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ハリー・ポッター

ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1

ホグワーツへは戻れない。魔法省は陥落し、ヴォルデモートが英国魔法界を実質支配する暗黒の年、ハリー・ロン・ハーマイオニーの三人だけが残された使命——ヴォルデモートの魂を断ち切る七つの『分霊箱』の探索と破壊——のため、当てのない逃避行へと旅立つ。原作上巻を丸ごと費やして描かれる、シリーズ最も孤独で寒く、最も大人びた前編。

媒体: 映画(実写) 英国公開: 2010年11月19日 米国公開: 2010年11月19日 日本公開: 2010年11月19日
ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1 公式ポスター

作品データ

作品
ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1
原題
Harry Potter and the Deathly Hallows – Part 1
媒体
映画(実写)
原作
J.K.ローリング『ハリー・ポッターと死の秘宝』(2007)上巻相当
英国公開
2010年11月19日
米国公開
2010年11月19日
日本公開
2010年11月19日
監督
デヴィッド・イェーツ
脚本
スティーヴ・クローヴス
製作
デヴィッド・ヘイマン/デヴィッド・バロン/J.K.ローリング
音楽
アレクサンドル・デスプラ
撮影
エドゥアルド・セラ
美術
スチュアート・クレイグ
編集
マーク・デイ
衣装
ジェイニー・ティーマイム
視覚効果
インダストリアル・ライト&マジック/フレームストア/ダブル・ネガティブ/MPC ほか
製作会社
ヘイデイ・フィルムズ/ワーナー・ブラザース
配給
ワーナー・ブラザース
上映時間
146分
製作費
PART1・2合計で約2億5000万ドル(PART1単体は約1億2500万ドル相当)
興行収入
全世界 約9億6000万ドル
受賞・候補
アカデミー賞 美術賞/視覚効果賞 ノミネート、英国アカデミー賞 視覚効果賞 ノミネート ほか
時系列上の位置
ハリーの17歳の年(1997-1998年・本来ならホグワーツ7年目)
シリーズ
ハリー・ポッター本編シリーズ第7作(全8作)/死の秘宝 PART1
公式予告編は
劇場サイトで確認
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📖 全38章 / 約29K字 🔄 最終更新 2026年5月26日 ✍️ Anna Movies 編集部

『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』は、2010年公開のイギリス・アメリカ合作の映画である。シリーズ完結編を二部構成にした前編で、原作小説の上巻を映画化している。魔法省が陥落しヴォルデモートが魔法界を支配するなか、ハリー・ロン・ハーマイオニーの三人が、ヴォルデモートの魂を封じた七つの分霊箱を探し破壊するための逃避行を描く。シリーズで最も孤独で暗い一作として位置づけられる。

00概要

『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』(Harry Potter and the Deathly Hallows – Part 1)は、デヴィッド・イェーツが監督し、2010年11月19日に英国・米国・日本でほぼ同時公開されたファンタジー・アドベンチャー映画である。J.K.ローリングの原作小説『ハリー・ポッターと死の秘宝』(2007)を二本の長編に分けて映像化した前編にあたり、ハリー・ポッター本編シリーズ第7作を成す。脚本は第5作『不死鳥の騎士団』で一時離れていたスティーヴ・クローヴスが復帰。製作はデヴィッド・ヘイマンとデヴィッド・バロンが手がけ、原作者のJ.K.ローリング本人もエグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされた。

本作はシリーズ全8作のうち、ホグワーツ城がほとんど画面に現れない唯一の作品である。前作『謎のプリンス』のラストでアルバス・ダンブルドアを失ったハリー・ポッター、ロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャーの三人は、最終学年として戻るはずだったホグワーツへは帰らない。頼りになるのは、ダンブルドアが遺した言葉だけだ。ヴォルデモートの魂が分けられた七つの分霊箱(ホークラックス)を全て破壊しなければ、彼を倒すことはできない――その遺言を胸に、三人は当てのない逃避行へと旅立つ。物語の大部分は、人けのない湖畔、沼地、森、海岸、雪原、岩塊地帯といった英国の荒涼たるロケ地で展開される。ホグワーツの暖かな大広間に代わるのは、寒風に吹きさらされる小さなテントだ。その中で交わされる三人の沈黙が、シリーズ全体を締めくくる暗い章の舞台となる。

本作は、シリーズで初めて音楽担当が大きく入れ替わった作品でもある。第1作から第3作までのジョン・ウィリアムズ、第5作・第6作のニコラス・フーパーに代わり、フランスのアレクサンドル・デスプラが新たな作曲家として参加した。『ヘドウィグのテーマ』の直接の引用は抑えられ、より沈鬱で抽象的な弦楽中心のスコアが、孤独な逃避行のトーンを支える。視覚面でも舵が切り直された。撮影監督には『仮面の男』『恋の闇 愛の光』のエドゥアルド・セラを起用し、シリーズ後半の柔らかな照明から、北欧の冬を思わせる青灰色のローキー基調へと転じている。

本記事は結末を含む全編の内容に踏み込む。ドビーの死、ナギニの正体、そしてヴォルデモートがダンブルドアの墓を暴いて長老の杖を手にするラストカットなど、物語の重大な驚きに触れていく。初めて本作を観るなら、まず本編を観賞してから読み進めることを勧めたい。

概要

主要データ

原題
Harry Potter and the Deathly Hallows – Part 1
原作
J.K.ローリング(2007年・ブルームズベリー)上巻相当
監督
デヴィッド・イェーツ
脚本
スティーヴ・クローヴス
音楽
アレクサンドル・デスプラ
撮影
エドゥアルド・セラ
美術
スチュアート・クレイグ
編集
マーク・デイ
公開
2010年11月19日(英米日同時)
上映時間
146分
ジャンル
ファンタジー、アドベンチャー、ダーク・ファンタジー、ロードムービー
舞台
1997-1998年の英国(プリベット通り/隠れ穴/トテナム・コート・ロード/グリモールド・プレイス/魔法省/森林・湖畔・海岸/ゴドリックの谷/マルフォイ屋敷/貝殻の家/ホグワーツ)

01あらすじ

以下では、物語の結末までを含む全編のあらすじを順に追っていく。幕開けはスクリムジョール大臣の演説。続いて、三人がそれぞれの家を去る冒頭、マルフォイ屋敷で開かれるヴォルデモートの会議、七人のポッター作戦とそれに伴う空中戦、隠れ穴を舞台にしたビルとフルールの結婚式へと場面は移る。さらに、ダンブルドアの遺言と遺品の配布、トテナム・コート・ロードでの襲撃、グリモールド・プレイス12番地での潜伏、そしてR.A.B.の正体が明かされていく。やがて魔法省への潜入とロケット奪取、森でのテント生活と次第に深まる三人の不和、ロンの離脱が描かれる。物語はゴドリックの谷でのバチルダ=ナギニ、銀の雌鹿に導かれて見つかるグリフィンドールの剣、ロケットの破壊へと進み、三人兄弟の物語が語られる。そこからゼノフィリウスの裏切り、マルフォイ屋敷での捕縛とハーマイオニーの拷問、ドビーの救出とその死、そしてヴォルデモートが長老の杖を奪う結末までを、時系列に沿ってたどる。

あらすじ

新時代の宣言と三人それぞれの別れ

1997年初夏。冒頭、新任の魔法大臣ルーファス・スクリムジョール(ビル・ナイ)が、暗い壇上から英国魔法界に向けて短い声明を発する——『これは新時代だ。困難な時代になるだろう。私たちは強くあらねばならない』。背景にあるのは、ダンブルドアを失った魔法界の動揺、そして影でヴォルデモートが急速に勢力を取り戻している現実だ。観客はこのわずか一分の演説で、本作の世界が前作までとは違い、はっきりとした戦時下へ切り替わったことを知らされる。

三人の主人公は、それぞれの家で最後の朝を迎えている。ハーマイオニー・グレンジャーは、両親が居間でくつろぐマグルの家で、二人に杖を向けて『オブリビエイト(忘却の呪文)』を唱える。両親の記憶から自分自身の存在を消し去る場面——居間の写真立てから自分の姿が一枚、また一枚と消えていくデジタル合成のカットの連なり——は、本作で最初に観客の心を撃つ静かなショックである。両親はモニカ・ウィルキンズとウェンデル・ウィルキンズという別人になり、オーストラリアへ移住するという偽の記憶を植え付けられる。安全のための残酷な手だてが、本作全体の倫理の土台として、最初の数分で示される。

プリベット通り4番地では、ハリー・ポッターが屋根裏の物置に詰めた荷物を整理し、最後に小さな鏡の破片——シリウス・ブラックの遺品である双面鏡の片割れ——を握ったまま立っている。階下では、17年間彼を引き取り続けてきたバーノン、ペチュニア、ダドリーの三人が、不死鳥の騎士団の手配で避難に旅立とうとしている。バーノンとペチュニアは最後までハリーへの冷淡な態度を崩さない。だがダドリー・ダーズリーはこの一瞬だけ振り返り、玄関先のハリーに『君は一緒に来ないのか?』と尋ね、その肩を一度だけ叩いて去っていく。シリーズ全体でもっとも遠回しに描かれた、『マグルの従兄弟との和解』である。

そして場面は北の闇——マルフォイ屋敷の長い食卓へ切り替わる。長椅子の上座には、ヘビのような顔つきを取り戻したヴォルデモート(レイフ・ファインズ)が座り、両脇にはベラトリックス・レストレンジ、ルシウス・マルフォイ、セブルス・スネイプ、ヤックスリー、その他多数の死喰い人が並ぶ。天井からは『マグル学』の教師チャリティ・バーベッジが、空中に縛り上げられたまま吊るされている。彼女は身じろぎし、スネイプに『セブルス、お願い、私たちは友達でしょう』と呼びかけるが、ヴォルデモートは無言で杖を振る。チャリティの体が机に落下し、その亡骸を、ヴォルデモートの飼い大蛇ナギニがゆっくりと飲み込み始める。

この食卓の場面でヴォルデモートは、自分の杖がハリーの杖との『同根(兄弟杖)』ゆえに勝てなかった事実を語り、ルシウスから杖を借り受ける——後の物語全体を貫く『杖の所有権』という伏線の、最初の一手だ。さらにスネイプはこの席で、『ハリー・ポッターは7月30日にプリベット通りを離れ、隠れ家へ移される』という情報を差し出す。観客は本作冒頭のわずか6分のうちに、悪の陣営の本拠地、その中でスネイプが二重スパイとして得ている地位、そしてハリー自身がまだ知らない次の動きの予告を、すべて受け取ることになる。

新時代の宣言と三人それぞれの別れ

七人のポッター作戦と空中戦

プリベット通り4番地に、不死鳥の騎士団の主要メンバーが続々と集まってくる。マッド=アイ・ムーディ(ブレンダン・グリーソン)、キングズリー・シャックルボルト、リーマス・ルーピン、ニンファドーラ・トンクス、ビル・ウィーズリー、フレッド・ジョージ・ロン、ハーマイオニー、ハグリッド、マンダンガス・フレッチャー。マッド=アイは6本のフラスコに金色のとろりとした液体——ポリジュース薬——を注ぎ分け、ハーマイオニーを除く全員に、ハリーから抜いた髪の毛を一本ずつ加えさせる。全員が一斉に薬をあおると、それぞれの体がハリー・ポッターと寸分違わぬ姿へと変わっていく。

マッド=アイの作戦は単純で、そして残酷だ——本物のハリーがどの「おとり」なのか、敵に見破らせない。七人のハリーは、七つの経路と七つの乗り物(テストラル、箒、ハグリッドが操る巨大な側車付きオートバイなど)に分かれ、それぞれ別の隠れ家へ同時に出発する。各組には騎士団員が一名ずつ護衛に付き、本物のハリーはハグリッドの側車に乗り込む。トンクスとロンが扮した組、ヘドウィグを連れたままのハリー本人とハグリッドの組、その他の組が、夜の南イングランドの空へ次々と飛び立っていく。

だが数分のうちに、計画は破綻する。明らかに情報が漏れていたとしか思えない正確さで、三十人を超える死喰い人が箒に乗り、あるいは煙のように空中へ湧き出て、七人のおとりへ一斉に襲いかかる。本物のハリーを乗せたオートバイの上空では、雷鳴と緑の閃光が交錯し、ハグリッドの巨大なオートバイが英国の片田舎すれすれを低空で駆け抜ける。攻防のさなか、檻の中にいた白ふくろうのヘドウィグが、ハリーを庇うように外へ飛び出し、敵の杖から放たれた緑光を身に受けて命を落とす。シリーズ全作を通してハリーの相棒であり続けた一羽の死は、本作で観客が最初に失う命だ。開幕10分と経たぬうちに突きつけられる「この映画では、もう誰も安全ではない」という宣告が、観る者の腹の底に重く沈む。

ハリーは咄嗟に杖を構える。すると迫り来る死喰い人の杖から、金色の閃光が立ち上る——彼自身もまだ理解していない「杖の自律的な防衛」が起きる瞬間だ。この場面の意味は、のちにヴォルデモートの分け前の力が彼の中に宿り続けていたためだったと、第7作後半および続編で改めて読み解かれることになる。

ハリーとハグリッドは無事に隠れ穴(バロウ)へ降り立つ。だが続いて到着した組から、決定的な訃報がもたらされる。マッド=アイ・ムーディが空中戦のさなか、ヴォルデモート自身の手にかかって墜落し、戦死したのだ。マンダンガスは「ヴォルデモートが直接現れたのを見て逃げた」と認める。ジョージ・ウィーズリーは右耳を呪いで吹き飛ばされ、片耳を失ったままモリー・ウィーズリーの手当てを受ける。そこで双子の兄フレッドが「片耳が無くなったほうがましだぜ、ジョージ」と軽口を叩き、家族全員に束の間の笑みを取り戻させる。これがシリーズ最後となる、双子のじゃれ合いだ。

七人のポッター作戦と空中戦

ダンブルドアの遺言と結婚式の襲撃

数日後、隠れ穴の応接間に、スーツケースを抱えたスクリムジョール大臣が現れる。彼はダンブルドアの遺言状を、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人それぞれに正式に読み上げる。ロンに託されたのは、ダンブルドア自身が長年愛用してきた『デリュミネーター(消灯器)』——光を吸い出す小さな銀の器具だ。ハーマイオニーには、古い童話集『吟遊詩人ビードルの物語』の原書が渡される。そしてハリーには、第1作で初めて飛んだ箒の頂上で握ったクィディッチの金のスニッチが遺される。そこには『開封すれば現れる』とだけ刻まれた、ダンブルドア直筆の謎めいた銘があった。原作にあったグリフィンドールの剣の遺贈は、魔法省が『国家財産である』として保留し、ハリーの手には渡らない。スクリムジョールは、これらの遺品が単なる思い出の品ではないと内心で察しているが、その真意までは見抜けずにいる。

翌週、隠れ穴の庭に巨大な白いテントが張られ、ビル・ウィーズリーとフルール・デラクールの結婚式が開かれる。ビルを演じるのは、のちにスター・ウォーズ続編三部作でハックス将軍を演じる若手、ドーナル・グリーソン。本作で初めて画面に姿を見せる。式には、奇抜な黄色いローブをまとったゼノフィリウス・ラブグッド(リス・エヴァンス)と、娘のルーナ・ラブグッド(イヴァナ・リンチ)が出席。ゼノフィリウスの首にかかる『デスリー・ハロウズ(死の秘宝)の紋章』——三角形と円と縦線が重なった図形が、画面の片隅に映り込む。物語全体を貫く第二の謎、その最初の手がかりが、この瞬間にそっと置かれている。

披露宴の真っ最中、夜空から銀色の光がさし込む。それは、騎士団員キングズリー・シャックルボルトのパトローナス——銀の山猫だった。山猫はテントの中央に降り立ち、キングズリー自身の声でこう告げる。『魔法省は陥落した。スクリムジョールは死んだ。彼らは今ここに向かっている』。一拍の沈黙ののち、テントの天井を破り、黒い煙の柱と化した死喰い人たちが空から舞い降りる。式の参加者は一斉に杖を抜き、悲鳴と閃光が交錯する。ハリー、ロン、ハーマイオニーは、ハーマイオニーがあらかじめ用意していた小さなビーズのハンドバッグ——『未検出可能拡張呪文』によって内部が無限の容積を持つよう拡張されている——だけを手に、結婚式のローブのまま、肩を並べてその場からディスアパレーション(姿くらまし)する。

ダンブルドアの遺言と結婚式の襲撃

トテナム・コート・ロードとグリモールド…

三人が降り立ったのは、ロンドンのトテナム・コート・ロードの夜——マグルの若者が酒を求めて集う繁華街のカフェだった。結婚式のドレスとローブをまとったまま、まだ何が起きたのかも整理できずにいる。人気のない店の奥のテーブルに腰を下ろした、その瞬間だった。隣の席にいた二人の男——マグルではなく死喰い人のロウルとドロホフ——が立ち上がり、三人に杖を向ける。ハーマイオニーが咄嗟に『ステューピファイ(失神呪文)』を放ち、ロンとハリーも机ごと敵を吹き飛ばす。襲撃者の記憶を消したうえで、三人は安全な隠れ家へと移動する。シリウス・ブラックから相続した『グリモールド・プレイス12番地』——ロンドン中心の貴族街に隠された、ブラック家の暗い屋敷である。

屋敷には前作以来、誰も足を踏み入れていない。玄関の柱には、第5作で死んだマッド=アイが仕掛けた罠呪文が残されていた。入ってきた者の口を蝋で塞ぐ『沈黙の呪い』、そしてダンブルドアの巨大なゴースト像が幻影となって立ち上がる罠である。踏み込んだのが何者なのかを確かめるこの仕掛けが、最初の数十秒、三人を試す。彼らの背後では、応接間の壁に飾られたフィニアス・ナイジェラス・ブラック(シリウスの先祖)の油絵の人物が、フレームの中で目をこすり、三人を不機嫌そうに見つめ返していた。

屋敷の奥で、三人は屋敷しもべ妖精のクリーチャー(声:サイモン・マクバーニー)と再会する。ハリーが第5作以来、扱いには慣れているはずの相手だ。シリウス亡きあと、クリーチャーは新しい主人であるハリーに口先では悪態をつく。だが、ハリーが優しい言葉をかけ、『シリウスのロケットの片割れ』への執着を尊重した瞬間から、態度を一変させ、忠実に仕えるようになる。そのクリーチャーから、ハリーは決定的な情報を得る——シリウスの双子の弟レギュラス・アークタルス・ブラック(R.A.B.)こそ、第6作のラストでダンブルドアが命を落とすほど苦労して取り戻した『偽のロケット』の中に、ヴォルデモートへの別れの手紙を残した本人だったのだ。そして本物の分霊箱のロケットは、レギュラスがクリーチャーに『主のために飲んで命を落としてこい』と命じた洞窟から、命がけで持ち帰ったもの。長年グリモールド屋敷で保管されてきたが、第5作の大掃除の際に、泥棒の闇商人マンダンガス・フレッチャーに盗み出されていたのだった。

クリーチャーは『マンダンガスを捕まえてまいります』と申し出る。数日後、捕縛されて連れて来られたマンダンガスは、ロケットを誰に売ったかを白状する——ロンドン中央の魔法省本省の高官、ドローレス・アンブリッジ(イメルダ・スタウントン)。第5作でハリーたちを苦しめた、ピンクのカーディガンの教育大臣補佐である。彼女はヴォルデモート政権下で『マグル生まれ登録委員会』の議長を務め、奪った分霊箱のロケットを純血の証として首から下げ、職務に就いていた。その事実が、ここで明らかになる。

トテナム・コート・ロードとグリモールド…

魔法省潜入とロケット奪取

ロケットを取り戻すため、三人は魔法省本省への潜入計画を立てる。グリモールド・プレイスの台所で再びポリジュース薬を煮込み、それぞれが魔法省職員の体毛を手に入れる。ハリーは犯罪取締部の上級職員アルバート・ランコーンに、ロンはハーマイオニーの夫役を務める魔法事故課のレジ・キャタモールに、ハーマイオニーは年配の魔法省職員マファルダ・ホップカークに、それぞれ姿を変える。

魔法省への入口は、ロンドン中心部の使われなくなった公衆便所の小便器だ。便器の中に立って排水レバーを引くと、職員が地下にある魔法省本省の床に吐き出される——原作でもっとも独特なギャグの一つが、本作で初めて映像化される。三人はそれぞれの『本人』を雪の降る街角で待ち伏せて捕まえ、服を奪い取り、便器ごとに地下へと降下していく。

魔法省の地下中央広間は、第5作の薄暗い大理石とはすっかり様変わりしている。広間の中央には、巨大な黒い石像が新たに据えられた。床に膝をついて屈服するマグルの上に、魔法使いが座る一対の彫像であり、台座には『MAGIC IS MIGHT(魔法こそ力なり)』の銘が刻まれている。ヴォルデモート体制下の魔法省がかかげる純血主義のイデオロギーを、たった一つの彫像で観客に伝えてみせる、本作でもっとも記号的な美術である。

三人はここで別行動を取る。ハーマイオニーは『マファルダ』としてアンブリッジに付き従い、地下のマグル生まれ尋問法廷へと向かう。法廷では、ヤックスリーとアンブリッジが、マグル生まれの女性メアリー・キャタモール——本物のレジの妻——を被告人として、その血統と杖の正当性を問い詰めている。ハリーは姿くらまし防止が働くはずの広間の中央でアンブリッジに杖を向け、ヤックスリーを失神させ、アンブリッジ本人も昏倒させる。そしてアンブリッジの首から、本物の分霊箱のロケットを引きちぎる。

ハリーは法廷の床から、傍聴席の天井裏に隠された守護霊(パトローナス)を解き放つ。これは『不死鳥の騎士団』のメンバーが残したものだ。ハリーの牡鹿のパトローナスが、法廷の天井いっぱいに広がる銀色の光のなか、マグル生まれの被告人たち全員を護衛するように立ち上がる。三人はメアリーを連れ、エレベーターと階段を走り抜け、魔法省入口のフー・パウダー暖炉に飛び込んで脱出する。脱出の直前、ハーマイオニーがディスアパレーションでロンドンの地表へ抜けようとした瞬間、振り向きざまにヤックスリーがその腕を掴む。

三人がグリモールド・プレイス12番地の玄関前に着地したとき、ヤックスリーは一瞬だけ屋敷の番地と外観を目にしてしまっていた。フィデリウス(秘密の守人)の呪文の盲点を突かれた以上、グリモールド屋敷はもはや安全ではない。三人は奪い取ったロケットだけを握りしめ、もう一度ディスアパレーションして、英国の人気のない森へと逃げ込む。後にゴドリックの森とは別の、本作で長く身を寄せることになる、雪に閉ざされた湖畔である。

魔法省潜入とロケット奪取

森のテントと三人の不和

ここから物語は、シリーズで最も静かで、最も寒々とした中盤へと入っていく。ハーマイオニーは検知不可能拡大呪文をかけた大きな魔法使いのテントを次々と張る。内部には二段ベッドと暖炉、そして居間まで備わっている。張る場所は、英国各地の人里離れた自然のなかだ。湖畔、断崖、雪原、岩塊の広がる土地、海岸線、塩湖——。ロケ地はイングランドのバージニア・ウォーター、フォーリンガル城、シャフテスベリー、スワインジ、グレンコー、セブン・シスターズ、そしてリーヴスデンの撮影所と、英国全域に散らばっている。三人はラジオから、各地で行方知れずとなった魔法使いやマグル生まれの名を、毎日のように耳にする。

問題は、首から下げたロケットそのものにあった。ヴォルデモートの魂の一部が宿るこの分霊箱は、身につけた者の心の暗い部分を増幅させる。ロンがロケットを胸に下げている時間が長くなるほど、彼の内に積もっていた感情が、抑えきれない苛立ちとして表に噴き出してくる。家族への引け目、妹ジニーへの心配、ハーマイオニーへの叶わぬ思い、そしてハリーへの劣等感——。

ある夜、テントの中でロンはついに爆発する。「この国がどうなっているか、俺たちは何も分かっていない。家族が今どうなっているかも知らない。お前は何の計画も持っていない、ハリー。ダンブルドアは何も教えてくれなかった」。ハリーは反論し、ハーマイオニーは仲裁を試みる。だがロンは、ハリーへの最後の侮辱として「ハーマイオニーがどっちを選ぶか、はっきりしているじゃないか」と吐き捨てると、ロケットを首から外してテーブルに叩きつけ、テントを出ていく。雨の中、ハーマイオニーがロンを追い、「戻って」と叫ぶ。しかしロンは「君がここに残るんなら、俺はもう来ない」と最後の一瞥を残し、ディスアパレーションで姿を消す。

テントに戻ったハーマイオニーは、ハリーの前で口を開かないまま蹲り、暖炉の火だけを見つめている。シリーズを通して初めて、ロンが三人組から完全に脱落する瞬間だ。残された二人は、導き手を失ったまま、言葉数の少ない逃避行をしばらく続ける。あるシーン、ラジオから流れる音楽——ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズの『O Children』——を耳にしたハリーが、沈黙のなか、黙ってハーマイオニーに手を差し出す。そしてテントの中で、二人だけのスローダンスを踊る。原作にはない映画オリジナルの場面だ。ロマンスの暗示ではなく、ロンを失った二人の友情と疲労と恐怖を、わずか一分のダンスに凝縮した、本作でもっとも穏やかな数十秒として記憶されている。

森のテントと三人の不和

ゴドリックの谷とバチルダ・バグショット

クリスマス前夜、ハリーはハーマイオニーに『ゴドリックの谷へ行きたい』と告げる。両親が殺された村であり、ダンブルドアが育った村でもある。魔法史を著したバチルダ・バグショットがいまも住んでいるという。そこにダンブルドアが何か手がかりを残しているのではないか——ハリーはそう予感していた。ハーマイオニーは反対しつつも、ポリジュース薬で老夫婦の姿に変装すると、雪の積もるゴドリックの谷へ二人をディスアパレートさせる。

村の中心にある小さな広場には、雪に半ば埋もれた廃墟が立っている。1981年10月31日、ヴォルデモートが訪れてジェームズとリリーを殺し、ハリーに失敗した呪いをかけた、あのポッター家の遺跡である。観光客が触れると、廃墟の門柱に魔法の文字盤が浮かび上がり、『生き残った男の子』ハリー・ポッターの歴史を物言わぬ献辞として刻む。だがその刻印には、ヴォルデモート支持者が書き加えたと思しき汚い落書きも残されていた。隣の村の教会の墓地で、ハリーはようやく両親の墓の前に膝をつく。『ジェームズ・ポッター 1960–1981 / リリー・ポッター 1960–1981 / 最後の敵にて滅ぼされるべきは死なり』。ハーマイオニーは魔法でクリスマスローズの花輪を作り、そっと墓に供える。

村の通りで、二人は雪の中にたたずむひとりの老婆と目を合わせる。やつれた灰色の髪、首まで覆う暗い色のショール——バチルダ・バグショット本人を装った何かが、無言で手招きする。亡き両親の旧友であった魔法史家を訪ねるつもりで、ハリーは彼女の家へ足を踏み入れた。家の二階の寝室で、バチルダはハリーだけに『あなたなら見せてもいい』と囁き、傍へと呼び寄せる。

次の瞬間、老婆の喉の奥から、巨大な大蛇の頭がぬるりと滑り出る。バチルダ・バグショットはとうに死亡していた。ヴォルデモートの飼い蛇ナギニが、その死体を被り物として、ハリーが必ず訪れるこの村でずっと待ち伏せていたのだ。『私が来るまで、ハリーを掴んで離すな』——ヴォルデモートのその命令を、ナギニはこの夜まで黙って守り続けていた。

ナギニはハリーに巻きつき、首を絞めようとしながら家具を吹き飛ばす。ハーマイオニーが二階へ駆け上がり、ステューピファイと爆破呪文でナギニを跳ね返す。階下からは、家全体に降り注ぐ緑色の閃光——ヴォルデモートが村に降り立ったのだ。ハーマイオニーはハリーを抱き寄せ、最後の力を振り絞ってディスアパレーションする。だが脱出の瞬間、ハーマイオニーの杖がハリーの杖の上に偶然落ち、長年連れ添ったヒイラギの杖が真っ二つに折れてしまう。二人は森の中の野営地に降り立ち、ハリーは杖を失った。本作中盤の絶頂であり、シリーズ全体を通してハリーが最も無力になった瞬間である。

ゴドリックの谷とバチルダ・バグショット

銀の雌鹿、グリフィンドールの剣、ロンの…

深夜、ハリーは見張りのため、夜の森に張ったテントの外で焚き火の傍に座っている。降りしきる雪の向こう、森の奥から銀色に光る一頭の雌鹿が、音もなく歩み出た。守護霊(パトローナス)である。誰のものかは分からない。だが攻撃の気配はなく、明らかに何かへ導こうとする意図を帯びていた。ハリーは自分の杖の代わりに、ロンが残していった折れたままの杖を握りしめ、雌鹿の後を追う。

雌鹿は森の奥にある凍った浅い池の中央に立ち、ハリーの目を見つめると、空気に溶けるように消えた。水面の下、薄い氷越しに、銀色の一振りの剣が眠っている。柄にルビーを嵌めた、ゴッドリック・グリフィンドールの剣だ。ダンブルドアの遺言によって魔法省に没収されたはずの剣が、なぜここに沈んでいるのか。ハリーは躊躇わなかった。外套を脱ぎ、首にかけたロケットも外さないまま、氷を割って池へ潜る。

潜った瞬間、首のロケットが意思を持つかのように紐を縮め、ハリーの首を絞めて池の底へ縛りつけた。分霊箱が、自らを破壊する剣を握られる前に、所有者もろともハリーを溺れさせようとする——本シリーズらしい、悪意を宿した『物』の場面だ。冷たい水のなかで意識を失いかけたそのとき、誰かの手がハリーの首からロケットを引きちぎり、剣を池底から引き抜き、岸へと引き上げた。ロン・ウィーズリーである。

ロンは『デリュミネーターでハリーの声を聞いた』『道筋を示す光があった』と告げる。ダンブルドアが遺した『消灯器』は、所有者が心から会いたいと願う相手の場所へ、光となって導く道具だった。ロンを森のなかのこの一点へ連れてきたのは、彼自身の悔恨と、ダンブルドアの遺品に宿る魔法そのものだったのだ。

ハリーは『剣で打て』とロケットをロンに差し出す。蓋は蛇語の合言葉に応じ、ハリーの手のうちで開いた。内側には、ヴォルデモートの魂の断片が小さな双つの眼となって浮かび上がる。鏡のように光る魂のなかから、ロンが最も恐れる像がせり出した。ハリーとハーマイオニーが半裸で抱き合い、ロンをあざ笑う幻影である。それはロンの心を引き裂きにかかる。煙のような二体は『お前の母が一番愛したのは双子だ』『ハーマイオニーは決してお前を選ばない』『お前は何者でもない』と囁きながら、ロンの胸の周りを取り囲む。ハリーは『これは噓だ。お前にしか壊せない、振り下ろせ』と叫ぶ。ロンは涙を流しながらグリフィンドールの剣を頭上に振り上げ、ロケットへ突き刺した。黒い煙は悲鳴をあげて霧散し、ロケットの蓋がぱたりと閉じる。分霊箱のひとつが、本作のうちに破壊された。

テントへ戻ったロンを、ハーマイオニーは真っ先に拳で迎える。だが続けて、彼女が背を向けたまま『戻ってきてくれてありがとう』と口にするのを、ロンは背中で聞く。三人は再び、一つの夜のテントに収まった。

銀の雌鹿、グリフィンドールの剣、ロンの…

三人兄弟の物語と死の秘宝の正体

ハリーは、『デスリー・ハロウズ(死の秘宝)』の紋章が、結婚式で見たゼノフィリウス・ラブグッドの首飾りにも、第6作『謎のプリンス』で手に取ったダンブルドアの遺贈品——古い吟遊詩人ビードルの童話集にも記されていることに気づく。そこで三人はラブグッド家へと向かう。

ラブグッド家は、はるか北のスコットランドの丘陵に建つ、円錐形の奇妙な塔である。塔の中で、ゼノフィリウス(リス・エヴァンス)が『三人兄弟の物語』を語り始める。ハーマイオニーが音読する原文に合わせて言葉を継いでいく。本作中盤のクライマックスのひとつが、ここで描かれる『三人兄弟の物語』のアニメーション・シーンだ。

監督デヴィッド・イェーツは、シリーズで一度だけ、実写を完全に離れた。シャドウ・パペット風の3DCGアニメーション(演出:ベン・ヒボン/制作:フレームストア)を採用したのである。この3分弱の挿話は、ハリー・ポッター映画版のなかでもっとも美的に独立した一場面として、単独で芸術賞・批評家賞の対象となった。三人の兄弟が橋のない川を魔法で渡ろうとし、骸骨めいた『死』に出会う。それぞれ報酬として『無敵の杖(長老の杖)』『死者を呼び戻す石(蘇りの石)』『死から逃れる外套(透明マント)』を授かる——三つの遺品の起源を語るこの神話が、墨絵のような細い線で動き出す。

ハーマイオニーは「これは童話だ。実在するわけではない」と一蹴する。だが、三つの遺品をすべて手にした者は「死を制する者」となるという伝説そのものが、ハリーの中に別の問いを呼び起こす——ヴォルデモートが今、三本の杖を次々と試し続けているのは、まさにこの『長老の杖』を探しているからではないのか。

語り終えたゼノフィリウスは、しかし、三人が玄関を出ようとした瞬間、部屋の扉に鍵をかけた。上階を見上げ、泣きながら告白する——「すまない。彼らが娘ルーナをアズカバンに拘束しているのだ。ハリー・ポッターを引き渡すと約束したから、ルーナを返してもらえる」。家の上空には、すでに死喰い人の咒文の閃光が走っていた。ゼノフィリウスは咄嗟に爆破呪文を放ち、屋根を吹き飛ばして三人もろとも自らの塔を半壊させる。ハーマイオニーはすかさず三人に変装の呪いをかけ、ハリーの顔をスティング・ジンクスで腫れ上がらせた。三人はディスアパレートして森へ戻る。

三人兄弟の物語と死の秘宝の正体

スナッチャーズの襲撃とマルフォイ屋敷へ…

森に降り立った直後、ハリーはうっかり「ヴォルデモート」の名を口にしてしまう。ヴォルデモート政権下では、その名そのものに「タブー呪い」が仕掛けられていた。口にした瞬間、周囲一帯のシールド呪文がたちまち解け、死喰い人配下の追跡部隊「スナッチャーズ(人狩り)」が居場所を一瞬で突き止めて襲いかかってくる。

髭面の人狼フェンリール・グレイバックを先頭に、スナッチャーズが瞬く間に三人を取り囲む。ハーマイオニーがハリーの顔に咒文をかけていたため、ハリー本人はすぐには「傷の額の少年」とは見抜かれない。スナッチャーズは三人を縛り上げると、「この顔の少年がもしハリー・ポッターなら、賞金は計り知れない」とふんで、本拠地へと連行する。向かう先は、ウィルトシャー州の田園地帯に立つマルフォイ屋敷だ。

マルフォイ屋敷の応接間には、ベラトリックス・レストレンジ(ヘレナ・ボナム=カーター)、ナルシッサ・マルフォイ、ルシウス、そして本作で初めて画面に姿を見せるドラコ・マルフォイ(トム・フェルトン)の蒼ざめた顔が並ぶ。ベラトリックスは、捕らえた三人のうちハーマイオニーが手にしていたものに目を留める。グリフィンドールの剣のレプリカ——ではない。自分がグリンゴッツ銀行のレストレンジ家金庫に封印したはずの「本物のグリフィンドールの剣」だった。「これがレストレンジ家の金庫から盗まれているなら、私の金庫の中身は無事なのか」。彼女は凍りつく。観客はまだ知らないが、その金庫に眠るハッフルパフの杯もまた分霊箱の一つであり、続編PART2の本筋を貫く伏線が、ここで立つのだ。

ベラトリックスは「どこでこの剣を手に入れた」とハーマイオニーに詰め寄る。ハーマイオニーが沈黙を貫くと、ベラトリックスは彼女を応接間の床に組み伏せ、ナイフで左腕の内側に「MUDBLOOD(穢れた血)」と血の文字を深く刻みながら、「クルーシオ(磔の呪い)」を何度も浴びせる。階下の地下牢に閉じ込められたハリーとロンのもとへは、ハーマイオニーの絶叫だけが床を伝って届く。ロンは「ハーマイオニー!」と叫び続け、シリーズ全体でも見る側にもっとも消耗を強いる数分間が過ぎていく。

スナッチャーズの襲撃とマルフォイ屋敷へ…

ドビーの救出と死

地下牢には、先客がいた。ホグワーツ4年目で死んだはずの杖製作店主、ガリック・オリバンダー本人。グリフィンドール寮の元生徒ディーン・トーマス。そして、かつてシリウス・ブラックがハリーに託したもう一つの双面鏡の片割れ——その鏡の奥で、青い瞳がハリーの絶望の声に応えて光る。ハリーが鏡に向かって『助けてくれ』と叫んだ、まさにその瞬間、地下牢の真ん中に、屋敷しもべ妖精ドビーがパチンと音を立てて現れる。

ドビー(CG、声:トビー・ジョーンズ)は、シャンデリアのある応接間の真下に位置する地下へ、純粋な意志の力だけで姿くらまししてきた。屋敷しもべ妖精には、人間の魔法使いを阻む反姿くらまし障壁が通用しない——マルフォイ家のすぐ近くにあるホグワーツ城にも、屋敷しもべ妖精だけは入ってこられた。第2作以来の伏線が、ここでついに最後の役目を果たす。

ドビーはまず、捕虜のオリバンダー、ディーン、そしてラブグッド家の娘ルーナ・ラブグッドを掴み、貝殻の家(シェル・コテージ)——ビル・ウィーズリーとフルールの新婚の海辺の隠れ家——へ転移させる。続いて、ハリーとロンを連れ戻すべく、再び地下牢に姿を現す。

応接間の真上ではベラトリックスの拷問が続く。限界に達したハリーとロンは、地下から階段を駆け上がり、応接間に飛び込む。ハリーはドラコの杖を、ロンはピーター・ペティグリュー(ワームテール)の杖を奪い取り、ルシウス、ドラコ、ベラトリックス、そしてワームテールを相手に、家具を巻き込んだ呪文の応酬を繰り広げる。ドビーは天井の中央——応接間に吊り上げられた巨大なシャンデリアにしがみつき、ベラトリックスを威嚇しながら、それを支える鎖を呪文で外す。シャンデリアは絶叫するハーマイオニーの真上を辛くもかすめ、ベラトリックスのほぼ足元へ、轟音とともに落下する。

ハリーはハーマイオニーをしっかりと抱きかかえ、ロンとドビー、奪った二本の杖を手にした全員で、屋敷の正面玄関の敷石へ転がり込み、ディスアパレートする。マルフォイ屋敷の上空を飛び去るその瞬間、絶望と憤怒の極限に達したベラトリックス・レストレンジが、手にした銀のナイフを、消えかけたドビーの背中目掛けて投げつけた。

貝殻の家の砂浜に転送された5人——ハリー、ロン、ハーマイオニー、ルーナ、オリバンダー(ディーンは別経由)——のあいだに、ドビーが立っている。その小さな胸からは、銀のナイフの柄が突き出していた。ドビーはハリーの腕の中に崩れ落ち、最後の言葉を、シリーズで初めて出会ったときと同じ、高く少年めいた声で残す——『ハリー・ポッター様……すばらしい場所……お友達と一緒……自由なエルフ、ドビー』。テニスボールのように大きな両目が、静かに閉じる。

ハリーは、ドビーを魔法で埋葬することを拒み、自分の素手だけで、貝殻の家の砂浜の斜面に小さな墓穴を掘る。シャベル一本、波の音、夜明け前の空。墓石には、ハリーが自らの杖で『ここに、自由なエルフ ドビー眠る』と銘文を刻む。シリーズで初めて『主役』の一人と明確に位置づけられた脇役の死が、長い沈黙と、砂を素手で扱うハリーの粗い手触りと、遠くから何も言わず見守るロンとハーマイオニーの画とともに、最後まで描かれる。

本作はここで、シリーズで最も長い『死の余韻』を見せる。第2作のラストでドビーが靴下を受け取り『ドビーは自由です』と叫んだあの瞬間と、文字どおり『自由なエルフ』としてハリーを救うために命を落としたこの瞬間とを、観客は自分の中で結び直す時間を与えられるのだ。

ドビーの救出と死

関連リンク

結末

ハリーがドビーの墓のかたわらで手を洗っている、まさにその瞬間——英国の遥か北の山中、ホグワーツ城の校長アルバス・ダンブルドアが眠る白い大理石の墓では、もうひとつの物語が静かに最終局面を迎えていた。

映画は最後に、ダンブルドアの石棺の傍らに立つヴォルデモートの姿を映し出す。第6作『謎のプリンス』のラスト、天文台塔の上から落ちて以来ずっとここに眠ってきたダンブルドア。その墓の上蓋を、ヴォルデモートは杖の一振りで吹き飛ばす。墓のなかには、白いひげの校長が穏やかに横たわっていた。両手は胸の上で組まれ、その組まれた手のあいだに、銀色に光る一本の長い杖が握られている。

ヴォルデモートは、ダンブルドアの両手のなかからゆっくりと杖を引き抜き、空に向かって高く掲げる。三人兄弟の物語に語られる「最も古い、最も強力な杖」——長老の杖(エルダー・ワンド)が、いま彼の手のなかにある。満足げに杖を一振りすると、夜空に向かって雷のような閃光が放たれる。スコットランドの星空に、彼の歓喜の長い咆哮が稲妻となって走り、画面は唐突に黒く落ちる。「最強の武器が世界最悪の魔法使いの手に渡った」——その一行を観客の心の真ん中に刻みつけ、本作は続編『PART2』への幕引きとなる。

結末
ここまでが全編のあらすじである。以降は登場要素、人物、舞台、制作、公開と興行、舞台裏、テーマ、続編への接続まで、作品を資料として理解するための章が続く。

登場要素

本作に登場・言及される主な要素を、人物、魔法生物、呪文と魔法、道具、場所、組織に分類して紹介する。なかでも『死の秘宝(三つの遺品)』『デリュミネーター』『マグル生まれ登録委員会』は本作で初めてスクリーンに姿を見せ、いずれもシリーズ最終章まで重要な意味を持ち続ける。

  • ハリー・ポッター
  • ロン・ウィーズリー
  • ハーマイオニー・グレンジャー
  • アルバス・ダンブルドア(遺言・遺品)
  • セブルス・スネイプ
  • ヴォルデモート卿(トム・マールヴォロ・リドル)
  • ベラトリックス・レストレンジ
  • ルシウス・マルフォイ
  • ナルシッサ・マルフォイ
  • ドラコ・マルフォイ
  • ピーター・ペティグリュー(ワームテール)
  • ヤックスリー
  • ロウル
  • ドロホフ
  • フェンリール・グレイバック
  • ドローレス・アンブリッジ
  • ルーファス・スクリムジョール
  • アーサー/モリー・ウィーズリー
  • フレッド/ジョージ・ウィーズリー
  • ビル・ウィーズリー
  • フルール・デラクール(フルール・ウィーズリー)
  • ジニー・ウィーズリー
  • リーマス・ルーピン
  • ニンファドーラ・トンクス
  • キングズリー・シャックルボルト
  • マッド=アイ・ムーディ
  • マンダンガス・フレッチャー
  • ルビウス・ハグリッド
  • ドビー
  • クリーチャー
  • ルーナ・ラブグッド
  • ゼノフィリウス・ラブグッド
  • ガリック・オリバンダー
  • ディーン・トーマス
  • ダーズリー家(バーノン、ペチュニア、ダドリー)
  • チャリティ・バーベッジ(マグル学教師、本作冒頭で死去)
  • メアリー・キャタモール
  • レジナルド・キャタモール
  • フィニアス・ナイジェラス・ブラック(肖像画)

  • ナギニ(ヴォルデモートの大蛇)
  • 屋敷しもべ妖精(ドビー、クリーチャー)
  • ヘドウィグ(ハリーのふくろう、本作で死亡)
  • テストラル
  • ふくろう各種
  • 巨人(オートバイの言及)
  • 人狼(フェンリール・グレイバック、ルーピン)
  • ゴブリン(後の伏線として登場)

  • オブリビエイト(記憶消去呪文)
  • ポリジュース薬
  • 未検出可能拡張呪文(ハーマイオニーのビーズバッグ)
  • ステューピファイ(失神呪文)
  • プロテゴ(盾呪文)
  • コンフリンゴ(爆破呪文)
  • アクシオ(呼び寄せ呪文)
  • エクスペリアームス(武装解除)
  • クルーシオ(磔の呪い/許されざる呪文)
  • アバダ・ケダブラ(死の呪い/許されざる呪文)
  • フィデリウス(秘密の守人)
  • タブー呪い(ヴォルデモートの名)
  • ディスアパレーション/アパレーション(姿くらまし)
  • フー・パウダー(煙突飛行粉)
  • 守護霊(パトローナス)
  • デリュミネーターの導き
  • 蛇語(パーセルタング)

  • ロケットの分霊箱(サラザール・スリザリン)
  • ダンブルドアの遺言で渡されたデリュミネーター
  • 吟遊詩人ビードルの物語の原書
  • 金のスニッチ『私はこの最後に開く』
  • グリフィンドールの剣
  • ハリーのヒイラギの杖(本作で破損)
  • ハーマイオニーのビーズハンドバッグ
  • ハリーとシリウスの双面鏡(片割れ)
  • 魔法省の身分札と魔法省員ローブ
  • ヴォルデモートが借り受けたルシウスの杖
  • ヴォルデモートが墓から奪った長老の杖
  • 死の秘宝の紋章のペンダント(ゼノフィリウス)
  • 雷鳴音とともに動くハグリッドの三輪オートバイ
  • メアリー・キャタモールの杖

  • プリベット通り4番地
  • ウィーズリー家『隠れ穴』
  • マルフォイ屋敷(ウィルトシャー州)
  • 魔法省本省(地下中央広間と尋問法廷)
  • トテナム・コート・ロードのカフェ
  • グリモールド・プレイス12番地(ロンドン)
  • ゴドリックの谷(ポッター家の廃墟、教会の墓地、バチルダの家)
  • ラブグッド邸(円錐の塔)
  • 貝殻の家(シェル・コテージ/海辺)
  • 森のテント各地(フォーリンガル城、グレンコー、セブン・シスターズ ほか)
  • ホグワーツ校 ダンブルドアの白い墓所

  • ヴォルデモート政権下の魔法省
  • マグル生まれ登録委員会
  • 魔法事故・大惨事課
  • 不死鳥の騎士団
  • 死喰い人
  • スナッチャーズ(人狩り部隊)
  • ホグワーツ魔法魔術学校(言及のみ)
  • ウィーズリー家
  • マルフォイ家
  • ブラック家(グリモールド屋敷の主筋)

15主要登場人物

本作の人物造形は、これまでの“学校の生徒”としての肖像を完全に脱ぎ捨て、戦時下を生きる若者たちのそれへと描き直されている。ハリー、ロン、ハーマイオニーが身にまとうのはホグワーツの制服ではなく、マグルのデニムとセーター。その上に厚手のダウンコートを羽織り、英国の冬枯れの自然のなかをひたすら歩き続ける。脇を固める登場人物の多くは画面に映る時間こそ短くなったが、その一方でドビー、ゼノフィリウス、ベラトリックス、ナルシッサといった面々が、わずかな出番で物語の核心を担っていく。

ハリー・ポッター

本作のハリーは17歳。前作で師ダンブルドアを失い、本作では愛するふくろうのヘドウィグ、そして自分を救うために命を落としたドビーまでも失う。シリーズを通して『生き残った男の子』と呼ばれ、もっとも大切な誰かを次々と先に逝かせてきた若者——その沈黙が、画面の中央にどっしりと座っている。

脚本のうえで、彼はもはや単なるヒーローではない。森に張ったテントの中、ロンとハーマイオニーに挟まれて『俺たちはどこへ行くんだ』と問われても、まともに答えられない。ハーマイオニーは両親を失い、ハリーはダンブルドアが何ひとつ明確に教えてくれなかったことへの怒りを抱える。それでも、ダンブルドアが彼に託した『勝者を選ばずに戦う者であれ』というメッセージの意味を、自分なりに探り続ける。その一年こそが、本作におけるハリーのすべてである。

ダニエル・ラドクリフは撮影当時20歳。声も背丈もすっかり大人になり、その演技は本作で初めて子役の延長線から離れた。とりわけ、ドビーを埋葬する数分間——台詞をほとんど削ぎ落とし、手の動きと呼吸だけで悲しみを表現する場面は、シリーズ全体を通じたラドクリフの代表的な演技として知られている。

ハリー・ポッター

ロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グ…

ロンは本作で、シリーズを通じて最大の弱さと最大の成長を同時に経験する人物として描かれる。家族への引け目、貧しい家計、双子の妹ジニーへの気がかり、そしてハーマイオニーへの叶わぬ思い——その何もかもを、首にかけたロケットが増幅させ、やがて彼は二人のもとを去ってしまう。第1作以来、笑いを担う役どころを演じ続けてきたルパート・グリントは、本作でその衣を完全に脱ぎ捨てる。とりわけテントを去る際の震える声、そして雪の池に沈むハリーを救い出す一連の動きは、俳優グリントの到達点として、本作でしか見ることができない。

ハーマイオニーは本作で、まさに『三人組の頭脳』として、すべての魔法と計画をただ一人で支える役を担う。両親の記憶を消し去る冒頭の場面、トテナム・コート・ロードでの咄嗟の応戦、ハリーの顔を変える変装の呪い、グリモールド・プレイスから森への即時転送、未検出可能拡張呪文をかけたビーズバッグの中身(テント、書物、ポリジュース薬、医薬品、衣類)、魔法省への潜入の段取り——そのすべてが彼女あってこそ成り立つ。マルフォイ屋敷で長時間にわたり拷問を受ける場面の演技は、シリーズ全体を通じてエマ・ワトソン最大の見せ場である。腕に刻まれる『MUDBLOOD』の傷は、続編PART2でも本作の傷跡としてはっきりと画面に映り続け、シリーズ全体に残る肉体的な刻印となる。

ロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グ…

ヴォルデモート卿

本作のヴォルデモートは、ついに英国魔法界の最高権力者として公然と君臨する。スネイプを介して魔法省を内側から掌握し、スクリムジョールを排除すると、純血主義者たちを次々と要職に据えていく。前作までの「闇の陣営の親玉」から「現政権そのものを操る黒幕」へ——その政治的な立ち位置が、ここで決定的に変わる。

脚本は彼の出番を意識的に絞り込んでいる。冒頭のマルフォイ屋敷での会議、七人のポッター作戦への奇襲、ゴドリックの谷への登場、そしてラストのダンブルドアの墓所での長老の杖奪取——登場はこの四場面だけに集約される。それでもなお、レイフ・ファインズの声と佇まいが放つ威圧感は、作品の隅々まで満ちている。本作の彼は、初めてハリー本人と本気で言葉を交わそうとしない。ただ「杖の問題」だけを解こうとする男として描かれるのだ。不死を求めるあまり魂を分け、その代償として自らの心を読み解く力を失う——シリーズ後半で彼を待つ悲劇、その根がここで初めて顔をのぞかせる。

ヴォルデモート卿

ベラトリックス・レストレンジ

前作で校長殺害の現場に立ち会ったベラトリックスは、本作では完全に『ヴォルデモートのいちばん信頼の篤い実行部隊長』として登場する。マルフォイ屋敷の応接間で、姪婿のシリウスを殺したあとも罪悪感を一切見せない冷酷さ、純血主義に裏打ちされた優越感、そしてヴォルデモートその人へ向ける偏執的な献身——それらが、ヘレナ・ボナム=カーターの大きく見開いた目と、ナイフを握る手の震えを通して、画面いっぱいに描き出される。

ハーマイオニーへの拷問の場面で、彼女が腕に『穢れた血』を刻むためにナイフを使うのは、原作にはない映画オリジナルの脚色である。原作の『クルーシオの繰り返し』を、肉体に視覚的な傷として残る一行に置き換える。こうして、続編PART2まで持ち越される傷痕の伏線が、ここでひとつ生まれた。

ベラトリックス・レストレンジ

ドビー

第2作以来、シリーズの「屋敷しもべ妖精の英雄」として愛されてきたドビーが、本作でついに物語の中心に戻り、その役目を全うして死ぬ。第2作のラストで靴下を渡され、自由の身となったあのドビーが、本作のクライマックスでは自らの意志でハリー・ポッターのために命を投げ出す——この円環の閉じ方こそ、原作者J.K.ローリングが映画化に際してもっとも忠実な再現を求めた要素であり、製作陣もその求めに応えて完成させた。

視覚効果の面でも、本作のドビーは見ごたえがある。CGモデルは第2作から大きく改良され、皮膚の質感、潤んだ瞳、衣服のシワにいたるまで、人間の俳優と同じカットに違和感なく溶け込む水準に達した。海岸の砂浜で、ハリーの腕の中に倒れ込むドビーの最後の一分間は、CGキャラクターが演じた死としては映画史上もっとも観客の涙を誘った場面の一つとして、後年も繰り返し語り継がれていく。

ドビー

関連リンク

セブルス・スネイプ

本作のスネイプは、画面上では終始ヴォルデモートの最も信頼篤い側近として描かれる。マルフォイ屋敷の食卓でハリーの移送計画を報告する冒頭のわずか数十秒、さらに魔法省の権力構造の頂点近くに座する姿——。観客は彼を完全な『裏切り者』として記憶したまま、本作を見終えることになる。

後の続編PART2で『彼は実はずっとリリー・ポッターを愛し、ハリーを守るための二重スパイとして動き続けていた』と明かされるとき、観客は否応なく見直しを迫られる。本作冒頭の食卓の場面、チャリティ・バーベッジの懇願を前に一切表情を変えなかった彼の沈黙。そして全篇を通して放たれる、あの冷たい眼差し——その全てを、もう一度別の角度から読み解かなければならない。本作はその意味で、最後まで観た者にしか正しい解像度では読み解けない作品でもある。

アラン・リックマンの出演時間は短い。だが、その声の重さは画面の外でも常に響き続ける。ハリーが森で銀色の雌鹿のパトローナスを追う場面——あの守護霊が実はスネイプのものだったという事実も、続編PART2で明かされるまで観客には伏せられたまま、本作の核心をなす伏線の一つとなっている。

セブルス・スネイプ

舞台と用語

本作の舞台は、シリーズで唯一、一年のほぼ全編をホグワーツ城の外に置く。プリベット通り4番地に始まり、隠れ穴、マルフォイ屋敷、トテナム・コート・ロード、グリモールド・プレイス12番地、魔法省本省、英国各地の森林や湖畔、断崖、雪原、ゴドリックの谷、ラブグッド家の塔、再びマルフォイ屋敷、貝殻の家、そして最後にホグワーツ校外のダンブルドアの墓へと移ろう。シリーズで初めて、舞台となる場所そのものが「学校に居られないこと」をテーマとして背負うのである。

用語の面でも、本作で初めて画面に現れる重要な概念がいくつもある。『死の秘宝(デスリー・ハロウズ)』とは、三人兄弟の物語に登場する三つの遺品——長老の杖(エルダー・ワンド)、蘇りの石、透明マント——の総称であり、その全てを手にした者は『死を制する者(マスター・オブ・デス)』となると伝えられている。長老の杖は本作の終盤でヴォルデモートの手に渡り、透明マントはハリーが第1作から携えてきたもの、蘇りの石は第6作のスニッチの中にダンブルドアが封じている。冒頭で示されるスニッチの謎『私はこの最後に開く』は、続編PART2で蘇りの石へとつながっていく。

『分霊箱(ホークラックス)』は、ヴォルデモートが自らの魂を七つに分け、それぞれを物体に封じることで、その全てが破壊されない限り決して死なないとした、シリーズ最大の魔法的トリックである。本作で破壊されるのはサラザール・スリザリンのロケット一つにとどまり、残り——カップ、ティアラ、日記、ナギニ、指輪、そして本人すら気づいていない第七の分霊箱——は続編PART2で一つずつ処理されていく。

『マグル生まれ登録委員会』『タブー呪い(名を呼ぶと居場所が漏れる)』『スナッチャーズ(人狩り)』『フィデリウス呪文の見破られ方』——本作で初めて画面に登場するこれらの政治的・呪文的な概念は、続編PART2でも引き続き物語の鍵を握っていく。

舞台と用語

23制作

ハリー・ポッター本編シリーズ第7作の製作は、原作『死の秘宝』が発表された2007年7月からほどなくして本格化した。製作陣は2008年初頭、「最終巻を二本に分割して映画化する」という決定を正式に発表する。背景にあったのは二つの事情だ。ひとつは脚本上の問題で、原作の長さに加え、分霊箱の正体、死の秘宝の伝説、スネイプの真実、19年後のエピローグと、最終巻でしか明かされない伏線を一本に収めるのは難しかった。もうひとつは配給における収益面の利点である。この双方が同時に働いたと、デヴィッド・ヘイマンとデヴィッド・イェーツは後年になって認めている。本セクションでは、企画と脚本、キャスティング、衣装と美術、視覚効果、音楽と音響、撮影とロケ、編集を、それぞれ分けて整理していく。

制作

企画と脚本

脚本を手がけたのは、シリーズ第1作から第4作、そして第6作を担当したスティーヴ・クローヴスである。第5作『不死鳥の騎士団』ではいったん離れたが、本作と続編PART2で復帰した。原作『死の秘宝』を二部に分けるにあたり、クローヴスは区切り目をどこに置くか思案した。中盤——ロンが森のテントを去り、ハリーとハーマイオニーが二人きりで動き続ける時期——ではなく、もう少し後、ドビーの死と、ヴォルデモートが長老の杖を手にする瞬間を最終的に選んでいる。マルフォイ屋敷からの脱出と同時に終わる、あるいはグリンゴッツ襲撃の直前で終わる——原作読者が予想したそうした区切りよりさらに遅い地点が、本作の終端として確定した。

脚本上もっとも大きな脚色は二つある。第一は、ハリーとハーマイオニーが森のテントで踊る『O Children』の場面だ。原作にこの場面はない。デヴィッド・イェーツは、ロンを失ったあとの二人の沈黙があまりに長すぎることを懸念し、観客と二人の主役のあいだに一瞬の感情的な交流を挟もうと、ニック・ケイヴの『O Children』をかけたという。脚本になく、撮影現場でクローヴスとイェーツが議論しながら付け加えたこの3分間の沈黙のダンスが、本作でもっとも記憶に残る場面の一つとなった。

第二は、ベラトリックスがハーマイオニーの腕に『MUDBLOOD』とナイフで刻む場面である。原作ではクルーシオを繰り返す拷問として描かれるが、映画では身体に残る一行の傷へと置き換えられた。続編PART2でもこの傷痕がはっきりと映り、本作の身体的な暴力が次作まで持続する記号として機能している。

削られた要素もある。ピーター・ペティグリュー(ワームテール)が地下牢で自身の銀の手に絞殺されて死ぬ原作の場面は、映画では明示的に描かれない。彼は本作で最後に応接間に現れたきり、続編PART2にも姿を見せず、観客の意識から静かに消えていく。ダドリー・ダーズリーとハリーが交わす「君は一緒に来ないのか」の和解の場面も、劇場版ではごく短く縮められた形で映像化されている(拡張版はない)。

キャスティング

本編シリーズの主要キャストは、ほぼ全員が続投した。ハリー役のダニエル・ラドクリフ、ロン役のルパート・グリント、ハーマイオニー役のエマ・ワトソンは、撮影当時いずれも19〜20歳。ヴォルデモート役のレイフ・ファインズ、スネイプ役のアラン・リックマン、ベラトリックス役のヘレナ・ボナム=カーター、ハグリッド役のロビー・コルトレーン、ルシウス役のジェイソン・アイザックス、ドラコ役のトム・フェルトン、ジニー役のボニー・ライト、ルーピン役のデヴィッド・シューリス、トンクス役のナタリア・テナ、ムーディ役のブレンダン・グリーソン、アンブリッジ役のイメルダ・スタウントン、フルール役のクレマンス・ポエジー、ルーナ役のイヴァナ・リンチも、それぞれ役を引き継いだ。

本作で初登場した主要キャストには、新魔法大臣ルーファス・スクリムジョール役のビル・ナイ、ゼノフィリウス・ラブグッド役のリス・エヴァンス、ビル・ウィーズリー役のドーナル・グリーソンがいる。ドーナルは父ブレンダン・グリーソンと、親子そろって本シリーズに出演することになった。ビル・ナイは『パイレーツ・オブ・カリビアン』『ラブ・アクチュアリー』などで知られる英国の名優で、シリーズ後半にもっとも遅く加わった主要俳優の一人だ。スクリムジョールを演じたのは本作のみ。原作通り序盤で命を落とすため、その出番は10分にも満たない。

ナギニのCG表現を補うため、本作以降は蛇の動きを参考にしようと、実物大の蛇を使ったスタジオ撮影が新たに複数回行われた。ベラトリックスの拷問場面では、エマ・ワトソンとヘレナ・ボナム=カーターの双方から、別撮りの叫び声と表情をADRで何テイクも収録し、本編の最終ミックスに重ねている。

屋敷しもべ妖精ドビーの声を担当したトビー・ジョーンズは、第2作以来9年ぶりに同じ役へ復帰し、本作の死の場面のセリフを録音した。後年のインタビューでジョーンズは、『ドビーの最期の台詞を録音した日の現場には沈黙が降りていた』と振り返っている。

美術とプロダクションデザイン

美術監督を務めるのは、シリーズ全8作と続編『ファンタスティック・ビースト』3作を一貫して手がけたスチュアート・クレイグ。本作は、シリーズを通じて最も多くの新規セットが建設された作品の一つである。理由は単純だ。ホグワーツ城の内装をほとんど使わない代わりに、マルフォイ屋敷の応接間と地下牢、ヴォルデモート政権下の魔法省本省地下中央広間、魔法省の尋問法廷、グリモールド・プレイス12番地の応接間と台所、ラブグッド家の円錐の塔、貝殻の家——これだけの新規セットが本作のために、英国リーヴスデン・スタジオに大規模に組まれた。

魔法省地下中央広間に据えられた『MAGIC IS MIGHT』の彫像は、純血主義のプロパガンダ美術として、ナチス独裁下のドイツ美術を直接的に意識して造形された。一対の魔法使いの像が、その下に組み伏せたマグル像を踏みつける——視覚的に最も直接的な政治的記号が、シリーズで初めてここに置かれた。デザインを統括したのはスチュアート・クレイグ、彫像のスケッチは美術部のミラフォーラ・ミナが担当した。

ドビーの最期の場面が撮影された貝殻の家の砂浜は、英国本土ではなくウェールズの海岸の一つ、ペンブロークシャー州のフレシュウォーター・ウェスト海岸に組まれた仮設のセットである。20メートル四方の小さな貝殻状の家の外景がロケで使われた。撮影終了後、海岸には木製の小さな墓標が残された。これがハリー・ポッターのファンが世界中から訪れる『ドビーの墓』として地元の観光資源となり、後年には英国の自然保護当局と地元政府との間で『この墓標を撤去するか保存するか』の議論が長く続いた(最終的にハリー・ポッターのロゴ等の規制を経て『ドビーへの献辞』として一定期間残された)。

視覚効果

視覚効果は、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)、フレームストア、ダブル・ネガティブ、MPC、シネサイト、リズム&ヒューズなど、多数のVFXハウスが分担した。とりわけ難度が高かったのは、冒頭の七人のポッター作戦における全員の顔の合成、七人のオートバイ/箒/テストラルが英国南部の夜空を低空飛行する空中追跡の場面、ロケットから立ち上る『ハリーとハーマイオニーの裸の幻影』の中間色の描写、ナギニがバチルダの体内から滑り出てくるボディ・ホラー的な合成、貝殻の家から舞い上がる無数の塩のしぶき、そしてラストカット、ダンブルドアの墓から長老の杖が引き抜かれる瞬間に光が漏れ出す描写である。

そして本作のもっとも独立した視覚的成果が、第3章で語られる『三人兄弟の物語』のアニメーション場面だ。本編シリーズで唯一、実写を完全に離れ、約3分間にわたる影絵人形を思わせる3DCGアニメーションが導入された。演出はベン・ヒボン、制作はフレームストアが手がけている。墨絵と切り絵を混ぜたような白黒のシルエットが、橋のない川、骸骨めいた死、無敵の杖、蘇りの石、透明マントを順に語っていく。この画面は本作の視覚的見せ場として、アニメーション賞や批評家賞の対象にもなった。

ドビーのCG表現は、第2作から約8年を経た2010年の水準に合わせ、根本から作り直された。皮膚の質感は毛穴や血管の透けまで段階的に再現され、瞳の濡れた反射、衣服のシワの物理シミュレーション、口元の唾の表現にまで及んでいる。死の場面でドビーの目から零れる涙、開いたままの口元、ハリーの腕の中で力を失っていく身体の重み——CGキャラクターによる『死』の描写は、本作以降、業界全体の参照点となった。

音楽と音響

音楽は、シリーズで初めてアレクサンドル・デスプラが手がけた。デスプラは『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』や『英国王のスピーチ』で知られるフランスの作曲家で、本作からPART2まで連続で担当する。第1作から第3作までジョン・ウィリアムズが書いた「ヘドウィグのテーマ」は、本作では直接の引用を控え、エンドクレジットといくつかの象徴的な場面で短く呼び起こされるにとどまる。

デスプラのスコアは、小編成の弦楽、ピアノ、女声合唱という最小限の組み合わせを基本とする。ホグワーツの華やかな祝祭の音楽とは対極にあり、室内楽を思わせる内省的な手触りだ。代表曲は、ハーマイオニーが両親の記憶を消す場面の「Obliviate」、七人のポッター作戦の「Sky Battle」、マルフォイ屋敷の食卓を描く「Snape to Malfoy Manor」、そして「The Tale of the Three Brothers」「Lovegood」「Farewell to Dobby」。とりわけ最後の「Farewell to Dobby」はピアノとチェロだけの数分間の楽曲で、ドビーの墓を掘るハリーの長回しのカットの背後に静かに流れる。

本作のサウンドトラックには、原作にもデスプラのオリジナル曲にもない特例の一曲が含まれている——ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズの「O Children」(2004年)である。デヴィッド・イェーツとエマ・ワトソンが撮影現場で話し合った末、ロンを失ったあとのハリーとハーマイオニーが沈黙のなかで踊る場面に使われた。本作の公開後、同曲は全英チャートで久しぶりの再ヒットを記録している。

音響デザインにおいて、本作のもっとも特徴的な仕事は「静かな環境音」だ。テントの中で薪のはぜる音、雪が降り続ける森の遠い遠吠え、貝殻の家の海岸に繰り返し打ち寄せる波——シリーズの華やかな効果音から一歩引き、ドビーの墓掘りやハーマイオニーの拷問のあいだ、観客が登場人物と同じ呼吸の長さでそこに居続けられる。そんな音の余白が、徹底して設計されている。

音楽と音響

撮影とロケ

撮影監督はエドゥアルド・セラ(『仮面の男』『恋の闇 愛の光』『ジロー婦人とご主人さま』)。ハリー・ポッター・シリーズへの参加は本作が初で、続編PART2まで連続して撮影を手がけた。前任のブリュノ・デルボネル(第6作)が築いた、青みを帯びた硬質な低照度の画作りを引き継ぎ、本作はシリーズ全体でもっとも光源を絞った冷たい画面に仕上がっている。

本作と続編PART2は『バック・トゥ・バック』方式で撮影された。本撮影は2009年2月19日に始まり、2010年6月12日まで約16ヶ月に及んだ。シリーズ史上もっとも長い撮影期間であり、ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンの三人は、この1年4ヶ月のあいだ実質的に他の仕事に出られなかった。

ロケ地は英国全域に散らばっている。スコットランド高地のグレンコー渓谷(森のテントを俯瞰する場面)、フォーリンガル城の湖畔(雌鹿のパトローナスを追う池の周辺)、シャフテスベリーのゴールド・ヒル(ゴドリックの谷の坂)、セブン・シスターズの白亜の崖(テントの宿営地)、ピーク・ディストリクトの断崖、ペンブロークシャーのフレシュウォーター・ウェスト(貝殻の家)、ヨークシャー地方の荒野の数々、ロンドンのトテナム・コート・ロード、ウェストミンスター橋からピカデリー周辺の街路、グロスター大聖堂、レイヴンスコート公園——英国を代表する自然と都市の景観を、そのほとんどを本作一本のなかに収めるロケ計画が組まれた。

三人の若手主役は、本作の長期ロケのあいだ、撮影現場での衣装替えと寒さで風邪を引き続けた。フォーリンガル城の凍結湖で氷を割って潜る場面は、当然ながら主役本人をスタント代役に置き換えた水中撮影だが、ハリーが岸へ引き上げられた直後に咳き込む場面はラドクリフ本人が演じている。彼は実際に低体温症寸前の状態に陥りながら最後のテイクを終えた、と後年のインタビューで語っている。

編集

編集を手がけたのは、第5作からシリーズに加わったマーク・デイ。本作は、原作上巻のほぼ全シーンを尺の許す限り映像化することを優先しており、シリーズで最も「時間の流れがゆっくり」と感じられる作りになっている。ホグワーツを舞台にした華やかなクロスカットは影をひそめ、登場人物は三人に絞られ、舞台も森のテント周辺に長くとどまる。とりわけ中盤の30分は、シリーズで最もシーン転換の少ない時間帯となった。

編集面でのクライマックスは、わずか8分のなかに三つの層をクロスカットで畳みかける「マルフォイ屋敷シークエンス」だ。ベラトリックスが拷問を行う応接間、地下牢に囚われたハリー、ロン、ドビーの脱出計画、そしてシャンデリアの落下を伴う脱出——この三層がたたみかけるように交錯する。ドビーが応接間の中央で『お前は今、屋敷しもべに服従しろなどと、命じるな』とベラトリックスを威嚇する瞬間、シャンデリアの鎖が断ち切られる瞬間、ハリーがハーマイオニーの腕を引き上げる瞬間。それらがフレーム単位の精度で組み合わされている。

ラストカット——ヴォルデモートが長老の杖を空に掲げる瞬間と、ドビーの墓の傍らでハリーが立ち上がる瞬間という、対をなす二つのカット——は、編集段階の最後に決定された。撮影現場では別々に撮られた二場面を、編集室で一本の線へと並べる。そうすることで本作は、「悪が最強の武器を手にした瞬間」と「善が最も近しい仲間を失った瞬間」を、同じ無音のなかに重ね合わせる結びへと到達したのである。

31公開と興行

本作は2010年11月19日、英国・米国・日本でほぼ同時に公開された。北米のオープニング週末興収は約1億2500万ドル、最終的な北米興収は約2億9600万ドル、全世界では約9億6000万ドルに達した。この数字は当時のシリーズ史上でも上位に位置し、『賢者の石』『不死鳥の騎士団』『謎のプリンス』と肩を並べるヒットとなった。さらに翌2011年公開のPART2が約13億ドルを記録し、二本合わせて当時のシリーズ最高興収を打ち立てた。

日本国内では、公開4日間で興収約11億円、最終的に約95億円を記録した。これは2009年末に公開された『アバター』を除けば、2010年に公開された外国映画の首位にあたる。続編PART2も約97億円を稼ぎ、二作連続のヒットで、日本におけるハリー・ポッター映画は興行的なフィナーレを華々しく締めくくった。

受賞面では、第83回アカデミー賞の美術賞と視覚効果賞の2部門にノミネートされた(受賞はいずれも逃した)。第64回英国アカデミー賞でも視覚効果賞ほかにノミネートされ、サターン賞ファンタジー映画賞、ロンドン批評家協会賞、放送映画批評家協会賞などにも名を連ねた。シリーズの中でも、アカデミー賞での評価がもっとも高まった作品の一つである。

本作の興行的・批評的な成功は、続編PART2(2011)の世界興収約13億4000万ドルへとつながり、本編シリーズ全8作の世界興収累計を約77億ドルにまで押し上げた。本作と続編が採った『一つの物語を二本に分ける』という手法は、ハリウッドの新たな商業モデルとなり、後年の『トワイライト・サーガ ブレイキング・ドーン』前後編、『ハンガー・ゲーム モッキングジェイ』前後編、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』などに直接的な影響を与えた。

32批評・評価・文化的影響

公開時の批評家の評価はおおむね好意的だった。米国の主要批評集計サイトでは批評家支持率が77%前後、観客評価は90%前後を記録し、原作の上巻を丁寧に映像化した『シリーズで最も大人びた一本』として歓迎された。一方で批判も少なからずあった。前半の1時間半が原作のテント生活を忠実になぞるあまりテンポが緩慢になりすぎている、映画単体として完結しない構造になっている、という指摘である。

後年の再評価では、シリーズ全体のなかでも『最も雰囲気の濃密な一本』『最も大人の観客向けの一本』と位置付けられることが多い。第1作の華やかな入学式から数えて9年、子役だった三人がいよいよ大人として孤独な逃避行を演じる。シリーズとともに成長してきた観客にとって、本作は最も身体的に共感できる一本となった。ロケ地となったフォーリンガル城、シャフテスベリー、グレンコー、フレシュウォーター・ウェスト——こうした土地は英国の観光資源として、今なお多くの巡礼を生み続けている。

文化的な面でも、本作の刻んだ場面は大きい。ドビーの死、銀の雌鹿、三人兄弟の物語を語るアニメーション、『O Children』のダンス、そしてヴォルデモートが長老の杖を空へ掲げるラストカット——この五つの場面は、シリーズ全体で最も引用される映像として、今もSNSや映画批評の場で繰り返し参照され続けている。本作を境に、ハリー・ポッター・シリーズは『児童文学映画』というジャンルから完全に独立した。英国製ファンタジー・サーガとして、後年の魔法ワールド全体を支える地としての位置を確立したのである。

舞台裏とトリビア

本作はハリー・ポッター本編シリーズで唯一、ホグワーツ城の内装がほぼ画面に現れない作品である。城そのものはラストカット——ダンブルドアの墓の場面——に遠景として一度だけ映るが、グレートホール、動く階段、図書館、寮の談話室といったシリーズおなじみの場所は、すべて本作から姿を消している。

本作は当初、3D版でも公開される予定だった。ワーナー・ブラザースはPART1の3D変換作業を進めていたが、公開のわずか1ヶ月前、『品質基準を満たさないため2D公開のみに変更する』と発表する。世界中の劇場が急遽予定を組み直す事態となった。続編のPART2は、当初の予定どおり3Dでも公開されている。

森のテント生活を描く長期撮影の間、ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンの三人は、撮影スタッフから渡された大量の本を読みながら、Tシャツやセーターに季節ごとの汚れを付ける専属の衣装スタイリストとともに、英国全土の僻地を旅して回った。エマ・ワトソンは後年、『撮影が終わったときは、テントから出られないまま大学生活に戻った気がした』と振り返っている。

魔法省地下の中央広間にそびえる『MAGIC IS MIGHT』の彫像は、撮影終了後に解体された。だがその精密な造形は、ファンや美術関係者から『シリーズ屈指の政治記号を可視化した造形』として高く評価され、英国リーヴスデン・スタジオの『ハリー・ポッター スタジオ・ツアー』には、縮小レプリカが今も展示されている。

ドビーの墓——ペンブロークシャー州フレシュウォーター・ウェスト海岸——は、撮影終了後、世界中からハリー・ポッターのファンが訪れる『非公式の聖地』となり、地元当局が一時は撤去を検討するほどになった。最終的には、自然保護とプライバシーの観点から、商業ロゴや人工的な装飾は禁じる一方、訪問者が小石を積み、貝殻を置き、無記名で献辞を残すことは黙認するという形で、『ドビーへの献辞』として共存する道が選ばれた。

本作のラスト、ヴォルデモートがダンブルドアの墓から長老の杖を引き抜く場面で、レイフ・ファインズが空に向かって放つ咆哮は、ファインズ本人が現場で即興的に加えた演技である。脚本上はサイレントの予定だったが、彼が『勝者の歓喜のカタルシスを音にしたい』と提案し、デヴィッド・イェーツがそれを採用した、と後年語られている。

34テーマと解釈

中心にあるのは『家を失った若者たち』というテーマだ。ハリーは魔法省の新政権から『指名手配第一号』と認定され、マグルの家にも魔法界の家にも戻れない。ロンは家族の安全を守るため隠れ穴に戻ることを禁じられ、ハーマイオニーは両親の記憶から自分自身を消し去った。三人は文字どおり、自分を匿ってくれる物理的な『家』をすべて失ったまま逃避行へと出る。森に張ったテントは『家ではない家』であり、彼らが初めて大人として送る共同生活の場となる。シリーズを通じて『学校こそが家だった』と繰り返し描かれてきた物語は、本作で初めて『家を失ってもなお続く物語』へと書き換えられる。

もう一本の柱は『戦時下の若者の倫理』である。本作の魔法省は明らかに全体主義政権の戯画として描かれ、マグル生まれ登録委員会、地下の尋問法廷、純血主義のプロパガンダ彫像など、ナチス独裁下のドイツや東欧の冷戦体制をはっきりと意識した描写が並ぶ。その圧政のもと、ハリー、ロン、ハーマイオニーは『正しい大人』ではなく、ただの17歳として、何が正しいかを自分の頭で考えながら逃げ続けねばならない。脱出のために他人の体毛を奪い、その人物の家庭を一時的に占拠し、罪悪感を抱えながらも前へ進む。そんな彼らの姿は、シリーズで初めて子供向けの倫理を踏み越え、戦時下の道徳のただ中に置かれる。

第三のテーマは『友人の死を超えて生きること』だ。本作はヘドウィグ、マッド=アイ、チャリティ・バーベッジ、スクリムジョール、そしてドビーと、合わせて五人の主要登場人物の死を一作のうちに描く。ハリーが砂浜にドビーを素手で埋葬する数分間は、シリーズ全体を貫く『死を悼む』テーマの最も具体的な可視化であり、続編PART2でハリーがみずから死へと歩み出すクライマックスの、倫理的な地ならしとして機能する。『私たちが本当に何者であるかは、持って生まれた力ではなく、自分でどんな道を選ぶかで決まる』——第2作でダンブルドアが告げたあの言葉が、本作のハリーの行動原理そのものとして、テキスト化されないまま画面に響き続ける。

そして第四のテーマが『所有と権力の腐敗』、すなわち『死の秘宝』と『分霊箱』の対比である。ヴォルデモートは『分霊箱(魂を物に分け、永遠の命を求める)』を追い、本作のラストでは『死の秘宝(最強の杖)』をも手にする。一方ハリーは透明マントをすでに父から受け継いでおり、本作の終盤では、ダンブルドアが遺したスニッチの中に蘇りの石が秘められていることをまだ知らない。続編PART2で明かされる『ハリーは最初から死を制する者の候補だった』『だが彼は所有しないことを選ぶ』という結末の倫理は、本作冒頭で語られる三人兄弟の物語のなかに、すでに書き込まれている。

テーマと解釈

35見る順番

初めて観るなら、前作『謎のプリンス』までを順に観てから本作へ進んでほしい。分霊箱とは何か、レギュラス・ブラックの遺品、ドビーが第2作で自由の身となった経緯、ベラトリックスがシリウスを手にかけた第5作の出来事、スネイプがダンブルドアを殺した第6作の結末——本作はこれらすべてを観客が知っているものとして話を進め、改めて説明することはない。

鑑賞後は続編『PART2』(2011)へそのまま進むべきだ。本作の結末は続編の冒頭にそのままつながっており、二本はもともと一つの物語として書かれている。間に別の作品を挟まず、できれば同じ日のうちに続けて観ることを強く勧めたい。

ファンタスティック・ビースト三部作(2016/2018/2022)は、本編8作をすべて観終えたあとに『前日譚として追加で味わう』と位置づけると入りやすい。本作で初めて画面に現れる『死の秘宝』の最初の持ち主ゲラート・グリンデルバルドが、続くファンタスティック・ビーストの中心を担っていく。その流れを念頭に置いて観ると、シリーズ全体を貫く倫理の構図が見えてくるはずだ。

見る順番

36よくある質問

『あらすじだけ知りたい』なら、ホグワーツに戻れない一年を描いた物語だと押さえておけばよい。ハリーはダンブルドアの遺言で受け継いだ謎を解き明かしながら、分霊箱の一つであるロケットを破壊する。だが最後には、ヴォルデモートが長老の杖を手に入れてしまう——この流れをつかんでおけば十分だ。

『結末・ネタバレを知りたい』なら、核となるのは次の点である。ロケットの分霊箱はロンの手で破壊される。『死の秘宝』とは、長老の杖・蘇りの石・透明マントという三つの遺品を指す伝承だ。マルフォイ屋敷ではハーマイオニーが拷問を受け、救出に駆けつけたドビーが命を落とす。そしてヴォルデモートがダンブルドアの墓を暴いて長老の杖を奪い、空に高く掲げたところで幕を閉じる。

『PART2を観なくても本作だけで完結するか?』——答えは、しない。本作と続編PART2は、もともと一本の小説として書かれた物語を機械的に二分割した構成であり、本作のラスト1分は、続編の冒頭1分にそのまま接続される。一本で物語が閉じることを期待して観ると消化不良に終わるので、必ず続編PART2と続けて鑑賞してほしい。

『なぜホグワーツがほとんど出てこないのか?』——理由は原作上巻の構成にある。ハリーが17歳の誕生日を迎えてホグワーツに戻る権限を得る前に、ヴォルデモート政権が魔法省を掌握してしまい、ハリーは学校に戻れなくなる。そのため舞台はホグワーツの外に置かれている。物語がホグワーツの内部へ戻るのは、続編PART2の中盤以降だ。

『ドビーは本当に死んでしまうのか?』——はい、ドビーは本作で死亡し、続編PART2には登場しない。彼の最期の場面は、シリーズ全体でもっとも感情を揺さぶる数分の一つとして広く知られている。

『ジョン・ウィリアムズは本作の音楽を担当していないのか?』——はい、本作と続編PART2の音楽はアレクサンドル・デスプラが手がけた。シリーズを象徴する『ヘドウィグのテーマ』はジョン・ウィリアムズの作曲だが、本作では直接の引用が限定的に抑えられている。

37参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、および各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年や興行成績、受賞歴、配信状況、外部の評価は変動する可能性があるため、視聴の前に公式サイトや各データベースの最新情報を確認してほしい。なお本記事の本文は、各種の公開情報をもとに、Anna Movies独自の日本語記事として構成したものである。

参考資料・出典 (5件)
  1. Harry Potter公式(Wizarding World)作品ページ
  2. Wizarding World公式
  3. Harry Potter Wiki(英語)Harry Potter and the Deathly Hallows: Part 1 (film)
  4. IMDb: Harry Potter and the Deathly Hallows: Part 1 (2010)
  5. BAFTA: 2011 Awards Nominees