Anna Movies

ハリー・ポッター

ハリー・ポッターと謎のプリンス

ダンブルドアは校長室の地球儀にそっと触れ、ハリーに分霊箱という言葉と七つの魂のかけらの物語を教える。一方でドラコ・マルフォイは父の代わりに死喰い人の任務を背負い、闇の塔の上で杖を構える。教科書の余白に書き込まれた「謎のプリンス」の助言、洞窟の黒い水、そして天文台の塔の上で発せられる二語の呪文——本作は最終決戦への扉を、もっとも静かに、もっとも残酷に開ける。

媒体: 映画(実写) 英国公開: 2009年7月15日 米国公開: 2009年7月15日 日本公開: 2009年9月19日
ハリー・ポッターと謎のプリンス 公式ポスター

作品データ

作品
ハリー・ポッターと謎のプリンス
原題
Harry Potter and the Half-Blood Prince
媒体
映画(実写)
原作
J.K.ローリング『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(2005)
英国公開
2009年7月15日
米国公開
2009年7月15日
日本公開
2009年9月19日
監督
デヴィッド・イェーツ
脚本
スティーヴ・クローヴス
製作
デヴィッド・ヘイマン/デヴィッド・バロン
製作総指揮
ライオネル・ウィグラム
音楽
ニコラス・フーパー
撮影
ブリュノ・デルボネル
美術
スチュアート・クレイグ
編集
マーク・デイ
衣装
ジェイニー・テマイム
視覚効果
ダブル・ネガティブ/インダストリアル・ライト&マジック/MPC/フレームストア ほか
製作会社
ヘイデイ・フィルムズ/ワーナー・ブラザース
配給
ワーナー・ブラザース
上映時間
153分
製作費
約2億5000万ドル(一説)
興行収入
全世界 約9億3400万ドル
受賞
アカデミー賞撮影賞ノミネート/BAFTA英国アカデミー賞特殊視覚効果賞ノミネート/サターン賞ファンタジー映画賞 ほか
時系列上の位置
ハリーのホグワーツ6年目(1996-1997年)
シリーズ
ハリー・ポッター本編シリーズ第6作(全8作)
時系列上の前後
不死鳥の騎士団 → 本作 → 死の秘宝 PART1
公式予告編は
劇場サイトで確認
予告編を観る 🏛ハリー・ポッター 一覧 🏠トップ 📚参考資料
📖 全40章 / 約21K字 🔄 最終更新 2026年5月26日 ✍️ Anna Movies 編集部

ハリー・ポッターと謎のプリンスは、2009年に公開された映画で、J・K・ローリングの同名小説を原作とするハリー・ポッター・シリーズ第6作である。ダンブルドアはハリーに、宿敵ヴォルデモートの魂が分かれて宿る「分霊箱」の秘密を明かし、二人はその破壊の手がかりを追う。

一方、教科書に書き込まれた「謎のプリンス」の助言や、死喰い人の任務を負うドラコ・マルフォイの動きが、天文台の塔での悲劇へとつながっていく。本作はシリーズを最終決戦へと導く転換点に位置づけられる。

00概要

『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(Harry Potter and the Half-Blood Prince)は、デヴィッド・イェーツ監督によるファンタジー映画で、2009年7月15日に英国と米国で、同年9月19日に日本で公開された。原作はJ.K.ローリングの同名長編小説(2005年刊)。前作『不死鳥の騎士団』(2007)に続く本編シリーズ第6作にあたる。脚本は、前作でいったん離れたスティーヴ・クローヴスが再び筆を執った。彼はシリーズの大部分を手がけてきた書き手である。製作はデヴィッド・ヘイマンとデヴィッド・バロン、配給はワーナー・ブラザース、上映時間は153分。ダンブルドアの死と分霊箱というシリーズの土台を映画化するにあたり、原作の人物や出来事の取捨選択は徹底している。すべては最終章へつなぐ二本の線へと集約されていく。

物語が幕を開けるのは、高揚と恐怖が入り混じった夏である。魔法省の戦いの直後、『ハリー・ポッターが選ばれし者である』という記事が日刊予言者新聞の一面を飾った。ロンドンのミレニアム・ブリッジは闇の靄に巻き取られて崩れ落ち、ダイアゴン横丁の店々には板が打ちつけられる。オリバンダー杖店からは、杖の名工オリバンダー自身が連れ去られた。死喰い人の襲撃はもはや遠い噂ではない。マグルの日常の真上で起こる現実となったのだ。これと並行して、スピナーズ・エンドの工場跡の家では、ナルシッサ・マルフォイがセブルス・スネイプと向き合う。立会人ベラトリックス・レストレンジの杖の下、二人は『破れぬ誓い』を交わす。ドラコを見守ること、彼を護ること、そしてもし彼が任務を果たせなかったときには、代わりに自らがそれを果たすこと——三つの誓いだ。これが映画全体の伏線となり、最後の一秒まで効きつづける。

ハリー・ポッターはダンブルドアに連れられ、引退した元魔法薬学教師ホラス・スラグホーンを教職へ呼び戻す。これによりホグワーツでは、魔法薬の授業がスラグホーン担当、闇の魔術に対する防衛術がスネイプ担当へと配置換えになる。古い魔法薬の教科書を借り受けたハリーは、その余白に手書きの注解と独自の改良呪文を見つける。注解にはこうあった——『この本の持ち主はハーフ・ブラッド・プリンス(半純血のプリンス)』。ハリーはこの教科書を頼りに、授業で次々と頭角を現していく。一方、ドラコ・マルフォイはホグワーツ城七階の必要の部屋へ通い、何かを修復していた。学校の外と内をつなぐ通路を完成させ、死喰い人を城内へ招き入れる準備を進めているのだ。その先に待つのが、天文台の塔の上での出来事である。

本作はシリーズの転換点に位置づけられる。激しい戦闘や派手な魔法の応酬は控えめだ。代わりに『記憶』『過去』『誰が何を背負って生きてきたか』を見せる映画として組み立てられている。ダンブルドアはハリーを校長室のペンシーブ(憂いの篩)へ何度も誘い、トム・マールヴォロ・リドルがいかにしてヴォルデモートになったのかを順に明かしていく。ゴーント家の指輪、孤児院、十一歳のトムを訪ねるダンブルドア、そして十六歳のトムがスラグホーンに『分霊箱を七つに分けることはできますか』と問う場面——。一方で同じだけの時間を割き、『最後の青春劇』としての側面も丁寧にすくい上げる。ハリーとジニー、ロンとラベンダー・ブラウン、ハーマイオニーの嫉妬、フェリックス・フェリシスをめぐるイタズラめいた挿話。それらが過去の物語と並んで描かれるのだ。なお、本記事は結末を含む全編の内容に踏み込む。天文台の塔でセブルス・スネイプが何を発したか、ロケットの蓋になぜR.A.B.のイニシャルが刻まれていたか、ハーフ・ブラッド・プリンスとは誰のことだったのか——その答えまで記すため、初見の驚きを保ちたい読者は、まず本編を鑑賞してから読み進めてほしい。

概要

主要データ

原題
Harry Potter and the Half-Blood Prince
原作
J.K.ローリング(2005年・ブルームズベリー)
監督
デヴィッド・イェーツ
脚本
スティーヴ・クローヴス
音楽
ニコラス・フーパー
撮影
ブリュノ・デルボネル
美術
スチュアート・クレイグ
編集
マーク・デイ
公開
2009年7月15日(米英)/9月19日(日本)
上映時間
153分
ジャンル
ファンタジー、青春劇、ミステリー、ダーク・ファンタジー
舞台
1996-1997年の英国(ロンドン/隠れ穴/ホグワーツ城/海辺の洞窟/天文台の塔)

01あらすじ

ここからは結末までを含めた全編のあらすじを追っていく。ミレニアム・ブリッジの崩落と『隠れ穴』の襲撃に始まり、スピナーズ・エンドで交わされる『破れぬ誓い』、ホラス・スラグホーンの勧誘、謎のプリンスの教科書とフェリックス・フェリシスをめぐる挿話、ロンと毒入り蜂蜜酒、ハーマイオニーの嫉妬とラベンダー・ブラウン、ハリーとジニーの接近、ドラコの必要の部屋へと物語は転がっていく。さらにペンシーブで辿るゴーント家の指輪、孤児院、十六歳のトム・リドルという三つの記憶、洞窟に潜む亡者(インフェリ)、そして天文台の塔の上で起きること。ハーフ・ブラッド・プリンスの正体と、R.A.B.のロケットまでを、ひとつずつ順に見ていきたい。

あらすじ

ミレニアム・ブリッジ崩落と選ばれし者の…

物語は、闇に走る閃光が照らし出すダンブルドアとハリーの顔から始まる。前作『不死鳥の騎士団』、魔法省での戦いの直後をとらえた数秒のフラッシュバックだ。やがて舞台は現実の英国へと移る。マグルのテレビは『不可解な気象現象』のニュースを伝え続け、日刊予言者新聞の一面には『ハリー・ポッターは選ばれし者か?』の見出しが躍る。ロンドン中心部、テムズ川にかかるミレニアム・ブリッジを、黒い人影と黒い靄が雲のように追い抜いていく。橋の鉄骨は柵から順に内側へ捻じれ、やがて橋桁ごと川面へと崩れ落ちる。死喰い人がマグルの世界の真上に現れ、日常を破壊しにやってくる——その一枚の画が、シリーズの空気の変化を一瞬で観客に告げる。

ダイアゴン横丁は、もはやかつての観光名所ではない。看板は半ば外れ、店々の扉には板が打ちつけられている。杖の名工オリバンダー氏の店は荒らされ、主の姿も消えた。街路には魔法省の啓発ポスター『安全を守るために:未知の人物から呼びかけられても応じてはなりません』が貼り出されている。そんな横丁の片隅で、双子ウィーズリー兄弟の悪戯専門店『ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ』だけが鮮やかな黄色とオレンジの内装で営業を続け、子どもたちを呼び込んでいる。フレッドとジョージがハリー、ロン、ハーマイオニー、ジニーを迎えるなか、隣のボージン・アンド・バークス店の前を通りかかったハリーは、ドラコ・マルフォイがそこへ忍び込み、店主に何かを『修理せよ』と命じる現場を目撃する。ドラコの左の前腕には、まだ袖に隠れて観客の目には映らないが、確かにある印が刻まれている。

夜のロンドン。ダンブルドアはマグルの地下鉄駅の片隅でハリーを拾い、二人は廃屋寸前の家『バドリーの隠居の家』へと姿現わしで移る。リビングの暖炉の上、肘掛け椅子に化けて家具のかたまりに紛れていた巨漢——元ホグワーツ魔法薬学教授ホラス・スラグホーン——を、ダンブルドアはたしなめながら本来の姿へと戻す。スラグホーンは闇の魔法使いの追跡を逃れて空き家を渡り歩いており、現役復帰の打診を頑として断り続ける。だがダンブルドアは、ハリーを連れてきた狙いを正確に見抜かせる。スラグホーンは『偉大な生徒の名前のコレクター』であり、リリー・ポッター(ハリーの母)のかつての教師であり、そしてもう一つ——のちにダンブルドアがハリーに託すことになる『記憶』を握る人物なのだ。スラグホーンは結局、教職への復帰を受け入れる。

ミレニアム・ブリッジ崩落と選ばれし者の…

スピナーズ・エンドと破れぬ誓い

夜霧のなか、煤けた工場街スピナーズ・エンドの一角を、フードをかぶったナルシッサ・マルフォイが歩いていく。その背を追うのは、姉のベラトリックス・レストレンジ。ナルシッサが向かうのは、煙突の煙のような黒髪の男、セブルス・スネイプの住まいだ。狭い書斎で三人が向かい合う構図は、スネイプの過去の人脈と、これからの彼の立ち位置を一息に物語る——闇祓いではなく死喰い人の側の旧友たちのあいだで、彼はいまも『信用されている』のだ。

ナルシッサは涙ながらに、息子ドラコの境遇を語る。父ルシウス・マルフォイは魔法省での戦いの失態でアズカバンに収監され、その償いとして、ドラコは闇の帝王から『任務』を直接命じられた。任務の中身は明かされない。だが、未成年の少年に背負わせるにはあまりに重いことだけは確かだ。ナルシッサはスネイプに懇願する。息子のそばにいて護ってほしい、そしてもしドラコが果たせなかったときには、代わりにあなたが果たしてほしい——と。

ベラトリックスは姉の弱さを軽蔑しつつ、スネイプの忠誠心を試すように『破れぬ誓い(アンブレイカブル・ヴァウ)』を持ちかける。誓いを破った者は即死する、もっとも重い魔法の契約である。スネイプは差し出されたナルシッサの右手を握り、ベラトリックスがその上に杖をかざすと、火のような細い帯が二人の腕に巻きついていく。第一の誓い、ドラコを見守ること。第二の誓い、彼を護ること。そして第三の誓い——『もしドラコが果たせなかったとき、闇の帝王から命じられた任務を、あなたが代わりに果たすと約束しますか』。スネイプは目を伏せ、しかしためらわずに『約束する』と答える。三つ目の炎の帯が腕に巻きついた瞬間、観客はまだそれが何の約束かを知らない。だが、この三つ目の誓いだけが、最後の二十分でもう一度立ち上がってくることになる。

スピナーズ・エンドと破れぬ誓い

隠れ穴の襲撃

物語は夏の終わり、ウィーズリー家の住む『隠れ穴』の場面へと移る。ハリーとハーマイオニー、そしてジニー、ロン、フレッドとジョージが顔をそろえている。台所のテーブルでは双子が新発売の悪戯商品を試し、ハリーは新聞の見出しに目を落としながら、いつになく大人びた面持ちでジニーと言葉を交わす。前作までの少年らしいあどけなさは薄れ、その体つきも声も、もはや子どものものではない。

夜、湿地に建つ隠れ穴の周囲に、黒い炎の筋が幾筋も突き刺さる。ベラトリックス・レストレンジと狼男フェンリール・グレイバックを含む死喰い人の一団が、雑草の上に降り立ち、家屋を取り囲む。ジニーがハリーを呼びにいき、二人は杖を抜いて茨の生い茂る湿原へ飛び出す。家の周りを挑発するように回り込むベラトリックスは、姿現わしと姿消しを繰り返してジニーとハリーを翻弄し、ついには『隠れ穴』そのものに火を放つ。アーサーとモリー、ハーマイオニーとロン、トンクスとリーマス・ルーピンが駆けつけるが、間に合わない。一夜にして、象徴的なウィーズリー家の家屋は焼け落ちる。

原作小説には存在しないこの『隠れ穴の炎上』は、映画版オリジナルのシーンである。死喰い人が遠い噂ではなく、家族の家にまで押し寄せてくる——その実感を観客に植えつける役割を担う。続くホグワーツの日常パートを、『安全な学園』ではなく『火事の翌日』として観客に見せる効果を生んでいる点に注目したい。

隠れ穴の襲撃

ホグワーツ特急とドラコの秘密

九月一日、キングス・クロス駅の九と四分の三番線。透明マントを羽織ったハリーは、ホグワーツ特急のスリザリンの個室をこっそり覗きに向かう。ドラコ・マルフォイは、いつもの取り巻きクラッブとゴイル、そしてパンジー・パーキンソンを前に、何かを誇示するように『今年は今までと違う』とほのめかしていた。荷物棚の上から会話を盗み聞きするハリーだったが、終着駅に着くなりドラコに気づかれてしまう。座席の下で身動きの取れぬまま生徒たちを下車させたあと、ドラコの『ペトリフィカス・トタルス』で鼻骨を粉砕され、踏みつけられた末に、車両ごと置き去りにされる。

車庫の暗がりで動けずにいるハリーを救うのは、ホグワーツへ向かう道で気配を察したトンクスである。魔法で鼻血を止めたハリーは、城へ歩いて戻る道すがら、ドラコがもはやただのいじめっ子ではなく『任務』を抱えた人物へと変わっていることを痛感する。歓迎の宴で、ダンブルドアはスラグホーンの教職復帰と、それに伴うスネイプの闇の魔術に対する防衛術教師への配置換えを淡々と告げた。生徒たちの拍手は半ば困惑まじりだが、スネイプは表情ひとつ変えない。

翌日、最初の魔法薬の授業で、教室の隅から一冊の古ぼけた教科書をスラグホーンに手渡されたハリーは、その表紙裏に小さな手書きの文字を見つける。『This Book is the Property of the Half-Blood Prince(この本の持ち主は半純血のプリンス)』。各章の余白には、本文の手順を上書きする独自の改良や、ハリーの知らない呪文の発明、辛辣な短い感想が、若い筆致で書き込まれていた。最初の課題『生ける死の水薬』では、教科書の指示ではなくプリンスの欄外メモに従い、香芹(ソパフォラス)の豆を平らな刃で潰したハリーが、すべての生徒を圧倒する。スラグホーンはその報酬として『フェリックス・フェリシス(幸運の液体)』の小瓶を授ける——飲んだ一日だけは何をやっても成功するという、輝く金色の薬である。

ホグワーツ特急とドラコの秘密

クィディッチ、ラベンダー、ハーマイオニ…

今年もハリーはグリフィンドールのシーカー兼チームキャプテンを務め、トライアウトではロン・ウィーズリーがキーパーの座を勝ち取る。ロンは緊張すると指先が震えるタイプの選手だ。最初の試合直前、更衣室で青ざめている彼の南瓜ジュースに、ハリーは仲間に見せつけるようにフェリックス・フェリシスの瓶を傾けてみせる——実際には一滴も入れていない「プラセボ」である。だが効いていると信じ込んだロンは大胆不敵な防御を連発し、グリフィンドールはスリザリン戦を圧勝する。観客席で母校の校歌を歌うロンの背中越しに、彼に夢中の同級生ラベンダー・ブラウンが目を輝かせるさまも見どころだ。

勝利を祝う打ち上げの夜、共用談話室の人混みのなかで、ロンとラベンダーは大胆に唇を重ねる。ぶつかった視線の先に立ちすくむのは、ハーマイオニー・グレンジャーだ。階段を駆け上がるハーマイオニーをハリーが追い、いつもの教室で慰めるあいだ、扉の外をロンとラベンダーが手を繋いで通り過ぎる。ハーマイオニーは杖を振って小鳥たちを召喚し、それをロンの後頭部めがけて打ち込む。子どもの嫉妬を魔法のミサイルで処理してしまえる——そこに本作の悲喜劇としての魅力がある。観客は同じ場面で笑い、同じ場面で胸を痛めるのだ。

それと並行して、もうひとつの恋がひそやかに進んでいく。ジニー・ウィーズリーは、双子の悪戯商品の試食でハリーの口元に蜂蜜エキスを塗りつけ、唇に触れるほどの距離で「じっとして」と命じる。雪の積もった天文台の段を二人で歩く場面では、明確な台詞ではなく、沈黙のなかで距離が縮んでいく。やがて必要の部屋で、ジニーは自らの手でハリーに透明マントを掛け、そっと唇を寄せる。前作までの「友人の妹」が、ひとりの自立した若い女性としてハリーの前に立つ。そこに、本作が描く青春劇の到達点がある。

クィディッチ、ラベンダー、ハーマイオニ…

スラグ・クラブと過去のペンシーブ

ホラス・スラグホーンは、見込みのある生徒を晩餐会に招いて手元に集める、どこか憎めない俗物だ。その晩餐会は『スラグ・クラブ』と呼ばれる。ハリー、ハーマイオニー、ジニーは早々に常連となるが、ロンとラベンダーは招かれない。ハーマイオニーは意趣返しの『連れ』にクィディッチ選手コーマック・マクラーゲンを選び、どうにかクリスマス・パーティーをやり過ごす。やがてトイレに逃げ込み、追ってきたマクラーゲンを撃退する——その落差が、本作の笑いどころのひとつになっている。

ダンブルドアはハリーを校長室へ呼び、石の盥『ペンシーブ(憂いの篩)』のなかへ降りるよう促す。一つ目の記憶は、魔法省職員ボブ・オグデンの目を借りて見る、ヴォルデモートの母方の血筋『ゴーント家』の朽ちた小屋だ。サラザール・スリザリンの末裔を自称しながら一族のなれの果てとなった父マールヴォロ・ゴーント、その荒れた息子モーフィン、そして地味で怯えた娘メローピー。マールヴォロが見せびらかすのは指輪と金のロケットで、指輪にはペベレル家の紋章が刻まれている。続く記憶では、若き日のダンブルドアがロンドンの孤児院を訪れ、棚に他人から奪った『小さなもの』を隠す癖を持つ十一歳の少年トム・マールヴォロ・リドルに、『君は魔法使いだ。九月にホグワーツへ来なさい』と告げる。家具を意のままに浮かせ、他の子どもたちを動物のように怯えさせる早熟さで、トムは大人のダンブルドアさえ威圧してみせる。

もう一つ、肝心の記憶がある。ホグワーツの薬剤調合室で、十六歳のトム・リドルが当時の教授スラグホーンに問いかける場面だ。『分霊箱(ホークラックス)について読んだのですが、どういう仕組みなのですか。魂を七つに分けられますか』。だがスラグホーンはこの記憶を改変し、自分が答えた部分にだけ深い霧をかけている。ダンブルドアはハリーに告げる。『この映画で頼みたいことは一つだ。スラグホーンから本物の記憶を取り出してほしい』。これがハリーの最大の宿題となる。

スラグ・クラブと過去のペンシーブ

ケイティ・ベルの呪い/ロンの中毒

ホグズミード行きを控えた週末、グリフィンドールのチェイサー、ケイティ・ベルは女子トイレで茶色い小包を受け取る。雪の積もる帰り道、好奇心に抗えなかった彼女は包みを破り、中の純銀のオパールのネックレスに素手で触れてしまう。その瞬間、ケイティは雪の上から数メートル宙に浮き、悲鳴を上げながら痙攣する。駆け寄ったハリーが包みの裏を確かめると、それは「ダンブルドアに渡される予定の品」だった——ドラコ・マルフォイの一手目、しかし届かなかった一手目である。ハリーはマクゴナガル副校長にドラコへの疑念を訴えるが、現場に居合わせなかった彼の関与を証明することはできない。

数か月後、別の一手が放たれる。スラグホーンの執務室で、ロンの十七歳の誕生祝いとして開けられた蜂蜜酒の瓶——本来はクリスマス・プレゼントとしてダンブルドアに贈られるはずだった一本——に、ロンが先に口をつけてしまう。直後、ロンは床に倒れ、口から泡を吐いて痙攣する。ハリーは食料棚から見覚えのあるベゾアール石(毒消しの効く胃石)をひとつかみ、ロンの喉に押し込む。スラグホーンの教えそのままの手当てが間に合い、ロンは一命を取り留める。

医務室で意識を取り戻したロンは、もうろうとしたまま「えるみおぬ……」とハーマイオニーの名を呼ぶ。枕元のラベンダー・ブラウンは「私の名前を呼んでいるのね」と勘違いし、扉の影でハーマイオニーは涙を浮かべる。後日、ロンは事故の記憶のないまま、ラベンダーとの関係を自然消滅させていく。事件の事実関係はマクゴナガルとスネイプによって調査されるが、毒を盛った者を特定することはできない。だがハリーは確信する——城のなかで、誰かが、ダンブルドアを殺すための準備を進めている。

ケイティ・ベルの呪い/ロンの中毒

セクタムセンプラ

ある日ハリーは、忍びの地図に記された『ドラコ・マルフォイ』の名札が、人気のない男子トイレにとどまり続けているのに気づく。透明マントを羽織って後を追うと、洗面台の鏡の前で泣きじゃくるドラコがいた。任務に押し潰されかけた十六歳の少年の素顔である。だがその場に居合わせたのも束の間、鏡越しに目が合うなりドラコは杖を抜き、二人は決闘になだれ込む。狭いトイレ、水の張った石床の上で、双方の放つ呪文が床と天井を抉っていく。

追い詰められたハリーは、教科書の余白に走り書きされながら何の呪文とも説明のない一語——『Sectumsempra(セクタムセンプラ):敵に向けて』——を、考えるより先に杖先から放つ。透明な刃が空を斬り、ドラコの胸と顔に深い傷が花のように開いて、洗面台にあふれる水が朱に染まっていく。誰よりも驚いたのはハリー自身だ。倒れたドラコを抱き起こす物音に駆けつけたスネイプは、ハリーを押しのけ、低い詠唱とともに傷口を一つずつ閉じると、ドラコを医務室へ運んでいく。

後日、教科書のことをハーマイオニーに咎められたハリーは、思い悩んだ末に必要の部屋へ向かい、見たこともない雑多なガラクタの山の奥、黒い焦げ跡の散る木製キャビネットの上にその本を隠す。観客が短いカットで目にするこの木製キャビネット——『姿をくらますキャビネット』こそ、ドラコがずっと修理を続けてきた一品であり、城の外と内をつなぐ通路の片割れにほかならない。ハリーは隠した本のすぐ脇で、城の運命を握る道具を目にしている。だが、まだそうとは知らない。

セクタムセンプラ

フェリックス・フェリシスと真の記憶

ハグリッドが飼っていた巨大蜘蛛アラゴグが死んだ夜、ハリーは小屋での埋葬式に向かう前に、温存していたフェリックス・フェリシスを一口だけ飲む。輝く金色の液体が血管を駆けめぐり、世界の色がふいに一段明るくなる。すれ違うものすべてが正解の方向へ自然に転がっていく——その感覚のなかで、ハリーは自分でも理由を説明できないまま、スラグホーンを誘ってハグリッドの小屋へと足を向ける。

酒の入った夜の小屋で、ハリーはぽつりと『先生の薬草が好きでよかった——母も先生の授業が好きだった』とだけ口にする。その一句ごとに、スラグホーンの目には涙が滲んでいく。やがてスラグホーンは、自分の弱さと、ずっと隠してきた記憶のことを語り始め、ついには杖先から銀色の糸——本物の記憶——を引き抜き、ハリーが差し出した小瓶のなかへと落とす。十六歳のトム・リドルが『魂を七つに分けられますか』と問い、スラグホーンが『七つ……それは想像することさえおぞましい。だが理論上は可能だ』と答える、その全容である。

校長室のペンシーブで記憶を見終えたダンブルドアは、椅子に身を沈めながら結論を告げる。トムは魂を七つに分け、すでにいくつかの『分霊箱』を作っている。指輪、日記、ロケット、カップ、髪飾り——どこにあるのか分からない品もあるが、そのすべてを破壊しない限り、ヴォルデモートは死なない。そして、最後の一つを取りに行かねばならない——海辺の洞窟へ。今夜にも、ダンブルドアとハリーの二人で。

フェリックス・フェリシスと真の記憶

海辺の洞窟と亡者

二人は海食崖の岩棚に姿を現わすと、波しぶきに濡れた断崖を伝い下り、岩壁の裂け目から黒い洞窟の内部へと滑り込む。ダンブルドアは入口の壁をナイフでひと撫でし、自らの血を入場の代償として捧げる。広い地下湖の中央には、緑色の鬼火が灯った石の島が浮かぶ。湖面は鏡のように静まりかえり、その底には無数の死体——闇の魔法によって繰り人形と化した屍体『亡者(インフェリ)』が、まだ沈んだまま眠っている。

島の中央に据えられた石の盥には、緑色に光る液体がなみなみと張られ、その底に銀のロケットが沈んでいる。ダンブルドアはハリーに告げる。この薬は飲んだ者を絶望と痛みで満たすが、飲み干さない限りロケットには手が届かない。私が飲むから、君は必ず最後まで飲ませてくれ、と。そして『何があっても、飲ませろ』と命じる。盃を一杯ずつ口に運ばれるダンブルドアは、過去の最も深い悔いの像に責め苛まれて呻き、『水をくれ……水を……』と懇願する。

ハリーが湖面に杖を当てて水を汲もうとした瞬間、湖の底から白い手が次々と這い上がる。蘇った亡者の群れが島へ押し寄せ、ハリーを水中へ引きずり込もうとする。緑色の液体を最後まで飲み干し、半ば気を失ったダンブルドアは、最後の力を振り絞って島の周囲を一面の火の輪で包む。亡者は炎に怯んで湖へと沈んでいく。ロケットを胸に抱いたハリーは、ぐったりとしたダンブルドアの腕を支え、二人は姿現わしでホグズミード村の外れへ戻る。だが、帰り着いたホグワーツの上空には、緑色の髑髏と蛇——『闇の印』が、すでに高々と掲げられていた。

海辺の洞窟と亡者

天文台の塔

ハリーはすぐにもダンブルドアの杖を握り直したい。だが命じられるまま透明マントをかぶり直し、その影に身を寄せて天文台塔の最上階へと向かう。階段の上の扉が開き、青ざめたドラコ・マルフォイが杖を構えて入ってくる。透明マントの下のハリーは、ダンブルドアの「微動だにせず、声を立てるな」という強い視線に、その場で動けない呪文をかけられたかのように凍りつく。ダンブルドアは自らの杖を石の床へ落とし、両手を空にしてドラコと向き合う。

ドラコの杖先は震えている。彼に課された任務は、ダンブルドアを殺すことだった。だが、人を殺めた経験はない。ダンブルドアは穏やかに、ドラコの家族を守ると申し出る——「君が自分で選んだことではない。私には分かっている」。階段の下から駆け上がる足音と笑い声に、ドラコの背がびくりと震える。やがてベラトリックス・レストレンジ、フェンリール・グレイバック、ヤックスリーら死喰い人が塔の最上階に姿を現し、ドラコの背を押して「やれ、ドラコ、やってしまえ」とせき立てる。ドラコの杖先は決して下がらない。だが、決して呪文も走らない。彼にはできないのだ。

そこへ階段を上がってきたのが、セブルス・スネイプである。一同が振り返るなか、ダンブルドアはただ一語、その名を呼ぶ——「セブルス……お願いだ(Severus...please.)」。それが懇願なのか、命令なのか、初見の観客には判断がつかない。スネイプはドラコを軽く脇へ押しのけると、杖を持ち上げ、ためらいも哀しみも見せずに二語を放つ。「アバダ・ケダブラ」。緑色の閃光がダンブルドアの胸を貫き、その体は塔の縁から後ろ向きに、ゆっくりと——夜の闇の底へと落ちていく。透明マントの下のハリーは、自分の口から声が出ないまま、その光景を見届けるしかない。

天文台の塔

スネイプの背と私が謎のプリンスだ

塔を縛りつけていた呪縛が解けると、ハリーは階段を駆け下りた。城内の大広間では死喰い人とホグワーツの教師たちが乱闘を繰り広げているが、それを横目に、夜の校庭をひとり走り去るスネイプを追う。ベラトリックスは余興のように燃える松明をハグリッドの小屋へ投げ込む。城の上空には煙が立ち上り、暗さを増す空のなか、ハリーは何度もスネイプに呪文を放つ。だが、放つそばから呪文は逸らされ、跳ね返される。スネイプは杖の先に宿るハリーの意図を、呪文が放たれる前から読み取ってしまうのだ。

ついにスネイプに地面へ組み伏せられかけたハリーは、最後の手段として、教科書の余白で覚えた『セクタムセンプラ!』を叫ぶ。スネイプはほとんど無造作に手を振ってそれを払い、低い声で告げる。『私の発明した呪文を、私に向けるのか』。ハリーが息を呑むのを見て、彼はもう一度、はっきりと言い放つ。『私こそが——半純血のプリンスだ(I am the Half-Blood Prince)』。教科書の若い筆致の主は、若き日のセブルス・スネイプその人だった。スネイプの母はイリーン・プリンスという半純血の魔女であり、教科書の表紙裏に『プリンス』の名を書きつけたのは、母の旧姓を自らに重ねた、孤独な十代の少年スネイプだったのである。

スネイプはハリーに最後の傷を負わせることはせず、ドラコの首根っこを掴むと、夜のホグワーツの境界線の外へと走り去る。残されたハリーは芝生の上に膝をつき、塔の下の冷たい石畳に横たわるダンブルドアの遺体へ駆け寄る。やがてマグゴナガル、ハグリッド、ロン、ハーマイオニー、ジニー、ルーナ・ラブグッドらが集まり、夜空に向けて全員の杖が掲げられる。生徒たちと教師たちの杖の先からは、ホグワーツの空に重なる白い光の柱が立ち昇り、闇の印の緑をかき消していく——シリーズで最も静かで、最も哀しい儀礼の一つである。

スネイプの背と私が謎のプリンスだ

R.A.B.の偽ロケットと最後の決意

葬儀の翌日、ハリーは胸ポケットに納めたロケットを、天文台のへりで初めて開ける。だが中にあったのは、想定していたヴォルデモートの魂の欠片ではなく、薄く折りたたまれた紙片だった。流麗な筆跡で綴られた手紙には、こうある——『闇の帝王へ。私はあなたが死を恐れる男であると知っている。あなたが分霊箱を作ったことも知った。その真の分霊箱を盗み出し、可能な限り破壊する者に、私はこれを託す。すでに私はあなたから遠く隔たり、二度と会うことはあるまい。死を覚悟して、ここに署名する。——R.A.B.』。ロケットは『偽物』だったのだ。本物のロケットは、ダンブルドアが命と引き換えに取りに行ったあの洞窟にすら、もう既になかった。

ロン、ハーマイオニー、ハリーの三人は天文台のへりに並び、霧に沈む城下を見下ろす。ハリーは静かに告げる。『戻らない。学校には戻らない。ダンブルドアが始めた仕事を、終わらせなくちゃならない』。ロンは『一人で行かせると思ったか』と返し、ハーマイオニーも『私たち、一緒に行く』と即座に応える。三人は最後の朝の光のなかで肩を寄せ合う。やがて不死鳥フォークスが城の上を旋回し、空の彼方へと消えていく。

この場面で、本作の一つの大きな物語が閉じ、もう一つの、より大きな物語の扉が開く。R.A.B.の正体、本物のロケットの行方、残された分霊箱の数とその在処、そしてセブルス・スネイプという男が本当はどちらの側に立つのか——その答えはすべて、次作『死の秘宝 PART1/PART2』へと持ち越される。映画は、決定的な勝利も慰めも観客に与えない。ただ三人の若い肩越しに広がる遠い空だけを残して、静かに幕を閉じるのだ。

R.A.B.の偽ロケットと最後の決意
ここまでが全編のあらすじである。以降は登場要素、人物、制作背景、公開と興行、舞台裏、テーマなど、作品を資料として理解するための章が続く。

関連リンク

登場要素

本作に登場、あるいは言及される主な要素を分類して紹介する。ホグワーツに訪れた最後の穏やかな一年を描くと同時に、最終章で崩壊していく世界の最後の姿をとどめた作品でもある。それゆえ、教師陣や学友、家族、土地の名前の一つひとつが、次作以降の物語を読み解くうえで重要な手がかりとなる。

  • ハリー・ポッター
  • ロン・ウィーズリー
  • ハーマイオニー・グレンジャー
  • ジニー・ウィーズリー
  • ドラコ・マルフォイ
  • ラベンダー・ブラウン
  • コーマック・マクラーゲン
  • ルーナ・ラブグッド
  • ネビル・ロングボトム
  • シェイマス・フィネガン
  • ディーン・トーマス
  • ケイティ・ベル
  • ブレーズ・ザビニ
  • パンジー・パーキンソン
  • クラッブ
  • ゴイル
  • アルバス・ダンブルドア
  • セブルス・スネイプ
  • ホラス・スラグホーン
  • ミネルバ・マクゴナガル
  • ルビウス・ハグリッド
  • フィリウス・フリットウィック
  • ポピー・ポンフリー
  • アーガス・フィルチ
  • アーサー・ウィーズリー
  • モリー・ウィーズリー
  • フレッド・ウィーズリー
  • ジョージ・ウィーズリー
  • ニンファドーラ・トンクス
  • リーマス・ルーピン

  • ヴォルデモート卿(記憶のなかの少年トム・リドル)
  • ベラトリックス・レストレンジ
  • ナルシッサ・マルフォイ
  • ルシウス・マルフォイ(言及・収監中)
  • フェンリール・グレイバック
  • ヤックスリー
  • オリバンダー(誘拐/言及)

  • 亡者(インフェリ)
  • 巨大蜘蛛アラゴグ
  • 巨人の血を引く者
  • 屋敷しもべ妖精クリーチャー(言及)
  • 不死鳥フォークス
  • ヒッポグリフ(バックビーク/ウィザーウィングス)

  • アバダ・ケダブラ
  • セクタムセンプラ
  • レビコルパス(吊り下げ呪文)
  • ペトリフィカス・トタルス
  • リパロ(修復)
  • ホメナム・レベリオ(人体検知)
  • プロテゴ・トターラム(言及/後作)
  • 破れぬ誓い(アンブレイカブル・ヴァウ)
  • 占い/予知(言及)
  • 炎の輪
  • 姿現わし/姿消し(アパレート)
  • リペリオ・イニメコス(敵を退ける)
  • 服従の呪文(インペリオ)

  • ハーフ・ブラッド・プリンスの教科書
  • フェリックス・フェリシス(幸運の液体)
  • 生ける死の水薬
  • ベゾアール石
  • オパールのネックレス
  • 蜂蜜酒(毒入り)
  • ゴーント家の指輪/ペベレル家の紋章(記憶)
  • 金のロケット(スリザリンの遺物)
  • 偽のロケット(R.A.B.の手紙入り)
  • ペンシーブ(憂いの篩)
  • マローダーズ・マップ
  • 透明マント
  • 姿をくらませるキャビネット(必要の部屋)
  • ウィーズリー双子の悪戯商品
  • クィベ・ザ・クィブラー誌(言及)
  • 日刊予言者新聞

  • ロンドン(ミレニアム・ブリッジ)
  • ダイアゴン横丁
  • ボージン・アンド・バークス
  • ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ
  • スピナーズ・エンド
  • ウィーズリー家『隠れ穴』
  • キングス・クロス駅九と四分の三番線
  • ホグワーツ城
  • 必要の部屋
  • 魔法薬学教室/スラグホーンの執務室
  • 天文台の塔
  • ホグスミード村
  • ゴーント家の小屋
  • 孤児院(ロンドン)
  • 海辺の洞窟(地下湖)

  • ホグワーツ魔法魔術学校
  • グリフィンドール/スリザリン/レイブンクロー/ハッフルパフ
  • 魔法省
  • オーラー(闇祓い)
  • 死喰い人
  • スラグ・クラブ
  • 不死鳥の騎士団(言及)
  • 破れぬ誓い
  • 分霊箱(ホークラックス)
  • 選ばれし者の予言(言及)

16主要登場人物

本作は派手な戦闘よりも、登場人物それぞれの『内面と過去』に光を当てた一作である。三人組のうち、誰一人として前作までの『子ども』のままではいられない。ダンブルドア、スネイプ、そしてドラコは、それぞれ異なる理由から『誰かのために自分の手を汚す』選択を迫られていく。

ハリー・ポッター

本作のハリーは、もはや救世主の冠を背負う少年ではない。日刊予言者新聞に『選ばれし者か』と書き立てられても、彼の身辺を満たすのは、孤児院の頃から続く寂しさと、隠れ穴で雪を踏みしめながらジニーと交わす短い視線——そんな小さなものばかりだ。ダンブルドアの『個人授業』に呼び出されてはペンシーブに沈み、ヴォルデモートの少年時代を覗くたび、自分と十一歳のトムが似ていることに静かな恐れを覚えていく。

一方で本作のハリーは、『プリンス』の教科書を手にしたことで、魔法薬の教室にはじめて輝く生徒として立つ。だがその輝きは自分の力ではない。他人の天才——のちにセブルス・スネイプだと知る——の借り物にすぎない。ドラコの胸にセクタムセンプラを刻んだあと、自らの杖先を見つめる長いショットは、本作のハリーの精神的などん底を象徴している。終盤、洞窟でダンブルドアに毒を飲ませる役を担い、塔の上で透明マントの下から師の死を見届けるハリー。もはや庇護される側ではなく、ロンとハーマイオニーに『一緒に行こう』と告げられる側へと変わっていく。

ハリー・ポッター

アルバス・ダンブルドア

本作のダンブルドアは、自らの死期をすでに悟った男として描かれる。前作以前から右手は黒く焼けただれており、これがゴーント家の指輪——破壊された分霊箱の一つ——にかけられた呪いの結果であることが、本作では言外に示される。呪いの進行を遅らせるため、彼は密かにスネイプの治療を受けていた。塔の上で発した『セブルス、お願いだ』という嘆願の真意が観客に明かされるのは、次作以降のことである。

ハリーへの教育方針も、本作で明らかに変わる。剣を握らせるのではなくペンシーブへと降ろし、ヴォルデモートの『始まり』を直接見せる。そして終盤の洞窟へは、敵としてではなく弟子として連れていく。海食洞で『どんなに見るに堪えなくとも、最後まで私に飲ませてくれ』とハリーに命じる場面は、年長者が後継者に『次の世代の手で自分を看取る覚悟』を強いる、シリーズで最も冷静かつ最も痛切な瞬間の一つだ。マイケル・ガンボンは前作までより一段静かな身ぶりで、この『すでに最期を知る賢者』を演じきった。

アルバス・ダンブルドア

セブルス・スネイプ

本作のスネイプは、シリーズ全体を通して最も観客の解釈を二分する立ち位置に置かれている。冒頭、スピナーズ・エンドでナルシッサと交わす『破れぬ誓い』の三つ目——ドラコの任務を代わりに果たすという誓い——が、塔の上での『アバダ・ケダブラ』へと帰結する。多くの観客はこの瞬間、彼を完全な裏切り者として記憶に刻むことになる。

だが本作は同時に、彼こそが『ハーフ・ブラッド・プリンス』であったことを明かす。半純血の母イリーン・プリンスの旧姓を自らに重ね、十代の彼が教科書の余白に書きつけた呪文と工夫——『生ける死の水薬』の改良も、敵を吊るす『レビコルパス』も、そして最後の『セクタムセンプラ』も——を、ハリーはこの一年、その恩恵に浴して輝いてきた。冷酷な殺人者と、孤独な十代の発明家。二つの像が同じ顔のなかに同居するこの矛盾は、続く『死の秘宝』でようやくほどかれる。アラン・リックマンの抑制の効いた声と歩みが、観客の判断を最後まで宙づりにする。

セブルス・スネイプ

ドラコ・マルフォイ

シリーズで最も「イビり役」だった少年が、本作で初めて主人公級の悲劇を背負う。父ルシウスの失脚の代償として、未成年の彼にヴォルデモートが直接下した命令は「校長を殺せ」。失敗すれば家族の命まで奪われる。だが、それを誰にも打ち明けられない。

ホグワーツ城の必要の部屋にひとり通い、闇の魔法使いに伝わる「姿をくらませるキャビネット」を修理する——ドラコの孤独を、トム・フェルトンは抑えた芝居で繊細に立ち上げる。ハリーが偶然居合わせる女子トイレの場面。鏡に向かって泣くその顔は、もはや前作までの傲慢な貴族の息子ではない。終盤、塔の上で杖を構えたまま手が震え、結局自分では引き金を引けない少年の姿は、本作のもう一人の主役と言ってよい。

ドラコ・マルフォイ

ロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グ…

本作のロンは、ほぼ全編を通じて笑いの源泉を担っている。フェリックス・フェリシス——実は『プラセボ』だったのだが——を口にして大胆な守りを見せるクィディッチの初戦、ラベンダー・ブラウンとの人目もはばからぬ接吻、そして毒入りの蜂蜜酒で倒れ、目覚めた医務室で半ば朦朧としながら漏らす『えるみおぬ……』。いずれの場面も、重く張り詰めた本筋と対をなす、明るい青春劇のリズムを保つために置かれている。

ハーマイオニーは、長年胸に秘めてきたロンへの想いを、ついに抑えきれずに表へ出してしまう。共用談話室の階段の上、ハリーの肩に顔をうずめて涙する場面と、コーマック・マクラーゲンを伴ってクリスマス・パーティーで意趣返しを図る姿。その振れ幅の大きさが、エマ・ワトソンの芝居の幅をみごとに引き出している。そして終盤、ハリーが『学校に戻らない』と宣言した瞬間、迷わず肩を寄せ合う二人——子どもの三人組から『戦友』へと変わっていく、その橋渡しこそが、本作の青春劇パートに与えられた最後の役目である。

ロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グ…

ホラス・スラグホーン

シリーズ後半で登場する、重要な新キャラクターである。元ホグワーツの魔法薬学教授で、引退後は『偉大になりそうな生徒のコレクション』を信条に各地を渡り歩く、愛すべき俗物として描かれる。権力欲も殺意も持たない男だ。しかし十六歳のトム・リドルから投げかけられた『分霊箱に関する質問』に、つい答えてしまった——その一点において、シリーズ最大の罪と最大の幸運を、同時に背負うことになる。

ジム・ブロードベントは、人懐っこさと、その奥に潜む罪悪感とを同居させる演技で、スラグホーンを単なるコメディ・リリーフ以上の人物に仕立てた。フェリックス・フェリシスを飲んだハリーが、アラゴグを埋葬した夜、酒と思い出話のなかから真の記憶を引き出していく一連の場面は、本作の演技の白眉だ。彼は最後まで戦士ではない。だが『戦わない大人にも、戦う場面が来る』という最終決戦への伏線を、ここで観客に静かに置いてみせる。

ホラス・スラグホーン

ベラトリックス・レストレンジとナルシッ…

姉ベラトリックスは、前作の魔法省でシリウス・ブラックを手にかけた狂気をそのままに、本作でも『隠れ穴』への放火と天文台の塔の襲撃を主導する。一方の妹ナルシッサは、姉のような狂気とは無縁だ。ただ一つ——息子ドラコの命を守ること。それだけを行動の原理として、スピナーズ・エンドのスネイプのもとを訪れ、『破れぬ誓い』を頼み込む。

ヘレナ・ボナム・カーターとヘレン・マックロリーは、対照的な姉妹の振れ幅を、わずか一場面の対話に凝縮してみせる。母としての判断と忠誠のはざまで、息子を救うためなら血の同志の掟さえ破ろうとするナルシッサ。その姿は、続く『死の秘宝 PART2』で森のなかで偽りの証言をする場面へと静かにつながっていく。シリーズの隠れた縦軸の一つだ。

ベラトリックス・レストレンジとナルシッ…

舞台と用語

舞台は前作までと同じ英国の魔法界。だが本作の特徴は、『過去の場所』が数多く加わる点にある。ゴーント家の朽ちた小屋、二十世紀前半のロンドンの孤児院、若き日のホグワーツの薬剤調合室——ペンシーブを通じて訪れるこれらの場所は、ヴォルデモートという人物の『地理上の出自』そのものであり、最終章での分霊箱探索の地図ともなる。

現代の舞台では、ホグワーツ城七階の『必要の部屋』、海食崖の地下湖、そして天文台の塔という三つの空間が、物語の骨格をなす。必要の部屋は『隠したいものが集まる場所』として登場する。ドラコのキャビネットとハリーのプリンス教科書がほぼ同じ場所に置かれていることは、本作の二つの軸が交わる地点を象徴している。用語の面では、『分霊箱(ホークラックス)』『破れぬ誓い(アンブレイカブル・ヴァウ)』『フェリックス・フェリシス』『姿をくらませるキャビネット』『亡者(インフェリ)』が、初出または本格的に説明される鍵概念だ。

舞台と用語

25制作

本作と続く二作(『死の秘宝 PART1/PART2』)を含む最終四作を、前作で初めてメガホンをとったデヴィッド・イェーツが連続して手がける——その決定は制作の初期に下された。これによりシリーズの語り口は『現代的な英国映画』へとほぼ固まる。原作小説のなかでも最も内省的な一冊を映画化するにあたり、制作陣は最後まで一つの方針を貫いた。戦闘ではなく、記憶を見せること。それである。

制作

企画と脚本

脚本を手がけたスティーヴ・クローヴスは、第5作『不死鳥の騎士団』では一時降板していたが、本作で再び筆をとった。600ページを超える原作小説を前に、彼は迷わず『ダンブルドアとハリーのペンシーブ』『破れぬ誓い』『プリンスの教科書』『洞窟』『塔』の五点を物語の骨格に据えた。そのうえで、ハリーとジニーの恋、ロンとラベンダーの三角関係、フェリックス・フェリシスをめぐる挿話を、その合間に丁寧に織り込んでいる。

小説の冒頭、原作では魔法省の戦いの直後に置かれていたマグル首相とコーネリウス・ファッジの対面シーンは、映画では丸ごと省かれた。代わりに脚本段階で書き加えられたのが、『ミレニアム・ブリッジ崩落』と『隠れ穴の襲撃』という二つのオリジナル場面である。「闇は今ここにいる」という前提を、映画的に最短距離で観客へ伝えるための判断だった。J.K.ローリング自身もこの方針を承認し、各記憶の解釈をめぐって制作陣と緊密にやり取りしたと伝えられる。

キャスティング

三人組のダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンを中核に、マイケル・ガンボン(ダンブルドア)、アラン・リックマン(スネイプ)、トム・フェルトン(ドラコ)、ロビー・コルトレーン(ハグリッド)、マギー・スミス(マクゴナガル)ら本編シリーズの常連が顔をそろえた。ヘレナ・ボナム・カーター(ベラトリックス)、ヘレン・マックロリー(ナルシッサ)、デヴィッド・シューリス(ルーピン)、ナタリア・テナ(トンクス)も、前作で演じた役をそのまま引き継いでいる。

本作で最も注目すべき新顔は、ホラス・スラグホーン役のジム・ブロードベントだろう。スラグホーンは原作でも屈指の重要な新キャラクターで、笑いと罪悪感を同時に背負わせなければならない難役だが、ブロードベントは穏やかなまなざしと意外な身のこなしで、観客の好感を保ったまま終盤の“真の記憶”の場面まで演じきった。16歳のトム・リドル役にはフランク・ディレイン、11歳のトム・リドル役には、前作以降ヴォルデモートを演じるレイフ・ファインズの甥にあたるヒーロー・ファインズ=ティフィンが起用され、一族らしい顔立ちの連続性が画面の上でも生かされている。新たな準ヒロインとしてラベンダー・ブラウン役にジェシー・ケイヴが本作のみ本格的に加わり、ハリーとジニーの関係が前面に出てくるのに伴って、ボニー・ライトの出番も大きく増えた。

キャスティング

撮影と色彩設計

本作の撮影監督を務めたのは、ジャン=ピエール・ジュネ監督の『アメリ』『ロング・エンゲージメント』、コーエン兄弟の『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』などで知られるブリュノ・デルボネルである。ハリー・ポッター本編シリーズには新たに迎えられた人選だ。デルボネルは全編をほぼ無彩色に近いブルー=グレイで覆い、原作が描く「暗くなっていく世界」というモチーフを、画面そのもので表現してみせた。

前作までの『金色の暖炉と緑の森』に比べ、本作の画面は彩度が明らかに抑えられ、ホグワーツの大広間でさえ薄暗い。ダイアゴン横丁の店々の上に渡された木の板、隠れ穴が燃え落ちる夜空、海食洞に揺れる緑色の燐光、天文台の塔を包む青い夜、そして塔の下に灯る無数の杖先の白い光——そのどれもが、デルボネルの設計に従って色温度を厳密に管理されている。この撮影でデルボネルは第82回アカデミー賞撮影賞にノミネートされた(同年の受賞は『アバター』のマウロ・フィオーレ)。

撮影と色彩設計

美術・視覚効果

美術監督は、本編シリーズ全作を一貫して手がけたスチュアート・クレイグ。本作で新たに造形されたのは、リトル・ハングルトンの丘の上にたたずむゴーント家の朽ちた小屋、二十世紀前半のロンドンの孤児院、薄暗いボージン・アンド・バークスの店内、そして必要の部屋に山と積まれたガラクタの数々である。さらに海辺の崖と、地下湖を抱く洞窟も新たに作り上げられた。地下湖のセットは、巨大な水槽の中央に石の島を組み、湖面の鏡のような輝きと亡者の浮上を両立させるよう設計されている。

視覚効果は、ロンドンのダブル・ネガティブ、インダストリアル・ライト&マジック、MPC、フレームストアが中心となって分担した。冒頭のミレニアム・ブリッジ崩落は、実橋のCGモデルを軸に、黒煙となった死喰い人を群れとして動かす趣向で、本作オリジナルシーンの白眉となった。海食洞の亡者は、水中モーションキャプチャーをもとに、ぼやけた骨格と痩せ細った皮膚を合成し、水の底から這い上がる死体ならではの生々しい触感を生み出している。こうした成果が認められ、本作はBAFTA特殊視覚効果賞にノミネートされた。

美術・視覚効果

音楽

音楽は前作に続いてニコラス・フーパーが手がけた。フーパーはジョン・ウィリアムズが作曲した『ヘドウィグのテーマ』を背景に残しつつ、登場人物それぞれに新たなライトモティーフを与えている。ハリーとジニーの場面で繰り返されるピアノの主題『When Ginny Kissed Harry』、ハグリッドとアラゴグの埋葬で流れる『In Noctem』、塔の場面を重い金管で覆う『The Killing of Dumbledore』、そしてエンドクレジットの『Farewell Aragog』が代表曲である。

前作『不死鳥の騎士団』の音楽が政治劇のリズムに合わせて忙しなく動いていたのに対し、本作はあえて長い旋律を取り、その合間に静寂を挟み込む。海食洞でダンブルドアが緑色の液体を飲み干していく長い場面、塔の上でのスネイプとダンブルドアの対面、葬儀で掲げられた白い杖の光——いずれも台詞ではなく、音楽の長い呼吸が場面を支えている。

撮影スケジュールと公開延期

本作の主要撮影は、2007年9月から2008年5月にかけて、英国リーヴスデン・スタジオを拠点に行われた。海食洞のシークエンスは、アイルランド・クレア州モハー断崖の沖合と周辺の岩礁で第二班が撮影を担当し、印象的な崖の俯瞰ショットの一部もここで撮影されている。

ワーナー・ブラザースは当初、本作を2008年11月の感謝祭シーズンに公開する予定だった。ところが2008年8月、公開を翌2009年7月15日へ延期すると突如発表する。理由は作品の出来や撮影の問題ではない。同時期に並ぶ他社作品の状況に加え、長期化したハリウッドの脚本家組合ストの影響で2009年夏の大型作品が品薄になりそうだという、興行上の判断だった。決定にはダニエル・ラドクリフら出演者からも不満の声が上がったが、結果として本作は翌年夏の興行で最大級のヒットを記録することになる。

撮影スケジュールと公開延期

編集と構成上の判断

編集を手がけたのはマーク・デイ。シリーズのなかでも本作の編集はとりわけ難度が高い。原作七年分の伏線を回収しながら、続く二作(『死の秘宝 PART1/PART2』)への布石を確実に打たねばならなかったからだ。デイとイェーツは、原作小説で大きな比重を占めるホグワーツでのアパレート(姿現わし)試験の章を削り、代わりに『隠れ穴の襲撃』を新たに加えた。学園コメディを圧縮し、闇の気配を増幅させる——二つの方向への調整である。

原作読者のあいだで議論を呼んだのが、原作のクライマックスを飾る『ホグワーツ城内の戦闘』が映画ではほぼ省かれた点だ。闇の印が掲げられたあとも、生徒たちの大乱戦は描かれない。これは物語の主軸を『ダンブルドアの死』に集中させるための判断であり、削られた戦闘描写は次作以降の『ホグワーツの戦い』へと集約された。葬儀の場面も原作とは異なり省かれ、代わりに『生徒と教師の杖の光が闇の印を消す』場面が置かれている。象徴的な追悼として、それが葬儀に代わるのだ。

33公開と興行

2009年7月15日に英国・米国で同日公開、9月19日に日本で公開された本作は、北米初週末で約7800万ドル、全世界初週末で約3億9400万ドルを記録し、当時の海外初動歴代記録を塗り替えた(のちの作品にさらに更新される)。最終的な全世界興行収入は約9億3400万ドルに達し、2009年公開作品のなかでも世界興行の上位に名を連ねた。シリーズ本編八作を通じて、安定して高い数字を残した一作である。

批評面では、抑制の効いた演出と陰影の濃い色調が高く評価された。第82回アカデミー賞では、ブリュノ・デルボネルが撮影賞にノミネートされている。さらに第63回英国アカデミー賞(BAFTA)では特殊視覚効果賞にノミネート、サターン賞ではファンタジー映画賞を受賞した。一方、原作のどこを残しどこを削るかをめぐっては議論もあった。とりわけ終盤の戦闘を省いた点に原作読者から異論が出たが、映画版独自の編集判断として概ね受け入れられている。

こうした興行と批評の両面での成功により、続く『死の秘宝』を二部作として製作・公開するワーナー・ブラザースの計画は揺るぎないものとなった。シリーズはそのまま、ラスト二作(PART1/PART2)の連続公開へと走り抜けていく。

公開と興行

34批評・評価・文化的影響

本作は、シリーズ本編のなかでも「最も内省的な一作」としてしばしば挙げられる。戦闘の派手さや魔法の見せ場では他の作品に一歩譲るものの、ダンブルドアという人物の死を、彼みずからが定めた順序で看取らせていく構成は、若年層向けファンタジー映画の到達点の一つと評価されている。ブリュノ・デルボネルの撮影、ニコラス・フーパーの音楽、そしてトム・フェルトン(ドラコ)とアラン・リックマン(スネイプ)の抑えた芝居は、本作以後の英国ファンタジー映画の語法に明確な影響を残した。

また本作は、原作読者のあいだで「R.A.B.」というイニシャルが何を意味するのかをめぐって長く議論を呼んだ作品でもある。続く『死の秘宝』で、それがレギュラス・アークトゥルス・ブラック(シリウス・ブラックの弟)の頭文字だったと明かされる、その伏線の起点となっているのだ。日本でも原作ファンを中心に、分霊箱の理論、破れぬ誓いの法則、そしてハーフ・ブラッド・プリンスの正体をめぐる考察が広く交わされた。続編公開までの「答え合わせ」の時間を、長く楽しませてくれる一作である。

批評・評価・文化的影響

舞台裏とトリビア

本作の冒頭に置かれた『ミレニアム・ブリッジ崩落』は、原作小説には存在しない映画版オリジナルの場面である。2000年に開通した現実のミレニアム・ブリッジが崩れ落ちるこのシークエンスは、闇の勢力がマグル世界へと侵食していく事態を視覚的に決定づけるために書き加えられた。終盤近くの『隠れ穴の炎上』も同様に原作にはない映画オリジナルで、原作におけるウィーズリー家の結婚式(後の『死の秘宝 PART1』に描かれる)へと接続する役割を担う。一方で家屋そのものは次作の冒頭で再び健在な姿として描かれた。本作のオリジナル要素を続編に持ち越さない、という制作陣の選択によるものである。

十六歳のトム・リドルを演じたフランク・ディレインは、舞台俳優ステファン・ディレインの息子であり、本作が長編映画の主要な役柄での初出演となった。十一歳のトム・リドル役を務めたヒーロー・ファインズ=ティフィンは、本編シリーズ後半でヴォルデモートを演じるレイフ・ファインズの甥にあたる。家族ならではの顔立ちの連続性が、その起用を後押しした。スラグホーンを演じたジム・ブロードベントは、本作での演技により第63回BAFTA英国アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされている。

本作の主要撮影の最中、ダニエル・ラドクリフは本シリーズと並行して舞台『エクウス』のロンドン公演を完走しており、撮影スケジュールは演劇の上演日程に合わせて細かく組み直された。デヴィッド・イェーツ監督はこの一作のあとも『死の秘宝 PART1/PART2』を手がけ、さらにスピンオフ『ファンタスティック・ビースト』シリーズの大半を担当することになる。こうしてイェーツは、本編シリーズ後半の語り口を一手に引き受ける存在となった。

舞台裏とトリビア

36テーマと解釈

本作の中心にあるのは「血と選択」というテーマである。十一歳のトム・リドルがダンブルドアに向かって「家族はいない」と言い放ち、棚に他人から奪った品を隠す癖を見せる。この場面は、のちに自らを七つに分けてまで生き延びようとする彼の選択の根を、孤児院の薄暗い棚の奥にそっと埋め込んでいる。一方、スネイプというもう一人の半純血の少年は、教科書の余白に母の旧姓「プリンス」を書きつけながら、トムとはまったく別の道で十代の屈辱をくぐり抜けてきた。二人の出自はほとんど鏡映しでありながら、選んだ道は決定的に違う——これこそが本作の最も静かな主張なのである。

もう一つの軸は、「誰かのために自分の手を汚す」ことの倫理だ。ナルシッサは息子のために旧友スネイプへ「破れぬ誓い」を強い、スネイプはその依頼を引き受ける。ダンブルドアは自らの死を後継者の手に託すため、ハリーに緑色の液体を飲ませる役を負わせる。ドラコは家族のために塔の上で杖を構えるが、最後の一歩をどうしても踏み出せない。誰の手も完全には清くない。だが、その不完全な手のなかにこそ、次の世代へ渡せるものがある——「誰かの代わりに何かを背負う」という主題を、本作はくり返し描き直していく。

そしてもう一つ、本作は「青春劇の終わり」というテーマを抱え込んでいる。クィディッチの観客席、共用談話室でのキス、ハーマイオニーの嫉妬、フェリックス・フェリシスがもたらした一日——どれもこのシリーズで「最後にもう一度だけ見られる」風景だ。観客はそれを楽しみながら、夜の塔と地下湖こそがこの世界のもう一方の現実であり、もはや避けようがないことを思い知る。だからこそ、最後に残されたロケットの紙片と、肩を寄せ合う三人を照らす朝の光が、シリーズの折り返し点として強く心に残るのである。

テーマと解釈

37見る順番

初見なら、本作は前作『不死鳥の騎士団』の直後に観るのが正解だ。冒頭のミレニアム・ブリッジや日刊予言者新聞の見出しは、前作で描かれた魔法省での戦いと『選ばれし者の予言』を前提にしている。それゆえ、本作だけを先に観るのは情報の面でも勧めにくい。

終盤のR.A.B.の偽ロケット、『学校に戻らない』というハリーの決意、そして三人組の絆。これらはいずれも、続く『死の秘宝 PART1/PART2』へほとんど切れ目なくつながっていく。本作を観た翌日には、そのままPART1へ進むのがおすすめだ。

公開順は『不死鳥の騎士団』→『謎のプリンス』→『死の秘宝 PART1』→『PART2』で、時系列もこの並びと一致する。スピンオフの『ファンタスティック・ビースト』シリーズはダンブルドアの若き日を描く別軸の物語であり、本作とは独立して楽しめる。

見る順番

38よくある質問

『あらすじだけ知りたい』という人は、次の六つの場面を順に押さえれば全体像がつかめる。ミレニアム・ブリッジの崩落と隠れ穴への襲撃、スピナーズ・エンドで交わされる破れぬ誓い、ホラス・スラグホーンの勧誘、謎の『プリンス』が書き込んだ教科書、フェリックス・フェリシスを用いた真の記憶の取得、海辺の洞窟と亡者、そして天文台の塔の上でスネイプがダンブルドアを撃つ——この六点である。

『ハーフ・ブラッド・プリンスとは誰か』。その答えは終盤に明かされる。ハリーの一年間を学業の面で救い続けてきた『プリンス』とは、若き日のセブルス・スネイプその人であり、名は彼の母の旧姓『プリンス』に由来する。教科書に書き込まれた数々の呪文を発明したのも、この男だ。

『R.A.B.とは誰か』は本作の時点では明かされず、続く『死の秘宝 PART1』へと持ち越される。映画では結末のロケットに残された紙片で初めてこのイニシャルが示され、次作への引きとして機能する。

『ダンブルドアはなぜスネイプに頼んだのか』『ドラコはどうなるのか』『分霊箱はあと何個残っているのか』——いずれも次作以降で順に明かされていく、本作に張られた伏線である。本作だけで結論を急がず、続編まで観たうえで振り返ってほしい。

39参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、および各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年や興行成績、制作・配信の状況、外部の評価は変動しうるため、視聴前に公式サイトや各データベースの最新情報を確認されたい。本記事の本文は、各種の公開情報をもとに、Anna Movies用の独自の日本語記事として構成したものである。

参考資料・出典 (6件)
  1. Wizarding World 公式作品ページ
  2. Wizarding World(旧Pottermore)公式
  3. Harry Potter Wiki(英語版)Harry Potter and the Half-Blood Prince (film)
  4. IMDb: Harry Potter and the Half-Blood Prince (2009)
  5. Rotten Tomatoes: Harry Potter and the Half-Blood Prince
  6. BAFTA: 2010 Film Awards