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ハリー・ポッター

ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密

ホッグズ・ヘッドの暖炉の前で、アルバス・ダンブルドアはニュート・スキャマンダーに告げる——『私はゲラートと戦えない』。少年期に交わした血の誓いに縛られた若きダンブルドアは、ニュート、テセウス、ジェイコブ、ラリー、ユスフ、バンティらの『計画なき計画』に未来を託す。双子のキリン、エルクスタッグ監獄のマンティコア、ブータン山頂の首席魔法戦士選挙、そしてアバーフォースが明かす『クリーデンス=オーレリアス』の真実までを描く、魔法ワールド前日譚シリーズ第3作。

媒体: 映画(実写) 米国公開: 2022年4月15日 日本公開: 2022年4月8日 監督: デヴィッド・イェーツ
ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密 公式ポスター

作品データ

作品
ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密
原題
Fantastic Beasts: The Secrets of Dumbledore
媒体
映画(実写)
米国公開
2022年4月15日
日本公開
2022年4月8日
監督
デヴィッド・イェーツ
脚本
J.K.ローリング/スティーヴ・クローヴス
製作
デヴィッド・ヘイマン、J.K.ローリング、スティーヴ・クローヴス、ライオネル・ウィグラム、ティム・ルイス
音楽
ジェイムズ・ニュートン・ハワード
撮影
ジョージ・リッチモンド
美術
スチュアート・クレイグ/ニール・ラモント
衣装
コリーン・アトウッド
編集
マーク・デイ
視覚効果
クリスチャン・マンズ/フレームストア/DNEG ほか
製作会社
ヘイデイ・フィルムズ/ワーナー・ブラザース
配給
ワーナー・ブラザース
上映時間
142分
製作費
約2億ドル
興行収入
全世界 約4億500万ドル
主要キャスト
エディ・レッドメイン/ジュード・ロウ/マッツ・ミケルセン/エズラ・ミラー/ダン・フォーグラー/アリソン・スドル/キャラム・ターナー/ジェシカ・ウィリアムズ/ウィリアム・ナディラム
時系列上の位置
ハリー・ポッター本編より約59年前、1932年前後
シリーズ
魔法ワールド前日譚シリーズ(『ファンタスティック・ビースト』)第3作
公式予告編は
劇場サイトで確認
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📖 全35章 / 約14K字 🔄 最終更新 2026年5月26日 ✍️ Anna Movies 編集部

『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』は、2022年に公開されたイギリス・アメリカ合作のファンタジー映画である。「ファンタスティック・ビースト」シリーズの第3作にあたり、『ハリー・ポッター』の前日譚として20世紀前半の魔法界を舞台とする。

かつて血の誓いを交わした宿敵グリンデルバルドと直接戦えないアルバス・ダンブルドアは、魔法動物学者ニュート・スキャマンダーら仲間に「計画なき計画」を託し、世界を掌握しようとするグリンデルバルドの野望に立ち向かう。

00概要

『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』(Fantastic Beasts: The Secrets of Dumbledore)は、デヴィッド・イェーツが監督を務め、2022年4月15日に米国で、それに先立つ4月8日に日本で公開されたファンタジー映画である。ワーナー・ブラザースの『魔法ワールド(Wizarding World)』前日譚シリーズの第3作にあたる。原作・原案を手がけるJ.K.ローリングと、『ハリー・ポッターと賢者の石』から『死の秘宝 PART2』まで本編映画全作の脚本を担ったスティーヴ・クローヴスが組んだ共同脚本で、シリーズ初の体制となった。

舞台は1932年前後。前作『黒い魔法使いの誕生』の結末で、アルバス・ダンブルドアとニュート・スキャマンダーが交わした密約から数年が過ぎている。ゲラート・グリンデルバルドはヨーロッパとアジアで信奉者を増やし、その影響力は国際魔法使い連盟(International Confederation of Wizards、以下ICW)の中枢にまで及んでいた。物語はホッグズ・ヘッド、ベルリン、エルクスタッグ監獄、ブータンの山頂、ニューヨークへと舞台を移し、首席魔法戦士(Supreme Mugwump)を選ぶ古代の儀式と、少年期に交わされた血の誓いという、二つの『縛り』をめぐって展開していく。

前作からの最大の変化は、グリンデルバルド役がジョニー・デップからマッツ・ミケルセンへと交代したことである。さらに新キャラクターも顔を揃えた。イルバーモーニー魔法学校の呪文学教授ユーラリー・『ラリー』・ヒックス(ジェシカ・ウィリアムズ)、ニュートの助手バンティ・ブロードエイカー(ヴィクトリア・イェイツ)、ホッグズ・ヘッドの主人アバーフォース・ダンブルドア(リチャード・コイル)、ICW会長アントン・フォーゲル(オリヴァー・マスッチ)、そしてブラジル代表候補ヴィセンシア・サントス(マリア・フェルナンダ・カンディド)。彼らの加入によって、群像劇としての厚みがいっそう増した。

本記事は結末を含む全編の内容に踏み込む。冒頭のホッグズ・ヘッドの密談、双子のキリンの誕生と強奪、ベルリンの選挙集会、エルクスタッグ監獄のマンティコア、ホッグズ・ヘッドでのアバーフォースの告白、ブータン山頂の選挙、血の誓いの破壊、そして結末の結婚式まで、順を追って解説していく。物語の重大な驚きを残しておきたい読者は、まず本編を鑑賞してから読み進めてほしい。

概要

主要データ

原題
Fantastic Beasts: The Secrets of Dumbledore
監督
デヴィッド・イェーツ
脚本
J.K.ローリング/スティーヴ・クローヴス
音楽
ジェイムズ・ニュートン・ハワード
撮影
ジョージ・リッチモンド
米国公開
2022年4月15日
日本公開
2022年4月8日
上映時間
142分
ジャンル
ファンタジー、冒険、群像劇、政治劇
主な舞台
1932年前後・ホグワーツ(ホッグズ・ヘッド)/中国・四川山岳地帯/ベルリン/エルクスタッグ監獄/ブータン/ニューヨーク
主舞台組織
国際魔法使い連盟(ICW)/英国魔法省/ドイツ魔法省/グリンデルバルド派

01あらすじ

以下は結末までを含む全編のあらすじである。物語は中国・四川の山中で、一頭のキリンが生まれる場面から幕を開ける。やがて舞台はホッグズ・ヘッドへと移り、アルバスがニュートに任務を託す密談が交わされる。そこからベルリンでの国際魔法使い連盟をめぐる政治工作、テセウスの逮捕とエルクスタッグ監獄からの救出へと展開し、再びホッグズ・ヘッドでアバーフォースがクリーデンスの真の血筋を明かす。さらにブータンの山頂では選挙が行われ、グリンデルバルドが復活させた偽のキリンによる欺きが暴かれていく。そして生き残った双子のキリンが真実の指導者を指名し、血の誓いが破壊され、最後はジェイコブとクイニーの結婚式へと至る。物語はこの流れを時系列で追っていく。

あらすじ

四川の山

幕開けの舞台は、中国・四川の山岳地帯である。足の不自由なキリン(中国の伝承に登場する神獣をモデルにした本作オリジナルの幻獣で、まっすぐな心を見抜く力を持つ)が出産を迎え、ニュート・スキャマンダーがその場に立ち会っている。母キリンは深い苦痛のなか、一頭の仔を産み落とす。だがその直後、グリンデルバルドの腹心キャロウ姉妹が率いる黒衣の魔法使いたちが現れ、母キリンを呪殺し、生まれたばかりの仔をさらっていく。

崩落する洞窟のなか、ニュートは決死の脱出を図る。だが彼はまだ知らない。この母キリンが宿していたのは『双子』だったのだ。一頭目を奪われた直後、母の遺骸からもう一頭の仔キリンが生まれ落ちる。ニュートはその二頭目をひそかに自らのスーツケースへ匿い、何食わぬ顔で英国へと戻る。『生き残ったもう一頭』の存在は終盤まで伏せられ、キリンが何頭いるのかは観客にも長く明かされない。

キリンは、本作で魔法ワールドに初めて導入された幻獣設定の白眉といえる。その出生に立ち会う冒頭のシークエンスは、『純粋な心を見る神獣』をグリンデルバルドが欲しがる動機を観客に強く印象づける。同時に、政治劇と幻獣譚というシリーズ二本の柱を、一頭の動物の上で交差させる役割を担っている。

四川の山

ホッグズ・ヘッド

舞台はホグズミード村のはずれにある酒場、ホッグズ・ヘッドへ移る。雪の降るなか、暖炉の前でニュートはアルバス・ダンブルドアと向かい合う。アルバスは「ゲラート・グリンデルバルドを止めなければならない、しかし私は彼と戦えない」と切り出す。少年期に自分とゲラートが交わした血の誓い(ブラッド・パクト)のせいで、互いに直接手を出せないというのだ。鎖の先で揺れる小さなガラスの容器——その血の誓いの結晶である。一方がもう一方を害そうとすれば、術者自身を逆に壊す。その仕掛けは、いまも生き続けている。

アルバスはニュートに、グリンデルバルドの予知能力を打ち砕くための「計画なき計画」を持ちかける。複数の人物がそれぞれの任務に分かれ、誰も全体像を知らないまま動く。そうすればグリンデルバルド派の予知者——クイニー・ゴールドスタインを含む——も一つの未来像を確定できず、選挙当日の動きを読みきれなくなる。これは映画の構造そのものを支える設計上の宣言でもある。後半で同時多発的に展開するシーケンスは、この「計画なき計画」が実行に移された姿として観客の前に立ち現れる。

ホッグズ・ヘッドの店主は寡黙な中年の魔法使いで、のちに重い意味を帯びる人物——アバーフォース・ダンブルドアである。アルバスの実弟であり、本編シリーズではこれまで名前だけが語られてきた。その彼が、本作で初めて映像として姿を見せる。黙々とグラスを磨くこの開幕の場面が、終盤の真実の告白へと向かう長い助走になっている。

ホッグズ・ヘッド

集結する仲間たち

ロンドンに着いたニュートは、英国魔法省のオーラー局長を務める兄テセウス・スキャマンダーと合流する。そこへ、ダンブルドアの招きを受けたイルバーモーニー魔法学校の呪文学教授ユーラリー・『ラリー』・ヒックスがアメリカから到着する。前作で記憶を消されたはずのマグル、ジェイコブ・コワルスキーは、ニューヨークでパン屋を再開していたところを訪ねられ、ダンブルドアから一本の杖——実際には魔力を持たない『杖もどき』——を授けられる。

杖を渡す理由は二つある。表向きは、マグル(ノー・マジ)であるジェイコブを魔法世界の任務に引き入れるための『役柄』を与えるためだ。もう一つの理由は、グリンデルバルドの予知能力を撹乱することにある。彼の未来視は『重要な人物』を中心に像を結ぶ。そこで本来なら無関係なマグルに杖を持たせ、重要人物らしく振る舞わせれば、敵の予知のなかで意図的にノイズとなって紛れ込める——これこそダンブルドアが仕掛けた最大の悪戯であり、本作のユーモアの源泉でもある。

ニュートの助手バンティ・ブロードエイカー、そして前作の生き残りであり、母を殺した過去とともに歩むユスフ・カマも合流する。一行は『誰も全体像を知らない』という前提を貫いたまま、別々の経路でベルリンを目指す。前作で疎遠になったティナ・ゴールドスタイン(演じるのはキャサリン・ウォーターストン)は、米国魔法議会での昇進により本作では出番が限られ、結末で短く戻ってくるにとどまる。

集結する仲間たち

ベルリン

舞台はベルリン。国際魔法使い連盟(ICW)の本部では、現職の首席魔法戦士ヴォーゲル会長が、欧州大陸で勢力を急速に広げるグリンデルバルドの処遇をめぐって揺れている。各国代表が居並ぶ大広間で、ICWは公の場での裁判を一切経ないまま、グリンデルバルドへの追及を取り下げると宣告する。アルバス・ダンブルドアは群衆にまぎれて無言でその裁定を見つめるばかりで、政治の力では何ひとつ止められない現実が、ここで観客に突きつけられる。

場外ではキャロウ姉妹がアバナシーらを率い、ヤコブ・コワルスキーを暗殺者に仕立てる罠を仕掛ける。部下たちの眼前で起きた未遂事件の責任を負わされたテセウス・スキャマンダーは、グリンデルバルド派が支配権を握りつつあるエルクスタッグ監獄へと移送される。法の手続きを巧みに利用し、敵の主力を一人また一人と削り取っていく。その手際の鮮やかさこそ、この章の見どころだ。

ベルリンの市街地では、ニュート、ジェイコブ、ラリーがそれぞれ別行動を取りながら、次々と仕掛けられる襲撃をかわしていく。ジェイコブが手にした杖もどきは、ラリーの介入によって、本人すら驚くほどの『破壊の閃光』を一度だけ放つ。魔法と非魔法を隔てる境界の曖昧さを、観客はあらためて思い知らされる。

ベルリン

エルクスタッグ監獄とマンティコア

テセウスを救い出すため、ニュートは弟だけが知る抜け道をたどってエルクスタッグ監獄へ忍び込む。冷たい石牢の地下深くには、毒針を持つ巨大な蠍状の幻獣マンティコアの群れが棲みつき、囚人ごと餌として与えられる仕組みになっている。ニュートは「マンティコアは横ばいの動きにしか反応しない」という生態の知識を活かし、テセウスとともに身を低くした奇妙な蟹歩きで群れのただ中を通り抜けていく。

本作で最も名高い単独場面が、この「マンティコアの群れのなかを兄弟が蟹歩きする」シーンだ。命懸けの状況にもかかわらず、寡黙な兄テセウスがニュートの背中越しにステップを真似ていく不器用な滑稽さが、観客に張りつめた笑いをもたらし、シリーズ屈指のミーム的名場面となった。ニュートはピケット(小さな緑のボウトラックル)の助けで地下水路の魔法錠を解き、二人はマンティコアの主からからくも逃れる。

脱出した兄弟はベルリン市街でアルバスとラリーに合流し、最終局面が間近に迫っていることを知らされる。ICWはグリンデルバルドが正式に首席魔法戦士候補として名乗りを上げることを認め、選挙はブータンの山頂で行われると発表する。

エルクスタッグ監獄とマンティコア

ホッグズ・ヘッド

選挙前夜、舞台は再びホッグズ・ヘッドへ戻る。ニュートはバンティと再会し、スーツケースの中に匿われていた『生き残った双子のキリン』を彼女に託す手筈を確認する。だが、店の鏡に伝言が浮かび上がる——『助けて、父さん』。差出人はクリーデンス(オーレリアス・ダンブルドア)だった。

ここでアルバスは弟アバーフォースとともに、これまで秘していた事実をニュートたちに明かす。クリーデンスを生んだのはアルバスではなく、彼の弟アバーフォースだった。若き日のアバーフォースが恋人とのあいだに儲けた子が孤児院をたらい回しにされ、姓を改めたうえで米国へ送られて『クリーデンス・ベアボーン』として育ったのである。前作でグリンデルバルドが告げた『お前はオーレリアス・ダンブルドアだ』は、半分の真実と半分の操作だった——血筋はダンブルドアだが、父はアルバスではなくアバーフォースであり、グリンデルバルドはその秘密を武器化してクリーデンスを操ってきた。

オブスキュラス(抑え込まれた魔力が宿主自身を食い破る暗黒の生命体)に長年蝕まれてきたクリーデンスは、もはや余命いくばくもない。アバーフォースは『連れて帰る』と低い声で漏らし、選挙の翌日、戦いがすべて終わったあとに息子を引き取ることを心に決める。本編シリーズで長く謎とされてきたアバーフォース・ダンブルドアの人物像が、家族として最も静かな形で立ち上がる場面である。

ホッグズ・ヘッド

クイニーの揺らぎとジェイコブ

前作でグリンデルバルド派に加わったクイニー・ゴールドスタインは、本作でもなお彼の陣営にとどまっている。だが、ジェイコブとの記憶が脳裏を離れることはない。グリンデルバルドが掲げる『純血優越』の思想と、自ら愛した非魔法族の男との結婚——その狭間で、クイニーの心は揺れ続ける。グリンデルバルドはそんな彼女の精神感応能力(レジリメンス)に目をつけ、敵陣の動きを読む予知装置として徹底的に利用していく。

ベルリンの市場でクイニーとジェイコブが偶然鉢合わせする場面、そしてグリンデルバルドの隠れ家で、自らの思考をジェイコブに悟られまいと必死に心を閉ざす場面。こうした描写が、彼女の離反へと向かう伏線として静かに積み重ねられていく。やがてグリンデルバルドは『お前の心の中にはあの男が居続けている』と冷たく言い放つ。そして選挙当日、クイニーは自らの意思で陣営を去る道を選ぶのだ。

クイニーの揺らぎとジェイコブ

ブータン山頂

選挙の舞台となるのは、ブータンの古都にそびえる山頂の聖域だ。雲海を見下ろす石舞台に、ICW(国際魔法使い連盟)加盟各国の魔法使いが集い、新たな首席魔法戦士を選ぶ古代の儀式『キリンの選択』が執り行われる。儀式そのものは単純である。候補者たちが石舞台に並び、キリンが連れ出されると、『最もまっすぐな心を持つ候補者』の前で身を伏せる。最後にキリンが頭を垂れた人物が、次の首席魔法戦士に選ばれるのだ。

候補に名を連ねるのは、アルバス・ダンブルドア、ブラジル代表ヴィセンシア・サントス、中国代表リウ・タオ、そしてICWが認めたゲラート・グリンデルバルド。冒頭で母から奪われた仔キリンはすでにグリンデルバルドの手に渡っている。彼は『黒の魔法(ネクロマンシー)』に近い術を用い、いったん殺したキリンを蘇らせ、自分の前にだけ頭を垂れるよう操っているのだ。蘇生されたキリンの目はうつろで、これがもはや生きてはいないことが、観客にそれとなく示される。

アバナシーが陰でリウ・タオを暗殺し、サントスは辞退、ダンブルドアも候補から外れる。残ったグリンデルバルドの前で『キリン』は深々と身を伏せ、群衆は雷鳴のような喝采で彼を新たな首席魔法戦士に選ぶ。グリンデルバルドは演壇へ進み出ると、笑みを浮かべたまま『これからの戦争はマグルとの戦いになる』と宣言する。

ブータン山頂

本物のキリンと血の誓いの破壊

勝利を宣言するさなか、ニュートが懐から取り出したのは、誰も存在を知らなかった「双子のもう一頭」だった。生きた本物のキリンが石の舞台に放たれると、群衆と候補者たちのあいだをゆっくりと歩み、迷うことなくアルバス・ダンブルドアの前で膝を折る。蘇生された偽のキリンもまた、最後に主の意志へ逆らうように真実の側へ顔を向け、グリンデルバルドの欺瞞は衆人環視のもとで暴かれる。

信奉者の一部はなおもグリンデルバルドに従おうとするが、彼は怒りに任せてアルバスへ呪文を放つ。アルバスも即座に応戦する。だが二人の杖から放たれた魔力は、互いのあいだに揺れる血の誓いの容器を介して激しく交差した。アルバスとゲラートは「互いに直接攻撃しない」という誓いの境界を踏み越えそうになる。その瞬間、おぼつかない足取りで駆け寄ったクリーデンスが二人のあいだに飛び込み、双方の杖と血の誓いの結晶を弾き飛ばす。

宙を舞ったガラスの容器は石の床に砕け、内に渦巻いていた血の絆が無数の光となって雪のように散る。少年の日の誓いが砕け散るその一瞬、アルバスとゲラートは互いを見つめ合う——もはや何の制約もなく、相手と戦える。だがどちらも、この場での最終決戦を選ばない。グリンデルバルドは敗者として静かに姿を消し、アルバスは弟と息子を抱き寄せるアバーフォースの肩に、そっと手を置くのだった。

本物のキリンと血の誓いの破壊

結末

舞台はニューヨークへと戻る。雪の降るなか、ジェイコブのパン屋ではささやかな婚礼の準備が整っていた。グリンデルバルド派から離れたクイニーが花嫁としてジェイコブの隣に立ち、姉のティナ・ゴールドスタインは米国魔法議会から駆けつけて立会人をつとめる。ニュート、テセウス、ラリー、バンティ、ユスフ、さらにアルバスとアバーフォースも顔をそろえ、前作で押収されたサンダーバードのフランクが、束の間ジェイコブのもとへ舞い戻ってくる——彼が記憶を消されたあの夜の和解を、そっと締めくくるように。

結婚式のあと、雪の五番街で、アルバスはひとりニュートに礼を述べる。『これまで何度ありがとうと言ったか分からない。だが、もう一度言わせてくれ』。背を向けて歩み去るアルバスを、ニュートは静かに見送る。最後のショットは、閉じたパン屋の扉と、雪のなかへ消えていくダンブルドアの後ろ姿。勝利と敗北が分かちがたく溶け合う余韻だけが、あとに残される。

グリンデルバルドはまだ完全に敗れたわけではない。だが少年期の誓いは砕け、息子は父のもとへ帰り、愛し合う二人はふたたび結ばれた。ここからアルバスとゲラートが正面から向き合う長い歳月が始まる——本編シリーズでたびたび語られる『1945年、アルバス対ゲラートの伝説の決闘』へと続く前史として、本作は静かに幕を下ろす。

結末
ここまでが全編のあらすじである。以降は登場要素、主要人物、舞台・用語、制作、公開と興行、批評、舞台裏、テーマ、補助ガイド、参考資料を順に解説する。

登場要素

本作に登場・言及される主な要素を、分類して紹介していく。固有名詞はシリーズを読み解く手がかりとなるが、初見ですべてを覚える必要はない。

  • ニュート・スキャマンダー
  • アルバス・ダンブルドア
  • ゲラート・グリンデルバルド
  • アバーフォース・ダンブルドア
  • クリーデンス・ベアボーン/オーレリアス・ダンブルドア
  • テセウス・スキャマンダー
  • ジェイコブ・コワルスキー
  • クイニー・ゴールドスタイン
  • ティナ・ゴールドスタイン
  • ユーラリー・『ラリー』・ヒックス
  • バンティ・ブロードエイカー
  • ユスフ・カマ
  • ヴィセンシア・サントス
  • リウ・タオ
  • アントン・フォーゲル
  • アバナシー
  • キャロウ姉妹(カルロウ姉妹)
  • ヴィンダ・ロジエ
  • ヘレナ/マクガビン助手
  • ホグワーツ卒業生・職員

  • キリン(双子の幻獣)
  • マンティコア
  • ピケット(ボウトラックル)
  • ニフラー(テディ)
  • サンダーバードのフランク
  • オブスキュラス(クリーデンスの内部)
  • ホッグズ・ヘッドの山羊
  • ベルリンの都市精霊(短いカット)

  • 血の誓い(ブラッド・パクト)
  • プリオリ・インカンタテム
  • アバダ・ケダブラ(未遂)
  • クルーシオ(過去言及)
  • アパレイト/ディスアパレイト
  • メモリーチャーム
  • 未確認の蘇生術(キリンに対する黒魔術)
  • 予知(クイニーとロジエ)

  • 杖(各キャラクター)
  • ジェイコブの杖もどき
  • 血の誓いの容器
  • ニュートのスーツケース
  • 魔法地図(ベルリン)
  • ホッグズ・ヘッドの伝言鏡
  • ICW議事杖
  • キリン捕獲用の鎖と檻

  • 四川の山岳地帯(中国)
  • ホグズミード村
  • ホッグズ・ヘッド酒場
  • ホグワーツの図書室・廊下
  • ロンドン魔法省
  • ベルリン(地下交通・市街・ICW本部)
  • エルクスタッグ監獄
  • ブータン山頂の聖域
  • ニューヨーク(コワルスキー・ベイカリー)

  • 国際魔法使い連盟(ICW)
  • 英国魔法省(オーラー局)
  • ドイツ魔法省
  • 米国魔法議会(MACUSA)
  • ホグワーツ魔法魔術学校
  • イルバーモーニー魔法学校
  • グリンデルバルド派

13主要登場人物

本作の登場人物たちは“計画なき計画”の駒として動き、それぞれが己の任務に意味を見いだしていく。物語の中心にあるのは、ダンブルドア兄弟が抱える沈黙、そしてジェイコブという“非魔法族(マグル)”を計画の要に据えた、逆説に満ちた布陣だ。

ニュート・スキャマンダー

本シリーズの語り手であり、前作までの内向的な魔法動物学者から、責任ある任務を背負うリーダーへと、わずかずつ歩を進めていく。本作のニュートが一人で担うのは、双子のキリンの片方を秘匿してブータンへ運ぶという「裏側の計画」だ。その全容は観客にも伏せられたまま、物語はクライマックスへと向かう。

兄テセウスとの兄弟関係も、本作を貫く大きな軸である。象徴的なのは、マンティコアの群れを蟹歩きですり抜ける場面だろう。寡黙な兄と不器用な弟が互いの専門領域に踏み込み、ぎこちなく信頼を確かめ合っていく。その描写は、作品の感情の中心の一つになっている。

ニュート・スキャマンダー

アルバス・ダンブルドア

本作で初めて、ハリー・ポッターの物語で語り継がれてきた若き日のアルバスとゲラートの関係が物語の中心に据えられる。少年時代に交わした血の誓いゆえに、アルバスは自ら剣を取ってゲラートと戦うことができない。そこで彼は、自分の代わりに動く者たちを集め、結果に直接手を下せない指揮官として振る舞うことになる。

ホッグズ・ヘッドで弟アバーフォースと向き合うときの沈黙、そして結末で雪の五番街をひとり歩む後ろ姿——本作のアルバスは勝者でありながら、何ひとつなし得なかった者でもある。ジュード・ロウは、静かな視線と長い沈黙によって、誰よりも雄弁に語る男を演じ切った。

アルバス・ダンブルドア

ゲラート・グリンデルバルド

前作のジョニー・デップに代わり、本作からマッツ・ミケルセンが役を引き継いだ。ミケルセン演じるグリンデルバルドは、デップ版の華やかな誇示とは対照的に、冷たい論理と知性を前面に押し出した造形だ。笑みを浮かべたままアバナシーに『お前は今、私を信じている』と告げる場面では、相手の心を見透かしつつ静かに掌握していく不気味さが際立つ。

本作の彼は、政治家として頂点に立とうとする男である。選挙という合法的な手続きを通じて、世界を掌中に収めようとするのだ。やがて、蘇生させたキリンを用いた詐術が暴かれる。その瞬間、表情から確信が剥がれ落ち、わずかに動揺がよぎる。抑制を効かせたミケルセンの芝居が、もっとも雄弁に語る一幕である。

ゲラート・グリンデルバルド

アバーフォース・ダンブルドアとクリーデ…

本作で初めて映像化されたアバーフォース・ダンブルドア。ホッグズ・ヘッドの寡黙な店主として淡々と店を切り盛りするが、終盤、自らがクリーデンス=オーレリアスの真の父であることを打ち明ける。山羊を愛する飾り気のない弟が、兄に対して長年抱え込んできた屈託。それでも血を分けた家族として、最後には兄の隣に立つ——その姿が、本作を家族劇として支える芯になっている。

クリーデンスがオブスキュラスに蝕まれ、もう長くは生きられない。その事実が、本作で初めて明かされる。前作で突きつけられたオーレリアスの名は、実はアバーフォースの息子としての血筋を指すものだった。半分だけの真実を巧みに利用したグリンデルバルドの策略——その犠牲となった彼は、結末でようやく父のもとへと帰り着く。

アバーフォース・ダンブルドアとクリーデ…

ラリー、バンティ、ジェイコブ、テセウス…

イルバーモーニー魔法学校の呪文学教授ユーラリー・『ラリー』・ヒックスは本作の新キャラクターで、ジェシカ・ウィリアムズの軽やかな芝居が群像に温度を与える。学者然とした聡明さと、戦闘の最中でも崩れないユーモアの均衡が、ジェイコブの最も近くで彼を支える役を担う。

バンティ・ブロードエイカーは、ニュートの助手として『生き残った双子のキリン』をスーツケースで運ぶ大役を果たす。映画の中盤までは地味な存在に見える彼女が、結末でその意義を明かされる構造は、ローリングらしい伏線回収である。テセウス・スキャマンダーはエルクスタッグ監獄の場面で兄としての弱さと強さを同時に見せ、ユスフ・カマは前作の血の宿命から自由になる選択を選ぶ。

そしてジェイコブ・コワルスキー。本作の最大の発明は、マグル(ノー・マジ)である彼を、敵の予知を撹乱する『重要人物』として動かしたことである。役柄としての杖を握ったジェイコブが、ベルリンの市街で本当に魔法じみた閃光を放ってしまう場面は、シリーズが繰り返し描いてきた『境界線の意味のなさ』を象徴する。

ラリー、バンティ、ジェイコブ、テセウス…

舞台と用語

本作の舞台は、前作までよりも視覚的に静かで、政治的にはより切迫している。ジャズ・エイジに沸く華やかなニューヨークや、前作の灰色のパリに代わり、物語の中心となるのは雪のホッグズ・ヘッド、ベルリンに建つ石とガラスのICW本部、そしてブータンの雲海といった『公的な場』だ。装飾を抑えた美術が、討議と選挙という地味な行為を画面の中心に据える助けとなっている。

用語の面で観客が押さえておくべき主要な仕掛けは、首席魔法戦士(Supreme Mugwump)と国際魔法使い連盟(ICW)の選挙手続き、血の誓い(ブラッド・パクト)の作用、新たな幻獣キリンの性質、そしてオブスキュラスがもたらす『宿主を内側から焼く』性質である。いずれも劇中で短く説明されるが、本作のクライマックスはこの三つの装置が交差して成り立っているため、初見では一度の鑑賞だけですべてを把握しきれないことも多い。

舞台と用語

20制作

シリーズ第3作の制作は、二つの大きな逆風を抱えて動き出した。前作に向けられた批判的な反応、そしてキャストの大幅な入れ替えである。ここでは企画から特撮に至るまでの主な経緯を順を追って整理していく。

制作

企画と脚本

脚本は、前2作で単独執筆を担っていたJ.K.ローリングと、ハリー・ポッター本編全8作(『不死鳥の騎士団』を除く)の脚本を手がけたスティーヴ・クローヴスの共同執筆となった。前作『黒い魔法使いの誕生』は物語の複雑さと情報量の多さで賛否を二分した。これを受け、本作はクローヴスが得意とする観客の辿りやすい一本道の動線に、ローリングの伏線設計を組み合わせる方針へと切り替えられた。

結果として本作は、前作から持ち越された複数の謎を一つずつ解きほぐしていく。クリーデンスの正体、血の誓いの意味、ティナとニュートの関係。そのどれもが順に整理され、物語はやがて二人の宿敵がついに直接対峙する、その手前まで進む。シリーズの宿題を消化するような構成へとまとめられたのである。当初は5部作として構想されていたが、本作の興行結果を受け、計画は事実上3部作で止まることになった。

キャスティング

本作最大の話題は、グリンデルバルド役の交代である。前作までジョニー・デップが演じてきたが、私生活をめぐる訴訟を背景に、デップは本作からの降板を発表した(公式には「辞任要請に応じた」とされる)。代役に起用されたのは、デンマーク出身のマッツ・ミケルセン。『007 カジノ・ロワイヤル』『ハンニバル』『アナザーラウンド』などで知られる実力派だ。

ミケルセンは「デップ版を真似ない」ことを起用の条件としていたと報じられる。長髪を切り、二色の異なる瞳とブロンドの髪はそのままに、所作も声も笑い方も全面的に作り直した。公開当初こそ観客の戸惑いは大きかったが、ミケルセン版がたたえる静かな威圧感は次第に好意的に受け止められ、シリーズ屈指の知的な悪役として評価を確立していった。

主要キャストはエディ・レッドメイン、ジュード・ロウ、エズラ・ミラー、ダン・フォーグラー、アリソン・スドル、キャラム・ターナー、ウィリアム・ナディラム、ヴィクトリア・イェイツが続投。新たにジェシカ・ウィリアムズ(ラリー)、リチャード・コイル(アバーフォース)、オリヴァー・マスッチ(フォーゲル)、マリア・フェルナンダ・カンディド(サントス)、ダヴェ・ラム・パン(リウ・タオ)が加わった。一方、キャサリン・ウォーターストン演じるティナの登場は、本作では短いものにとどめられている。

キャスティング

美術と衣装

美術は、ハリー・ポッター本編からシリーズ全作を支えてきたスチュアート・クレイグが中心となり、ニール・ラモントとの共同で手がけた。ホグワーツのホグズミード村、ICWの巨大な議事堂、エルクスタッグ監獄、ブータンの山頂聖域と、対照の強い舞台を行き来する物語だけに、それぞれの空間を彩る素材——石、ガラス、雪、雲——の質感を描き分けることに力が注がれた。

衣装はコリーン・アトウッドが続投した。グリンデルバルドの単色のロングコート、ダンブルドアの暗色のスリーピース、ラリーの旅装と教師服の中間をいくような軽やかな上着。人物の立場をひと目で伝える『線』を際立たせるシルエットでまとめている。とりわけグリンデルバルドの衣装は、ミケルセン版の硬質な顔立ちに合わせて装飾を限界まで削ぎ落とし、宗教的指導者にも軍服にも見える両義的な造形に仕上げた。

視覚効果と幻獣造形

視覚効果はクリスチャン・マンズが統括し、フレームストア、DNEG、ロデオFXといった複数のVFXハウスが分担して手がけた。本作のために新たに造形された目玉は、双子のキリンと、地下に棲むマンティコアの群れである。キリンは中国伝承の麒麟をモチーフとし、馬とドラゴンと羊の中間を思わせる優美な体躯を与えられた。瞳が魂の純度を映すという設定もあり、それを視覚化するため、ライティング設計が細部まで丁寧に練られている。

マンティコアの群れは、撮影現場では低い棚と簡易マーカーだけを頼りに演じられ、後の工程でフルCGに置き換えられた。マンティコアは「横ばいの動きにしか反応しない」という生態を持つ。これがニュートとテセウスの蟹歩きという身体を張った演技を成立させる装置として作り込まれ、生態の描写とアクションの設計を分かちがたく結びつけている。

音楽と音響

音楽はシリーズ3作を通じてジェイムズ・ニュートン・ハワードが続投する。ジョン・ウィリアムズの『ヘドウィグのテーマ』を本作でも控えめに引用しながら、グリンデルバルドの主題、ニュートとキリンの主題、ジェイコブの結婚式を彩る柔らかなワルツ、さらにアルバスとアバーフォースの兄弟を描く主題が新たに書き起こされた。

音響面では、エルクスタッグ監獄に潜むマンティコアの息遣い、ブータンの山頂を渡る風と雲海の遠い反響、ホッグズ・ヘッドの暖炉で薪が爆ぜる音といった環境音の静けさが、映画全体の落ち着いた呼吸を支えている。喧騒に満ちた前作とは対照的に、本作は意図して静かな音場で組み上げられた。終盤、血の誓いが砕け散るガラスの音だけが鮮烈に立ち上がる構造である。

撮影とロケ

撮影監督は、前2作のフィリップ・ルースロから、『キングスマン』『1917 命をかけた伝令』のジョージ・リッチモンドへと交代した。撮影は2020年9月、ロンドン郊外のワーナー・ブラザース・スタジオズ・リーブスデンで始まったが、新型コロナウイルスの感染拡大により中断と再開を繰り返した。舞台はベルリンの市街での屋外撮影から、四川の山岳地帯を想定したスタジオ撮影、さらにブータンの山頂を模した大規模な屋外セットへと移っていった。

前2作が華麗な広角構図を持ち味としたのに対し、リッチモンドは人物の顔や手の細部に寄る視線で本作を撮った。政治劇と家族劇、その比重を画面構成からも明確に描き分けている。雪の降るニューヨーク五番街を捉えた結末のショットは、屋外の大型セットと光学合成によって作り上げられた。

編集

編集はシリーズ続投のマーク・デイが手がけた。本作の上映時間は142分とシリーズ最長級だが、前作のように一場面で複数の謎を同時進行させる構成は改められている。一章ごとに、今は誰が何のために動いているのか、観客が見失わない並びへと組み替えた点に重きが置かれた。

クライマックスとなるブータン山頂の選挙シーン。当初の編集では選挙の手続きを長く追う構成だったが、最終版では儀式と政治、そして家族の対面を交互に切り返す、より引き締まった並びへと詰められたという。血の誓いの容器が砕け散る瞬間のスローモーション処理も、編集段階での試行を重ねた末に決定されたものだ。

28公開と興行

本作はもともと2021年11月の公開を予定していた。しかし新型コロナウイルス感染症の世界的な流行に加え、製作の中断と再開、編集スケジュールの調整が重なり、公開は2022年春へと後ろ倒しになった。日本では2022年4月8日に先行公開され、米国では4月15日のイースター・ウィークエンドに封切られている。

全世界興行収入は約4億500万ドル。製作費の約2億ドルと照らし合わせると、シリーズで最も振るわない成績に終わった。背景には複数の要因が指摘されている。新型コロナの影響、長期化したシリーズへの観客の疲れ、前作をめぐる論争、グリンデルバルド役の交代への戸惑い、そして配信プラットフォームへの早期投入である。受賞・候補は技術系の各賞ノミネートが中心で、視覚効果と美術が改めて高い評価を受けた。

こうした興行的な結果を受け、当初構想されていた『5部作』はワーナー・ブラザース側の判断で続編がいったん保留となり、シリーズは事実上3部作のまま休止する形となった。『ハリー・ポッター』本編へとつながる接続点、すなわち1945年のアルバス対ゲラートの決闘は、現時点では将来の続編に委ねられている。

公開と興行

29批評・評価・文化的影響

批評の傾向は、前作の混乱を整理した「修正回」として概ね好意的だったが、その一方で「静かすぎる」「盛り上がりに欠ける」との指摘も少なくなかった。公開直後から高く評価されたのが、マッツ・ミケルセン演じるグリンデルバルドである。シリーズに「静かな悪」という新たな質感を持ち込んだと評された。観客の評価は批評よりも一段高く、なかでもダンブルドア兄弟の物語と、マンティコアの蟹歩きシーンが繰り返し語られた。

文化的な影響も大きい。双子のキリンは魔法ワールドの新たなアイコン的生物として定着し、テーマパークやグッズへと展開された。マンティコアの蟹歩きはミーム化し、ニュートとテセウスの兄弟関係を象徴する一場面として独り歩きしている。一方、興行の落ち込みとシリーズの停滞は、現代のフランチャイズ映画における「前日譚を何作続けられるか」という問いを、業界全体に投げかける結果となった。

舞台裏とトリビア

脚本に共同名義でスティーヴ・クローヴスが加わったのは、本シリーズで本作が初めてである。クローヴスは『ハリー・ポッター』本編で『不死鳥の騎士団』を除く全作の脚本を手がけてきた。本作への参加により、実質的に魔法ワールド映画シリーズの主要作品すべてに関わったことになる。

グリンデルバルド役の交代にあたり、マッツ・ミケルセンは前任のジョニー・デップに敬意を示しつつ、『デップ版を再現しない』方針を明言した。製作陣もこれを後押ししている。杖の握り方、視線の置き方、笑いを引く間の取り方――いずれもハンニバル・レクター役での経験を踏まえ、まったく別の悪役像として一から組み立てられた。

ニュートとテセウスが繰り広げる蟹歩きのシークエンスは、エディ・レッドメインとキャラム・ターナーが現場で振付を二人で練り上げたと伝えられる。レッドメインが監督から事前に受けた指示は、『マンティコアの正面では絶対に立ち上がらない』という一点のみ。兄弟役の二人はこのルールだけを守り抜いた。

中国の伝承に登場する瑞獣『麒麟』をモチーフにしたキリン(Qilin)は、本作で生み出された生き物である。英語圏では『kee-lin』に近い発音で統一された。劇中の鳴き声は複数の鹿・羊・馬の声を合成し、最後にピアノの一音を重ねて仕上げたという。

ブータンの山頂にある聖域は、現地ロケではなく、英国内のスタジオ屋外セットと既存の山岳ロケ素材を合成して築かれている。雲海を見下ろす俯瞰ショットは、別撮りのドローン素材を土台に、群衆と石舞台をデジタル合成して完成させた。

31テーマと解釈

本作の中心テーマは『縛り』である。少年期に交わした血の誓い、首席魔法戦士を選ぶ古代の儀式、グリンデルバルド派が振りかざす『純血優越』、そしてダンブルドア家が抱える血縁の秘密——どれもが、人を縛ると同時に守るルールとして描かれる。これらの縛りが順に砕け、緩み、結び直されていく。物語はその過程として読み解ける。

もう一つの軸は『計画なき計画』だ。アルバスが掲げる『誰も全体像を知らないまま動く』という戦略は、グリンデルバルドの未来視という最強の武器をかえって弱点に変える知略であり、同時に群像劇という映画の構造そのものへの自己言及にもなっている。観客はジェイコブが杖もどきで何をやらされているのか最後まで完全には飲み込めず、ニュートが二頭目のキリンを匿っていることもクライマックスまで知らされない。観客自身が『計画なき計画』のただ中に置かれる——その体験こそが、本作の主題と重なり合う。

そして最も静かな主題が『家族』である。ホッグズ・ヘッドで対峙する三人のダンブルドア——アルバス、アバーフォース、そして長く失われていた息子クリーデンス。この場面は、世界の趨勢を決める選挙の前夜にあえて差し込まれ、政治劇の規模を最終的に一つの家庭の和解へと収束させる役割を担う。マグルのジェイコブと魔法使いクイニーの結婚式が、世界の運命を分かつ選挙ではなく『二人が再び並ぶ』ことで物語の幕を引くのも、この主題の延長線上にある。

テーマと解釈

32見る順番

本作は『ファンタスティック・ビースト』前日譚シリーズの第3作であり、前2作『魔法使いの旅』(2016)と『黒い魔法使いの誕生』(2018)の続きとして書かれている。クリーデンス=オーレリアスの真の血筋、ジェイコブとクイニーの再合流、ティナの不在、血の誓いの存在――こうした物語の前提は前2作で描かれてきた。未見ならば、まず公開順に追うほうが格段に分かりやすい。

ハリー・ポッター本編とのつながりという点では、本作のあとに『賢者の石』から本編8作へと進むのが最も整った流れだ。ただ、本編を先に観てから前日譚に戻る順番でも構わない。ダンブルドア兄弟の関係性に新たな光が当たり、十分に見応えのある体験となる。

見る順番

33よくある質問

『あらすじだけ知りたい』という人は、双子のキリンの誕生と片方が強奪される一件、ブータンの山頂で行われる選挙、グリンデルバルドの詐術が暴かれる場面、血の誓いが砕ける瞬間、そしてジェイコブとクイニーが結ばれる結末——この5点を押さえておけば十分だ。『結末・ネタバレを知りたい』という人にとっては、クリーデンスがアバーフォースの実子だったという真相と、アルバスとゲラートがついに直接対決できる状態へと解き放たれたという二点が、本編シリーズへの最大の橋渡しとなる。

『なぜグリンデルバルドの俳優が変わったのか』。本作の前後で繰り返し問われてきた論点である。背景には、前任ジョニー・デップの私生活をめぐる訴訟と、ワーナー側からの辞任要請があった。後を継いだマッツ・ミケルセンは『前任を真似ない』という方針を貫き、まったくの別人として役を演じている。では『シリーズはこの後どうなるのか』。興行結果を受け、当初構想されていた5部作はいったん中断され、続編は未定のままだ。

34参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年や興行、制作・配信の状況、外部からの評価は変動しうるため、視聴の前に公式サイトおよび各データベースの最新情報を確認されたい。本記事の本文は、各種の公開情報をもとに、Anna Movies独自の日本語記事として構成したものである。

参考資料・出典 (5件)
  1. Wizarding World 公式作品ページ
  2. Wizarding World 公式
  3. Harry Potter Wiki: The Secrets of Dumbledore
  4. IMDb: Fantastic Beasts: The Secrets of Dumbledore (2022)
  5. Warner Bros. Pictures 公式