クィディッチ・ワールドカップの夜空に「闇の印」が立ち上り、百年ぶりに復活した三大魔法学校対抗試合の炎のゴブレットが、入っていないはずのハリーの名を吐き出す。ドラゴン、湖、生垣の迷宮——三つの課題の果てに待っていたのは、ヴォルデモート卿の肉体での復活と、一人の生徒の理不尽な死だった。
シリーズ初の英国人監督マイク・ニューウェル(『フォー・ウェディング』『ドニー・ブラスコ』)が舵を取り、音楽はジョン・ウィリアムズの主題を引き継いだパトリック・ドイルが新たに作曲。ワーナー・ブラザース/ヘイデイ・フィルムズ製作、上映時間157分。原作小説のうち、最も長い1冊を一本の映画にまとめ上げた挑戦作。
1994年夏のクィディッチ・ワールドカップから1995年初夏までを描き、本編シリーズ7年間の第4学年にあたる。前作『アズカバンの囚人』の青春劇から一気に空気が変わり、闇の印の出現、ヴォルデモートの肉体復活、生徒の死という重い出来事を通じて、シリーズ後半の戦争の物語へ橋を架ける。
2005年世界興行収入第1位を記録し、本編シリーズ8作のなかでも上位の数字を残した。第78回アカデミー賞では美術賞、第59回BAFTAでも美術賞にノミネート。原作の取捨選択を巡って原作ファンの議論を呼びながらも、暗く陰影の濃い演出が映画評として高く評価された。
リドル屋敷の冒頭、闇の印、炎のゴブレットによるハリーの選出、ドラゴン/湖/迷宮の三課題、優勝杯の正体、リトル・ハングルトンの墓場、優先呪文の現象、マッド=アイ・ムーディの正体=バーティ・クラウチ・ジュニア、そしてセドリック・ディゴリーの死まで、重大ネタバレを前提に踏み込む。
目次 38項目 開く
概要
『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(Harry Potter and the Goblet of Fire)は、マイク・ニューウェルが監督し、2005年11月18日に英国・米国で、同年11月26日に日本で公開されたファンタジー映画である。J.K.ローリングの同名長編小説(2000年刊)を原作とし、前作『アズカバンの囚人』(2004)に続く本編シリーズ第4作にあたる。脚本はシリーズの大部分を担当するスティーヴ・クローヴスが続投し、製作はデヴィッド・ヘイマン、配給はワーナー・ブラザースが担った。原作は本編七冊のなかでも特に分厚い一冊で、それを一本の映画にまとめるため、本作は副筋や脇役の描写を大胆に圧縮し、主軸となる三課題と最終盤の墓場の出来事に焦点を絞っている。
物語は、英国中部リトル・ハングルトンに残る古いリドル家の屋敷で始まる。誰もいないはずの邸内に灯る火と、家政管理人フランク・ブライスを直視する一対の冷たい目——これがシリーズの空気を決定的に変える幕開けとなる。続く夏休み、ハリーはウィーズリー家に迎えられ、ロン、ハーマイオニー、ウィーズリー家の面々とともに国際的な競技会クィディッチ・ワールドカップの決勝戦へ向かう。観戦後の夜、キャンプ場の頭上に立ち上る緑色の髑髏と蛇——『闇の印(モースモードル)』が、ヴォルデモートの旧来の信奉者『死喰い人(デスイーター)』の影を、十三年ぶりに国際舞台へ呼び戻す。
学校に戻ったハリーを待ち受けるのは、百年ぶりに復活する『三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)』である。ホグワーツ、ボーバトン魔法アカデミー、ダームストラング専門学校——それぞれの代表一名を、人工物にして審判役の魔法器物『炎のゴブレット』が選び出す。ところが、出場資格年齢に達していないはずのハリーの名が、四人目の選手として吐き出される。ハリー自身は応募していない。誰かが、ハリーを意図的にこの試合に巻き込んだのだ——その『誰か』の正体は、すべての課題が終わった後、墓場での儀式と一本の杖の対決を経て、ようやく観客の前に晒される。
本作はシリーズの転換点として位置づけられる。前三作の青春劇調の明朗さを残しつつ、本作の終盤で映画はヴォルデモートの肉体復活、生徒セドリック・ディゴリーの理不尽な死、魔法省の組織的な隠蔽という三つの重い出来事を観客の前に置き、続く『不死鳥の騎士団』以降の戦争の物語へ完全に切り替わる。本記事は結末を含む全編の内容に踏み込む。優先呪文(プライオリ・インカンテイタム)でハリーの両親の影が現れる場面、バーティ・クラウチ・ジュニアの正体、ヴォルデモートの復活の儀式の手順までを記すため、初見で物語の驚きを保ちたい読者はまず本編を鑑賞してから読み進めることを勧める。
- 原題
- Harry Potter and the Goblet of Fire
- 原作
- J.K.ローリング(2000年・ブルームズベリー)
- 監督
- マイク・ニューウェル
- 脚本
- スティーヴ・クローヴス
- 音楽
- パトリック・ドイル
- 撮影
- ロジャー・プラット
- 美術
- スチュアート・クレイグ
- 編集
- ミック・オーズリー
- 公開
- 2005年11月18日(米英)/11月26日(日本)
- 上映時間
- 157分
- ジャンル
- ファンタジー、青春劇、ミステリー、ダーク・ファンタジー
- 舞台
- 1994-1995年の英国(リトル・ハングルトン/隠れ穴/クィディッチ会場/ホグワーツ城/リトル・ハングルトン墓地)
あらすじ
以下は結末までを含む全編のあらすじである。リドル屋敷の冒頭、クィディッチ・ワールドカップ、闇の印の出現、炎のゴブレットによるハリーの選出、不死鳥の杖の主と並ぶ四人の代表、ドラゴンの一戦・湖の一戦・生垣の迷宮、優勝杯の罠、リトル・ハングルトンの墓場におけるヴォルデモートの儀式、優先呪文によって立ち現れる影たち、マッド=アイ・ムーディの正体=バーティ・クラウチ・ジュニア、そしてセドリック・ディゴリーの追悼までを順に追う。
リドル屋敷とフランク・ブライス
映画は、英国中部のさびれた村リトル・ハングルトンの丘の上に残る、廃屋寸前の大邸宅から始まる。蔦に覆われた窓のひとつに、本来灯るはずのない光が滲んでいる。村でただ一人この屋敷を管理し続けてきた老いた家政管理人フランク・ブライスは、長年杖を片手に歩く戦傷を引きずりながら、その夜も様子を見に屋敷の扉を押し開ける。
暖炉のそばの肘掛け椅子に、誰かが背を向けて座っている。床には太く黒い大蛇——後に観客がナギニと知る生き物——が、絨毯の上をうねりながら椅子の脚へ巻きついていく。椅子の背後では小柄な男ピーター・ペティグリュー(ワームテイル)が、震える両手で釜と杖を扱い、何かを煮ている。フランクは扉の蝶番に立ったまま、椅子の住人が誰かに尋ねるのを聞く。『そこにいるのは誰だ、ナギニ』。
椅子の中の声は、人のものとは思えぬほどしわがれ、しかし鋭利な意志を湛えている。フランクが姿を見せると、椅子は緩やかに回転する——観客にはまだ全身は見えない。子どもほどの大きさにしぼんだ青黒い体、皮膚の薄い顔。ハリー・ポッター以前のヴォルデモート卿の、もはや人ですらない『仮の肉体』だった。彼は短く、『この男はもう必要ない』と告げる。緑の閃光が走り、フランクは床に崩れ落ちる。映画館は静まり返り、ここから物語の空気は一気に冷える。
舞台はホグワーツ近郊、ウィーズリー家『隠れ穴』へ移る。同じ夢を見て飛び起きたハリー・ポッターは、額の古傷を押さえて荒い息を整える。リドル屋敷で起きたことは『夢』ではなかった——その確証が観客の側に置かれたまま、ハリーは何も知らずに友人たちのもとへ降りていく。
クィディッチ・ワールドカップ第422回大会
ハリーはウィーズリー家の面々とハーマイオニーに合流し、夜明け前の野原で、片足のもげた古い長靴に手を触れる。アーサー・ウィーズリーが用意した『移動キー(ポートキー)』である。掌が長靴に吸いつき、世界がねじれ、一行は数百キロ離れたクィディッチ・ワールドカップ会場の上空へ放り出される。決勝戦の対戦カードはアイルランド対ブルガリア。会場は数十万人収容の巨大なすり鉢状スタジアムで、観客席の最上段までを覆う緑と赤の色とりどりのテントの海が、観客にこの世界の規模感を一息で示す。
貴賓席で一行を迎えるのは、魔法大臣コーネリウス・ファッジ、そして魔法ゲーム・スポーツ部長ルード・バグマンである。ブルガリア代表のスター選手は、若くして世界的名声を得たシーカー、ヴィクトール・クラム。アイルランド側はベテランのチェイサー陣とシーカー、エイダン・リンチ。試合はアイルランドのチェイサー陣が得点を重ねるなか、クラムが空中で『ヴロンスキー・フェイント』を披露し、急降下と急上昇で観客を絶叫させる。最終的にクラムが金のスニッチを掴むが、点差を覆せず、アイルランドが優勝杯を手にする——『負けた側のシーカーが試合の最後に華を奪う』という珍しい結末が、本作のスポーツシーンの白眉となる。
映画ではクィディッチの試合そのものはすぐにフェードアウトし、原作で描かれる試合の細部の多くは省かれている。ただし、観客席のそばで子どものように飛び上がるロン、ふくれ面のハーマイオニー、興奮を抑えきれないハリーの三人の顔は丹念にとらえられ、シリーズの三人組がもう子どもではなく『若者』になりつつあることが、台詞ではなく所作で示される。
闇の印——キャンプ場の襲撃
試合の余韻でテント村が眠りに落ちた深夜、遠くから歓声とは違う叫び声が押し寄せる。仮面と黒いローブをまとった一団——後にハリーが正体を知る『死喰い人』の残党——が、マグルのキャンプ管理人一家を宙吊りにし、酔った勢いで火を放ちながらキャンプ場を蹂躙していく。アーサーは『逃げろ、森へ走れ』と子どもたちを叩き起こし、自身は他の魔法省職員と防衛に回る。
ハリー、ロン、ハーマイオニーは黒い森のなかで離れ離れになる。気を失ったハリーが目を覚ますと、森の梢の上に、緑の煙でできた巨大な髑髏と、その口から這い出すように伸びる蛇——魔法界がもっとも恐れる象徴、ヴォルデモートと死喰い人の『闇の印(モースモードル)』——が、月のかわりに夜空を占領していた。
印を上空に放った何者かを追って、魔法省の即応部隊が現れる。職員に首根っこを掴まれた三人組のすぐそばで、藪の影に倒れていた小柄な家しもべ妖精ウィンキー——魔法ゲーム部のバーティ・クラウチ・シニア家に仕える妖精——が、ハリーの杖を握ったまま発見される。状況証拠だけでウィンキーが疑われ、クラウチ・シニアは公衆の面前で彼女を解雇する。ハリーの杖は『闇の印』を放った杖ではないかと検査され、後の杖検査の結果『闇の印を放った杖』はハリーのものだったと判明する——杖を盗み、闇の印を空に走らせた『何者か』の影が、観客に対しても示唆される。クィディッチ・ワールドカップは観客の歓声でなく、悲鳴と緑の煙の記憶で締めくくられる。
三大魔法学校対抗試合の発表
九月一日、ホグワーツ城の大広間でアルバス・ダンブルドアは大きな発表を行う。今年、欧州の魔法学校の伝統行事『三大魔法学校対抗試合』が、百年以上ぶりに復活する。ボーバトン魔法アカデミー(フランス/南欧)とダームストラング専門学校(北欧/東欧)が、それぞれの代表団を率いて来訪し、ホグワーツが今年度の開催校となる。生徒たちの歓声と緊張のなか、ダンブルドアは『この試合は、ただの娯楽ではない。命に関わる危険を伴う』と断り、出場資格を満17歳以上の生徒に限定する『年齢線(エイジ・ライン)』が引かれることを告げる。
夕食の場面に、二校の代表団が劇的な入場を演じる。ボーバトンの女生徒たちはパステル・ブルーの制服で大広間の天井に蝶を放ち、巨人の血を引く校長マダム・マクシームに導かれ、最後尾にはヴィーラ(魅惑の魔法種族)の血を引く女生徒フラー・デラクールが歩く。続いてダームストラングの男子生徒団が、棒術の演舞と火の演出で大広間を蹂躙する。一団のなかには、夏に観たばかりのクィディッチのスター選手ヴィクトール・クラムがいる。校長は、闇の魔法使いと噂され続ける厳しい目つきの男イゴール・カルカロフだった。
新任の『闇の魔術に対する防衛術』教師は、退役オーラー(闇祓い)アラスター・『マッド=アイ』・ムーディ。回転する魔法義眼、深い古傷、ステッキを引きずる足音、フラスコから絶えず吸引する飲み物——彼の登場は、シリーズの新任DADA教師の系譜のなかでも特に強烈である。最初の授業でムーディは、闇魔法に対する『最も基本的な防衛は何か』ではなく『最も恐るべき攻撃の三つの呪文』を生徒たちに直接見せる方針を取り、机の上の蜘蛛に対して『服従の呪文(インペリオ)』『苦痛の呪文(クルーシオ)』『死の呪文(アバダ・ケダブラ)』——魔法社会が禁ずる『許されざる呪文』三つを、教室の生徒たちの目の前で実演してみせる。リフトされた蜘蛛がアバダ・ケダブラの緑の閃光で動かなくなる場面では、ハリーの額の傷が痛みに反応する。
炎のゴブレットと四人目の代表
大広間中央に、青く燃え続ける古い大杯——『炎のゴブレット(ザ・ゴブレット・オブ・ファイア)』が据えられる。立候補者は自分の名を紙に書き、青い火に投げ入れる。立候補の期間が終わると、ゴブレットの炎は赤く燃え変わり、各校の代表として相応しい一名を、ゴブレット自身が選び出す。
ハロウィン祭の夜、大広間の灯が消され、ゴブレットの火が一段と高く立ち上る。最初に飛び出した紙片に書かれていたのはセドリック・ディゴリー——ホグワーツのハッフルパフ寮の最上級生で、品のある成績優秀者であり、夏のクィディッチで活躍した模範生だった。続いて、ボーバトンの代表フラー・デラクール、ダームストラングの代表ヴィクトール・クラム。三人の代表が並び、対戦表が確定したかに見えたその瞬間、ゴブレットの火が再び荒々しく立ち上り、四枚目の紙片が宙へ飛び出す。ダンブルドアの手のひらに落ちたその名は——『ハリー・ポッター』。
ハリーは応募していない。応募できる年齢にも達していない。だが、ゴブレットは魔法的に拘束力のある選定装置であり、出てしまった名は『契約』として扱われる。教員たちは校長室で言い争うが、結論は変わらない——ハリーは、出場せざるを得ない。四人の代表が並んだとき、ダームストラング校長カルカロフは『これは規則破りだ』と激高し、マダム・マクシームも不満を露わにする。マッド=アイ・ムーディだけが、『ホグワーツが優位を得るためにハリーを送り込もうとした者がいるのではなく、誰かがハリーを殺すためにこの試合を使おうとしている』と冷ややかに分析する——後に振り返れば、これは犯人本人の発言だった。
ロン・ウィーズリーはハリーが自分に黙って応募したと信じ、口を利かなくなる。記者リータ・スキーターはハリーに無断で『傷を負ったハリー・ポッターは涙を見せ、母親を恋しがった』という嘘の独占記事を書く。ハーマイオニーが二人の関係修復に奔走するなかで、ハリーは『不本意な四人目の代表』として一人で第一の課題に向かわざるを得なくなる。
第一の課題——ドラゴン
第一の課題の数日前、ハグリッドはハリーを夜の森へ呼び出す。木立の向こうの広場に組まれた巨大な金属檻のなかで、四頭の現役のドラゴンが咆哮を上げている。スウェーデン・ショート=スナウト、ウェールズ・グリーン、シノ=ノルウェジアン・リッジバック、そしてもっとも凶暴なハンガリアン・ホーンテイル。各代表は四頭の中から無作為で一頭を引き当て、そのドラゴンの巣の金の卵を奪い取らねばならない。ハグリッドの『反則だが教えてやる』という親切は、結果としてハリーがセドリック・ディゴリーにも同じ情報を共有する『二人の代表の若者の対等な共謀』を生み、本作の青春劇としての軸を作る。
課題当日、競技場は岩山を模したアリーナに改装され、四代表は順に挑む。フラーはウェールズ・グリーンに眠りの魔法を、クラムは目を狙う呪いで、セドリックは岩を犬に変える変身術で——いずれも傷を負いながらも卵を奪う。最後に呼ばれたハリーが対峙したのは最強のハンガリアン・ホーンテイル。彼は箒を呼び寄せる呪文『アクシオ』を空に向けて唱え、城から自分の愛機『ファイアボルト』を呼び寄せる。
ハリーが乗った高速箒とドラゴンの空中追走戦は、本作の前半でもっとも疾走感のある場面である。岩塔、ゴシック様式の屋根、ホグワーツの尖塔、湖の上空——岩肌に擦りつけられ、尾の一撃で背中の制服を引き裂かれ、城の中庭を一頭のドラゴンが破壊しながら追ってくる。最終的にハリーは追跡をかわして競技場に戻り、無防備になった金の卵を巣から奪う。地上のスタンドはホグワーツの校章が描かれた旗で揺れ、得点の合計で彼はセドリックと首位を分け合う。
拍手のなかで、ハリーとロンの間に張り詰めていた誤解はようやく解ける。命を懸けて空を逃げ回るハリーの姿を見たロンは、『誰もあれを楽しんで応募しない』と確信し、グリフィンドール塔の階段の上で短く、ぶっきらぼうに和解する。
クリスマス——ユール・ボール
第一の課題と第二の課題の間に、伝統行事『ユール・ボール(クリスマス舞踏会)』が大広間で催される。各代表はパートナーを伴って正装でダンスを披露する義務を負い、十四歳前後の生徒たちは、生まれて初めて『誰かをダンスに誘う』という、ドラゴンよりも厄介な課題に直面する。
ハリーは想いを寄せるレイブンクロー寮のチョウ・チャンに勇気を振り絞って声をかけるが、彼女はすでにセドリック・ディゴリーに誘われていた——年下のハリーが、対等な恋愛と試合の両方で先輩に敵わない現実が、丁寧に描かれる。最終的にハリーはパーバティ・パチル、ロンは双子の妹パドマ・パチルをパートナーにする。マクゴナガル教授に手を引かれて練習させられるロンが、皺の入った中古のローブで照れ笑いする場面は、本作の数少ない笑いどころのひとつである。
舞踏会当日、大広間は氷の樹と銀の蜘蛛の巣で覆われ、天井には雪が舞う。各代表がパートナーと中央に進む。ハリーが息を呑むのは、想い人ではなく、別の人物の姿に対してだった——薄紫のドレスを纏い、長い髪を結い上げ、踊りの相手としてヴィクトール・クラムの腕に手を置いた、ハーマイオニー・グレンジャー。普段の制服姿とは別人の彼女に、観客は『三人組のうちの二人にとっては姉妹のような少女』だったハーマイオニーが、対等な一人の少女として描かれる瞬間を見せられる。
舞踏会の終盤、混雑から離れた階段で、ロンとハーマイオニーは初めて本気の口論をする。『どうして君が、敵の代表と踊るんだ』『敵じゃない、彼は私を見てくれた、あなたはそうじゃなかった』。涙を見せて夜の階段で靴を片手に下ろすハーマイオニーの背中は、シリーズで最も鮮烈な『青春の傷』のショットの一つになった。一方、廊下では校長カルカロフが、自分の左腕の闇の印が日に日に濃く戻っていることに恐怖し、スネイプにそれを見せて怯える場面が短く挟まれる——観客はここで、ヴォルデモートの『時計の針』が動き出していることを知る。
第二の課題——黒い湖
金の卵は水中で開けば歌声を発する、という助言をハリーに与えるのは、舞踏会の翌日、湖畔ですれ違ったセドリック・ディゴリーである。第一の課題のドラゴンの情報をハリーから受けた借りを、彼はここで返す。本作のセドリックは、原作以上に『模範生でありながら、対等な後輩としてハリーに接する青年』として丁寧に造形されており、後半の悲劇に向けて観客の感情を準備する。
監督生用の浴室で、ハリーは卵を温かい湯に沈める。蓋が開き、人魚の合唱が聞こえる——『我らの取ったものを取り返したくば、太陽の届かぬ場所へ来たれ。一時間で取り戻せ、さもなくば失う』。ハリーは、第二の課題が黒い湖の水底で行われると悟る。
課題当日、湖の桟橋に四人の代表が並ぶ。海水に潜るための呪文も技も持たないハリーは、競技場で押しつけられる重圧のなか、半ば飛び込まされる形で湖へ落ちる。直前にネビル・ロングボトムから渡された海藻『ガリプラント(鰓昆布)』をハリーは口に含み、息ができないはずの水中で、首にエラ、両手両足に水掻きが生え、シリーズで最も奇妙でユーモラスな『水中のハリー』が誕生する。
湖の底、人魚(マーピープル)の村の柱に縛りつけられていたのは、各代表が『この世でもっとも大事な人』——ロン(ハリーのため)、ハーマイオニー(クラムのため)、チョウ(セドリックのため)、そして十歳のガブリエル・デラクール(フラーの妹)の四人だった。フラーが水中の小妖怪グリンディロウの群れに襲われ離脱し、クラムがサメ頭の半変身でハーマイオニーを救出して浮上する。セドリックは時間内にチョウを救出する。
残ったハリーは、ロンだけを連れて浮上することができるはずだったが、保護役のフラーが上がってこないと知り、ガブリエルも一緒に二人とも連れて浮上することを選ぶ。人魚の長は『規則違反だ』と剣を構えるが、ハリーが杖の先で水を切り、二人を抱えて時間切れぎりぎりに水面へ吐き出す光景は、課題の競争としては失格でも『道徳的優越(モラル・ファイバー)』として満点が与えられる、と審判団に評される。フラーはガブリエルを抱きしめて涙し、湖畔のハリーに頬への接吻で感謝を伝える。代表四人の関係は、ここでようやく『敵』から『若い同志』へと変わる。
禁じられた森——クラウチの異変とシリウスの暖炉
第二の課題と第三の課題の間に、観客には不穏な伏線が積み重ねられていく。バーティ・クラウチ・シニア——魔法ゲーム部の頂点に立ち、息子のバーティ・クラウチ・ジュニアをかつてアズカバンへ送った冷酷な父——が、突然職場を欠勤し、ホグワーツの森外れに姿を現す。彼はハリーとヴィクトール・クラムに気を失う寸前の状態で発見され、『ヴォルデモートが帰ってくる』『私の息子が……』と支離滅裂に呟いたあと、姿を消す。クラムは取り残された樹の根もとで意識を失い、後に『誰かに気絶呪文をかけられた』と語る。
ハリーは、グリフィンドール塔談話室の暖炉に向かって名付け親シリウス・ブラックの顔が立ち上がる『フルー・ネットワーク通信』で、危険な現状を相談する。シリウスは『カルカロフは元死喰い人だ。ムーディは正真正銘の名うてのオーラーで、ヴォルデモートの一味を半数以上アズカバンへ送り込んだ。バーティ・クラウチ・シニアの息子は、十年以上前に父親の手で囚われ、獄中で死んだとされている』『ハリー、お前はこの試合の駒として、誰かに使われている』とハリーに警告する。本作のシリウスの登場場面は、暖炉の煤の中の顔だけだが、ゲイリー・オールドマンの声と眼差しが、ハリーが孤独ではないというシリーズ全体の主題を一息で支える。
ハリーはまた、『取り憑かれたかのように』夢のなかでヴォルデモートの仮の体を見るようになる。ヴォルデモートとワームテイルの会話、追放された召使いカルカロフの追い詰められる気配、ある『計画』の最終段階——観客は夢の断片を通じて、リトル・ハングルトンで開かれた幕が、ホグワーツの試合と確かに繋がっていることを知らされる。
第三の課題——生垣の迷宮
学年末、クィディッチ競技場は深い緑の生垣で覆われた巨大な迷路へ改造される。第三の課題は単純である——迷宮の中心に置かれた『三大魔法学校対抗試合優勝杯(トライウィザード・カップ)』を最初に手にした者が、優勝者となる。だが、迷宮の生垣は意思を持ち、選手の精神を蝕み、方向感覚を狂わせ、視界を歪める。試合では杖を使えるが、互いの選手を妨害することも許される。
現在の総合得点では、ハリーとセドリックが首位タイ、続いてクラム、フラーの順。生垣に入った直後、フラーは霧に取り囲まれて悲鳴をあげ、リタイアのフレアを上空に放つ。クラムは生垣の影で誰かに『服従の呪文(インペリオ)』をかけられた状態で現れ、セドリックを杖で襲う。ハリーが『失神呪文(ステューピファイ)』でクラムを倒し、二人はそれ以降、原作よりもさらに鮮明に『一緒に走る二人組』として迷宮を進む。
迷宮の中心部、霧の上に光る黄金の優勝杯。セドリックがやや先んじて杯に手を伸ばしかけたとき、生垣が突然彼の足元を絡め取り、彼を絞め上げて引きずり込もうとする。ハリーは反射的に駆け戻ってセドリックを救い出す。一度は『君が勝て、僕は触らない』と譲り合った二人は、結局『二人で同時に触ろう、ホグワーツの引き分け優勝にしよう』と合意し、湯気立つ黄金の杯に同時に手を伸ばす。
次の瞬間、優勝杯はハリーとセドリックを二人とも掴んで光る。観客は、これが優勝の演出ではなく、移動キー(ポートキー)の発動であることに気づく。二人は競技場ではない、見たこともない夜の墓地の真ん中に、地面に放り出される。
リトル・ハングルトンの墓場——「余計者は殺せ」
墓地は、本作冒頭でフランク・ブライスが命を落としたリトル・ハングルトン村のリドル家の墓地だった。中央には『トム・リドル』と刻まれた大きな墓石が立ち、その向こうから黒いローブのまま頭巾をかぶった小柄な男が、布にくるまれた『何か』を抱いて歩いてくる——ワームテイル、ペティグリューである。
ハリーが額を押さえて崩れる。ヴォルデモートの傷の痛みが、これ以上ないほど強くなる。ワームテイルの腕の中の包みから、子どもほどの大きさの仮の体——ヴォルデモートの『仮肉』——が短く命じる。『余計者は殺せ(Kill the spare.)』。
ワームテイルが杖を振る。緑色の閃光が走り、セドリック・ディゴリーは何の防御呪文も唱える間もなく、墓石の脇に倒れて二度と動かない。観客は、ここまで丁寧に育てられた青年セドリックの像を、説明も別れも台詞もないままで、たった二語の命令で殺される——本シリーズで初めて、無辜の生徒が画面のなかで殺害される瞬間である。劇場の空気が、ここで一段階だけ下がる。
ワームテイルはハリーを引きずってトム・リドル家の墓石にロープで縛り上げ、口元に布を噛ませる。墓石の足元に置かれた大釜にヴォルデモートの仮の体が浸され、ワームテイルは唱える。『骨を父より、与えられずして取る』——墓石の前の地面から、トム・リドル・シニア(ヴォルデモートの父)の白い骨が一片、釜の中へ吸い上げられる。『肉を僕より、進んで捧げる』——震えるワームテイルは大ナイフで自分の右手首を切り落とし、釜に投げ込む。『血を敵より、力ずくで取る』——ナイフがハリーの腕を切り裂き、その血が一滴、釜へ落ちる。
釜から沸き上がった蒸気のなかで、十三年ぶりに、ヴォルデモート卿が完全な肉体を取り戻して立ち上がる。ラルフ・ファインズが本シリーズで初めて演じる、鼻の穴だけが残った青白い顔と、両のスリットの目。彼は復活したばかりの両手で自分の指を確かめ、笑みなのか痙攣なのか分からない表情で、空に向けて杖を振る——左腕の闇の印を炎で蘇らせ、世界中に散らばる死喰い人を一斉に呼び寄せる。
優先呪文(プライオリ・インカンテイタム)と両親の影
墓地の周囲に、フードを引き下ろした死喰い人たちが次々と移動術(アパレート)で現れる。ルシウス・マルフォイ、マクネア、エイヴリー、ノット、クラッブとゴイルの父——映画では数名にとどまるが、十三年隠れていた信奉者たちが集まる場面そのものが、シリーズ後半の戦争の予告編になる。
ヴォルデモートは集まった信奉者を前に、自分が消えていた十三年間を語る。『お前たちのうちの何人かは、私が永久に消えたと思ったろう。何人かは、私を見限った。一人だけが、死を覚悟して私のもとに帰ってきた』——彼が指したのは、片手を釜に捧げたばかりのワームテイルだった。代わりにマルフォイら他の死喰い人を一人ずつクルーシオで罰した後、ヴォルデモートはハリーの縛めを解き、『これは公正な決闘だ』と告げて杖を渡す。
ハリーとヴォルデモートが互いに杖を構え、お辞儀の所作とともに呪文を放つ。ヴォルデモートの『アバダ・ケダブラ』の緑の閃光と、ハリーが反射的に放った『エクスペリアームス(武装解除)』の赤い閃光が、空中で衝突して融合する。二本の杖の間に光の橋が架かり、両者は地面から数センチ浮かび上がる。これが、優先呪文『プライオリ・インカンテイタム』——『同じ羽根(不死鳥フォークスの尾羽)を芯材とする兄弟杖』が衝突したときに発生する、シリーズ屈指の魔法現象である。
光の橋からヴォルデモートの杖に向けて、輝く玉がいくつも漂い出る。それらは杖が直近に放った呪文の『影(こだま)』であり、ヴォルデモートが過去に殺してきた人々の幻だった。最初に現れたのはセドリック・ディゴリー——『ぼくの遺体を、家族のもとに連れ帰ってほしい』。続いて夏の冒頭に殺されたフランク・ブライス、その前に殺された見知らぬ老女、そして——リリー・ポッターとジェームズ・ポッター、ハリーの両親が、十三年越しに現れる。
リリーは『おまえに会えてよかった、ハリー』と告げ、ジェームズは『杖を持ったまま、私たちが彼の気を逸らす。橋を切れ。優勝杯のところまで走れ。私たちが守る』と短く息子に作戦を授ける。ハリーは杖を引きちぎるように上に振り上げ、光の橋を断ち切る。橋から零れた影たちが、ハリーとヴォルデモートの間の空間に立って、ヴォルデモートの杖をひととき封じる。その隙にハリーは墓石の脇に倒れたセドリックの遺体まで走り、もう片方の手で『来い』と優勝杯を呼び寄せる——優勝杯はもう一度ポートキーとして発動し、ハリーとセドリックの遺体を、ホグワーツのクィディッチ競技場へ送り返す。
マッド=アイ・ムーディの正体——バーティ・クラウチ・ジュニア
競技場では、移動キーで戻ってきた優勝者ハリーを、生徒と教員の歓声が迎える。だがハリーは地面でセドリックの遺体を抱いて泣き崩れている。観客席のなかからセドリックの父アモス・ディゴリーの絶叫が響き、歓喜の場面はその一声で粉々になる。マッド=アイ・ムーディだけが冷静にハリーに駆け寄り、『城に運んで手当てしよう』とハリーを抱え起こす。
ムーディはハリーを自分の研究室へ連れ込み、扉を閉ざす。彼の質問はおかしい——『ヴォルデモートはどうやって帰ってきた』『どんな順番で死喰い人を呼んだ』『お前は誰の名を見た』。詰問の途中、ムーディはフラスコから絶えず飲んでいた『何か』が切れかかっていることに苛立ち、最後の薬を一気に呷る。鏡に映る彼の輪郭が、見る見るうちに変わっていく——白く濁った義眼の老オーラーから、若く整った顔立ちの男へ。
扉を蹴破ってダンブルドア、マクゴナガル、スネイプが踏み込む。スネイプの杖の先で、姿を変えた『ムーディ』は壁に縫いつけられる。研究室の隅の大型旅行用トランクをスネイプが開ける——その最下層には、本物のアラスター・『マッド=アイ』・ムーディが、痩せ衰えた姿で監禁されていた。一年間、ハリーたちが『ムーディ』として接していた人物は、ポリジュース薬で姿を変えた別人だった。
ダンブルドアは『ムーディ』の輪郭をした男の口にスネイプ調合の真実薬(ヴェリタセラム)を流し込む。彼は淀みなく自白する——自分はバーティ・クラウチ・ジュニア。十年以上前にアズカバンに送られたあと、母の身代わりの魔法で密かに釈放され、父バーティ・クラウチ・シニアの家に屋敷しもべ妖精ウィンキーとともに監禁され続けていた。クィディッチ・ワールドカップで父の杖を盗み、闇の印を空に走らせた。今年、本物のムーディが新任DADA教師として呼ばれる前に襲って気絶させ、自身の姿をムーディに変えて教師として潜り込んだ。炎のゴブレットに『四校目』の偽の学校名でハリーの名を書いた紙を投げ込み、ゴブレットを『規則違反』ではなく『四校目の代表選出』として誤作動させた。ドラゴンの情報、卵の入浴のヒント、湖の昆布、迷宮中の他選手への妨害——すべてはハリーを、無事に第三の課題まで生き延びさせ、優勝杯のポートキーで主君のもとへ運ぶための、一年がかりの介添えだった。父バーティ・クラウチ・シニアは、息子の脱獄と支援を償わせまいとして禁じられた森で口を開きかけ、息子に殺されていた。
短い自白ののち、魔法大臣コーネリウス・ファッジが連れてきた吸魂鬼(ディメンター)が、許可なくクラウチ・ジュニアの口に吸魂の口づけ(ディメンターズ・キス)を加える。彼の魂は失われ、最重要証人は永遠の沈黙の入れ物になる。ダンブルドアは激高する——『お前は、最後の証人を破壊した』。ファッジは『ヴォルデモートが帰ったなどという狂気の妄想を、世間に広めるわけにはいかない』と告げて、職務上の判断のすべてを『安全な側』に倒す。本作の終盤の主題——『何が起きたかではなく、誰がそれを認めるかの問題』——が、ここで一気に立ち上がる。
学年末——セドリックの追悼
学年末の大広間で、ダンブルドアは食事のすべてを終えた後、ろうそくの灯のなかで立ち上がり、生徒たち全員に向けて告げる。『今日、私たちはひとりを失った。素晴らしいハッフルパフ生、フェアな対戦相手、誠実な友人、立派な息子だった、セドリック・ディゴリー』。一同が立ち上がる。
『魔法省は、私が今夜君たちにこれから話すことを禁じている。だが私は、君たちが嘘で守られるのではなく、真実で立ち向かうべきだと信じている。セドリック・ディゴリーは、ヴォルデモート卿に殺された。彼は事故で死んだのではない、迷宮の事故で死んだのでもない。彼は、戻ってきたヴォルデモートの命令で殺されたのだ』。教師団のなかからスネイプの伏せた目だけが画面に残る。ダンブルドアは続ける——『暗い時代がやってくる。正しい道と楽な道のあいだで選ばねばならぬ日が、必ず来る。そのとき、君たちはセドリック・ディゴリーを思い出してほしい』。
翌朝、ボーバトンとダームストラングの代表団は、それぞれの輸送魔法で故郷へ帰っていく。グリフィンドール塔の窓辺で、ハーマイオニーが『何もかも、変わってしまうのね』と呟き、ハリーは『本当の戦いは、ここから始まる』ことを、まだ言葉にせず受け止めている。ロンが二人の間に立つ。三人の影は、シリーズで初めて『戦争を引き受けた若者』としてのフレームに収まる。本作はそこで幕を引き、続く『不死鳥の騎士団』へバトンを渡す。
登場要素
本作に登場・言及される主な要素を、人物・魔法生物・呪文・道具・場所・組織に分類して示す。とりわけ『闇の印』『許されざる呪文』『移動キー』『優先呪文』は本作の核を成す概念であり、後続作のヴォルデモート対魔法省/不死鳥の騎士団の構図を読むうえで欠かせない。
人物
- ハリー・ポッター
- ロン・ウィーズリー
- ハーマイオニー・グレンジャー
- セドリック・ディゴリー
- ヴィクトール・クラム
- フラー・デラクール
- ガブリエル・デラクール
- アルバス・ダンブルドア
- ミネルバ・マクゴナガル
- セブルス・スネイプ
- ルビウス・ハグリッド
- シビル・トレローニー(言及)
- アラスター・『マッド=アイ』・ムーディ(本物/偽物)
- バーティ・クラウチ・シニア
- バーティ・クラウチ・ジュニア
- ルード・バグマン
- コーネリウス・ファッジ
- リータ・スキーター
- ピーター・ペティグリュー(ワームテイル)
- ヴォルデモート卿
- ナギニ
- フランク・ブライス
- イゴール・カルカロフ
- マダム・マクシーム
- アーサー・ウィーズリー
- モリー・ウィーズリー
- フレッドとジョージ・ウィーズリー
- ジニー・ウィーズリー
- シリウス・ブラック(暖炉越し)
- ドラコ・マルフォイ
- ルシウス・マルフォイ
- ジェームズとリリー・ポッター(影として)
- アモス・ディゴリー
- チョウ・チャン
- パーバティ/パドマ・パチル
- ネビル・ロングボトム
- ウィンキー(屋敷しもべ妖精)
魔法生物・種族
- ドラゴン(ハンガリアン・ホーンテイル/ウェールズ・グリーン/スウェーデン・ショート=スナウト/シノ=ノルウェジアン・リッジバック)
- 人魚(マーピープル)
- グリンディロウ(水生小妖)
- 屋敷しもべ妖精
- ヴィーラ
- 巨人の血統(マダム・マクシーム)
- 吸魂鬼(ディメンター)
- ニフラー(言及)
- セストラル(未登場、後続作で出現)
- 蛇ナギニ
- 不死鳥(言及・尾羽が両者の杖芯)
呪文・魔法
- アバダ・ケダブラ(死の呪文)
- クルーシオ(苦痛の呪文)
- インペリオ(服従の呪文)
- エクスペリアームス(武装解除)
- ステューピファイ(失神呪文)
- アクシオ(呼び寄せ)
- モースモードル(闇の印)
- プライオリ・インカンテイタム(優先呪文)
- ポリジュース薬
- ヴェリタセラム(真実薬)
- ポートキー(移動キー)
- フルー・ネットワーク(暖炉通信)
- ディスアパレート/アパレート(瞬間移動)
- 気泡呪文(バブルヘッド・チャーム/クラムとセドリックの想定技)
- 鰓昆布(ガリプラント)の効果
魔法道具
- 炎のゴブレット(ザ・ゴブレット・オブ・ファイア)
- 三大魔法学校対抗試合優勝杯(移動キー)
- ハリーのファイアボルト
- ハリーの杖(不死鳥フォークスの尾羽)
- ヴォルデモートの杖(同じ不死鳥フォークスの尾羽)
- ムーディの魔法義眼
- ムーディの常飲フラスコ(ポリジュース薬)
- 黄金の卵(第一の課題の報酬)
- 鰓昆布
- リータ・スキーターの『早書き羽根ペン』
- クラウチ家のトランク(多層魔法トランク)
- クラウチ家の地図/盗聞き器(言及)
場所
- リトル・ハングルトン村とリドル家の屋敷/墓地
- ウィーズリー家『隠れ穴』
- クィディッチ・ワールドカップ会場
- ホグワーツ城本館
- ホグワーツ大広間/グリフィンドール塔/監督生用浴室
- ホグワーツの校庭・第一課題の岩山アリーナ
- 黒い湖
- クィディッチ競技場(迷宮の生垣)
- 禁じられた森
- ボーバトン魔法アカデミー(南欧・パステル青)
- ダームストラング専門学校(北欧・船で来訪)
組織・概念
- 三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)
- 炎のゴブレットによる代表選出
- 魔法省(コーネリウス・ファッジ政権)
- 国際魔法協力部
- 魔法ゲーム・スポーツ部
- 魔法生物規制管理部
- オーラー本部(闇祓い)
- 死喰い人(デスイーター)
- アズカバン
- ヴィーラとドラゴンを巡る国際協定(言及)
- 預言者新聞とリータ・スキーターのジャーナリズム
- 不死鳥の騎士団(実体は本作では未登場、ダンブルドアの示唆のみ)
主要登場人物
本作は、三人組と並んで『四人の代表』『二人のクラウチ親子』『二つのムーディ(本物と偽者)』など、人物を対の構図で見るとよく理解できる。とりわけハリーとセドリックの並走、ロンとハーマイオニーの距離、ハリーとヴォルデモートの兄弟杖の関係が、後続作のすべての伏線になっている。
ハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ)
本作のハリーは十四歳、ホグワーツ4年目。前作までの『未熟ながら正しい少年』から、『自分が何者として周囲に見られているか』に苦しむ若者へと作り替えられる。応募していない試合に名を呼ばれ、級友からも親友からも敵視され、リータ・スキーターに作り話を書かれ、最後には目の前で同級生を殺される。この一年が、彼が『救世主』として担がれていくシリーズ後半の自己像の起点になる。
墓場で杖を構えてヴォルデモートと向き合う場面は、本作のハリーが『大人と渡り合うほどではないが、もはや子どもでもない』ことを画面で示す瞬間でもある。両親の影がハリーを取り囲み、息子に作戦を授ける数秒間は、シリーズ屈指の感情的密度を持つ。ダニエル・ラドクリフはこの一作で、表情の引き出しを大きく増やし、後続作の『怒り続ける十五歳』への橋を渡した。
ロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グレンジャー(ルパート・グリント/エマ・ワトソン)
ロンは本作で、もっとも厳しい試練を友情の側から引き受ける。親友が試合に出る、自分は出られない、しかも先輩格の代表として周囲から扱われる——その嫉妬と恥ずかしさで、ロンはハリーから一時的に離れる。第一の課題でハリーが命懸けで空を逃げ回るのを見て、ロンは『誰も望んで応募しない』と悟り、不器用に和解する。シリーズで初めて『友情とは何か』を、台詞よりも黙ったまま戻ってくる行動で語るのは、この一作のロンである。
ハーマイオニーは、ユール・ボールで初めて『勉強と魔法の優等生』ではなく『誰かの目に対等の少女として映る存在』として描かれる。彼女がクラムと踊る一場面と、夜の階段でロンに『あなたは私を、別の少女として見たこともなかったの』と詰め寄る一場面は、十代の感情の細やかさをシリーズに持ち込んだ。本作以降、三人組の関係は『同じ目線の三人』から『恋愛の磁場を抱えた三人』へと作り替えられる。
セドリック・ディゴリー(ロバート・パティンソン)
セドリックは本作のもう一人の主人公である。ハッフルパフ寮の最上級生、品のある成績優秀者、クィディッチ部長、寮の象徴。原作以上に映画は彼を『模範生でありながら、後輩を対等の代表として遇する青年』として描き、ドラゴンの情報共有、卵のヒント、迷宮で生垣に絞られた瞬間の救出、優勝杯の同時受領——その都度、ハリーと彼の関係を『二人で走る代表』として丁寧に積み上げる。
それゆえに、墓場での『余計者は殺せ』という二語の死は、観客にとって耐えがたい衝撃となる。ロバート・パティンソンは、台詞も別れの仕草もなく緑の閃光だけで退場するこの役で、シリーズの感情のトーンを一段引き下げる重い演技を残し、後の『トワイライト』『TENET』『ザ・バットマン』へつながるキャリアの原点を作った。
マッド=アイ・ムーディとバーティ・クラウチ・ジュニア(ブレンダン・グリーソン/デイヴィッド・テナント)
新任DADA教師として現れたアラスター・『マッド=アイ』・ムーディは、外見の異様さ、回転する魔法義眼、絶えず飲み続けるフラスコ、教室で堂々と『許されざる呪文』を実演する乱暴な教育法で、シリーズ屈指のインパクトを残す。ブレンダン・グリーソンの飄々とした重量感ある演技は、彼が偽者であるという結末を観客に最後まで悟らせない。
正体はバーティ・クラウチ・ジュニア——かつてオーラーだったクラウチ・シニアの息子で、若くしてヴォルデモート派に走り、十年以上前に父の手でアズカバンへ送られた死喰い人。本作では母の身代わりの魔法で密かに釈放され、ホグワーツに偽教師として一年潜伏したうえで、ハリーを優勝杯のポートキーで墓場へ送り届ける役を担う。デイヴィッド・テナントが、ヴェリタセラム尋問の場面でわずか数分間、舌を覗かせ目を泳がせるその演技で、後の『ドクター・フー』第10代博士役の前史を見せた点でも記憶される配役である。
ヴォルデモート卿(ラルフ・ファインズ)
本作は、シリーズで初めて『肉体を持ったヴォルデモート』が画面に登場する作品である。ラルフ・ファインズは特殊メイクで鼻のスリットと白い皮膚をまとい、墓場の中央で復活した直後の指を曲げる動作、再生したばかりの自分の声に耳を澄ます間、信奉者を前に十三年の不在を語る独白、ハリーに『公正な決闘だ』と告げる嘲り——その全てを過剰に演じず、むしろ静かに、しかし背筋の冷える低い声で立ち上げた。
ヴォルデモートが復活する儀式の手順(父の骨/僕の肉/敵の血)は、後の『分霊箱』『杖の所有権』をめぐる伏線と並んで、シリーズ後半の戦争の全ての出発点となる。本作のヴォルデモートは、まだ完全な戦争体制を整えていない、生まれ直したばかりの不安定な王だが、その不安定さこそが画面の脅威を強める。
舞台と用語
本作の舞台は、英国中部リトル・ハングルトン村のリドル屋敷・墓地と、スコットランド高地のホグワーツ城という、対照的な二つの場所に大きく分かれる。リドル屋敷と墓地は廃れ朽ちた英国の田舎と古い貴族の没落を象徴し、ホグワーツは魔法社会の文化的中心として、二校の代表団を迎える国際的な舞台に拡張される。クィディッチ・ワールドカップ会場は数十万人収容のすり鉢状スタジアムとして、本シリーズで初めて『魔法世界の規模感』を観客に体感させる場でもある。
用語面では、本作は『許されざる呪文(アンフォーギヴァブル・カース)』『闇の印(モースモードル)』『移動キー(ポートキー)』『優先呪文(プライオリ・インカンテイタム)』『不死鳥の尾羽を芯材とする兄弟杖』『真実薬(ヴェリタセラム)』『ポリジュース薬』が、後続作の戦争を読み解く鍵となる。とりわけ『血を敵より、力ずくで取る』というヴォルデモートの復活の手順は、後年の『リリー・ポッターの愛の魔法とハリーの血の関係』『ヴォルデモートとハリーの肉体的な紐帯』という、シリーズ最大の伏線の一つを生む。
制作
原作小説『炎のゴブレット』は本編シリーズ七冊のなかでも最も分厚い一冊であり、映画化はそれをどう一本にまとめ上げるかが最大の課題だった。以下、企画から特撮までの主要な経緯を整理する。
監督交代——シリーズ初の英国人監督
前作『アズカバンの囚人』を手掛けたアルフォンソ・キュアロンが続投を辞退したのを受け、シリーズの新監督として白羽の矢が立ったのが英国の中堅マイク・ニューウェルだった。『フォー・ウェディング』(1994)、『ドニー・ブラスコ』(1997)、『モナリザ・スマイル』(2003)と、ジャンルを横断するキャリアを持つニューウェルは、シリーズで初めての英国人監督として、生徒たちの『英国の私立寄宿学校の青春劇』の側面を強く打ち出した。
ニューウェルはインタビューで、本作を『青春劇とパラノイア・スリラーの二層構造で組んだ』と語っている。前半のユール・ボールやドラゴンを軸にした青春の躁状態と、後半のリトル・ハングルトン墓場の冷たさを、同じ一本の中で並べる演出の方針は、シリーズの空気を決定的に塗り替える結果につながった。
脚本——分厚い一冊を一本に
脚本はスティーヴ・クローヴスが続投した。原作小説の七百ページ超の物語から、映画は『屋敷しもべ妖精解放戦線(S.P.E.W.)』『リータ・スキーターのアニメーガス』『リータの正体』『ウィーズリー双子のいたずら関連の長大な副筋』『ハグリッドの母親フリッダ巨人族の物語』など、多くの副筋を意図的に省いた。代わりに、三課題と最終盤の墓場の出来事に物語の重心を置く編集方針が取られた。
ファンの間では、特にウィンキーとS.P.E.W.の省略、ダドリーの『ダイエット・キャンディ』エピソードの削除、リータ・スキーターの正体(甲虫姿のアニメーガス)が明かされない点に対する議論が長く続いた。だが映画的には、二時間半の枠で『ヴォルデモートが帰ってくる』『生徒が一人殺される』という二点を観客に体感させるためには、副筋の大胆な切除はやむを得なかったというのが評論家側の一致した見方である。
キャスティング——ラルフ・ファインズの参加
本作のキャスティングの最大の話題は、ヴォルデモート役にラルフ・ファインズが起用されたことである。『シンドラーのリスト』(1993)でアカデミー助演賞ノミネートに輝き、『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)でアカデミー主演賞ノミネートを果たした英国の名優を、シリーズ後半の悪役に据えるという選択は、本シリーズが大人の観客に向けて成熟する宣言でもあった。ファインズはハリーとの最初の対面の数分の独白だけで、後続三作分のヴォルデモート像を一気に確立した。
セドリック・ディゴリー役には、当時十九歳のロバート・パティンソンが起用された。本作出演後、彼は『トワイライト』(2008)でエドワード・カレン役に抜擢され、世界的スターになる。マッド=アイ・ムーディ役のブレンダン・グリーソンは『ブレイブハート』『28日後...』を経た重量級の演技派、その『正体』バーティ・クラウチ・ジュニア役にはBBC『ドクター・フー』新シリーズで二代目第10代博士を演じる前のデイヴィッド・テナントが起用された。テナントの数分間の出演がここまで強い余韻を残したのは、後に英国を代表するスターになるキャリアの始点として、二十年後にあらためて見直される配役でもあった。
他に、フラー・デラクール役のクレマンス・ポエジー、ヴィクトール・クラム役のスタニスラフ・ヤネフスキ、チョウ・チャン役のケイティ・リューン、リータ・スキーター役のミランダ・リチャードソン、バーティ・クラウチ・シニア役のロジャー・ロイド=パック、マダム・マクシーム役のフランシス・デ・ラ・トゥール、ワームテイル役のティモシー・スポール、ナギニの声と動作を担当した特殊効果チームらが、本作の国際感を支えた。
美術と視覚効果——ホグワーツの拡張
美術監督スチュアート・クレイグは、本作のためにホグワーツの城内・校庭・湖畔を大幅に拡張した。ボーバトンとダームストラングの代表団を迎える大広間の演出、ユール・ボールのために氷と銀の蜘蛛の巣で覆い直された大広間、第一の課題のために組まれた岩山アリーナ、第三の課題の生垣の迷宮——いずれも実物大セットとミニチュア合成を組み合わせて構築された。
視覚効果はインダストリアル・ライト&マジック(ILM)、ムービング・ピクチャー・カンパニー(MPC)、ダブル・ネガティブ、フレームストアら、英国・米国の複数の主要VFX会社が分担した。ハンガリアン・ホーンテイルとの空中追走戦はMPC、湖の人魚(マーピープル)とグリンディロウ、クィディッチ・ワールドカップ会場のスタジアム遠景、墓場のヴォルデモート復活の煙と再生のショットなど、最も難度の高いシーンが分配された。本作は第78回アカデミー賞美術賞ノミネート、第59回BAFTA賞でも美術賞・視覚効果賞ノミネートを獲得し、シリーズの視覚的到達点の一つとして評価された。
音楽——パトリック・ドイルの参加
前作までで本編三作を手掛けたジョン・ウィリアムズが他作品との両立から離脱し、本作の作曲には英国/スコットランドの作曲家パトリック・ドイルが起用された。ドイルは『ヘンリー五世』『ハムレット』など、盟友ケネス・ブラナーの映画群でシェイクスピア劇の音楽を作り続けてきた人物で、ヨーロッパの宮廷音楽と現代の交響楽の語彙を併せ持つ。
本作のスコアは、ジョン・ウィリアムズの『ヘドウィグのテーマ』を主旋律として保ちつつ、新たに『フォースタス・ブラッグ・バンド』(ユール・ボール序盤の舞踏会用バンド演奏)、『迷宮のテーマ』、『フォークスの再来』、墓場の儀式に流れる低音の弦楽の刺さるような不協和音などを書き下ろした。特にエンディングの『ホグワーツの行進曲』と、闇に沈むエピローグの編曲は、シリーズの音楽が『英雄譚の主題』から『戦争と犠牲の主題』へ移行する転換を支えている。
撮影とロケ地
撮影は2004年5月から2005年3月にかけて、英国南東部のリーヴスデン・スタジオを本拠に約十か月かけて行われた。ホグワーツ城の中庭・回廊・湖畔のショットは前作までと同様にスコットランドのグレンコー、グレンフィナン高架橋、エアハイランド地方で撮影されている。第一の課題の岩山アリーナはリーヴスデン敷地内の屋外セットに組まれ、ドラゴンの追跡が城の屋根を破壊して飛び越える後半のCG合成のために、城のミニチュアが緻密に作り込まれた。
湖中の場面は、専用の巨大水中スタジオで撮影された。子役のダニエル・ラドクリフは撮影のために専門家の指導を受けて長時間の水中保持訓練を積み、結果として実際のドライ&ウェットの両撮影を組み合わせて第二の課題の場面が成立した。墓場のシーンはサリー州の屋外セットと屋内のスタジオ撮影を組み合わせ、霧の演出は手動の発煙機と後処理の重畳で作られた。
公開と興行
2005年11月18日に英国・米国で同時公開された本作は、初日から週末興行を席巻し、シリーズ第3作『アズカバンの囚人』の数字を大きく上回るスタートを切った。米国国内では公開2か月で2億9000万ドルを超え、最終的に米国国内2億9000万ドル、海外興行6億ドル超を含む全世界興行収入は約8億9600万ドルに達した。これは2005年の全世界興行収入第1位を記録したものである。
日本では2005年11月26日に公開され、興行収入115億円超を記録、その年の外国映画興収では第2位、シリーズの中でも上位の数字を残した。批評家の評価は概ね好意的で、Rotten Tomatoes、Metacritic などの集計サイトでもシリーズ最上位級の数字を維持している。第78回アカデミー賞では美術賞、第59回BAFTAでも美術賞、視覚効果賞、メイクアップ&ヘア賞、衣装賞、プロダクション・デザイン賞ノミネートを獲得した。
批評・評価・文化的影響
本作の最大の功績は、シリーズの空気を子ども向け冒険譚から大人向けダーク・ファンタジーへと一気に橋渡しした点にある。前三作までの『学校での一年間の事件解決もの』というフォーマットを保ちつつ、最終盤で『無辜の生徒の死』『悪の肉体的復活』『国家による真実の否認』という、シリーズ後半の戦争を貫く三つの主題を一挙に観客の前に置いた構成は、続く『不死鳥の騎士団』以降の作品群すべての出発点として機能した。
公開後、ファンと評論家のあいだで議論を呼んだのは、原作の副筋——特にウィンキーとS.P.E.W.、リータ・スキーターの正体、ダドリー一家の場面、ハグリッドの巨人族の母——の大胆な省略である。それでも、本作は『ヴォルデモートが帰ってくる』という一つの主題に映画を集中させたことで、シリーズ全体の物語の駆動力を強めた。マイク・ニューウェルの英国寄宿学校的な空気の演出、パトリック・ドイルの音楽の暗い陰影、ラルフ・ファインズの登場、セドリック・ディゴリーの理不尽な死——本作が観客の集合的記憶に刻みつけたこれらの要素は、後続作と並んで本シリーズの『大人になっていく映画』の側面を確立した。
舞台裏とトリビア
本作はシリーズで初めて、舞台公開時の英国・米国の映倫レーティングが上方修正され、英国では『12A』、米国では『PG-13』が付与された(前三作は『PG』)。墓場でセドリック・ディゴリーが緑の閃光で殺される場面と、ヴォルデモートの復活の儀式の手順が、子ども向け作品のレーティングの上限を超えると判断されたためである。これはシリーズが『子どもと大人が一緒に観る作品』から『十代以上を主要観客とする作品』へ移行する、興行上の節目でもあった。
ラルフ・ファインズは本作の出演を当初辞退しようとしていたと公言している。撮影所のメイクで鼻のスリットを作り上げる工程に難色を示していたが、姪が原作の大ファンで『お願いだから出演して』と懇願したため最終的に引き受けたという挿話が、後年のインタビューで語られている。
クィディッチ・ワールドカップ決勝戦の場面は、原作小説では数十ページに渡る詳細な試合描写が展開されるが、映画ではほぼ全カットされ、観客席のシーンと選手入場のみで構成される。これはシリーズ全体のテンポを優先する編集判断だったが、原作ファンには長くやり玉に挙げられる選択でもあった。
ユール・ボールの場面で大広間のステージに登場するロックバンド『ザ・ウィアード・シスターズ』は、原作通りの架空のバンドだが、映画版では実在のミュージシャン——パルプのジャービス・コッカー、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドとフィル・セルウェイら、英国オルタナティブ・ロック界の重鎮——が実際に演奏している。J.K.ローリングのお気に入りの英国ロックの趣味が、映画に反映された場面である。
本作で初めて画面に登場した『ホグワーツ大広間でのクリスマス舞踏会の床』のセットは、撮影後も保存され、リーヴスデン・スタジオの常設展示『Warner Bros. Studio Tour London — The Making of Harry Potter』で見学できる。
テーマと解釈
中心となる主題は『成長と、それに伴う代償』である。本作のハリーは、応募してもいない試合に放り込まれ、ドラゴンと湖と迷宮を駆け抜けたあげく、目の前で一人の同級生を理不尽に失う。彼の十四歳の一年間は、シリーズで初めて『勝つこと』ではなく『失うこと』を学ぶ年として描かれる。ダンブルドアが学年末に告げる『正しい道と楽な道のあいだの選択』は、本作のすべての登場人物——ハリー、ロン、ハーマイオニー、セドリック、ダンブルドア、ファッジ、クラウチ親子——に同じ重さで突きつけられている問いである。
もう一つの軸は『真実と否認』である。本作のヴォルデモートの復活は、観客の目の前で物理的に起きるが、魔法省はそれを認めない。コーネリウス・ファッジが吸魂鬼にクラウチ・ジュニアを処分させ、ダンブルドアの証言を退ける場面は、後続の『不死鳥の騎士団』で展開される『公的機関による組織的な真実の否認』の予告編となる。J.K.ローリングは本作以降、魔法社会を『純粋な善対悪』ではなく『真実を恐れる組織の前で、若者がどう動くか』という、よりずっと政治的な物語へ作り替えていく。
そして本作の最も静かな、しかし最も重い主題は『誰のもとに帰るか』である。墓場で立ち現れた両親の影が息子に告げる『杖を持って、私たちが時間を作る、走れ』という二、三秒の言葉、優勝杯を手にして競技場の地面に戻ったハリーがセドリックの遺体を抱いて泣く一秒、学年末の大広間でダンブルドアが『セドリック・ディゴリーを思い出してほしい』と言い切る一節——これらの場面の積み重ねが、シリーズ全体の倫理の中心を本作で確立する。
見る順番(補助)
本編シリーズ8作のなかでは、必ず前作『アズカバンの囚人』のあとに観るのが望ましい。シリウス・ブラックの存在、ピーター・ペティグリュー(ワームテイル)の復帰、許されざる呪文に対するハリーの感受性など、本作の物語の前提は『アズカバンの囚人』の終盤に置かれているからである。本作のあとは『不死鳥の騎士団』へ直結する——魔法省の真実否認、ハリーの怒り、不死鳥の騎士団の活動再開などは、本作のラストを起点に動き出す。
原作小説と映画版を併読する場合、本作は最も差分が大きい一本である。屋敷しもべ妖精解放戦線、リータ・スキーターのアニメーガスとしての正体、ダドリー一家の場面、巨人族の母といった副筋は映画では省かれているため、原作小説の充実した世界観を体験したい読者には、本作だけは映画と原作の双方を体験することを勧める。
- 前作『アズカバンの囚人』でシリウスの真実とペティグリューの逃亡が描かれる
- 本作三大魔法学校対抗試合、ヴォルデモートの肉体復活、セドリックの死
- 次作『不死鳥の騎士団』でハリーは魔法省の否認と戦い、騎士団が再結成される
よくある質問(補助)
『あらすじだけ知りたい』場合は、リドル屋敷の冒頭、クィディッチ・ワールドカップでの闇の印、炎のゴブレットによるハリーの選出、ドラゴン/湖/迷宮の三課題、優勝杯のポートキー、リトル・ハングルトンの墓場でのヴォルデモート復活とセドリックの死、マッド=アイ・ムーディの正体=バーティ・クラウチ・ジュニア、ダンブルドアの追悼演説、という流れを押さえれば十分である。
『結末・ネタバレを知りたい』場合は、優勝杯がポートキーであったこと、ヴォルデモートが『骨を父より/肉を僕より/血を敵より』の儀式で復活すること、優先呪文によって両親を含む影が現れハリーを逃がすこと、新任DADA教師ムーディが偽者でバーティ・クラウチ・ジュニアであったことが核となる。
『初見でどこを観れば泣くか』を問われたら、ユール・ボールの夜の階段でロンと言い争うハーマイオニーの一場面、優先呪文でリリー・ポッターが息子に『おまえに会えてよかった』と告げる数秒間、ハリーがセドリックの遺体を地面に下ろした瞬間の競技場の沈黙の三つを挙げる。『見る順番』は本作だけを単独で観るのは勧めにくく、必ず前作の後に置くと、ペティグリューの登場の重さがまったく違って見える。
参考資料・脚注
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