魔女化は、魔法少女のソウルジェムが穢れと絶望で限界まで濁り、グリーフシードへ変化すると同時に魔女が生まれる現象である。魔法少女が戦う魔女は外部から現れた別種の怪物ではなく、かつて契約した少女の終着点だった。この真実によって、「魔法少女」という名称に含まれる希望と、「魔女」という名称に押し込められた絶望が、一つの循環の前半と後半だと分かる。
ソウルジェムが濁る仕組み
魔法少女はソウルジェムを通じて魔法を使う。戦闘、治癒、変身などで力を消費すると宝石に穢れが蓄積し、輝きが失われていく。グリーフシードを接触させれば一定量を浄化できるため、魔女を倒して資源を得ることが生存に必要になる。
濁りは魔力消費だけで機械的に増えるのではない。契約者が深い絶望へ陥ると急速に進み、自分の願いや存在を否定した瞬間に限界へ達し得る。十分に休めば完全に解決する疲労ではなく、魔法と感情が同じ宝石へ集約された状態である。

ソウルジェムは魂そのものを収めているため、濁りの限界は単なる装備の故障ではない。少女の精神、魔力、生命の核が同時に変質する。キュゥべえが魂を身体の外へ移した処置は戦闘能力を高める一方、絶望を回収可能な物質へ変える準備でもあった。
希望と絶望の反転
契約は、叶えたい願いへ最大の希望を与える。病を治す、家族を救う、誰かに認められる、失ったものを取り戻す。その希望が大きいほど、結果が望みとずれたときの絶望も深くなる。インキュベーターは、この感情の相転移からエネルギーを回収する。
魔女化は、契約システムの想定外の副作用ではない。魔法少女が最後に魔女となることまで含め、エントロピー問題へ対処する生産過程として設計されている。少女が魔女を倒す正義の味方だと信じている間も、自分が次の敵になる可能性は伏せられる。
名称の仕掛けもこの反転を示す。少女が成熟して女性になるという日常の成長語を、希望の戦士が魔女へ変わる残酷な工程へ重ねる。キュゥべえにとっては効率的な変化でも、人間にとっては人格と未来を奪う破局である。

美樹さやかの魔女化
TVシリーズで魔女化の仕組みを観客へ決定的に示すのが美樹さやかである。さやかは上条恭介の腕を治すため契約し、治癒の力を持つ魔法少女になる。願いは実現するが、本人は奇跡の理由を恭介へ伝えられず、志筑仁美との恋愛でも自分の気持ちを言葉にできない。
さらに、魂がソウルジェムへ移されていた事実を知り、自分の身体を人間と呼べないという嫌悪を抱く。正義のため無償で戦おうとするほどグリーフシードは不足し、杏子の生存戦略とも衝突する。電車内で女性を物のように扱う男たちの会話を聞いた後、人間を守る意味そのものを見失う。
限界まで濁ったソウルジェムはグリーフシードへ変わり、人魚の魔女オクタヴィアが出現する。さやかの人間の身体はそのまま残るため、肉体が巨大な怪物へ膨張したのではない。魂の核から魔女と結界が生じ、残された身体は生命を失う。

オクタヴィアの結界が示すもの
オクタヴィアの結界は、コンサートホール、楽団、車輪、剣など、さやかの願いと戦いを思わせる要素で構成される。上条恭介の音楽を守った願いは消えず、届かなかった恋と自己否定も同じ空間へ残る。魔女は少女の記憶を言葉で語らないが、結界全体が感情の残骸を演じ続ける。
佐倉杏子は、魔女の中にさやかの心が残っている可能性へ賭け、鹿目まどかの声で呼び戻そうとする。しかし呼びかけは届かず、杏子は自爆してオクタヴィアを倒す。友情や愛情があれば必ず元へ戻せるという救済は、ここでは成立しない。
この失敗があるからこそ、後のまどかの願いは一人を説得する方法ではなく、すべての時間軸で魔女化そのものを起こさない法則へ向かう。個別の感情だけでは、完成した契約システムを覆せないことが示される。
肉体と魔女の関係
魔法少女の魂は契約時にソウルジェムへ移され、身体は魂から離れた器になる。魔女化で変質する中心はソウルジェムであり、身体そのものが変形して魔女になるわけではない。さやかの遺体が残り、杏子たちが回収する描写がこの点を明確にする。

ただし、魔女が少女と無関係な別人になるわけでもない。結界、性質、使い魔には生前の願い、記憶、執着が反映される。人格として会話できる状態は失われても、感情の構造が怪物の世界として残る。連続しているのは肉体の形ではなく、魂と絶望の因果である。
この区別は、魔女を倒す行為の意味を変える。魔法少女は未知の怪物だけを退治していたのではなく、先に契約した少女の成れの果てを倒し、そのグリーフシードで自分の魔女化を先延ばしにしていたことになる。
グリーフシードへの変化
ソウルジェムが完全に濁ると、形と役割が反転し、魔女の核であるグリーフシードとなる。魔法少女を示す宝石が、魔法少女の浄化に必要な資源へ変わる。希望を持つ側と絶望を引き受けた側が、同じ物質の前後として接続されている。

魔女を倒した後に残るグリーフシードは、他のソウルジェムから穢れを吸収できる。ただし無限に使えるわけではなく、限界へ達したものはキュゥべえが回収する。魔女化で生まれた核が次の魔法少女の延命へ使われ、その後はインキュベーター側へ戻る。
この循環は、魔法少女同士の競争を生む。魔女の数とグリーフシードが限られる以上、縄張りを広げる者、使い魔を成長させる者、人を守るため報酬なしで戦う者の間で利害が衝突する。魔女化は個人の悲劇であると同時に、社会構造の燃料である。
暁美ほむらが見た複数の結末
ほむらは時間遡行を繰り返す中で、まどかを含む仲間が死ぬ場合だけでなく、魔女になる場合も目撃する。真実を知った巴マミが仲間のソウルジェムを破壊しようとする時間軸もあり、魔女化の情報そのものが魔法少女の関係を崩壊させる。

まどかは時間軸によって契約時の因果が増え、魔女化すれば地球を短期間で滅ぼすほど巨大なクリームヒルト・グレートヒェンになる。力の大きな魔法少女ほど、反転後の脅威も大きい。最強の戦士を作ることが最大の敵を生むという構造である。
ほむらがまどかの契約を止め続けるのは、戦死だけを避けるためではない。救う力を得たまどかが、やがて自分の願いを否定する存在へ変わる結末を知っているからである。しかし時間遡行そのものが因果を集め、まどかの潜在力と魔女化の規模を拡大する皮肉が生じる。
鹿目まどかの願い
まどかは、過去と未来のすべての魔女を、その手で生まれる前に消し去ることを願う。魔法少女の願いを無かったことにはせず、絶望の終点だけを自分が引き受ける選択である。因果律へ介入する規模の願いにより、まどかは個人としての存在を失い、円環の理という法則になる。
改変後、魔法少女は限界へ達しても魔女にならず、まどかに導かれて消える。死や戦いの代価がすべてなくなるわけではないが、自分の絶望から新しい怪物を生み、人を襲う結末は除かれる。希望を抱いたことそのものが呪いへ変わらない世界へ修正された。

さやかは改変後の世界でも願いの代価を支払い、円環の理へ導かれる。ただし、恭介の音楽を守れた意味を受け入れ、絶望の化身として残らない。願いの結果と恋の結末を分けて肯定できることが、旧世界との大きな違いである。
改変後も残る限界
円環の理は魔女化を消すが、魔法少女の戦いと消耗まで消去しない。人間の呪いから魔獣が生まれ、少女たちは引き続きソウルジェムを使って戦う。限界へ達したときに救済されるとしても、普通の人生へ必ず戻れるわけではない。
この点は、まどかの願いを「全員が生き返り幸福になった」と読むことを防ぐ。願いは契約者の選択と歴史を尊重しつつ、魔女になる最悪の結末へ介入する。万能の取消しではなく、苦しみの連鎖を断つ法則である。

インキュベーターは改変前の魔女化を忘れ、魔獣から別の方法でエネルギーを回収する。目的は残っても、少女の絶望を魔女として利用する方式は失われる。ほむらが旧世界の情報を話したことが、後の観測実験を招く。
『叛逆の物語』の魔女化直前
『[新編]叛逆の物語』では、インキュベーターがほむらのソウルジェムを外部から遮断し、円環の理が現れる過程を観測する。ほむらは魔女化寸前の状態で、自分のソウルジェム内部に見滝原の結界を作る。通常ならまどかに導かれるはずの瞬間が、実験によって引き延ばされる。
結界の主が自分だと理解したほむらは、救済を受けるだけではインキュベーターに円環の理を観測させると判断し、結界内で完全に魔女となって倒される道を選ぼうとする。仲間たちはその自己犠牲を拒み、外部の封印を破壊する。
最終的に円環の理として現れたまどかを、ほむらは人間としての記録だけ引き離す。これは通常の魔女化とも、円環の理による救済とも異なる第三の介入である。ほむらは自らを悪魔と呼び、世界の法則を再配置する。

魔女化を理解する要点
魔女化は、身体が怪物へ変身する現象ではない。魂を収めたソウルジェムが、穢れと絶望でグリーフシードへ変わり、そこから魔女と結界が生じる。肉体は残っても本人の生命は失われる。
また、魔女化は本人の精神が弱かったから起きる罰ではない。戦えば濁るソウルジェム、限られた浄化資源、伏せられた契約条件、感情の反転を目的とする制度が、少女を終点へ追い込む。個人の判断とシステムの圧力を分けて見る必要がある。
まどかの願いが救うのは、願いを持ったことの意味である。希望が絶望へ変わって他者を襲う循環を断ち、契約者の選択を魔女の姿だけで終わらせない。魔女化を理解することは、シリーズ全体の因果を理解することに直結する。
