魔女は本作の主要敵であり、人間の世界に呪いを撒く異形の存在として登場する。第1話冒頭でまどかが見る夢の中の戦場、第3話のシャルロッテ戦などで存在が示され、当初は『魔法少女が倒すべき敵』という素朴な構図で描かれる。だが第8話「あたしって、ほんとバカ」で美樹さやかが人魚の魔女オクタヴィアへ変貌することで、魔女は絶望した魔法少女の成れの果てという作品最大のテーゼが暴露される。
以降『魔法少女と魔女は同じ存在の表裏』というインキュベーターのシステムが物語の根本構造として浮上し、最終話で鹿目まどかが円環の理を生み出すことで魔女そのものが歴史から消去される結末へ至る。

結界と使い魔:棲家と眷属
魔女は基本的に結界と呼ばれる異空間に身を潜め、一般人の目には触れない。結界内では使い魔を従え、近隣の人間を結界内に引きずり込んで自殺・他殺の引き金を引かせる。劇団イヌカレーが手掛けるコラージュアートとパペット人形が混ざり合う特異な空間演出は、シャフトの新房昭之演出と並んで本作最大のビジュアル的特徴。
代表魔女:シャルロッテ・オクタヴィア・ゲルトルート・ワルプルギスの夜
シリーズ屈指の魔女として知られるのが第3話「もう何も恐くない」でマミを撃破するお菓子の魔女シャルロッテ(キャンディの中身の魔女)。第8話のラストでさやかが変貌する人魚の魔女オクタヴィア・フォン・ゼーカーフェルト。第1話の薔薇園の魔女ゲルトルート。そしてシリーズ最強の舞台装置の魔女ワルプルギスの夜。各魔女には固有の名前・性質・結界デザイン・使い魔が設定され、劇中外資料(『魔法少女まどか☆マギカプロダクションノート』ほか)で詳細が記述されている。
真実:魔法少女の成れの果て
第8話「あたしって、ほんとバカ」の終盤、ほむらと杏子の前でさやかのソウルジェムが完全に濁りきり、巨大な人魚の魔女オクタヴィアへと変貌する。ここで初めて『魔女=魔法少女が絶望して相転移した姿』であることが映像で開示される。これによりマミがシャルロッテと戦って死んだ姿は『未来の自分自身と戦って敗北した』構図に書き換えられ、シリーズの過去全てが二重底の意味を持ち始める。続く第9話でキュゥべえがこのプロセスを『希望→絶望のエネルギー収穫』として明示的に説明する。

円環の理による不在化:TV最終話以降
第12話「わたしの、最高の友達」でまどかは『すべての魔女を、生まれる前に消し去りたい。全ての宇宙、過去と未来の全ての魔女を、この手で』と願う。これによって新たな世界法則円環の理が成立し、魔法少女はソウルジェムが濁りきる寸前にまどかの手で救済され、魔女として誕生する瞬間ごと消滅する。代替の敵対勢力として『魔獣(まじゅう)』が登場し、結界もない開放戦場で戦うことになる。[新編]叛逆の物語ではほむらがこの法則を書き換えるため、魔女が部分的に復活する。
魔女のよくある質問
ここでは、本文で扱った要点を質問別に整理する。

魔女と魔法少女の関係は?
魔女は絶望した魔法少女の成れの果て。第8話でさやか→オクタヴィアの変貌として開示される、シリーズ最大のテーゼ。
魔女の名前はどこで明かされる?
本編では結界に入る時のテロップ等で表示される。第1話の薔薇園の魔女ゲルトルート、第3話のお菓子の魔女シャルロッテのように、各魔女に名前と性質ラベルが付く。
『魔獣』との違いは?
魔獣(まじゅう)はTV版第12話以降、円環の理によって魔女が消去された世界線で代わりに出現する新しい敵。穢れ自体は残るので魔法少女システムは継続する。

[新編]叛逆の物語で魔女は復活する?
ほむらが円環の理を書き換えた結果、魔女と魔法少女が共存する歪な世界に再編される。お菓子の魔女シャルロッテの『生前』として百江なぎさが新規キャラとして登場する点も叛逆の重要な要素。
シャルロッテの正体は?
[新編]叛逆の物語で『百江なぎさ』(声優: 阿澄佳奈)として生前の姿が描かれる。マミと結界内で姉妹のような関係を結ぶ。

結界が担う物語上の役割
魔女は現実の街をそのまま徘徊するのではなく、多くの場合は結界と呼ばれる異空間に潜む。入口は建物の壁、路地、病院など日常の景色に紛れ、内部へ入ると遠近や重力、素材の統一感が崩れる。切り絵、コラージュ、実写素材、文字、反復する模様が混在し、その魔女が抱える性質や成立の背景を視覚化する。
結界の造形は、戦闘を日常空間から切り離す舞台装置であると同時に、人物の内面を直接説明せずに見せる手段でもある。お菓子の魔女の結界には菓子や医療を連想させる要素があり、人魚の魔女の結界では音楽、車輪、水没した舞台が組み合わされる。魔女文字やモチーフを読み解けば背景へ近づけるが、映像に示されていない来歴まで一つに決めるのは避けるべきである。

魔女の名称と本編で確認できる範囲
魔女には固有名、性質、使い魔が設定されているが、その全情報が本編の台詞で説明されるわけではない。画面内の魔女文字、公式サイトの魔女図鑑、設定資料で補われる名称も多い。したがって、薔薇園の魔女ゲルトルート、お菓子の魔女シャルロッテ、人魚の魔女オクタヴィアなどを整理する際は、本編で描かれた行動と資料上の名称を混同しないことが大切である。
使い魔との違い
使い魔は魔女に従属して働く存在で、個体ごとに役割が異なる。結界の維持、侵入者への攻撃、魔女が求めるものの運搬などを担い、主人の性質を部分的に反映した姿を持つ。十分な犠牲を得ると同種の魔女へ成長する場合があるため、現時点でグリーフシードを持たない使い魔を倒すべきかどうかが、魔法少女同士の価値観の差として表れる。
魔女と使い魔の区別は、見た目の大きさや強さだけでは決まらない。魔女の核となるグリーフシード、結界内での役割、設定上の関係を合わせて判断する必要がある。『叛逆の物語』では、円環の理に随伴する存在として、かつての魔女を想起させる姿が別の関係で現れる。TVシリーズの分類をそのまま当てはめず、世界改変後の役割を見ることが重要になる。

主要な魔女と物語への作用
薔薇園の魔女は物語序盤で、結界、使い魔、魔女の口づけという基本構造を示す。お菓子の魔女は巴マミを倒し、華やかな魔法少女像と死の危険が隣り合うことを視聴者へ突き付ける。人魚の魔女は美樹さやかの変化後の姿であり、魔女が外部から現れる敵ではなく、魔法少女の未来であることを仲間の前で証明する。
舞台装置の魔女、通称ワルプルギスの夜は、一人の魔法少女では対抗できない災害として見滝原へ接近する。その圧倒的な力は、ほむらが何度時間を戻しても越えられない壁となる。個別の魔女が人物の選択を局所的に変えるのに対し、ワルプルギスの夜は物語全体の時間制限と敗北条件を担う。だから最終話で必要になるのは、より強い攻撃だけではなく、魔女が生まれる法則そのものへの介入である。

魔法少女と魔女をつなぐ循環
契約時、少女の願いは現実を変え、その代わりに魔法少女として戦う力を得る。しかし戦闘と精神的な絶望によってソウルジェムが濁り切ると、宝石はグリーフシードへ転じ、契約者は魔女になる。魔法少女が魔女を倒して得たグリーフシードで自分の濁りを除く行為は、別の少女の絶望を資源として延命する構造でもある。
この循環は、キュゥべえの説明する宇宙規模の目的と結び付く。希望から絶望への落差で生まれるエネルギーを回収するため、インキュベーターは感情を持つ少女と契約する。個々の願いが善良であるか、利己的であるかは契約装置にとって本質ではない。大きな希望ほど反転時のエネルギーも大きくなるため、救済を願う強さそのものが危険を増やす。
第12話で鹿目まどかは、過去と未来のすべての魔女を生まれる前に消すと願う。これにより魔女化は歴史から取り除かれ、魔法少女は限界に達すると円環の理へ導かれる。一方、呪いや災厄まで消えたわけではなく、再構成された世界では魔獣が敵となる。魔女の消滅は単純な平和ではない。魔法少女が自分自身の末路と戦う閉鎖的な循環を断ち切り、別の代価を伴う世界へ移行したのである。

そのため「魔女」は敵キャラクターの分類にとどまらず、シリーズ前半と後半で意味が変わる中核用語である。正体を知る前は討伐対象、知った後は魔法少女制度の結末、世界改変後は失われた旧法則の痕跡となる。個体名や結界の意匠を調べる際も、この三つの段階のどこで描かれた存在かを確認すると混同を避けられる。
魔女には固有の名称や性質が設定され、結界の意匠、使い魔、攻撃方法に生前の感情や願いの痕跡が表れる。ただし、画面に現れる象徴から生前の出来事を一つに断定できるとは限らない。本編で人物との対応が明示される魔女と、関連資料で補足される魔女を分ける必要がある。造形を読む際は、映像で確定する事実と、モチーフから導く解釈の境界を保つことが重要である。
