迷彩によって雲海の上へと姿を消していく場面は、本作を象徴する技術的見せ場の一つとなった。船内では、宇宙物理学者セルヴィッグの不在を埋める代役として、バナーがテッセラクトの放射追跡装置の改造にあたる。初対面のトニーから「あなたの仕事は素晴らしい」「ガンマ線研究の権威に会えて光栄だ」と声をかけられ、バナーはわずかに緊張を解く。
ロキはドイツ・シュトゥットガルトに姿を現す。ある国際的な美術館で催されていた夜会で、彼は壇上のドイツ人物理学者ハインリヒ・シェーファー博士(ジェリー・ワッセ)の眼球を、虹彩スキャナによる「最後の鍵」として奪い取り、近隣の研究所からセプターの安定化に必要なイリジウムを盗ませる。屋外へ逃げ惑う群衆に向かってロキが「跪け」と威圧する場面は、戦時下のヨーロッパで誰もが似たような声に従わされた記憶をかすめる。
そこへキャプテン・アメリカが盾を投げ、アイアンマンが空から駆けつけ、AC/DCの「Shoot to Thrill」が鳴り響く。ロキはあっさりと投降し、捕縛される。だがクインジェットでヘリキャリアへ戻る途上、雷雲のなかから雷神ソーが降下し、ロキを奪い去って針葉樹林の岩盤に降り立つ。トニーが追い、二人は森のなかで殴り合いに突入する。そこへ盾を投げ込んだスティーヴが割って入り、雷を受けたヴィブラニウムの盾が周囲を吹き飛ばす――この三者の初顔合わせは、観客に「やっと揃った」と実感させるシーンになった。
ヘリキャリアへ収容されたロキは、ハルクの破壊力を想定して設計された巨大なガラスの円筒の独房に放り込まれる。フューリーが「私はあなた方の安全を保証しない」と告げると、ロキは「私はあなた方の安全に興味がない」と返す。だがロキの周囲では既に、彼の支配下に置かれたバートンが、ヘリキャリアの構造図とアベンジャーズ各員の経歴を分析していた。
口論、ロマノフの尋問、コールソンの死
船内の実験室と会議室で、アベンジャーズは早くも仲間割れを起こしかける。トニーはハッキングによって、S.H.I.E.L.D.がテッセラクトを秘密裏に「フェーズ2」と呼ばれる兵器計画へ転用しようとしていた事実を嗅ぎつけ、フューリーを激しく非難する。一方スティーヴはS.H.I.E.L.D.の倉庫で旧ヒドラ製エネルギー兵器の試作品を発見し、二人は同時にフューリーを問い詰める。バナーは「あなたたちは私と、私の中にいる彼を、地球規模の核兵器として呼び寄せただけだ」と苦笑し、ソーは「人間の支配の論理は、我らアスガルドの遺物にまで及ぶのか」と眉を顰める。
そこへロマノフが口論の場に入り、独房のロキのもとへ単身、尋問に向かう。ロキは彼女の暗殺者時代の罪を執拗にあげつらい、「お前はクリント・バートンの命を償いたいだけだ」と冷笑する。だがロマノフは涙ぐむような表情を浮かべたあと、声色を一変させる。「あなたは賢いふりをしている。けれど、あなたの計画はたった今、ハルクを呼び出すことだと教えてくれた」。釣り上げられたのはロキのほうだった——その計画の核心は、ヘリキャリアにバナーを乗せたままハルクを暴走させ、空母を内部から墜落させることにあったのである。
結論を伝えに駆け戻るロマノフと、テッセラクトの位置を割り出したばかりのバナー。その瞬間、外部から攻撃が走る。バートンの指揮するロキの私兵が、エンジン一基を破壊したのだ。爆風と振動で実験室の床が抜け、バナーは恐怖と苦痛のなかで変身を始める。緊急ジャンプスーツに着替えるヒロイックな描写ではなく、化学的にも生物的にも体を引き裂かれるおぞましい変身が描かれる。ハルクはロマノフを追い、ヘリキャリアの内部を破壊しながら駆け回る。ソーが応戦するが、ハルクと組み合ったまま空中でジェット機に張りつき、やがて機外へ振り落とされてしまう。
ロキは別ルートから自分の独房に近づいたソーをガラスの中へ閉じ込め、独房ごと空中へ投下するスイッチを押す。そこへコールソンが手製のヒドラ製エネルギー砲を構え、ロキの背後に立つ。「これが何かわかるか?」と問いかけるが、ロキは自らの幻影でコールソンを欺き、本体の杖の刃で背中から胸を貫く。コールソンは砲を発射してロキを壁に叩きつけたのち、ゆっくりと崩れ落ちる。ヘリキャリアの上ではフューリーがコールソンの最期を看取り、ロキを取り逃がしながらも「コールソンは死んだ。彼は我々の理由を信じていた」と言い、止血しきれない血で汚れたコールソンの『キャプテン・アメリカ』カードを、スティーヴとトニーの前に投げる。
ハルクは大気圏を割って地表へ落ち、放棄された工場の屋根を突き抜けて止まる。傷だらけの裸でバナーへ戻った彼は、独居老人の警備員(ハリー・ディーン・スタントン)に「君は変な人だ。でも、変人ばかりが世界を救う」と慰められる。一方、墜落しかけるヘリキャリアの一機では、エンジン外殻にスティーヴとトニーが取りつき、爆風と高熱のなかでエンジンを再起動させる。そしてバートンは、ロマノフに硬い手すりで頭部を強打されてロキの支配から覚醒し、自らの罪悪感を晴らすため、反撃に加わる準備を整える。
スターク・タワーと門
ロキ、バートン、セルヴィッグはマンハッタンへと移る。スターク・タワー最上階のテラスは、独立した自立電源のアーク・リアクターに支えられており、テッセラクトを安定化させる装置の電源として申し分なかった。支配下に置かれたままのセルヴィッグは、リアクターを囲うように巨大な金属の輪と冷却装置を組み上げ、その中央にテッセラクトを据える。
トニーは一人で先回りし、スーツも着けずに最上階でロキと向き合う。「俺の家を出ていけ」と挑発しつつ酒を勧めるトニーに、ロキは「私は神だ」と返す。トニーは飄々と「お前は今、王と同じくらいピザの注文を聞かれることが多くなる」と切り返し、やがてロキが「貴様らの仲間は私を止められない」と言い放って、トニーの額にセプターを突きつける。だがアーク・リアクターは反応しない。「タイミングが悪いね、ロキ」と笑うトニーを、ロキは窓の外へ投げ落とす。落下していくトニーの背を追ってアイアンマンのスーツが飛び、空中で装着——「マーク7」の自己装着フィニッシャーとして、シリーズで最も名高いスーツアップの一場面となった。
テッセラクトが空へ青い光線を放ち、マンハッタンの上空に巨大なポータルが開く。次々と降下してくる細身の異星人兵士チタウリ、そして巨大な鋼鉄の海獣を思わせる航空生物リヴァイアサンが、市街を蹂躙し始める。地上では警察も市民も逃げ惑い、橋もビルも崩れていく。視覚効果のスケールと密度において、当時のスーパーヒーロー映画の限界を一気に塗り替えた場面だ。
ニューヨーク決戦
クインジェットでマンハッタンへ向かうキャプテン・アメリカ、ブラック・ウィドウ、ホークアイの三人に、それぞれの戦線で奮闘していたアイアンマンとソーが合流する。最後にニューヨークへ駆けつけるのは、ボロボロのオートバイで乗り込んでくるブルース・バナーだ。「秘密を教えようか、キャップ……俺はいつも怒ってるんだ」——スティーヴに半ば笑いながらそう答えると、バナーは初めて自らの意思でハルクへと変身し、リヴァイアサンの顔面を一撃で打ち砕く。
ジョス・ウェドンはここで、グランド・セントラル駅前の交差点を中心にカメラをぐるりと一周させ、六人が集結するショットを置いた。下から見上げる六人——ハルクの肩越しに盾と槌、矢と銃、そして高熱炉が円陣を組む。この一枚絵は、本作と、ひいてはMCU全体を象徴するカットとなった。アラン・シルヴェストリによるアベンジャーズの主題曲が、初めて完成形のオーケストレーションで響き渡るのもこの場面である。
戦線は分担される。キャプテン・アメリカは交差点で警察に避難誘導を指示し、防衛ラインを築かせる。ホークアイはビルの屋上から弓矢でチタウリを撃ち落とし、敵の進路を読む司令塔の役割を担う。ブラック・ウィドウはバートンの援護を受けつつ、地上で戦闘車両や機動隊と連携する。ソーは雷でリヴァイアサンを撃ち、アイアンマンは敵の航空生物を引きつけては急降下し、背中からの爆破でリヴァイアサンを内部から破壊していく。
そのあいだに、ブラック・ウィドウはスターク・タワーの屋上へ侵入する作戦を提案する。セルヴィッグが、ロキのセプターこそテッセラクト装置を停止できる唯一の鍵だと気づいたためだ。地上のホークアイ、空のアイアンマン、屋上のロマノフ、橋のキャプテン・アメリカ、リヴァイアサンの上のソー、そして街を駆け回るハルク——それぞれが持ち場で時間を稼ぐ。
ハルクはスターク・タワー内部へ侵入すると、ロキを片手で掴み上げ、床へ何度も叩きつける。「あわれな神(puny god)」と吐き捨てられ、床に投げ出されたロキの脱力しきった姿は、本作のコメディとカタルシスを兼ねる最大の見せ場として語り継がれている。
核ミサイルと門の閉鎖
戦線が長引くなか、ヘリキャリア上のフューリーのもとへ、ワールド・セキュリティ・カウンシルが命令を下す——マンハッタンへ核ミサイル一発を撃ち込め、と。街と300万人の命を引き換えに、未知の異星種族の侵入経路を一撃で消し去る。それが彼らの論理だった。だがフューリーは従わない。滑走路から発射しようとした戦闘機を自らバズーカで撃ち落とす。もう一機は取り逃がすが、その情報をすぐさまアイアンマンへ伝える。
「マーク」と呼ばれた核ミサイルは、ロング・アイランド側からマンハッタン上空へと放たれる。トニーはスーツの推力で弾頭の尾翼を掴み、進路を90度ねじ曲げて、天空に開いたポータルへと押し上げていく。スーツの電源は赤の警告へと落ち込み、ジャービスとの最後の交信でトニーはこう頼む。「ペッパーを呼んでくれ」。ペッパーへの呼び出し音が鳴り続けるなか、彼の意識は途絶える。
ミサイルはポータルを抜け、向こう側で待ち構えていたチタウリの母船と、サノス傘下の艦隊を、巨大な閃光とともに飲み込む。連結されていた敵兵は、一斉に活動を停止する。彼らはハイブ・マインド型のクリーチャー(一つの意識を共有する群体型の生物)であり、母船の死は全機の死を意味する——本作の設計上、いささか都合のよい救済装置でもある。
屋上のロマノフは、地上のスティーヴとホークアイ、空のソーの合図を待たない。自らの判断でセプターを装置に差し込み、ポータルを閉じる。閉じる直前、無重力のなかで気を失いかけていたトニーが、戻ってくる流線型の閃光のなかから落下してくる。ハルクが空中で彼を抱き留め、ビルの外壁を引き裂きながら地面へ着地させる。アイアンマンのヘルメットを乱暴にこじ開けたハルクの叫び声が、止まっていた心拍を呼び戻す。「俺たち、勝ったか?」。上を向いたトニーのその一言で、張り詰めた空気がふっと緩む。
拘束、別れ、ジ・アザーとシャワルマ
崩壊したスターク・タワーの屋上のバーで、六人は静かにロキを取り囲む。「降伏しろ」とスティーヴが促すと、ロキは「……一杯もらってもいいか」と弱々しく返す。市街戦の残骸が散らばるマンハッタンには、生き延びた避難民の安堵が広がっていく。
セントラル・パークでは、テッセラクトを収めた円筒装置を二人で握り、ソーがロキを連れてアスガルドへと帰還する。手錠の上に銀色の口枷を嵌められたロキは、ひと言の弁明も許されないまま、虹の橋なき帰路に立つ。アイアンマンは、ハッピー・ホーガンの運転する車に、ペッパー・ポッツやアントンと——ではなく、自分ひとりで乗り込む。バナーとトニーは互いの研究を交換すると約束を交わし、ホークアイとブラック・ウィドウはS.H.I.E.L.D.へ戻っていく。それぞれの別れには、「彼らは必ずまた戻ってくる」というニック・フューリーのモノローグが重なる。
ミッドクレジット(一回目の幕間)では、宇宙の小惑星上で、ジ・アザーが王(サノス)へ報告する。「父よ、地球の人類はまだ我々が思っていたほど従順ではありませんでした。彼らに挑むことは、すなわち死神に挑むことです」。サノス(演じるのはダミオン・プワロ)はゆっくりと振り向き、紫色の顔の口角を上げて、不気味な笑みを浮かべる。この戦いの背後にもっと大きな存在が控えていたことを、観客はここで初めて知らされる。彼の名がフルネームで明かされ、物語の真の終着点となるのは、6年後の『インフィニティ・ウォー』である。
エンドクレジット後の追加シーンは、何の説明もなく始まる。戦闘で破壊された中東料理店の半壊した店内で、アベンジャーズの六人がシャワルマを黙々と食べているという画だ。誰も口を開かない。ソーは肉を噛みちぎり、ハルクは窮屈そうに席に座り、トニーは血だらけで虚ろな目をしている。人類最大の勝利のあと、ヒーローたちが疲労困憊で外食する——そんなアンチクライマックスを描いたこの30秒は、本作の人間味と、群像コメディとしてのジョス・ウェドンの署名そのものになった。
登場要素
本作に登場・言及される主要な要素を、ここで分類して紹介する。先行する五本のスピンオフ作品で張られた伏線を一気に回収していくだけに、登場する固有名詞の密度はシリーズ屈指といえる。
- トニー・スターク/アイアンマン
- スティーヴ・ロジャース/キャプテン・アメリカ
- ソー・オーディンソン
- ブルース・バナー/ハルク
- ナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ
- クリント・バートン/ホークアイ
- ニック・フューリー
- フィル・コールソン
- マリア・ヒル
- ロキ・ラウフェイソン
- ジ・アザー
- サノス(ミッドクレジットで初登場)
- チタウリ歩兵
- リヴァイアサン
- ゲオルギー・ラチコフ(前章の捕縛者)
- ペッパー・ポッツ
- エリック・セルヴィッグ
- ハインリヒ・シェーファー博士
- ハッピー・ホーガン(言及)
- JARVIS(声)
- 独居老人の警備員(カメオ)
- シャワルマ店の店員
- S.H.I.E.L.D.
- アベンジャーズ・イニシアティブ
- ワールド・セキュリティ・カウンシル
- ジョイント・ダーク・エナジー・ミッション(プロジェクト・ペガサス)
- アスガルド
- チタウリ族
- ニューヨーク市警察
- ヒドラ(旧)
- ジョイント・ダーク・エナジー・ミッション施設(ニューメキシコ)
- コルカタ(インド)
- シュトゥットガルト(ドイツ)
- ヘリキャリア(S.H.I.E.L.D.空母)
- スターク・タワー(ニューヨーク)
- セントラル・パーク
- アスガルド(言及)
- 宇宙の小惑星(ジ・アザーとサノス)
- テッセラクト(後のスペース・ストーン)
- ロキのセプター(マインド・ストーン内蔵)
- アーク・リアクター
- ヴィブラニウム盾
- ムジョルニア
- アイアンマン・マーク6/マーク7
- クインジェット
- ハルクバスター級独房
- ヒドラ製エネルギー砲
- ジ・アザーが捧げる玉座
- スーパー・ソルジャー血清
- ガンマ線とハルク化
- アスガルド魔術
- ライトニング召喚
- 意識支配(セプター)
- 宇宙ポータル
- ナノセコンドのスーツ自動装着
- S.H.I.E.L.D.の「フェーズ2」兵器計画
- ジ・アザー
- サノス(初登場)
- シャワルマの黙食
- 「彼らに挑むことは死神に挑むことだ」(台詞)
11主要登場人物
本作は登場人物それぞれに、性格や能力、倫理観の違いがあらわになる状況を用意している。六人を同時に動かさねばならないため、各人物の成長の弧は短い。だが、その密度は濃い。
トニー・スターク/アイアンマン
本作のトニーは、私財を投じてスターク・タワーをクリーン・エネルギーの灯台へと作り変えた直後、まさに絶頂期の発明家として姿を見せる。だがチームプレイには明らかに不向きで、ヘリキャリア内ではキャプテン・アメリカと早々に衝突する。「鎧を脱いだら何が残る?」と問われ、「天才、億万長者、プレイボーイ、慈善家」と切り返す。その軽口は、やがて核ミサイルを抱えてポータルへと昇っていく自己犠牲の選択へとつながっていく。
「ヒーローではないと思われていた者が、ヒーローとして死を選ぶ瞬間」を置くことで、トニーの動機は鎧の自慢から「自分よりも世界を選ぶ」へと書き換えられる。続編『アイアンマン3』冒頭で描かれるPTSDの伏線、そして『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』での最終決断は、いずれも本作のこのワン・ショットからまっすぐに伸びている。
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スティーヴ・ロジャース/キャプテン・ア…
70年もの間氷漬けにされ、目覚めたばかりの「迷子の兵士」が、本作で初めて指揮官としての才覚を見せる。シュトゥットガルト、ヘリキャリア、グランド・セントラル駅前の交差点——いずれの場面でも真っ先に動き、避難の動線と戦闘の配置を瞬時に組み立てていく。そのまとめ役ぶりに注目したい。
彼の揺るがぬ倫理観は、本作では「S.H.I.E.L.D.の隠し兵器計画」をめぐり、フューリーへの不信となって表れる。「私は嘘の上で戦争を戦った」——時代に取り残された男のこの一言が、中盤の苦さを救っている。それは、二作後の『ウィンター・ソルジャー』で描かれるS.H.I.E.L.D.の崩壊と、見事に響き合うからだ。
ソー
前作『マイティ・ソー』のラストで虹の橋を破壊し、地球とアスガルドを結ぶ道を自ら断ったソー。本作では、弟ロキを連れ戻すという家族の責任を引き受けられる唯一の存在として姿を現す。「彼は私の弟だ」と繰り返し、ロキの所業をすべて自らの責任として背負おうとするその姿勢は、後年の『ラグナロク』で完全に裏切られるための布石として効いている。
森のなかでアイアンマン、キャプテン・アメリカと三つ巴の小ぜり合いを繰り広げる場面は、「神話的な存在を、人間の英雄がその力量で受け止められる」と観客に初めて示した瞬間でもある。ムジョルニアの落雷を盾で受け止め、衝撃波が森を一掃する——その構図こそ、本作のスケールの設計図そのものを物語っている。
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ブルース・バナー/ハルク
本作はマーク・ラファロが初めてバナーを演じた作品である。エドワード・ノートンに代わってラファロが起用されたことで、諦めと自虐を内に折りたたんだ柔らかな人物という、バナーの新たな解釈が定着した。「俺はいつも怒っている」という台詞は、自らの内に棲む怪物との関係を、絶望ではなくユーモアの距離から扱う宣言であり、シリーズ全体のハルク像を方向づけることになった。
ハルクのCG表現も、本作で大きく刷新された。前作までと異なり、モーション・キャプチャーによってラファロ本人の演技がそのままハルクの表情と仕草へ転写されている。ジョークの笑いも、ロキを叩きつける刹那の苛立ちも、これはバナーが演じる怪物なのだと観客を納得させる仕上がりだ。
ブラック・ウィドウとホークアイ
前作までの二人は、影が薄かった。ブラック・ウィドウは『アイアンマン2』のカメオ出演にとどまり、ホークアイは『マイティ・ソー』の冒頭でロキに洗脳されるだけのサブ要員にすぎなかった。それを本作はチームの戦術中枢へと引き上げる。とりわけブラック・ウィドウの描かれ方は秀逸だ。ロキへの単独尋問の場面で、「私の頭をのぞいたつもりが、私があなたの頭をのぞいた」と切り返す。立場を逆転させるこの一手は、本作の数ある伏線回収のなかでも最も鋭いものの一つに数えられる。
ホークアイは、前半では冷淡な敵側の私兵として描かれ、後半では罪悪感を背負いながら弓を構える司令塔へと立ち直る。ニューヨークの決戦では、地上に押し寄せるチタウリの群れと、橋上を逃げまどう避難民の動線を、矢の軌道と無線の指示で同時にさばいてみせる。神話の雷神に弓矢で立ち向かうという構図には、本来どこか馬鹿馬鹿しさがつきまとう。その滑稽さを戦術の正確さで覆し、本物の役割へと作り変えてみせた人物。それがホークアイなのだ。
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ロキ
本作のロキは、トリックスター(いたずら者)の神としての本領をいかんなく発揮する。冒頭では、ジ・アザーから「失敗すれば、お前は痛みの新しい意味を知ることになる」と脅され、その不安と虚勢が表裏一体であることが示される。観客に「ヴィラン側の苦境」をひとことも説明しない。ただ目線と呼吸だけでそれを伝えるトム・ヒドルストンの演技が、本作以降、ロキというキャラクターをシリーズ最大の人気ヴィランにして、アンチ・ヒーローへと押し上げた。
「神」を自称しながら、ハルクには子供のように地面へ叩きつけられ、フューリーには罠を見破られ、ナターシャには手の内をのぞかれる。そして最後はスティーヴに静かに「降伏しろ」と促され、差し出されたグラスを前に口を開ける。重ねられていく屈辱を丁寧に演じきった結果、観客はロキを憎みきれず、のちの『ラグナロク』『ロキ』へと向かう余白が生まれた。
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ニック・フューリーとフィル・コールソン
フューリーは本作で初めて、長官でありながら現場で銃を構える一兵卒の顔をのぞかせる。ワールド・セキュリティ・カウンシルとの対立、コールソンを盾に取ってチームの士気を立て直す情報操作、味方の戦闘機への自爆覚悟の応戦——「私は法の上には立たない。だが、ときに法の外に立つ」。そんな人物像が、後の『ウィンター・ソルジャー』へとつながる伏線として周到に配置されている。
コールソンは『アイアンマン』から五本を通して登場してきた「視点人物」であり、観客にとって最も身近なS.H.I.E.L.D.の顔だった。その死は、観客とアベンジャーズの双方に共通の喪失を一瞬で生むための、脚本上きわめて機能的で、そして酷薄な選択である。なお、コールソンは後にTVシリーズ『エージェント・オブ・シールド』で復活を遂げるが、その物語は本作を含む劇場版MCUの本流とは別系統として扱われている。
舞台と用語
本作の舞台は、現代の地球各地と、宇宙に浮かぶ小惑星上の玉座という、まるでスケールの異なる二つの世界だ。ジョイント・ダーク・エナジー・ミッション施設の地下、雨季のコルカタのスラム、夜のシュトゥットガルトに立つ中世建築、ヘリキャリアの近未来的な内装、スターク・タワーのアール・デコ調のペントハウス、そして最後にマンハッタンの摩天楼——。色温度も照明もカメラの動きも、場面ごとに大きく変えてある。だからこそ観客は、言葉で説明されずとも、いま物語がどこにあるのかを肌で感じ取れるのだ。
用語の面では、テッセラクト(後のスペース・ストーン)、ロキのセプター(後のマインド・ストーン)、ヴィブラニウム盾、アーク・リアクター、ヘリキャリアが鍵を握る。なかでもテッセラクトは、『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』『キャプテン・マーベル』『アベンジャーズ/エンドゲーム』『ロキ』にまたがる通奏低音のような主題であり、本作はその最初の正面衝突として位置づけられる。これらの言葉は、事前に暗記するより、登場人物が本作でどう振る舞うかを通して自然に覚えていくほうが、よほど記憶に残るはずだ。
20制作
本作は、マーベル・スタジオが2005年にメリル・リンチからの自主資金で発足した、まさにその時点ですでに見据えられていた長期計画の到達点である。ここでは、企画から特撮に至るまでの主な歩みを整理しておきたい。
企画と脚本
本作の脚本は、2010年4月にジョス・ウェドンが監督として正式発表されるまで、ザック・ペンが手がけていた。就任したウェドンは、ペンの原案を土台にしつつ、ほぼ全面的に自分の物語へと書き換える。テレビシリーズ『バフィー〜恋する十字架〜』『エンジェル』『ファイヤーフライ 宇宙大戦争』で、群像コメディと長期にわたる伏線を見事に両立させてきた作風。五人、六人の主役を一つの空間に押し込むという本作の脚本要件と、その手腕はぴたりとかみ合った。
ウェドンがとりわけ時間を費やしたのは、ヘリキャリア内の会議室と研究室のシークエンスである。彼が中盤の核に据えたのは、「俺たちはこうしてチームになる」ではなく、むしろ「俺たちが一度バラバラになる」だった。コールソンの死をめぐる演出上の選択もまた、観客と各員に「同じ一人を失う」という共通体験を作り出すためのもの。ニューヨーク決戦でのチームの結束を、倫理的に支える設計になっている。
監督・脚本を務めたジョス・ウェドンは、本作以降、MCUにおける「群像物の作法」のテンプレートを定義する位置に立つこととなった。続編『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』でも、引き続き彼が脚本と監督を担う。
キャスティング
六人の主要キャストのうち、五人は先行するソロ作品からの続投となった。ロバート・ダウニー・Jr.、クリス・エヴァンス、クリス・ヘムズワース、サミュエル・L・ジャクソン、クラーク・グレッグ、グウィネス・パルトロウ、ステラン・スカルスガルドは、すでに観客になじみのあるキャラクターをそのまま引き継いでいる。一方、スカーレット・ヨハンソンとジェレミー・レナーは、それぞれ『アイアンマン2』『マイティ・ソー』では脇に控える存在だったが、本作で本格的なチームの一員へと躍り出た。
本作で最も大きな交代となったのが、ブルース・バナー役である。前作『インクレディブル・ハルク』で演じたエドワード・ノートンとマーベル・スタジオとの間で、創作上の方向性が折り合わなかった。そこで白羽の矢が立ったのがマーク・ラファロだ。ラファロは、ハルクの動きと表情を自らモーション・キャプチャーで演じる方式に切り替え、これがシリーズにおけるハルク像を一新する転機となった。
ロキを演じたトム・ヒドルストンは、本作でシリーズ屈指の悪役にして最も人気を集めるキャラクターの座を確かなものにした。サノス役のダミオン・プワロは本作のミッドクレジットでその姿を現し、のちの『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』ではジョシュ・ブローリンへとバトンが渡されていく。
撮影とロケ地
`text 本作の主要撮影は、2011年4月から9月にかけて行われた。撮影地は、米国ニューメキシコ州アルバカーキ郊外、オハイオ州クリーヴランドのダウンタウン、そして同州サンダスキー市の中心部である。クリーヴランドのイースト9番街と、サンダスキーの東42号線を含む大通りは、ニューヨーク・マンハッタン中心部のセットとして使われた。高層ビルが爆破され、チタウリが上から降ってくる広場の正体は、これら中西部の街路にCGで摩天楼を重ねたものである。
撮影監督のシェイマス・マクガーヴェイは、IMAXフィルムカメラとARRI Alexaを組み合わせ、屋外の大規模なシーンと屋内の寄りの画を両立させた。ヘリキャリアの艦橋とラボのセットは、アルバカーキ郊外の専用倉庫に組まれている。クインジェットとロキの独房は、可動式のセットとして個別に建てられた。
シュトゥットガルトの夜の場面は、実際にドイツでロケを行ったわけではない。サンダスキーの劇場街と教会前の広場を改装して撮影されたものだ。古いヨーロッパを思わせる石畳と街灯の質感は、美術部とロケ・スカウトの徹底した工夫によって作り出されている。 `
視覚効果
本作の視覚効果は、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)を主担当とし、Weta Digital、Scanline VFX、Hydraulx、Luma Pictures、Trixterなど複数のスタジオが分担した。最も負荷が大きかったのはニューヨーク決戦の場面である。マンハッタン中心部にそびえる摩天楼、チタウリの歩兵、リヴァイアサン、テッセラクトが開く上空のポータル、そしてアイアンマンとリヴァイアサンの空中戦などを、いずれもデジタルで構築している。
ハルクは、前作『インクレディブル・ハルク』までとは異なり、ILMがマーク・ラファロのモーション・キャプチャー演技を全身に転写する形で一から作り直した。ラファロの顔の筋肉の動きをそのままハルクの顔に移し替えることで、笑い、苛立ち、当惑といった細やかな感情がCGの肉体に宿る。観客はハルクを、ラファロが演じるもう一人の自分として受け取れるようになった。
こうした成果が認められ、本作は第85回アカデミー視覚効果賞にノミネートされた(受賞は『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』)。ILMはここで磨いた技術を、続く『パシフィック・リム』や、自ら手がけたMCUの後続作品へと受け継いでいくことになる。
音楽と音響
音楽を手がけたのはアラン・シルヴェストリ。前作『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』を仕上げたばかりで、その英雄的な主題を本作のチーム主題へと巧みに引き継いだ。メインテーマは、低音のホルンと打楽器が刻む3和音の上昇形に、弦と金管が大きく重なる構造を持つ。ニューヨーク決戦の360°集合カットで、その完全形が初めて姿を現す。
のちに「アベンジャーズ・テーマ」と呼ばれるこの旋律は、以後シリーズ全体でチーム結集を告げるシグネチャーとして機能していく。『エイジ・オブ・ウルトロン』ではブライアン・タイラーが変奏を加え、『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』ではシルヴェストリ自身が再び編曲を手がけた。いずれも本作のテーマを引用し、発展させたものである。
音響デザインも緻密だ。テッセラクトの稼働音、セプターの宝石が放つ冷たい共鳴、ハルクの肉体的な唸り、リヴァイアサンの低周波の咆哮——固有の存在ごとに音を丹念に作り分けている。
編集と公開準備
編集はジェフリー・フォードとリサ・ラセックが担当した。本作最大の難所は、六人のヒーローが同時に動くニューヨーク決戦のシークエンスである。誰がどこで何と戦っているのか、観客が見失わないよう各員の戦線を交互に配置しなければならない。グランド・セントラル駅前の360度集合カットを起点に、地上、屋上、空、橋、そしてハルクの単独行動という五つの戦線を、息の合ったリズムで切り替えていく。この編集は本作最大の達成のひとつに数えられる。
公開直前のテスト試写では、シャワルマを黙々と食べるシーンが思わぬ反響を呼んだ。これを受けてウェドンが急遽追加撮影を行い、完成度を高めたという経緯がある。エンドクレジット後に短い場面を加え、観客を席に留めたまま静かなオチを見せる――この手法は、本作以降のMCUの文法として完全に定着した。
27公開と興行
ワールド・プレミアは2012年4月11日、ロサンゼルスのエル・キャピタン劇場で開催された。米国での劇場公開は5月4日。日本では同年8月14日に『アベンジャーズ』の邦題で公開されている。
興行成績は、当時のあらゆる予想を超えるものだった。米国オープニング週末は約2.07億ドル、最終的に米国内で約6.23億ドル、世界興収は約15.18億ドルを記録。公開当時の映画史上歴代3位(『アバター』『タイタニック』に次ぐ)であり、スーパーヒーロー映画としては、それまでの最高記録を二倍近くも更新する数字だった。この成功を受け、マーベル・スタジオはフェーズ2以降の長期計画への投資判断を一気に固めていく。
第85回アカデミー賞では視覚効果賞にノミネートされた。サターン賞ではファンタジー映画賞、編集賞、メイクアップ賞、特殊効果賞、コスチューム賞、最優秀男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)、最優秀脚本賞(ジョス・ウェドン)など複数を受賞。MTVムービー・アワードでは最優秀作品賞、ピープルズ・チョイス・アワードでは最優秀作品賞、最優秀ヒーロー賞(ロバート・ダウニー・Jr.)などを獲得している。
28批評・評価・文化的影響
本作の批評はおおむね高く、Rotten Tomatoesでは91%(公開当時)、Metacriticでも69点と、群像エンタテインメントとしては破格の支持を集めた。批評家の多くが称賛したのは、大勢のキャラクターを巧みに捌くジョス・ウェドンの会話劇の手腕、ヒドルストンとラファロが示した新たな解釈、シルヴェストリの音楽、そしてマンハッタン決戦がもたらす純粋な映画的快楽の高さである。
産業面に与えた影響はさらに大きい。複数の単独映画でそれぞれの主人公を準備し、やがて合流させて一本の巨大な物語へと束ねる——本作で初めて成立したこの設計図は、以後ハリウッドのみならず世界中のフランチャイズ運営に影響を及ぼした。DC映画、トランスフォーマー、モンスターヴァース、ダーク・ユニバース構想など、本作のあとに乱立したクロスオーバーの試みは、そのほとんどが本作の成功への直接の反応だった。マーベル・スタジオ自身も、フェーズ2、フェーズ3、サーガ、マルチバース・サーガと、本作の方法論をそのまま延長する形で歩みを続けていく。
「アベンジャーズ・アッセンブル」「あわれな神」「天才、億万長者、プレイボーイ、慈善家」といった台詞、ハルクがロキを床に叩きつけるカット、360°のチーム集合ショット、そしてシャワルマ・シーン。これらはいずれも、公開以後の大衆文化に共有された言語として、今なお広く引用され続けている。
舞台裏とトリビア
サノスの初登場となるミッドクレジット・シーンは、当初の脚本には存在しなかった。ジョス・ウェドンの友人で、本作の編集を担当した一人ジェフリー・フォードが提案し、ウェドンがこれを採用したと伝えられている。演じたのは舞台俳優のダミオン・プワロ。衣装と顔のメイクの上に最小限のCGを重ねる手法で撮影された。
シャワルマのシーンは、ロサンゼルス・プレミアのあとに急遽追加撮影された場面である。劇中でロバート・ダウニー・Jr.が放った「シャワルマを食べたい」というアドリブを本人が気に入ったことがきっかけだった。撮影の時点で公開ポスターや宣伝資材はすでに仕上がっており、エンドクレジット後のわずか30秒間だけが、最終的な本編の中で唯一プレミア後に加えられた映像となっている。
ハルクがロキを床に何度も叩きつけ、「あわれな神」と吐き捨てるカット。台本にはわずか一行、「Hulk smashes Loki repeatedly.」と記されていただけだった。マーク・ラファロのモーション・キャプチャー演技と、ILMの編集が組み合わさって生まれた、現場での発見である。
コールソンの『キャプテン・アメリカ』のカードを血に染めて差し出すフューリーの所作。実はあのカードはコールソンのロッカーに置きっぱなしになっていたもので、フューリーが後から取り出して見せた「嘘」だったと、制作陣は折に触れて認めている。観客と仲間たちに「共通の喪失」を抱かせるための小道具として、フューリー自身が仕組んだ小芝居だったのだ。
30テーマと解釈
本作の中心にあるのは、「ひとりの英雄が、チームという共同体になることの難しさ」というテーマだ。メンバーはそれぞれ異なる倫理観と過去、嗜好を抱え、ヘリキャリア内ではあからさまに衝突する。彼らをひとつのチームへと変えるのは、勝利の高揚ではない。コールソンという仲間をひとり失う経験である。本作が「集まる映画」の祖型たりえたのは、群像劇に欠かせない「共通の喪失」を、きちんと物語のなかに据えたからにほかならない。
もうひとつの軸は、力と責任をめぐる問いである。S.H.I.E.L.D.が秘匿していた「フェーズ2」のヒドラ製エネルギー兵器、ワールド・セキュリティ・カウンシルが下す核ミサイル発射命令、そしてフューリーによる自軍機の撃墜——本作は「世界を守る組織が、世界を脅かす力をも握っている」という二重性を、ヒーローたちの不信の根拠として正面から描く。この主題は、続く『ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー』へとそのまま受け継がれていく伏線でもある。
そして最後の軸が、敵の規模の拡張だ。本作のヴィランはロキだが、その背後にはジ・アザーとサノスが控えている。地球の英雄たちが宇宙規模の敵に立ち向かえることを示したうえで、さらにその奥にもう一段大きな敵がいると観客に予告して幕を下ろす。本作の幕切れは「勝った」ではなく「勝った、けれども」と響くよう設計されており、それがシリーズ全体を貫く持続的な牽引力を生んだ。
31見る順番
初見であれば、本作は『アイアンマン』『インクレディブル・ハルク』『アイアンマン2』『マイティ・ソー』『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』の五本を観たうえで臨むのが最も自然だ。先行するソロ作品で張られた伏線、人物、固有名詞が一気に回収されていく構成のため、いきなり本作から入ると人物の関係性がつかみにくい。
本作のあとは『アイアンマン3』『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』をはさみ、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』へと進む。これがフェーズ2の標準的な道筋である。
32よくある質問
「あらすじだけ知りたい」という人には、ロキがテッセラクトを奪う冒頭、六人の招集、ヘリキャリアでの内紛とコールソンの死、ニューヨークの門と核ミサイル、ロキの拘束、ジ・アザーとサノス——このおおまかな七つの場面を追えば十分だ。「結末を知りたい」という人なら、アイアンマンが核ミサイルをポータルへ送り込み、戻ってきたところをハルクが受け止める、そしてロキは口枷を付けられてアスガルドへ連行される。この三点さえ押さえれば、物語の決着はつかめる。
「サノスはこの作品で何をしたのか」という疑問はよく聞かれるが、本作のサノスはミッドクレジットで一度笑うだけで、何も行動していない。彼が物語の主役級ヴィランとして本格的に動き出すのは、6年後に公開された『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』である。「テッセラクトとは何か」という問いには、後にスペース・ストーン(六つのインフィニティ・ストーンのひとつ)であることが『キャプテン・マーベル』以降で明示される、と答えるのが正確だろう。
33参考資料・脚注
作品名、キャラクター名、画像、および各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年や興行成績、制作・配信の状況、外部の評価は変動しうるため、視聴の前に公式情報および各データベースの最新の表示を確認されたい。本記事の本文は、各種の公開情報をもとに、Anna Movies独自の日本語記事として構成したものである。