『Avengers Vs. X-Men』(2012)は、地球へ接近するフェニックス・フォースと、その宿主になると考えられたホープ・サマーズをめぐり、アベンジャーズとX-MENが衝突する全12号のクロスオーバーです。キャプテン・アメリカは宇宙規模の破局を避けるためホープの保護を求め、サイクロップスは絶滅寸前のミュータントを再生する希望として彼女を守ろうとします。双方の恐れと期待が交渉を狭めた結果、フェニックスの力は五人へ分かれ、善意の世界改革から権力の暴走へ進みます。最終的にはホープとスカーレット・ウィッチの協力が新たなミュータント誕生を回復させ、後続のX-MEN史を大きく変えました。
- 刊行
- 2012年6月〜12月/全12号
- 脚本
- ブライアン・マイケル・ベンディスほか共同制作チーム
- 主な作画
- ジョン・ロミータJr.、オリビア・コワペル、アダム・キューバート
- 争点
- ホープ・サマーズと接近するフェニックス・フォースへの対応
- フェニックス・ファイブ
- サイクロップス、エマ、ネイモア、コロッサス、マジック
- 帰結
- 新たなミュータントの出現とプロフェッサーXの死
01Mデイ後のミュータントとホープ・サマーズ
『House of M』の結末でスカーレット・ウィッチが「もうミュータントはいらない」と現実を改変し、ほとんどのミュータントが能力を失いました。新たな出生も止まり、種としての未来が見えない時期に生まれた最初の新生児がホープ・サマーズです。彼女はケーブルに守られて未来で育ち、現在へ帰還しました。サイクロップスにとってホープは一人の少女であると同時に、絶滅を終わらせる具体的な可能性でした。
フェニックス・フォースは破壊と再生の両面を持つ宇宙的存在で、過去にはジーン・グレイとの結びつきが大惨事を生みました。地球へ接近する兆候と、ホープの身体に現れる力が重なり、彼女が次の宿主だと考えられます。アベンジャーズが見るのは制御不能な破壊の前例であり、X-MENが見るのは停滞した未来を燃やして再生する機会です。同じ事実が、集団の歴史によって逆の意味を持ちます。

ホープ本人は象徴として扱われることへ反発しながら、自分に役割があるとも感じています。保護という言葉で自由を奪おうとするアベンジャーズと、救世主という期待を背負わせるX-MENのどちらも、彼女の意思を完全には聞いていません。事件の争点は力を誰が管理するかだけでなく、若い当事者の選択を二つの巨大組織がどう扱うかです。彼女は奪い合う物体ではなく、学び、失敗し、決断する人物です。
02ユートピアで決裂したキャプテン・アメリカとサイクロップス
キャプテン・アメリカはユートピアを訪れ、地球防衛のためホープをアベンジャーズの保護下へ置くよう求めます。宇宙規模の危険を前に、本人と一組織だけへ判断を任せられないという理屈です。しかし、武装した戦力を沖合へ待機させた訪問は、対等な相談というより最後通告に見えます。ミュータントが国家や組織から拘束されてきた歴史を考えれば、サイクロップスが侵入と受け取るのも必然でした。
サイクロップスはフェニックスがホープを通じてミュータントを再生すると確信し、引き渡しを拒みます。彼はMデイ後の生存者を守る責任を長く一人で背負い、妥協が絶滅へ直結する状況を経験してきました。その責任感は指導力である一方、自分だけが未来を理解しているという硬直へ変わります。ホープが制御に失敗する可能性を認めれば、共同訓練や避難計画を交渉できたはずですが、希望を疑う余地を失っていました。

最初の衝突でサイクロップスのオプティック・ブラストがキャプテンの盾へ当たり、待機していたアベンジャーズが上陸します。ここから双方は相手の最初の攻撃を根拠に自衛を主張できる状態になります。誰が先に殴ったかだけでは、武力を準備した交渉と蓄積した不信を説明できません。戦争は一回の誤解ではなく、相手の恐れを交渉材料として扱わなかった結果です。
03ホープの逃走とフェニックス阻止作戦
ホープは自分をめぐって仲間が戦う状況から離れ、フェニックスへ自ら向き合うため逃走します。両陣営は世界各地へ捜索班を送り、アベンジャーズ対X-MENの小規模な戦闘が連続します。個別対決は能力の相性を見せますが、同時に主目的から資源を奪います。ホープを安全に訓練するはずの時間が、互いを拘束する戦いへ消費されていきます。
宇宙ではソーらシークレット・アベンジャーズがフェニックスを迎撃しますが、正面から止められる存在ではありません。地球側ではアイアンマンとブラックパンサーが、フェニックスを分解する装置を開発します。科学で宇宙的な力を制御しようとする試みは、破局回避のための合理的な準備でした。しかし対象の性質を完全に理解しないまま撃ったことで、エネルギーは消滅せず五つへ分かれます。

分割された力はホープではなく、近くにいたサイクロップス、エマ・フロスト、ネイモア、コロッサス、マジックへ宿ります。アベンジャーズの阻止策が、想定していなかったフェニックス・ファイブを生んだのです。だからといってサイクロップスの予測が正しかったと単純には言えません。ホープへ完全な力が入った場合の安全も未証明でした。双方の計画が不確実性を過小評価し、第三の結果を作りました。
04フェニックス・ファイブの改革と権力の変質
力を得た五人は、戦争をすぐに終わらせ、世界規模の改革を始めます。エネルギーと食料を供給し、環境を修復し、武力紛争を停止させる姿は、当初アベンジャーズが恐れた無差別破壊とは異なります。長く迫害された側が、初めて世界の構造を直接変えられる状態になったことで、彼らの善意には現実の成果が伴います。反対する側は「危険だから」という予測だけで、目の前の改善を否定しにくくなります。
しかし改革は同意や制度を経ず、五人の判断だけで実行されます。アベンジャーズがホープを連れ出そうとすると、彼らは抵抗者を拘束し、リンボに監獄を作ります。反対意見を悪意と見なし始めた時点で、力は公共のための手段から、自分たちの正しさを強制する根拠へ変わります。短期間で問題を解決できる能力があるほど、遅い対話や異論を無価値と考える誘惑が強くなります。

フェニックスの力は五人の間を移動し、倒された者の分が残る者へ集約されます。コロッサスとマジックが互いの内面を暴き、エマが思考へ介入し、サイクロップスがより強大になるにつれ、個人の弱点も増幅されます。力が人格を別人へ置き換えるというより、抑えていた恐れと欲望へ即座に実行力を与える。善政から専制への変化は、外部の悪が乗り移っただけでは説明できません。
05ワカンダ襲撃とプロフェッサーXの死
ネイモアはアベンジャーズへの怒りとエマから流れ込んだ感情に突き動かされ、海を使ってワカンダを襲撃します。街と市民へ甚大な被害を与えたことで、フェニックス・ファイブの改革が人類を守る保証は崩れます。ブラックパンサーとストームの婚姻もこの対立で破綻し、国家間と個人関係の両方に傷が残りました。敵の基地を攻撃する判断が、そこに住む人々を見えなくした結果です。
残った力がサイクロップスとエマへ集まり、最終的にサイクロップスはエマの分まで奪います。プロフェッサーXはかつての教え子を止めようとし、精神へ働きかけますが、ダーク・フェニックス化したサイクロップスは彼を殺してしまいます。ミュータントの未来を守るために戦い始めた指導者が、その理想を教えた人物を手にかける。ここで目的と手段の断絶は取り返しのつかない形になります。

サイクロップスの責任を考える際、フェニックスの影響だけで全行為を免責することも、宇宙的な力の作用を無視することも適切ではありません。彼は外部の力で判断を歪められながら、力を手放さず、仲間から奪い、警告を退ける選択を重ねました。物語は単純な悪堕ちではなく、正しい未来を自分だけが実現できるという確信が、責任の範囲をどう狭めるかを描きます。
06ホープとワンダの共闘、その後のX-MEN
最終局面でホープはクンルンでの訓練を生かし、スカーレット・ウィッチと協力してダーク・フェニックスへ対抗します。ワンダのカオス・マジックはフェニックスへ作用し、ホープはついに本来想定されていた力を受け止めます。しかし彼女は世界を自分の理想へ作り替えるのではなく、ワンダと共に力を解放し、「もうフェニックスはいらない」と告げます。力を所有することより、役割を終わらせる選択をしました。
解放されたエネルギーは世界へ広がり、新たなミュータントが再び生まれ始めます。サイクロップスが望んだ種の再生は実現しますが、彼の計画どおりでも、犠牲が正当化されたわけでもありません。結果だけを見れば彼の主張が正しかったように見えるため、後続作品では彼を革命家と見る者、プロフェッサーXを殺した犯罪者と見る者に評価が分かれます。この解釈の亀裂自体が事件の遺産です。

本作後は『Avengers + X-Men: AXIS』へ直行するというより、『All-New X-Men』『Uncanny X-Men』『Uncanny Avengers』などで傷と再編が描かれます。ホープ、ワンダ、サイクロップスを理解するには、Mデイからメサイア三部作、本作という因果を押さえると明確です。映画やアニメのフェニックス物語とは別の連続性であり、ジーン・グレイだけを前提にすると、ホープが担った再生の意味を取りこぼします。