九つの世界の整列『コンバージェンス』を背景に、暗黒の力エーテルを宿してしまった恋人ジェーンを救うため、ソーが幽閉中の弟ロキと手を組み、母フリッガの死とロンドンを舞台にした最終決戦を経て、王座より愛を選ぶフェーズ2中盤の神話劇。

基本データ 2013年・アラン・テイラー監督

マーベル・スタジオ製作、ウォルト・ディズニー配給。MCUフェーズ2第2作にしてソー単独シリーズ第2作。当初『モンスター』のパティ・ジェンキンスが内定していたが、最終的にHBO『ゲーム・オブ・スローンズ』の主要演出家アラン・テイラーが起用され、暗く泥臭い質感の神話劇として撮り直された。脚本はクリストファー・ヨスト、クリストファー・マルコス、スティーヴン・マクフィーリーによる三本柱で、原案はドン・ペインとロバート・ロダット。

物語上の位置 エーテル=リアリティ・ストーンの初登場

宇宙誕生以前から存在する暗黒の力『エーテル』が、九つの世界の整列『コンバージェンス』の節目に表舞台へ呼び出され、それが後にインフィニティ・ストーンの一つ『リアリティ・ストーン』であると明かされていく。フリッガを失い、ロキの偽装死と『偽オーディン』即位を経て王座を放棄するソーの結末は、フェーズ3の『ラグナロク』『インフィニティ・ウォー』までの種を一気にまく転換点となる。

受賞・評価 ファンの評は割れたが興行は健闘

ロッテン・トマト批評家評は60%台半ば、観客評はAマイナス級。前作の魅力だった『地球で学ぶ神話の王子』という喜劇調が後退し、暗いダークファンタジー基調へ振り切ったことに賛否が分かれた一方、トム・ヒドルストン演じるロキの存在感、グリニッジの『コンバージェンス』を利用した次元跳躍バトル、フリッガとオーディンの夫婦愛、ハインミルやシフ、ウォリアーズ・スリーの活劇は支持された。

この記事の範囲 エーテル・コンバージェンス・コレクター・冷凍獣まで完全解説

ボーがマレキスを退けた太古の戦い、収監中のロキ、ジェーンがエーテルに憑依される過程、ダーク・エルフによるアスガルド襲撃とフリッガの死、ロキを連れての脱獄、スヴァルトアールヴヘイムでのロキの偽装裏切りと『死』、グリニッジでのコンバージェンス決戦、ソーの王位拒絶と『オーディン=ロキ』のラスト、エーテルを集まらせない方針で『コレクター』タニリィア・ティヴァンへ預けられるミッドクレジット、そしてジョトゥンヘイムから紛れ込んだ氷の獣のポストクレジットまで、すべてのネタバレを前提に整理する。

目次 36項目 開く

概要

『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(原題:Thor: The Dark World)は、アラン・テイラーが監督し、クリストファー・ヨスト、クリストファー・マルコス、スティーヴン・マクフィーリーが共同で脚本を執筆した2013年公開のアメリカのスーパーヒーロー映画である。マーベル・スタジオが製作し、ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズが配給した。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)通算第8作、フェーズ2の第2作にあたり、ソー単独シリーズとしては『マイティ・ソー』(2011)、『アベンジャーズ』(2012)に続く第3度目の主演作にあたる。米国公開は2013年11月8日、日本公開は2014年2月1日。

物語の発端は、宇宙が光に満たされる以前——闇に支配されていた太古の昔に、ダーク・エルフの王マレキスが宇宙を再び闇へ戻すために生み出した『エーテル(Aether)』にある。当時アスガルドの王だったボー(オーディンの父)は九つの世界の整列『コンバージェンス』を利用したマレキスの儀式を寸前で阻止し、エーテルを石柱の内に封じて誰も触れぬ場所へ隠した。マレキスとわずかな同胞は超光速の冬眠船で銀河の闇へと姿を消す。それから幾千年を経て、ふたたびコンバージェンスが訪れた現代、ロンドンで天体異常を追っていた天体物理学者ジェーン・フォスター(ナタリー・ポートマン)が偶然にエーテルに触れ、宿主となってしまう。

前作で地球を踏みつぶしかけたロキ(トム・ヒドルストン)はアスガルドの地下牢に幽閉され、九つの世界では『破壊された虹の橋』ビフレストの修復後も小さな反乱が続いている。ソー(クリス・ヘムズワース)は王太子として各地の鎮圧戦を指揮しながら、地球の恋人ジェーンへの想いを抱え続けてきた。エーテルを宿したジェーンを救うため、ソーは父オーディン(アンソニー・ホプキンス)の禁を破って彼女をアスガルドへ連れ帰る——その判断が、復活したマレキスをアスガルドへ呼び込み、母フリッガ(レネ・ルッソ)の死と、ロキとの不本意な共闘、そしてグリニッジでの次元跳躍バトルへと一気に物語を雪崩れさせていく。

本記事はミッドクレジットとポストクレジットを含む結末まで踏み込む完全ガイドである。エーテル=リアリティ・ストーンの正体、フリッガの最期、ロキの『死』と偽オーディン即位、グリニッジでのコンバージェンス決戦、コレクターへのエーテル受け渡し、ジョトゥンヘイムから流れ込んだ氷の獣の落ち穂拾いまで、主要なネタバレをすべて前提として整理している。

原題
Thor: The Dark World
監督
アラン・テイラー
脚本
クリストファー・ヨスト/クリストファー・マルコス/スティーヴン・マクフィーリー
原案
ドン・ペイン/ロバート・ロダット
音楽
ブライアン・タイラー
撮影
クレイマー・モーゲンソー
米国公開
2013年11月8日
上映時間
112分
ジャンル
スーパーヒーロー、SFファンタジー、神話劇、ロマンス

あらすじ

以下はミッドクレジットとポストクレジットを含む全編のあらすじである。物語はマレキスとボーの太古の戦いから始まり、現代のロンドンでジェーンがエーテルに触れる事件、アスガルド襲撃とフリッガの死、ロキとの共闘、スヴァルトアールヴヘイムでのロキの『死』、グリニッジでのコンバージェンス決戦、王位を捨てたソーの結末、コレクターへのエーテル受け渡し、そしてジョトゥンヘイムから紛れ込んだ氷の獣の落ち穂拾いまでを描く。エーテルの正体、ロキの偽装、ラストの『オーディン=ロキ』など主要なネタバレをすべて含む。

プロローグ/ボーとマレキスの太古の戦い

オーディンのナレーションで物語は遥か太古、宇宙が光に満たされる前の暗黒の時代へと遡る。ダーク・エルフの王マレキス(クリストファー・エクルストン)は、九つの世界が一直線に並ぶ宇宙的事象『コンバージェンス』を利用して、宇宙を再び闇に沈める力『エーテル』を解き放とうとしていた。エーテルは物質ではなく流体に近い赤い力場として描かれ、触れた者の体内へ宿主のように入り込み、現実そのものを書き換える性質を持つ。

オーディンの父、ボー王はアスガルドの軍団を率い、コンバージェンスの惑星スヴァルトアールヴヘイム(暗黒妖精界)でマレキスと激突する。マレキスはアスガルド勢が儀式の発動前に到着した誤算を悟り、副官アルグリムを呪われた戦士『カースド(Kursed)』化させて捨て駒に投入する。クリーチャー化したカースドは戦場を蹂躙するが、ボーの猛攻で大勢は決し、マレキスは僅かな生き残りを連れて超光速の冬眠船『ハーロー』に乗り込み、エーテルを失ったまま銀河の闇へと撤退する。ボーはエーテルを破壊できぬまま石柱の内に密封し、誰も触れぬ場所へ隠した——後にスヴァルトアールヴヘイムの地下深くに葬られる、暗赤色の球状容器がそれである。

プロローグは、後の現代パートで唐突に登場する『9世界の整列』『赤い液体状の力場』『黒の冬眠船から這い出る古い種族』といった要素をすべて先回りで観客の頭に刷り込む役割を担う。語り口こそ神話劇の口調だが、提示される事実は『恒星規模の天体イベントが定期的に起き、その瞬間にだけ宇宙の規則が緩む』というSF設定であり、本作の終盤グリニッジ決戦の科学的な見え方を裏で支える土台になっている。

アスガルドの平定とロキの幽閉

現代のアスガルド。前作および『アベンジャーズ』でニューヨークを侵略しようとしたロキは、囚われの身としてアスガルドへ連行される。母フリッガに迎えられたあと、玉座のオーディンから直に裁きを受け、終身刑として地下牢へ収監される。オーディンは『お前の母君の命がなければ処刑されていた』と冷たく告げ、ロキも『我が宿命を悟られたか』と皮肉で返す。きらびやかな囚人服に身を包み、独房を本と家具で居心地よく改造しているロキの姿は、彼が完全に折れたわけではないことを示唆している。

一方ソーはビフレストの修復後、九つの世界に散らばる小さな騒乱の鎮圧に奔走している。冒頭の戦闘ではヴァナヘイムを舞台に、シフ、フォルスタッグ、ヴォルスタッグ、ファンドラル(前作のジョシュ・ダラスから本作はザカリー・リーヴァイ)を率い、巨大な岩石獣『キュロス・ザ・ロックマン』を一撃で粉砕してみせる。岩石獣の登場は『そのレベルの脅威でさえ秒で片付く今のソー』を示すと同時に、続くポストクレジットで地球に取り残される氷の獣のための小さな仕込みでもある。

戦勝の宴の中でソーは父からふたたび王位継承を促されるが、心は地球——とりわけ天体物理学者ジェーン・フォスターに残ったままだ。ヘイムダル(イドリス・エルバ)はビフレストの監視台から地球の様子を見つめるソーに、『あの娘ならば今日もしっかり生きておられる』と短く告げる。父と子、王と恋人、義務と感情の引き裂きが、開幕30分の中で静かに敷かれていく。

ジェーン・フォスターとロンドンの異変

場面はロンドンへ移る。ジェーン・フォスターは助手のダーシー・ルイス(キャット・デニングス)、その『インターンのインターン』を自称するイアン・ブースビーとともに、市内各所で観測される重力の異常を追っている。郊外の廃倉庫では、子どもたちが拾ったトラックを宙に浮かべて遊んでおり、物を投げ入れると別の場所から落ちてくる『重力点』が無造作に転がっている。空中で待機しているはずの鳥や酒瓶が、放した瞬間に上方向へ吸い込まれる映像は、後のグリニッジ大決戦の伏線である。

ダーシーから連絡を受けて自分の機材を改造したスマートフォン式観測器を握ったジェーンは、廃倉庫の奥でひときわ強い反応を捉える。地下のさらに奥、忘れ去られた排水溝のような空間に、赤い光が脈打つ円柱の祠のような構造が露出している。儀式に呼ばれるように手を伸ばしたジェーンは、円柱の中から噴き出した赤い液状の力——エーテル——を全身に浴び、意識を失う。

目覚めたジェーンは行方不明扱いで警察に保護されかける。駆けつけたソーが触れた瞬間、ジェーンの体内に隠れていたエーテルが暴走し、警官たちを衝撃波で吹き飛ばす。地球の医学では手の施しようがないことを悟ったソーは、彼女をビフレストでアスガルドへ運ぶ。豪奢な治療室で診察を受けたジェーンは、アスガルドの賢者たちにも『過去の記録に存在しない、宇宙より古い力』と告げられ、生身の体では遠からず焼き尽くされると宣告される。

マレキスの覚醒とアスガルド襲撃

ジェーンがエーテルに触れたことで力の波紋が宇宙全域へ広がり、銀河の闇で眠っていたマレキスとカースドが冷凍睡眠から覚醒する。マレキスは生き残った副官たちに、『エーテルは宿主へ自ら帰った』『次のコンバージェンスは、もう間もなくだ』と告げる。ハーロー(マレキスの旗艦)は太陽光線を吸収して闇を生み出す異形の翼を広げ、アスガルドへ針路を取る。

アスガルド側では、エーテルを宿したジェーンが事実上『宇宙最強の照明弾』として位置を晒している状態にある。マレキスはまず捨て駒として、地球側から潜入させていたカースドを介して牢獄を内部から破壊する作戦に出る。観客にはここで、地下牢に収監された他の悪党たちが一斉に解き放たれる、ロキを含めた囚人たちのアクション映え場面が用意される(ロキは騒ぎを傍観する側に回る)。

ハーローと随伴艦隊がアスガルドの結界を突破し、王宮上空に進入する。ヴォルスタッグらが地上の防空線を引き受け、シフが城内で剣を振るうが、敵の本命はジェーンを抱えて避難するフリッガと、王宮深部に隠されているはずのエーテル本体である。

ここで本作のもっとも重い場面が訪れる。フリッガはマレキスとカースドを王妃の私室で迎え撃ち、巧みな剣術と幻術でジェーンを身代わりの幻に置き換える。だがマレキスは幻を見破り、フリッガを背後から長剣で貫く。駆けつけたオーディンとソーは、絶命したフリッガを胸に抱き、母であり妃であり、最も信頼できる賢者でもあった存在を一瞬で失う。

フリッガの葬送と父子の決裂

黄金の灯火に照らされた水路を、白い葬送船がアスガルド全市民に見送られて滑り、漕ぎ手が銀の矢を放つ。船の上で焼かれたフリッガの魂は無数の光球となって夜空へ昇り、川面と都全体が金色の星々で満たされる。本作で最も静謐な、かつシリーズ屈指の美しさで知られるシーンである。地下牢の中でも光が降り注ぎ、独房の壁に頭を預けたロキが、表面の冷笑を一瞬だけ崩して涙を浮かべる。彼にとってフリッガは、養母であろうと血の上では完全な母であった唯一の存在だった。

オーディンは喪失と憤激に飲まれ、『アスガルドの全戦力をエーテルとマレキスの絶滅へ投入する』と宣言する。だがそれは事実上、エーテルの宿主ジェーンを犠牲にしてでも宇宙を守るという論理であり、ソーは父と決定的に意見を違える。ソーは『ジェーンとエーテルを敵地スヴァルトアールヴヘイムへ運び、コンバージェンスの瞬間に体外へ抽出してマレキスごと宇宙へ放逐する』という、勝算の薄い裏作戦を構想する。

そのためには、城外への安全な経路、敵船の中まで運ぶ手段、そしてアスガルドの目を欺く案内人が必要だ。最後の一手として、ソーは父に反逆して地下牢のロキを訪れる。『どうせ閉じ込められたままなら、世界の終わりに巻き込まれて死ぬ運命だ。ならば私と来い、母上の仇のために』。フリッガの死を口にされたロキは表情を固くし、しばしの皮肉の応酬ののち、ソーの提案に乗る。

脱獄とアスガルド離脱

ソーはヘイムダルの黙認、シフとフォルスタッグの援護、そしてヘイムダルの旧友である航法士たちの手引きを得てロキを地下牢から連れ出し、王の目を盗んでアスガルドを脱出する。ファンドラルは見張りの注意を引きつけ、ヴォルスタッグはオーディンの追撃を遅らせるための嘘の報告を引き受ける。

移動手段として用意されたのは、何百年も前にアスガルド王室から消えたとされていた『ダーク・エルフ製の旧式宇宙船』である。操舵席に座ったソーが何度操作しても船は反応せず、ロキが鼻で笑いながらキーらしき石を押し込むと、船は警報音とともに動き出す。城内の構造物を巻き込みながら強引に発進し、追撃の戦闘艇を振り切る一連の場面は、戦闘ではなく兄弟漫才に近いリズムで運ばれ、本作で最も解放感のあるシークエンスとなっている。

船内では、ソーが『お前は信用されていない』と何度も釘を刺し、ロキは『また人型になるか?女性に化けてみせようか?』と次々と短い幻影に変身して見せる。一瞬だけ画面に登場する『キャプテン・アメリカに化けたロキ』は、クリス・エヴァンスのカメオ出演として作品の話題となった。終始ロキの言葉が信じられないからこそ、彼が一度本気で身を投げ出す瞬間が後に効くという構造である。

スヴァルトアールヴヘイムとロキの『死』

灰色の砂と崩れた石塔だけが地平線まで続くスヴァルトアールヴヘイムに、ソーとロキは船を降りる。ジェーンは荷物のように担がれ、苦痛と意識朦朧の境を行き来している。ソーは『ここからは芝居だ』とロキに告げ、二人はあらかじめ示し合わせた『裏切り』を実行する。

ロキは『お前を兄と呼ぶことに飽きた』と叫び、ソーの手を斬り落とし(実際は幻術)、ジェーンとともにマレキスの前へ進み出る。マレキスは罠を疑いつつもエーテルの匂いに釣られ、ジェーンの体に手を翳して赤い力を抽出する。エーテルがマレキスの体内へ完全に取り込まれた瞬間、ソーはムジョルニアに溜め込んでいた雷をエーテルへ叩き込み、宿主の体内で爆破して破壊しようと試みる。

閃光が静まったあと、しかしマレキスは無傷で立っている。エーテルは雷で破壊できる程度の力ではなく、むしろ宿主と一体化することで完全体に近づいたのである。マレキスはハーローへ撤収を命じ、副官カースドは地上のソーへ向かう。

巨人化したカースドはソーの脇腹に銛を撃ち込み、長剣で押さえつける。ジェーンを抱えて駆けつけたロキは、迷う素振りもなくカースドの背中に長剣を貫通させ、その勢いで自分自身も串刺しにする。カースドはロキの仕掛けたブラックホール弾頭で空間ごと吸い込まれ、瞬時に消滅する。ロキはソーの腕の中で、最後の皮肉も冗談も口にせず、『言うつもりはなかったのに……まぬけ……』と漏らして息絶える。砂上に倒れたロキを抱きしめるソーの叫び、雷鳴の代わりに鳴る低い管楽器、見上げる空に静かに降る塵——ロキ初の『死亡』場面として、観客にも俳優にもひとまず最終的に映る瞬間として丁寧に演出される。

ソーはジェーンを連れて崖を駆け降り、近くにあった巨大な扉付きの遺跡——古いコンバージェンス・ポータルの一つ——を抜けて、地球のロンドンへと脱出する。

グリニッジ決戦/コンバージェンス

ジェーンを父アースキン家ならぬセルヴィグ博士(ステラン・スカルスガルド)のもとへ連れ戻したソーは、半ば壊れた頭脳と引き換えに『次元構造の天才』へ覚醒したセルヴィグから、コンバージェンスの中心がロンドンのグリニッジ天文台、王立海軍兵学校跡の中庭であることを聞かされる。マレキスはそこへハーローを降下させ、最大の整列の瞬間にエーテルを解放し、九つの世界すべてを闇に沈めようとしている。

セルヴィグはアベンジャーズ事件のロキ憑依の後遺症で奇行が抜けず、下着姿で意気軒昂に天体観測を続けている人物として登場する。だがその彼の『重力ピーク逆位相中和装置』こそが、コンバージェンス中に開いた次元の穴を任意の地点で開閉できる、本作で唯一マレキスを倒し得る唯一の道具となる。ジェーン、ダーシー、イアン、セルヴィグの四人がグリニッジ周辺へ観測ピンを打ち込み、ソーがマレキスに正面から雷を浴びせて時間を稼ぐ。

マレキスとの戦いは、整列によってロンドン市街の至る所に開いた次元の裂け目——地下鉄、テムズ川、屋上、アスガルドの森、ジョトゥンヘイムの氷原、暗黒妖精界——を瞬時に行き来する、本作最大の見せ場へと展開する。ソーが投げたムジョルニアが別の次元へ飛ばされ、何秒も遅れて違う角度から戻ってくる、ソーが扉から入ったと思ったら一秒後に天井から落ちてくる、といった芝居が次々と挟まる。これは前半でジェーンが廃倉庫で見せられた『重力点』の最終的な答え合わせとして機能している。

最終局面、ジェーンとセルヴィグが装置を正しい順序で起動し、エーテルを解き放とうとしていたマレキスを彼自身の旗艦ハーローの大気圏侵入軌道上に強制ジャンプさせる。マレキスは雷で動かなくなった自船の重量に押し潰され、エーテルもろとも絶命する。エーテルは粒子状に砕けて散り、コンバージェンスは閉じる。九つの世界は再びそれぞれの軌道へ戻り、ロンドンの市街には日常の朝の光が戻る。

終幕/王位を捨てたソーと『偽オーディン』

アスガルド帰還後、ソーはオーディンに王位継承を辞退すると告げる。父との対話の中でソーは『私は王より、自分の選んだ者と立ちたい』と静かに述べ、ムジョルニアを腰の留め具に戻して玉座の前を立ち去る。オーディンは『お前を息子として誇りに思う』と短く応じ、玉座に深く座り直す。

次の瞬間、画面は決定的な裏切りの種を明かす。玉座のオーディンの姿が一瞬陽炎のように歪み、立ち上がったその人物は——青いマントを羽織ったロキだった。スヴァルトアールヴヘイムでの『死』は精巧な幻術であり、ロキはひそかにアスガルドへ戻り、何らかの形でオーディンを排除(あるいは封じ)たうえで、その姿で玉座に成り代わっていた。父の死を悼んで王座を辞退した『良き王太子ソー』の決断が、知らず知らず弟による王位簒奪を完成させた瞬間でもある。

場面はロンドンへ移る。フォスター家のフラットの呼び鈴が鳴り、扉を開けたジェーンの目の前にソーが立っている。二人は静かに抱擁し、雷鳴を伴って空に光が走る。ダーシーとイアン、セルヴィグ博士もそれを窓越しに見守り、本編はジェーンとソーの再会で穏やかに幕を閉じる。

ミッドクレジットとポストクレジット

ミッドクレジットでは、シフとヴォルスタッグが薄暗い隕石型の都市——後にガーディアンズ・オブ・ギャラクシーで再登場することになる、無法地帯ノーウェアの一角——を訪れる。二人はガラスケースに収められた赤いエーテルの結晶を、白塗りの長髪の収集家『コレクター』タニリィア・ティヴァン(ベニチオ・デル・トロ)に手渡す。理由として『二つのインフィニティ・ストーンをアスガルドに集めて置くのは危険過ぎる』と告げる二人を、コレクターは満面の笑みで送り出し、扉が閉じてから一人で『あと五つ』と呟いて笑う。インフィニティ・ストーンという固有名詞、テッセラクトに続く二つ目の石、そしてコレクターという中継者——後の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『インフィニティ・ウォー』へ繋ぐ重要な土台を、この30秒で一気に提示する一場面である。

ポストクレジットは打って変わって日常の小品である。ジェーンの自宅キッチンに帰着したソーは、ジェーンと再会の口づけを交わす。だがその直後、ロンドンのトラファルガー広場のどこかから、本編冒頭でソーが鎮圧したはずのジョトゥンヘイムの巨獣の小型個体が、コンバージェンスのドサクサに紛れて地球に流れ込んでしまっており、まったり日向ぼっこをしている姿が映る。落とし損ねた小さな『お土産』がそのまま日常を侵食しているシュールな絵で、本作はその余韻ごと幕を閉じる。

登場要素

本作に登場・言及される主な要素を分類して示す。エーテル=リアリティ・ストーンと『コンバージェンス』、ダーク・エルフという新種族、フリッガとロキの母子関係といった、MCU後年に効く要素を中心に拾っている。

主要人物

  • ソー/ソー・オーディンソン(クリス・ヘムズワース)
  • ジェーン・フォスター(ナタリー・ポートマン)
  • ロキ・ラウフェイソン(トム・ヒドルストン)
  • オーディン(アンソニー・ホプキンス)
  • フリッガ(レネ・ルッソ)
  • ヘイムダル(イドリス・エルバ)
  • シフ(ジェイミー・アレクサンダー)
  • ヴォルスタッグ(レイ・スティーヴンソン)
  • ファンドラル(ザカリー・リーヴァイ)
  • ホーガン(浅野忠信)

ヴィラン

  • マレキス(クリストファー・エクルストン)
  • アルグリム/カースド(アドウェール・アキノエ=アグバエ)
  • ダーク・エルフ精鋭部隊
  • マレキスの旗艦ハーロー艦長
  • エーテル(リアリティ・ストーンの未覚醒形態)

サポート

  • ダーシー・ルイス(キャット・デニングス)
  • イアン・ブースビー(ジョナサン・ハワード)
  • エリック・セルヴィグ(ステラン・スカルスガルド)
  • リチャード・マディソン(ジェーンのデート相手、クリス・オダウド)
  • タニリィア・ティヴァン/コレクター(ベニチオ・デル・トロ、ミッドクレジット)
  • ボー王(トニー・カラン、プロローグ)
  • ロキ変身の偽キャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンス、カメオ)

組織

  • アスガルド王室
  • ダーク・エルフ
  • 九つの世界(ナイン・レルムズ)の住民
  • ロンドン警視庁
  • コレクターの私設博物館

場所

  • アスガルド(王宮/葬送の水路/地下牢/ビフレスト)
  • スヴァルトアールヴヘイム(暗黒妖精界)
  • ヴァナヘイム(プロローグ)
  • ジョトゥンヘイム(言及・氷の獣の出自)
  • ロンドン市街/グリニッジ天文台と王立海軍兵学校跡
  • ストーンヘンジ近郊(観測ピン)
  • ノーウェア(コレクターの根城、ミッドクレジット)

アイテム・技術

  • ムジョルニア
  • エーテル(赤い液状の力)
  • ダーク・エルフのブラックホール弾頭
  • セルヴィグの重力ピーク逆位相中和装置(観測ピン)
  • ハーロー(マレキスの旗艦)
  • アスガルドの幻術
  • ビフレスト
  • アスガルド製の冷凍睡眠カプセル
  • コレクターの収蔵庫の展示ケース

能力・概念

  • コンバージェンス(九つの世界の整列)
  • 宿主に取り憑くエーテルの自律性
  • フリッガの幻術
  • ロキの幻影変身(女王・キャプテン・アメリカ等)
  • アスガルドの寿命と血統
  • リアリティ・ストーンの萌芽
  • 次元の裂け目を介した戦闘

ポストクレジット要素

  • コレクターによるエーテル受領(→『ガーディアンズ』へ橋)
  • 『二つの石を一つの場所に置くのは危険』というファイギ的伏線
  • ジョトゥンヘイムから紛れ込んだ氷の獣
  • 玉座の偽オーディン(ロキ)

主要登場人物

本作は『家族』と『王位』が主題となる。前作で父に振り上げた拳を下ろしたソーが、今作では母を失い、弟を失い(と思い込み)、父さえも知らぬ間に失う。各人物の選択がそれぞれに完結し、フェーズ3以降のソーの孤独——『ラグナロク』『インフィニティ・ウォー』のソー——の原型をここで確定させる。

ソー・オーディンソン(クリス・ヘムズワース)

前作で『鉄槌の重みを学ぶ若者』として描かれたソーは、本作では既にビフレスト復旧から1年余り、九つの世界の鎮圧戦を最前線で率いる王太子として登場する。岩石獣を一撃で倒す圧倒的な戦闘力、配下の戦士たちへ淀みなく命じる落ち着き、地球の女性を片時も忘れないやさしさ——成熟した英雄として既に完成している。

本作で問われるのは『その完成した彼が、母の死と弟の死、そして恋人の生を秤にかけて何を選ぶか』である。ソーはエーテルを破壊するためにジェーンを犠牲にする父のやり方に同意せず、敵地への密航と『弟の手を借りる』という最も気乗りしない選択を自ら引き受ける。最終的に王位を辞退して地球の女のもとへ降りる結論は、彼が雷神である前に一人の息子であり、恋人であろうとする宣言として描かれる。

皮肉なことに、その立派な辞退の決断が、隣の玉座に座っていた『父』が偽物だったことに気づかぬまま行われる。観客はラスト直前にしてようやくその事実を知らされ、ソーの善意ある退場が結果として弟の王位簒奪を完成させてしまったことを理解する——次作『ラグナロク』で『偽オーディン』が暴かれるところまでの引きとして、最も重要な人物的着地である。

ソーの人物ページ 前作:マイティ・ソー(2011)

ロキ・ラウフェイソン(トム・ヒドルストン)

幽閉、復讐、和解、裏切り、偽装死、王位簒奪——ロキは本作だけで四〜五段の感情と立場の変化を見せる。母フリッガを真に愛し、それを表に出すのが苦手なまま、結果として彼女を守れなかった負い目が彼を初めて『計算抜きで誰かのために動く』場所まで連れて行く。

ソーとの兄弟漫才、女性や敵兵への幻影変身、独房での読書、フリッガの追悼での涙、カースドへの不意の自己犠牲、そしてラストの玉座——ヒドルストンが演じるロキは、本作で観客の人気を完全に独占したと言ってよい。マーベル・スタジオはこの反応を受けてロキの単独主役シリーズ(後のDisney+『ロキ』)への道を開いていく。

本作のロキは『死を演じることで望む地位を手に入れる』というキャラクター技を完成させており、その手口が次作『ラグナロク』冒頭で『偽オーディン即位中のロキ』として種明かしされる。ここでの偽装死は単なるサプライズではなく、シリーズの長い縦軸の一布石として配置されている。

ロキの人物ページ 次作:マイティ・ソー バトルロイヤル

ジェーン・フォスター(ナタリー・ポートマン)

前作のジェーンは『地球で雷神に出会ってしまった天体物理学者』として登場したが、本作の彼女は『二年も連絡を寄越さなかった神を一発引っ叩いてもいい人間』として描かれる。冒頭、ダーシーに連れられて行ったデート相手リチャードに対する微妙な表情、ロンドン郊外での観測中の鋭さ、エーテルに憑依されてからアスガルドで自分の置かれた状況を即座に科学者として理解し質問を始める頭の回転——彼女が単に守られるヒロインではないことを明確にしている。

本作のジェーンの体には、後にリアリティ・ストーンと呼ばれる石の萌芽が宿る。物語ではあくまで一時的な憑依として処理されるが、はるか後の『ソー:ラブ&サンダー』(2022)で彼女が再びムジョルニアに呼ばれ『マイティ・ソー』として覚醒する伏線として、振り返って読めば実に長い影響を持つ役回りである。

ナタリー・ポートマン本人の出演交渉は難航したことが知られ、当初検討された『黒鳥』『スター・ウォーズ』時代の盟友パティ・ジェンキンス監督がプロジェクトを離れたことが直接の理由として報じられた。それでも完成した本作でのポートマンは、SFファンタジーの中心にいながら『大学院の研究室の延長で異界に来た一個の知性』として説得力を放っている。

オーディンとフリッガ(アンソニー・ホプキンス/レネ・ルッソ)

オーディンは本作で父であることに失敗していく。妃を失った悲しみが彼を狭量にし、ソーの『恋人を救う』方針を理解できず、結果として息子に背を向けられる。前作までの『見守る父』から『守るために他者を犠牲にしてでも行動する王』への振れが、後の『ラグナロク』で『何もかも失った隠者』の姿として帰結することになる。

フリッガは本作の感情の中心に据えられている。ロキを血の上では母として愛し続け、剣の腕も幻術も賢者並みに使う、王宮で最も恐ろしく最も優しい人物である。マレキスを相手にジェーンを身代わりの幻に置き換えるくだりは、彼女が母として、戦士として、そして魔法使いとしてどれほど完成した人物であったかを一場面で示す。彼女の葬送の水路は、本作の映像美学を最も純粋に体現した場面として後年まで語り継がれている。

マレキスとカースド(クリストファー・エクルストン/アドウェール・アキノエ=アグバエ)

マレキスは寡黙で陰鬱な、目的のために感情をほとんど見せない王として造形されている。動機は『宇宙を再び闇に戻す』という極めて抽象的なもので、人類との交渉や駆け引きを行わない徹底ぶりが、彼を『話の通じない冬の災害』のような存在に近づけている。シェイクスピア劇出身のクリストファー・エクルストンは本作の重い特殊メイクに苦労したことを後年のインタビューで語っているが、画面上では低い声と最小限の身振りで脅威の量感を出している。

副官アルグリムは中盤、自らの意志で『カースド』化の呪われた儀式を受け、人間離れした筋力と再生力を得て巨人状の戦士となる。フリッガを討ったマレキスとアスガルド襲撃を完遂した後、ロキの長剣で背中から串刺しにされ、内蔵していたブラックホール弾頭ごと空間に呑まれる退場の仕方は、シンプルだが本作で最も視覚的に印象的な敵の最後である。

ダーシー・ルイスとエリック・セルヴィグ(キャット・デニングス/ステラン・スカルスガルド)

ダーシーは前作に続いて、シリアスな天体物理学コンビの中で唯一テンポを崩す軽口担当として戻ってくる。さらに『インターンのインターン』を自称する青年イアンを連れており、その師弟関係はそのままラストの恋人関係へ移行する。地味で説明的になりがちな観測シーンを、彼女のテンションだけで娯楽として成立させている。

セルヴィグ博士はロキの杖に憑依された『アベンジャーズ』のニューヨーク決戦の後遺症で、表向きは公衆の面前で下着姿になり警察に保護されるほどの奇行を続けている。一方で、その壊れた頭脳が次元構造の天才へと書き換えられており、彼の作る観測ピンこそが本作の最終決戦のキーアイテムである。『天才と狂気は紙一重』というベタな物語装置を、スカルスガルドの軽妙な芝居が嫌味なく成立させている。

舞台と用語

本作の舞台はアスガルド/地球/スヴァルトアールヴヘイムの三つを主軸とする。アスガルドは前作よりも装飾を控え、石と布の質感が強調された『中世以前の王朝』へ寄せられている。これは監督アラン・テイラーが『ゲーム・オブ・スローンズ』で磨いた泥のついた中世感を持ち込んだ結果で、宴の長卓、戦士の鎧、長剣、葬送の水路といった場面が前作よりも生活感を帯びて画面に映る。地球側はロンドンを主舞台とすることで、初代『マイティ・ソー』のニューメキシコ砂漠、続く『アベンジャーズ』のニューヨークとの『MCUの地理』を広げ、ロンドン郊外の住宅街、地下鉄、グリニッジ天文台、王立海軍兵学校跡、ストーンヘンジ近郊と、英国名所を観光案内のように回す絵作りが選ばれている。

用語面ではエーテル、コンバージェンス、九つの世界(ナイン・レルムズ)、ダーク・エルフ、ビフレストが鍵になる。とりわけ『コンバージェンス』は『普段は越えられない次元の壁が短時間だけ薄くなる』というSF的な道具立てで、ラストのロンドン市街にアスガルドの森や氷原や暗黒妖精界が同時並列で開く奇景を成立させる根拠として機能する。エーテルは本作内では『宇宙より古い力』としか説明されないが、ミッドクレジットでコレクターが『インフィニティ・ストーン』と呼び替えた瞬間、後のサーガ全体の地図の一片へと意味を更新される。

用語:アスガルド 用語:インフィニティ・ストーン

制作

前作の世界的成功と、続く『アベンジャーズ』の歴史的興行を受けて、ソー単独シリーズ第2作は『MCU最初のクロスオーバー後をどう走らせるか』という構造的課題を背負ってスタートした。以下、企画から特撮までの主要な経緯を整理する。

企画と監督交代

マーベル・スタジオは『アベンジャーズ』公開前から続編の準備に入っており、当初は『モンスター』『ワンダーウーマン』のパティ・ジェンキンスを監督に内定していたと報じられた。脚本やビジュアル方向性をめぐる意見の相違から、ジェンキンスは公式に降板。マーベル・スタジオは、HBOの大作ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の初期シーズンを成立させた主要演出家アラン・テイラーを後任として迎えた。

テイラーは『中世感のある泥と血の質感』『戦場の重さ』『大画面で人物の表情が映える芝居』をMCUへ持ち込み、前作のシェイクスピア劇調から離れた、より戦記物に近いトーンへと作品全体を引き戻した。脚本は最終的に『ソー』アニメシリーズで定評のあるクリストファー・ヨスト、後に『キャプテン・アメリカ』『アベンジャーズ:エンドゲーム』へ参加するクリストファー・マルコス、スティーヴン・マクフィーリーらが共同で担当し、テンポと笑いをめぐっては撮影終盤にジョス・ウェドンら複数のクレジット外ライターによる手入れが行われたとされる。

キャスティング

クリス・ヘムズワース、ナタリー・ポートマン、トム・ヒドルストン、アンソニー・ホプキンス、ステラン・スカルスガルド、キャット・デニングス、イドリス・エルバ、ジェイミー・アレクサンダー、レイ・スティーヴンソン、浅野忠信、レネ・ルッソらが前作から続投。前作のファンドラル役ジョシュ・ダラスはドラマ『ワンス・アポン・ア・タイム』との兼ね合いで降板し、後任として『ふたりの男とひとりの女』『シャザム!』のザカリー・リーヴァイが配役された。

新キャストではマレキスにクリストファー・エクルストン、カースド/アルグリムにアドウェール・アキノエ=アグバエ、ジェーンの即席デート相手リチャードに『フィッシュ・タンク』『IT/イット』のクリス・オダウド、ダーシーの助手イアンにジョナサン・ハワードが迎えられた。ミッドクレジットの『コレクター』タニリィア・ティヴァンにはベニチオ・デル・トロが配され、本作公開の翌年に控えた『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』への橋渡しを兼ねた登場として設計された。

美術と衣装

美術監督ビム・ジョンソン、衣装デザインのウェンディ・パートリッジを中心に、前作のクラシカルな黄金宮殿から一歩外側へ視点をずらすデザインが採用された。アスガルドの市街地、王宮の私室、地下牢、葬送の水路、ヴァナヘイムの石造りの村などが新たに造形され、観客がはじめて『アスガルドの庶民』と『アスガルドの郊外』を見ることのできる作品となっている。

ダーク・エルフはマスクの内側にも白く老いた肌を持つ、太陽光を厭う種族として設計された。マスクのデザイン、灰色のローブ、長銃と長剣の使い分け、ハーロー(旗艦)の翼を広げた異形のシルエットなど、いずれも『ファンタジー世界の敵』として伝統的に映りつつ、SF的な機械感を残すバランスが図られている。フリッガの葬送船と灯篭、エーテルの石柱、ロキの独房の家具など、画面の隅々で『黄金のアスガルド』とは異なる質感の小道具が選ばれており、テイラー版アスガルドの個性を支えている。

撮影とロケ地

撮影監督クレイマー・モーゲンソーのもと、英国シェパトン・スタジオを拠点に多くの内景セットが組まれた。アスガルドの王宮、地下牢、葬送の水路、ダーク・エルフの旗艦の内部などが、ここで一括して撮影された。屋外撮影はアイスランドのスナイフェルスネス半島がスヴァルトアールヴヘイムとして、ロンドン市内のグリニッジ天文台と王立海軍兵学校跡が決戦の舞台として、それぞれ実際にロケされている。

撮影は2012年9月から2013年初頭にかけて行われ、撮影終盤に行われた追加撮影で兄弟の掛け合いやセルヴィグの軽口など、笑いの密度を上げるシーンが補強された。アラン・テイラーは後年のインタビューで『マーベルの製作プロセスは“撮りながら設計する”ことが多く、HBOの方式とは異なる経験だった』と語っており、彼自身は本作の最終形について控えめな評価を公にしている。

視覚効果

視覚効果はダブル・ネガティブ、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)、メソッド・スタジオ、ルマ・ピクチャーズ、トリクスター、ウィスキー・ツリーをはじめとする多数のスタジオが分担した。プロローグの太古の戦場、アスガルド王宮の俯瞰、葬送の灯篭の昇天、エーテルの粒子表現、ハーローの艦内、グリニッジ決戦の次元裂け目の合成など、本作の見せ場のほぼ全てがCG合成と実写の繊細な重ね合わせで作られている。

とりわけ最終決戦の『次元の穴を介した同時並行のチェイス』は、ロンドン市街、アスガルドの森、ジョトゥンヘイムの氷原、暗黒妖精界、月までもが画面の中で隣り合うため、各カットで光源、重力、空気の濁度を切り替える綿密な設計が必要となった。背景プレートの大部分が実景を取り込んだ『リアル寄りの合成』で構成されており、フェーズ2以降のMCUが標準化していく『リアリスティックなマジック』の方向性を本作が早い段階で固めた、と評する向きもある。

音楽と音響

前作で重厚な交響詩を作り上げたパトリック・ドイルに代わり、本作の音楽は『アイアンマン3』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』のブライアン・タイラーが担当した。タイラーは独自の『Thor』テーマを新たに書き下ろし、前作のドイル版テーマとは別の、より重く沈んだ金管中心の主題で本作全体を貫いた。

フリッガの葬送の場面では、木管と弦楽の繊細な抑制と、コーラスの宗教曲調が組み合わされ、本作の音楽的ハイライトとして高い評価を受けた。一方でグリニッジ決戦は打楽器主導の高速曲調に切り替え、次元跳躍の混乱を音楽側からも整理している。前作との連続性よりも『本作の固有のトーン』を優先した方針は当時賛否を呼んだが、後の『マイティ・ソー バトルロイヤル』でマーク・マザーズボーが完全に音楽方向性を切り替える流れの先駆けとなった。

編集と追加撮影

編集はダン・レーベンタールとウェイン・ウォーマンが担当した。撮影終了後、観客テスト試写を経て複数回の追加撮影が行われ、兄弟漫才の量、セルヴィグの奇行、ジェーンとソーの再会、ロキ偽装の余韻といった部分が補強された。マレキスの動機を補強するシーンや、ロキの心理を掘る場面も一部撮影されたが、テンポ優先の判断で本編から落とされている(ブルーレイ特典の削除シーンとして一部が公開された)。

ロンドンを舞台とした撮影は、グリニッジ天文台と王立海軍兵学校跡を中心に多数の追加撮影が行われ、それらの素材が完成版の最終決戦で大きな存在感を放っている。最終的に112分という比較的締まった上映時間に落とし込まれたこと自体が、追加撮影と編集での割り切りの結果と言ってよい。

公開と興行

本作は2013年10月22日にロンドンの王立海軍兵学校跡でワールドプレミアを行い、英国を皮切りに各国で順次公開された。米国公開は2013年11月8日、日本公開は2014年2月1日。

全世界興収は約6億4400万ドルで、前作(約4億4900万ドル)を大きく上回り、ソー単独作品としてはこの時点でシリーズ最高を更新した。北米2億ドル、海外4億ドル超という分布は『海外、特に英国とアジアでMCUの観客層が広がっていた』ことを示しており、フェーズ2の興行基盤がここで一段引き上がった作品として位置づけられる。

受賞面では映画賞の大きなトロフィーには絡まなかったが、視覚効果と音響設計に対していくつかの業界賞へノミネートされた。批評面はロッテン・トマト批評家評で60%台半ば、メタクリティックで50点台、観客評はAマイナス級と、批評家には冷淡、観客にはまずまずの『中間点』に着地した。クリス・エヴァンスのカメオなど、SNS上で散発的に話題化した部分も含めると、当時のオンライン評判は数字以上に強く、リピート鑑賞を生んだ。

批評・評価・文化的影響

本作の評価は、長年MCU内で『順番の谷』として語られることが多い。前作の新鮮さも、続く『ウィンター・ソルジャー』のテーマ性も、続く『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の発明も持たない、いわば『フェーズ2の堅実な中継ぎ』として認識されることが多かった。マレキスの動機がやや抽象的すぎる点、女性キャラクター(特にシフ)の見せ場が削られた点、テンポ上の都合でロキの『死』が掘り下げ切れなかった点などが批評家から指摘された。

それでも、ミッドクレジットでコレクターにエーテル=リアリティ・ストーンが手渡される場面は、MCUの巨大化が決定的になった瞬間として高く評価されている。インフィニティ・ストーンという固有名詞が宣言され、後の『ガーディアンズ』『エイジ・オブ・ウルトロン』『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』の骨格が、その短い場面で観客の前に最初の地図として現れたからだ。さらに、ラストの『偽オーディン』はDisney+『ロキ』を含む後年の作品で延々と回収される最重要伏線として、現在では本作のもっとも強い意義の一つに数えられる。

本作からおよそ10年後、『ソー:ラブ&サンダー』でジェーン・フォスターがマイティ・ソーとして再登場した際、彼女の体に再びムジョルニアが反応した遠因として『エーテルに耐えた肉体』が暗示された。この長い射程で読み直したとき、本作の評価は公開当時より明らかに上向いている。

舞台裏とトリビア

ロキがソーに連れ出される道中、退屈しのぎに何度か姿を変える場面のひとつで、青い盾を持ったキャプテン・アメリカに変身する短いカットがある。これはマーベル・スタジオがクリス・エヴァンスにスケジュールを調整してわざわざ撮らせた、いわば一発ネタのカメオで、観客が劇場で大きく沸いた瞬間として記憶されている。エヴァンスはこの撮影の感想として『同じ役者が演じる別の自分を演じるのは奇妙で楽しかった』と語っている。

クリストファー・エクルストンはマレキスの特殊メイクの長時間化と、撮り直しの多さに不満を語ったことが公に知られている。後年のインタビューで彼は『私の人生で最低の経験のひとつ』と直截に述べており、続編『ラグナロク』への出演オファーも辞退した。彼自身の演技は否定されるものではなく、特殊メイクとスケジュールに対する制作環境への評価として残っている。

本作の冒頭で鎮圧された岩石獣『キュロス・ザ・ロックマン』は、後の『マイティ・ソー バトルロイヤル』に登場するコーグの種族『クロナン』と同一種族で、生き残った石の小片が後にコーグとして再登場するという見立てもファンの間で語られている(公式の関連説明ではない)。ジョス・ウェドンは本作の試写後、複数の場面のセリフ調整に短期間関わったと報じられているが、クレジットには名を残していない。フリッガの葬送の灯篭が舞い昇る場面は撮影段階でほぼ実景に近い特殊機材で撮影され、CGによる増量を最小限に留めた数少ない大規模シーンの一つである。

テーマと解釈

中心にあるのは『義務と愛のあいだの選択』である。王太子としての義務、九つの世界の責任者としての義務、息子としての義務——その総体としてのアスガルド王位を、ソーは最後に自ら降りる。父オーディンはエーテルを破壊するためならジェーンを犠牲にする論理を取り、息子は逆に『人を救うために宇宙の論理を曲げる』方を選ぶ。本作は明示的に『どちらが正しい』と判定はせず、ただ『どちらかを選ぶしかない』という構造そのものを描き切る。

もう一つの軸は『失われた家族の再構築』である。フリッガを失い、ロキを失い(と思い込み)、知らぬ間に父さえ失ったソーが、地球で恋人とのささやかな抱擁を選び直す結末は、家族の単位が血ではなく『誰と一緒に立つか』で再定義されることを示す。それは続く『ラグナロク』『インフィニティ・ウォー』で、アスガルドの『場所』を失い民を率いて宇宙を流浪し、最終的に新しい家族(ガーディアンズや新アスガルド)を獲得していくソーの長い旅路の最初の一歩でもある。

本作の闇——ダーク・エルフ、エーテル、宇宙より古い悪——は具体的な敵というより、『話の通じない自然災害としての悪』のメタファーとして読める。そうした悪に対し、ソーが取る手段は対話や説得ではなく、家族と仲間の協力、敵地への密航、敵の道具を裏返す機転である。雷神の伝説的な力ではなく、信頼の連鎖が結局のところ宇宙を救う、というMCU全体の主題の小さな雛形が、本作にも忠実に置かれている。

見る順番(補助)

本作は『マイティ・ソー』『アベンジャーズ』を観た直後に観るのが最も自然である。ジェーンの『二年間連絡が来なかった』というセリフ、ロキの収監、ヘイムダルの『あの娘ならば今日もしっかり生きておられる』といった一行が、その二作を観ているかどうかで重みを変える。

本作を観終えたあとは、続く『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』とMCU公開順に進むのが王道である。とりわけミッドクレジットのコレクター登場は、次作『ガーディアンズ』のノーウェア訪問へ直接接続する。

ソー単独の縦軸だけを追いたい場合は『マイティ・ソー』→本作→『マイティ・ソー バトルロイヤル』→『アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー』→『ソー:ラブ&サンダー』の順に進むと、フリッガの死/ロキの偽装/偽オーディン/エーテル耐性のジェーン、といったここで蒔かれた種が順番に回収されていく。

  1. 前作『マイティ・ソー』(2011)で地球と神話の出会いと、虹の橋崩壊が描かれる
  2. 直前『アベンジャーズ』(2012)でロキがニューヨークを侵略、テッセラクトを介してアスガルドへ連行される
  3. 本作エーテル=リアリティ・ストーンが宿主を介して呼び出され、フリッガの死、ロキの偽装死、王位放棄まで進む
  4. 直後ミッドクレジットでコレクターへエーテルが渡り、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のノーウェアへ繋がる
  5. 次作(ソー軸)『マイティ・ソー バトルロイヤル』で『偽オーディン』が露見し、姉ヘラの帰還とアスガルドの破壊へ
前作:マイティ・ソー(2011) 直前:アベンジャーズ 次作(公開順):キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー 次作(公開順):ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー 次作(ソー軸):マイティ・ソー バトルロイヤル MCU公開順ガイド アベンジャーズ本筋ガイド

よくある質問(補助)

『あらすじだけ知りたい』場合は、エーテルがジェーンに憑依→ダーク・エルフのアスガルド襲撃でフリッガが死亡→ソーとロキが共闘→グリニッジ決戦でマレキスを倒す、という4点を押さえれば十分である。『結末・ネタバレを知りたい』場合は、ロキの偽装死とラストの『オーディン=ロキ』、コレクターへエーテルが渡るミッドクレジットまでが核となる。

『評価を知りたい』場合は、フェーズ2の谷ではあるが『インフィニティ・サーガ全体の最重要伏線(エーテル=リアリティ・ストーン)が初めて顔を出す作品』として、後から評価が上向いた作品である、という整理が分かりやすい。『見る順番』は『マイティ・ソー』『アベンジャーズ』のあと、できれば本作→『ウィンター・ソルジャー』→『ガーディアンズ』の順に進めると、MCUの地理と縦軸の両方を同時に追える。

参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、各種権利はそれぞれの権利者に帰属する。公開年・興行・制作・配信状況・外部評価は変動しうるため、視聴前に公式および各データベースの最新表示を確認されたい。本記事の本文は各種公開情報をもとに、Anna Movies用の独自の日本語文章として構成している。

  1. Marvel公式 作品ページ
  2. IMDb: Thor: The Dark World (2013)
  3. Marvel Cinematic Universe Wiki (Fandom)
  4. ロッテン・トマト
  5. Box Office Mojo: Thor: The Dark World

関連ページ

マイティ・ソー / ダーク・ワールドと関係の深い作品、人物、用語、見る順番を確認できる。

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参照・確認先

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