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COMICS / SECRET WARS (2015)

シークレット・ウォーズ(2015)|コミック解説

ジョナサン・ヒックマンとエサド・リビッチによる全9号のコミック『シークレット・ウォーズ』(2015)を、インカージョン、バトルワールド、ドゥームとリードの対立、再編後の影響まで解説します。

『シークレット・ウォーズ』(2015)は、複数の宇宙が衝突して消滅する「インカージョン」を受け、最後に残った断片世界バトルワールドで展開する全9号のクロスオーバーです。大勢のヒーローが戦う催事に見えて、中心にあるのはリード・リチャーズとヴィクター・フォン・ドゥームが世界を前にしたとき何を選ぶかという、二人の長い対立の決算です。本項では1984年版と混同せず、直前までの流れ、世界の仕組み、結末がマーベル・ユニバースへ与えた変化を順に整理します。

刊行
2015年5月〜2016年1月/全9号
脚本
ジョナサン・ヒックマン
作画
エサド・リビッチ
カラー
イヴ・スヴォルチーナ
主要人物
リード・リチャーズ、ドクター・ドゥーム、モレキュールマン
舞台
インカージョン後のバトルワールド

011984年版とは別の物語

マーベルには同名の大型イベントが二つあります。1984年の『Marvel Super Heroes Secret Wars』は、ビヨンダーがヒーローとヴィランを異星の闘技場へ集めた物語です。2015年版は題名やバトルワールドという名称を受け継ぎますが、単なる再演ではありません。長年続いたメイン世界Earth-616とアルティメット世界Earth-1610の崩壊を起点に、現実そのものを再構成する話として作られています。検索や単行本購入では刊行年を確認する必要があります。

2015年版の脚本はジョナサン・ヒックマン、主要作画はエサド・リビッチ、カラーはイヴ・スヴォルチーナ、主要カバーはアレックス・ロスが担当しました。全9号の本編に多数のタイインが接続しますが、結末の因果は本編だけでも追えます。タイインはバトルワールド内の各領域を掘り下げる作品であり、すべてが本編の次号へ直結するわけではありません。まず本編9号を通しで読み、関心を持った領域へ枝分かれするのが理解しやすい順番です。

コミック『シークレット・ウォーズ』(2015)第1号の公式カバー
第1号。最後のインカージョンによってEarth-616とEarth-1610が衝突する。

名称が示す「秘密」は、誰が最終決戦に勝つかだけではなく、バトルワールドがどのような代償で維持されているかにあります。住民の多くは、自分たちの世界が失われた宇宙の断片だと知りません。神皇帝ドゥームが過去と秩序を定め、現実の継ぎ目を歴史として受け入れさせています。そのため本作は戦争物であると同時に、記憶を支配する者が正統性を作る政治劇でもあります。

02インカージョンと最終衝突まで

前史の中心は、二つの平行宇宙の地球が同じ座標で接近し、一定時間後に両宇宙を消滅させるインカージョンです。一方の地球を破壊すれば衝突を止められるという条件が、イルミナティの面々へ倫理的な選択を突きつけました。リード・リチャーズたちは科学的解決を探しながら、誰かの世界を犠牲にする装置も用意します。問題は勝敗ではなく、救済を考える者がどの時点で大量殺害を正当化してしまうかでした。

『Avengers』『New Avengers』で積み上げられたこの状況は、Earth-616とEarth-1610の最終インカージョンへ到達します。互いの陣営は衝突を避けられず、避難用のライフラフトへ選ばれた者だけが消滅を越えようとします。第1号は巨大イベントの開幕でありながら、既存世界が守られる勝利では終わりません。ほとんどすべてが失われた事実を先に置くことで、その後に現れるバトルワールドが「救われた世界」なのか「破局を固定した牢獄」なのかを読者へ問いかけます。

コミック『シークレット・ウォーズ』(2015)第2号の公式カバー
第2号から、ドゥームが神として統治するバトルワールドの構造が示される。

なお、破局の原因をドゥーム一人へ単純化すると前史を取り違えます。彼はドクター・ストレンジ、モレキュールマンと共にビヨンダーズへ対抗し、滅亡の連鎖から残せるものを残そうとしました。結果として彼が強大な力を得たこと、後に独裁者として振る舞ったこと、宇宙崩壊の原因そのものは分けて考える必要があります。本作は「世界を救った」という功績と「自分に都合のよい世界を作った」という支配を、同じ人物の中へ並存させています。

03バトルワールドの地理と統治

バトルワールドは一つの均質な惑星ではなく、失われた宇宙から保存された領域を継ぎ合わせたモザイクです。各領域は男爵や領主に委ねられ、境界を越える行為は厳しく管理されます。互いに矛盾する歴史、異なる時代、別の姿を持つ同名人物が隣接できるのは、そこが通常の連続した世界ではないからです。タイイン作品ごとの作風が大きく異なることも、この領域制を知れば設定上の特色として理解できます。

秩序の頂点には神皇帝ドゥームが立ち、スーザン・ストームを妃、フランクリンとヴァレリアを家族として迎えています。法を執行するソー軍団、追放先として機能するシールド、領域間の紛争を裁く制度があり、表面上は崩壊後の社会を成立させています。しかし、その家族と地位は本来リードと結びついていた関係を置き換えたものです。ドゥームが望んだ承認を世界の法へ変えたため、私的な劣等感が公的秩序の根に埋め込まれています。

コミック『シークレット・ウォーズ』(2015)第4号の公式カバー
生き残った者たちの記憶が、ドゥームの秩序へ亀裂を入れていく中盤。

この構造が面白いのは、独裁だからただちに無価値なのではなく、住民にとっては現に生活可能な世界である点です。宇宙が完全に消えれば誰も残らなかったという事情は、ドゥームの統治へ一定の現実性を与えます。他方、秩序を維持するため真実を伏せ、異論を犯罪化し、世界の力を一人が独占するなら、それは暫定的な救命措置から恒久的な支配へ変質しています。本作の政治性は、この二面を同時に見せるところにあります。

04ドゥーム、ストレンジ、モレキュールマン

バトルワールドの創造を理解する鍵は、ドゥームだけでなくドクター・ストレンジとモレキュールマンの役割を分けることです。ストレンジは保安官として統治を支えながらも、旧世界から来た生存者を目にすると、現状を絶対視し続けられません。彼は秩序を守る協力者であると同時に、別の可能性を知る証人です。この立場が、忠誠と良心のどちらを選ぶかという中盤の緊張を作ります。

モレキュールマンことオーウェン・リースは、各宇宙に配置された存在であり、ビヨンダーズの計画と多元宇宙の破壊に深く結びつきます。ドゥームが神のような力を行使できるのは、その力が無から生まれたからではなく、オーウェンを媒介しているためです。表舞台で王冠を戴く者と、地下で世界を支える者が別であることは、バトルワールドの権力が見かけほど自立していないことを示します。

コミック『シークレット・ウォーズ』(2015)第6号の公式カバー
各領域の反乱と同盟が交差し、バトルワールドの成り立ちが明らかになる。

三人の関係には、能力だけでなく判断の差があります。ドゥームは自分だけが不可能な選択を実行したと考え、ストレンジはその功績を認めつつ限界も知り、オーウェンは長く道具として扱われた経験から誰へ力を託すかを見極めます。最後の勝敗を腕力の比較だけで読むと、本作の核心を逃します。誰がより強いかではなく、誰が世界と他者を自分の所有物にしないかが、現実を作り直す資格へ結びつきます。

05生存者が持ち込む記憶

ライフラフトから現れたリード・リチャーズ、ブラックパンサー、キャプテン・マーベル、スパイダーマンたちは、バトルワールド以前の記憶を保持しています。彼らが特別なのは能力の高さだけではありません。住民が当然だと思う歴史を外側から見て、それが再構成された現実だと指摘できる点にあります。記憶はここで過去を懐かしむ材料ではなく、権力が作った物語を検証する証拠として働きます。

Earth-1610側からはマイルズ・モラレスやメイカーらが生き残ります。同じリード・リチャーズという名を持ちながら、メイカーは616のリードと異なる道を選んだ存在です。並行世界を使う意義は、よく似た出発点からどれほど異なる人格へ到達するかを同じ画面で比較できることにあります。マイルズもまた、アルティメット世界の残骸ではなく、新しい世界へ経験を持ち込む人物として結末の重要な橋になります。

コミック『シークレット・ウォーズ』(2015)第9号の公式カバー
最終号。リードとドゥームの対話が、破壊された現実を次へ進める。

生存者の到着後、反乱は一枚岩では進みません。各人物はドゥームを倒すだけでなく、散らばった勢力を動かし、世界を支える仕組みへ近づく必要があります。ブラックパンサーがインフィニティ・ガントレットを用いる局面や、グルートが大地へ広がる局面は視覚的な大戦を作りますが、決着の中心はリードとドゥームの対話へ収束します。群像戦を、二人の価値観を衝突させるための地形変化として設計しているのが本編の特徴です。

06リードとドゥームの最終対決

リードとドゥームは、どちらも現実を理解し作り替えられる知性を持ちます。違いは失敗へ向き合う方法です。リードは家族や仲間を失った責任を抱えながら、他者と共に解決を探します。ドゥームは誰にもできなかった救済を成し遂げたという自負から、世界が自分の判断を肯定する形を求めます。二人の争いは、科学者対魔術師という能力分類よりも、創造を共同作業と見るか自己証明と見るかの衝突です。

クライマックスで重要なのは、リードが単に「自分なら完璧にできた」と豪語するのではない点です。ドゥーム自身が、リードなら自分より良く世界を扱えた可能性を認めたとき、その言葉が権力の土台を崩します。オーウェンはこの変化を見届け、現実を再建する力をリードへ渡します。王座を奪う力比べではなく、支配者の確信が自ら破れる瞬間を決着にすることで、長年の宿敵関係にふさわしい終止符を打ちました。

コミック『シークレット・ウォーズ』(2015)第1号の公式カバー
第1号。最後のインカージョンによってEarth-616とEarth-1610が衝突する。

それでもドゥームは完全に消去されません。再構成された世界で彼の顔が治癒している描写は、リードが復讐のため相手を醜いまま閉じ込めなかったことを示します。勝者が敗者へ何をするかにも、二人の差が表れます。ドゥームの世界が自分を中心に据えたのに対し、リードの再建は家族と共に未知へ進む余地を作る。結末は善悪の札を貼るだけでなく、創造者の倫理を行為で比較しています。

07再編後のマーベル・ユニバース

最終号の後、Earth-616は再建されます。ただし、すべてが刊行前と完全に同じ位置へ戻ったわけではありません。最も分かりやすい変化の一つが、Earth-1610出身のマイルズ・モラレスと家族がメイン世界で暮らすようになったことです。これは二つの世界を単純に丸ごと合併したという意味ではなく、再建時に特定の人物や履歴が新しい連続性へ組み込まれた結果として捉える方が正確です。

ファンタスティック・フォーは、リード、スー、子どもたち、フューチャー・ファウンデーションと共に多元宇宙の再建へ向かいます。そのため刊行上しばらく表舞台から離れますが、物語内では喪失ではなく創造の仕事を続けています。一方のドゥームは神の地位を失いながら、リードから与えられた変化を受けて別の道を試みます。大イベント後の各誌は、この結末を出発点に人物の配置を更新しました。

コミック『シークレット・ウォーズ』(2015)第2号の公式カバー
第2号から、ドゥームが神として統治するバトルワールドの構造が示される。

本作の影響は設定変更だけにありません。無数の世界を破壊して一つへ集め、最後に再び可能性を開く構成は、長期連載が連続性を整理する方法そのものを物語にしています。過去を無かったことにするリセットではなく、記憶と関係を選び直す再構成です。そのため読む際は「どの設定が消えたか」だけでなく、「誰が前の世界を覚え、誰が新しい関係を得たか」を追うと、イベント後の意味が見えます。

08読む順番とタイインの選び方

本編の最低限の順番は『Secret Wars』#1から#9です。前史を深く知るなら、ヒックマン期の『Avengers』『New Avengers』、とくにインカージョンとイルミナティの判断を扱う号を先に読むと、冒頭の破局が突然に見えません。一方、初読で準備に時間をかけたくない場合は、本編が提示する「世界は滅び、ドゥームが断片を救った」という前提から読み始めても、中心人物の対立は理解できます。

タイインは網羅より関心で選ぶべきです。ソー軍団の法執行を追う、シールドの向こう側を見る、特定の領域にいる別バージョンの人物を知る、といった目的ごとに読むと効果があります。タイイン同士の出来事を完全な時系列へ並べようとすると、領域ごとの独立性や刊行上の違いに足を取られます。まず本編で世界の始まりと終わりを押さえ、間にある領域の物語として追加するのが自然です。

コミック『シークレット・ウォーズ』(2015)第4号の公式カバー
生き残った者たちの記憶が、ドゥームの秩序へ亀裂を入れていく中盤。

映画の『アベンジャーズ/シークレット・ウォーズ』を調べるため本項へ来た場合も、コミックの展開がそのまま映像化されると断定はできません。MCUはコミックから人物、名称、構造を組み替えてきました。インカージョン、マルチバースの崩壊、ドゥームの役割など参照され得る要素を個別に理解し、映画の公式発表と区別することが必要です。本項は原作イベントの仕組みを知る土台であり、未発表の映画内容を確定する資料ではありません。

参照した公式情報

刊行情報、人物の経歴、名称の来歴はMarvel公式の各記事と作品ページを基準に整理しています。共同創作や世界番号の解釈は、対象媒体と発言主体を区別しています。